5D's:武藤遊戯の孫   作:ジャガイモ

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いくぜ、フォーチュンカップ!
始まるぜ、フォーチュンカップ!

今回の話では、途中に⭐︎が出てきます。
これは、「友情のデュエル」というBGMをかけるなら、ここだ!という合図です。
胸熱になりながら読んでくだされ。


第十一話 フォーチュンカップの開幕

 フォーチュンカップ当日。

 オレはデュエルスタジアムを見上げながら緊張していた。

 こんな大舞台でデュエルするなんて初めてのことである。じーちゃんは「決闘者の王国」という、すごい大会に出て優勝したらしいけど、オレまでその栄光を掴み取るなんて思い上がりはしない。

 そもそも、最近になってようやく、自主的にデュエルをするようになったんだぜ?

 場違い感が半端ないよぉ……手汗がさっきから止まってくれないし、なんだか胃の調子も悪い気がする。いつもは聞こえるイマジナリーフレンドのクリボーも、今日ばかりは現れてくれなかった。

 

「うー、おなか痛い……もう一回くらいトイレいっとこうかな?」

「うふん♪遊太ったら、もう緊張してるの? ほら、肩の力を抜いて抜いて♪」

「……うん、ありがとう龍亞」

 

 オレはそう言って、甘ったるい女口調で話しかけてきた龍亞にお礼を言う。

 念のため復唱しておこう。

 ばちばちにメイクをきめ、龍可の服装を身にまとい、兎耳のように長い髪を縛った龍亞に、俺はお礼を言ったのだ。

 

 なにを言っているかと思う人もいるだろうけど、オレ自身もナニと会話しているのか分からないんだぜ。口紅とふぁんでーしょんなるもので顔を描き上げた友達が、朝からずっとオレの隣にいるのである。

 はっきり言って、オレの腹痛の原因は8割くらい龍亞のせいだと思う。後部座席に乗っていた龍可は、迎えに行ったときから魂が抜けてたし。車を出してくれたママも、ネオスペーシアンに一瞬意識が飛んでいってた。なんなら、ママは車を置いてくるのを理由に、ばーちゃんを連れてさっさと別れたくらいだ。息子を見捨てる親とは、これ一体……。

 

「さ、さっさと会場に入ろっか」

「そうね♪今から気を落ち着かせるためにもそうしましょうか」

 

 できれば、気ではなくメイクを落としてほしい。

 なんて無粋な言葉は、オレの喉奥ぎりぎりで止められた。

 

「る、龍亞、本気でそれで出るの?」

「当り前じゃない。選ばれたのは俺――じゃなくて、私なんだから。それに遊太も私のことは、ちゃんと龍可って呼んでね♪」

「そ、そっか、そうだよね……あはは! 僕おかしいこと言っちゃったや!」

 

 あははは、とオレは笑ってその場を濁す。

 許してくれ、龍可……オレは龍亞の変装を指摘するほど強くないみたいだ!

 

 魂が抜けたまま呆然としている龍可の腕を引っ張り、オレと龍亞はデュエルスタジアム選手用入口へと向かう。立っている警備員に招待状を見せる際、龍可が顔を隠すのすらできない状態だったため、オレたちでキャップとフードを被せスタジアムへと入場した。

 長く白い廊下を歩いていくと、見慣れた男の人が立っているのが見えた。

 その特徴的な髪型(オレも人のこと言えないけど)の人も、オレたちに気がついたのか、こちらに振り返る。

 第一声は龍亞だった。

 

「あっ、遊星ー! 遊星ーー!」

 

 そう叫びながら遊星さんのもとへと駆けていく龍亞。

 さて、表情の変化に乏しい遊星さん VS 龍可に変装した龍亞。どっちが勝つんだろうなー、なんて内心で楽しんでいたら、横からその勝負とは関係のない声が出された。

 

「な、幽霊じゃあああああ!!」

「おい、急にどうしたんだ、矢薙の爺さん」

 

 声の出した方へと焦点を合わせれば、白髪の目立つお爺さんと筋肉がムキムキの男性がいた。

 しかも、あろうことに叫んだ張本人と思われるお爺さんは、オレの方を指さして、あんぐりと口を開けている。

 

「ゆ、幽霊じゃ! 初代デュエルキングの幽霊が出た! 氷室の兄ちゃんには見えないのかい!?」

「え、幽霊って僕自身のこと!?」

「おい、爺さん。それはこの子に失礼だろ。この少年は歴とした人間だ。ほら、フォーチュンカップの宣伝サイトに、武藤遊太って載ってるだろ?」

 

 ムキムキの男の人が隣から空間ディスプレイに投影されたサイトを見せた。

 お爺さんはそのサイトに載っている顔写真と、オレを何度も何度も見比べて、申し訳なさそうな、それでいて懐かしそうな顔をする。

 

「こ、こりゃーたまげたぁ……本当にそっくりだよ」

「矢薙のお爺さんは僕のじーちゃんを知ってるの?」

「知ってるも何も、わしら世代の超超超超超、ちょーーーう有名人じゃよ! 初代デュエルキングにして、数々の大会でも優勝しまくった最強のデュエリスト! いやー、わしも一度は戦ってみたかなぁ」

 

 お爺さんはそう言って、感慨深そうに腕を組む。

 いやー、そんなにじーちゃんについて褒められると、オレも嬉しくなっちゃうなー。しかも、オレがじーちゃんと似てるんだって。えへへ、やっぱりそうかな? そう見えちゃう? なら幽霊と見間違えても仕方ないなー、あっはははは!

 

「まぁ、遊太がすごいってのは、今に始まったことじゃないよ! なんせ俺――じゃなくて、私も負けっぱなしだもんね♩ うふ♡」

「龍亞、いつまでそのキャラするの……」

 

 だめだ。どれだけ有頂天になっても、友達のオネエ口調でテンションが普通に戻ってしまう!

 早くなんとかしないと!

 

「はっ!? ここはどこ、私は誰!?」

 

 と、次は龍可が現実に戻ってきた。

 そしてオレを見るなり、がしっと肩を掴んで顔を近づける。

 

「あっ、遊太! ねぇ、聞いて! 私さっきまですっごく嫌な夢を見てたの! でも、やっぱり夢だったみたい! そうよねそうよね、龍亞が私の格好して、しかも変なオネエ言葉を使って、さらには似合わない化粧までしてるなんて、夢だったのよね!」

 

 違った。彼女はまだ夢の世界にいたようだ。

 

「なにをそんなに慌ててんのさ、龍可?」

「あっ、龍亞! やっぱり今日は私の真似なんてし、な…………………………いやあああああああああああ!!」

 

 だめだ。彼女はディメンションウォールされた。

 そのまま再び魂が抜ける龍可。抜けた魂を甲斐甲斐しく守るように、一緒にクリボンが付き添っている幻影を見た。そのまま遠く、どこまでも遠く。龍可は再び天に召される光景を目に焼き付ける。

 無力な己を呪って。

 

「いやー、双子だからよく似てるね! ワシには見分けがつかんよ」

「やめてやれ、爺さん。その言葉はこの娘に効く」

「ねぇねぇ、遊星! それよりさ、俺――じゃなくて私の新ディフォーマーデッキを見てよ!」

「龍亞、今はそれどころじゃないと思う」

 

 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図となりつつあるこの廊下。水滴ひとつでも垂らせば、爆発するんじゃないかと思えるような雰囲気に、さらにニトログリセリンのような男が廊下の奥に見える。

 再びオレは呪った。

 何を? 当然、自分の運の無さを、だぜ。

 

「おい、遊太! 何をしている! まずは俺のところに来いと言っただろ! キング直伝のかっこいい登場を教えてやると、あれほど言ったというのに、貴様は!」

「お願い、今だけは来ないで! 本当にお願いだから! もう限界だから、もうこの人数だけで手一杯だから!!!」

「何を訳のわからんことを!!」

 

 訳がわからんのは、お前じゃあああ!

 来るなって言ったのに、ずかずかこっちに来るんじゃねーぜ、この悪魔野郎!

 

「ジャック」

「キングっ……!」

「え、本物のジャック!?」

 

 ジャックさんの声に反応して、順に遊星さん、氷室さん、龍亞が反応を示す。

 そしてジャックさんも因縁の相手とも呼べる遊星さんがいた為か、オレにこれ以上近づくこともなく、立ち止まった。

 

「……相変わらずのようだな、遊星」

「何の用だ、ジャック」

「貴様に用はない。用があるのは、そこで貧弱なデュエリストの影に隠れる悪ガキだ」

 

 ジャックさんは、オレが隠れるために使わせてもらった氷室さんを見て笑う。

 うっわー……久々に悪魔たる所以を見た気がする。

 しかし、氷室さんは馬鹿にされてなお臆すことはなかった。

 

「はっ! キングとしてふんぞり返っていられるのも今のうちだ。そのうちこの俺が、貴様の首を取ってやるからな」

「ほう。嘲笑われてなお、獰猛な笑みを浮かべるか。どうやら牙だけは立派にあるらしい」

「すまん。やっぱりお前は誰だ」

 

 氷室さんとジャックさんが、くくく、と笑い合う中、静かに遊星さんは言い直した。

 そうしてようやく龍亞が現実を受け止めたらしく、上着を脱いでペンをジャックさんに渡す。

 

「うぉぉぉ、すごいすごい! 本物のキングに会えるなんて、俺――じゃなくて私、還暦! サインちょうだい、ここ、この上着に大きく書いて!」

「…………」

 

 あ、そうか。龍可がいないから、オレがやらないといけないのか。

 つい黙り込んでしまったぜ。

 

「龍亞、それを言うなら感激だよ」

「えへへ、そうとも言う〜」

 

 まぁ、そんなお笑い劇場を繰り広げながらも、まだ剣呑な雰囲気は続いているらしい。

 ジャックさんは無言で龍亞から、上着とペンを受け取ると、しっかりサインを書きながら、オレたち……と言うよりかは、氷室さんや遊星さんなど、大人組を鋭い目で射抜いた。

 

「精々、気をつけることだ。このフォーチュンカップ、子供だからと思い油断すると、飲まれることになる」

 

 氷室さんは眉を顰めた。どういう意味か考えているのだろう。

 対して遊星さんは、いつも変わらない表情でジャックさんに問いかける。

 

「お前はこの子達も巻き込むつもりか」

「なに?」

「ラリーたちを売ったのは、お前か。という意味だ」

 

 そうして遊星さんは胸ポケットから、写真を取り出してジャックさんに見せた。

 でも残念ながら、どんな写真を見せているのかまではオレの位置から見えない。

 ジャックさんは遊星さんに見せてもらった写真を見て、一瞬だけ柳眉を曇らせると、不遜な態度を示す。

 

「さぁな。だが一つだけ教えてやる」

「……」

「あの日、見た赤き龍は始まりに過ぎない」

 

 ジャックさんはそれだけを吐き捨てると、踵を返して廊下の奥へと消えていった。

 ふーん、赤き龍?

 多分、あの日っていうのは遊星さんとあの悪魔がデュエルをしていた日のことなんだろう。やっぱり、何かすごい事が起こってたのか。オレにはよくわからなかったけど、まぁ大人の人たちがなんとかするなら知らなくていいや。

 オレが思考放棄ぎみにそう考えを投げ出すと、なぜかジャックさんが戻ってきた。そして「忘れていた」と龍亞にサイン入りの上着とペンを返す。全員が何も言えない空気のまま、解散したのは言うまでもない。

 フォーチュンカップが始まる前からこれとは、前途多難な一日になるな、とオレは他人事のように思うのだった。

 

 

  

 × × ×

 

 

 

 

『Everybody Listen! デュエル・オブ・フォーチュンカップ、ついに開幕!』

 

 氷室さん、お爺さん、そして魂の抜けた龍可らの観戦組と別れたオレたちは、スタジアムの待機場で横並びに立っていた。今スタジアムの表側ではジャックさんがレッド・デーモンズ・ドラゴンと共に出場しているようだ。

 うー、緊張するぅ……汗とかは出なくなったけど、手が小刻みに震えているのが自分でも分かる。心臓もバクバクとしてて五月蝿い。ジャックさん経由で、出場者リストは見たけど、みんな自分より強そうに見えてきた。

 

 ふと、隣に立つ龍亞を見る。

 遊星さんに化粧はやめておけ、と言われた為、今はすっぴんを晒している龍亞は、ただまっすぐと目の前の暗闇を見ていた。

 

 

 ⭐︎

 

 

「ねぇ、約束覚えてる、遊太?」

「え?」

 

 ふと、龍亞はオレの方に向いて言った。

 緊張しているのは龍亞も一緒なのだろう。笑みを浮かべるため上げられた口角が、ひくひくと痙攣したように震えている。

 そうして自分の腕にすっぽりとハマるようになったデュエルディスクを見ながら、彼はこう続けた。

 

「俺さ、本気で強くなりたいって思ったの、実は遊太とデュエルしてからなんだ」

 

 初めてのカミングアウトだった。昔から龍亞は龍亞だと思っていたオレからすれば、それは衝撃の告白とも言えるものであった。ずっとデュエルが好きで、デュエルに貪欲で、デュエルを愛している。それがオレから見た龍亞という友達だったから。

 でも、不思議と違和感はなかった。

 たぶん心の奥底では分かっていたのだろう。オレたちは弱い。どこまでも真剣にデュエルに向き合ってこなかった者同士だからこそ、それが嫌というほど分かる。

 

「それまでは、ただキングを目指すって口にするだけだった。本気で思っちゃいないのにね」

「……僕も同じだよ。龍亞とデュエルしてから変わったんだ」

 

 堪らずにそう返す。そう返すしか、オレにはできなかった。

 デュエルに真剣に向き合ってこなかった二人。あの日、あの時、初めて心の奥底から相手を負かしたい、もっと戦いたいと思いあえた者同士。

 だからこそ通じ合えるものがあるのだ。だからこそ交わしたい気持ちがあるのだ。

 これほどまでに不思議な気持ちもないだろう。たった十数年しか生きてこなかったオレたちからすれば、言葉では言い表せない感情である。

 友達であり、戦友であり、何より心から愛する仲間だとお互いに思い合っているはずなのに。

 それでも、こいつにだけは負けたくないという意地がある。絶対に上にいきたいという信念がある。

 これを言葉にするとすれば、それは一体どんなものになるのだろうか。きっと、オレたちでは思いもよらない美しい言葉になるに違いないと思えた。

 

「だからさ、遊太。トーナメント表がどうなるかは分からないど、それでも、もし二人とも大会を勝ち進む事があったら……」

「うん」

 

 龍亞はデュエルディスクに落としてた視線をオレに合わせ、いつもの笑みを浮かべる。もう口角は引き攣っていない。

 オレの震えも、すでに止まっていた。

 

 

 

「「真のデュエリストとして、全力で闘おう」」

 

 

 

 デュエル・オブ・フォーチュンカップが今始まる。

 二人の熱き友情を聞いていた遊星は、静かに笑みをこぼした。

 そしてもうひとり……魔女と呼ばれる少女も。

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