壁の外を船で移動していた芽吹たち防人は、トラブルが起こることなく終えて、安心していた。
「楠、船体に異常なし……」
「御神木も元気です。本当に寿命が近いんでしょうか?」
「あくまで推測だからね~」
「でも、トラブルなくて良かったー」
「私の活躍あってこそですわ!」
そこで芽吹が見た視線の先には、赤い勇者服を身に纏った三好夏凜が立っていた。それに気付いた芽吹は、望乃に視線を送る。
夏凜の位置から死角の位置にいた望乃は、その視線で夏凜の存在に気付く。そして望乃はその視線に対し、困った顔で首を横に振った。それは、夏凜に会わないという意思表示だった。芽吹は、夏凜と仲が良く、突然別れることになった望乃が夏凜と会わない理由がわからなかったが、望乃が行かないのならとゆっくりと夏凜の方に歩いて行った。
「あれ、三好さんだよね? 会わなくていいの?」
雀が夏凜にばれないように隠れている望乃に小声で話しかける。
「うん、まあね」
「三好さんって、望乃先輩の大切な方ですよね? 隠れていてはいけませんよ」
「……私ね、夏凜ちゃんに会っちゃったらどうなるかわかってるの。私は、夏凜ちゃんに会ったらダメなんだよ」
「そんなことないですよ」
「そんなことあるんだよ。それだけは確信してるんだよ」
「望乃先輩……」
亜耶たちは望乃がここまで頑なに会おうとしないことに疑問を持っていた。望乃と夏凜の間に一体何があったのか気になっていたが、それを聞いてもいいのかがわからなかった。
一方芽吹は、夏凜の前までやってきていた。先に口を開いたのは夏凜だった。
「ひ、久しぶりね。く、楠、さん」
「そうね。三好さん」
「えと……あれ以来、よね?」
「そうね。社での、勇者選別以来ね」
「元気そうね。あんたも、その……」
「私は、私たちは勇者じゃなくて防人なの」
「防人? そうなんだ……」
「やっぱり知らないのね。防人」
「うん」
――勇者も私たちと同じように何も知らされてない。望乃も前に言ってたわね。
「えっと……船、すごいわね」
「ええ、あれで調査してきたのよ」
「調査って?」
二人を遠くから見ていたしずくが口を開く。
「何を話してるんだろう……」
「お役目についてでしょうか?」
「勇者の服って私たちとは全然違うんだね」
「ゴージャスですわ。私に似合いそう」
「勇者の服は一人ひとりデザインが違うから、勇者みんながあの夏凜ちゃんの服を着てるわけじゃないよ」
「何それ? ずるくない?」
芽吹が夏凜に質問をする。
「三好さんはここで何をしていたの? お役目かと思ったけど」
「わ、私はその……」
「防人には答えられない?」
「ち、違う違う。見回りよ」
「見回り?」
「そう……見回り」
「……三好さんってそんな態度だった? の……小木曽さんがいなかったらそんな感じなの?」
「望乃……そうね」
「小木曽さんのこと、聞いたわ」
「え?」
「彼女が精霊だったことも、彼女がやったことも」
「……そう」
「小木曽さんのことで辛くても……」
「違うわ。辛いのは私じゃない。望乃よ。望乃は、いつも自分で決めて、自分を犠牲にして誰かを救おうとしてて……それなのに、私叩いちゃったのよ。喧嘩しちゃったのよ」
「喧嘩……」
――喧嘩して、その状態のまま望乃は消えてしまった。そういうわけね。それで望乃が三好さんと会いづらかったのね。
「それで落ち込んでいるの? 三好さんは勇者なのよね?」
「うん、一応」
「一応?」
「勇者って言えるのかなって……」
「三好夏凜!」
芽吹が夏凜に向かって銃を放つ。
「ちょっ! 何よあんた!」
「それはこっちの台詞だ!」
芽吹はそう言って苛立ちを露わにしながら夏凜に攻撃していく。夏凜は戸惑いながらその攻撃を防いでいた。
「喧嘩はいけませんよ、芽吹先輩」
「待って……」
亜耶がそう言って駆け寄ろうとするが、それをしずくが制止する。
「あれは会話です。令嬢である私にはわかりますわ」
「え? 殺し合いじゃないの?」
「流石芽吹ちゃんだね。小木曽望乃を除いたら夏凜ちゃんの本音を引き出せるのは芽吹ちゃんくらいだと思ってたんだよ」
「あれで引き出せるの?」
「うん。だって夏凜ちゃんは、ツンデレだからね」
「ツンデレとは何なのでしょう?」
「えっとね、素直じゃない子がたまに素直になったりするみたいな感じだよ」
「違う気がしますわ」
「そうなんですね。勉強になります」
「あぁ……あややが余計な知識を身につけちゃったよ……。メブに怒られないかな……」
芽吹と夏凜の戦闘はまだ続く。芽吹が夏凜を倒し、顔の横に銃剣の剣を突き刺す。
「あなたはちゃんと顔を上げて、しっかり前を向いてなさいよ!」
「くっ……」
「不敵で、自信満々でいなさいよ。強くて堂々としていなさいよ。そんなしょぼくれた顔を……するな! そんな顔をするなら、勇者なんて……やめてしまえー!」
夏凜が刀を振り、それを避けた芽吹が大きく距離を離す。
「友達が、大変なことになってんのよ! 何とかしないといけないの!」
「友達?」
「そうよ。大事な友達! それを知らずに、何を好き放題。勇者だって落ち込むことはあるのよ! 理不尽に苦しめられて。勇者だからああしろこうしろって。勇者だって一生懸命やってきてんのよ! それこそ旧世紀の終わりからいっぱいいっぱいでやってきたのよ!」
「じゃあ、その友達のことは諦めるの?」
「諦められるか!」
「そんなしょぼくれた顔で助けることができるの?」
「だから、何が起こってるかも知らないで!」
芽吹が殴り掛かる夏凜の腕を掴み、一本背負いを決める。
「確かに、私は詳しい事情は知らない。でも、わかってることが一つだけあるわ。泣きそうな顔をしているだけじゃ、悩みは解決しない! 私にだって、救いたい子がいる。その子は私の気持ちも知らないで、一人で守ろうとしてる。救いたい、そうは思うけど私に何ができるのかなんてわからない! それでも私は諦めない! 絶対にあの子を救ってみせる! その方法を必ず見つけ出してみせる! それと同じじゃないの? 本当に何ともならないの? 今まで、全部、何とかしてきたんじゃないの? 奉火祭だって、そうだったんでしょ?」
「…………そうよ。なせば大抵なんとかなるのよ。奉火祭じゃ、記憶まで書き替えられた」
「それでも何とかしたんでしょ?」
「ええ。私たちが気付かなかったら、偽の記憶のままだった。でも何とかした! だから今度も……何とかやるってんのよ! 私は……完成型勇者、三好夏凜だ!」
「そうよ。それでこそあなたよ、夏凜」
「芽吹……」
その二人に光が差し込む。
「夜が明けちゃったじゃない」
「そうね」
「元気出たわ。ありがとう」
「いいわ。私もすっきりした」
「なんか、芽吹だと好き放題言えた」
「私も、夏凜なら何でも言えた。知らなかったわ」
「でもいきなり撃つ?」
「う……ちゃんと外してるわよ」
「そういえば、さっき芽吹が言ってた救いたい子ってなんか望乃に似てるわね」
「……」
夏凜にそう言われた夏凜は少し頭を悩ませた。
芽吹が頭を悩ませた理由は、夏凜に望乃が生きていることを伝えるかというところだった。夏凜は望乃がいなくなった世界でもしっかり生きていた。そんな夏凜に望乃が生きている事実を伝えた方が良いと芽吹は思っていた。
しかし、それは望乃から伝えるべきだということと、望乃が拒否していたこともあって、芽吹はそれを断念することにした。
「芽吹? どうしたのよ?」
「何でもないわ。そうね。よく似ていると思うわ」
「そうなのね。なら、救いたいって言うのもわかる気がするわ」
芽吹は夏凜がそう言ったのは、望乃のことを救えなかったからだと思った。
芽吹と夏凜が笑みを浮かべる。
「私、行くわ」
「負けないで。私も負けないから。絶対に」
「ありがとう。負けないから」
「全部解決したら、また会いましょう。あなたには、是非会ってほしい人がいるから」
夏凜が後ろを振り返る。やはり望乃はそこから見えないようにしていた。
「防人の仲間たちね。あの中に芽吹が救いたい子もいるの?」
「……あの中にはいないわ」
「私も会ってみたいわ。芽吹がそうまで言う子。そして私も紹介したいわ。私の友達をね」
――必ず、望乃と友奈を何とかしてみせる!
夏凜はその決意を胸に秘めてその場を去って行った。
夏凜は友奈に謝り、望乃を連れ戻すことを決めた。そしてどんなことがあっても動じないことを心に決めるが、学校に登校してすぐに友奈が神樹様と結婚することを聞き、動じたのだった。
時は戻り、夏凜と別れた芽吹は防人の元へと戻る。
「さあ、帰るわよ」
「雀ちゃ~ん。帰るって~」
望乃がうとうとしている雀を起こす。
「望乃、本当に良かったの?」
「え? 何が?」
「夏凜に会わなくて」
「あれ? 芽吹ちゃん、夏凜ちゃんの呼び方変わってる~! 仲良くなったんだね~」
「そんなことはどうでもいいわ。それでどうなの?」
「えっとね、やっぱり会わない方がいいと思う」
「芽吹先輩、望乃先輩がここまで会おうとしない理由ってわかりますか?」
「ええ、さっきの夏凜との会話でわかったと思うわ。望乃と夏凜は最後に喧嘩をして別れてしまった。だから会いづらいんじゃないの?」
「……うん、よくわかったね」
「そうだったんですね。それなら早く仲直りしましょう」
「うん、でも今はその時じゃないと思う。全部が終わってから、会いに行こうと思ってるから、大丈夫だよ」
「それなら、全部解決したら会う約束をしているからその時に会えばいいわ」
「……うん、そうだね」
――そのためにも、望乃を必ず救ってみせるわ!
芽吹はその決意を胸に秘めて、防人と一緒に帰ったのだった。
まさか九話が三話構成になるとは思いませんでした。