小木曽望乃は勇者である?~大満開の章~   作:桃の山

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 思ってたより、くめゆでの望乃の立ち回りが難しい……。


小さな背中

「現在、神樹様は著しく疲弊している。苗を回収し、神樹様にお返しすることが我々のお役目である。総員、乗船!」

 

「了解!」

 

 防人が船に乗り込んでいく。芽吹は壁の外の方をじっと見続けている望乃に気付き、声を掛ける。

 

「望乃、出発するわ。船に乗って」

 

「あ、うん」

 

「望乃、亜耶を救う方法は……」

 

「ちょっと、まだ考え中かな」

 

「……そう」

 

 ――私はどうしたらいいの? 望乃一人に任せたくはない。でもどうしたら、どうやったらあなたを救えるの? 私は……。

 

「全船、全速前進!」

 

 芽吹たちの乗った船は壁の外の中を進んで行く。船の上で芽吹は亜耶のことを思い浮かべる。自分がどうするべきかもわからないまま。

 同じ船に乗っていた望乃は腰を下ろしていた。

 

 ――今の私にできることはあまりない。やっぱりあの方法しかないのかな。

 

 一行は育ってきている苗の元に到着する。その苗を見て、望乃はボソリと呟いた。

 

「……やっぱり止めるべきだったのかな」

 

「え? 何か言った? 望乃ちゃん」

 

「何でもないよ~」

 

 芽吹は通信を繋げ、離れている望乃にも聞こえる声で言った。

 

「無謀な行為は禁ずる。必ず自分と仲間の身を守り、生還すること」

 

「……そうだよね。みんなで帰らないとダメだよね?」

 

「そうよ。望乃も単独行動は控えること。いいわね?」

 

「オッケ~」

 

 芽吹たちは育った苗を斧で切り倒していく。それは自分達の手でこれまでの頑張りを壊していくことと同義だった。

 

「せっかく苦労して植えたのに、これって振出しに戻るってことだよね?」

 

「口惜しいですけど」

 

「私たちって何だっただろ」

 

「文句を言いたい気持ちは私も同じですわ」

 

「ちゃんと意味はあった……と思うよ」

 

「何でそう思うんですの?」

 

「なんとなく、かな」

 

「なんとなくって……あ、ここだ!」

 

 そこで雀が植えた苗の位置を見つけ夕海子と共に苗を回収する。

 

「神樹様の苗、回収終わりましたわ」

 

「了解。すぐに離脱しよう」

 

 しかしそこで風が吹き荒れる。周りを確認すると、大量の星屑が現れていた。

 

「星屑!? 気付かれるのが早い!」

 

「わかっているんですわ。天の神も」

 

「やだやだ! 神様の都合なんて知らないよ!」

 

「総員、ただちに離脱! 死なないで!」

 

「この数はかなりまずいかもね。私が囮になるから早く逃げて」

 

 そう言って飛び出そうとした望乃の腕を芽吹が掴んだ。

 

「望乃! 単独行動は控えてって言ったでしょ!」

 

「で、でも……」

 

「私は誰も死なせたくないの!」

 

「芽吹ちゃん……」

 

 望乃は芽吹の指示通り、逃げることにした。

 

「死ぬ死ぬ死んじゃうーー!」

 

「ガタガタ言ってんじゃねぇ! やるしかねぇだろ!」

 

「うわー! 怖い方のシズクちゃん」

 

「追いつかれますわ!」

 

「雀、盾」

 

「私もやるよ。盾が元々の仕事だしね」

 

「立ち止まらず撃ち続けろ!」

 

「はいよ!」

 

「全船、苗のことはいい! 離脱して! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬなー!」

 

 芽吹たちは船に乗り込み、離脱に成功した。

 

「振り切ったか? 弥勒、掃除を頼む」

 

「了解ですわ」

 

「はあ……助かった」

 

 芽吹たちが一息ついていたところに、バーテックスが現れる。

 

「何事ですの!?」

 

「バーテックス! 逃げろ!」

 

「バーテックスが出てくるなんて、ものすごくまずいね」

 

「望乃ちゃん、何とかできないの?」

 

「そんなこと言われても、勇者の力なしじゃさすがに倒せないよ」

 

 シズクがバーテックスの足を斬り裂く。

 

「まだだよ! シズクちゃん!」

 

「何!」

 

 バーテックスがシズクに攻撃を仕掛ける。その攻撃は望乃の精霊バリアで防いだが、別の方向からも攻撃が来る。目の前の攻撃で動けない望乃の代わりに夕海子がシズクを庇い、吹き飛ばされる。

 

「弥勒ー!」

 

 吹き飛ばされた夕海子は芽吹が助け、シズクがバーテックスに銃を放ち、望乃が斬撃を加える。攻撃を受けたバーテックスは撤退し、シズクは飛行のできない望乃と一緒に船に戻る。そして芽吹が助けた夕海子の元に駆け寄った。

 

「弥勒!」

 

「うう……ああっ!」

 

「てめぇ、何であんなマネを……」

 

 夕海子の頭からは大量の血を流れていた。

 

「大切な仲間だから当然ですわ」

 

「夕海子ちゃん、ごめん。私、守れなくて」

 

「望乃さんは悪くありませんわ。それに、犠牲ゼロにするんでしょ? でしたらシズクさんは……」

 

 夕海子が芽吹の顔辺りに手を添える。

 

「芽吹さん。勇者に……なりなさい。そうしたら、そばにいた弥勒夕海子の名も……後世に……残りますわ……」

 

 そう言った後、夕海子の手が力なく地面に落ちた。

 

「弥勒!」

 

 望乃は唇を強く噛んだ。

 

「……勝手に託さないでよ。私は弥勒さんの夢まで背負うきはありません! 自分の夢は自分で叶えてください! 勝手に死ぬなんて許しませんから!」

 

「ダメだよ! みんな、死んじゃだめだよ! 誰一人死んじゃダメなんだからね!」

 

 そこに三体のバーテックスが現れる。三体とも未完成とはいえ、絶望的な状況だった。

 

「行って。雀とシズクで、弥勒さんを連れて他の船と合流して。私が時間を稼ぐ。望乃は二人のサポートを」

 

「芽吹ちゃん?」

 

「メブ何言ってんの?」

 

「そんなこと許さねぇぞ!」

 

 芽吹が夕海子の銃剣を手に取り、バーテックスの方に体を向ける。

 

「私が……退路を切り開く。みんなを守る!」

 

 望乃には、そう言って二つの銃剣を構える芽吹の姿がかつての銀の姿と重なった。

 

「……銀ちゃん?」

 

 望乃は首をフルフルと振って芽吹の方を見る。

 

「め、芽吹ちゃん! ダメだよ! 一人で戦うなんて!」

 

「行って! 命令よ!」

 

 芽吹はそう言ってバーテックスに立ち向かって行った。

 

「芽吹ちゃんを一人で戦わせるわけにはいかない。私も――」

 

 望乃の言葉が急に途切れる。

 

「望乃ちゃん?」

 

 雀が声を掛けるが、全く反応がない。

 

「おい、小木曽! 急にどうしたんだよ! 起きろ!」

 

 シズクが望乃の身体を揺すっても、望乃から反応が帰って来ることはなかった。

 

「何が、どうなってんだよ!」

 

「わかんない。さっきまで話してたのに……」

 

 二人が何をしても、望乃は固まったまま動かなかった。まるで、電池の切れたロボットのように。

 

 一方、そのことを知らない芽吹はバーテックスと戦い続けていた。

 芽吹は二つの銃剣を巧みに使って、バーテックスと戦っていた。

 

「何が神だ! 何が生贄だー! 人間をなめるなー!」

 

 芽吹に迫るバーテックスの攻撃に、砲台が発射される。防人の船が助けに来ていたのである。

 

「総員、楠隊長を援護」

 

「弥勒さん!?」

 

「私がいませんと、芽吹さん無茶ばかりしますもの。おちおち死んでもいられませんわ」

 

「メブ! 望乃ちゃんが固まったまま動かないの!」

 

「望乃が?」

 

 雀が何度も望乃を揺する。すると、突然望乃が口を開いた。

 

「邪魔を……しないで! 私は、私のやりたいようにやるから!」

 

「え! ごめんなさい。邪魔なんてしないから」

 

「あれ? 雀ちゃん、大丈夫?」

 

 望乃は尻餅をついた雀を起こす。

 

「雀ちゃん、頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

「頼み?」

 

「小木曽! てめぇ、大丈夫なのか?」

 

「あー、うん。全然大丈夫だよ。あ、夕海子ちゃん無事だったんだね。良かった」

 

「望乃ちゃん、頼みって……」

 

「うん、私をあそこまで連れて行ってほしいんだ」

 

 安心した芽吹が飛行の限界を迎える。落ちる芽吹を見て、雀が全力で飛んでいく。望乃は雀に掴んで一緒に飛ぶ。

 

「雀ちゃん、ちょっとごめんね」

 

 望乃は雀の肩を借りて大きくジャンプし、芽吹の目の前で精霊バリアを張った。

 

「必ず自分と仲間の身を守り、生還すること、でしょ? 芽吹ちゃん」

 

 望乃は空中で芽吹を掴んで、雀のいる方向に投げた。雀はそれを何とか掴み、、芽吹は落ちずに済んだ。

 

「雀ちゃん、早く芽吹ちゃんを!」

 

「! 望乃! あなたはどうするの?」

 

「……ごめん、芽吹ちゃん。やっぱり亜耶ちゃんの件、私一人でなんとかするよ」

 

「望乃ちゃんも一緒に帰ろう! みんなで帰ろう!」

 

「大丈夫だよ。私は死なないから。必ず、帰るから。だから、お願い」

 

 バーテックスの足が伸びてくる。望乃はそれを足場にして斬り付けていく。

 

「うう……。絶対! 絶対帰ってきてね! 絶対だからね!」

 

「うん。約束するよ」

 

 望乃は号泣する雀に、笑顔を向けた。雀は芽吹と一緒に急いで船へ戻る。芽吹は少しずつ離れていく望乃の背中を見て思った。

 

 ――望乃の背中。私よりもずっと小さな背中のはずなのに、誰よりも大きく見える。

 

「望乃……どうしてあなたはそうやって……」

 

 芽吹はそこで言葉を止めて防人に指示を出す。

 

「全船、防護陣形展開。防護壁展開後、一回限りの奥の手を使うぞ!」

 

 芽吹と雀が船に着地する。

 

「大神ノ足、詠唱開始」

 

 詠唱が開始され、船の周りには防護壁が張られる。

 

「め、芽吹さん! 望乃さんは」

 

「望乃はバーテックスを相手にしてくれてる」

 

「そんな!」

 

「望乃は必ず帰ってくる。信じて待つしかないわ」

 

 望乃がバーテックスを相手にしているため、芽吹たちの船に攻撃が来ることはなかった。

 芽吹は望乃がいるであろう方向に視線を向ける。そして少し前に二人で話した時のことを思い出していた。

 

 

 芽吹が望乃の勇者時代の時の話を聞いた時のことだった。

 

『望乃、その話を聞く限り、あなたは大事なことは一人でなんとかしようとする傾向にあるのね』

 

『そうかな? うん、でもそうかも。だって、自分が傷付くよりもお友達が傷付く方が嫌だからさ~』

 

『望乃、約束して。大事なことは一人でやろうとしないって』

 

『でもね、芽吹ちゃん』

 

『望乃が友達に傷付いてほしくないって思ってるのと同じくらい、私たちもあなたに傷付いてほしくないと思ってる。そのことを忘れないで』

 

『……そっか。わかったよ。芽吹ちゃん』

 

 

 ――望乃、どうしてあなたはそうやって、一人でなんとかしようとするの? どうして一人で傷付こうとするの? どうして……。

 

 芽吹は望乃がまだ戻って来ないところを見て、歯をギリッと鳴らしてから口を開いた。

 

「最大戦速! 全機、離脱!」

 

 そう言ってから芽吹も一息つく。芽吹たちは望乃の帰りを待ち続けていたが、離脱が完了しても望乃が帰って来ることはなかった。




 次回でくめゆ編は終わりです。
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