初めてのお役目。私たちは全員生還した。しかしそれはとても初陣として誇れるものではなかった。望乃は誇っていいと言っていたけど、望乃に頼り切って得た結果を、素直に受け入れることはできなかった。
想像以上の恐怖だった。想像以上の絶望だった。心折れた者が一人、また一人と去っていった。
「仕方ないことだよ」
去っていく者を見送る私と亜耶に望乃がそう言葉を投げかける。
「あんなの怖いって思って当然だと思う。みんながみんな、戦えるわけじゃないよ」
「望乃先輩は、バーテックスと戦ってる時は怖くなかったのですか?」
「そうだな……。私は、お友達を失う方が怖いかな」
望乃は仲間の安全を最優先に行動していた。仲間を失いたくない、犠牲を生みたくない。その気持ちは私よりも上だった。
だからこそ私は心配していた。
自分は勇者じゃない。どう足掻いても勇者になることはできない。勇者じゃない自分は全てを救うようなことはできない。だから目の前のお友達だけでも守りたい。たとえ、自分がどうなるとしても。望乃はいつもそう言っていた。まるで望乃自身は救われなくてもいいというように。
たとえ望乃がそう思っていても、私は認めない。防人でなくても、人でなくても、どんな存在だったとしても、望乃が犠牲になるようなことは絶対に認めない。
神樹様から分けられた苗を植えることで、人間の世界を取り戻す。それが防人のお役目。だけど、敵との戦闘は避けられなかった。欠員はまたすぐに補充される。私たちがまるで使い捨てだというかのように。
「これまで死者はゼロ。もっと交換要員が必要になると思っていました。非常によくやっています。あなたが死者を出さずお役目を果たしていること、評価に値します」
望乃の存在を知らない大赦は、この結果が全て私のおかげだと思っていた。しかしそれで良かった。私のおかげだと思っているということは、望乃の存在に気付いていないということだからだ。
望乃は今なら大赦の監視がないから、自分のことは大赦に言わないでほしいと言っていた。それはつまり、知られてしまえば監視下に置かれてしまうということ。
望乃ももう仲間だ。彼女が望まないことは、私も望まない。
「私が指揮を取る限り、絶対に死者は出しません。これは、私が私に課した誓約です。私たちは……消耗品じゃない」
ある日、芽吹たちは食堂でうどんを食べていた。
「まあ、芽吹さん。またかけうどんですの? もっとこう、華のあるトッピングをですねー。あれ? 聞いてまして?」
「はいはい」
「仕方ないですわね。私が天ぷらを施して差し上げますわ」
「いらない」
「天ぷらおいしいよ~」
天ぷらを咥える亜耶の隣で、望乃が同じように天ぷらを咥えながらそう言う。
「望乃は乗せすぎ」
「そうかな?」
望乃が食べるうどんには、これでもかというほどのトッピングが乗せられていた。
「それを持ってくる私の気持ちも考えてほしいわ」
「だって~、おかわりを頼むのは悪いからさ~。トッピングを多くするしかないんだよね~」
「その体のどこにそれだけ入ってるんですの?」
「あ、あの……」
そこで雀が遠慮がちに声を出す。
「実はみんなに話したいことがあって……」
雀の話を聞いて、驚きの声が上がる。
「望乃さん以外の讃州中学の勇者たちに会ったことがあるですって?」
「う、うん」
「ホントですの?」
「ホントだよ~。私も覚えてるからね~」
「雀、どうして会いに行こうと思ったの?」
「あ、うん。私ね、正規の勇者に選ばれた人って、どんなアマゾネスみたいな戦闘民族なのか知りたくて」
「勇者のみんなも普通の女の子だよ~」
「だって、勇者に選ばれるような人だよ!」
「それで潜入したの?」
「まあ、なんというか……捕まってしまったというか」
「ええ!」
「ホントにアマゾネスみたいな方々だったのですか?」
「そんなことはないよ、亜耶ちゃん。みんな、亜耶ちゃんみたいな感じだよ」
「それはない!」
「まず三好さんが違いますわ」
「あれ~?」
「生肉食べてた……?」
「あれ、変わった味だよね~」
「望乃さんは食べたことがあるんですの!?」
「うーん、それがね……猫探してた」
「猫?」
そうして、雀はその日の出来事を話し始めた。
「何で貴重な放課後の時間を使って、こんなことやらなきゃならないのよ」
夏凜が猫探しの紙を見てそう言う。
「新入りがぶつくさ言わないの。望乃は文句も言わずにやってるわよ」
「望乃は変わってるのよ」
「猫、全然見つからないね~」
「そんな簡単に見つかるわけないでしょ」
「もう夏凜ちゃんに猫耳付けた方がいいんじゃないかな~」
「確かにね」
「いいわけあるか!」
「でも夏凜って、猫っぽいじゃない? いつもにぼし食べてるし」
「何よ、にぼしは完全食よ」
「私も夏凜ちゃんのにぼし食べるよ~」
望乃がそう言いながら夏凜に抱き付く。
「あんたは食べ物なら何でもいいんでしょ!」
「え~。そんなことないよ~」
「望乃はものすごく犬っぽいわね」
「それはちょっとわかるわ」
「?」
「それで、他の子はどうしたの?」
「友奈たちは花壇の修理だから」
そう言って笑う風に、夏凜はため息を吐いた。
「勇者部って変な部よね?」
「そこが良くない?」
「ああ、部長が変だから」
「何を!」
「仮にも勇者に選ばれたわけだし、言えば大赦がなんだってしてくれる立場じゃない」
「そういう特別扱いって良いと思う?」
「思わないけど……」
「オッケー! 良かった! じゃあ、あんたも立派に勇者部よ」
「何よそれ?」
「てか、望乃はどこに行ったのよ」
「知らないわよ!」
――何の話をしてるんだろう?
「何してるの?」
急に後ろから声を掛けられた雀は驚きで叫び声を上げる。それに気付いた夏凜と風が駆け寄って来る。雀の目の前まできた夏凜が、望乃を自分の隣までグイッと引き寄せてから雀を睨む。
「あんた、学校でも私たちを見張ってたわよね? 何が目的?」
――こ、怖いーーー。
見つかった雀は勇者部の部室まで連れて来られた。雀の前には勇者部六人が揃っており、雀は震えていた。
――こ、殺されるのかな?
「お茶です」
「ぼた餅です」
「ど……毒ですか?」
「まさか。毒じゃないですよ」
「ひいーー!」
「東郷さんのぼた餅、とってもおいしいんだよ!」
「そうだよ~。美森ちゃんのぼた餅ならいくらでも食べれるよ~」
「有無は言わせません」
――何なんだ、この人たち。
雀は恐る恐るぼた餅を口に運ぶ。
「あ、おいしい」
「でしょー!」
「じゃあ尋問の時間よ」
「ひいーー!」
「こら、東郷! あっ、ウソウソそんなことしないから」
「怯えてるじゃないですか、東郷先輩」
「尋問って、カツ丼食べれるやつだよね~? 私も尋問されたい!」
「いや、尋問なんてしないから。それと、その解釈は間違ってる」
――何なんだこの人たち……。
「他の部の助っ人とか、あと幼稚園や老人ホームにも行ってた」
「なるほど、表向きはボランティア活動のクラブということですのね」
「表向きっていうより、そういうところなんだよ~。勇者部は人のためになることを勇んでやる部活だからね~」
「偉い方々なんですねー」
「そうなんだよ~」
「ちゃんと話をしたら全然怖くなかった。……三好さん以外は」
「三好さんね。その勇者部の一員として、最後までお役目を果たされたということですわね」
「夏凜ちゃんも全然怖くないよ~」
「そりゃあ、仲が良かった望乃ちゃんからしたらそうかもしれないけど……」
「望乃さんも勇者部の一員だったんですわよね?」
そう聞かれた望乃はうどんを啜りながら答えた。
「そうだよ~。勇者部のみんなはね、精霊じゃない私と同じくらい普通だよ」
「小木曽は……普通じゃない……」
「あれ? 私、普通じゃないかな?」
望乃はそう言いながらうどんを啜り続ける。
「変……」
「そっか〜」
「望乃先輩から見て、どんな方々なのですか?」
「えっとね、友奈ちゃんは元気で、美森ちゃんはしっかりしてて、風ちゃんは面白くて、樹ちゃんは可愛い。それで夏凜ちゃんは素直じゃないけど優しいかな」
それを聞いた雀は、バーテックスと戦う勇者たちの姿を想像してみた。
『今日もバーテックスをいっぱい倒そうね!』
『バーテックスは確実に殲滅するわ』
『バーテックスを倒すのって面白いわね!』
『やられる時のバーテックスって可愛いです!』
『別にあんたのために殲滅してあげるんじゃないんだからね!』
「や、やっぱり怖い人たちなの?」
「何でそう思ったのかな?」
なぜかブルブルと震え出した雀に、望乃はハテナを浮かべていた。
「芽吹先輩? どうされました?」
どこか浮かない顔をしていた芽吹に気付いた亜耶が声を掛ける。
「え? あ、いや、何でもない」
芽吹はそう言いながらも浮かない顔をし続けていた。亜耶はそんな芽吹を、心配した顔で見ていた。そしてその隣の望乃も、芽吹の様子を気にしていたのだった。
想像上の勇者部がひどいことに……。特に犬吠埼姉妹のヤバい奴感……。
そして、天ぷらを咥える亜耶ちゃん、可愛すぎ! 永遠に見てられるくらい可愛い!
あややマジ天使!