四年後。
芽吹はとある人物を探していた。
「芽吹先輩。どうかしたんですか?」
そこに亜耶が声を掛けてくる。
「亜耶ちゃん。望乃がどこに行ったのか知らない?」
「望乃先輩? 望乃先輩なら先ほどあちらで見ましたよ」
芽吹は亜耶に連れられて食堂までやって来る。
そこで雀、夕海子、しずくの三人と合流する。
「あれ? メブ、どうしたの?」
「望乃は?」
「小木曽はもう……」
「望乃さんは私たちの追いつけないところに行ってしまいましたわ」
「……大体、何が起こってるのかわかったわ」
芽吹はそう言いながら食堂へと足を踏み入れる。
「望乃!」
「芽吹ちゃん。やっほ~」
芽吹の顔を見てのんびりと手を振っているのは、四年前を全く同じ姿の小木曽望乃。人ではない望乃は、姿が変わらなかったのである。そしてそんな望乃を見て、芽吹はため息を吐いた。
望乃の目の前にはいくつも重ねられた丼。こうしている間にもうどんを一杯食べ終わっていた。
「望乃、そこまでにしておきなさい」
「え~。まだ腹八分目だよ~」
「そんなに食べてるのに!?」
望乃の発言に、雀が驚きの声を上げる。
「望乃に食べられすぎて困ってるって聞いたのよ。そもそも、そんなに大食いではないでしょう?」
「確かにそうですわね。望乃さんって元々大食いなのはエネルギーのためにそうしてただけですわよね?」
「うん。そうなんだけどね、なんか最近お腹がすいて仕方がないんだ~。もしかしたら望乃に似てきてるのかもしれないな~」
「でも、その方が望乃先輩らしいですよ」
「ありがと~。亜耶ちゃん」
「理由はわかったけど、周りの迷惑にならない程度にして」
「りょ~か~い」
芽吹たちは食堂から場所を移す。
「……それにしても、早く私たちも行きたいわね」
それは芽吹が前から言っている本土に行くことだった。現在は友奈と東郷が向かっており、芽吹たちはその後に行けることになっていた。
「焦っても仕方ないよ。ん~。そうだ!」
「あ……」
「この流れは……」
「いつもの……」
何かを思いついた望乃を見て、雀と夕海子、しずくは察する。それと同時に気が付いた芽吹が望乃を制止しようとする。
「待って、望乃!」
しかし芽吹が制止させる前に望乃は指をパチンと鳴らしてしまった。
「これで落ちつこうよ~」
「望乃……いつも言ってるわよね? もうやらないでって」
そう言いながら肩を震わせる芽吹は、望乃の神の力によって服装を変えられていた。
「でも可愛いよ。ね~? 亜耶ちゃん!」
「はい。芽吹先輩、可愛らしいです。今回は何の服なんですか?」
「えっとね、猫耳メイド服だよ~。もちろん、しっぽもついてるよ」
メイド服を着せられた芽吹には、黒い猫耳としっぽがついていた。
「望乃! 早く脱がせなさい! あなたの力で着せた服は自分じゃ脱げないのよ!」
「ふっふっふ~。神の力を舐めてもらったら困るよ~」
その光景を少し離れて見ていた雀が口を開く。
「今日はメイド服なんだ。前回はナース服だったよね?」
「巫女服、サンタ服、ポリス服なんてのもありましたわね」
「小木曽のそういうところは苦手……」
「神の力ですので、抗えないのが厄介ですわよね」
「ていうか望乃ちゃんってさ、あの神の力、強制コスプレにしか使ってないよね?」
「他に使ったとこ、知らない……」
「宝の持ち腐れですわね」
「じゃあ、みんなでなろうよ!」
芽吹に力を解くように言われていた望乃がもう一度指を鳴らし、亜耶、雀、夕海子、しずく、そして望乃自身も猫耳メイド服姿に変わる。
「猫の耳としっぽはみんなの髪色に合わせたよ~」
「何でそうなるのよ」
「でもほら、亜耶ちゃんは喜んでるよ?」
「はい! すごく楽しいです」
亜耶の楽しそうな姿を見て、芽吹は何も言えなくなってしまった。
「いつも通りですわね」
「最初は恥ずかしかったけど、もう慣れちゃったよ」
「おい! 小木曽! 何だ、この服は!」
「あ、やっほ~。シズクちゃん」
「やっほ~じゃねぇ! 説明しろ!」
「説明って言われても、可愛いからだよ~」
「ならもういいだろ! 小木曽がしずくの服を変える度に、しずくが照れて俺と代わってんだよ!」
「え~。まだだよ~。せっかくメイド姿になったんだからもっと堪能しないと~。だって、こんなに楽しいんだもん」
「望乃、あなたはいつも――」
芽吹が不意に言葉を止める。なぜなら望乃が涙を浮かべていたからだった。それを見た五人はすぐに望乃に駆け寄った。
「望乃先輩、大丈夫ですか?」
「怖い方のシズクちゃんが怒るからだよ」
「俺はそんなつもりじゃ……」
「ううん、違うんだよ」
「違うって何がですの?」
「楽しすぎて涙が出ちゃっただけだから」
「楽しすぎて?」
「……私は神樹になるために生まれてきて、そのためだけに生きてきて、私に楽しい未来なんてないって思ってた。幸せになるなんて許されないって思ってた。みんなと一緒にいることなんてできないって思ってた。でもみんなは受け入れてくれて、私はこんな楽しい毎日を送れるようになった。だから、それで涙が出ちゃったんだ」
「望乃……」
「ねえ、芽吹ちゃん。私たちはずっと友達だよね?」
「もちろんよ」
「ずっと、一緒にいてもいいんだよね?」
「もちろんよって、何度も言ってるでしょ?」
「うん。でも未だにもしかしたら夢なのかもって思ったりするから。芽吹ちゃん、亜耶ちゃん、雀ちゃん、夕海子ちゃん。しすくちゃんとシズクちゃん」
望乃は涙を拭いて笑みを浮かべた。
「これからもずっとずーっと、よろしくね!」
「望乃、私たちも同じ気持ちよ。でもその前に言いたいことがあるわ」
「言いたいこと?」
「服を戻しなさい!」
「え~。誤魔化せたと思ったのに~」
「望乃ちゃんも着てるのにそれは無理だよ!」
「仕方ないな~」
望乃は渋々指を鳴らして全員の服を元に戻す。
「望乃先輩。大丈夫ですよ。これからも楽しいことがいっぱい待っていますから」
「亜耶ちゃん……。うん、そうだね!」
望乃と亜耶が手を握り合って微笑み合う。
「じゃあ、全員行くわよ」
芽吹の声に、全員が頷き後に続く。前を歩く芽吹も、後ろを歩く望乃たちも笑顔だった。
友奈と東郷は四国の外の調査を行っていた。その友奈と東郷からの通信を待っていた夏凜は、今か今かとそわそわしていた。そこに友奈から通信が入る。
「もしもーし」
「友奈! 聞こえる?」
「あっ、夏凜ちゃん! 良かった、繋がった! やっほー!」
「友奈……。無事なのねって、任務中は隊長と呼びなさい。隊長と!」
「はい隊長! 私も東郷さんも無事でーす。今第四チェックポイント、通過しましたー!」
「良かった。本土はどんな感じ?」
「空気がきれい」
「何よそれ?」
「人間がいないとこうなるのね」
「東郷、物騒なこと言わないの。生存者の可能性があるんだから、その辺私は諦めてないわよ」
「そうでした。それより副隊長はどうしたの?」
「ああ、望乃に通信が来たこと言ってなかったわ。すぐに連れてくるわね」
しばらくして、夏凜のものとは違う声が聞こえてきた。
「友奈ちゃん、美森ちゃん、無事なようで良かったわ」
その聞こえてきた声は、どこか大人っぽい声だった。
「私、望乃よ。私も成長して美森ちゃんにも負けないボディを手に入れたのよ」
「……望乃ちゃん、嘘が下手になったんじゃない? 流石にそれは無理があるわ」
「え~。騙されなかった~?」
「わざわざ声色と口調まで変えて、バカなことやってんじゃないわよ」
「私たち、この前会ったばかりよ」
「望乃ちゃんが嘘を言うなんてすごく久しぶりだね! 何かあったの?」
「何かあったっていうか、何もないんだよ……」
「どういうこと?」
「この子ね、最近自分の容姿を気にし始めたのよ」
「中学生の時はなんだかんだ言っても、園子ちゃんみたいな感じになるんだろうなって思ってたんだ。でも、実際はちょっと背が伸びただけだよ。背もお胸も夏凜ちゃんよりちっちゃいままだよ~」
「あんた、バカにしてんの?」
望乃の姿は少しだけ背が伸びただけでほとんど変わっていなかった。しかし髪は前よりも伸ばして、その髪を夏凜からもらったヘアゴムで結び、左肩の前に垂らした髪型になっていた。もちろん、中学生の時に夏凜からもらったヘアピンも健在だった。
「まあ、元気そうで安心したわ。それで、そちらは大丈夫? 今回の初上陸に反対してる人も多かったから」
「そこは宗主の園子様がうまいこと握りつぶ……説得してくれている、はず」
「はず……」
「園子のことだからねー。信者もいっぱいいるけど、すぐ敵も作るからねー」
「大丈夫だよ~。何かあったら、望乃が神の力でなんとかしてくれるよ~」
「神の力に頼るようなことにはならないでほしいわね」
「園ちゃん楽しそうだけどね。『はかりごと大好きなんよ~』って」
「流石そのっちね」
「あの子はそこが怖いのよ! いつもいつもいつも危ない橋を渡される私の身にもなりなさいよ!」
「それは三好隊長にしかできない任務であります。重要かつ困難な作戦なんてそれこそ夏凜ちゃんほどの人じゃないと遂行できないわ。そのっちはわかってるのよ」
「何よ……。それはそうなんだろうけど……」
「チョロイ」
「何?」
「何でもない」
「でも夏凜ちゃん、いつも私に任せなさいって言ってない?」
「そうでもしないと望乃が一人で抱え込むかもしれないからでしょ!」
「最近はないとは言っても、望乃ちゃんは前科がたっぷりあるから夏凜ちゃんの気持ちもわかるわ」
「え~」
「東郷さん、燃料入れておくね。すごいよねー。これ風先輩が作ったんだよねー」
「あくまで研究メンバーの一人ね。元勇者だからかわからないけど、風がいると化石燃料がよく反応して、良い実験結果が出るんだって」
「私たちは神樹様の望乃ちゃんとも関わりがあることも影響してそうよね」
「でも風ちゃんって、仕事の途中でも樹ちゃんのライブに行くんだよね~?」
「そこは変わらないわよね……」
「樹ちゃんもファンが増えてるみたいだよね!」
「でもこの前望乃と一緒に樹ちゃん応援うちわで応援してたら怒られたよ~」
「何してんのよ、あんたら……」
「そういえば、望乃ちゃん。今の任務が終わったらメンバーから抜けるって聞いたのだけど、本当なの?」
「うん、そうだよ~」
「それはどうして?」
「やりたいことを見つけたからだよ。それをね、園子ちゃんに話したら……『コギーはもう、一人の人間なんだからやりたいことを好きなだけやればいいんよ~』って言ってくれたんだ~」
「そのやりたいことって?」
「それはね、小学校の先生だよ~」
「小学校の?」
「先生?」
「二人からも言ってやってよ。望乃に先生なんて無理だって」
「そうね……。学力は全く問題ないけど、性格的に先生向きではないわね」
「先生は勉強を教えるだけじゃダメなのよ」
「望乃ちゃんは常識からは少し外れているところもあるし、いくら小学生とはいえ、難しいかもしれないわね」
「でも、いいんじゃないかな? だって望乃ちゃんここまでやりたいって言うの初めてだよね?」
「それはまあ……」
「望乃ちゃんは何で先生になりたいの?」
「えっとね、ほら、私って園子ちゃんの記憶ではあるけど、実際に小学校に行ったことはないでしょ? だから行きたいなって」
「それだけなの?」
「ううん、言おうか迷ってたけど、やっぱり言うね。私ってね、人として生まれることができなかったでしょ? 人として生まれられなかったけど、人になった唯一の存在でしょ? そんな私だからこそ、伝えられることってあるんじゃないかなって思うんだ」
「望乃ちゃん……。そうね、望乃ちゃんにしか伝えられないことは確かにあると思うわ」
「うん! 私は賛成だよ!」
「私も賛成よ。夏凜ちゃんはどうなの?」
「……私だってね、それを聞いてたら反対なんてしなかったわよ! 私も賛成よ」
「ありがと~。夏凜ちゃんに反対された時はどうしようかと思ったよ~」
「夏凜ちゃんは望乃ちゃんと離れたくなかっただけよ」
「ち、違うわ! わ、私はただ……望乃を一人にしておけないってだけよ!」
「ツンデレ」
「何か言った?」
「いいえ?」
「東郷さん、燃料満タンだよ」
「道も確認したし、出発するわ」
「気を付けて」
「気を付けてね~」
「旧時代の施設なんて動かさなくて済むならそれが良いのだけれど」
「戦いはまず、状況を知ることよ。私たちにはあまり時間がないのだから」
「そうね、わかってる」
「大変だろうけど、友奈ちゃんと二人で頑張ってね~」
「大変だなんて、私は友奈ちゃんと二人で旅ができるからむしろ構わないのだけれど」
「やっぱり、友奈ちゃんと美森ちゃんは百合的に最高だね~!」
「あんたねぇ……。楠チームがやきもきしてんのよ。私たちにもすぐに行かせろーって」
「それじゃあ、夏凜ちゃん。次のポイントに着いたらすぐ連絡するね」
「了解」
そうして、通信が切れる。夏凜は椅子の背に体を預ける。
「夏凜ちゃん、お疲れみたいだね~」
「まあね。……望乃、あんた、さっきの先生になりたい理由って園子には言ってたの?」
「そうだよ。言うのを躊躇ってたら園子ちゃんにバレちゃったからね~」
「いつも最初に望乃のそういうとこを見抜くのは園子ね」
「でも一番一緒にいるのは夏凜ちゃんだよ。もう、夏凜ちゃんと一緒が当たり前になっちゃったな~」
「言っとくけど、これからもずっと一緒よ。十年後も、二十年後も、その先だって、望乃と離れるつもりなんてないんだから」
「夏凜ちゃん……。でも、風ちゃんと結婚する時どうするの?」
「だ・か・ら! 結婚しないって何度も言ってるでしょ! 勇者部のみんなも大事だけど、私にとって一番大事なのは、望乃! あんたなのよ!」
「私?」
「そうよ! だから、約束しなさい! 一生一緒にいるって!」
「……そっか。うん、約束するよ。だって、私にとっても夏凜ちゃんが一番大事だからね~」
望乃はそう言って、夏凜にギュッと抱き付く。
「あんた……先生になるんだったら、その癖治しなさいよ」
「やだ~。これは私と夏凜ちゃんの絆の証だもん」
「何よそれ?」
夏凜はそう言いながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。
「夏凜ちゃん!」
「何よ」
「私、夏凜ちゃんがだ~い好きだよ!」
「……私も大好きよ」
「えへへ~。両想いだね~」
「そうね」
「あれ? 夏凜ちゃんがツンデレしない? おかしいな~」
「ツンデレしないって何よ!」
夏凜は自身に抱き付いていた望乃をはがしてまっすぐ目を見る。
「どうしたの? 夏凜ちゃん」
「望乃、約束忘れんじゃないわよ。私はあんたがいないと幸せになんてなれないんだから」
「うん、わかってるよ。私と夏凜ちゃんはこれからもず~っと、友達だもんね~」
望乃はもう一度夏凜にギュッと抱き付いた。
抱き付かれた夏凜は優しく微笑み、望乃と夏凜の間は幸せな笑顔でいっぱいだった。
これにて、小木曽望乃の物語は完結となります。
『小木曽望乃は勇者である?』という作品は元々、一期の時に満開の後遺症はなぜ治ったのだろう、という疑問から始まりました。
その時は一期で完結のつもりで、望乃消滅エンドの予定でした。しかしゆゆゆはハッピーエンドの方がいいんじゃないかと思い、望乃帰還エンドを作りました。
その結果、二期三期と書くことができたので少し感慨深いものがあります。
三期を書く予定は全くなかったのですが、望乃の締めの物語に相応しい話になったんじゃないかと思うので、書いてよかったと思います。
こちらのサイトでは小木曽望乃シリーズしか書いていなかったので、これで最後となります。今まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
長文失礼しました。