ソナーズにも同作品を投稿しています。
菊花賞にむけて、自分の足を使い果たすために夜な夜な走り続けるアドマイヤベガ。
同室のカレンチャンは夜にアドマイヤベガが部屋を出ようとするたびに止めていた。
「夢は夢です。アヤベさんの妹はきっとそんな子じゃない。だから……無理せず休みましょう?」
カレンチャンはアドマイヤベガに手を差し出す。表情はいつものカワイイカレンチャンだが、ここからいなくなってほしくないという思いはアドマイヤベガにもはっきりと感じられた。
それでも、アドマイヤベガの妹への罪の意識は重い。
「あなたには……わからないじゃない! やめてっ!」
アドマイヤベガにだって妹の本心はわかりはしない。
わかるためのすべてを、言葉も体も命もすべてを失ってしまった子だから。
ここで制止を振り切って部屋を出ていけば、もうカレンチャンが止めることはなくなっていた。
しかしもしも、カレンチャン相手にその手を直接振り払おうとしたら──
「やめません」
「え……!?」
カレンチャンの手はたたかれることなく、むしろアドマイヤベガの手のひらをしっかりと掴んだ。部屋から出ていけない。
「手、手が……離せない!?」
二人ともウマ娘、お互い力では拮抗するのは当たり前だが今のカレンチャンから伝わる力は人間のそれと変わらない。必死で何倍もの力で振りほどこうとしているのに、アドマイヤベガは一歩も動けない。
「……きっとアヤベさんの体はもう限界なんですよ? 無理して、体を壊して、走れなくなるなんて、そんなのちっともカワイクありません」
「私は、それでもいいのよ……!」
「『もう死んじゃってもいい』みたいなこと言わないでください! カレンだって、アヤベさんとはもっとずっと一緒にいたいんです」
カレンチャンがアドマイヤベガの手に握る力を加える。それは全力を振り絞るようなものではなく、親愛の握手のように優しいのに──アドマイヤベガの全身から力を奪うように、その体をへたり込ませた。
「ほら、カレンがちょっと手を握っただけで立てなくなるんですからもう当分夜はしっかり寝てください。これ以上無理を続けるなら……毎晩、一緒のベッドで手をつないで寝てもらいますからね?」
「カ、カレンさん……あなた、私に何を、したの……?」
アドマイヤベガだって自分が無理をしているのは百も承知。だからといって人間程度の力を振りほどけないわけがないし、妹への罪悪感はルームメイトに絆されるようなものでもないはずのに。どこか妹のようにすら感じていた後輩に、抗うことができない。
「むー……何も怖いことなんてしてませんよ。そんなホラー映画を見てるみたいな顔をされるとカレンは悲しいです。とにかく今夜はもう寝ましょう♪」
全身の力が抜けたアドマイヤベガをカレンは蝶のように花のように大切に自分のベッドまで運ぶ。そして本当に手を繋いだまま目を閉じた。
それ以降アドマイヤベガが夜に部屋を抜け出すことはなくなったが──足を壊さずに済んだかは、また別の話。