前線の提督が死んだ。
そいつはこの日本の中でも最大手の横須賀鎮守府所属の大提督だった。幾人もの女性提督達や艦娘達を率い、精力的に活動していた提督だった。そんな奴がくたばった。
死因か?良くある海上事故だよ。といっても、深海棲艦の攻撃による死亡事故って意味だがな。しかも死体が無い。最高にクソだ。
「…まぁ、あいつも運が無かったって事だな。でもまさかくたばるとはなぁ…」
どうしようか?いや、本当にどうしよう?くたばる事自体は提督をしているのだから仕方ないのだが、くたばった奴の階級がヤバい。なんてたって元帥様だぞ?あの元帥様。どうしろというのか。
お陰で大本営(横須賀鎮守府)はそれはもうてんやわんやからの右往左往でとてもじゃないが復帰しそうにない。奴の派閥だけで固めたのが仇になってしまった形だ。
まぁ、かといって他派閥が乗り込んでいけるかというとそれは無理な相談だ。なんてたって奴は有能だった。他派閥のエリート層(女提督達)を一人残らず引き抜いては心身共に忠誠を誓わせる様なカリスマ性を持つ男だったのだ。そのせいで他派閥はかなり弱体化したしなんなら粛清された。
そのせいで提督は俺とあいつ、それ以外は全員女性提督とかいう意味の分からん比率になってやがった。そして奴がくたばったので俺が最後の男性提督になった。
いや、それはどうでもいい。問題は奴の負の遺産だ。奴には一つだけ、宜しくない癖があった。それは、女をまるで掴み取り放題で掴んできたと言わんばかりに閨に連れ込んでは孕ませてこっちの俺の業務を著しく滞らせた事だ。艦娘、女提督・女憲兵…女で美人な奴は皆奴の毒牙に掛かっていたな。
毎日の如く妊娠の報告を寄越してくる奴の顔は爽やかスマイルであったがぶん殴りたかった。童貞の俺に喧嘩を売ってるのかと当時は殺意を覚えていたよ。いや、いまもだな。
ま、流石に女提督や艦娘は月に十件程度だったが、女憲兵に手を出し過ぎだろ…なんだよ毎日五人妊娠報告って、意味わかんねぇよ。憲兵は仕事しろ。
まぁ、そんな仕事ともおさらばする事になった訳だが。理由は簡単だ。俺が奴の次に偉いからだ。偉いことになってしまったからだ。奴は元帥、俺は上級大将…つまりそういう事である。といっても俺の上級大将なんていう階級は飾りだ。いや、だったと言うべきか。ともかく、俺のこの肩書きは飾りだったんだ。業務内容は単純で裏方。毎日毎日微妙そうな顔をして書類を持ってくる職員に、判子を押して渡すそんな仕事だった。40にもなってする仕事が判子を押すだけとは、若い頃は思いもしなかっただろうな。
そもそも俺は提督になっていない。いや、妖精は見えるし艦娘とのリンクも出来ていた。だが枠で負けた。提督になれる枠から溢れたんだ。それで俺は救済という名目で設けられた大本営の輜重兵科補佐になった。
で、そこからは地味な仕事さ。同僚が昇進したり戦死して二階級特進になったり、除隊して退役軍人になったりしてる中、俺は黙々と仕事をしていた。そして月日は流れて大佐になった俺が35になる頃、突然准将の上司が銃殺刑になった。その他にも数人の少将と数十名の大佐の首が物理的に飛んだ。どうやら艦娘に対して良からぬことを行い、剰え自沈させていたらしい。
そんな闇を掘り当てた奴が、あいつだった。あいつはまだその時は俺と同じ大佐だった…年齢は全く違うが。あいつは三人いる元帥の一人に気に入られていた奴だった。さて、そこからだ。あの馬鹿野郎に振り回され始めたのは。
先ず最初は、女絡みだった。自分の初期艦を孕ませたのだ。他にも数名の女憲兵に手を出し、孕ませていた。俺は最初聞いた時、そんな馬鹿みたいな話があるかと鼻で笑っていたが、翌日文書になって送り付けられて事実なのだと理解した。
ご丁寧にハメ撮り写真(危ない所は暗く塗りつぶされている)も送って来た時は殺意を持った。持ってきた職員なんて顔を逸らして見ないようにすらしていた。俺も見たくなかった。で、そんなこんなあってそれらも育休として処理した。
次に奴が持ってきた厄介事は他派閥の弱みを暴き出して他派閥を悉く粛清した事だ。有能な女は全員引き抜き、心身共に忠誠を誓わせた後で残った男達を全員絞首刑に処した。そのせいでウチの科は八割絞首台に立たされた。物資の横領に敵である深海棲艦との癒着、そして極め付けは艦娘の強制売春と自沈だ。数え役満とはよく言ったものである。
尚俺はそんな事は一切知らなかった。確かに偶に、遠くにいる同僚や職員が下品な顔をする時があるなぁとかなんか青白く見えるなぁなんて思っていたが、俺の周りではそんな事はなかったので気付けなかった。
因みにこの事によって俺は繰り上げ昇進させられた。一気に中将へと付けさせられたのだ。残った人員も全員昇進だ。それからもまぁ大変だった。新しく入ってくる人員は女ばかりだし、提督採用でも女ばかりになっていた。数少なくなった男の同僚は皆辞めていたし40を過ぎる頃には職場は女しか居なくなっていた。それと同様に同期も皆辞めていった。
そして俺が順当に上級大将になった頃、あいつがくたばった。最初は、嘘だと思ったよ。なんてたってウチの部下達も食べまくってワンマン社長並みに海軍を指揮していたんだ、死ぬ前に誰かが身代わりになるだろとさえ思っていた。
が、死んだ。どうやら艦娘達の目の前で姫級の深海凄艦と共に海に沈んだらしい。はた迷惑過ぎて詳細を聞いた時は眩暈がしたよ。
まぁ、兎にも角にもだ。本当にどうしようか?俺が大提督として元帥に繰り上げ昇進させられてしまうのだが、マジでどうしよう?出来ればやりたくないぞ。奴の元カノばっかりの鎮守府なんて俺にとって地獄みたいなもんだ。
でも、行かないとダメなんだよなぁ。行きたくないなぁ…帰りたいなぁ…。