ステイン妹のヒーローアカデミア   作:苗字ちゃん

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保護/矯正編

「煌めく眼でロックオン!」

「猫の手手助けやってくる!」

「どこからともなくやってくる……」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 兄がステインとなり、両親が死亡して一人になった私は、とあるヒーローの元で生活することになった。

 今日はそのヒーローと初めて顔を合わせる日である。

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

「わぁ、ワイプシだ!お会いできて光栄です〜!」

 

 猫をモチーフとしたグローブや無線機、戦隊ヒーローを連想させるような色違いのスーツを身に纏ってポーズを決めている四名一チームのヒーロー、プッシーキャッツ。

 そんな三人の女性と一人の男性──何故かスカートを履いている──を前に、私は貼り付けた笑みを浮かべたのだった。

 

「これからよろしくお願いします!」

 

 

 ヒーローになる。

 そう決意したところで金もなく、家族もおらず──ヴィランの兄ならいるが──働くことができない保護対象の子どもでは、出来ることは少なかった。

 警察によって孤児院の手続きをされたが、凶悪ヴィランの家族ということで引き取り先は中々見つかる筈もなく、家探しは難航しているようだった。

 しかし、そんな中(みさお)に声をかけてきた団体があった。

 物好きな人もいるものだなぁと思っていたが、そこは「ヴィランの家族を支援する会」というもの。名前の通り、操を支援するためにやってきたらしい。

 ──ならば利用しない手はない。

 そう思った私は、彼らに「兄を捕まえられるようなヒーローになりたいんです」と泣き落として力説。彼らは涙を堪えながら話を聞き、支援すると約束してくれた。

 

「君がヒーローになれば、ヴィランの家族はヴィランではないのだと世に示すことができるだろう!」

 

 ──と、そんな理由ではあるのだが。

 こうして私たちは図らずとも利用し、利用される関係となったのだ。

 移住食の金銭的な援助から学業、そしてヒーローになるための人材支援まで。彼らは色々なヒーローや団体に掛け合い、手配し、私にこれでもかと与えてくれた。

 そんな彼らの瞳は、決して私を見下す様なものではなかったのを覚えている。

 

 ──まあ、そんなことがあり。

 彼らの支援の一環として、私はプロヒーローのもとで生活することになったのだ。

 

 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ──通称、ワイプシ。

 あまりヒーローに詳しくない私でも名前くらいは聞いたことがある、有名なヒーローだ。

 何故そんなベテランヒーローが私に宛てがわれるのか不思議だったのだが、その理由は直ぐにわかる事になる。

 

「嘘! 思ってもないこと言ってる! あちきには丸わかり!」

 

 ──成程なぁ、目的は矯正かな?

 彼女たちが宛てがわれたのは、私がヴィランになった兄に染まっていないか確認するため。そして、ヴィランになる可能性を潰すためだろう。

 つまり、保護という名の観察ということだ。

 それに気付いた私は被っていた猫を剥ぎ捨てた。嘘を見抜く個性かは知らないが、プロ相手に通用するものではないと身をもって実感したからだ。

 

「フーン……じゃ、思ったこと言っていい?」

「ええ、勿論いいわよ!」

 

「──その年齢でその衣装はキツくない?」

 

「失礼にも程がある!?」

「言っていいことと悪いことがあるんだにゃん!?」

「心は!永遠の!18歳だから!!」

 

 そんなこんなで、私とプロヒーロープッシーキャッツとの生活は幕を開けたのだった。

 

 私がヒーロー殺しステインの妹と知っていながら、彼女らの対応は驚くほど普通であった。

 見下すこともなく、憐れむこともなく。炊事洗濯を共に行い、同じ釜の飯を食い、気軽に話しかけてくる。

 三食なるべく同じ時間に食事をとって、清潔な布団で眠る規則正しい生活。そんな普通の日常は私にとって非日常に感じ、最初はとても戸惑った。

 

「ヒーローを目指しているのは本当だけど」

「うん、嘘じゃないね!」

「なんでヒーローを目指そうと思ったの?」

「ヒーローになりたいと思うのは、フツーの子どもの夢としてはありふれたものだろう?」

 

 ヒーローなんて期待するだけ無駄。無意識にもその考えが染み付いた私は、彼女達に心を開こうと思わなかった。

 しかし遠回しに話したくないのだと言う私に、彼女達は困った顔はしても決して怒りはしなかった。

 その反応に思わず面食らって、自分が子どもっぽく感じて、居心地が悪い思いをしたものだ。

 ──(みさお)のいないところで四人は「まずは私たちが信用されないとね」と話していたのだが、それは彼女には知り得ない情報である。

 

 

「ヒーロー目指すならヒーロー科!ということで勉強してもらうにゃん!」

 

 ワイプシの四人と「ヴィランの家族を支援する会」から派遣された家庭教師を前に、私は学力テストを行った。

 これは今まで学校に通ったことのない私が、どのくらいの知識を保有しているのか確認するためのものだ。

 

 結果は散々──と言いたい所だが、転生者である故に国語と算数、理科の基礎、簡単な数学と英語は問題なかった。少し補完したら応用問題に移れるレベルだ。

 この結果には大層驚かれたが、ゴミ捨て場から教材を拾って兄に教えてもらっていたといえば皆悲しそうな顔をした。お通夜か。

 しかし社会科目に関しては撃沈。ヒーロー社会になってからの歴史には全く触れていなかったため、知識がゼロといっても過言ではなかった。

 新たな条約や個性ついてのルール、日本や世界で起こった個性事故など、一から頭に詰め込むことになるだろう。

 ──何故社会科目だけ出来ていないのか。

 そう問われたので、苦しい言い訳だが「兄のせいでヒーローの歴史について学ぶ事が出来なかった」と嘘をついた。皆悲しい顔をしていた。お兄ちゃん利用してごめん、めっちゃ便利!

 

 そんなことがありつつ、次に決めるのは志望校だった。

 どの学校を目指すかによって、作成されるカリキュラムは変わってくるからだ。

 

「とりあえずここの近場の学校なんてどうかしら?」

「目指すなら一番上に決まってるだろう」

「……本気で言ってるのか?」

「当たり前だ、ここで嘘つく理由ないだろう?」

「一番上ってなると、雄英か士傑?」

「テレビ出るのはどっちだ?」

「……雄英ね」

「じゃあそっち」

 

 五人から「コイツマジか」といった視線を向けられるが、私は決断を変えるつもりはなかった。

 雄英高校はトップヒーロー排出校ということもあって人気も倍率も高い。学業にも力を入れているので偏差値だって勿論高いし、普通科に入るのだって相当狭き門なのだ。

 それを知っているからこそ、彼女たちは止めようとしていた。なにしろ操は今まで一度も学校に行ったことがないのだから。

 

「入試まで二年無いのよ?貴方にはちょっと難しいんじゃ──」

「私がやるって言ってるんだ。私はまだ挑戦すらしてないのに、なんでそっちが勝手に私の限界を決めるんだ?」

「──!」

 

 今までやってこなかったのだから、勉強は辛く苦しいだろう。もしかしたらやりたくないと逃げ出したくなる日もあるだろう。

 それでもまだ私は挑戦すらしていないのに、最初から限界を決められるのは腹立たしいと思った。

 私は諦めていないのに、他人が勝手に諦めるなと思ったのだ。

 ──それに、私は一刻も早く"有名"にならないといけないのだ。

 兄が私に気付いてくれるかもしれないから。だから、雄英高校に入学しなければならない。

 

「そこ目指して頑張ると言ってるんだ! それはいけないことなのか?」 

 

 そう告げれば彼女たちは表情を一変させた。家庭教師はノートパソコンを開いて、キーボードを叩きはじめる。

 眼鏡をくいともち上げて「ならばハードに容赦なく行きますからね!」と早速カリキュラムを組んでいた。

 

「ま、確かにそうね。頑張れるだけ頑張りなさい!」

「ここまで啖呵切ったんだから最後まで諦めずにやること! いいわね?」

「よし、じゃあ忙しくなるけど覚悟するにゃん!なんせ義務教育の九年分と、雄英に受かるための応用問題までみっちりやらないといけないからね!」

 

 私の声は、意見は、案外人に届くらしい。そのことに少しだけ驚いてしまった。

 今までだったら切り捨てられていた言葉は、しっかり彼女たちに受け止められていた。

 それを実感して──私は浮つく心を必死に押さえ込んで、大きく息を吸って吐き出したのだった。

 

 

 それからというものの、私の一日のスケジュールはとてもハードなものになった。

 朝早く起床、住まいの掃除をしたら朝食作りに取り掛かる。

 今まで料理をしてこなかったため、食べられるものを提供できるようになるのは随分と時間がかかった。何度炭のような魚や卵焼きを提供したことか……。

 みんなで朝食をとった後は足場の悪い森の中を軽くジョギング。それから平日と土曜の日中は勉強に取り掛かり、日曜日はワイプシの面々とトレーニングをする。

 昼食を取った後もひたすら勉強かトレーニングだ。夕食後は勉強をし、就寝する直前まで勉強漬け。そしてまた朝が来る。これの繰り返し。

 無限ループって怖くね?ってやつだ。勉強の範囲もトレーニングの内容も違うので正確にいうとループではないのだが。とにかく忙しすぎて気が狂いそうだった。

 

 

 とくに驚かされたのはトレーニングのうちの一つである対人訓練だ。

 担当する虎に言われて気付いたのだが、私の戦い方は人を負傷させようとする──所謂相手を殺すための戦い方らしいのだ。真っ赤なスタンダール印です、ええ。

 避ける、受け流す、防御は得意だが、癖なのか一発もらうまでひたすら防衛に走るきらいがあるらしい。

 ──ええ、これも真っ赤なスタンダール印……というか、兄の重い一撃をもらわないためにできた癖だろう。

 

 この戦い方の何がいけないのかと尋ねれば、大きく二つあるらしい。

 一つ、時間をかければかけるほど有利になる個性も存在するから。

 二つ、相手のフィールドで戦うのではなく、自分のフィールドで戦わせるようにしなければならないから。それを聞いてなるほどなぁと思いました、まる。

 そして事あるごとに目を潰そうとするのをやめろと怒られた。

 ──癖になってんだ、人の目を潰すの。いや、実際潰したことは無いが。

 兄が事あるごとに目を狙ってくるので、同じ癖がついただけなのだ。しかし仰る通り、目を潰すヒーローなんて怖すぎるので意識してやめようと心に誓った。

 

 何故かというと、やめないとキツいお仕置きが待っているから。

 

 ピクシーボブの個性、土流によって行われるトレーニングは体幹や首を鍛えるものだった。ちなみにいうと私はこのトレーニングが一番嫌いである。

 内容は至ってシンプル、土流によってひたすら転がされる、以上!

 ──何が怖いかって、転がっている間も意識して周りを見つつ体勢を整えないと、木や岩に激突するからだ。鬼か?

 鞭打ちのように体が左右上下に揺れて辛いのに、障害物まで避けないといけない。これが辛く無いわけがない。

 咄嗟に目潰しをしようとすると、翌日このトレーニングが倍に増える。それが嫌すぎて、私は自分自身に言い聞かせて目潰し戦法を必死に封印したのだった。やればできる!

 

 そして、ピクシーボブの出す魔獣との戦闘も厳しいものだった。

 個性によって身体能力を向上させ、速さや火力を上げても肝心な皮膚の強度は上がらない。そのため戦えば戦うほどこちらが負傷し、消耗するのだ。

 それでも容赦なく向かってくる魔獣に、頭をフル回転させて対応しなければならない。

 ──アレ、もしかして私虐待されている?そう錯覚してもおかしくはないメニューだった。

 

 

 ラグドールには私や個性の弱点を教えてもらった。

 操血──血液や血中成分を操る個性。舐めることで他人の血液操作も可能だが、制限時間がある。

 相手を殺すなら血を舐めて血流を止める、なんて戦法が使えるのだが、助ける為には使いにくい個性だった。

 なんたって血液は量が決まっている上に、失えば失うほど不利になるから。この個性は残念ながら血中成分の増減はできても、血液自体を増やすことはできないのだ。

 

 血液の量は人それぞれで、体重によって変わってくる。私の小さく細い体ではたくさんの血液を使用することは出来ない。

 全体量から20%失えば出血性ショックを引き起こし、30%失えば死の危険が舞い込んでくる。消耗すればするほど自滅に向かってしまう諸刃の剣。

 私の体重では1リットル流したら死ぬだろう。そう考えると、いかに出血せずに戦うかが重要になってくる。

 

 故に武器に血液を付着させ、武器ごと操って相手を撹乱させる。そして常に身体能力を向上させ、体術で決めきる戦法が主体となりそうだった。

 小型のナイフを投げて相手の気を散らしつつ、ここぞという時に操作してあり得ない角度で進行方向を変える。そうすれば相手は武器を意識せざるを得ない。

 最終的に、真っ向勝負というよりフェイントを盛り込みつつ、隙を作って戦うのがいいという結論に至った。

 それからはナイフを投げたり、土流で転がされながら小石や土砂を撃ち落とすトレーニングも追加された。鬼キャットめ!!

 

 

 血液を得るために自傷する癖があった私だが、それについてもしっかりと矯正されていた。

 とりあえず定期的に採血をし、血液のストックを作る事。トレーニングで使うのは主にこの輸血パックの血液であるため、自傷する必要はない。

 そして手首には毎日包帯を巻かれることになっていた。

 傷が塞がっていても、毎日朝食後に巻かれた。邪魔になって外しても、目敏く見つけては巻き直された。

 故に、訓練中咄嗟に手首を傷付けようとしても傷付けられず、気を取られているうちにボコられたりする。──誰にって、虎と魔獣にである。

 無意識に手首を傷付けようとも包帯が邪魔で手首を切ることができない。故に自傷癖は自然と減っていった。四人はそれにとても喜んでいた。

 

 

 今まで一人の時間が多かったからか、無性に一人になりたい時がある。

 そんな場所を求めて森を彷徨っていると、見上げた山肌に崖を見つけた。そこは寝そべっても問題ない広さで、一人になりたい時には最適な場所だった。

 施設から遠すぎるわけではなく、かといって近いわけでも無いので簡単に見つかることもないだろう。

 ──ここは私の秘密基地にしよう!

 四人の所有している敷地だが、勝手に私の陣地にした。

 私は空を見上げる。群れを成した羊雲が、青空によく映えていた。

 

「空は青くて、綺麗だな」

 

 幼い頃、初めて目にした時からずっと。

 空は色褪せずに綺麗なままだった。

 

 

 雄英には「ブラドキング」という、私と似た個性を持った教師がいるらしい。

 そう聞かされたので彼の動画を見てみると、彼はスーツに取り付けられたホースから大量の血液を噴射し、それを凝固させて敵を拘束していた。

 ──なるほど、そういう手もあるのか。しかし、

 

「あの量出血したら一発で倒れるな……」

 

 ブラドキングは見るからに体格が良い。故に私が彼の真似をする場合、輸血パックを複数持ち歩いていないと厳しいだろう。

 ──血の檻とか作れたらカッコいいけど、コストが高すぎるなぁ。

 けれど手首だけ、関節だけと部分的に拘束出来るだけでも充分なアドバンテージとなるだろう。これは大きな収穫である。

 

 しかし切り傷程度ならまだしも、大量の血液を一瞬にして凝固させるのはとても難しく、簡単には出来なかった。まだまだ訓練が必要である。

 けど、入学までには必ずものにしてやると決めた。何故なら、

 

「血の王ねぇ……? 決めた、絶対に雄英入ってその王座を奪ってやる!」

「アハハ、やる気が出たようで何より!」

 

 ──King of blood(血の王)だなんて言われちゃ黙っていられない。

 操の心には薪どころか燃料が大量に投下され、燃え上がっていた。雄英高校にいく目的がまた一つ増えたのである。

 

 

 

 輸血パックを使ったとしても武器は少なく不安定。そう悩んでいた私に声をかけたのはマンダレイだった。

 

「血液を水で薄めてみたら?」

 

 ──そんな簡単に上手くいったら苦労しないんだよなぁ。

 と、文句を言いつつ半信半疑でやってみたらアラ不思議。なんと操作できてしまったのだ。

 とはいっても操作するにはそれなりに条件があり、水の量に対して血液が少ないと操作し辛い、または操作が出来なかったのだ。

 そして凝固は水が混じった時点で絶対に出来ない。故に脆いのだ。血液が混じっただけのただの水である。

 

「結局意味なくない?」

「そんなことないわ!これって凄いことよ?」

 

 マンダレイ曰く、血液さえ準備できれば水害にだって対応できる可能性を秘めているのだと、凄い勢いで捲し立てられた。

 そしてうまく操ることができれば、水上でも有利に立ち回れるとも。

 

「血液は空中で操作できるでしょ? だったら血液を混ぜた水を空中で操作して、その上に船を浮かせるの!もしかしたら空を飛ぶことだってできるかもしれないわ!」

 

 ──空飛ぶ船? 何それカッコいい。

 突如ソワソワし出す私にマンダレイはご満悦だった。

 空を悠然と飛ぶ船、そんな光景を思い描いて大量の水を用意してもらう。そしてラグドール監修の元挑戦してみたのだが、結果からいうと"現時点では不可能"だった。

 液体に物を乗せると重さが加わるからなのか、大量の血液や水を必要とする事がわかったのだ。

 それだけでなく、血液だけなら凝固して人が乗ることが出来ても、水を混ぜたらただの水。故に水の上に浮くものでないと乗せることはできない。

 とても扱いが難しく、量も必要。よって今のキャパシティと環境では難しいと判断した。

 ──しかし水上も空中も対応可能になればやれることは広がるため、大きな一歩と言えるだろう。私は可能な限り練習しようと決めたのだった。

 

「操〜!浴槽に血液を混ぜるなって言ってるでしょう!」

 

 ──こうやって怒られる日もあったけれど。

 勉強は辛いしトレーニングもキツいし料理を作るのはいつまで経っても苦手だけれど。

 それでも、それでも。私は人生で一番忙しく、楽しいと思える日々を過ごしていた。

 

 

 

「操、ちょっといい?」

 

 マンダレイと共に現れたのは幼い男の子だった。

 どうやら三歳らしい。彼は頬が不自然なほどこけ、まるで暗闇のような、光のない瞳をしていた。

 ──虐待された子でも拾ってきたんですか?そう思ってもおかしくないほど、彼は心に傷を負っていた。

 彼の名前は出水洸汰。プロヒーローであった両親がヴィランによって殺され、一人ぼっちになってしまった男の子。

 マンダレイの従甥であることから、今日からここで生活する事になったのだとか。

 ──ヒーローなんていやだ、と。

 そう言って彼は大きな瞳からぽろぽろと涙を流し、泣いてしまった。そんな洸汰の側に膝をつき、マンダレイは慰める為に背中を撫でる。

 

「泣かないで。貴方のご両親はとても立派だったのよ」

 

 ──なんて、追い打ちをかけながら。

 

「立派なんかじゃないよ」

「──」

「ちょっと、何言ってるの?」

「立派なんかじゃないって言ったんだ」

 

 彼の両親は民間人を守って犠牲になったそうだ。

 世間的にみたら美談で、彼らは立派なヒーローだろう。子どもの頃の私が会いたいくらいだ。けど──

 

「立派ってヒーロー目線だろう? 子どもからしたら全然立派じゃないよ」

 

 父も母も、兄も。

 返せないくせに金を借りて身を危険に晒した。自身を守る為に旦那を殺し、苦しみから解放される為に飛び降りた。

 一つのことを成し遂げる為に全てを捨てて覚悟を決めた。

 彼らには彼らなりの信念や想いがあって、ああなった。そして私はこういう結果になった。

 ──振り回されるこっちの身にもなれってんだ。

 そういう子ども目線では、立派では無いと思ったのだ。

 

「……いなくなったら寂しいよ、そんなのどうでもいいから──」

「パパとママをわるく言うな!!」

「ちょ、洸汰──!」

 

 暗闇だった瞳に一筋の光を灯して、洸汰は操に対して怒りを露わにして声を上げた。そしてそのまま走り出す。

 マンダレイはそんな洸汰の小さな背中を追いかけていった。

 ──そんな信念どうでもいいから、そばにいてよって、そう思うよね。

 二人の背中を見送りながら、私はその言葉を飲み込んだのだった。

 

「……相手は子どもよ? もう少し気持ちを汲んであげなさい」

「それもヒーローにとって重要なことにゃん」

「じゃあ立派な死に様だって言って、あの子は笑うの? 喜ぶの?」

 

 彼は幸せだったんだろう。

 幸せだったからこそ打ちのめされて、どうしたらいいのかわからないのだろう。三歳という若さも相まって、何が起こったのか理解出来ていないのかもしれない。

 当たり前のようにそばに居た人が突然いなくなる。寂しいのに、みんなその死を立派だと褒め称える。

 ──彼はどんな気持ちでその言葉を聞いていたのだろう。

 

「──他人(ヒト)の痛みは他人にはわからない」

 

「でもさ、いなくなるなんて思ってなかった人が突然いなくなったら悲しいだろう、フツーは」 

 

「悲しくて寂しくて苦しいときに"立派な死に様だった"って言われたら、どうしようもなくないか?」

 

「悲しむに、悲しめないだろう……」

 

 ──まあ私の両親は彼の両親と違って、立派でもなんでもなかったけどさ。

 心の中でそう付け足して、私は三人のヒーローの返事を待たずに教材を持って施設を出る。

 ──うーん気まずい!こういう時は秘密基地にでも行こうかな!

 見上げた空は綺麗だったが、何故だか今は直視できなかった。

 

 

 

『速報です。指名手配中のヴィラン"ヒーロー殺しステイン"がまたヒーローに手をかけた模様です。ヒーローは×市の──』

 

 耳に飛び込んできたニュースに、私は思わず手を止めた。

 一緒に食事をしていた四人のヒーローの纏う空気も一瞬にして変化する。

 ヒーローがヴィランによって殺されたという彼の両親の死を連想させるニュースに、マンダレイは洸汰を連れて席を立った。

 

 私は誰とも目を合わせることなく、ゆっくりとテレビに視線を向けた。そしてそこに映る、殺害されたヒーローの写真を見て、息が止まってしまいそうだった。

 ──殺されたヒーローに、見覚えがあったから。

 光沢のあるスーツ、三十代くらいの男。兄によって殺された男は、二度も操を見捨てたあの時のヒーローだったのだ。

 知っている人が死んだ。

 その事実に、なんだか、胃の中がぐるりとかき混ぜられたような気がした。とても気分が悪い。

 

「大丈夫か?」

「……大丈夫だよ?」

「言い方を間違えた、大丈夫じゃなさそうだ」

 

 隣に座っていた虎は操が持っていた箸とお椀を奪って、それを机の上に置いた。

 そしてテレビから目を逸らさない操の背中を、そっと撫で続ける。

 その手はいつもと違って、驚くほど優しかった。

 

「──私、アイツに二回会ったことがある」

 

 酷い出会いだった。二回目も最悪だったし、二度と顔を見たくないと思っていた。

 力があるくせに手を差し伸べず、人を見下すゴミ屑野郎。

 あのヒーローのせいで私はヒーローに期待しなくなった。自分の身は自分で守るしかないのだと、思わなきゃいけなくなった。

 ──ハッキリ言うと大嫌いだった。

 

「嫌いだったから、死んだらスッキリすると思ってたんだけど、スッキリしないなぁ……なんでだろうね?」

 

 兄がまた一つ、誰かの未来を奪った。

 あのヒーローは父や母のように、死を目前にして何を思ったのだろう?

 泣いたのだろうか、助けを求めて手を伸ばしたのだろうか。死にたくないと、思ったのだろうか。

 ──あぁ、胃が重たい。

 肺に水が溜まってしまったかのように、とても息が苦しい。

 中指を立ててざまあみろと笑い飛ばせれば、楽だったのになぁ。

 

 虎は何も言わずに、ただ背中を撫でていた。

 操が落ち着くまで、ずっとそばにいた。

 

 

 

 ヒーロー科の高校に入学しても、ヒーローになるのは早くて三年後。

 ──それまでに、兄は何人の命を奪うんだろうね?

 そう思ったら居ても立っても居られず、操は今まで以上にトレーニングに励むようになった。

 原因の一つとして、洸汰の存在があっただろう。大切な人を失って傷付いた子どもを見て、兄が殺せば殺すほど、殺した以上の人が傷付いているのだと今更ながらに気付いてしまったのだ。 

 

 今の操は、プロヒーローからすれば自暴自棄になって自身を痛めつけている様にしか見えなかった。

 睡眠時間を極端に減らし、輸血パックを渡さないと躊躇なく自傷してトレーニングに励むのだ。勉強に関しても鬼気迫る様子で机に齧り付き、洸汰が怖がって近寄れない程であった。

 簡単に言うとオーバーワークだった。心も体も個性も常に許容量を超えていた。

 操の個性で体力や傷は回復できても、個性のキャパシティは回復できない。故に、彼女は常に苦しそうだった。

 ──まだだ、立ち上がれ私。のんびりしていたら、兄はあと何人の命を奪うんだ?

 わかっていても、操も自分自身を止めることが出来なくなっていた。

 止まってしまったら、自分を酷く責めてしまいそうだった。とてもとても、苦しかった。

 彼女も、ステインによって傷付けられた一人だったのだ。

 

「貴女は一人じゃないのよ、私たちがいる。一人で抱え込まないで」

 

 そんな操に声をかけたのはマンダレイだった。

 そっと肩を撫でる手は優しいのに、瞳はとても力強く、真っ直ぐだった。

 こんな瞳を、今まで私に向ける人はいなかった。だからずっとその感情がわからなかったけれど、操は最近になってようやくその意味を理解できたのだ。

 ──彼女は私を心配しているのだろう。

 一人でいようとする洸汰にも、同じような瞳を向けているから。

 

「なんでそれ、洸汰に言ってあげないの?」

「──!」

 

 救急箱を取り出して傷の手当をするマンダレイにそう問い掛ければ、彼女はばつが悪そうに俯いた。

 

「痛いところ衝くね」

「……ごめん。 責めてるわけじゃなくて、疑問に思ったから聞いただけなんだけど」

 

 ──言えないのだ、と。

 言っても手を振り払われ、目を合わせず、助けを求めないから、助けられないのだと。

 マンダレイは目を伏せて、己の無力さに打ち拉がれていた。

 そうやって目を伏せる彼女を見て、逆に私は目を丸くしていた。

 その姿はどこからどうみても普通の人間だったから。コスチュームを身に纏い、ポーズを決めて戦うヒーローには見えなかったのだ。

 

「こう見ると、ヒーローも普通の人間だな」

「何言ってるの? 当然じゃない」

 

 その姿に幻滅したんじゃない。

 自分と身近な存在だと、認識したのだ。

 ずっと忘れていた、当たり前のことに気が付いたのだ。

 "ヒーローだから"人を助けられる(・・・)訳ではない。救えない命もあるだろうし、洸汰の両親の様に命を引き換えに誰かを救うことだってある。

 ヒーローだってそれぞれが違う過去や信念を持って、悩んで泣いて、それでも前を向いて生きている。

 そんな簡単なことに、今更気が付いたのだ。

 

「ねえ、名前なんて言うんだっけ?」

 

 名前を呼ばれなかったゴミみたいな幼少期の中で、初めて兄に名前を呼んでもらった時。

 ──あの時、私は何を思った?

 言葉に表せない感情が、込み上げてきたっけ。

 私はちゃんとここに存在するのだと、喜びを実感できたんじゃなかったっけ。

 

「私? 送崎信乃だけど」

「フーン……じゃあシノさん。今度からそう呼ぶ」

 

 驚いたように目を丸くした信乃は、言葉を咀嚼したらすぐに笑顔になった。

 私は名前を呼ばれて嬉しかった。だから同じようにしようと思ったのだけど──反応を見る限り、どうやら大丈夫だったようだ。

 

「みんなの事も名前で呼んであげて、きっと喜ぶから!」

 

 その言葉には曖昧に頷いた。

 けれどもシノさんから紡がれる三人の名前を、必死に脳に刻んだのだった。

 

 

 

 洸汰が来てからそれなりに長い月日が経った。

 今日は勉強もトレーニングもお休みの日。いつもだったらそんな日は森を散策したり、ぼんやり空を眺めているのだが──今日は珍しく洸汰と並んでソファに座っていた。

 ワイプシ四人はここにはいない。彼女たちは大雨による土砂被害にあった地域の応援要請を受け、ヒーローとして出動しているから。

 ヒーローである四人が家を開けて二人になることは多々あったが、その度に彼は不安そうに遠くを見つめている。

 ──操、お願い。洸汰と一緒にいてあげてね。

 私は彼女たちにそう頼まれ、微力ながら側にいようと決めたのだ。

 少なくとも、私は彼女たち四人が側に居てくれた事で救われたことがあったから。

 

「おまえ、ヒーローめざしてるんだろ?」

 

 愛と勇気が友達だというパンのヒーロー、アソパソマンのアニメを見ていた時だった。

 自分の体をちぎって飢えた人に差し出す彼に涙なしでは見られない──そんなシーンで、洸汰は切り出した。

 視線は画面に向けられていて、合わなかった。

 

「ヒーローめざしてるなんてイカれてる……!」

 

 小さな拳を握りしめて絞り出したその言葉に──あぁ、この子はヒーローという職業に両親を奪われたんだろうなぁ、と思った。

 悪いのはヴィランで、殺した人物なのに。

 ヒーローという職業に矛先を向けてしまう程、苦しんでいるのだと思った。

 

「血を流す個性なんて弱っちいんだ……だから、だからおまえもいつか死ぬんだ! ヒーローになったら、死ぬんだぞ!」

 

 ──ヒーローじゃなくても、弱ければ死ぬ。

 何度も死にかけた日々を思い出して、彼の言葉を反芻して。やっぱり他人(ヒト)の痛みは他人にはわからないのだと実感した。

 それでも、それでも。

 きっと相手の気持ちに寄り添うことはできる。洸汰の境遇を考えれば答えはきっと導ける。

 きっと彼は"死んでしまうからヒーローになってほしくない"のではないか? 答えは彼の中にあるから、真実はわからないけれど。

 それが真実だとしても、ワイプシの四人がヒーローをやめることは出来ないし、私も目指すことは諦めないのだが。

 

 操と洸汰は少しだけ似ていた。

 私たちは、大切な人に置いていかれた。

 けれど大きく違うのは、洸汰の両親にはもう会えなくて、操は兄に頑張れば会える事。

 この差は大きい。その溝を越える術を、操はまだ知らなかった。

 

「──よし、アソパソマンはもう終わり!」

 

 スタッフロールが流れている画面を消して、私は洸汰を抱き上げる。

 そのまま施設の外へと移動すれば、ハッとした洸汰は抵抗し、ぽこぽこと操を殴りつけた。

 

「お、おい!はなせよ!」

「何かしたかァ〜? アハハ!弱すぎて痛くも痒くもな──おい髪を引っ張るな!」

 

 煽るように笑えば髪を引っ張られた。このクソガキ……元気で大変よろしい!

 しかし私はそんな可愛い抵抗にめげるような人間ではなかったので、精一杯睨み付ける洸汰を連れてとある場所へと足を進める。

 

「凄いだろう、この絶景!ここは私の秘密基地なんだ!」

 

 山肌の切り崩された場所にある崖。

 下は見渡す限りの森、そして上は視界を遮るものがない、大きな空を独占できる秘密基地。

 基地というには何もなくお粗末なものだけれど、一人になって好きなことが出来る特別な場所。

 目的地に着いたので洸汰をそっと地面に下ろせば、彼はその膨大な自然に圧倒されたのか口を開けたまま辺りを見渡していた。

 

「ほら、上を見てみ。空が青いぞ」

「──空は青いだろ、フツー」

 

 私にとっての特別な空は、彼にとっては当たり前らしい。

 自分の感情は、自分だけの特別なものだ。私に彼の気持ちがわからない様に、彼にも私の気持ちはわからない。

 それでもいつか、空を見上げて。アイツが綺麗だと言っていたなぁと思えるようになればいい。

 ──今は無理でも、いつか上を向いて歩けるようになればいいなぁ。

 

「実はな、私の両親も死んでるんだ」

「……ヒーローなんてやってるからだろ」

「いや、ヒーローじゃないけど」

「……」

「ヒーローに助けてって言ったけど、助けてもらえなかったんだ」

 

 最後まで好きになれなかった両親。

 それでも泣いている彼らを見て、一緒にやり直そうと思うくらいに情は芽生えていた。

 そんな私でも、ほんの少しだけど、二人が死んで胸にぽっかりと穴が空いたのだ。

 

「──悲しかったなぁ、私は」

 

 ならば、洸汰の悲しみはどれだけ深いんだろう。

 彼は何も答えない。言いたくないのなら、答えなくていい。きっと私は彼の悲しみを理解してあげられないから。

 

 助けてほしいと手を差し伸べる人が、この世にどれ程いるのか。死んでしまったら悲しいし、誰だって死にたくない。

 それなのに命を賭けて人を助けたことは、どれほど凄いことなのか。

 ──いつか洸汰が胸を張って「俺の両親は凄い人だったんだ!」と笑えるようになればいい。

 

「この場所は誰にも教えるなよ、私と洸汰の秘密だ。 私はあと数ヶ月でいなくなるから、そしたらこの秘密基地は洸汰に譲ってやろう。 感謝するんだぞ?」

 

 帽子の上から小さな頭を撫でてみた。

 ぎこちない手つきで、下手くそで笑ってしまった。慣れていないことは、するものではない。

 伸ばした手を取って貰えないように、伸ばされない手は握れない。今の私では、きっと彼の心の溝を埋められないのだろう。

 私は身近な子ども一人助けられなくて、とても無力だと思った。

 

 

 

 二月二十五日。

 雄英高校ヒーロー科入試の前日。

 しかしそんな前日にも関わらず、私はピクシーボブの土流によって転がされていた。

 頭部や臓器など大事な所を中心に守りつつ、飛んできた小石や埋まっている岩は凝固させた血液を飛ばして破壊する。

 右手に凝固させた血液を纏わせて眼前に迫った木を叩き壊す。自然破壊です!と、自然保護団体に怒られそうだ。

 不安定な足元にバランスを崩しつつも、途中で邪魔をしてくる障害物や魔獣を倒した所で、今日の訓練は終了した。

 

 地面に寝そべって息を整える。

 最初から最後まで血液を回して身体能力を向上させているので、すぐに心拍数は正常になった。しかし私はそのまま空を見上げていた。

 するとピクシーボブが突如視界の中に入ってきた。両手を腰にあて、顔を覗き込みながら私を見下ろしている。

 

「もしかして緊張してる?」

 

 明日の入試のことを聞いているのだろう。

 彼女の純粋な疑問に、私は猫をかぶることも話題を逸らすこともなく、気が付けば本音を吐露していた。

 

「……ヒーロー、なれるのかなって」

「わぁお、どうしたの突然? ここにきた当初はあれだけ啖呵切ってたのにねぇ」

 

 楽しそうに笑うリュウコさんの言葉に毒はなく、寄り添うようにやさしい瞳をしていた。

 

「いや、よく考えたら不良だったし、ステインの妹だし。私が雄英受けたところで受かるのかなぁって思って」

 

 ──弱いものいじめをして金銭を巻き上げていた過去もある。どう考えても立派な犯罪だ。

 兄が人を殺している事に気付いていたのに、止めなかった。警察はそれを幼い頃からの家庭環境を鑑みて不問ということにしたが──更生を図るためにここに送られたのだろうが──、過去の過ちは消えることなく残り続けている。

 兄は次々とヒーローを殺している。

 殺す度、私はあの日止められなかった自分を責めていく。

 そして他人から兄のことを責められれば、肩身が狭いのは当然のこと。プッシーキャッツは操をヴィランの妹として見ず、赤黒操として側にいてくれた。けれど他のヒーローは?

 それがわからないから不安で、怖いのだと思った。

 

「ん〜……私が思うに、人生って一度間違えたら全て終わりってワケじゃないよ」

 

 ──勿論度合いにもよるけどね?

 例えば一度の事件で大量殺人とか、テロ行為とか。一発でタルタロスに収容されるようなアウトな犯罪も勿論ある。その場合、釈放されるとは言い切れないけれど。

 

「ヒーローは悪を倒すためにいるんじゃなくて、捕まえて、未来に導くためにいるんだよ」

「未来に導く……?」

「そう。少なくとも私達はそうだと思ってる」

 

 だから警察がいて、罰を受けて、更生する余地を与えられる。

 ──罪は消えない。

 それでも、誰にだって明日は訪れるから、未来の選択肢を消すことはしない。

 前を向く意思を、決して無碍にはしたくない。

 例えそれがヴィランであったとしても。

 

「私たちはヴィランを倒すために戦うんじゃない。考え直す時間をあげたいから、考え直してほしいから、戦うの」

 

 彼らの未来のためにね。

 そうやって目を細めて笑う彼女は、いや、彼女たちは。

 確かに私の未来を導いてくれた、ヒーローだった。

 

「私は──私は、兄を止めたかった。でも止められなかった」

「うん」

「今でも止めたくて、人を殺してほしくないんだ」

 

 ──もう一生叶わないけれど、一緒にいたかっただけなんだ。

 思い出すのは、幼い頃の兄。

 不慣れながらも私の世話をして、自分がいないと死ぬとわかって演説の合間に来てくれた。最低限だったとしても、私の命を繋いでくれた。

 そんな兄が、人をたくさん殺している。たくさんの人を悲しませている。

 私はそれが悲しかった、辛かった。

 

 ──私の未来を繋いだお兄ちゃんが、他人の命を奪わないでよ。なんで私にしてあげたことを、他の人にしてあげられないの?

 そう、叫びたかった。

 私の言葉をちゃんと聞いて欲しかった。

 

 原点を思い出せ──何故ヒーローになろうと思ったのかを。

 話を聞いてくれないのならば、聞かせるまで。手足を切り落としてでも、無理矢理聞かせてやるのだと。そう、思ったじゃないか。

 私が血染()の妹として生まれた理由を探すため──は、もう正直どうでもよかった。

 私はただ──

 

「その想いがあれば、きっと操はヒーローになれるよ!」

 

 なれるのだろうか。

 もしヒーローになれたとしても。

 兄の言う、真の英雄にはなれないだろうな。

 

 

 

 

「ハイ、これ!あちき特製のお弁当!」

 

 雄英高校ヒーロー科試験当日。

 朝早く、プッシーキャッツの四人に見送られて操は雄英高校に向かった。

 ラグドール──トモコさんからお弁当のカツ丼を受け取り、試験ギリギリまで単語帳を確認した。

 初めて受ける本物のテストは、とても緊張した。マークミスがないか何度も確認したし、わからない問題も諦めずに最後まで考えた。

 そして筆記試験を終えた私は祈るような気持ちで実技試験の会場へと向かった。なによりも筆記試験が不安だったのだ。

 

 実技試験は模擬市街地演習であり、仮想ヴィランを倒してポイントを稼ぐものであった。

 複数人で行うことからポイントの争奪戦になることは想像に容易い。この試験では迅速に敵を捕捉し、撃退する力を見ているのだと思った。

 ──情報収集力は人並み、けど機動力とパワーにはそこそこ自信がある。

 筆記試験を終えた私に怖いものなどない。全力でロボを叩き壊せばいいだけだった。

 

「ブッ殺ス!」

 

 装甲に数字が描かれた仮想ヴィランが市街地を駆け回る。数字はポイントだろう。

 ポイントが高ければ高いほど仮想ヴィランも大きくなり、マシンガンを装備していたりと攻略が難しくなっているようだった。

 1ポイントと2ポイントの仮想ヴィランは単純に大きいだけで、簡単に壊すことが出来た。

 懐にさえ入れば相手の好きにはさせず、素手で叩き壊すことができた。攻撃も大振りで簡単に避けられる上に、装甲も厚くない親切設計だ。リュウコさんの魔獣の方がよっぽど鬼だろう。

 

 3ポイントの仮想ヴィランはマシンガンを装備しており、遠距離射撃を攻撃の主体としていて近寄ることが難しくなっていた──普通ならば。

 私は400ccの輸血パックを二つ取り出し、血液を身に纏うように宙に漂わせる。

 3ポイントヴィランから打ち出された弾を、同じように血で出来た弾丸で弾き飛ばして相殺する。そしてそのまま弾切れを狙って心臓部分をぶち抜くか、距離を縮めて叩き壊した。

 他にも、血が付着した装甲を盾にして宙に漂わせたり、他の仮想ヴィランに投げつけたりもした。

 

 十分間の演習だが、時間が経てば経つほどロボットの数は減少したが──同じように受験生にも変化があった。

 長時間の個性の使用にキャパオーバーをしている者、怪我をして動けない者、単純に恐怖で足がすくんで立ち止まってしまう者など。

 しかしヴィランにそんなことは関係ない。

 そこに邪魔なヒーロー()がいれば、襲いかかるのは当たり前だった。

 

「ブッ殺──」

「戦意のない人を襲うなクソロボ!」

 

 そういう受験者に襲い掛かる仮想ヴィランには、血液の弾丸を飛ばしたり、飛び蹴りを食らわせた。

 吹き飛ぶ鉄の塊は激しい音を当てて地面に叩きつけられては崩れるが、知ったことではない。

 振り返れば不安そうな視線とかち合った。

 ──まぁ、普通は不安になるだろうなぁ。

 人生で、自分に危害を加えようとする存在と出会うことはほぼ無いだろう。自分はヒーローの様に敵を倒せるのだと思い込み、理想と現実のギャップについて行けず混乱してしまうだろう。

 それに加えてこれは試験で、点取合戦なのだ。焦る気持ちに支配されて、いつもの様に動けなくなってしまっても可笑しくはない。

 ──でもそれを恥ずかしいとか、情けないとは思わない。だって彼らはまだヒーローではないのだから。

 

「あと数分だから、最後まで頑張ろう」

 

 他の受験生の邪魔をすることは禁止行為らしいが、これくらいは許してくれるだろう。

 むしろ助けているのだからヒーローとしては立派じゃない?褒めてよ、雄英。

 そんな感じで自分を褒めつつポイントを稼いでいたのだが、建物を破壊する音と共に現れた存在に、不覚ながら一瞬だけ気を取られてしまった。

 

 ──流石にこれはやりすぎじゃないか?

 

 残り数分の所で現れたのは、ビルより大きな仮想ヴィランだった。説明にもあった通り、ゼロポイントのお邪魔虫。

 邪魔だと割り切って避けられるなら、それでよかった。けどそう簡単に割り切れるものではない。

 何故ならば、ゼロポイントが動く度に建物は破壊され、倒壊していくのだ。

 その純粋な力と大きさの暴力に、多くの受験生は身を翻してその場を離れていった。要するに、逃げたのだ。

 

「お兄ちゃんがここにいたら喜んで粛清しちゃっただろうなぁ〜……」

 

 兄の思想を理解してしまっている自分に苦笑いしつつも、明確に私はそうではないと断言できる。

 身を守るために逃げることは、恥ずかしい事ではない。だって彼らはヒーローではないのだから。

 ヒーローだったら、敵わないヴィランがいたら別の策を考えたり、避難誘導したりするだろう。戦う以外にも、出来ることは他にもあるはずだ。

 ──ヒーローを目指すなら逃げている場合じゃないよね?

 

「私だったらそんなヒーロークソ食らえだ」

 

 手首の包帯を外す。

 虎──ヤワラさんが今朝巻いてくれたそれはするりと解けて、地面に落ちる。

 くっきりと跡が残っている傷の上からまた深く傷を刻んだ。

 鮮血が地面に滴り落ちる──前に、それらは宙を漂った。懐から取り出した輸血パックと合わせて、四つの大きな弾を作る。

 

「──それに、」

 

 建物が音を立てて崩れていく。

 辺りは人々の悲鳴が響き渡っている。

 それを聞きながら、私は四つの弾丸を打ち出した。それらはゼロポイント仮想ヴィランの手足の関節に着弾し、赤い花を咲かせた。

 飛び散る鮮血、それを関節に深く絡めて凝固させる──血液による関節固め技だ。これでもう動けまい。

 カッコよく赤縛(せきばく)、とでも名付けておこうか。

 

「街中で暴れるのはダメだ。自分の体の大きさを考えろ?」

 

 動くだけで建物の被害は甚大なのだ。

 その建物の中や近くに人がいると思うととても恐ろしい──ので、

 

「フフ、そこを動くな。大人しくしていろ」

 

 自身より遥かに大きな仮想ヴィランを見上げて、私はニヤリと笑った。

 想像以上に上手くいった"大量の血液を一瞬にして凝固する事"に喜びを隠せなかったのである。

 ──演習なのにカッコつけてしまったな……。

 試験終了の合図を聞きながら、私は一人そう思った。まあ誰も聞いていないだろう、私の独り言など。

 こうして、人生初の受験は幕を下ろしたのだった。

 

 

 それから少し時が流れ、雄英高校から合格通知が届いた。

 実技試験はともかく、筆記試験に怯えていた私はトモコさんと共に両手を上げて喜んだ。他の三人も、自分のことの様に喜んでくれた。

 

「すご!本当にやるとは思わなかったな〜!」

「頑張っていたからな、努力の賜物だろう」

「本当にね!おめでとう!」

「曲がりなりにもあちき達と訓練してきたしね!」

 

 四人からたくさんのお祝いの言葉をもらってから、私は一人洸汰の部屋に来ていた。

 ドアをノックし、返事が無いまま遠慮なく開ける。この子どもはいくらノックしようが意地を張って返事をしないのだ。

 以前私もムキになって百回ノックしたことがあるのだが、騒音を聞きつけたシノさんによって怒られたのだ。それからは遠慮なく部屋にお邪魔することにしている。

 

「……何しにきたんだよ」

「見ろ洸太!雄英のヒーロー科受かったぞ!その報告!」

「いらねぇよそんなの!早くどっかいっちまえ!」

 

 ──ハイハイ今日もツンツンですねぇ。

 いつもの事なので無視して隣に腰掛ければ、彼はギンッと睨みつけてきた。まだ幼いからなのか、怖くはない。

 もしかしたら、目付きの悪い兄のせいで、睨みつけられる事に慣れてしまったのかもしれない。

 

「私がヒーローになりたいのは、お兄ちゃんをぶっ飛ばしたいからなんだ」

「……そんなの、ヒーローじゃなくてもできるだろ」

「それができないんだよなぁ、お兄ちゃんはヴィランだから」

「……!」

「それも、かなり酷い奴。何十人と殺してて……ステインってヴィラン知ってるか?」

 

 洸汰の反応から、ステインを知っているのだと察することが出来た。

 彼は幼いが、決して馬鹿では無い。

 私の兄が洸汰の両親(ヒーロー)を殺す最も許せない存在なのだと、気付いただろう。

 

「そんなことに──」

「ん?」

「そんなことに命を賭けなくたっていいだろ!」

 

 俯いていた顔を上げて、彼は心から叫ぶ。

 私の目を貫くその視線はとても真っ直ぐで、悲しみに染まっていた。

 

「……賭けないよ。死なないために、ヒーロー科で訓練するんだ」

「でも!死ぬかもしれないだろ!?」

「んー……ま、ゼロではないな。でもさ、兄が人を殺してるのを黙って見てられないから」

 

 私はそっと手を伸ばして、洸汰の頭を撫でた。

 その手つきはやっぱりぎこちなくて、笑ってしまいそうだった。

 

 私が血染()の妹として生まれた理由を探すため──は、もう正直どうでもよかった。

 私はただ── 洸汰みたいに悲しむ人を、見たくなかったのだ。

 私のヒーローになる動機は最悪だろう。

 世界中の人々が平和になりますように、なんてみんなの幸せの為に戦うわけでは無い。

 兄の未来を正しく導きたいとか、更生させたいと思っているわけでもない。兄と妹の二人だけの世界は終わった。私は、兄以外と関わる世界を知った。

 

 それでも誰かを救うためなんかじゃなくて、結局は全部自分のためなのだ。

 兄が人を殺すことで近くで悲しむ人を見たく無いと、耳と目を塞ぎたい。でも塞げないから戦う、それだけ。

 身勝手に粛清している兄となんら変わらない、自己中心的で身勝手な動機。

 私もあの両親の子で、兄と妹なのだと思わせる最低なモノだった。

 私は兄の言う真の英雄にはなれない。

 だから、私に洸汰は救えないのだろう。

 

「助けてあげられなくてごめんね」

「……助けて欲しいなんて言ってねぇよ」

「でも、助けて欲しそうな顔をしてるから」

「思ってない!」

 

 伸ばされない手は、取ってあげられない。

 振り払われてしまったら、もう手は届かない。

 

「──っ、早くどっかいっちまえ!お前なんて、お前なんて……!」

 

 洸汰は、とても優しい。

 ヒーローになって死んでしまえ、なんて一言も言わなかった。

 私のこともワイプシのことも、いつだって"死んでしまう"と心配している。

 ヒーローは命を燃やして死にゆく悲しい者だと、そう思っている。

 

「うん、大丈夫だよ」

「……っ」

 

 死なずにここに戻ってくることは、この子にとって救いになるだろうか。

 ──わからないけれど。

 下を向き拳を握る彼に、私はできるだけ優しく声をかける。

 

「また会おう、洸汰」

 

 ──また会う、その時は。

 私は君を救う力を得ているのだろうか。伸ばされた手を、しっかりと握ってあげられるのだろうか。

 傷ついた子ども一人救えないあの時の私を、許してくれるだろうか。

 

 

 

 今日は巣立ちの日だった。

 桜が芽吹いて華やかに森を彩っている。それをぼんやりと眺めていれば視線を感じて──洸汰と目があった。

 しかし彼は勢いよく視線を逸らすと、身を翻して施設の中へと戻っていった。

 

「ちょっと洸汰!」

「あ、大丈夫だ。昨日バイバイしたからな」

 

 追いかけようとするマンダレイ──シノさんを止めて、私は改めて四人に向き合った。

 

「いつでも連絡してきなさいよー」

「またトレーニングをしよう、操はまだ甘いところがあるからな」

「あちきからは、ハイこれ!」

「というか四人からなんだけどね!」

「……何これ?」

 

 ラグドール──トモコさんから受け取ったのは、太めのレザーバングルだった。留め具はベルトの様な形状をしている。

 それをまじまじと眺めていたらトモコさんに取り上げられて、そのまま左手に装着される。

 

「包帯の代わりね!これがあったら簡単に傷つけないでしょ?」

「……邪魔なだけじゃん」

「守るためのアイテムだにゃん!」

 

 簡単に外せ無さそうな腕輪に、思わず笑ってしまった。

 

「輸血パックで補えるうちは付けておくこと!それを外す時は、本当に危機が迫った時だけにして欲しいな」

 

 傷を付けないためのおまじないなのだと、彼女は腕輪の上からそっと傷口を撫でた。

 

「……お節介だなぁ、ヒーローって暇なのかなぁ?」

「相変わらず憎まれ口叩くわねぇ」

「お節介がヒーローの性分だから仕方ないね!」

 

 煽る様に毒を呟いても、彼女たちは気にする素振りはない。真っ直ぐに、私の未来を案じていた。

 

「操、お前の兄は有名だ。雄英高校の生徒は全国的に目立つから、操とステインの関係に気が付く者も必ずいるだろう。

 お前の行く道は、時に酷く険しいものになるかもしれない」

 

「でもね、あなたは一人じゃない。それだけは忘れないで」

 

「そーそー、あちき達がいるよ!」

 

「まあ全力で頑張りなさいな!相談くらいには乗ってあげるから!」

 

 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ──通称、ワイプシ。

 あまりヒーローに詳しくない私でも名前くらいは聞いたことがある有名なヒーロー。

 初めて会った時は期待なんてしていなかった。信頼も、信用もしていなかった。

 

 けれど、二年共に過ごして。

 私は彼女たちに心から感謝をしていた。

 私の凍った心も、ぐちゃぐちゃに絡まった感情も。

 溶かし、解き、側で支えてくれた。

 私は確かに、彼女たちによって救われていた。

 

「シノさん、トモコさん、ヤワラさん、リュウコさん」

 

「私、みんなに会えてよかった」

 

「ありがとう!」

 

 礼を告げて、背を向ける。

 私は一人、わずかな荷物を持って歩き出す。

 それでも一人では無いのだとわかっていたから、寂しくはなかった。

 

「──いってらっしゃい!」

 

 この世に生まれて初めてかけられたその言葉に。

 驚くほど自然に、私の口角は上がっていった。

 

「──いってきます!」

 

 振り返った先は、四人の笑顔が咲き誇っていた。

 

 

 

【保護/矯正編:了】

 

 


 

 

【間話:雄英高校入試編】

 

 

「実技試験のヴィランポイントが出ました!これからレスキューポイントの審査に入ります」

 

 雄英高校、会議室。

 ここではヒーロー科実技試験の採点が、プロヒーローによって行われていた。

 プロヒーローの手元には候補者数十名のプロフィールが配られている。プロフィールとは履歴書の様な者で、個性と出身校、長所や短所が書かれた様なものだ。

 しかしその中でも一際分厚いプロフィールがあった。

 

 ──赤黒操(あかぐろみさお)

 彼女のプロフィールは他者と違って一枚だけではなく、プロヒーロープッシーキャッツやヴィランの家族を支援する会、そして警察による報告書が同封されていた。

 ヒーロー殺しステインの妹。

 それだけでなく虐待、幼児連続誘拐事件の被害者であり、ヒーロー殺しステインと五年以上二人っきりで生活をしていた過去を持つ。

 幼い頃体験した出来事は心に蓄積され、性格に反映してしまう。

 故に、プロヒーロー達は彼女がステインの思想に染まっているのではないと危惧をしていた。

 プッシーキャッツやヴィランの家族を支援する会からの報告書では、彼女はヒーローとして"見込み有り"だった。

 彼女をヒーローとして受け入れるべきなのか否か。教員であるプロヒーロー達は予め報告書に目を通し、実技試験での行動を注視することとなった──のだが。

 

 情報力──問題なし。

 耐久力、戦闘力──問題なし。

 機動力、瞬時の判断力──問題なし。

 個性の使い方──問題なし。それどころか、応用までしっかりと出来ている。

 

 そして彼女にとって最も重要な人間性も、実技試験を見る限り問題はなかった。

 演習とはいえ入試なのだ。周りの受験生は皆ライバルであり、それ故敵視してしまう受験生も少なくはない。

 しかし彼女は戦えない者を襲う仮想ヴィランを積極的に倒し、彼らを鼓舞した。

 そして今回(・・)大型仮想ヴィランに立ち向かった二人のうちの一人でもある。

 もう一人の様に倒したわけではない。それでも動きを封じたその行動は、周りの被害を考えれば数多くの命や財産を守る行為そのものであった。

 

 故に──合格!

 

「校長にお願いがあります!!」

 

 彼女の合格が決まってすぐに立ち上がったのは、来年から新入生を受け持つプロヒーロー、ブラドキングだった。

 彼は同じ個性故、自身のクラスに彼女を配属してほしいと直談判してきたのだ。

 それに対する校長の返答は──却下。

 

「な、何故ですか!?」

「理由は大きく分けて三つあるよ!」

 

 一つ、体格の違い。

 ブラドキングと赤黒操の身長差は五十センチ以上あり、それ故同じような個性を使った戦い方は出来ないと言うこと。

 

 二つ、ブラドキングの性格。

 良くも悪くも熱血故に、彼女をクラスで一番贔屓する可能性があるためだ。担任であるからにはクラス全員を平等に見る必要がある。

 

 三つ、試験で見る限り個性の操作は問題なさそうだからだ。

 プッシーキャッツとのトレーニングのおかげか、個性の扱い方は新入生にしてはトップレベル。

 凝固もそうだが、動き回る仮想ヴィランに的確に球を当てる精密さを既に持ち合わせている。

 課題である血液の量も自覚しているため輸血パックを所持しているのだろう。自傷を行い血液を得ていたが、動けなくなるレベルをちゃんと把握しているのだと推測できる。

 見た目や体格からは考えられない速度や力を出していることから、血液を巡らせて身体能力の強化も出来ている。

 

 よって、赤黒操はA組所属とする。

 ──まあ、似た個性持ちの教員として時々アドバイスしてあげてほしいのさ!

 

 校長によって反論の余地もなく突きつけられた結論に、ブラドキングは残念そうにしながらも引き下がった。

 そして彼女には一人のプロヒーローとしてアドバイスをしようと決めたのだった。

 

 しかし彼らは知らなかった。

 渦中の赤黒操は、King of blood(血の王)の座を、虎視眈々と狙っていることを──。

 

 

【間話:了】

 

 

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