芽吹たち防人はゴールドタワーに集まり、最終作戦の確認を行っていた。その場には神官がいたため、望乃は来ていなかった。
「もう一度確認する。今回、私たちのお役目は神婚を成立させるために、敵を妨害すること」
「はい。その神婚って何ですか?」
雀が手を上げて質問する。
「私もわからないわ」
芽吹が神官に目を向け、神官は神婚について話す。
「神婚について、あなた達は気にする必要はありません。お役目は敵の妨害です。そちらに専念を」
「この千景殿には、敵を迎撃するための機能が付いている。大人数の神官、巫女の力、そして亜耶の力によって、神樹様の力を千景殿へと集める。そうして集約したエネルギーを千景砲として、やってきた敵に当てる。威力は絶大だけど、使えるのは一回。失敗はできないわ。これが今回のお役目」
「よくわからない……」
しずくが首を横に振る。
「その、敵の迎撃って、ここまで敵が来るっていうことなの?」
「敵はバーテックスなんですの?」
「ゆ、勇者様達と合流はするの?」
「私に知らされたのは、千景砲の機能だけ。みんな、奉火祭の時も、今回の神婚も、私たちは大事なことを何一つ知らされていない。私たちは、防人は、大赦にとってそういう存在なのよ」
「それは近いうちに――」
「近いうち? それはいつなのかな?」
「え? 何で?」
「なぜあなたが!」
ゆっくりとした歩調でその場に現れた望乃に、神官を含めた全員が驚きを隠せなかった。
「それって、人の敗北が決まった時? それとも神婚が成立した時? まあ、どっちにしても、全部が終わった後なんだろうね」
「こ、小木曽望乃……。なぜあなたがここに――」
「ため口?」
「ひっ! 申し訳ありません。望乃様」
望乃の眼光に、神官は怯えて敬語になっていた。
「それより望乃。あなたなぜここに? 神官には会わないんじゃなかったの?」
「望乃様にそんな口を――」
「芽吹ちゃんたちはお友達だからいいんだよ。黙っててくれないかな?」
「し、失礼しました」
「それでえっとね、何でここに来たのかはね、もう大丈夫だからだよ」
「大丈夫?」
「うん。もう私を利用できないところまできたからさ」
「利用? 監視下に置かれるという話ではなかったの?」
「うん。それもあったけど、大赦は私という存在を知ったら利用すると思ったんだ。だから隠しておきたかったんだよ」
「利用って例えば?」
「ん~とね、例えば……思いつかないな。でも絶対利用したはずだよ。それとね、私がここに来た理由は、もう一つあるんだ。きっと大赦の人はみんなに何も教えないと思ったから、代わりに私が教えようかなって」
「望乃ちゃん、今回の作戦のこと、知ってるの?」
「そうだよ。芽吹ちゃんには言ったんだけど、今の私は神樹様が知ってる情報を知れるんだよ。まあ、全部じゃないんだけどね」
「ありえません! 精霊にそんな力はありません!」
「あなたたちが知らないだけじゃないのかな? それとも、私が嘘を言ってる証拠でもあるのかな?」
「……望乃様。少しこちらへ」
神官はそう言って、望乃を連れて行ってしまった。
それから数分経っても戻ってこない望乃を見て、芽吹が動いた。
「ちょっと、様子を見てくるわ」
そう言って芽吹は望乃が連れて行かれた方向に向かって行った。
その数分前。神官に連れて来られた望乃は、予想通りと言わんばかりの表情をしていた。
「望乃様。なぜ来てもらったかわかりますか?」
「みんなに全部話さないようにするためでしょ?」
「そうです。あなたがどこまで知っているのかはわかりませんが……」
「ほとんどのことはわかってると思うよ。例えば、今神樹様の寿命が尽きそうになってて、その対策が神婚。そして神婚が成立したら、人は神の一族になれるっていうこととかね」
「やはり知っていましたか」
「防人のみんなには知られたくないんでしょ? みんなにだって選択の権利くらいあってもいいのに」
「今は知る必要がないだけです」
「ならいつ知ればいいの? いつ考えればいいの? 神婚が成立しなくて人類の全滅がわかった時? 神婚が成立して神の一族になれた時? そんなのおかしいよ。考える時間もないなんて。知った時に後悔することしかできないなんて」
「神の一族になれることは喜ばしいことです」
「それはあなたたちの意見でしょ? 私はみんなにも考えてほしい。これからの未来のことを」
「……我々にあなたを止める術はありません。ですが、神の一族になれることは伏せておいて頂きたいのです。これは彼女たちが簡単に知って良いものではありませんから」
「そうだね。正直私も、それを言った時の答えは聞きたくなかったんだ。みんなが、芽吹ちゃんがどう答えるか、なんとなくわかるからさ。でも、作戦中は保証できないよ」
「……望乃様」
戻ろうとした望乃に神官が声を掛けた。
「まだ何かあるのかな?」
「もう一つ、あなたは何者なのですか?」
「何者って、私は小木曽望乃だよ」
「それはありえません。なぜなら――」
「勇者のところにもう一人の小木曽望乃がいるから?」
「! そのことも知っているのですか?」
「まあね。あなたはこう言いたいんだよね? 勇者のところに小木曽望乃がいる。だから私は小木曽望乃じゃない別の何かだって」
「そうです」
「こうは考えられない? 私が本物で、勇者のところにいる小木曽望乃が偽物って」
「そうなのですか?」
「さあ、どうだろうね」
望乃はそう言って芽吹たちのところに戻ろうとするが、近くで会話を聞いていたであろう芽吹と目が合った。
「芽吹ちゃん?」
「……望乃、どういうこと?」
会話を全て聞かれたと思った望乃が、困ったように頬をポリポリと掻く。
「望乃、もう一人の小木曽望乃ってどういうことよ!」
「……最初に出てくる疑問がそれなら大丈夫かな」
望乃は芽吹が神婚のことを聞いていないと考えた。事実、芽吹はもう一人の望乃の部分からしか聞いていなかった。
「答えて!」
「簡単なことだよ。小木曽望乃は二人いる。ただそれだけのことだよ」
「だから――」
「早く戻りましょう」
さらに問い詰めようとした芽吹だったが、神官に戻るように言われ、その機会を与えられなかった。
芽吹にはわかっていた。たとえ神官が現れずに問い詰めたとしても、望乃がはぐらかしていただろう、ということが。
――大赦も、望乃も、肝心なことは何も言わない。何をそんなに隠していると言うの?
防人たちの元に戻ってきた望乃と芽吹はその前に立ち、望乃が口を開く。
「話したいことがあるんだけど、その前に聞きたいこととかあるなら、答えるよ。全部に答えられるかはわからないけど」
「神婚って何かわかる?」
「ああ、やっぱり気になっちゃうよね? 実は今私が言った、話したいこともその神婚のことなんだよ」
「どういうものか知っているんですか?」
「うん、神樹様からの情報でね。神婚っていうのはね、神樹様と人が結婚することだよ」
「け、結婚!?」
「うん。神樹様の寿命が尽きようとしてる。それは言ったよね? 神樹様が枯れちゃったら、外の炎から守る結界がなくなって、この世界は炎に飲まれ消えてしまう。人類を全滅させないための方法、それが神婚」
「ぜ……全滅って……。じゃ、じゃあ、生きるには、その神婚を成立させるしかないってこと?」
「まあ、そういうことになるかな。その神婚を成立させるには、敵の妨害を防がないといけないの」
「敵というのは、バーテックスのことですの?」
「違うよ。敵というのは天の神のことだよ」
「天の神!?」
「神様と戦うの!?」
望乃の発言に、防人たちは驚きと怯えを隠せていなかった。
「まあ、天の神と正面から戦うわけじゃないと思うから」
「じゃ、じゃあ、勇者様は?」
「勇者は前線に立って天の神と戦う。そして防人がその援護の予定だよ。でも、そうはならないかもしれない」
「どういうこと?」
「だって、勇者は神婚を阻止しようとするだろうからね」
「な、何で? 神婚が成立しないと、人類は全滅するんでしょ?」
「神婚の相手として選ばれたのは勇者の一人、結城友奈ちゃん。そして神婚をした人は死ぬんだよ。つまり、一人を犠牲にして人類の全滅を防ぐか、その一人のために人類を全滅させるかってことだよ」
「それっておかしくありません? その一人を助けても結局人類が全滅するのでしたら、意味がありませんわ」
「そこのところは私にはわからないな。それで大赦と神樹様は世界の安寧を確かなものにするために友奈ちゃんを犠牲にすることにした。そうだよね?」
「はい。これは仕方のない犠牲なのです」
「……仕方がない、か。そんな言葉で納得できるなら苦労なんてしないよ」
望乃は一度深呼吸をしてからもう一度口を開く。
「私が大赦が隠してたこの話をしたのはね、みんなに選択してほしかったからなんだ」
「選択?」
「二つの選択。どちらを選択するかはみんなの自由だから」
「でも、神婚が成立しないと死ぬんでしょ?」
「……うん、せっかくだから言っておこうかな。実はね、三つ目の選択肢があるんだ。それはね、神婚が成立しなくても誰も死なない夢のような選択肢」
「そんな方法があるわけ――」
「黙っててくれないかな」
「っ!」
神官は望乃にそう言われて口を閉ざした。
「たとえ勇者が神婚を阻止しても、私が何とかする。だからどちらを選んでも大丈夫だよ」
「……望乃」
「ん? どうしたの? 芽吹ちゃん」
「あなたが言っているその方法をした場合、あなたはどうなるの? 私たちの元に帰って来られるの?」
「……」
望乃は芽吹の問いには答えなかった。芽吹はその沈黙で答えを理解した。
「望乃、その選択肢は外して。私は、望乃が犠牲になる選択は認めない」
「犠牲になるわけじゃないよ」
「帰って来られないなら同じことよ。私は望乃を救うって決めてるのよ。だからそんなことは絶対にさせない」
「救う?」
「小木曽は、一人で抱え込み過ぎ……」
「望乃先輩。私たちではお力にはなれないかもしれませんけど、話を聞くことはできますから。一人で抱え込まないでください」
「しずくちゃん……。亜耶ちゃん」
雀と夕海子もウンと頷く。それを見た望乃は芽吹の方を向いた。
「芽吹ちゃん。私を救ってくれるの?」
「当然よ」
即答した芽吹に、望乃は小さく笑みを浮かべた。
「そっか。うん、楽しみにしてるよ」
芽吹は防人に向き直して言った。
「私はみんなが大事よ。短い間だったけど、一緒に暮らして、一緒に戦って、大事になった。私は、みんなが頑張ったことを知っている。絶対に忘れない!」
その時、大きな地震に襲われた。
「敵が来たみたいだね」
「予測よりも早い」
「緊急事態! 総員、配置に就け!」
芽吹が防人に指示を出している中で、望乃は外を眺める。空が暗くなり、無数の穴が空いていた。
望乃はその光景を見て、ゆっくり目を閉じた。
――最後の時が来たみたいだね。みんなにはちゃんと考えて選択してほしかったんだけど。みんなには、私と違ってその権利があるから。私には選ぶことはできない。だって私の選択肢は初めから一つしかないんだから。私が生まれたその日から、私の結末は一つしかなかったんだから。
友奈のキャラソンの『FOLLOW TOMORROW ME』の歌詞が望乃のイメージに合っててよく聞いてます。友奈と望乃って結構似てるのかな?