魔女狩り聖女   作:甲乙

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黒騎士

 

 エイビスには、彼のその姿が鴉に見えた。

 

「おあぁっ!」

 

 黒い外套を鴉羽のように靡かせながら、魔女の頭上から渾身の振り下ろし。エイビスが見ても分かる程の、力加減も何もあったものではない一撃。それは魔女の右肩を深く抉ったが、当然の結果として両手剣の刃は砕けてしまった。

 

「ぬんっ!」

『ずごぇっ!』

 

 だが彼はもう退かなかった。折れた剣を手にしたまま体を回転、魔女の躰に突き刺さった刀身を蹴りつけ、更に深くめり込ませる。更にそのまま、刀身を足がかりにして魔女の躰を駆けあがった。

 

『ず――』

 

 巨大な胴体に半ば埋もれていた魔女の頭、その根本つまりは首に聖銀の刃が突き立てられる。レーベンの右手に握られる両手剣は未だ修復途中、故にそれは別の武器だった。

 左手で逆手に握られた、聖銀の曲剣。筋力より技量を重視する聖都の騎士たちも多く用いるそれが、いつの間にかレーベンの手に。

 ハッと、エイビスは崩れた周壁に視線を飛ばす。折り重なって倒れた聖女と騎士の死体、そこに突き立っていたはずの曲剣が無くなっていた。

 

『ずごいぃ!』

 

 首を落とされようとしていた魔女は、苦し紛れのように二本の右腕を自身の頭に振り下ろす。だが諸共に叩き潰されようとしていたレーベンは、あっさりと曲剣を手放して跳び退っていた。遅れて、粉々に砕かれた聖銀が陽光にキラキラと反射しながら舞い散っていく。

 エイビスには考えもつかないことだった。武器の破損を前提とした一撃も、死者の武器を使い捨てるという罰当たりも、そして何よりも。

 

『すごい! ずご――』

 

 短銃とは比べものにならない重い銃声。弾け飛ぶ黒い泥。光を反射する聖銀の長銃。灰色の装束と白い長髪。照星ごしに魔女を見据える黒い瞳。

 その聖女――シスネレインは長銃を手に魔女と対峙していた。肉薄というには遠い間合いだが、それでも安全圏とは言えない。魔女が全力で飛び掛かれば瞬きする間に捕らえられ、四肢を引き千切られるであろう距離。

 そんな死の間合いで、シスネレインは冷然と魔女を見据えながら右手の長銃を回転させる。無理矢理に引かれるレバーと、次弾が装填された金属音。銃には疎いエイビスでも分かる、明らかに本来の使い方ではない乱雑な動作。細かな部品が破損しかねず、だがその銃身には青白い光が走っていた。教会の銃もまた聖銀製、聖性を流せばその状態は万全な形状へと復元される。されるが、破損する程に銃を酷使する聖女などエイビスは知らないし、まして騎士よりも前に出る聖女など――。

 

『あな、だぁ――っ!』

 

 全力で飛び掛かる、魔女。

 

「シ――――!」

 

 憎悪よりも嫌悪よりも思考よりも何よりも先にエイビスの体は動いていた。魔女が飛び掛かる先、そこにいる白髪の聖女、兄の仇、かつて憧れた……。

 翻る黒い鴉羽。

 

「お嬢さがって!」

「ぐふぇ!?」

 

 魔女の剛腕が地面を殴る轟音と地響き、巻き上がる砂塵、シグエナの声と突如として切られた聖性の「線」に、飛び出そうとしていたエイビスはつんのめって地面に倒れた。鎧の重みに押しつぶされそうになりながら顔を起こし、視線の先で黒い騎士――レーベンに身を掻っ攫われたシスネレインの姿を見とめる。

 

「あーもー何を突っ走ろうとしてるんですか、世話の焼ける」

 

 ほっと息をつくも束の間、いつも通りの呆れ声と共に再び聖性を流され、体を起こして自身の聖女を精いっぱい睨み上げる。聖性を流したり流さなかったりと、まるで手綱だ。エイビスはもうずっと、この聖女にいいように扱われていた。不本意極まりない。

 

「貴殿……私は馬じゃないと言っただろうがっ」

「馬っていうか子犬ですかねー? ちっこいし、よく吠えるし」

 

 この聖女(おんな)……!

 怒りが裏返り、いっそ顔が笑みの形に引きつっていることをエイビスは自覚した。遥か頭上からニヤニヤと見下ろしてくる顔を見返しながら必死に自制する。今はそんな事をしている場合ではないのだ、だから落ち着け。内心だけでシグエナの頭を引っ叩いていると、実際に頭を引っ叩かれたような音が響いた。

 

 

 ◆

 

 

「どこを触っているのですかっ、手の位置を下げなさい!」

 

 魔女に捕らえられようとしていたシスネの細い体を掻っ攫ったは良いものの、腕に抱いた聖女は御立腹だった。脇腹の辺りを触られるのが気に入らないようだが、手の位置を上げても下げても妙な場所に触れてしまいそうで動かせない。仕方なく、レーベンはただ頭を叩かれる仕打ちに甘んじた。騎士も楽ではない。

 

『あなた!』

「ぅおっと!」

 

 追いすがってきた魔女が腕を振るい、両脚に力を入れて加速することで躱す。脚の筋肉が千切れたような痛みが走るが、過剰に流される聖性がすぐに傷を治した。

 

「ぶつかる!」

「つかまれ!」

 

 大して広くもない場所を馬以上の速度で駆け抜けた結果、周壁がすぐ眼前に迫ってくる。今さら止まることなど出来るはずもない。故にレーベンは速度を上げ、壁へと飛び上がった。

 

『あなた、ずご――』

 

 魔女の歪んだ大声は、周壁の一部が倒壊する轟音にかき消される。走る勢いのまま壁に衝突した魔女の躰に、崩れた石塊が雨のように降り注ぐ。その様を、レーベンは壁を駆け上がりながら見ていた。体が軽い、場違いに青い空と、風を切る音が鳥になったようで――。

 

「降りなさい! 下ろして馬鹿ぁ!」

 

 腕の中から響く悲鳴で我に返った。当然だがレーベンは空を飛べるようになったわけではない。否、鳥であっても空に留まり続けることはできないのだ。つまりは、上手く着地できなければ死ぬ。

 足が離れてしまう前に壁を蹴り飛ばす。三階建てに近い高さから一気に横方向へと加速し、ものの数瞬で迫る地面に向けて両脚と両手剣を突き立てた。三本の轍が長々と引かれ、剣の刀身がまた折れてからようやくレーベンは地面で制止。きつく腕に抱いていたシスネを開放してやると、彼女はふらふらと地面へと座り込んだ。

 

「し、死ぬかと思いました……」

「同感だ」

「本当に刺しますよ! 聖性で治せるのですから、刺しても良いですよね!?」

 

 黒い瞳には涙が滲んでいたが、その言葉が冗談なのか本気なのかは判断に苦しむ。刺しては治されるという無限地獄を想像したレーベンは、話をすり替えることにした。

 

「なら貴公も少し加減したまえよ。そうでないとまた空を飛ぶ破目になるぞ」

「……なぜ私があなたに合わせなければいけないのですか、あなたが勝手に合わせなさい」

 

 やっと立ち上がったシスネはレーベンの脇腹を小突いてから鼻で笑う。向けられた左手からは、今も過剰な量の聖性が「線」を伝って流れ込んできていた。否、過剰であるだけならばまだ良い。問題なのはその強さにひどく(むら)があり、また波も激しいということだ。今日はじめて聖性を流されたレーベンでも分かるほどの、「雑な」聖性だと言える。

 

「得意なのでしょう? そういうの」

 

 そう言って、シスネは挑発的な笑みを向けてきた。それを見たレーベンもまた、くっと喉を引きつらせて笑う。

 確かに、レーベンの魔女狩りはいつだってそうだった。作戦など大雑把なぐらいで良い。何事も上手くは行かない。見極めるのは生と死の一線だけで充分。あとは全て出たとこ勝負。加えて、過剰に聖性を流されて己の体が暴れる様は、強化剤を過剰に使用した時とひどく似ていた。そんな状態でずっと戦ってきたのだ、レーベンは。

 そう、今までと何も変わらない。ただひとつ、この身に流れるのが薬ではなく彼女の聖性だというだけで。

 

「分かった、貴公の好きにやりたまえよ」

「分かれば良いのです」

 

 元より、彼女には加減なしで聖性を流してもらおうと思っていたのだ。それで武器が壊れようと、彼女に直してもらえる。体が傷つこうと、それも彼女に治してもらえる。こんなに便利なことが他にあろうか。

 どこまでも泥臭く食らいつき、泥沼の中で殴り合う。野良犬の縄張り争いにも劣るような戦いこそが己には相応しいのだろう。もしかすれば、彼女にも。

 

 ――ライアー達のようには、いかんな

 

 もういない友人たちに想いを馳せ、それが感傷へと変わる前にレーベンは走り出した。

 

 

 ◇

 

 

 魔女へと一直線に駆け出したレーベンを見送りながら、シスネは縫い合わせていたスカートの切れ目を再び大きく裂いた。そのまま、右膝に長銃を挟んで右手だけで弾薬を装填する。左手はずっとレーベンへと向けたまま。

 

 ――カーリヤのようには、いかない

 

 彼女のように両手で銃を扱いながら聖性を流すという真似はシスネには出来ない。彼女にはそれだけの聖女としての才があり、そして何より彼女自身がそれを磨き上げていたからこそ、あの二人には高度な連携が可能となっていたのだ。才も練度も、今のシスネには足りていない。

 まして、シスネには聖性を逆に流さなければならないという枷まである。さりとて、シスネが聖性を流すことに集中すればレーベンへの負担が大きくなる。彼もまた本来の騎士としての戦いに慣れておらず、そしてそれに向いてもいないのだから。

 

 だから、シスネは考え方を変えた。

 

 元よりシスネは聖女としては凡才で、今この時に至っては聖性をまともに流すことすら出来ない。ならばもう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう開き直って、右手ではなく左手で聖性を流し始めたのだ。

 聖性の扱いは非常に感覚的で、故に殆どの聖女は利き手から聖性を流している。それで聖性が上手く扱えるなどという根拠はまるで無いが、ただ「なんとなく上手くできそうな気がする」という理由だけでそうしているのだ。ふざけた理由にも思えるが、聖性は精神とも強い結びつきがある。「なんとなく」も馬鹿にはできない。

 左手で、雑に、適当に、大雑把に流される聖性。それが質の良い聖性(もの)であるわけもないが、あの男にはそれぐらいで丁度良いのだ。それに。

 

「さて、と」

 

 装填し終わった長銃を回転させてレバーを引く。負傷して片腕が使えなくなった時のことも考え、片手だけで銃を扱う訓練ならしてきた。実際にその経験だって何度もある。シスネは聖女としては凡才でも、銃を扱う才ならそれなりに自信があるのだ。聖性よりよほど手に馴染む長銃を提げ、シスネは不敵に笑った。

 聖性だけでなく、聖女が手ずから共に戦ってやろうというのだ。あの男には、あんな馬鹿には勿体ない大盤振る舞いだろうに!

 

「ありがたく思いなさい、馬鹿」

 

 それはきっと、聖女らしくない笑みだったのだろう。

 

 

 ※

 

 

 滅茶苦茶だと、エイビスは思った。

 

「滅茶苦茶だ……」

「そうですねー」

 

 声に出ていた上に、珍しくシグエナも同意してくれる。並んで視線を送る先で、黒と白が乱舞していた。

 

「ぬんっ」

 

 レーベンが片手で振るった両手剣が魔女の右脚を薙ぐ。当然のように折れた刀身に頓着した様子もなく、即席の片手剣と化したそれで更に右脚を抉り、ただでさえ短くなっていた刀身がまた折れる。

 

『あなっ』

 

 魔女もやられっ放しである訳もなく、左足で彼を踏みつけようとするような動きをしたが、それを阻むように何かが魔女の脚に突き刺さる。

 聖銀の短剣。聖女が持つ自決武器。それを投げたのが誰であったかなど考えるまでもなく、レーベンも迷いを感じさせない動きでそれを掴み取った。

 

『あな、だぁ――!』

 

 今度こそ降ってきた魔女の大きな足を、加速したレーベンの体がすり抜ける。弾丸のような速さは明らかに力加減を誤っており、何よりも流される聖性が過剰である証。このままでは、先ほどの魔女と同じく周壁に衝突して壁の染みとなることは明白。だがエイビスにはどうすることもできず、だがレーベンはそうはならなかった。

 

『ず――』

 

 半ばまで抉られていた魔女の右脚が、今度こそ断ち切られた。それを為したのは修復された両手剣の長大な刃であり、そして常識外の速度。黒い外套を靡かせるレーベン。

 エイビスには辛うじて見えていた。周壁へと激突する寸前、彼は左手の短剣を地面へと突き刺したのだ。地に突き立ったそれを楔として彼の体は急激に反転、勢いをそのままに再び魔女へと肉薄。そして全ての力と勢いを乗せられた両手剣は、魔女の脚を遂に両断してしまった。

 型も何もあったものではない。それどころか正気すら疑うような、剣技とも呼べない何か。あんな曲芸じみた博打を実戦で試そうなどと考えつく者がいるとは思えず、仮に成功したとしても無事で済むとも思えない。……現に彼は盛大に転倒し、ゴロゴロと転がりながら遥か遠くへと消えていったのだから。

 

『――ごえっ』

 

 右脚を断たれた魔女が遂に倒れ伏す。二本の右腕で躰を支えようとし、だがその右腕が地面に着こうとした瞬間、何かが掌の下へと転がり込んだ。

 炸裂。そして炎。地面と魔女の手に挟まれた炸裂弾と焼夷弾は、その威力を余すことなく発揮した。

 

『ああぁなあ――!』

 

 右腕の一本が激しく燃え上がり、もう一本の右腕は掌の半分が弾け飛ぶ。痛みに悶えているのか炎を消そうとしているのか魔女の巨躯が転げまわり、地面と近くなった頭部を容赦のない散弾が襲った。

 連続して響く銃声と魔女の悲鳴。回転する長銃とレバーの動作音。装填された十発全てを命中させたシスネレインの白い顔と灰色の装束は赤黒い泥に塗れ、それでも黒い瞳は魔女の姿を捉えて揺るがない。

 

『なあっだ!』

 

 だがそれでも魔女は倒れない。永命魔女。エイビスが初めて対峙したその特別な魔女のしぶとさは想像を超えていた。右脚を断たれ、二本の左腕を斬り落とされ、二本の右腕を半ば失った上に頭部を潰されてもまだ止まらない。悲鳴とも怒号ともつかない歪んだ叫びと共に躰を起こし、

 

「うるさい」

 

 事もなげにシスネレインの大短銃が火を吹いた。

 魔女の絶叫もかき消すような轟音。魔女の躰もあっさりと貫通した銃撃は背後の周壁にまで亀裂を走らせ、魔女が再び倒れ伏す。常識外の威力にエイビスは言葉を失くし、次の瞬間には我に返る。あんな銃を片手で撃ったシスネレインは無事なのか?

 

「……っ」

 

 無事ではなかった。なかったが、シスネレインはただ顔を顰めただけで、口に咥えた再生剤を右腕に突き刺す。捲り上げた肩掛けから覗く、青黒く染まった白い肩。

 あれではもう、銃は撃てない!

 

「――シス」

 

 駆けだそうとしたエイビスの肩をシグエナが掴み、それも振り払おうとしたエイビスの視線の先で。

 

「遅いですよ」

 

 ぼそりと呟いたシスネレインを掠めるようにして、聖銀の大斧が魔女の躰へと叩きこまれた。

 

『ずご、』

『いえあ』

『なだっ』

 

 大斧だけではない。片手剣が、斧槍が、槌が、どこから拾い集めてきたのか様々な聖銀武器。大量の武器を手に戻ってきたレーベンが、それを次々と魔女の躰へと叩きこんでいく。

 もう滅茶苦茶だった。

 先の無茶で折れたのだろう左腕、どう見てもまだ治癒されきっていないそれまで使って武器を振り下ろし続けるレーベンも。武器を使い捨てては修復し、また使い捨てる杜撰な戦い方も。騎士と聖性を雑に扱いながら自ら前に出るシスネレインも。何もかも滅茶苦茶だ。

 だからエイビスは見ていることしかできない。だからシグエナが手を放してくれない。あんな連携とも呼べない連携に首を突っ込んでしまえば、エイビスもあの二人もきっと無事では済まないのだから。

 だが何故だろうか。エイビスには、あの二人が。

 

『ずごい!』

 

 破れかぶれのように振り下ろされた魔女の腕。

 くるり、と。

 レーベンの手が当然のように、叩き潰されようとしていたシスネレインの体を横に退かせた。

 いっそ優しいまでの手付きは聖性の光を帯びておらず、だからこそ出来たのであろう丁寧な動作。それはシスネレインが意図的にそうしたのか、それとも雑な聖性が弱まった瞬間をレーベンが狙ったのか。

 いずれにせよ、シスネレインもまた当然のようにその身を委ね、そのままの姿勢で炸裂弾を放る。

 軽く投げられたそれは、様々な武器を突き立てられた魔女の胸へと向かって――。

 エイビスの視線と交差する黒い瞳。勝手に動くエイビスの体。

 

 ――壊すなよ!

 

 内心で叫びながら、手にしていた長槍を投げつけ。

 

『あ、なだ――』

 

 空を切る長槍。掴み取られる長槍。深々と突き立てられる長槍。それを握るレーベン。穂先ごと、魔女の躰へと深く突きこまれた炸裂弾。

 

『すごいわ、あなた』

 

 爆発四散する、永命魔女の躰。

 

 

 ◆

 

 

「壊すなって言ったのに……!」

「誠に申し訳ない」

 

 いや本当に。

 壊すなと言われた覚えはないが、涙目で睨み上げてくるエイビスの青い目を直視できずにレーベンは頭を下げた。彼女から借り受けた件の長槍はといえば、聖女たちが二人がかりで修復中である。柄の半ばまでしか残っていないそれを元の形まで戻すのはなかなか骨が折れるらしい。

 

「あー面倒くさ。使い捨てるならせめて死んだ人のにしてくれませんかねー?」

「本当にごめんなさいエイビス。全部そこの馬鹿が悪いから」

「見損なったぞ、本当に貴殿という男は……!」

「お、おう……」

 

 よくよく考えれば、この場に男は己一人しかいないという状況にレーベンは今さら気付いた。気付いたが、それを両手に華以上だとか何だとか喜べる状況ではない。まったくもって。

 

「いつもあんな馬鹿な戦い方してるんですか? よく今まで生きてましたねー」

「私に言われても知りませんよ。馬鹿には何を言っても無駄ですから」

「あぁ、もう良いとも……貴殿なんかに槍を託した私が馬鹿だったんだ」

「そろそろ勘弁してくれないか」

 

 なぜ己は三人の女たちから寄ってたかって罵倒されているのだろうか。先ほど狩った永命魔女の方がよほどレーベンのことを誉めていたような気すらしてくる。もっとも、魔女の言葉に意味など無いのだが。

 腹が立つほど青い空を見上げながら、レーベンは内心で不貞腐れた。

 

 

 

 その時だった。

 

「……?」

 

 げんなりと空を見上げた時、場違いな晴天の中で奇妙な光がレーベンの視界にちらついたのだ。

 それは(トンビ)の真似をする(カラス)のように、ゆったりと高度を下げながら空を横切っている。

 青い空と太陽の光の中でもはっきりと見て取れる、青白い光。

 聖性の――。

 

「伏せろっ!」

 

 何の根拠もなくレーベンは叫び、足元に転がっていた聖銀の大斧を盾のように掲げる。

 総毛だつ悪寒。この瞬間、レーベンはあの光から確かな「視線」を感じていた。

 

 パキン、と。

 

 ともすれば聞き逃してしまいそうに細やかな金属音と共に、大斧に指先ほどの穴があく。分厚い刃に一切の亀裂も刻まないそれは、異常なまでに凝縮された破壊力を無言のままに示していた。

 故に、それは銃撃だったのだ。恐るべき弾速と、恐るべき射程と、恐るべき精度と、恐るべき威力を兼ね備えた、恐るべき狙撃。それは聖銀の大斧も容易に貫通し、そして――。

 

「…………シグエナ?」

 

 倒れ伏した聖女の名を、エイビスが呆然と呼んだ。

 

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