繋いだ手のあたたかさと、大きな夕日。それがカーリヤの最も古い記憶。
田舎でもなければ都会でもない、裕福ではないが貧しくもない、そんな普通の町の普通の家に生まれたカーリヤには、一人の幼馴染がいた。
いつどうやって知り合ったかなんて分からない。きっと物心がつく頃には一緒にいて、いつも一緒に遊んでいた、そんな少年。なにせ家は隣同士で、皆がもう一つの家族みたいなものだったから。お互いに兄弟姉妹はいなくて、だから二人は兄妹であり姉弟であって何よりも親友だった。
毎日毎日、飽きもせずに二人で出かけて、走り回って、そして夕方に手を繋ぎながら家に帰る。幼く無知なカーリヤにはそれが世界の全てで、その小柄で弱虫な少年は何としても守らなければいけない存在で、両親と同じぐらい大好きな家族。そんな少年と、そんな日々がずっと続いていくものだと信じて疑わなかった。
そんなはずも、なかったというのに。
※
遠くから響いた銃声でカーリヤは微睡みから目覚めた。すぐに状況を思い出して、抱いたままの狙撃銃を掴みながら飛び起きる。頭の中に、ついさっき見ていた夢の内容はもう跡形もない。
そんなカーリヤの頭をそっと押し返す、大きな掌の感触。
「ラ……」
「まだ寝てろよ、ただの銃声だ」
ただの銃声。それはそうだが、それはつまり誰か――辺りを哨戒中の聖女か騎士が銃弾を放ったということで、つまりは魔女がいたということだ。魔女を撃ったのならまだ良い。でもそれが傷ついた騎士や、あるいは自分自身を撃ったものだったなら……。
更に続けて何度か銃声が木霊する。ならあれは自決によるものではなく、魔女に向けた銃声だろうか。安堵の息をついてカーリヤは再び寝台に身を沈めた。……もう、そんな不確かな理由で安堵してしまうほど疲弊していた。
「……眠くないわ」
「でも寝てろ。体を横にして、目を閉じてるだけでも違う」
そう言って、彼――ライアーもまた大きな体で毛布にくるまって、すぐ隣で横になる。鎧を着たままで、だ。カーリヤも狙撃銃の安全装置を確かめた後、それを抱いて目を閉じる。同じ寝台で眠ることすら、もう気にしていられない。……もう、そんな状況ではなかった。
退屈なまま終わると思い、そしてそう祈っていた魔女の捜索。その二日目の夕方にそれは起こった。
『あかんわ、何処にもおらん』
『猟師のもんらで山の方を――』
『女子供は家の中に――』
何の成果も無いままノール村に戻った時、村は既に小さな騒ぎとなっていた。聞けば、この村に滞在している四組の聖女と騎士の内の一組がまだ戻ってこないのだという。その二人の受け持った捜索範囲は既に残り少なく、昼過ぎには戻るはずだったのだ。それが魔女のせいであれ、単なる遭難であれ放置はできない。すぐにカーリヤ達は行動を開始した。
もう二組を村の護衛に残し、男たちにも篝火を絶やさないよう伝える。そして周囲の地理に詳しい猟師数人を案内役に加えて、カーリヤとライアーは夜の街道付近を捜索した。だが結局は朝まで何も見つからず、諦めて一旦戻ろうとした時、遠くから声を聞いたのだ。
悲鳴。
『ライアー!』
『つかまれ!』
猟師たちには村に戻ってこのことを伝えるよう早口で伝え、ライアーの体に聖性を流す。風のように疾走する彼にしがみつきながら、狙撃銃を構える。街道を走り、続けて聞こえた銃声と悲鳴に街道も外れて最短距離を走り、木に飛び移って岩肌を駆けあがり、そして遂にそれを見た。
『な……』
どちらが漏らした声だったのか。小高い丘で足を止めた二人の眼下には、絶望的な光景が広がっていた。
まず最も数が多かったのは、二百人はいそうな老若男女。母親の胸に抱かれて大泣きする赤子から、歩くのもやっとな老人まで。大きな荷物を背負っている者や、着の身着のままのような者。彼らは皆が怯えた様子で一塊になり、中には農具や松明といった武器を構える者までいた。
その一団の周囲を守るように展開する八人。それぞれ二人一組となった四組は間違いなく聖女と騎士だ。その身に鎧と青白い炎を纏い、聖銀の輝きを放つ武器を振るい……そして今、三組となった。
その騎士は果敢に戦い、故にそれが命取りとなったのだ。この捜索に参加したのはポエニスでも十指に数えられる優秀な聖女と騎士たち。彼もまたその一人であり、才に恵まれ鍛錬と経験も充分に積んだ、そんな手練れであったはずだ。
だがしかし、かつての暗黒時代ならばともかく、魔女の数も減った現在では騎士に求められる経験も異なってくる。多くの場合は二対一で、あるいは二組や三組がかりで確実に狩ることも可能な現代では、まず経験することのない戦い。
そう、
『――!』
見捨てるなんて発想は無かった。獣のような姿の魔女に首を咬み裂かれた騎士の亡骸、それをなんとか治療しようと聖性を流している聖女の背後に迫る、虫のような姿の魔女。それを狙撃銃で撃ち抜き、地に落ちた敵に気付いた聖女が必死の形相で短剣を突き立てる。だが。
『だめ……っ!』
カーリヤには見えていた。次弾を装填し、銃身に備えつけた遠眼鏡ごしの視線を向けた時はもう、聖女は倒れ伏していた。また別の、人のような姿をした魔女に胸を貫かれて。
様々な姿をした異形の怪物たち。どう見ても二十体以上はいる魔女が、彼らを飲みこもうとしていた。
『ここにいろ! 絶対に降りるんじゃねえ!』
返事も待たず、片手剣を抜いたライアーが丘から飛び降りた。その背中に慌てて掌を向けて聖性を放ち、なんとか「線」を繋げる。着地と同時に地面を蹴った彼は青白い炎を滾らせ、咆哮と共に魔女の群れへと突貫していった。
※
教国の最北端に位置するノール村と、その西に位置するサハト村。その二つが今回の捜索の活動拠点とされ、ノール村にはカーリヤ達を含め四組が、サハト村には六組もの聖女と騎士たちが滞在していた。数の偏りは捜索範囲の差であり、広大な農耕地帯も有するサハト村には人手が必要だったが故だ。
だがそれも今や半数が命を落としてしまった。生き残りの聖女と騎士、そして村人たちは語る。
曰く、捜索を始めてすぐに魔女は見つかった。その魔女はすぐに狩られ、血気盛んな村人たちは大いに盛り上がった。
曰く、宴の準備をする間もなくまた魔女が見つかった。それを狩りに向かう前にまた別の魔女が、そしてまた……。
曰く、異様な数の魔女、それもただの魔女ばかりではなく、手強い共喰魔女まで何体も現れた。
曰く、魔女の多くは北から現れた。北に聳える、アスピダ山脈の方角から。
曰く、もう駄目だ。村を捨てるしかない……。
そして彼らは村を脱し、皆でノール村を目指していたのだ。大半の魔女は北から現れたが全てがそうではなく、どこに逃げるのが最善かは分からない。ならばまずは他の聖女と騎士たちと合流するべきだと。
そして複数の犠牲を出しながらもなんとかノール村へと辿りつき、村人たちも彼らを受け入れた。生き残りの聖女と騎士で辺りの魔女を狩り、男たちが不休で村の周りに杭を打って柵を築く。村そのものを砦とし、籠城を始めてから二日が経過しようとしていた。
「このままじゃジリ貧だ。とにかくポエニスに応援を頼まなきゃならん」
生き残った聖女と騎士はカーリヤ達を含めて五組。その中で最も年長の騎士が重々しく口を開いた。会合の場となった村長宅には、他に村の代表者も数名訪れている。
休息と村の護衛を兼ねて一組が村に残り、他の者たちが二組ずつで周囲を哨戒する。それを交代で続けていたが、皆もう既に疲弊が激しい。聖性によって身体の傷も武器の損耗も回復できるが、それにも限界はある。失った体力までは取り戻せず、そもそも聖女は聖性の恩恵は受けられないのだ。
そして何より、難民と化した村人たちが問題だ。元の住人の倍以上の人数が滞在しており、寝床も食料も足りていない。今でこそ皆で助け合えてはいるが、これで食料まで無くなってしまえば事態は急速に悪化するだろう。
……誰も口にはしないが、それによって村の中から新たな魔女が現れることをこそ、皆が最も恐れていた。
「だが伝令はもう出したんだろう?」
「三日前に若いのを二人出したわ。もうそろそろ助けも来ると思うんやけど……」
別の騎士が言い、サハト村の若い村長が答える。ノール村やサハト村からポエニスまでは馬でちょうど一日ほど。伝令が順調に成されているならば、応援がそろそろ到着しても良いはずだ。だがその気配は無かった。
「もしかしたら、伝令の方も途中で……」
「そうと決まったわけじゃないぞ」
「ですが、このままじゃ」
「とにかく今は……」
ゴン、と木のグラスが机に置かれる音に皆が口を閉じる。視線の先で、成り行きで頭目となった年長の騎士が再び口を開いた。
「それだよ。まずもう一回、伝令を出す」
「今度は絶対に、確実にポエニスまで届けられるようにな」
「だから、護衛に一組つける」
その言葉に、ほんの一瞬だけ皆の顔が強張った。
この二日で既に一組が犠牲となった。元より魔女狩りとは命がけの危険極まりない仕事だ。それをこの短期間で何十体と狩ってきたのだから、むしろそれだけの犠牲で済んでいるという事がこの場の者たちの実力を物語っている。
だがそれも長くは続かないだろう。犠牲が増えるほどに他の者たちの負担は増え、それが更なる犠牲に繋がることは目に見えていた。まだ余力のある内に、貴重な戦力を割いてでもポエニスまで情報を伝えることが必要だ。それも皆が分かっている。
「……それで、誰が行きますか」
聖女がひどく言いにくそうに口火を切った。いつどこで魔女に襲われるか分からない伝令は危険だが、それは村で籠城を続ける者も同じだろう。ノール村もはや死地となり果てた。ここから離れられるというだけで、生き残る可能性は高いように思える。
故に皆が黙るのだ。誰もが死にたくはなく、そしてまた逃げたくもないのだから。
「ライアー、お前らで行け」
「……は?」
「……え?」
永遠に続くかと思えた沈黙は、頭目の一言で打ち破られた。ごく適当に決められたかのような軽い口調に、指名されたライアーとその聖女であるカーリヤは揃ってぽかんと口を開く。
「そうだな、それが良い」
「お願いねカーリヤ」
「え? ……え?」
「出発はいつにする?」
「早い方が良いだろう。これが終わったらすぐだ」
「伝令書は私が書きます。村の方からも誰かお願いできますか」
「おう、分かった」
「それで、食い物の件なんだが――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
とんとんと話は進み、もう既に次の議題へと移ろうとした時ようやくライアーが声をあげた。
「あん?」と頭目が面倒そうに、もう何日も洗えていないだろう髪を掻く。
「んだよ、文句あんのか?」
「い、いや。でも、なんで俺なんですか?」
頭目の強面に腰が引けながらも、ライアーが食い下がった。
確かに妙な人選ではある。カーリヤもライアーもこの中では若い部類だが、最も若いわけではない。実力としても中堅で、最も強いわけでも弱いわけでもない。ならば何故、二人が選ばれたのか?
「別に誰でもいいだろ。適当だよ適当」
「いやいや、それは流石に……」
「――それによ」
鼻でもほじりだしそうな素振りを見せた頭目の手を、彼の聖女がぴしりと叩く。そしてずいと身を乗り出すと、ひどく含みのある口調で続けた。どこか悪戯っぽい表情で。
「
「……!」
「……?」
頭目のよく分からない一言に、でも何故かライアーは息を飲んでいた。首を傾げるカーリヤに対しても、他の聖女と騎士たちはニコニコと、あるいはニヤニヤとした視線を向けてくる。いったい何なのか。
その後もライアーと頭目はこそこそと「レーベンの奴が……」「……を買っているのを見られて」「偶然通りがかったら……」とかなんとか話を始め、そして結局はライアーは黙り込んでしまう。つまり、カーリヤ達はこの村を脱すことになったのだ。
……それに安堵している自分はやはり臆病者だと、カーリヤは胸の痛みに瞳を閉じた。
※
沈む夕日を右目に見ながら馬を走らせる。伝令として選ばれた青年――村長の孫の駆る駿馬と並びながら、カーリヤはライアーの大きな背中にしがみついていた。乗馬なんて久しぶりだ、自分で手綱を握っているわけでもないのに、怖くて目を開けられない。
「どこにいるか分かったもんじゃねえ! 頼むぞ!」
「わ、分かってるわよっ!」
ライアーも不慣れな乗馬に緊張しているのか、どこか上擦った声で言う。彼には手綱を握ることに専念してもらわなければ、死角から現れた魔女に襲われるなんていうことになり兼ねない。カーリヤが周囲に目を配らなければならないのだ。だが怖いものは怖い。
――いつもは平気なのに
魔女狩りの際はいつもライアーの腕や背に掴まって、跳び回り走り回る彼と同じ景色を見ている。大きな木に飛び乗る時も崖を駆け下りる時も一緒だったというのに、それらよりも各段に平坦な道を走っている今の方が冷や冷やしていた。それは多分、ライアー自身が緊張しているせいだ。
いや、そもそも最近の彼はずっと変だった。こんな状況になってしまう前から、ポエニスを出た時からずっと。まるで、何かを隠しているような。
「……、……ねえ」
「カーリヤ」
こんな時に聞くべきことじゃないかもしれない。でもそのしこりはずっと胸に痞えていて、あまりに集中を欠けば聖性だって上手く扱えない。意を決して聞こうとして、その前にライアーが口を開いた。
「な、なによ」
「いや……そのな? こんな時に言うことじゃねえかもしれねえけどな?」
目の前にあるライアーの頭はキョロキョロと周囲を見回している。それは魔女を警戒しているというより、何か内緒の話をしようとしているように見えた。近くを走る村の青年はただ前を見ている。
「あのな、」
「この仕事が終わったらな、その……」
「俺と、」
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それは、声だったのか。
雷鳴のような、地鳴りのような、嵐が鳴いたかのような。
何であれ、それは遥か遠くから響いた大音。何かが空気を震わせ、カーリヤ達の鼓膜を震わせた確かな音だった。
「なんや、あれ」
馬を停めた青年が呆然と呟く。同じく馬を宥めたライアーがそれに並び、そしてそれを見た。
カーリヤの目にも、それは映っていた。
霞んで見えるアスピダ山脈。そこに異形の存在がいた。
黒い泥。光も飲みこんでしまうようなその黒は見慣れた色で、何よりも恐ろしかった。
その姿に似たモノを挙げるならば、八割がたの者は
そして残りの者はこう答えるだろう。
「……きゃあっ!?」
「ぬあ、くそ! つかまれ!」
悲痛な嘶きと共に馬が立ち上がり、振り落とされそうになったカーリヤの腰を力強い腕が抱き寄せる。暴れる馬から飛び降りたライアーに抱かれたまま地面を転がり、カーリヤ自身は何の痛みもないまま二人で身を起こした。
「…………冗談だろ」
どこかに走り去ってしまった馬を気にする余裕もない。カーリヤは言葉すら出せない。
山脈に現れたそれは、間違いなく魔女だった。黒い泥で成された、あらゆる生物と似ていながら同一ではない異形の姿。だが一つだけ、絶望的に異なる点がある。
おかしい。
霞んで見えるような山脈に座する魔女の姿形を、何故こうもはっきりと捉えられる?
それではまるで、あの魔女が途轍もなく巨大だとでも言っているようではないか――。
■■■■━━━━━━
再び響き渡る怪音。それは咆哮だったのだ。あの竜にも似た、巨大な魔女が吼え猛る声。
魔女がその
カーリヤにはそれが、砲身に見えた。
「――やめて」
戦慄く声は何者にも届かない。
魔女の砲身が発火する。青白い炎のような輝きは聖性の光。それが砲身を奔り、光が溢れ、そして。
「――――!」
雷光のような輝きが赤い空を白く染め上げ、放たれた何かが放射線を描いて遥か遠くに「着弾」する。遅れて地を揺るがす轟音と、大きな、大きな茸みたいな雲が……。
「……あ、あぁ……っ」
絶望を孕んだ声はカーリヤのものではなく、ライアーでもない。あんな物を見せられてもなお馬を御している青年の物で、そして彼にはきっとよく分かっていたのだ。あの雲が何処から上がっているのか。
「――畜生っ!」
「あ、待って!」
カーリヤの止める声が聞こえなかったように馬を走らせる青年。聞こえていたとしてもきっと止まらなかっただろう。蹄の音はあっという間に遠ざかってしまった。ノール村に向けて。
「そんな……っ、行くわよライアー!」
圧し折れそうな心をなんとか奮い立たせて傍らのライアーの手を取る。なんとか聖性も流すことができた。馬を失った以上は彼の足に頼るしかない。早くノール村に戻らなければ!
「……ライアー?」
だが、彼は動かない。
ちゃんと聖性も流しているのに、その腕でカーリヤを抱き寄せもせずただ立っている。顔を上げれば目が合った。ごくありふれた、それでもカーリヤが信頼してやまない鳶色の目と。
彼はただじっと、カーリヤの目を見つめている。
「――だめよ、ライアー」
その目には見覚えがあった。
あの森で、魔女になりかけた
「まだよ、きっとまだ間に合う。今行けば、誰か、誰か……っ」
誰かなんていない。誰も生き残っていない。ライアーはきっと分かっている。カーリヤも分かっている。だから分からないふりをしていた。そうしないと心が折れてしまうから。
そうしないと、本当のカーリヤが顔を出してしまうから。
そうなってしまう前にライアーの手を引いて、逆に手を掴まれる。もうビクともしない。カーリヤをこの場に繋ぎ留めるみたいに。
「……怖気づいたの? それでも騎士?」
「このまま逃げる気なの? ……みんな見捨てて!」
「見損なったわ! この、弱虫っ!」
鎧に包まれたライアーの胸を叩く。それはただカーリヤの拳を痛めただけで、彼の体も心も動かしてはくれなかった。拳だけじゃなく、カーリヤの安い挑発にも。
ライアーは弱虫なんかじゃない。昔はそうだったかもしれないが、今はもう違う。カーリヤよりも小さく細かった体はもう別人のようで、その心もきっと逞しく成長していた。カーリヤとは違って。
■■■■━━━━━━
「ひ、」
魔女の咆哮。びくりと身を竦ませて振り返れば、山脈に座する魔女はその姿勢を変えていた。あの砲身のように伸びた咢はもう無く――。
いや、違う。
砲身は無くなった訳ではない。見えなかっただけだ。
何故か?
「うそ…………」
唇から力なく、意味もない言葉がこぼれ落ちる。力の抜けた手からも、狙撃銃がこぼれて落ちた。
無意識に思い込んでいた。あんな巨大で、強大な破壊力を持った魔女が狙うのは村のような集落だけだと。たった二人のちっぽけな人間を、カーリヤ達を狙ってくるはずがないと。
思い込んでしまっていた。忘れてしまっていた。
魔女は、何をしてくるのか分からない。
「――あ」
いま、光った。
聖性の光と同色の閃光。
赤い空を斬り裂くように飛来する何か。
それは放物線を描きながら、カーリヤ達の元へまっすぐ……。
「カーリヤ――――ッ!」
轟音の中で、ライアーの声を聞いた。