5D's:武藤遊戯の孫   作:ジャガイモ

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龍亞&龍可「な〜にかな〜、な〜にかな! 今回はこれ!」

《D・モバホン》

龍亞「きたきたきたー! 俺のディフォーマーカード! ターン制限がない、今でも現役のカードだぜ!」
龍可「ちょっと龍亞さわぎすぎ」
龍亞「あ、ごめん。龍可のデッキは未だに組めないもんね……」
龍可「……」


第十七話 黒き暴風

 

 第2試合が終わった直後。

 十六夜アキがステージより立ち去ると、一人の男が出迎えた。

 

「よくやったアキ」

「ディヴァイン……」

 

 ディヴァインと呼ばれた赤髪のその男は、彼女に親しそうに肩に手を置く。普通、異性にそのような気軽なボディタッチをされれば、少しくらい躊躇いがありそうなものを、十六夜は何も言うことなく受け入れた。

 

「さあ、明日のために今日は帰って休もう。どうやら勝ち上がった相手は難敵のようだからね」

「……そう」

 

 ディヴァインの言葉に、十六夜は少し声のトーンを落とし答える。様子がおかしいことに気が付いたディヴァインは、眉を少しだけ下げた。

 

「どうした。何か心配事でもあるのか?」

「……いいえ、特には」

「そうか。ならいいんだが」

 

 ふむ、とディヴァインは下あごに手を添えて考える。

 十六夜は否定したが、その声音からは何かあることが明白だった。

 

 この大会で一番の目的は、アルカディアムーブメントをを世に知らしめるための宣伝広告だ。十六夜には広告塔として働いてもらう必要がある。

 そのためには、ぜひとも大会には勝ち進んでもらわなければいけないし。最低でも、決勝戦にはいってもらいたい。

 

(なにより、ただの子供なんかに負けるようでは、兵士としての価値が下がる……)

 

 ディヴァインがそこまで考えた結果、あることを決断した。

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、デュエルスタジアムの通路にて、二人の男が鉢合わせていた。一人は褐色肌の男ボマーであり、もう一人はネオドミノシティが誇る王者ジャックである。

 

 この二人の間に特別な友好関係はなく、それゆえボマーは何も言わず、すれ違おうとした時だ。ジャックがおもむろに口を開いた。

 

「精々、気を抜かないことだ」

「……どういう意味でしょう」

 

 ボマーは足を止めて振り返る。

 ジャックが相手に労いのような言葉をかけること自体、摩訶不思議なことなのだが。それよりもボマーは、彼がそう言った真意のほうが気になった。

 

「フン。言葉の通りだ。次の対戦、子供だからと油断すると足を掬われる」

「まさか……本当にそれを言いに、わざわざ来たのですか? キングが?」

 

 ここでボマーは目を剥いた。

 いつもなら中央塔にあるVIP観客席で、ふんぞり返っているはずの男が、こんな所をうろついているわけがない。

 つまり、ジャックはボマーに言葉を投げかけるため、ここまで出向いたことになる。それは感じ取っていたのだが、まさかの言葉に驚きを隠せなかった。

 

 ボマーの動転も無視して、ジャックが彼に向き直る。

 

「勘違いするな。貴様を心配してのことではない。無様なデュエルをするなという忠告だ」

「ますます意味が分からない。ゴドウィン長官の指示通り、私は自身の使命を果たすつもりだ」

「そんなこと関係ないと言っているのだ。他人から与えられた使命など、デュエリストには何の役にも立たん。己の闘争心こそ、真に必要なことだ」

 

 ジャックはそう言うと、ボマーの胸に拳を当てる。

 

「他人から貰った滾りなど、捨てて挑むといい。あの子供は、俺の弟子が育てた弟子――孫弟子のようなものだ。不甲斐ないデュエルはしないことだな」

 

 不遜とも思えるその言葉に、ボマーは言葉を失った。

 

「(誰だ、コイツは……本当に、仮初のキングなのか……?)」

 

 その言葉だけが脳裏によぎる。

 目の前にいる男は、ゴドウィンに用意された張りぼての王者ではない。そんな伽藍堂のような空虚な瞳を、ジャックはしていなかった。

 

 体に一本の通った芯があり、己のことを絶対と信じるその姿勢。一見、傲岸不遜にも思えるが、ジャックは相手を貶しているわけでもなければ、己のプライドにかまけているわけでもない。

 相手を理解し、高めたうえで、それでも相手を打ち負かす。絶対的な王者としての貫禄を帯びた男は、ボマーという男すら拾い上げ、次の対戦者へとぶつけようとしているのだ。

 

「フ、フハハハ! 意外だ、あなたがそんなことをする男だとは!」

「……」

「そして人が悪い。その言葉がなければ、あの少女はもっと楽なデュエルができたでしょうに」

 

 少しだけ滾ってしまった。

 ジャックにこれほど言わせる子供たちに。

 

 しかし、それをボマーは押し込める。

 

「だが申し訳ない。私には私の使命がある。そのためのデュエルだ。こんな形でなければ、貴方の言葉に心躍らせたでしょう」

 

 ボマーはそう言って一礼すると、デュエルステージへと向かった。彼の背中は大きいようで、小さく見える。

 

 ジャックはボマーの後姿を見ながら、ぼそりと呟いた。

 

「少女……? 何を言ってるんだ、あいつは」

 

 次の対戦者はどう見ても少年だろ、とジャックは思うのだった。

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

「龍亞――じゃなくて、龍可がんばってね!」

「おう! 遊太に続いて、俺も勝ち上がっちゃうもんねー!」

 

 妹に扮した龍亞はガッツポーズをして立ち上がる。

 お調子者特有の気軽さで、「よーし、やるぞー」とぶんぶん腕を振り回して、選手待機室から出ていこうとした。

 

「龍亞」

 

 そこに遊星から声がかけられる。

 

「なに、遊星?」

 

 龍亞が振り返れば、彼はクールな笑みを浮かべた。

 

「カードを信じろ」

「……おう!」

 

 龍亞はそう返事し、出ていこうとして、そして立ち止まる。

 振り返った先で見たのは、遊太だった。

 

「俺、絶対に負けないから。見てて、遊太」

「うん。待ってる」

 

 それだけを交わすと、龍亞は退室する。

 残された遊星は彼らを見て、ふっと笑った。

 

「少し、お前たちが羨ましい」

「え?」

 

 その言葉には悲しげなものが含まれていて、されど何処か満ち足りた声色を含んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、波乱の第2試合を終え、続く第3試合に期待が膨らみます! 第3試合の選手を紹介しよう! おそらく全世界のキッズが彼女を羨ましく思ってることだろう! 舞い降りたデュエルの天使、Ms.龍可ちゅわーーーん!!』

 

 MCの声に呼応し、なぜか男たちの歓声があがる。

 龍可に扮した龍亞は、気持ちのいい笑みを浮かべながら、観客に手を振った。ファンサービスがよいことである。

 それを見た本物の龍可が、頭を抱えたことは言うまでもない。

 

『それに対するは、熱い闘志を秘めた男、黒き暴風ボマー―――!!』

 

 対して静かな立ち姿でボマーは現れた。秘められた闘志を隠すように、大人な笑みで目の前の龍亞を見る。

 

 そしてお互いに近づき握手。

 

 開口一番、龍亞は「でけー」と声を漏らした。

 

「ふ、女の子と聞いていたが、なにやら男の子のようだな」

「え? ――あ、ああ! 俺よくそう言われるんだよね……! こんな感じだけど、一応女、うふん♪」

 

 龍亞がそう言ってセクシーポーズを決めた瞬間、観客席から、ばぎり、と聞こえてはいけない音が聞こえた。

 隣に座っていた天兵は、おそるおそる、音の発信源を見る。

 

 少しだけヒビの入った携帯。

 ぷるぷると震える龍可の肩。

 

 そして、次の瞬間にはデーモンの斧を片手に走り出してしまいそうな、少女とは思えない面貌があった。

 

「(触らぬ神に祟りなし……と。成仏してね、龍亞)」

 

 天兵は内心で、そう合掌した。

 

 

 そうしてデュエルは始まる。

 

「「デュエル!!」」

 

 先行はボマーだった。

 

「私のターン、ドロー」

 

 ボマーは引いたカードを手札に加えてから、己の置かれている状況を整理した。

 ここに立っているのは自分の使命を果たすため。しかし、その使命を果たすためには、屈辱的ながらもゴドウィンから与えられた仕事をこなさなければいけない。

 

 その仕事とはつまり、対戦相手である彼女がシグナーかどうかを見極めるというもの。

 追い込めば追い込むほど、何やらシグナーの力は高まるらしい。であれば、ボマーに完勝は許されない。また、圧倒的敗北はあってはならない。程よい力加減をしつつ、じっくりと、蜘蛛のように追い詰める。

 己には不向きだと思いながらも、ボマーは思考の末、最初の一手を決めた。

 

「私は<可変機獣ガンナー・ドラゴン>を召喚」

 

 

<可変機獣ガンナー・ドラゴン>

闇属性|レベル7|機械族/効果

攻2800|守2000

 

 

「げげ、いきなりレベル7のモンスター!? リリースも無しに召喚できちゃうの!?」

「ふ、安心するといい。ガンナー・ドラゴンはリリースなしで召喚した場合、その力の真価を発揮することはできない」

 

 ボマーがそういうと、フィールドに出ていた赤い装甲の機竜は、たちまちに半分のサイズに縮んでしまった。戦車のようなキャタピラが激しく回転し、地面を擦る。

 龍亞はその威嚇とも思えるモンスターの行動に、ひっ、と短い悲鳴を出した。

 

 

<可変機獣ガンナー・ドラゴン>

攻2800 → 1400

守2000 → 1000

 

 

「カードを1枚伏せ、私はこのままターンエンド。さあ、君の力を見せてくれ」

 

 ボマーがターンを譲ると、龍亞はゆっくりと山札に手をかけ、そして引いた。

 

「俺のターン……ドロー!!!」

 

 そして引いたカードを見る。

 引いたのは<D・モバホン>。

 いつもなら喜んでいただろう初手のカード。しかし、龍亞は絶望した。

 

「(やばい、手札事故ったかも……)」

 

 そう、龍亞の手札には既にモバホンが2体いた。

 つまり3体目のモバホンにより、手札の半分がモバホンによって埋め尽くされた状況である。

 

 カードを信じれば答えてくれると遊星は言っていたが、これはどう考えても答えすぎている。

 

「(モバホンの他は、<D・ステープラン>と<D・ラジカッセン>……どれも一枚だけじゃ攻めも守りも微妙になっちゃう)」

 

 ならば、もう賭けるしかあるまい。

 

 脳内に知らぬおじさんが「やらなくてどうするっ……! 勝つ為に生きなくてどうするっ……!!」と謎の熱いエールを送ってきた。なぜか「ざわ……ざわ……」と効果音すら入ってくる。

 

 龍亞は覚悟を決めて、モバホンを繰り出す。

 

「俺は<D・モバホン>を召喚! モバホンの効果発動! ダイヤルに出た数字の分だけ、デッキトップを捲る!!」

 

 呼ばれたモバホンは、ガラケーの形から変形すると、荒ぶる鷹のポーズにて登場する。

 これが彼の考えた、マスターが喜ぶカッコいいポーズなのかもしれない。

 さて、件のマスターの反応はいかに、と後ろをモバホンが振り返ると、彼はそんなものに気にしている余裕がないのか、「頼む……出てくれ……いい数字……!!」とギャンブル依存症の人間がしてそうな特徴的な鼻で、祈りを捧げていた。

 もの悲しくなったモバホンは、まるでスロット台になったような気持ちで、ダイヤルのルーレットを開始する。

 

 そうして、ルーレットは止まった。

 

 

<D・モバホン>

地属性|レベル1|機械族/効果

攻100|守100

 

 

「……嘘、2」

「どうやら当てが外れたようだな」

 

 モバホンの指し示していた数字は「2」。

 つまり、2枚だけ捲り、良いカードを引き当てなければならない。

 龍亞の脳内に出てきた謎の男が、目も当てらないと言った様子で、手で顔を覆った。

 

「へ、へへーん、数字なんて関係ないもんね! 俺とディフォーマーの絆があれば、どんな時でも奇跡を呼び込むんだ!」

 

 強がりを言いながらも、龍亞はそう言って山札に手を掛けた。

 そして、カジノでトランプ遊びをしている人間のような慎重さで、うっすらとカードを覗き見る。

 

 出て来たのは、上から<団結の力><D・インパクトリターン>であった。

 そもそもモンスターカードですらない。

 

「(ごめん、遊太、龍可、遊星……俺、負けたかも)」

 

 龍亞は今にも泣きそうな顔を浮かべながら、ボマーにディフォーマーモンスターがなかったことを示し、デッキへと捲ったカードを戻す。

 これにより、このターン龍亞にできることが終了した。

 

 手札事故は、誰しもが起こりうる悲劇なのである。




あー、手札事故しねー体になんねーかなー
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