小木曽望乃は勇者である?~大満開の章~   作:桃の山

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 申し訳ありませんが、東郷さんと銀ちゃんのシーンはカットしています。
 本編のシーンは病院のシーンしかないので、ほとんどオリジナルです。


奉火祭の行方

 防人の帰還から数日後。眠り続けていた芽吹が目を覚まし、飛び起きる。

 

「何日経ったの? 亜耶は――」

 

「芽吹先輩! 目が覚めたんですね!」

 

 すると、病院のベッドの隣に座っていた亜耶が嬉しそうに声を上げた。

 

「亜耶……ちゃん」

 

「はい?」

 

 亜耶はきょとんとした顔で芽吹を見つめる。

 

「……奉火祭は?」

 

「奉火祭? あ、えーっと……三百年前の?」

 

「え? あ、いや」

 

「まだ動転されてるんですね。ゆっくりとお休みしてください」

 

「あ、うん」

 

 ――何だ? 私は何に動転しているんだ?

 

「あ、そういえば、望乃先輩にも聞かれましたね」

 

「え?」

 

「その、奉火祭のことです。私なら知ってるかと思ったそうで――」

 

 亜耶の言葉を聞いて、芽吹はハッと気が付いた。

 

「亜耶! 望乃は?」

 

「はい?」

 

「望乃は帰ってきたの?」

 

「望乃先輩ならそこでお休みしていますよ」

 

「え?」

 

 芽吹は亜耶が指を差した床の方を見ると、望乃が寝袋で眠っていた。

 

「い、いつの間に!」

 

「話はみなさんに聞きました。望乃先輩、昨日帰って来たんです。それで夜からずっとここにいたみたいです」

 

「う~ん」

 

 望乃がゆっくりと起き上がる。

 

「あっ、起こしちゃいました?」

 

「うん、まあ気にしないでいいよ~。あ、芽吹ちゃん起きたんだ~。おはよ~」

 

「おはようございます、望乃先輩」

 

 望乃はあくびを噛みしめながら、眠そうに目をこする。

 

「の、望乃、本当に心配かけて……」

 

「私、必ず帰るって言ったよ~」

 

「そうだけど……でもあの状況からよく無事に帰れたわね。それも、無傷で」

 

 芽吹が望乃の身体を隅々まで見るが、傷は一つも見当たらなかった。

 

「えへへ~」

 

「えへへじゃなくて。どうやったのよ」

 

「えっとね、秘密かな?」

 

「秘密?」

 

「言うの難しいんだよね~。精霊の力を使ったからさ~」

 

「精霊の……。なるほど。でも望乃。そういう力があったからとはいえ、自分を犠牲にするようなことは――」

 

「今回に関しては、芽吹ちゃんも人のこと言えないと思うよ」

 

「それは……」

 

「それにそういうの、昨日いっぱい言われたからさ~」

 

 望乃はそう言って昨日の出来事を話し始めた。

 

 

 帰ってきた望乃が初めに会ったのは、亜耶だった。

 

「あっ、望乃先輩! みなさんから聞いて、心配してたんですよ!」

 

「亜耶ちゃん、ごめんね~。でも、私があそこで行かなかったら、誰かが死んでたかもしれないし、結果的にはこれで正しかったんだよ」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「それよりさ~、亜耶ちゃん、奉火祭って知ってる?」

 

「奉火祭? 確か、三百年前の……」

 

「その感じ、あんまり知らないね~」

 

「その奉火祭がどうかしたんですか?」

 

「知ってるかな~って思っただけだよ」

 

「お役に立てず申し訳ありません」

 

「気にしなくていいよ~。それよりさ~、みんなはどこにいるかな?」

 

「みなさん、病院にいます。案内しますね」

 

「ありがと~」

 

 望乃は亜耶に連れられて病院にやってきた。入院しているのは芽吹と夕海子の二人で、芽吹はまだ目を覚ましていないとのことだった。

 望乃は先に夕海子に会うことにし、芽吹の病室に行くと言う亜耶とは別れて、夕海子の病室を開けた。

 夕海子の病室にはベッドに座っている夕海子の他に、雀としずくも揃っていた。三人共、望乃の姿を見て、目を大きく開けていた。そして、雀が望乃に駆け寄って来る。

 

「うわあああ! 良かったーーー!」

 

 雀がそう言いながら望乃に抱き付き、望乃はその様子に目をパチクリとさせていた。

 

「望乃さん、無事で何よりですわ」

 

「心配、した……」

 

「ごめんね~」

 

 そこで望乃は、三人にこっぴどく怒られたのだった。

 

 

「――って感じだったんだよ~」

 

「そ、そう」

 

 芽吹にはそれで望乃が反省して、もう同じことをやらないと思ったようには思えなかった。だから芽吹は、望乃がまた同じことをやらないように見張っておかないと、と思っていた。

 そこで、望乃のお腹がグウと鳴った。

 

「望乃先輩、お腹すいたんですか?」

 

「うん、亜耶ちゃん、悪いんだけど何か食べ物を買ってきてくれないかな? ほら、私は干渉できないからさ~」

 

「わかりました。行ってきますね」

 

 亜耶はニコリと笑って病室を出て行った。

 芽吹は亜耶が出て行ってから望乃に話しかけた。

 

「望乃は、奉火祭のことを知っているのよね?」

 

「……芽吹ちゃんも覚えてるの?」

 

「やっぱり、奉火祭はあったのよね?」

 

「うん、そうだよ。でも誰もそのことを覚えていないんだ」

 

「誰も?」

 

「うん。亜耶ちゃんも、雀ちゃんも、しずくちゃんも、夕海子ちゃんも覚えてなかったんだ。だから芽吹ちゃんも覚えていないかなって思ってたんだけど」

 

「どうして記憶が?」

 

「そこも含めて全部教えるよ」

 

「教えるってことは、望乃が亜耶を救ってくれたの?」

 

「残念だけど私じゃないよ。私は神樹様の力を借りて、天の神と交渉しようと思ってたんだ。でもバーテックスのせいでその機会すら与えられなかった。だから私は何もしてない。でも何があったのかは知ってる」

 

「どうして望乃が知ってるのよ」

 

「言ったことあると思うけど、私は勇者のみんなを救うために一度神樹様に吸収された。そこからまた精霊に戻ったんだけど、そのせいか神樹様が知ってる情報を知れるみたいなの。神樹様がこの件について知ってるから、私も知ることができたんだ」

 

 神樹様の知ってる情報を知ることができる。芽吹はそれを聞いて、ありえないと思った。しかし精霊に関する知識は芽吹にはなく、望乃の言っていることが嘘だと断言することもできなかった。

 

「それでまずね、奉火祭はなくなったわけじゃないんだ。ただ、生贄が亜耶ちゃんじゃなくなったっていうだけ。いや、正確には、亜耶ちゃんを含んだ六人の巫女を使う必要がなくなったの。なぜなら、その代わりになる人物が引き受けてくれたから」

 

「代わりになる人物?」

 

「六人分の巫女の力を持っている勇者、東郷美森ちゃんだよ」

 

「!」

 

「具体的なところはわからないけど、大赦は美森ちゃんなら巫女六人の代わりになれることを言ったんだと思う。美森ちゃんの性格的に、そう言われたら引き受けるだろうね。壁を壊した件もあったしね」

 

「なら、記憶は……」

 

「美森ちゃんが頼んだんだよ。勇者部のみんなに苦しんでほしくないと思った美森ちゃんは、自分の存在をなかったことにしたんだ。記憶はもちろん、写真とかからもね。そして大赦は、亜耶ちゃんたち関係者から奉火祭の記憶も消したんだ。まあ、こんな感じかな?」

 

 芽吹は異議を唱えることはしなかった。今の望乃の話に、おかしな点が見当たらなかったからである。しかし一つだけ疑問点があった。芽吹はその疑問点を言葉にした。

 

「望乃、その代わりになった勇者は友達なのよね?」

 

「そうだよ」

 

「それなのに、何もしなくていいの?」

 

 芽吹は亜耶が生贄に選ばれた時の望乃の様子を思い出す。

 

「えっとね、もう奉火祭の準備は相当進んでて、私じゃもうどうにもできないんだよ。それにね、美森ちゃんはきっと勇者部のみんなが救ってくれる。私はそう確信しているんだ」

 

 望乃はそう言いながら笑みを浮かべた後、大きく伸びをした。

 

「さ~てと、もうそろそろ亜耶ちゃんが戻ってくるだろうし、戻ってきたら帰ろうかな」

 

「え? どうして?」

 

「ん~? だって、私がここに来た目的、終わっちゃたしね~」

 

「目的?」

 

「うん。芽吹ちゃんと二人で話したかったんだ~。だから亜耶ちゃんには離れてもらったの」

 

「ということは、亜耶にわざと買いに行かせたの?」

 

「そうなるかな。でもお腹がすいたのも、買えないのも本当のことだから、騙したわけじゃないよ」

 

「それはわかるわ。でもどうしてそんなことを?」

 

「だって覚えてないのに、亜耶ちゃんの前で奉火祭の話はできないでしょ? 私はそのためにここで待ってたんだしね」

 

 芽吹はその言葉に違和感を覚えた。それは明らかな矛盾だった。

 

「望乃、あなた、何か隠していない?」

 

「へ?」

 

「気付いていないの? 今の望乃の発言は明らかにおかしかったわ」

 

 望乃は少し考えた後、「あっ」と小さく声を漏らした。

 

「あなたは最初に他のみんなが奉火祭のことを覚えていないから、私も覚えていないと思っていたと言っていたわ。でも今のあなたの発言は、まるで初めから私が奉火祭を覚えているとわかっているようだった。これは明らかな矛盾よ。あなたはまだ何かを隠してるんじゃないの?」

 

「……その通りだよ、芽吹ちゃん。私はまだみんなに隠してることがある。でもごめん。それは言えない」

 

「それは、どうして?」

 

「私が隠してることはあと一つだけ。これは嘘じゃない。でも、これを言ったら……言ってしまったら……もうみんなと一緒にいられなくなっちゃうから。これだけは言えない。ごめんね」

 

「望乃……」

 

 芽吹はそれを聞いて、望乃が隠していることが重要なことであると思っていた。だからそのことを言ってしまうと、望乃に良くないことが起きる。そういうことなのだと考えていた。芽吹はそんな望乃に何もすることができず、やるせない気持ちでいっぱいだった。

 

「すみません、少し遅くなってしまいました」

 

 そこで亜耶が戻って来る。望乃は先ほどまで見せていた深刻な表情から打って変わって、笑顔で亜耶に礼を言っていた。

 望乃は亜耶から食べ物を受け取ると、「用事ができた」と言って病室から出て行った。

 

「あれ? 芽吹先輩、どうかしたんですか?」

 

 亜耶が芽吹の顔を見て心配する。

 

「いや、何でもないわ」

 

「? そうですか?」

 

「ねえ、亜耶ちゃん」

 

「はい?」

 

「望乃のこと、どう思う?」

 

「望乃先輩ですか? 普段はのんびりとした可愛らしい方ですけど、いざという時は頼りになる方だと思います。とても人に優しい方で、これからも一緒にいたいって思いますね」

 

 それを聞いた芽吹は、優しく笑みを浮かべた。

 

「そうね。私もそう思うわ」

 

 

 

 結局、美森ちゃんは讃州中学勇者部の活躍で助けられ、奉火祭は行われずに終わった。これでめでたしめでたしになれば良かったんだけど、今度は友奈ちゃんが標的にされちゃったみたい。それに関しても私じゃどうにもできないけど、みんなならきっと解決できると思う。

 

 なぜならあそこには――讃州中学勇者部と、もう一人の小木曽望乃がいるんだから。




 くめゆ編一時終わり。なんですけど、目次にある通りのわゆは完全カットするので、すぐにくめゆ組出てくるじゃん! と気付いた今日この頃。

 次回は八話の後半辺りです。(ここもカットするか悩みましたが、ゆゆゆ組を書きたいので)
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