小木曽望乃は勇者である?~大満開の章~   作:桃の山

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 とてつもなく早いくめゆ組の再登場。一時終わりとは何だったんでしょう。


最終作戦

 珍しく雪が積もり、亜耶と並んで歩いていた雀ははしゃいでいた。

 

「さむーい。でも雪だー!」

 

「これも神樹様のお恵みですね」

 

「雪にはしゃぐ下級生。風情ですわ」

 

 夕海子は雪の中でアフタヌーンティーを嗜んでいた。しかしカップを持つその手は明らかに震えていた。

 

「それ、修行か何か?」

 

「アルフレッドが入れた紅茶は格別ですわ」

 

「雪の中で食べるうどんも格別だよ~」

 

 紅茶を嗜む夕海子の隣で望乃がうどんを啜っていた。

 

「隣でうどんを啜られると、風情が台無しですわ。望乃さんも一杯、どうです?」

 

「私はうどんのつゆがあるから大丈夫だよ~」

 

「全くの別物ですわ!」

 

「ずっと思ってたんだけど、望乃ちゃん寒くないの?」

 

「? 何のこと?」

 

「何のって、こんな寒いのに望乃ちゃんが着てる服、訓練用の服じゃん! しかも私の!」

 

「でも他には最初に着てた服しかないよ」

 

「ああ、あの制服?」

 

 望乃が元々着ていた服は讃州中学の制服だった。そして今は他に服を持っていないため、雀の訓練用の服を着ているのである。

 

「うん、だからこれを着てるんだ~」

 

「望乃先輩、お洋服を買いに行こうと誘っても、悪いからいいって来てくれないんです」

 

「え、何で?」

 

「だって、私のためにわざわざ服を買うなんて悪いよ~」

 

「でも寒くないの?」

 

「うん! うどんを食べてるからあまり寒くないよ~。うどんがあれば寒さなんてへっちゃらだよ~」

 

「うどんはそんなに万能じゃないよ!」

 

「なるほど! 望乃先輩は寒さに強いんですね!」

 

「強すぎない?」

 

 そこにしずくがやって来る。

 

「みんな、集合ー!」

 

「え? 集合? 最近なかったのに……」

 

「また外の調査でしょう。上等ですわ」

 

 そこに芽吹もやって来る。

 

「急ぎなさい。あの神官が来ているの」

 

「え!」

 

 芽吹のその言葉に雀と夕海子が青ざめ、紅茶を飲んでいた夕海子は咳き込んでしまう。

 

「あ、あの人が来たってことは……何か起こるの?」

 

「とにかく急ぎなさい」

 

「あ、うん」

 

 芽吹に急かされて、芽吹の後について行く。

 

「いってらっしゃ~い。あとで教えてね~」

 

「望乃、こんな雪の中で待つつもり? 風邪をひくわよ」

 

「うどんがあるから大丈夫だよ~」

 

 望乃がそう言いながら丼を掲げる。

 

「どう見ても入ってないじゃない」

 

「全部食べちゃった。でも大丈夫だよ」

 

「大丈夫って……」

 

「望乃先輩」

 

 亜耶が望乃の名前を呼んで近付く。そして望乃に自身が着ていたコートを掛ける。

 

「これで寒くありませんよね?」

 

「あ……」

 

「亜耶は寒くないの?」

 

「寒いです。だから早く行きましょう」

 

「わかったわ」

 

「亜耶ちゃん、ありがとね~」

 

 望乃は体を震わせながら歩く亜耶に大きく手を振った。亜耶はそんな望乃の方を一目見てからぺこりと頭を下げた。

 芽吹たちを見送った望乃は、亜耶に借りたコートに袖を通して空を眺めて、一人で呟いた。

 

「……このタイミングで、何の話なんだろ。もしかして、神樹様の寿命のことかな」

 

 

 芽吹たちが向かった先には既に神官と防人部隊が揃っていた。神官は全員が揃ったことを確認すると、その内容を口にした。

 その内容とは、次の任務が戦闘任務だということだった。

 

「戦闘任務?」

 

「えぇ……何? 何?」

 

「壁の外の調査ではなくて、ですか? 私たちに一体何をやらせようと……」

 

「神事である」

 

「怖い怖い……」

 

「戦闘任務だなんて、私たち防人に、神と戦う手段があると言うんですか?」

 

「今までなかったのに……?」

 

「詳細は追って通達されます。防人部隊は最終作戦において、正規勇者たちの援護にあたる」

 

 神官のその言葉に防人たちは動揺を隠せなかった。その中で言葉を発したのは、芽吹だった。

 

「今の話、もっと具体的にお願いします」

 

 しかし神官は同じようなことを言うだけで、具体的なことは一切言わなかった。

 

「勇者様に関連したお役目なんてとても光栄です」

 

 亜耶は嬉しそうにそう言う。

 

「怖いよ怖すぎるよ。何させられるのーーー」

 

「いいじゃねぇか。調査ばっかで退屈してたんだ」

 

 いつのまにか変わっていたシズクがそう言った。

 

「弥勒の名を上げる大チャンスですわ!」

 

「助けてメブー!」

 

 その間、芽吹はあることを考えていた。

 

 

 神官の話が終わった芽吹たちは、望乃の元へと戻ってきた。望乃は亜耶にコートを返して、話の内容を聞いた。

 

「なるほどね~。戦闘任務か~」

 

「望乃ちゃーん! 怖いよー! 助けてー!」

 

 雀が望乃の腕に抱き付く。

 

「何言ってんだ! 腕がなるじゃねぇか!」

 

「シズクちゃんの言う通り、きっと何とかなるよ。雀ちゃん」

 

「そんなこと一言も言ってないよー」

 

「望乃先輩、勇者様に関連したお役目ということは、望乃先輩も勇者様たちに再会することができるんですよね?」

 

「……そうだね。でも会うべきじゃないと思う」

 

「なぜですか?」

 

「そんなことをしたら、任務どころじゃなくなっちゃうからね」

 

「それはそうかもしれませんけど……」

 

「それよりも、その戦闘任務って具体的にはどうするの?」

 

 望乃は芽吹にそう聞くが、芽吹は首を横に振った。

 

「具体的なことは全くわからないわ」

 

「それに、最終作戦とも言っていましたわ」

 

「……なるほどね。そろそろだと思ったんだよ」

 

「え? 今のだけでわかったの?」

 

「少しだけね」

 

「そのわかったことって?」

 

「もう神樹様に時間がないってことだよ」

 

「時間?」

 

「神樹様の寿命が尽きようとしているって言ってたよね? それで今回、最終作戦って言ってるってことはそういうことなんじゃないのかな?」

 

「確かに、言われてみればそうですわね」

 

「でも、それで何をするの?」

 

「それは私もわからないよ」

 

「そ、そうだよね……」

 

「望乃、ちょっといい?」

 

 芽吹がそう言って望乃を連れ出す。他の四人には来ないように告げて場所を離した。

 

「どうしたの? 芽吹ちゃん」

 

「聞きたいことがあるのよ」

 

「聞きたいこと?」

 

「奉火祭はどうなったの?」

 

「あっ、そういえば芽吹ちゃんに言ってなかったね。ごめんね」

 

「それは構わないわ。それで?」

 

「奉火祭はね、結局行われなかったんだ。生贄に選ばれた美森ちゃんが、勇者のみんなに助けられたから」

 

「つまり、天の神の力を鎮めることはできていないということね」

 

「そういうことだね。それなのに、神樹様の寿命は尽きそうになってる。だから大赦は相当焦ってるんじゃないかな」

 

「それが今回の任務」

 

「うん。大赦も神樹様のために必死なんだと思う。それがどんなことかはわからないけど、大規模なことをやるんだと思う。勇者を使うくらいだからね。危険なものになる可能性が高いと思う」

 

「大規模なこと……」

 

「それが何かはわからない。神樹様も、大赦も、何を考えてるのかよくわからないから」

 

「本当に、ふざけているわね。そのために私たちが危険な目に合わなければいけない。何が神よ。私はそんなもののために戦うつもりはない。望乃もそう思うでしょ?」

 

「……うん、私もそう思うよ」

 

「私はもう一度神官に話を聞いて来るわ。望乃は他のみんなと一緒にいて!」

 

「わかったよ」

 

 そうして、芽吹はその場を去って行った。残された望乃が他の四人の元に戻ると、詰め寄られた。

 

「望乃ちゃん、メブは?」

 

「芽吹ちゃんは大赦の人ともう一度話してくるって」

 

「あの神官と?」

 

「それで、楠と何を話してたんだよ」

 

「えっとね、今日はうどんがおいしい日だなって」

 

「絶対ウソじゃん!」

 

「誤魔化し方が下手すぎですわ!」

 

 望乃は咄嗟に出した誤魔化しがあっさりバレて、ポリポリと頬を掻く。

 

「あんまり不安にさせたくなかったから言いたくなかったんだけど、今回の任務はものすごく危険なものになるかもしれない。最終作戦って言うくらいだし、何があるかわからないから」

 

「何だよ、そんなことか。危険でもやってやるよ」

 

「上等ですわ」

 

 シズクと夕海子は自身に満ち溢れた態度だった。しかし雀は望乃の話を聞いて、顔を青ざめていた。

 

「今まででも何とか生きて来られたのに、危険だなんて……今度こそ本当に死んじゃうー!」

 

「大丈夫だよ、雀ちゃん。私がみんなを必ず守ってみせるから。小木曽望乃の名に懸けてね」

 

「自分の名に懸けるのはおかしくありません?」

 

「えへへ~。一度言ってみたかったんだ~」

 

「え……えっと……守ってくれるのは嬉しいんだけど、望乃ちゃん一人でやってほしいわけじゃないよ」

 

「へ?」

 

 雀の予想外の言葉に、望乃が目を丸くする。

 

「私、すっごく怖いんだけど、望乃ちゃんにも傷付いてほしくないの。みんなで一緒に帰りたいの。だから望乃ちゃん、いなくなったりしないでよ!」

 

「……雀ちゃん」

 

「その通りだな。小木曽は前科もあるし、もう少し頼れって話だ」

 

「その通りですわ。一人で抱え込む必要なんてありませんわ」

 

「望乃先輩。みなさんとずっと一緒にいたいです。きっと、芽吹先輩も同じ気持ちですよ」

 

「みんな……」

 

 望乃はその言葉を聞いて、一度大きく深呼吸をしてから笑みを浮かべた。

 

「うん。……わかってるよ」

 

 

 芽吹は神官に今回のお役目と奉火祭が関係あるのか聞いた。神官は芽吹が奉火祭のことを覚えていたことに驚いていたが、関係がないことを告げた。続いて天の神と関係があるのか聞いたが神官はそれには答えず、指示が来るまで鍛錬を積むようにとだけ言って去って行った。

 その場に残された芽吹は拳を強く握りしめた。

 

「私に、何かできないの?」

 

 望乃曰く、今回の任務は相当危険なものに可能性が高い。

 そうだとしたら、芽吹には一つ確信があった。

 それは、望乃がまた自分一人で何とかしようとしてしまうということだった。自分達を守るために望乃が、自分が傷付く選択をするということだった。

 それは誰も望んでいない。しかし望乃はそれでも迷わずにそうするだろう。

 

「……神樹様のために戦えって言うの?」

 

 望乃はまだ芽吹たちに隠していることがあると言っていた。それはおそらく、神樹様によって言えなくされている。そして望乃はそのせいで苦しんでいる。芽吹はそのことに憤りを覚えずにはいられなかった。

 

「私たちを苦しめて何が楽しいの? いくら神でもやって良いことと悪いことがあるわ」

 

 芽吹はその怒りに満ちた言葉をいくら言ったところで神樹様に届かないことはわかっていた。こんなことを言ったところで何にもならないことも。

 苦しんでいる望乃をなんとかしたい、そう思っていても自分には何もできない。それでも芽吹は、望乃を救いたいと思っていたのだった。

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