小木曽望乃は勇者である?~大満開の章~   作:桃の山

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 今回は四話前半+八話後半少し+αです。


小木曽望乃は勇者ではない

 一月五日。勇者部は集まってすごろくをしていた。

 

「え!? 八マス戻る……」

 

「ふっふっふ! また引っかかったわね!」

 

「八マスって……スタート地点」

 

「うう……。怪我でクリスマスとお正月ができなかった私のために用意してくれたなんて、乃木ホントにありがとねー」

 

 風が獅子舞姿の園子に礼を言う。

 

「大成功!」

 

「友奈と望乃もありがとねー。入院している間、溜まってる依頼やってくれたんでしょ?」

 

「え? 私は……何かやっていないと落ち着かなくて。じゃなくて、元気が有り余ってるから!」

 

「そうだよ~。いつでも元気モリモリだからね~」

 

「そうは見えないけど?」

 

 風はすごろく中にも関わらずだらけている望乃にツッコミを入れる。

 

「そういえば望乃さん、最近友奈さんとよく一緒にいますね」

 

「友奈ちゃんと一緒にいたい気分なんだよ~」

 

「望乃、あんた……」

 

「望乃ちゃん、まさか……」

 

 望乃の言葉に、夏凜と東郷が反応する。

 

「百合的な意味じゃないよ~」

 

 二人の言いたいことを察した望乃が先に否定した。それを聞いた二人はホッと安堵する。

 

「って、安心なんてしてないから!」

 

「誰に言ってんのよ」

 

 誰にも言われてないのに、夏凜がツンデレを発揮していた。

 

 勇者部が一息ついたところで、園子が奥から大きな包みを持ってくる。

 

「ここからが本番、よっと」

 

 園子がそれを床に下ろすと、埃が舞う。

 

「ちょっと! 埃臭い!」

 

「何? それ?」

 

「ほら私、複雑な事情で家にいろいろあるじゃない?」

 

「それは、確かに……そうだけど」

 

「またいきなりねー」

 

「それで、荷物の整理に行ったんだ~」

 

「何でまた?」

 

 そう聞かれた園子は友奈をじっと見てから望乃を見る。

 

「コギーがね、見たいって言ったんだよ」

 

「望乃が?」

 

「そうなんだよ~。ほら私って、園子ちゃんの記憶をコピーしてるでしょ? その記憶の中に知りたいなって思ったものがあったんだ。だから園子ちゃんに頼んだんだよ」

 

「そう。それで、コギーが頼んだのがこれだよ」

 

 園子が東郷に一冊の本を渡す。

 

「勇者、御記?」

 

「何で望乃はこれを?」

 

「えっとね、勇者って書いてるから気になって」

 

「まあ、気にはなるわよね」

 

「乃木家に伝わる三百年前のものみたいだよ」

 

「読んだの?」

 

 風の問いに園子首を横に振る。

 

「私もこれから。もう私だけが知ってるなんて良くないし、私も嫌だしね。初回はみんなと一緒に読もうと思って。コギーもそれでいいよね?」

 

「もちろんだよ~」

 

 東郷は本を開いて読み始める。

 

「私たちの戦いの記録を記し、未来の勇者へ託す」

 

「未来の勇者って……」

 

「望乃、なんてものを頼んでんのよ。って、何で離れてんの?」

 

 望乃はいつの間にか勇者部から離れていた。

 

「いや~、私から言い出して悪いんだけどさ~、私は聞かない方が良いのかなって」

 

「何でよ」

 

「だって、ほら、それって、未来の勇者のために書かれたものなんでしょ? だったら私は違うからさ~」

 

 勇者部は望乃の言っていることが理解できていた。小木曽望乃は勇者ではない。だから勇者のために書かれたものを読むべきではない。望乃はそう言いたいのだ。

 

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」

 

 夏凜が望乃に近付いて手を掴んで引っ張って来る。

 

「あんたが読まないでどうすんのよ」

 

「でも夏凜ちゃん」

 

「……あんただって勇者でしょ」

 

「え? 何か言った? 夏凜ちゃん」

 

「な、なんでもないわよ! とにかく、あんたも読むのよ!」

 

「う、うん」

 

「私たちが今なぜこうなのか、私たちは読まなきゃならない。コギーは勇者の素質は持ってないかもしれないけど、それでも読むべきだと思う」

 

「園子ちゃん……うん、わかったよ。ちゃんと、知るべきだよね」

 

 望乃のその言葉に、その場の全員が頷く。そして本に視線を落とした。

 

 その本、『勇者御記』は、初代勇者乃木若葉が記したもので、勇者五人と巫女一人の戦いの模様を書いた本だった。そしてそれは想像の絶するものだった。(詳しくは乃木若葉は勇者である本編を見てください)

 

 

 勇者御記を読み終えた勇者部には、深刻な空気が流れていた。

 

「その若葉って子だけが生き残ったの?」

 

「ええ。その後天の神を鎮めるための奉火祭が検討、決行。巫女たちは捧げられ、当時の勇者が出撃することはなかった。これで記録は以上みたい」

 

「奉火祭って、つまりは時間稼ぎのことよね?」

 

「三百年ものね」

 

「園子さんのご先祖が守ってくれなければ、私たち生まれてこれなかったんだ。世界を守るってこういうこと?」

 

「託されちゃってるんだね~。次の世代に託すのも、そして終わらせるのも勇者次第」

 

「不吉なこと言わない」

 

「でも、私たちの代での戦いはもう……」

 

「終わったと思いたいけどね~。それで、コギーはどうだった?」

 

「私?」

 

「あんたが言い出したんでしょ」

 

「そうだね。えっとね、一番驚いたのは、精霊にもご先祖がいたことかな。今の精霊とは違うみたいだけどね」

 

「そういえば、昔は切り札としての存在だったのよね?」

 

「私たちの精霊は昔の精霊をアップデートしたものらしいからね」

 

「さすがにそれは知らなかったな~。ね~、烏天狗!」

 

 望乃が団子を片手に持っている烏天狗を抱きしめる。その様はぬいぐるみを抱く子供のようだった。

 

「望乃さんって、園子さんの精霊と仲良いですね」

 

「そりゃあ、そうだよ。夏凜ちゃんより長い付き合いだからね~」

 

「……まあ、そうね」

 

「あれ? 夏凜、もしかして嫉妬?」

 

「はあ? 嫉妬なんてするわけないでしょ!」

 

「夏凜ちゃん」

 

「ち、違うわよ、望乃。私はただ……」

 

「わかってるよ。夏凜ちゃんも抱っこしたかったんだよね? 烏天狗」

 

「……違うわ!」

 

 そのやり取りに勇者部が揃って笑う中、一人浮かない顔をしていた友奈を、望乃はじっと見ていた。

 

 

 夜。

 望乃はお風呂でシャワー浴びながら、一人で考え事をしていた。

 勇者御記を読んで思ったことは、それでは現在の友奈に起こっていることがわからないということだ。どれだけ望乃が考えてもそれは推測の域を出ず、何かヒントでもあればと思っていたのだが、それらしいものはなく解決法を見つけることは叶わなかった。

 もう一つ思ったことは勇者は世界を守る存在だということだった。それは前からわかっているつもりだったが、勇者御記を読んで痛感した。

 望乃は樹の言葉を思い出す。

 

『園子さんのご先祖が守ってくれなければ、私たち生まれてこれなかったんだ。世界を守るってこういうこと?』

 

 勇者には先祖が守ってきたものがある。その世界を守るために戦う。

 なら勇者じゃない望乃は何のために戦うのか。

 精霊には託されているものなどない。勇者と違って守れるのは自分だけ。そして勇者の命だけ。精霊に世界を守る資格はない。

 だから望乃は思っていた。

 友奈に今起こっていることは、世界に関わることだと。それなら、その解決は勇者がすべきことで、望乃が関わって良いことではない。以前望乃がやったことはあくまで、満開の後遺症を戻すというだけで、世界的に見れば大したことではなかった。

 精霊は所詮サポート役で、主役は勇者。サポート役が主役の出番を奪うなんてことはあってはならないのである。

 

「私が精霊に戻っても、できることなんてない、よね?」

 

 風呂から上がった望乃を夏凜が呼ぶ。夏凜の声がする方へ行くと、夏凜はベッドに座って手招きしていた。望乃は首を傾げながら夏凜の隣に座る。

 

「どうしたの? 夏凜ちゃん」

 

「望乃、何であの勇者御記を読みたいなんて言ったのよ?」

 

「えっと、それは……」

 

「もしかして、友奈の様子がおかしいのと関係あるんじゃないの?」

 

「……え?」

 

「気付いてないと思ってたの? 多分、みんなも気付いてるわよ。望乃、あんた友奈の様子の原因を探ってたんじゃないの?」

 

「……鋭いね、夏凜ちゃん。その通りだよ」

 

「やっぱりね。友奈のことばかり気にかけてると思ったのよ。それで? 何かわかったの?」

 

 望乃はそう聞かれて首を横に振った。

 

「……そう」

 

「友奈ちゃんに何かあったのは確実なんだよ。そして友奈ちゃんはそのせいで苦しんでる。何とかしたいんだけど、どうしたらいいんだろう」

 

「ひとまず友奈に話を聞くわ。誰も知らないんじゃあ、本人に聞くしかないでしょ」

 

「え、でも……」

 

「それと、精霊に戻るんじゃないわよ!」

 

「え、あ、うん」

 

「何よ、頼りない返事ね」

 

「大丈夫だよ。元々私がどうにかするつもりはなかったから」

 

「それならいいけど」

 

 

 夏凜は後日友奈に話を聞きに行ったが、友奈が話してくれることはなく、涙を流してその場を去った。

 夏凜を追いかけた友奈は倒れ込み、そこに現れたのが望乃だった。

 望乃は友奈と話し、友奈は口にはしなかったが、望乃の推測は間違っていなかったことがわかった。

 友奈は見るからに辛そうだった。その姿は精霊時の望乃に近いところがあったが、望乃はあくまで言えないというだけで、友奈のように誰かを傷つけてしまうことはなかったため、友奈の方が辛いと判断した。

 友奈のその姿を見て、辛さを知って、望乃は今まで友奈に頼ってばかりだったことに気付き、そして決意した。

 

 

 友奈を元に戻したかったら、天の神を何とかしなければならない。だから望乃は情報を集めて勇者部に渡そうと思っていた。なぜなら、世界を守るのは勇者の仕事だからだ。

 小木曽望乃は勇者ではない。それが世界の事実。周りの誰がそれを否定しても、その事実が覆ることはあり得ない。だから小木曽望乃が世界を守るなんてことはあってはならない。

 

 ――勇者じゃない私が関わっていいわけがない。今のこの世界は勇者が必死に守ってきた世界だ。私のような部外者が余計なことをしていいわけがない。それはわかってるけど、私はもう迷わない。

 

 望乃は走りながら自分の手を見つめる。

 

「……夏凜ちゃんに怒られちゃうかな?」

 

 望乃はもう、世界のことも勇者のこともどうでもよくなっていた。

 望乃には世界を守ることはできない。だからと言って諦めることもできない。望乃は自分のできる範囲でたった一つを守ることを決めた。

 大切な友達の――友奈の笑顔を守る、と。




 前作の話の『力になりたい気持ち』の裏側みたいな話になりました。

 そこの話、自分で読んで望乃の心情よく分からないなと思った結果、付け加えました。過去の話の補足ができるのいいなって思いました。
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