5D's:武藤遊戯の孫 作:ジャガイモ
遅筆なんですぅ…(泣)
フォーチュンカップ2日目――。
『いよいよ大会2日目! 泣いても笑っても今日のデュエルでキングへの挑戦者が決定するぅ! 準決勝第一試合は、一回戦の衝撃いまだ生々しい黒薔薇の魔女、十六夜アキ! 対するは、子供ながらに鮮烈な勝利を収めた亀のゲーム屋! 武藤遊太ァ!!』
デュエルスタジアム内でMCの声が轟く中、二人の男がある部屋で対峙していた。
「――なるほど。お前のやりたいことは大体分かったぜ」
「ご理解いただき感謝します、モクバ名誉会長」
その部屋の中にいるのは、治安維持局長官ゴドウィンと、KC名誉会長を務めるモクバである。黒塗りされた革ソファに腰掛け、テーブルにはモクバが用意したと思われる赤ワインのボトルと空のグラスが置かれていた。部屋の中央に設置されているモニターには、モーメントの前に座る阿久津が気まずそうにしている。モクバはチラリと阿久津を見やると、すぐにゴドウィンへと視線を戻し、顔を手で覆った。
「回避できない5000年の戦い……か。夢物語みたいな話だが、ゼロ・リバースが起きたのはまごうことなき事実だ。お前の言うことの半分は信じられる」
モクバとしても、17年前の記憶はいまだに鮮烈に残っている。
天災とも呼ぶにふさわしいほどの未曾有の大災害。多くの死者を出し、多くの犠牲者をこの世に生み出した悲惨な事件。KCの名誉会長を務める彼だからこそ握る情報というのもある。人間の欲望が招いたと言っても過言ではないあの事件に、よもや人の手の及ばぬ存在が介入をしていたとすれば、それはそれで納得できるような気さえした。
モクバは覆っていた手を離すと、ワインボトルへと手をかけ、コポコポとグラスに注ぐ。
グラスに注がれた赤ワインに、ゴドウィンの顔が映った。
「胸に秘めた思いってやつか? うちのモーメントを使って何がしたいのかと探ってみれが、意外と夢想家なんだな」
「フッ、それはどうでしょう。夢や希望というものを、とうに私の手から零れ落ちました。残ったものなど、取るに足らないものばかりです」
「にしては、必死なように見えるが」
「それこそ買い被りすぎというもの。私は只の凡人ですので、何事も余念なく物事を進めたいだけです」
「そうかよ」とモクバは言い、面白くもなさそうにワインを呷る。そのまま足を組みかえると、グラスを持った人差し指をゴドウィンへと伸ばした。
「さっきの話だが、ひとつだけ合点がいかねーぜ。そのシグナ―というのを覚醒させる大会の意図はわかった。お前がしたいことも理解はできる。――だが、なぜ武藤遊太にこだわる? あいつもシグナ―なのか?」
それが本題だったとも取れる威圧感で、モクバはゴドウィンにそう問いかけた。目はまっすぐと彼を打ち抜き、嘘を吐こうものならどうなるか分からない、と素振りで忠告しているようにも見える。
モニター越しに見守っていた阿久津も、これにはいつものハイテンションは消え失せ、ただただ汗をじっとりとかいて口を噤ませた。
しかし、対峙するゴドウィンだけは何ともない顔で、モクバの前に置かれたワインボトルを持つ。
「いいえ。あの子供はシグナ―ではないでしょう」
「だったら――」
「しかし」
ゴドウィンはそう遮って、モクバにワインボトルの口を向けた。
注ぎ足します、と暗に伝えるその動作に、モクバは黙って干したグラスを差し出す。
こぽこぽ、と再び注がれるワインの液体。次にその水面に映ったのはモクバの訝しげな顔だった。
「彼は直接的にしろ、間接的にしろ、多くのシグナ―の覚醒に関わっているのも事実です。まるで何かに導かれるようにね」
ゴドウィンはワインボトルをテーブルへと戻し、空間ディスプレイを呼び出すと、高速タイピングである画面を開ける。
そのままモクバの前へと、ディスプレイを移し、とうとうと解説を始めた。
「はじまりは8年前。ある少女とのデュエルで事件が起きました。その少女は、わずか3歳にしてデュエルに精通した天才児。デュエルキッズ大会に出場した彼女は、しかし、その決勝戦のデュエル中に意識を失い、一か月もの間、昏睡状態に陥ったそうです。回復後、彼女は意識を失っていた期間、自身はデュエルモンスターズの精霊世界にいたと証言しました」
精霊世界に関しては、私どもより貴方の方が詳しいかも知れませんね、とゴドウィンは注釈を入れる。
モクバはゴドウィンに渡されたディスプレイの内容を確認し、ちっと軽く舌打ちをした。その記事に映っていたのは、遊太が最近できた友達と言って紹介していた龍可たちの姿であり、この事件に関してはモクバも軽くだが知っている。
(まさかこれを、こいつが知っていたとはな……迂闊だったぜ)
モクバはゴドウィンをきっと睨むが、なおもゴドウィンは涼しげな面持ちで己の解説を続けた。
「そう睨まないでください。さらに半年前、亀のゲーム屋にてジャック・アトラスとの会合。彼はその経験を活かし、その影響故か、つい最近では不動遊星とのデュエルにて、赤き竜をもこのデュエルスタジアムに降臨させた」
ゴドウィンはディスプレイの中身を切り替え、その時の映像を見せる。
ジャック・アトラスと不動遊星のデュエル。そして、それをVIP観覧席で見ている武藤遊太。確かに、シグナーに何かしらの転換を与えるとき、遊太は高い確率でその場面に遭遇していた。
「そして今、四人目のシグナ―とも呼べる十六夜アキとの戦い。……これらすべてを偶然と呼ぶには不可解なほど、彼はシグナ―との関わりを持っている。運命の導きか、もしくは神の悪戯か……私たちはそれを確かめるためにも、彼の大会参加を許可しました」
ゴドウィンはディスプレイを閉じ、モクバを見る。
「彼がシグナ―であるかと問いましたね、モクバ名誉会長」
「……」
「それは我々こそ、彼に問うべき事柄なのかもしれません。彼は一体何者なのか。この戦いで何を担っているのか、をね」
訪れた静寂。モクバはゴドウィンの瞳をじっくりと見つめ返しながら、それでも何も言わず、何も動かず、何も示そうとはしなかった。
対するゴドウィンも、何かを期待していたわけではない。KC名誉会長でもある彼を出し抜くことなど、ほぼ不可能だと知っている。ここでモクバがどう返そうと、それは他愛もない、取るに足らない談笑の延長線になると思っていた。そうなると予想していた。
しかし、モクバの沈黙がゴドウィンには少し不気味に思えたのだ。
笑うでもなく、怒るでもなく、悲しむでもない。
モクバが浮かべた表情は、本当に何の情報も与えない色の欠落した顔だったから。
「はぁ……馬鹿馬鹿しい。聞いて損したぜ」
はじめに静寂を切り裂いたのは、そんなモクバのため息だった。彼はくだらなさそうにワイングラスをテーブルに置き、乱雑に頭を掻く。
「正直、俺もお前の気持ちってのは分からなくはない。逆に共感できるところさえある。同じ、優秀な兄を持つ弟という立場だしな。……だから、これはそのよしみってだけのアドバイスだ」
モクバはそう言ってソファから立ち上がった。
「あまり己惚れるなよ、若造。一人の人間ができることなんて、所詮、限りがあるんだ」
「……若造、ですか。私にそう言えるのは貴方くらいのものでしょうね」
それだけを交わし終えると、モクバは部屋から立ち去った。画面通話を繋いでいた阿久津も、モクバの退室をきっかけに仰々しい態度で出ていく。
残されたのはゴドウィンだけ。赤ワインの入ったグラスには、彼の重々しい表情だけが映り込んでいた。
ゴドウィンはそれをそっと手に持って、光に翳す。
「残念です、モクバ名誉会長。ひとつだけ貴方は履き違えている」
光に照らされ色が薄くなった赤い液体。それはシグナーの腕に刻まれる痣と同じ色の輝きを持っているように見える。
兄の腕から発せられたその光を思い出しながら、ゴドウィンは17年前の光景、そしてイリアステルと出会った時のことを思い返した。
「一人の凡人では限界があろうと、一柱の神に限界などないのですよ」
今日、シグナーが全員揃う。それが計画開始の合図となることはゴドウィン以外、誰も知らない。
× × ×
時を同じくして、デュエルスタジアム裏側の通路。そこで天兵、龍亞、龍可、遊太の子供組は選手控え室から一般観客席へと向かうように歩いていた。今日になって、どうやら選手控え室が使えないらしいのだ。残り人数も4人となったことで、対戦相手同士が一室で顔を合わせるのも不味いだろう、とのこと。
ならば、一人一人に待機室を用意すればいいのでは?、と龍亞が聞いてみたが、運営側からは、君たち子供を1人待機させるのも危ない、と回答された。話を聞いていた遊太が謎に納得を示したのもあり、龍亞たちは同じ観客席で観覧するべく、いま歩いているのである。
そんな移動の中、天兵が後ろを歩く遊太を横目で確認しながら、龍亞の耳に近づいた。
「ねぇ、龍亞……今日の遊太君、元気ないよね?」
緊張してるのかな、と天兵は龍亞へと耳打ちする。語りかけられた龍亞も、天兵の言葉に耳を傾けながら、こっそりと後ろを歩く遊太を見てみた。
自信なさげに背中を丸めている遊太。顔色からは疲れが見て取れる。いつもの彼らしくないと気づくには十分すぎる異常のように見えた。
んー、と唸り声を漏らした龍亞は、抑え気味な声量で天兵に返す。
「いつもの遊太らしくないってのは確かなんだけど、なんていうのかな……ピリついてる感じっぽいんだよね」
「やっぱり?」
「でも、聞いても『何でもない』って誤魔化されちゃったんだよな~……」
当然、ここに来るまで龍亞が気にかけていないわけがない。いつもと様子の違う遊太を見た龍亞は、今朝出会って早々「何かあった?」と聞いていた。
しかし、はぐらかすように遊太は、乾いた笑みを浮かべながら「あ、あはは、何もないよ!」と答えるだけ。明らかに何かあった返事の仕方なのだが、本人が話さないため事の真偽を確かめる術もない。しかも、今日に限って遊太の母親もいなかった。
他に知ってそうな人間がいるとすれば……、と龍亞は隣で歩く龍可を見やる。
「ねぇ、龍可はなにか知らない?」
「……」
「ねぇ、龍可ってば! 俺の話聞いてる!?」
ずっと俯きがちに歩いていた龍可が、顔隠し用のフードを少し上げて龍亞を見る。
「……え? ……ぁ……ごめん、聞いてなかった。なに?」
「いや、だから遊太の雰囲気がいつもとさ――」
とその時だった。彼らの前にある通路の曲がり角から、音もなく十六夜アキが現れたのは。
思わず、前を歩いていた天兵、龍亞、龍可がびくりと肩を跳ね上げる。
さらには龍亞が「あぁっ、魔女のお姉ちゃん……!?」と言って、みじろいでしまった。
そこまでされれば、誰だって足を止めてしまうもの。十六夜も当然の如く、過剰な反応を示した子供組を一瞥し、顔に暗い影を落とした。
遊太はだけじぃっと彼女の顔を見つめた。
「……」
「……」
遊太の反応に気がついた十六夜は、何も言わずその視線をまっすぐと受け入れる。
お互いに発する言葉はない。
遊太は首にぶら下げられた千年パズルに繋がった鎖を握り、十六夜はぎゅっと龍の痣がみざまれた腕を握る。
準決勝の対戦者同士というのもあるだろう。これに勝ち進んだ者が、今大会の決勝戦に進められる大事な対戦カード。両者ともに勝ちたい理由があり、両者ともに負けられないという気持ちがある。
だがそれだけにしては妙に重苦しい空気だった。
耐えきれず、半ばギャラリーと化してしまっている龍亞が、天兵と龍可に耳打ちする。
「な、なんか空気重くない……?」
「う、うん……遊太君のほうも、自信はなさげだけど、じっとお姉さんを見てるよね……」
「緊張とかだけじゃないように見えるわ……」
両者、睨みあうというほどのものでもないが、視線を交わすこと数秒。
先に十六夜が遊太たちの横を通り過ぎるように動いた。
しかし――。
「ま、待ってよ!」
――それを遊太は振り返って呼びかけたのだ。
遊太の言葉に十六夜の足が止まる。どうやら遊太の言葉を聞くつもりはあるらしい。
それを理解した遊太は、意を決したらしく、十六夜の前へと回り込んだ。
再び、十六夜と遊太の視線がかち合う。
「っ……」
「私に何の用だ」
十六夜がそう高圧的な態度で問えば、遊太はまた気弱そうな姿勢をみせた。
「僕が、僕が聞きたいことは一つだけだよ……! 本当にお姉さんたちが、僕の大切なデッキを取ったの……!?」
「「「え」」」」
遊太の言葉に龍亞、龍可、天兵までも素っ頓狂な声をあげる。
しかし、その疑問を投げかけられた当人である十六夜だけは、遊太の言葉に薄い反応を示した。
「いきなり、なんのことだ」
「昨日、僕の家に強盗が入ったんだ……セキュリティの人は、犯人を雇ったのはお姉さんの所属するアルカディア・ムーブメントじゃないかって……」
次第に遊太の声は萎んでいったが、何とか最後まで吐き出されることには成功した。
されど、十六夜は雄太をじっと見つめるだけで、特に驚いた様子もない。逆に嫌に冷静さが伝わってくるような気さえする。
少しばかり沈黙が続いた後、十六夜の口からは衝撃的な言葉が発せられた。
「証拠は?」
「え……?」
「私たちアルカディア・ムーブメントがやったという証拠はあるのかと聞いている」
「それは……ないけど……」
ここで完全に遊太は俯いてしまった。
証拠なんてあるはずがない。ただセキュリティが言っていた情報と、憶測からくる状況証拠のみで遊太はアルカディア・ムーブメントを黒幕として決めつけていたのだ。
そもそも証拠があるならば、今頃、何かしらアルカディア・ムーブメントに捜査が入っているはずである。
しかし、そんなことすら起きていないということは、未だ遊太のデッキを盗んだ事件と、アルカディア・ムーブメントとの関係が見つけられていないということ。
十六夜はそれを理解した上で、あえて厳しい意見を口にしていた。
決して遊太を馬鹿にしているわけでもなく、軽んじているわけでもない。十六夜としても、目の前にいる少年にはどこか好感を得ている。それは、フォーチュンカップ開会式の直前、遊太と龍亞が交わしていた熱い約束を目にしていたからこそ、彼女も、それを眩く思えた1人であったからだ。
だからこそ、憶測だけで自分たちを敵に回すその浅慮さに、彼女は厳しい意見をあえて口にした。
「くだらない。証拠もないのなら、ただの妄言と一緒」
「……」
十六夜はそう言って遊太の横を通り過ぎようとする。
理由はどうあれ、十六夜は完全に遊太側の意見を握りつぶした。それにより、遊太は返す言葉もなくなり、ただ項垂れることしかできなかった。
しかし、それを見過ごせないのが友というものだろう。例え、遊太が出すぎた発言をしたとしても、肩を支えてやるのが友の仕事だ。
そう言わんばかりに、十六夜の前に龍亞たちが立った。
「やいやい! なんの話か、俺には全っ然わかんないけど、遊太は真剣に困ってるんだ! そんな強く当たらなくてもいーじゃんかー!」
「そうだよ! それに、セキュリティの人に疑われたってことは、そのアルカディアなんたらっていう組織が、それだけ何かやましいことしてるんじゃないの!?」
「遊太が考えなしに発言するとは思えないわ! もし仮に、冤罪なんだったら、困ってる子供を助けようって思わないの?」
「っ……」
「みんな……!?」
子供たちの正論ぶった口撃に、立ち去ろうとした十六夜の足は止められてしまう。まさか、ここで子供たちから総反撃を受けるとは、彼女自信、想像できていなかった。
子供の蛮勇さというのは末恐ろしいものだ。さっきまで魔女と言って恐れていたくせに、一度口火を切れば、氾濫した川のように言葉の荒波を流す流す。「どうなの!?」「なんとか言ったらどうなんだ!」「遊太君だって考えなしに言ったわけじゃないはずだよ!」などなど。庇われている本人の遊太すらあたふたしているほどだ。
(なるほど、こうしてイジメって生まれるのね……)
十六夜はこの世の真理を感じたように、苦悶の表情を漏らす。
どう言い直したものか。
わざと角を立てるような言い方をしたとはいえ、ここまで反感を買われてしまっては、十六夜としても言葉を改めようと思い直す。十六夜が頭を悩ますように目を伏せれば、まるで見計らっていたかのように、前髪が特徴的な男――ディヴァインが通路の奥から現れた。
「おいおい、あんまりアキを虐めないでやってくれ。彼女も君たちと比べれば大人かもしれないが、世間一般からすれば十分に子供と言える歳なんだ。少しくらい言葉を間違えることもある」
「ディヴァイン……!」
十六夜の横にそっと立ったディヴァインは、「おい」と何人かの引き連れていた護衛に声をかけると、そのまま十六夜を後ろに下がらせた。代わりに、ディヴァイン自身が矢面に立つように遊太たちの正面に立つと、そのまま視線の高さを合わせるべく膝を折った。
「すまない、盗み聞きをするつもりはなかったんだが、聞こえてしまってね。デッキが盗られたんだって?」
「……うん」
「つまり、君は2回戦に出られないわけか……それは困ったな」
「……ううん。2回戦には出るよ。違うデッキを使ってもいいって、許可が出たから……」
遊太は龍亞たちの勢いを無くしてくれたことに感謝しつつ、しかし油断なくディヴァインと会話を続ける。
対してディヴァインは、そんな遊太を見ると、何が可笑しいのか、くすりと笑みをこぼした。
「そうか! それは不幸中の幸いだ! 私としても、君の一回戦には手に汗握ったからね。こんなことで出場できなくなるなんて心苦しく思ってたんだ」
「……」
「でも、本当に不幸中の幸いだった。"たかがカード"なんかより、君自身が無事でいてくれたことのほうが、おじさんにはうれしく思うよ。子供はこの町の宝だからね。出くわした強盗に何もされなかったかい?」
「……怪我は、してないよ……」
「そうか、それは本当によかった」
ディヴァインはにっこりと笑みを浮かべると、一瞬だけ違うところを見ていた遊太の手を無理やり掴み取って握手を交わす。
「アキのことは悪かった。彼女もまだ未熟なんだ、許してやってほしい。代わりと言ってはなんだが、アルカディア・ムーブメントの総帥でもあるおじさんが、いつでも君の力になろう。困ったことがあれば、この電話番号に掛けてくれ」
そう言って離された遊太の手には、ディヴァインが言っていた電話番号の書かれた紙が握らされていた。遊太はそれをじっと見つめながら、「それじゃ、二回戦を楽しみにしているよ」と言って去っていく、ディヴァインを見送る。横では「なんかいい人そうだったね」「意外と話が分かる人だったのかも」と天兵と龍亞が言っていた。
けれど龍可だけは、ディヴァインが立ち去った今でも威嚇をやめないクリボンと、どこか腑に落ちない顔をしている遊太を見て、どう声をかけていいか戸惑ってしまう。
しかし、このまま突っ立ていても時間だけが浪費されるだけだ。もうすぐ2回戦は始まるのだし、せめても遊太を入場ゲートまでは連れて行かないといけない。
「……大丈夫、遊太?」
龍可が恐る恐るといった様子で遊太に声をかける。
けれど、遊太は龍可の問いかけに答えるのではなく――――
「……なんで」
ただ独り言を呟くように――――
「僕が強盗に出くわしたことを知っていたの……」
――――そう言葉を溢すのだった。
× × ×
少し時間が経ち、ディヴァインはアキと別れ、自分直属の部下を引き連れ歩いていた。
遊太たちと別れてから、妙に笑顔を貼り付けているディヴァインに、直属の部下たちは不思議な顔をしている。
そのうちの1人であるディヴァインの横にいた部下が、気まずげに彼へと質問を投げかけた。
「総帥……その、良かったのですか?」
「ん? なにがだ?」
「先ほどの少年との会話。失言されていたように見えましたが」
部下の言葉を受け、「あー」とディヴァインはほくそ笑む。
失言とは何を指しているのか、ディヴァインとその部下以外はわからないのか、他の部下たちは小首を傾げたり、肩をすくめたりした。
「強盗と出会した、という部分だろう? ふふふ、わざとだよ。彼が勘のいいガキなら、あれで私たちが裏で糸を引いていたと確証を得るだろう。そうなったら、どうなると思う?」
「え? あ、まぁ、次の対戦相手である十六夜と全力でデュエルする……とかでしょうか」
もしかしたらデッキを盗られた恨みで十六夜を襲うかもしれないが、あの少年にそこまでのことは出来ないだろうと思い、部下は現実的な予測を打ち出した。
ディヴァインも概ね、その考えは一緒だったため、悪意に満ちた笑みを浮かべて、こくりと頷く。
「その通り、しかも最大限の負のオーラを向けてね。アキは困惑することだろう。なんせ身に覚えのない怒りや憎しみを向けられるわけだ。そして人々の恐怖、憎しみ、怒りに敏感な彼女は、全力で対抗しようとする。魔女の側面をもった彼女の建前がね」
だからこそ、十六夜が現実から目を背けられるようにわざわざ仮面を返してあげた。いつもなら、それを没収してでも広告塔になってもらうべく素顔を晒させるのだが、今回だけは話が別だ。
多くのサイコデュエリストは守るものを認識した時、その力を覚醒させる。また、守りたいという意思が強ければ強いほど、その力を増大させることもある。
今のアルカディア・ムーブメントでは、これ以上の十六夜の覚醒は期待できない。であれば、あれだけデュエルの強い子供を実験材料としてあてがうというのも、ディヴァインにとってはまたとないチャンスのように思えていた。
「そうなれば、あのガキはデュエルで命を落とすかもしれないな。サイコデュエリストの全力を引き出し、その礎になる……」
冷酷無比な魔女の力。軍事転用できるとなれば、一体どれだけの権力者がアルカディア・ムーブメントに依頼をよこすことか。
(ま、一番のメインディッシュは、彼には恨むべく正当な理由があり、しかもそれがアルカディア・ムーブメントだったと知ったときのアキの心境なんだが)
ディヴァインは真に秘めた狙いを独白しながら、くくく、と笑みを深める。
(己の手で罪もない子供を殺めてしまった。そうなってしまえば、アキはより深い闇に落ちる。私の最強の兵士として、これ以上の適任はいないと思わせるくらいにね)
部下からの奇異の視線もどこ吹く風。
ディヴァインはこれから思い描く自身の最高の未来に高笑いしながら、モニターに映った武藤遊太を見た。
「デッキを盗られた時点で、さっさと諦めて棄権すればよかったものを……精々、出張ってきたからには役に立ってくれよ、武藤遊太くん」
しかし、彼は知らない。
この一件で彼が喧嘩を売ってしまったのは、遊太だけではないということを。
今回、めっちゃ走り書きしてるので伝わりにくかったり、誤字多かったらすんません。
あとデュエルまで行きたかったのですが、いけませんでした(泣)
というか、考えていた架空デュエル、ちょっと納得いかず作り直してます、少々お待ちを…!もう少しで終わると思います…!
さらりと回収しましたが、龍可と遊太は小さい頃に出会っておりました、やったね一話でどきっとした伏線回収だね!
あと、この作品でディヴァインだけは確実に報われないと思います、あまりにヘイトを買いすぎました、どんまい!