5D's:武藤遊戯の孫   作:ジャガイモ

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第十六話 ブラック・ローズ・ドラゴン

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 デッキからカードを引いた十六夜は、手札を確認した。

 そして2秒ほど、じぃっと手札を見つめた後、2枚のカードをそれぞれモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンに置く。

 

「モンスターとカードを伏せ、ターンを終了」

 

 これには対戦相手であるジルも、怪訝な表情を浮かべた。

 ライフポイントにはまだ余裕があり、確かにブラック・ガーデンもある以上、デュエルは膠着状態が続くことだろう。

 

(それにしても……それにしても、だ……我の場には既に3体のモンスターがおり、伏せカードも2枚ある。ここで攻めなくては勝つことさえ難しい状況……何を考えている?)

 

 だがいくら考えても、相手がターン終了を宣言したからには、自分のターンを始めなければいけない。ジルは十六夜の真意を探りながらも、デッキからカードを1枚引く。

 

「我のターン、ドロー!」

 

 そして、その懸念は早くも消え去った。

 

「……フン、どうやら考える意味もなかったようだ。このデュエル、もうお前のターンが回ってくることはない」

「……」

 

 勝ちを確信したような笑みを浮かべたのはジルだった。

 よほど、よいカードを引けたらしい。

 

「さあ、これで終幕だ! 手札から魔法カード<レベルアップ!>を発動! <サイレント・ソードマンLv5>を、<サイレント・ソードマンLv7>へ進化させる!」

 

 ジルの宣言により、サイレント・ソードマンが風に包まれ、さらに姿を変える。

 すらりと伸びた身長。持っていた刀剣も、さらに一回り大きくなる。

 青年だったはずのサイレントソードマンはもういない。代わりに立っていたのは、歴戦の猛者のような空気管を漂わせるサイレントソードマンであった。

 

 

<サイレント・ソードマンLv7>

光属性|レベル7|戦士族/効果

攻2800|守1000

 

 

 

 

 

 

『な、なんという豪運! ジル選手、効果を無効化されていたサイレント・ソードマンLv5を、トップ解決だけでLv7へ進化させたぞぉぉ!』

「あの嬢ちゃんからしたら最悪の状況だな」

「え、どうしてだい、兄ちゃん?」

「サイレント・ソードマンLv7になると、さっきの魔法無効効果の範囲がフィールド全体に広がるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

「サイレント・ソードマンLv7の効果により、魔女よ! これで場の魔法カードはすべて無効化され、完全に封じられた! この忌々しき花園も、ただの草花にすぎん!」

「……」

 

 ジルの言う通り、サイレント・ソードマンLv7が出現してから、ブラック・ガーデンの茨はぴくりとも動かなくなっていた。今後、どれだけモンスターを追加で召喚しようと、攻撃力は半分にならないし、ローズ・トークンも特殊召喚されることはない。

 それどころか、死者蘇生などの魔法も、サイレント・ソードマンLv7がいる限り、すべて無効化されてしまう。

 逆転の目をつぶしたと考えるには、大きすぎる効果であった。

 

「その目! 伏せているカードやモンスターに秘策があるのだろう!? だが、我にも秘策あり! 伏せカードオープン<リビングデッドの呼び声>! 墓地より甦れ、サイレント・ソードマンLv5!」

 

 伏せられていたカードが表向きに変わり、墓場からサイレント・ソードマンLv5が飛び出してくる。そうして場に揃っていた他の騎士たちと、剣をあわせることで、互いの武運を祈るのだった。

 

<サイレント・ソードマンLv5> 

光属性|レベル5|戦士族/効果

攻2300|守1000

 

「さぁ、ラストバトルだ! どんなカードが伏せられていようと、すべて切り開いてみせる! サイレント・ソードマンLv5で裏守備モンスターを攻撃!」

 

 そう言ってサイレント・ソードマンLv5により、十六夜の裏守備モンスターが破壊される。出てきたのは、枯れ枝に何個もの鉤爪をつけたような<ロードポイズン>だった。

 

 

<ロードポイズン>

水属性|レベル4|植物族/効果

攻1500|守1000

 

 

「破壊されたロードポイズンの効果。このカードが戦闘破壊されたとき、墓地より植物族モンスター1体を特殊召喚できる。私は<凛天使クイーン・オブ・ローズ>を攻撃表示で特殊召喚」

 

 光の粒に変わったロードポイズンに代わり、光から姿を現したのはクイーン・オブ・ローズである。赤翼を羽ばたかせ、白い能面でジルのフィールドにいる騎士たちを見下ろした。

 

「ふん、いくらモンスターを増やそうと無駄なこと! サイレント・ソードマンLv7でクイーン・オブ・ローズに攻撃!」

 

 身を小さく屈めるサイレント・ソードマンLv7。

 大剣を肩に乗せ、ぐっと力を溜めこめれば、一気に解放するかの如く超速スピードでクイーン・オブ・ローズへと跳ね上がる。

 そして空中でクイーン・オブ・ローズの前へと躍り出て、素早く一閃。横一文字に切り裂かれたクイーン・オブ・ローズは、あっけなく砕け散ってしまった。

 

十六夜LP 1900 → 1500

 

「まだ我の攻撃は残っているぞ! <バルキリー・ナイト>よ、魔女へダイレクトアタック! さらに伏せカード<鎖付き爆弾>を発動させ、攻撃力を500アップさせる!」

 

 赤と黄金の甲冑に鎖が巻き付き、剣を持たない左手にダイナマイトが装備される。

 そのダイナマイトを大胆にもぶんぶんと振り回し、遠心力を最大限活用して十六夜へとぶつけた。

 

<バルキリー・ナイト>

攻950 → 攻1450

 

十六夜LP 1500 → 50

 

「……」

「ふん、これで最後だ。切り込み隊長よ、魔女へダイレクトアタック! 騎士の名の許に、化け物を駆逐せよ!」

 

 そうして最後に命令を下された切り込み隊長。

 刻印の薔薇でやられたことを思い出しているのか、血気迫る表情で十六夜へと切りかかっていく。

 あと3歩。

 あと2歩。

 あと1歩。

 ようやく剣が届く間合いへと到達したとき、十六夜が大きく手を横にふるった。

 

「――トラップ発動、<戦線復帰>」

「っ、なにぃ!?」

 

 切り込み隊長が慌てて止まる。

 なぜなら、十六夜の目の前に、さっきサイレント・ソードマンLv5によって破壊されたはずのロードポイズンが、自身の目の前に立ちはだかっているからだ。

 

 しかも最悪なことに、ロードポイズンの守備力は1000。

 今は無効化されているといっても、召喚時にブラック・ガーデンによって攻撃力が半減されている切り込み隊長では、まず破壊できない守備力だった。

 

「ちぃ!」

 

 

 

 

 

 

『残りライフ50ポイント! 十六夜、首の皮1枚つながったぁ!』

「すごいやすごいや! 遊太も遊星も見た!?」

「んー、難しい状況だね」

「あぁ、だがロードポイズンを残した意味も考えると、逆転できる手があるんだろう」

 

 

 

 

 

 

 ジルはこのターンで決めきれなかった事実にショックを隠しきれていないものの、冷静に今の状況を判断する。

 

(くっ、臆するな! 我の場にはフィールドの魔法をすべて無効にするサイレント・ソードマン。さらに、互いに攻撃対象を向けることで、相手に攻撃させない切り込み隊長とバルキリー・ナイトがいるのだ! そう簡単に覆ることはない)

 

 それに、とジルは<鎖付き爆弾>を見る。

 

(鎖付き爆弾は、効果で破壊された場合、フィールドのカード1枚を破壊できる効果を持つ……安全に安全を重ねているのだ。そう簡単に突破などできん!)

 

 そこまで思案が及べば、ふぅ、ふぅ、と2回大きく息を吐く。

 相変わらず、目の前に立つ十六夜は、ジルを見ているようで見ていない表情で立っているのみ。その目つきは厳しいものの、どこかジルを敵としてすら見ていないように思える。

 

 だからこそジルは苛立ちと焦燥を隠せなかった。

 なにか大きなミスをしているのではないか。

 なにか大きな見落としをしているのではないか。

 だがどれだけ自問を繰り返しても、これ以上このターンでできることはない。ジルは潔くターンの終了を宣言することしかできなかった。

 

「我は……これで、ターン終了」

「私のターン、ドロー」

 

 そうして間髪入れず、十六夜がドローする。

 

「……」

 

 一体、どれだけの間隙だっただろうか。

 1秒か。10秒か。もしくは1分かもしれない。

 冷汗がジルの背中に伝う。嫌な脂汗が額に浮いてきている。

 

 あれだけ待っていた十六夜の初動。

 それが妙な薄ら寒さとともに訪れた。

 

「このターンで、何もかもを終わらせてあげる」

「なん……だと……!?」

「私はカードを1枚伏せ、チューナーモンスター<レッドローズ・ドラゴン>を召喚」

 

 ジルは十六夜のラストターン宣言に驚いていると、フィールドに薔薇の花を2つ背負ったレッドローズ・ドラゴンが現れる。

 これにより、十六夜の場にこのデュエル初めて、チューナーと非チューナーが並んだ。

 

<レッドローズ・ドラゴン>

闇属性|レベル3|ドラゴン族/チューナー/効果

攻1000|守1800

 

「まさか、シンクロ召喚かっ!?」

「気づいたところで、もう遅い。レベル3レッドローズ・ドラゴンに、レベル4ロードポイズンをチューニング」

 

 ジルの驚きなど歯牙にもかけず、十六夜はシンクロ召喚を宣言した。

 それにより、レッドローズ・ドラゴンが円形フレームへと転じ、ロードポイズンが4つの星へと変換される。

 

「冷たい炎が世界のすべてを包み込む。漆黒の花よ、開け」

 

 形成される一筋の光。漆黒の花びらが舞い、光がデュエルスタジアム全体をいま包み込む。

 

 

「シンクロ召喚――――現れよ<ブラックローズ・ドラゴン>!」

 

 現れたのは多くの真っ赤な花弁を鱗と翼に持つ漆黒のドラゴンだった。ソリッドビジョンではありえない衝撃と風を巻き起こし、黒紫の花弁が辺り一面に吹雪く。

 観客のどよめきは言うまでもない。

 大半の人間が風から身を守り、残りの少数は怖いもの見たさで十六夜の次の挙動を、食い入るように見つめている。

 

 そんな中、龍可だけが不安げな、心配するような表情で十六夜を眺めていた。

 彼女のデッキから聞こえてくる苦しみの声。それはデッキに眠っているモンスターたちのものなのか、はたまたあの十六夜という少女が出している声なのか。それを突き止めようにも、今は足りないことが多すぎる。

 

 ただ一つだけ言えることがあった。

 それはこの勝負、必ず十六夜が勝つということ。

 絶対に避けようがなく、今更どうやっても覆せない事実。誰が逆立ちしたって、ジル・ド・ランスボウに勝ち目はないだろう。

 

 だがそうなると、次は何が起こるのか。

 龍可はすぐにその事実に気が付くことができた。

 

 明日。そう明日のことである。

 この勝負に十六夜が勝ち進むということはつまり、この強大で危険な力と、遊太は戦わなければいけないという事。

 だからこそ、龍可は不安で泣きそうな気持になってしまった。

 

 

<ブラック・ローズ・ドラゴン> 

炎属性|レベル7|ドラゴン族/シンクロ/効果

攻2400|守1800

 

 

「ブラック・ローズ・ドラゴンのモンスター効果発動。このカードがシンクロ召喚に成功したとき、フィールド上のすべてのカードを破壊する」

「なにっ!?」

「全てを無に還せ、ブラック・ローズ・ガイル」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンが翼を羽ばたかせると、召喚されたときとは比にならない旋風が巻き起こった。

 黒紫の花弁は淡い光へと変わり、燃え盛ったような花弁へと変化する。そうしてフィールドにいたモンスター、トラップ、魔法、すべてを風と炎で巻き上げて破壊すると、最後にブラック・ローズ・ドラゴン自身が破壊された。

 

「これが……魔女の力かっ!」

 

 ジルがデュエルディスクで自分の身を庇いながら様子を窺っていると、十六夜はデッキからあるカードを取った。

 

「私はシンクロ素材になったレッドローズ・ドラゴンの効果も発動していた。レッドローズ・ドラゴンの効果で、デッキから<ブルーローズ・ドラゴン>を攻撃表示で特殊召喚。さらに伏せてあった<薫り貴き薔薇の芽吹き(ベーサル・ローズ・シュート)>が破壊されたことで、このカードの効果も発動」

「っ、それにチェーンし、我のトラップカード<鎖付き爆弾>の効果を発動! このカードが破壊されたとき、フィールド上のカードを1枚破壊する! ブルーローズ・ドラゴンを破壊!」

 

 まだ負けていない。

 その一心で、ジルは十六夜のデッキから飛び出した、青薔薇のドラゴンに指をさして宣言する。

 するとその願いは難なく叶ったのか、呆気ないほど簡単に<ブルーローズ・ドラゴン>は破壊されていった。

 

「……チェーンにより、まずは<薫り貴き薔薇の芽吹き(ベーサル・ローズ・シュート)>の効果を処理。このカードがセットされた状態で破壊されたとき、自分の墓地から<ブラック・ローズ・ドラゴン>を特殊召喚できる」

「また、ブラック・ローズ・ドラゴンだと!?」

 

 ジルが驚きで喉を乾かしている最中、先ほどと同じく旋風をともなって漆黒の花の龍が姿を現す。

 絶望を運んできたドラゴン。

 彼にはそのようにしか、ブラック・ローズ・ドラゴンは見えなかっただろう。

 

「さらに破壊されたブルーローズ・ドラゴンの効果。このカードが破壊され墓地へ送られたとき、自分の墓地から植物族を蘇らせる。私は<凛天使クイーン・オブ・ローズ>を墓地から復活させる」

「そんな……攻撃力2400が、いきなり2体も……嘘だ、嘘だぁぁぁあああ!」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンの横に並び立つ、クイーン・オブ・ローズ。その顔からは、十六夜と同じく表情というものが窺えない不気味な作りをしていた。

 

「偽りの正義を翳す騎士よ。冷たい悲しみの炎を受けるがいい」

「や、やめろ! やめてくれええええええ!」

 

 そうして一方的な暴力が場を支配した。彼が受けた痛みは一体どれほどのものだろうか。

 全身を焼く冷たい炎。体を切り裂く天使の剣。

 どれも想像を絶するほどの苦痛だったことは、確かであろう。

 

 デュエルが終了したとき、ジルは立っていなかった。その体に身に着けていた鎧もぼろぼろになり、地べたに倒れ伏していた。観客から上がる小さな悲鳴。怨嗟。恐怖の叫び。

 それはどれらも十六夜アキという小さな体に投げかけられるばかり。

 こので笑みを浮かべているのは、彼女の保護者を自称するスネ夫風の男、ただひとりだった。

 

 ジルLP 4000 → 0

 

 

 

 十六夜アキ、2回戦進出。

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