小木曽望乃は勇者である?~大満開の章~   作:桃の山

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 前半は前作の『私の居場所』の裏側みたいな感じです。
 完結した後に思いついて書けなかったのですが、三期をやると決めた時にこれも書こうと思っていました。

 本編にあった臨時休校は、都合が悪いのでなかったことにしました。


一緒に過ごした記憶

 長い長い戦いが終わりました。私たちの一旦終わっていた日常が、戻ってくる。でも、昨日までと今日からはきっと違っていて、それはまだ不安で……。

 友奈がそんなことを考えていると、部屋に東郷がノックをして入ってくる。

 

「東郷さん」

 

「大丈夫?」

 

「うん。体は平気みたい」

 

「友奈ちゃん……学校行ける?」

 

「うん!」

 

 こうして、友奈たちに日常が戻ってきた。しかし、学校に行った勇者部の面々は何かが足りない気がしてならなかった。

 望乃の記憶をなくした勇者部が望乃と会うのは、この翌日のことである。

 

 

 休みの日に押し花を作るための花を摘んでいた友奈は、その帰りに何をするでもなく座っている小学生くらいの少女を見つけた。

 

「あれ? どうしたの?」

 

 友奈が少女にそう聞くと、その子はどうやら帰る場所がないとのことだった。友奈にはその少女がどういう事情なのかはわからなかったけど、自分の家に泊まることを提案し、その子もそれを受け入れた。

それから二人は友奈の家に着くまで花に関する話をしていた。

 友奈は望乃が家に泊まる許可を得て、望乃も交えてご飯を食べた。望乃の食べっぷりに少し驚いたが、なぜか前にも見たことがある気がした。ご飯を食べ終わってから、望乃が一緒にお風呂に入ろうと言ってきた。友奈はそれを受け入れ、二人で一緒に入った。

 それから友奈は、望乃が讃州中学に転校することを聞いて、学校のことを教えることにした。

 友奈は望乃に勇者部のことを教え、興味を持っていた望乃は翌日見学することにした。 

 そうして、もう夜も遅くなってきていたので二人は寝ることにした。友奈と望乃は友奈のベッドで背中合わせになって眠った。 

 

 

 翌朝。友奈が目を覚ますと、隣で寝ていた望乃はいなくなっていた。机の上に手紙が置いてあった。

 

『放課後くらいに勇者部に行くよ。』

 

 手紙には一文だけ書かれていた。望乃は既に出て行ってしまったようだった。

 友奈は制服に着替える際、スカートのポケットに何か入っていた。

 

「あっ! これ望乃ちゃんに聞くの忘れてた」

 

 スカートのポケットから取り出したのは先日なぜか握っていたヘアピン。それを目にした瞬間、突然失っていた記憶を思い出した。望乃と過ごした記憶の全てを。

 

「みんなにも……教えなきゃ!」

 

 友奈は急いで学校に行く準備を済ませる。

 

「何を慌ててるの? 友奈ちゃん」

 

 そこに現れたのは東郷だった。

 

「あっ、東郷さん!」

 

「待って、友奈ちゃん。もしかして、昨日誰か来てた?」

 

「うん。それで――」

 

「友奈ちゃん。知らない人を部屋にいれたりしたらダメよ。何かあってからじゃ遅いのよ」

 

「大丈夫だよ! だって、望乃ちゃんだもん!」

 

「望乃、ちゃん? そういえば、昨日会った子の名前が……。まさか友奈ちゃんを狙って?」

 

「やっぱり、覚えてない……。えっと、これを見ても思い出せないかな?」

 

 友奈はそう言ってポケットからヘアピンを取り出す。

 東郷はそれを見た瞬間固まり、口元に手を当てる。

 

「私は何で、忘れていたの? 大切な友達のことを……」

 

「わからないよ……。でも、きっとこの望乃ちゃんのヘアピンが思い出させてくれるんだよ! だから、早くみんなにも思い出してもらおう!」

 

「そうね、友奈ちゃん」

 

 そうして二人は家を飛び出し、学校の校門前で園子と会う。

 

「わっしー、ゆーゆ、おはよ~。それで、話って?」

 

 東郷に連絡を受けた園子が頭にハテナを浮かべる。

 

「園ちゃん! 突然なんだけど、これを見てくれる?」

 

 ヘアピンを見た園子は固まっていた。

 

「……そっか。そういうことだったんだね。私、思い出したんよ。昨日会ったあの子のこと。ううん、コギーのこと」

 

「良かった! 思い出したんだね!」

 

「でも、何で急に思い出したのかしら?」

 

「ゆーゆ、最初にそのヘアピンを見た時は何も思い出さなかったの?」

 

「うん」

 

「私たちもそうだけど、コギーと会って話してからそのヘアピンを見たら思い出した」

 

「つまり、望乃ちゃんの記憶を思い出すには、望乃ちゃんと話してから望乃ちゃん所有物であるヘアピンを見ることが条件だったのね」

 

「そうじゃないかな?」

 

「夏凜ちゃんたちはどうなのかな?」

 

「それは聞いてみるしかないんよ」

 

 そうして三人は教室へ向かう。そこには、既に夏凜が来ていたが、どこか調子が悪いようで、机に突っ伏していた。

 

「夏凜ちゃん、具合悪いの?」

 

「いや、そういうわけじゃないのよ。昨日、変なやつのご飯を食べてからなんか気持ちが落ち着かないっていうか……」

 

「それって望乃ちゃん?」

 

「は? 誰よそれ? そういえば、昨日のやつの名前もそんなだったわね」

 

「良かった!」

 

「良かったって何……が?」

 

 ヘアピンを見た夏凜は、ピタリと固まった後、ガタッと立ち上がった。

 

「何で忘れてんのよ!! 私は!!」

 

「にぼっしー、落ち着いて。ここ、教室だよ」

 

「……そうね。ごめん、少し一人にさせて」

 

 親友のことを忘れてしまっていた。その事実に夏凜はショックを受けていた。友奈にもその気持ちがわかった。友奈も東郷の時に同じ気持ちになったからである。

 

 

 放課後。友奈は勇者部の部室で望乃と会ったことを確認してから、風と樹にもヘアピンを見せた。

 

「望乃のことを忘れてたなんて……」

 

「初めて会った気がしなかったわけです」

 

「それにしても、なぜ私たちは望乃ちゃんのことを忘れていたの?」

 

「それは、神の力の代償だからよ」

 

 ボソリと言った夏凜に全員が注目する。

 

「神の力の代償?」

 

「そんなのがあったの?」

 

「多分、私たちの満開と同じ原理だろうね」

 

「そうよ。望乃が言ってたわ。望乃が神の力を使った時の代償が、望乃の存在を完全に消滅させるというものって言ってたわ」

 

「完全に消滅……それで記憶が」

 

「待ってください。でも望乃さんは生きてましたよ? 完全に消滅するんだったら、望乃さんも生きてないんじゃ……」

 

「あっ! それはね」

 

 友奈は戦いが終わった後の望乃とのやり取りを全て話した。

 

「それで友奈は望乃と手を繋いでいたのね」

 

「はい!」

 

「全く、望乃ちゃんは……。何度も隠し事をして、これはお説教をしないといけないわね」

 

「やりすぎないようにね」

 

 風は少し呆れていたが、東郷を止めることはしなかった。

 

「それでね、みんな! 今日、望乃ちゃんが勇者部を見に来るんだけど、みんなで『おかえり』って言いましょう!」

 

 友奈のその意見に、勇者部は賛成した。しかし夏凜は何も言わずに黙っていた。

 

「夏凜ちゃん? ダメかな?」

 

「ううん、ダメじゃないわ。でもその前に、望乃と二人で話をさせてほしいのよ」

 

「うん! わかったよ!」

 

 勇者部は望乃が来るまで待つことにした。そして望乃がやってきて、ドアに手を掛けたところで夏凜が話しかけた。

 

「何やってんのよ」

 

 その時後ろから声を掛けられた。突然話しかけられ、望乃は非常に驚き、振り返った。

 

「びっくりした~」

 

 望乃に声を掛けたのは夏凜は望乃のことをじっと見ていた。

 

「あっ、えっとね、友奈ちゃんに勇者部のことを聞いて、見学してみようかな~って思ってきたんだけど……」

 

「……友奈から聞いたわ。そんなとこで突っ立ってないで入ったら?」

 

 夏凜が望乃を押しのけて部室のドアを開ける。望乃は夏凜に続いて中に入った。

 

「あれ? 誰もいない」

 

「みんなちょっと用事があって荷物だけ置いてるのよ」

 

「そうなんだ~」

 

 勇者部六箇条を見ていた望乃に、夏凜が話しかける。

 

「それ、ちょっと前までは五箇条だったのよ。でも自分を犠牲にしようとするやつがいたから、もうそんなことをさせないために作ったのよ」

 

「……へ~」

 

「何度言い聞かせてもそいつは相談もせずに自分を犠牲にしようとした。生きたいって思ってるくせに、無理して自分に言い聞かせて、そいつは笑ってた」

 

「え?」

 

「かり……そういえば、あなたの名前、聞いてなかった」

 

「……そうだったわね。私は、人一倍他人を大事にして、自分よりも他人を優先して、のんきで、器用で、何度も抱きついてきて、食べることが大好きで、いつも笑ってる……小木曽望乃の親友、三好夏凜よ!」

 

「え? 何で……私のこと……」

 

「忘れたりしないって言ったでしょ?」

 

「初めて聞いたよ」

 

「そ、そう。まあ、忘れてたのは事実だし……」

 

「それより夏凜ちゃん、何で私のこと覚えてるの? 消えたはずじゃ……」

 

「その前に……あんた、言うことあるんじゃないの?」

 

「言うこと? ……勝手なことしてごめんなさい」

 

「違う」

 

「え、えっと、あっ、た、ただいま?」

 

「何で疑問形なのよ」

 

「うん、ただいま!」

 

 その時部室のドアが開いた。

 

「おかえりー!」

 

 そうして、望乃は勇者部の笑顔に迎えられ、勇者部に帰って来ることができたのだった。

 

 

 芽吹と亜耶は二人で壊れたゴールドタワーを見ていた。

 

「これ、全部直すのかな? プラモみたいにはいかないわよね」

 

「まだ何も決まっていないと思います。大赦も混乱したままです」

 

「結構な人数が消えたのよね?」

 

「あの、それが……消えてはいないのです」

 

「消えてはいない?」

 

「はい。消えたみなさんは突然戻ってきたのです。神樹様が最後の力で戻したのかもしれません」

 

「そうだったのね」

 

「防人のみなさんは?」

 

「待機命令の後の連絡は取り合ってるけど、上からの音沙汰はなし。雀なんか家で震えあがっているよ。アプリもエラーが出て使えなくなってる」

 

「神樹様のお力によって機能していたものは今後使えません」

 

「……そうね」

 

「神樹様が消えたことは本当です」

 

「まさか私たちの代で、こんなことになるなんてね」

 

「祈ることも罰を受けることもできない。私もこれから、どうしたらいいのか」

 

「罰なんて……私は、こう思うの。神がいなくても、それを信じたり思ったりすることはできる。神様に顔向けできる自分でいればいいのよ。そう思えば良くない?」

 

 芽吹はそう言って亜耶の手を握る。

 

「それでも辛いときは、私がいつだって傍にいるから」

 

「芽吹……先輩……」

 

 亜耶が芽吹の手を握り返す。

 

「人間だけで生きろって言うんでしょ? じゃあ頑張ってるところを思い切り見せてやりましょうよ!」

 

 芽吹と亜耶は手を繋いだまま空を見上げた。その時だった。

 

「芽吹ちゃん」

 

 芽吹の名前を呼びながら芽吹と亜耶の前に現れたのは、小学生くらいに見える一人の少女。その少女は記憶にない制服を着て、二人の前まで歩いて来る。芽吹は自分の名前を呼んでいたその少女に見覚えがなかった。

 芽吹は亜耶と繋いでいた手を離して亜耶を庇うようにして立つ。

 

「あれ? もしかして、イチャイチャしてた? ごめんね。芽吹ちゃんと亜耶ちゃんは百合的に最高なのに邪魔しちゃって」

 

「……それよりも、あなたは誰? なぜ私たちの名前を知っているの?」

 

 その少女はニコリと笑う。

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。それと、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。私は二人と争うつもりはないから」

 

「そう言われて大人しく警戒を解くと思っているの?」

 

「まあ、それもそうだね~。でも大丈夫だよ。私はこれをあなたに渡しに来ただけだから」

 

 芽吹は警戒していたにもかかわらず、少女に差し出されたそれをすんなりと受け取ってしまった。まるで、体がその少女を敵と認識していないように。

 

「……手紙?」

 

 芽吹が渡されたそれは封に入った手紙だった。

 

「うん。知らない相手からもらったものを見るのは抵抗があるかもしれないけど、あなたは絶対に読むべきだよ」

 

「絶対に読むべき? 一体何が?」

 

「そこにはね、全ての真実が書かれてるんだよ」

 

「真実? まだ何かあると言うの?」

 

「そこに書かれてるのは、大赦も、勇者も、防人も、誰も知らない真実。だけど、あなたにはそれを知る権利がある。だから私はそれを持ってきたんだ」

 

 その少女は踵を返す。

 

「ちゃんと読んでね! 絶対だよ!」

 

「待って! あなたは、一体何者なの?」

 

 芽吹がそう聞くと、少女は足を止めてゆっくりと振り返る。

 

「私? 私はね……みんながこれからを生きていくうえで、絶対に必要のない存在だよ」

 

 少女は笑みを浮かべてから、トテトテと走り去って行った。

 それを見届けた芽吹が亜耶に目を向けると、亜耶は考え事をしているようだった。

 

「どうしたの?」

 

「百合……」

 

「え?」

 

「百合という言葉、前に教えてもらいました。百合というのは確か、女の子同士でイチャイチャするものすごく良いものなんですよね?」

 

「え? 何よ、それ?」

 

「それと、ツンデレというものも教えてもらいました」

 

「だ、誰? そんなことを教えたのは!」

 

「それが……思い出せないんです」

 

「思い出せない?」

 

「はい。とても大切なことも教えてもらったはずなんですけど……」

 

 亜耶はその言葉を思い出す。

 

『この世に犠牲になっていい人間は、いないんだよ』

 

「とても……大切な方だった気がするんですけど、思い出せないんです」

 

「私も……同じよ。亜耶ちゃん」

 

「芽吹先輩も?」

 

「ええ」

 

 ――私は救いたいと思ってた。でも誰を救いたかったのかがわからない。おそらく、奉火祭の時と同じで記憶を消された。そうだとしたら、きっとさっきの子も関係があるはず。

 

 芽吹はあの少女の後ろ姿を、なぜか前にも見たことがある気がしていた。自分よりずっと小さな背中が離れていく様を。

 

「亜耶ちゃん。渡された手紙を読みましょう。さっきの子が言う、誰も知らない真実を知るために」

 

「はい」

 

 亜耶が頷き、芽吹は少女が走り去って行った方向を見る。そして芽吹は、彼女に渡された手紙を強く握った。

 




 次回は、日常回的な話です。
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