「ははあ、なるほど。ルキエ一家のあの一件ですか」
過去、これほどまでに上官が矮小に見えた事があっただろうか。いや無い。
「ちなみにソレはこのミシェルと実行したのですが」
「「ひっ」」
アンドレ・ルキエとその父親、兄弟が1人ずつの計4人は、アンドレに贈られた
共和国工廠からの帰宅途中の私に襲い掛かった彼らはまたしてもプレゼントの餌食となり、至近距離から閃光と破裂音に見舞われ失神。
当の私はそういう時に自滅しないよう日頃から射撃用イヤープラグとサングラスを着装していたため然程影響を受けなかったが、そもそも閃光手榴弾の何たるかを彼らは全く理解できていなかったようだ。
そして、いつも通り残業で職場に残っていたミシェルを呼び付け、4人を共和国工廠の射場へと搬入して両手足をチェーンで拘束し、あとはもう周知の通り。
まあ、これ以上は
もちろん装薬入りの弾で撃って
あとは、未だに失神したままの彼らに冷水を被せて起こしてやり、ちょっと脅かしながら1
「……はあ。いえ、こんな情勢で昔話をする余裕もないでしょうから、結論から申し上げますと、ライフルグレネードは早々に陳腐化すると思われます」
ついでにライフルグレネードへ夢見るカールシュタール少佐に現実を認識させる必要がある。
「なんだと?」
「先ほど少佐に見せて頂いた帝国軍無人機の部隊配置図、ええ、そのレギオンの配置図に示された物量ですが、これが可能とする攻勢の規模に対してライフルグレネードが既に陳腐化していると私は考えます」
ミシェルはどうやら既に気付いている。少佐はまだのようだけど、私の目を見て説明の続きを促してくれた。
「ライフルグレネードのカタログスペックであれば戦車型の背面装甲すら貫通可能でしょう。これは確かに魅力的ですが、それ以上に無視できない問題点として、速射能力と継戦能力が乏しいのです。端的に言えば装填手順が煩雑で、弾の大きさと重さが嵩張って数を持てない」
「いやだが、そもそもがそういう兵器なのでは?」
ああなるほど。
この世界において
「いいえ、あれは専用の発射器が共和国軍に無いために代用として小銃で撃てるようにするべく、他の多くの面で妥協した産物なのです。もちろん小銃で撃てるというのもメリットではありますが」
だがまあ、これで問題点は提示できた。
次は解決方法の提案、自分のタブレットを操作して2つの設計データを展開して2人に差し出す。
ああそうだ、ついでに配信設定も弄って掲示板の皆にも見えるようにしておこう。
「なので、この2つの新型対レギオン兵器を提案します」
「1つ目はこちら。これのコンセプトはライフルグレネードの延長にありますが、専用の発射器と組み合わせる事で威力と命中精度、装填速度を大きく向上させています。だからといって発射器のコストが嵩んでは配備に支障をきたすため、発射器は口径55mmの鉄パイプに照準器と撃発装置を内蔵したグリップを取り付けただけ。これに組み合わせる弾頭はライフルグレネードの発展型ですが小銃弾ではなく弾頭に内蔵した黒色火薬を装薬として発射します。射程は200mと短いですが弾道特性が向上しているので命中精度はむしろライフルグレネードより良くなります。装甲貫通能力は300mmなので戦車型の背面装甲までなら安定して貫通できるでしょう」
圧倒的不利な戦況に置かれた少年兵ですら複数の戦車を撃破する事すら可能な事を前世で示した対戦車兵器、ナチス・ドイツが生み出したパンツァーファウストを元に、将来的な改修の余地を持たせるため所々にRPG-7の要素を組み込んだシロモノだ。
まあ後々には発射器はそのままに弾頭へロケットモーターを追加して射程の延伸、そして弾頭の改良により戦車型の正面装甲を貫通出来るようにはしたい。
「2つ目はこちら。これのコンセプトは連発できる小さなライフルグレネード、あるいは超大口径自動小銃です。共和国現用制式小銃と
これに関しては前世で目立った実績というものが無い為に、どう転ぶかは正直私にも全く分からない。だが、共和国が必要としているのは斥候型と近接猟兵型を撃破できる携行連発火器だ。
つまり装甲貫通性能50mm以上の弾を連発でき、歩兵が携行できる火器。この条件の中で中距離以遠で貫通性能が著しく低下する対戦車ライフルを除いて、そして信頼性も担保されている兵器は私の知る限り1つしか無かった。
これは35mm口径だったのだが、共和国軍制式の37mm口径信号拳銃の弾薬が少しばかり似通った寸法だったため、この薬莢だけでも転用できるようにと口径を寄せてある。
「重装甲だが比較的少数な戦車型には前者を、軽装甲だが圧倒的多数の斥候型と近接猟兵型には後者を以って対処する事で、歩兵でもレギオンに対抗可能となります」
さて、これをカールシュタール少佐がどう評価するかだが……。
「―――予想以上に、素晴らしい。もしや中尉はレギオンを予見していたのかと思ってしまうほどだ。ちなみにこれらは何か月で開発が完了する?」
50点。私からカールシュタール少佐への評価がだ。私の提案を評価してくれた事で50点、しかし問題点を指摘しなかったのでこれ以上の加点は無しだ。
「いえ、これらは殆ど私の趣味で開発していたもので、試作品はどちらも半年ほど前に完成して試射を済ませた後は、余りにも共和国軍の装備体系や仮想敵と適合せず使い道が無かったので倉庫で埃を被っています。なにせRMIの擲弾課は元々大した仕事の無い、
「なんと、なんという事だ。ああ、各所の公官庁によくあるという、そもそも職員が出勤しているのかすら怪しい部署の1つであった訳か。……いやしかし、それで作るのがこんな爆発物ばかりとは、やはりRMIの爆弾魔の異名は―――」
「少佐、挿しますか?」
ガタンと音を立てながら即座に姿勢を直した少佐のそれは、まるで新品准尉が元帥と遭遇したかのようで少々面白かった。
私個人としても気に入っている異名ではあるが、それは話の本筋ではないのだ。
「いや、遠慮したい。すまなかった」
「いえ、こちらこそ。ただ、この2つの兵器だけではレギオンを抑える事すら叶わないでしょう」
とはいえ指摘すれば気付いてくれる辺り、やはり信頼に足る上司なのだ。
「んん?……ああ、機動力だな。歩兵ではどう逆立ちしたって担えない。だがそれは同じRMIでも装甲車両開発部の担当で―――。ああ、何て事だ」
上司が信頼できても、情勢をどうにかできるか非常に怪しいのだが。
「装甲車両開発部の、新型兵器の開発を担うはずだった中核メンバーは、……私1人しか生き残っていないのです」
有色種であるミシェルをどれだけ85区に留めて新型兵器開発に携わらせる事が出来るか。
私の兵器で歩兵が引き付け拘束したレギオンの側面を殴りに行ける戦車としての役割を担うそれを完成させられるか。
「なるほど、なるほど。そういう事か」
少佐が天井を仰ぎ見つつ零す。
「上に掛け合ってみよう。リヴィエール准尉を、いや、あらゆる人材を喪失しないために」
「「ありがとうございます」」
これで、10年後の滅亡は回避できるのだろうか?