5D's:武藤遊戯の孫 作:ジャガイモ
第1試合が終了して少し経った頃。
小休憩を挟んだデュエルスタジアムに、続く第2試合の宣言がMCより響いた。
『さぁ白熱の第1試合を経て、次は第2試合。今度はどんなデュエルを私たちに見せてくれるのか! 心正しき鉄血の騎士。百戦錬磨のヒーローとは彼のこと! ジル・ド・ランスボォォォウ!』
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
「すごい人気だねぇ……」
「正義を語るいけ好かない野郎だが、実力は確からしい」
観客席に座る矢薙と氷室がそう交わす。
氷室から見てみれば、ただ人気商売のために正義を振る舞っている道化に見えるのだろう。その斜に構えた小難しい意見に、近くに座っていた子どもたち(天兵と龍可)は、あはは、と乾いた笑みを浮かべるのだった。
『そして気になる対戦者は、戦歴、実力ともに未知数な謎の美少女! 十六夜アキィィィィィ!』
一方、選手待機室では。
「あの人どっかで見た気がするんだけど……うーん、どこだっけぇ~?」
「気のせいじゃない?」
「……気のせいだな」
「あぁっ、二人とも失礼しちゃうな!」
首をかしげる龍亞に、ツッコミを入れる遊太と遊星がいた。
(なんか遊星さんも毒されてきてる気がするな……)
そんなことを考えながら、立ち上がって抗議してくる龍亞をしり目に、遊太は十六夜アキが装着しているデュエルディスクを眺める。
龍亞ではないが、遊太も先ほどからこみ上げてくる謎の感情がある。決してプラスに働いていないそれは、遊太をなんとも言えない気持ちにさせていた。
第一試合のとき、彼女と鉢合わせたときも同じような感情を抱いたが、今のそれはさっきの比でない。不安にかられたせいか、遊太は無意識にぎゅっと千年錘に繋げられた鎖を握るのだった。
× × ×
様々な感情が渦巻く中、次の対戦カードであるジルと十六夜はデュエルステージにて向かい合っていた。
その中でも、勝負の前にゴドウィンらから「十六夜の正体が黒薔薇の魔女である」と聞かされていたジルの顔は険しい。魔女といえば、最近悪い噂を聞くデュエリストのことだ。正義を信奉する彼としては、聞き逃がせない情報だった。
もし仮に目の前の少女が本当に魔女だった場合、十六夜アキは、ジルにとって確実に倒さなければいけない相手となる。
「(本当にこんな小娘が魔女なのか……いいや、デュエルをすれば自ずと分かることだ……今はただ全力を尽くすのみ)我はこの剣に誓う。古の騎士の血を引く者として、必ず騎士の名に恥じぬデュエルをすると!」
ジルの宣言にスタジアムは沸く。
やはりどれだけ年を食おうと、実直な人は好かれやすいということなのだろう。
されど相対する少女だけは、表情のない顔でジルを見つめるだけだった。
「……」
「顔色の見えん娘だ……まぁいい」
そう言ってジルがデュエルディスクを構えたことで、十六夜もようやくディスクを構える。所定のポーズに入ったことで、MCからデュエル開始の宣言が降りた。
「「デュエル!」」
「我の先行、ドロー! 手札より<増援>を発動! 効果により<切り込み隊長>を手札に加え、そのまま召喚! 召喚された<切り込み隊長>の効果により、手札から<サイレント・ソードマンLv3>を特殊召喚する!」
先行はジルだった。
金髪の渋い面をした騎士<切り込み隊長>が現れ、ジルに付き従うように参上する。そしてその隊長の後を追うように、小さい体をした<サイレント・ソードマンLv3>がとてとてと走ってきた。
<切り込み隊長>
地属性|レベル3|戦士族/効果
攻1200|守400
<サイレント・ソードマンLv3>
光属性|レベル3|戦士族/効果
攻1000|守1000
「(サイレント・ソードマンは次の自分スタンバイフェイズまで守る必要がある。ここは小娘の出方を窺うか……)」
ジルはちらりと自身の手札に握られているカードを2枚見て、そこから片方の罠カードをデュエルディスクに挿入する。
「我はカードを1枚伏せてターンエンド。さぁ、進化する剣士の力、存分に味わってもらおう」
「……」
しかし、ジルの挑発に十六夜が乗ることはない。
相も変わらぬ顔色で、モンスターを見ているのか、はたまた対戦相手を見ているのかも分からぬ視線を、ただまっすぐ向けていた。
「ふん、だんまりか?(薄気味悪い娘だ……)」
そうジルが捨て台詞を吐けば、ようやく十六夜がデッキに手をかける。
「ドロー」
引いた手札を確認することなく、少女は手札からモンスターを選んだ。まるで最初から、何をするのか決まっていたかのように。
「私は<ローンファイア・ブロッサム>を召喚。効果発動。このモンスターをリリースし、デッキから<凛天使クイーン・オブ・ローズ>を攻撃表示で特殊召喚」
地面から蔓を生やし芽吹いた<ローンファイア・ブロッサム>は、蕾を大きく膨らませ空に花火を打ち上げる。するとその花火から赤い花弁のような翼を背負った天使が、優雅に舞い降りた。
<凛天使クイーン・オブ・ローズ>
地属性|レベル7|植物族/効果
攻2400|守1300
「いきなり、攻撃力2400のモンスターかっ!」
ジルの声に、されど十六夜は反応を示さない。
「さらに手札から装備魔法<薔薇の刻印>。墓地の植物族モンスターを除外することで、相手モンスター1体のコントロールを得る。<切り込み隊長>をこの手に」
額に薔薇の刻印が押されたことで、苦しみながらもジルから十六夜の元へ移動する切り込み隊長。クイーン・オブ・ローズの隣まで歩けば、自ら跪き十六夜の手を甲斐甲斐しく取った。
それはまるで心から忠誠を誓う騎士のようである。
ジルはそんな切り込み隊長を見て、歯噛みすることしかできなかった。
「バトルフェイズ。切り込み隊長で、サイレント・ソードマンLv3に攻撃。裏切りの刃の痛みを思い知るがいい」
十六夜の命令により、剣を抜いた切り込み隊長が、かつての仲間であったサイレント・ソードマンに切りかかる。
困惑するサイレント・ソードマン。
あれだけ慕っていたのに、と言いたげな様子で身を強張らせるも、ジルが咄嗟にトラップカードを発動させた。
「させるか! トラップカード<
トラップカードより飛び出した、装甲が切り込み隊長とサイレントソードマンの間に割って入る。剣を振りかぶっていた切り込み隊長は、思わず出現したその装甲に驚き、剣を振り下ろしてしまった。
瞬間。まるで花火のごとく苛烈な爆破が起きる。
熱と煙にさらされ、宙に投げ出された切り込み隊長。最期の時、彼は薔薇の刻印による洗脳が解けたのか、どこか安堵したような表情を浮かべていたのだった。
「すまぬ、切り込み隊長……」
星となった切り込み隊長を見て、悲しみにくれるジルと、サイレントソードマン。
しかし、十六夜の攻撃が緩まることはなかった。
「続けてクイーン・オブ・ローズでサイレント・マジシャンLv3に攻撃。
「っ、卑劣な娘め! 返り討ちにしてくれる! 手札より<新鋭の女戦士>を墓地に送り効果を発動!」
華麗にマントを翻した女戦士が、攻撃をしかけていたクイーン・オブ・ローズの懐に現れる。
「新鋭の女戦士の効果により、相手モンスターの攻撃力をターン終了時までダウンさせる!」
女戦士により、脇腹に深々と差し込まれる両手剣。刺されたクイーン・オブ・ローズは、あまりの痛みのせいか、攻撃するモーションから仰け反る姿勢へと変わった。
その隙を見逃すはずもなく、正面で構えていたサイレント・ソードマンが女戦士と目線を交わし、位置を入れ替わる。そのままクイーン・オブ・ローズを縦方向から斬りつけた。
<凛天使クイーン・オブ・ローズ>
攻2400 → 攻0
十六夜アキLP 4000 → 3000
「どうだ、小娘よ! これが騎士の結束の力だ!」
「……」
『なんという技巧! なんという鮮やかな連携! 怒涛に攻めてきた十六夜選手を、難なくいなし切るどころか、さらにダメージまで与えてしまったぞぉーう!? これが騎士の力だと言うのかーー!?』
「いけ好かんが、名に恥じぬ戦いぶりだな」
「うぅ~、儂には何がなんだか」
「すごいね、あの騎士の人! 手札誘発もうまいや!」
観客席に座る氷室、矢薙、天兵はそれぞれジルに対する評価を述べた。
龍可も三人の意見に反対することなく、うん、とうなずく。
「……」
手札誘発により、うまく猛攻を捌かれた十六夜は無言であった。
何の所感も漏らすことなく、それどころか何の感情の色も表すことなくメインフェイズ2へと移行する。
「メインフェイズ2。カードを1枚伏せ、さらにフィールド魔法<ブラック・ガーデン>を発動」
十六夜はデュエルディスクの端に備え付けられている場所にカードをセットする。
それに反応して彼女の足元から茨が幾つも伸び、それらはそのままフィールド全体を覆い隠してしまった。
あっという間に紫薔薇の庭園を発現する。
太陽の陽だまりすらあまり通さない、その陰気な光景に、思わずジルはたじろぐ。
「これは……これが、魔物の棲む庭かっ……?」
そんな彼の反応に、はじめて十六夜は静かな声で「いいえ」と返した。
「ここはブラック・ガーデン。モンスターの命を養分に、花咲かせる魔界の花園」
十六夜はそう言って、ブラック・ガーデンから紫薔薇をひとつ摘み取る。
「この花園が存在する限り、召喚されるモンスターの攻撃力はすべて半分になる。私はこれでターンを終了」
その様に対戦相手であるジルは、ますます目を細めた。普通、ソリッドヴィジョンのものを実物のようには触れない。所詮は質量をもたぬ映像だからだ。
当然、ジル以外の観客もざわめきを覚えている。
――「俺知ってる、あれは仮面の魔女が使うカードだっ!」
――「え、魔女?」
――「魔女だ、魔女が出たぞぉ!」
悲鳴と恐怖に包まれる観客席。
相対するジルは静かに唾を呑み下した。
「(やはり、この女は……)ふん、お前がどんなカードを使おうと、我が鋼の心は決して折れることはない! 我のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、サイレント・ソードマンLv3の効果により、このカードは進化する! 来い! サイレント・ソードマンLv5!」
サイレント・ソードマンLv3の全身が風に包まれ、新たに一回り大きくなったサイレント・ソードマンが姿を現す。持っていた剣も、さっきまでいたLv3とは比較にならないほど、大きく立派なものになっていた。
<サイレント・ソードマンLv5>
光属性|レベル5|戦士族/効果
攻2300|守1000
「モンスターが新たなに召喚されたことで、ブラック・ガーデンの効果を発動」
新たに登場したサイレント・ソードマンに手を差し伸べ、十六夜が宣言する。それに呼応するかの如く、ブラック・ガーデンの茨がサイレント・ソードマンに伸びるも、しかし途中で成長が止まってしまった。
これには流石の十六夜も、少しだけ眉を顰めてしまう。
「ふふ、ふははは! 残念だったな! サイレント・ソードマンLv5は、相手の魔法カードの効果を受けないのだ!」
「……」
ジルはそう自慢げに語る。
進化したサイレントソードマンも、斜め45度をキープした姿勢で、どや顔を漏らした。
「このまま一気に攻めさせてもらう! 我は墓地にある<新鋭の女戦士>を除外し効果を発動! これにより墓地から地属性戦士族モンスターを1体手札に加える! <切り込み隊長>よ、再び我がもとへ! 誇り高き騎士は何度でも蘇る!」
墓地にあった切り込み隊長を手札に加え、ジルはフィールドへと召喚する。
再び舞い戻ってきた金髪の渋面。「さっきはすんませんした」と、ブラック企業のサラリーマンもおっかなびっくりの見事なスライディング土下座で、フィールドへと舞い戻った。
それを見ていたサイレント・ソードマンは「次はないぞ」と言うように睨みを効かせる。騎士の世界は意外と縦社会だった。
「召喚された<切り込み隊長>の効果により、さらに私は手札から<バルキリー・ナイト>を特殊召喚!」
続けて、切り込み隊長を踏み抜くように赤と黄金の甲冑を身にまとった騎士が降臨する。当然、踏まれた切り込み隊長を心配する者はいない。
<バルキリー・ナイト>
炎属性|レベル4|戦士族/効果
攻1900|守1200
「モンスターが召喚されたことで、ブラック・ガーデンの効果が発動。召喚されたモンスターの攻撃力は半分となり、相手フィールドにローズ・トークンが自動的に攻撃表示で特殊召喚される」
召喚された<切り込み隊長>と<バルキリー・ナイト>に向かって、再び茨が伸びる。サイレントソードマンのときは自動的にとまった茨は、彼らの動きを阻害するように手足へと絡めついた。思わず、2体のモンスターの表情が陰る。
それを涼しい顔で見ていた十六夜のフィールドに、2体のローズ・トークンが生成された。
<切り込み隊長>
攻1200 → 攻600
<バルキリー・ナイト>
攻1900 → 攻950
<ローズ・トークン>×2
闇属性|レベル2|植物族/トークン
攻800|守800
「(攻撃力を削られても、2体のローズ・トークンは問題なく破壊できる。無駄な小細工だったな)」
相手の壁モンスターを倒せるのであれば、それで十分。
にやり、とジルが笑うと剣を象ったデュエルディスクを構える。
「さぁ、このままバトル! その薄壁をこじ開けてやろう! バルキリー・ナイトよ、1体目のローズ・トークンを攻撃!」
号令とともに駆け出していたバルキリー・ナイト。彼女の剣からは、炎が噴き出ており、それによって切り裂かれたローズ・トークンは為す術もなく焼き払われてしまう。
所詮は植物。どれだけ奇怪な見た目をしていても、炎の前では花弁が灰となって焼け落ちるしか道はなかった。
十六夜LP 3000 → 2850
「(トラップの作動なし……!)ならば続けて、サイレント・ソードマンLv5でローズ・トークンに攻撃!」
大きく振りかぶるサイレント・ソードマン。
しかし、振り下ろされるよりも早く十六夜が伏せカードを開示してみせた。
「トラップ発動<迷いの風>。サイレント・ソードマンLv5の効果を無効にし、攻撃力を半分にする」
「なにぃ!?」
露になったトラップカードから、黒い疾風がサイレント・ソードマンに向かって吹かれた。
まるで生気でも吸い取られたように、見るからに弱体化するサイレント・ソードマン。体に思ったような力が入らないのか、腰が入っていない切っ先で、ローズ・トークンの花弁を切り裂いた。
<サイレント・ソードマンLv5>
攻2300 → 攻1150
十六夜LP 2850 → 2500
「くっ、小賢しい手ばかり使いよって……切り込み隊長よ、あの娘へダイレクトアタックだ! 裏切りの汚名を雪ぐがいい!」
ジルに言われた通り、己の罪を清算するため切り込み隊長は走る。剣を後ろに引き絞り、そのまま豪快に一刀両断。汚名を与えた張本人を討つために、全力の剣閃が放たれた。
しかし、十六夜は微動だにしない。それどころか剣を振り下ろした切り込み隊長へ、厳しい目つきで返す。まるでお前のやっていることは児戯だと、非難するような目だった。
十六夜LP 2500 → 1900
「なんだその目は……なんだその色のない顔は……お前は一体なにを企んでいる? なにをするつもりだ!?」
「お前たちに話すことは何もない」
「何もない、か。無辜の民を傷つけ、不用意に力をばら撒く。まさに、魔女らしい答えだ……今、私の中で確信した! 貴様は皆が言うように、魔女であると!!」
問答は無駄と感じたのか、ジルは手札から2枚のカードをセットする。
「ならば、我のやるべきことは1つ! 全力でお前を打ち倒すことのみ! 我はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」
そう言ったジルを、十六夜は鋭い目で見返していた。
さっきまでの色のない瞳ではない。
なにか感情の宿った目で、ただまっすぐと。
「やっぱり」
「ん? どうかしたの、遊太?」
そんな彼女の顔を、選手待機室のモニター越しに遊太は見ていた。
「(あの人の目どこかで……)」