5D's:武藤遊戯の孫   作:ジャガイモ

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第二十三話 マジシャンガールコンボ

 

 

 遊太の前に白と青を基調した女魔術師が現れた。

 

 鍔の広い三角帽子に、ちょうど右目が隠れるように垂れる銀糸を紡いだような長髪。すらりとした長い脚を動かせば、裾広がりの白亜の衣が怪しくたなびく。

 静謐そのものを体現した魔術師は、遊太に一瞥をくれると、自身のマスターを守るべく白杖を前へと突き出し、臨戦態勢をとった。

 

「頼んだよ、サイレント・マジシャン……」

 

「これが、サイレント・マジシャン……」

 

 場に出てきた静謐の魔術師を眺め、十六夜はそう呟きを漏らした。

 ジル・ド・ランスボウが使っていたサイレント・ソードマンと同じ系譜。しかし、その威圧感は比べるまでもなく――――。

 

「特殊召喚した<沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン>は僕の手札の枚数によって、その数値を変動させる。僕の手札は合計6枚。よって攻撃力は――――4000となる」

 

 

<沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン>

攻撃力1000 → 4000

 

 

 

 

 

 

「いいぞー! それで化け物を攻撃しろ!」「魔女を倒せー!」「魔女を叩きのめせ!」「化け物がデュエルを汚すな

!」「とっとと巣に帰れー!」

 

 

 

 

 

 

「さらにリリースされた<ディメンション・コンジュラー>の効果で、僕はデッキから2枚ドローし、その後2枚のカードをデッキの上に戻す」

 

 観客の罵声を無視して、遊太は引いた2枚を確認する。

 ここで選択を誤れば、間違いなくこの後のターンに響く。戦術ミスは許されない。

 慎重に選び抜いた2枚をデッキの上に好きな順番で戻し前へと振り返れば、遊太の場に出ていたベリー・マジシャンとサイレント・マジシャンが、静かに次の命令を待つよう遊太を見つめていた。

 

「……よし。このまま、バトル! <沈黙の魔術師―サイレント・マジシャン>で<姫葵(ひまり)―マリーナ>を攻撃!」

 

 このデッキにおける初めてのデュエル――初めての攻撃。

 マスターである遊太に良いところを見せたいがためなのか、サイレント・マジシャンは最高潮に高まった魔力を解放するべく、左手を高らかに天へと掲げた。

 

「いけ、サイレント・マジシャン――――サイレント・バーニング!!」

 

 サイレント・マジシャンの左手から微かな光が滲み出た。

 滲んだ光は瞬く間に膨張を始め、周囲の闇を切り裂くように広がっていく。目を焼くような鮮烈な瞬きが、次第に彼女本体を包み込み、やがて敵をも飲み込んだ。

 

 まさしく――白亜の太陽。

 

 その光に音はなく、また一分の慈悲もない。

 光に飲み込まれそうになったマリーナは、何とかその光の膨張を止めようとするも、最後は情け容赦なく光の破片となって砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 そして罵声をあげていた観客席では、

 

「うわ、眩しっ!!」「ちょっとちょっと、サングラス私にも貸して!」「何がどうなってるのか全然見えん!」「ソリッドヴィジョンのエラーか!? いくら何でもやりすぎだろ!」

 

 と、サイレント・バーニングによって目を焼かれる人が続出したという。

 

 

 

 

 

 

 光が収束すれば、サイレント・マジシャンが静かに舞い降りているところだった。

 観客席は阿鼻叫喚。一部のDホイーラたちはライディングデュエル御用達のサングラスをかけていたおかげでノーダメージだが、魔女が打ち倒されるところを今か今かと凝視していた者たちほど、深刻なダメージを受けてしまっていた。

 

 十六夜も間近でサイレント・バーニングを視覚的に喰らってしまったためか、険しい表情で腕を下ろす。

 それを見たサイレント・マジシャンは心なしか「フッ」と鼻で笑うように見えた。

 

「っ、こざかしい……!」

 

 

 十六夜LP 4000 → 2800

 

 <瓔珞帝華(ようらくていか)―ペリアリス>

 攻2400 → 攻2000

 

 

 遊太はそんな十六夜の悪態を受けつつも、カードを手札から一枚抜き取りセットする。

 

「僕はこれで、ターンエンドだ!」

 

 

 <沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン>

 攻撃力4000 → 3500

 

 

 このターン、遊太の場に残ったのは、サイレント・マジシャンとベリー・マジシャン・ガール。そして伏せカードが一枚。

 対して十六夜の場には、スーペルヴィスを装備したギガプラントと、ペリアリスが今も残っている。

 

 サイレント・マジシャンの攻撃力は衰えることを知らず、最後に伏せカードを一枚伏せ手札が減ったとて、かのモンスターが築いた牙城が易々と崩れることはないだろう。

 

 しかし、手放しで喜べる状況でもないことは、遊太も理解していた。

 

 マリーナの効果は自身以外の植物族モンスターが破壊された時、相手カードを破壊するというもの。それは、十六夜が相手に攻撃を仕掛け、自爆したとしても変わりなく発動する。

 であれば、このターンに残してしまったギガプラントとペリアリスの2体で蘇生を続け、勝てないモンスターには幾度でも特攻を仕掛ければいい。そうするだけで、受動的に破壊できないカードなどないことになる。

 

(マジシャン・ガールで出す表示形式ひとつでも誤れば、即座に勝負の流れが持っていかれる……)

 

(あの攻撃力400のモンスター……きっと何かある。効果の処理、攻撃するモンスター、攻撃対象の選別……使い所と順番は間違えられない)

 

(一手差し違えれば、そこで勝負がつくかもしれない盤面……十六夜さんのミスを誘うことは難しい)

 

(互いにミスをすれば命取りとなる盤面……この子が手を誤るのを期待するべきではない)

 

 

 ――――((ならば確実に、相手を戦術で上回るのみ))

 

 

「私のターン。まずはペリアリスの効果発動。手札から<光の王マルテル>を守備表示で特殊召喚する」

 

 ヒリつくような空気の中、デッキからドローした十六夜が、手札からモンスターを横向きにセットする。

 ペリアリスがヨウラクユリの蕾をひとつ取り、ふっと息を吹きかけ飛ばす。風に吹かれた蕾はやがて開花し、そこから背に蝶の羽を持ったマルテルが飛翔した。

 ペリアリスの下げている4つの瓔珞のうち、2つに光が灯る。

 

 

 <光の王 マルテル〉

 光属性|レベル8|植物族/効果 

 攻2400 守2400

 

 <瓔珞帝華(ようらくていか)―ペリアリス>

 攻2000 → 攻2400

 

 

 

「さらに<光の王マルテル>のモンスター効果発動。このカードが場に出たことにより、デッキから2体目の<ギガプラント>を手札に加える。

そして場にいる〈ギガプラント〉の効果も発動。手札に加えた2体目の〈ギガプラント〉を攻撃表示で特殊召喚」

 

「2体目のギガプラント……っ、まずい! 十六夜さんは召喚権をまだ……!」

 

「そう、私はまだ召喚権を行使していない。2体目のギガプラントを、そのまま再度(デュアル)召喚! これにより、このモンスターの真価を発揮する……さぁ、再び咲き誇りなさい、〈姫葵―マリーナ〉!」

 

 2体目のギガプラントが、十六夜の号令により蔓の触手を地面へと打ち付ける。ひび割れた地面から引き摺り出されたのは、当然先のターンで破壊されたマリーナであった。

 

 ギガプラント2体と復活したマリーナは互いに円陣を組むと、サイレントマジシャンを威嚇するように、それぞれ決めポーズを決める。空中には謎に「ギガプラントで来た」という文字が、幻視したような気がした。

 

 地元のノリについていけなさそうなペリアリスが、白眼視でそんな3体を眺めていると、場に四体の植物族モンスターが並んだことにより、下げていた4つの瓔珞全てに光が灯る。

 

 

 <瓔珞帝華(ようらくていか)―ペリアリス>

 攻2400 → 攻2800 → 攻3200

 

 

『な、何ということだぁ!? 凄まじい展開力――いや、驚きの繁殖力といった方が正しいのかぁ!? これで十六夜選手の場は、上級植物族によって埋め尽くされてしまったぞぉーー!』

 

「やばっ……!」

 

「今さら怖気づいても遅い。バトルフェイズ。まずはペリアリスで<沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン>へ攻撃……! 瓔珞天舞・絢爛滅殺!」

 

「っ――、向かいうてサイレント・マジシャン!」

 

 ペリアリスがゆっくりと舞い上がり手を広げると、無数の光の粒が鋭い刃や弾丸のように変化し、サイレント・マジシャンに向かって一斉に掃射した。

 立ち向かうは、白亜の魔術師。

 彼女は遊太を守るように杖を構えると、ペリアリスが発射した弾数を遥かに凌ぐ連弾で、ことごとくを撃ち落とす。

 そして最後には、自身のマスターを傷つけようとした不届者(ペリアリス)を見事に撃ち落としみせた。

 

 

 十六夜LP 2800 → 2500

 

 

 轟音が響き渡り、モンスターが傍で爆散するも、十六夜の瞳は微動だにしていない。それどころか顔に降りかかるポリゴンの粒子にすら、まったく意に返さない様子を貫いた。

 

「……ペリアリスが破壊されたことで、マリーナの効果を発動。あなたのサイレント・マジシャンを破壊する」

 

 十六夜がきっと睨むサイレント・マジシャンを指差せば、マリーナは太陽の光を浴びるようにその身へと集め、両手を前へと突き出した。

 陽光から光弾へと。人に恵み与えるはずのエネルギーはやがて武器となり、ペリアリスとの戦闘で隙を見せたサイレント・マジシャンを横から撃ち抜く。

 

 刹那――遊太に破壊のフィードバックが入った。

 

「あがあぁっ!?」

 

 思わず前のめりに倒れそうになる。

 けれど、それを気力と根性で踏みとどまった遊太は、<沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン>の効果を発動させた。

 

「サイレント、マジシャンの……破壊時効果、発動……っ! デッキから、サイレント・マジシャン、Lv8を、特殊召喚、できる……!」

 

 デュエルディスクから飛び出したカードを引き抜き、遊太はそれをなんとかモンスターゾーンへと置く。

 さっき破壊されたばかりのサイレント・マジシャン。そのカラーリングは白から黒。青から赤へと変化していた。

 

 

 <サイレント・マジシャンLv8>

 光属性|レベル8|魔法使い族/特殊召喚/効果 

 攻3500 守1000

 

 

 

『十六夜選手の攻撃を切り返し、なんと新たなサイレント・マジシャンが降臨したぁ! 攻撃力は変わらず凄まじい! これで十六夜選手の猛攻は止まってしまうのかぁ!?』

 

(いや、多分これでも……)

 

「当然――私の攻撃は止まらない」

 

 十六夜はさらに新たに召喚されたサイレント・マジシャンを指さした。

 

「スーペルヴィスを装備したギガプラントで、サイレント・マジシャンLv8を攻撃!」

 

 赤い闘気を漲られせたギガプラントが、今度は俺の出番だと主張するように蔓の触手を振り上げる。その触手は束ねられ、次第に大きな太巻きのハンマーへと変形すれば、容赦なくサイレント・マジシャンへと振り下ろされた。

 が、それでも届かず。

 先ほど無残にも破壊された自己の分身の無念を晴らすためか。はたまた、自己の分身を使い己がマスターを傷つけたことに対する往復か。

 サイレント・マジシャンは杖を横一閃に振り抜きると、蔓のハンマーを跳ね除ける。すかさずがら空きとなったギガプラントの胴体に向け、魔力弾をぶつけた。

 

 しかし。

 

「ギガプラントが破壊されたことで、マリーナとスーペルヴィスの効果を発動……サイレント・マジシャンLv8を破壊し、墓地へいったギガプラントを攻撃表示で特殊召喚する。さぁ、これで地に沈みなさい、武藤遊太……!」

 

 深紅に染まったオーラを脱ぎ捨てて、胴体を貫かれたはずのギガプラントは未だ健在だった。

 再生されていくギガプラントの体。

 それに目を見張ったサイレント・マジシャンに、マリーナの一撃が放たれる。

 

「あ、くぅ……!」

 

 とうとう遊太は、再度膝をつく。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 サイコデュエルで力を強く使い続けているせいなのか、攻撃する側の十六夜も酷く呼吸を荒げていた。

 

 

 十六夜LP 2800 → 1400

 

 

 

 

 

「な、なんで、あの子どものほうがダメージを受けているんだ……? ライフは削れていないはずだろ」「おい、あれって……」「間違いない、モンスターを破壊されるたびに、あの子にダメージが入ってるんだ!」「なんて冷酷な魔女なんだ」「それ以上、子供を傷つけるなー!」「そうだそうだー!」「消えろ、化け物はお呼びじゃねーんだよ!」

「「「きーえーろ! きーえーろ! きーえーろ! ……」」」

 

 

 

 

 

「……聞こえる? 彼らの声が、彼らの憎悪が……。私には聞こえるは、そしてそれを心地いいと感じている。破壊することを望み、人から恐れることを愉しむ。あははは、これが私よ! これが魔女なの! だから……これ以上、傷つきたくなければ貴方も早く棄権することね」

 

 まるで嵐のように響く観客席からの罵声。声を上げる者たち皆、悪魔の形相をしているようにすら見えてしまう。声はひとつひとつ小さくとも、それが群衆をなせば大きな悪意となって降りかかる。

 

 十六夜はそんな彼ら彼女らの声を聞きながら、冷たい視線を遊太に向ける。

 しかし遊太は、その言葉を聞いてもまだ、しっかりと十六夜を見つめ返していた。

 

「傷ついてるのは、何も僕だけじゃないよ……十六夜さんだって、いっぱい傷ついてるじゃんか……!」

「傷ついている? はっ、なにを出鱈目な……サイコデュエリストでもない貴方に、私がダメージを受けることなんて無いわ。見ろ、私の体を。これのどこに、傷があると言うの!?」

 

 十六夜の問いかけに、遊太は少しの間目を閉じた。

 そして頭を横に振って言い放つ。

 

 

 

「体じゃない……心の傷だよ」

 

 

 

「っ!?」

 

 思いもしなかった遊太の言葉に、十六夜は一瞬、目を大きく見開かせた。

 

「僕、最初に聞いたよね……? お姉さんは……いつからデュエルが、楽しいものじゃなくなったのかって……。僕は、お姉さんのことも、アルカディアムーブメントのとこも、よく知らないけど……それでも、お姉さんがその力で悩み苦しんでるってことは、僕にも分かる気がするんだ……」

 

 遊太はそう言って、固く拳を握る。

 ついていた膝を地面から離し、だらりと下げられた両手をぐっと引き絞った。

 

「デュエルは楽しいものだよ、十六夜さん……絶対に、誰かを傷つけるためのものでも……自分が傷つくためのものでもない……みんなでハラハラしたり、笑いあったり、熱くなったり……時には言い合いもするけど……! それでも、誰かが傷つくためのものじゃないはずなんだ……」

 

 十六夜は遊太の言葉を受け、苦しそうに目線を外す。

 

「……それは普通の人間の価値観よ。その輪の中に私たちサイコデュエリスト(化け物)はいない。誰もが私を恐れる。私は誰をも傷つける……こんな忌むべき印を持ったばかりに、私はパパもママも……」

 

「そんなのおかしいじゃんか……!」

 

「おかしい? おかしくなんてないわ! 今も観客が私に向ける視線、罵声、悪感情……それらこそが正しい反応。……私はこの印を、私の呪われた力を憎む。私は私を憎む……! 抑えきれない破壊の衝動を持つ私は、普通には生きられない。なにかを破壊せずにいられない!」

 

 悲痛な叫びのように聞こえた。

 誰かに助けを求めているような、そんな悲しい声。

 

 今も右腕で輝く赤い龍の痣を、忌々しそうに爪を立てている。己の身を毛嫌いするように、生きていることさえ自分では許せないかのように。

 

 しかし、だからこそ、遊太はかぶりを振って応える。

 

「違う……違うよ……! そんな悲しいこと言うなよ……! カードを持てば、みんな等しくデュエリストじゃないか……! 誰だってデュエルは楽しんでいいもののはずじゃないか……! なんで一歩退こうとするんだよ……なんでそこで止まっちゃうんだよ!? 誰かを傷つけて、一番傷を負ってるのはお姉さんの方じゃないか!! ずっと泣きそうな顔して、デュエルをただ楽しみたいって思ってるのは、十六夜さんのほうじゃないか!!」

 

 そう言った遊太の姿を見て、十六夜は言葉を失ってしまった。

 

 普段であれば、誰も彼もが傷ついたフリをし、十六夜を悪者にする。

 だから破壊の衝動に身を投じた。魔女だと言われるのならば、その通りになってやろう。そう望まれるのなら、心無い化け物として振る舞ってやろうと。

 仮面で己を覆い、破壊を楽しみ、人の不幸を肴にする。

 そんな誰もが思い描く悪役を演じることで、楽になろうとした。

 

 そうすれば自分は傷つかずに済むから。

 そうすれば自分の行動全てを正当化できるから。

 

 破壊することこそが魔女の本懐。

 破壊による結果を笑うことこそが魔女の使命。

 他人とは相容れてはいけない存在。誰からも疎まれ、後ろ指を刺され、恐れられる。自分を化け物扱いしてくる無辜の人間を傷つけることだけが、唯一胸を空くような思いになれた。

 

 だというのに……。

 

(何故……この子は泣いているの……?)

 

 十六夜の目の前に立つ少年の目は、腫れぼったく、縁は赤く充血していた。細い顎から雫がポタリと畳に落ちる。遊太は堪えきれなかった様子で、 ぼろぼろと溢れ出す涙を着古したシャツの袖口で乱暴に拭った。

 

 目の前の少年は、十六夜こそが真の被害者であり、彼女こそが一番傷つき泣きそうだと主張する。

 大切なデッキを盗まれ、この中では最も心身ともに深く傷ついているはずの少年が、十六夜のために涙を流す。

 

 意味が分からなかった。

 信じられないものを見た。

 

 しかしそれと同時、十六夜は目の前にいる少年が、どうしようもなく優しい少年なのだと理解した。自分の大切なデッキを盗んだかもしれない相手なのに……それなのに、相手を思って涙を流す。

 

 偽善とは違う、子供らしい当たり前の善意を向けてくる。

 

 もし仮に、もっと、もっと前から、武藤遊太という人間と会っていれば。

 

 この力が出たとき、自分は一人じゃないと、デュエルはずっと楽しいものだと教えてくれていれば。

 

 なにかが、変わって――――、

 

「―――――っ、やめて! これ以上何も言わないで! なにも考えさせないで……! もう、どうしようもない……私ではどうすることもできないのよ! 苦しくなればなるほど、憎しみが増せば増すほど、私のこの力は強大になる! 誰もとめることはできない!」

 

「どうしようもなくなんてあるもんか……! 十六夜さんが苦しんでるなら、ちゃんと向き合わないとダメだよ!」

 

「無理よ……! どうせ何も変わらない。何も変えなくていい……! そう言ってくれる人がいた。私の力を必要だと、愛してくれる人が。私にはそれだけで、もう……なにも考える必要はない。

だから私は、その人のために苦しみを糧にする。憎しみを力に変える……どうせこのデュエルが続けば、貴方だって私のことを今にも化け物だと恐れ、悪者にするに決まってる」

 

 優しい人間は、これまでに幾度も見てきた。

 しかし、その誰もが最後には傷ついたフリをし、十六夜という人間を悪者に仕立て上げる。

 

 もう裏切られるのは嫌だ。

 もう期待をすることにも疲れた。

 もう考えることすら億劫になった。

 

 十六夜は目の前の少年から視線を外し、手を振り上げる。

 自分を愛してくれるのは、ディヴァインだけでいいと、そう信じて。

 

「――――棄権しないというのなら、このまま終わらせてあげる。自身の浅慮さを呪いながら、果てるといい。さぁ、とどめをさしなさい! マリーナで、ベリー・マジシャン・ガールへ攻撃!」

 

 マリーナが太陽の光を集め、ベリー・マジシャン・ガールを、撃ち抜こうと標準を定める。

 その攻撃力の差2400。

 この攻撃が決まってしまえば、遊太のライフ1600を簡単に削り切る差分。

 

 しかし、攻撃態勢であったベリー・マジシャン・ガールが、突如として防御態勢に移行した。

 

「っ、お姉さんがその力を否定する限り、可能性は無くならないはずだ……僕だって、自分から諦めたくない!

攻撃されるベリー・マジシャン・ガールのモンスター効果! このカードの表示形式を変更し、デッキからマジシャン・ガールモンスター1体を特殊召喚できる!

現れろ、<レモン・マジシャン・ガール>!」

 

 ベリー・マジシャン・ガールの後ろから、黒いワープゲートが広がった。そこから姿を現したのは、黄色の衣を纏った小麦肌の魔女――レモン・マジシャン・ガール。

 彼女は登場と同時、可愛らしくぺろりと舌先を覗かせウィンクすると、見事なポージングを決めてみせた。

 

 観客から拍手喝采が沸き起こる。

 助けに来たお姉さん分の仲間を見て、またもやベリー・マジシャン・ガールの目が死んだのは言うまでもない。

 

「いくら守備表示モンスターを増やしたところで意味なんてない……マリーナよ、そのままベリー・マジシャン・ガールを破壊して!」

 

 妬ましそうにレモンを見つめていたベリーに、音もなくマリーナが急接近する。嫉妬に燃えるベリーを「まぁまぁ」と宥めていたレモンも、マリーナの接近に驚くが、気づいたときにはもう遅い。

 マリーナがひょいっとベリーを持ち上げるも、いまだにベリーは妬ましそうな目をレモンに向けたまま。そのまま空の彼方へと投げ飛ばされた。

 

 星屑となったベリー。

 ジト目のベリーが半透明になって空に浮かぶ。

 

「これであなたのモンスターは残り1体。どれだけ足掻こうとも、全てが無意味に終わることを教えてあげる……。

スーペルヴィスで蘇生したギガプラントで、レモン・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

 再度召喚を果たしていないギガプラントが、今もなおベリーを心配するレモンへと蔓の触手を振り上げる。

 

 瞬間、太陽を遮る蔓の塊が覆い被さり、巨大な影がレモンの足元に広がる。

 背筋に悪寒が走ったレモンは、反射的に身を翻した。

 

「無駄なんてことはない! 無意味に終わらせたりしない! だって、すべては繋がっているんだ……! 人も、カードも、プレイだって! 全部ぜんぶ、繋がっているんだ!

攻撃されるレモン・マジシャン・ガールのモンスター効果! 僕は手札から、このマジシャン・ガールモンスターを守備表示で特殊召喚する!」

 

 その宣言とともに、振り返ったレモンの背後に眩いばかりの光が垂直に降り注いだ。

 光は遊太とレモンを覆い尽くし、轟音と共に空間を震わせる。

 

 今にも触手を振り下ろさんとしていたギガプラントまでもが、その眩い光芒に思わずたじろいだ。

 

『ま、まさか! これは、ついに現れるのか、あのカードがっ!?』

 

 

 

 

「現れろ――――ブラック・マジシャン・ガール!!」

 

 

 

 

 杖が光を切り裂き、ピンクのスカートをたなびかせ、くるんと跳ねた金髪が風に舞う。

 召喚されたブラック・マジシャン・ガールは、マスターである遊太を見つめた後、思い出深そうに頷くとそのまま宙へと飛んだ。

 

『ついに来たぁ! 最上級魔術師から魔力を譲り受けた唯一の弟子! 我らがデュエルモンスターズ界を代表する魔女! その真価を、俺たちに魅せてくれええええええ!』

 

 ギガプラントの頭上へと迫るブラック・マジシャン・ガール。

 華麗に空中で身を翻した彼女は、今にも攻撃を始めようとしていたギガプラントの背後を取った。

 

 

 

 <ブラック・マジシャン・ガール>

 闇属性|レベル6|魔法使い族/効果 

 攻2000 守1700

 

 

 

「これによりギガプラントは、ブラック・マジシャン・ガールに攻撃しなければならない! さらにこの時、ギガプラントの攻撃力は半分になる!」

 

「っ……!?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが杖を振り抜き、魔力の砲撃をギガプラントへと打ち込む。

 それにより攻撃を強制キャンセルさせられたギガプラント。怒りの形相でレモンからブラック・マジシャン・ガールへと標的を変え、再び蔓の触手を振り上げようとするも。

 しかし、先の一撃で自身の半数の触手がかき消えていることに気がついた。

 

 

 <ギガプラント>

 攻撃力 2400 → 1200

 

 

 攻撃力が半減したギガプラントは、勢いを止められないのか。

 そのままブラック・マジシャン・ガールへと蔓の鉄槌を打ち込んでしまう。

 

「いくよ、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

 だが、当然守備力で勝るブラック・マジシャン・ガールを破壊できるわけもなく。

 ギガプラントの攻撃を物おじせず睨んだ彼女は、そのまま体を捩るだけで攻撃をかわすと、すかさず懐へと潜り込み――――

 

「――――黒・魔・導・爆・裂(ブラック・バーニング)!」

  

 杖から溢れる魔力の奔流。それが巨大な紅紫色の球を作り上げ、ギガプラントへと撃ち込まれた

 ブラック・マジシャン・ガールは守備表示のため、衝撃の余波だけが十六夜へと届く。

 

 

 十六夜LP 1400 → 900

 

 

 

 

 

 

「や、やった! これで相手のライフが、1000を下回った!」

「いいぞー、遊太ーーー! がんばれー!!」

 

 遊太が見せる初めてのマジシャンガールコンボ。

 怒涛ともいえる十六夜の猛攻を、遊太は防ぎ切るだけでなく、カウンターまでくらわせてしまった。

 

 いつの間にか、遊太のプレイングに見惚れていた者も多かったのか、龍亞と天兵の声援を皮切りに、いつしか魔女への恐怖による罵声は純粋な遊太への応援へと塗り替えられていく。

 そんな状況の中、痛みに呻いていた龍可も、立体映像に映る遊太の顔を見た。

 

(良かった……いつもの、遊太の顔……お願い、遊太のカードたち。遊太を、守ってあげて……)

 

 

 

 

 

 

 

「っ、まだ私の攻撃は終わらない……! 残ったギガプラントでレモン・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

 弱ったギガプラント(同胞)の仇を討つためか、次に再度召喚済みのギガプラントがレモン・マジシャン・ガールへと迫る。そのまま蔓の触手を鞭のように振り上げれば、しなやかな曲線を描きながら蔓の触手が振り下ろされた。

 レモン・マジシャン・ガールの体に鋭い鞭跡が刻まれる。

 そのままダメージに耐えきれず、破壊されてしまった。

 

「くうっ……!」

 

 レモン・マジシャン・ガールの悲惨な破壊により、遊太の身体にも痛覚が働く。

 隣で仲間を破壊されたブラック・マジシャン・ガールの目に、鋭さが一層増した。

 

「メインフェイズ2。私は手札から<天啓の薔薇の鐘>を発動……デッキから<ギガプラント>を加える。そして伏せカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 デッキから指定のカードを抜き取り、場にカードをセットした十六夜は余念なく遊太を睨む。

 ターンが譲られたことで、デッキに遊太は指をかけた。

 

「僕の……ターン……!」

 

 なんとか気力と根性でデッキからカードを捲る。

 ここで望まぬカードを引き込んでしまえば、遊太の劣勢は確実。最悪、次のターンで引導を渡されることだってありえてしまう。

 

 遊太は激しく打つ鼓動を感じながら、引いたカードを慎重に確認した。

 

「(来た……っ!)僕は、<ホーリー・エルフ>を召喚……!」

 

 青白い肌をもつエルフが瑞々しく登場する。

 ホーリー・エルフの防御力は2000と高く、並のレベル4モンスターでは倒しきれない硬さを誇るモンスター。

 しかし、遊太は裏守備ではなく攻撃表示のまま通常召喚してみせた。高い防御力と比べ、攻撃力は貧弱と言っても差し支えのないステータス。

 

 にも関わらず、召喚した意図とは、

 

「そして速攻魔法<ディメンション・マジック>を発動……っ!」

 

 このモンスターが魔法使い族であるメリットが大きいからだ。

 

「そのカードは――」

 

「そう、僕が<ディメンション・コンジュラー>の効果で、手札に加えたカードだ……! 僕はこのカードの効果でホーリー・エルフをリリースし……っ! 手札から<チョコ・マジシャン・ガール>を、守備表示で特殊召喚する……! こい、チョコ・マジシャン・ガール!!」

 

 人型の棺に収容されるホーリー・エルフ。

 彼女は抵抗することなく、まるで眠りにつくような穏やかさで棺へと入り、そのまま地面へと吸い込まれていく。

 

 そんなホーリー・エルフの代わりに現れたのは、棺を地面へと沈めた小悪魔風の女魔術師<チョコ・マジシャン・ガール>だった。

 彼女はブラック・マジシャン・ガールの側まで飛んでいくと、憧れの先輩に会った時の後輩キャラのように、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 ブラック・マジシャン・ガールは、そんなチョコマジシャンの頭を優しく撫でると、先輩風を吹かすように「エッヘン」と胸を張るのだった。

 

 

 <チョコ・マジシャン・ガール>

 水属性|レベル4|魔法使い族/効果 

 攻1600 守1000

 

 

「まだ、ディメンション・マジックの効果処理は終わっていない! ディメンション・マジックには、場に魔法使い族モンスターを召喚したあと、フィールドにあるカードを選択し破壊できる効果も持っている。

僕は十六夜さんの場にあるマリーナを選択、破壊する! お願い、ホーリー・エルフ、チョコ・マジシャン……!」

 

 チョコマジシャンが杖を振るえば、さっきホーリー・エルフが入った棺が、マリーナの背後から土埃を立てながら生えてくる。

 がぱりと観音開きする棺。中にはホーリー・エルフが入っており、彼女はマリーナを魔法によって拘束した。

 そのまま道連れにする形で、再び地面へと吸い込まれていく。

 沼状の地面へと引き摺り込まれていく中、マリーナは共に円陣を組み合ったギガプラントを見た。

 そして飲み込まれる寸前、なんとか右手だけを地面から出したマリーナは、サムズアップを掲げる。彼女の勇姿を見届けたギガプラントたちは、別れの涙を流した。

 

「マリーナを破壊し喜んでいるようだけど、貴方は既に召喚権も使い、私の場には2体のギガプラントが残っている……いくらマリーナを破壊されようと、次のターンに彼女を蘇生すれば、また同じことの繰り返しに――」

 

「……それはどうかな」

 

「なに?」

 

 十六夜が目を細めると同時、遊太がフィールドに伏せてあった罠カードを発動させた。

 

「これが僕の伏せた、マリーナの効果を攻略するカード……! 来い、(トラップ)モンスター、<メタモル・クレイ・フォートレス>!」

 

「メタモル・クレイ・フォートレス……!?」

 

 遊太の背後から、石造りでできた巨城が召喚される。

 その巨城は泥状となり、一旦は造形が崩れてしまうものの、すぐにゴーレムのような姿へと変形し、その頭部にブラック・マジシャン・ガールが乗り込んだ。

 

「この罠モンスターの攻撃力、守備力は、このカードに装備されたブラック・マジシャン・ガールの攻撃力分アップする……!」

 

 

 <メタモル・クレイ・フォートレス>

 攻撃力 1000 → 3000

 守備力 1000 → 3000

 

 

「いけ、メタモル・クレイ・フォートレス! 攻撃力の半減したギガプラントへ攻撃だ!」

 

「そうはさせないわ、永続罠<恵みの風>! このカードの効果により、攻撃力が半減しているギガプラントを墓地へ送り、ライフを500回復する!」

 

 十六夜が発動したカード効果により、触手を半分近く失っていたギガプラントが地面と同化し、草花をフィールドに生やす。そのフィールドに吹き抜ける一陣の風。甘い匂いが鼻腔をくすぐれば、十六夜のライフを示す数値カウンターが上昇した。

 

 

 十六夜LP 900 → 1400

 

 

「っ、やっぱりそう簡単にはいかないよね……! でも、これで残ったギガプラントを破壊できる! メタモル・クレイ・フォートレス! そのままもう一体のギガプラントへ攻撃! クラッシュ・ハンマー!」

 

 きょろきょろと、攻撃対象を見失ったメタモル・クレイ・フォートレスだが、搭乗していたブラック・マジシャン・ガールが次の標的であるギガプラントを杖で指し示す。

 遊太の命令を受け、気合を入れ直した巨城のゴーレムは、腕を大きく引き絞り、ギガプラントを殴り飛ばしてみせた。

 

 爆散したギガプラントの余波が、十六夜の頬を撫で、髪が靡く。

 もうすでに、彼女に涼しげな表情は存在していない。

 

 

 十六夜LP 1400 → 800

 

 

「そして、ダメージステップ終了時、メタモル・クレイ・フォートレスは守備表示となる……! これが、僕の考えたマリーナの攻略方法だ!」

 

 

 

 

 

 

 

「えっとえっと……つまり、どういうこと?」

 

 龍亞が遊太のいう攻略方法が分からなかったらしく、隣にいた天兵へと尋ねた。

 天兵も分からなかったのか、「えっとつまり〜……」と濁したように答えようとすれば、その隣にいた龍可が頭痛を我慢しながらも代わりに答える。

 

「マリーナは、モンスターを破壊された時に、相手のカードを破壊する効果でしょ……? でも、遊太が召喚した罠モンスターは、攻撃終了時に守備表示に戻っちゃうから……」

「っ、そうか! 相手は自分で戦闘破壊されにいけないんだ! これなら、遊太君は攻撃をしつつも、けれどマリーナの効果を発動させないカバーまでできる!」

「なるほど! よくわかんないけど、やっぱり俺の親友はすごいってことだけは分かったもんね!」

 

 

 

 

 

 

「ギガプラントが2体破壊できた今、もう十六夜さんは、ペリアリスの攻撃力を最大まであげることも難しいはず」

 

「……そうね。だけど、私が防御でモンスターを固めれば、メタモル・クレイ・フォートレスでしか攻撃を仕掛けられないあなたも、攻めあぐねることになる」

 

「勝負は、きっと……」

 

「この均衡を崩せた方に傾く」

 

 遊太と十六夜がそう言い合えば、デュエルディスクが遊太のターン終了を告げる。

 

 十六夜が自分のターンを開始しようと、デッキに指をかけた時だ。

 

(震えている……? 私が……?)

 

 自身の手が震えていることに気がついた。

 

(私が彼に怯えている……? いや、違う……彼を拒絶する気持ちはあっても、彼を恐怖する気持ちを私は持っていない……だったら、これは)

 

 そう内心で思考を回した十六夜が遊太を見つめる。

 すると遊太は、ぼろぼろの体になった今でも、子供らしい笑みを浮かべた。

 

「痛いのも、苦しいのも嫌だけど……でも、やっぱり、僕は自分に嘘をつけないみたいだ。十六夜さん! 僕は、十六夜さんみたいな強い人とデュエルできて、とっても楽しいよ……!」

 

「楽しい……? 魔女である私とデュエルすることが……?」

 

「うん……お姉さんのデッキも、すごく楽しそうだ。まるで十六夜さんの気持ちに応えるように、活き活きとしてる……! そんなにカードに愛されている人が、やっぱり僕のデッキを盗むとは思えない……!」

 

「私のデッキが、私に応えている……」

 

 十六夜はそう言って、場に残った<光の王 マルテル>を見た。

 マルテルは十六夜へと振り返り、優しく笑う。

 

 それは、どこかで見覚えのある笑み。

 母がいつも自分にかけてくれた、温かく、優しい、柔和な笑みに似ていた。

 

「っ――、そんなはずはない。私のこの震えも、お前の言葉も信じない! 私はただ破壊を楽しむだけの魔女だ! 破壊するだけの化け物だ!」

 

「だったら、意地でも楽しいと思わせてみせる……! 僕とこのカードたちで……! お姉さんの言う破壊の渇望を、デュエルの楽しさでかき消してみせる……!」

 

「やれるものなら、やってみろ……! 私のターン!」

 

 十六夜は引いた己のカードを見る。

 引いたカードは、この均衡状態を壊すに足るためのキーカード。

 しかし、これだけでは足りない。

 

「私は墓地にある魔法カード<天啓の薔薇の鐘>の効果を発動! このカードを墓地から除外し、手札にある3体目の<ギガプラント>を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

『十六夜選手! とうとう3体目のギガプラントを場に召喚したぞ! さらに特殊召喚されたことにより、彼女にはまだ! 召喚権が残っているぅ!!』

 

「ギガプラントを再度(デュアル)召喚! これにより、ギガプラントの効果発動が可能となる! 現れろ、ペリアリス! さらにペリアリスの効果でマリーナを蘇生召喚!」

 

 ギガプラントが蔓の職種を地面に差し込み、地中に眠っていたペリアリスを引き摺り出す。

 ギガプラントの蔓に捕まっていたペリアリスの左手には、さらにマリーナの手が握られていた。

 

 

 <瓔珞帝華(ようらくていか)―ペリアリス>

 攻1600 → 攻2800

 

 

「マルテルを攻撃表示に変更! このままバトル!」

 

 十六夜のフィールドにいるモンスターが、マリーナ以外全て攻撃体制に入る。

 その中にメタモル・クレイ・フォートレスの守備力を上回るモンスターはいない。

 しかし、それ以外のモンスターを処理しておくだけの攻撃力は有していた。

 

「光の王マルテルで、チョコ・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「チョコ・マジシャン・ガールには、レモンと同じく仲間を呼ぶ効果を持っている! 僕は墓地からベリー・マジシャン・ガールを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 攻撃されたチョコ・マジシャン・ガールが杖を振り、魔法陣の中からベリー・マジシャン・ガールを呼び寄せる。

 このデュエルにおいて、2回目の見せ場。

 次こそは自分のお姉ちゃんマジシャンガールズたちに負けないよう、超絶怒涛のセクシーポーズを決めようとした瞬間、チョコから攻撃を逸らされたマルテルの光弾が、ベリーの眼前へと迫っていた。

 

 ぴぎゃー、という変な効果音とともに、頭を抱え防御体制に入るベリー・マジシャン・ガール。

 光弾はベリーの三角帽子すれすれを通り、そのまま通過してから空中で爆発した。

 爆発の余波が観客先へと届く。

 

 

 <光の王 マルテル>

 攻撃力 2400 → 1200

 

 

 

「っ、躱された……!」

 

「攻撃されたベリー・マジシャン・ガールのモンスター効果。僕はデッキから<アップル・マジシャン・ガール>を守備表示で特殊召喚!」

 

 マルテルが放った光弾が弾けたことで生まれた爆煙。

 その中から飛び出てくる形で、赤いカラーリングの女魔術師が、遊太のフィールドへと舞い降りた。

 

 

 <アップル・マジシャン・ガール>

 炎属性|レベル3|魔法使い族/効果 

 攻1200 守800

 

 

「でも、ベリー・マジシャン・ガールに、攻撃対象を移す効果はない。私はマルテルで、再びチョコ・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「っ……!」

 

 さっきの一撃で力を使い切ってしまったのか、すでに疲れを見せているマルテルが、一回り小さくなった光弾をチョコ・マジシャン・ガールへと発射させる。

 攻撃力が半減してなお、マルテルの発車した光弾はチョコ・マジシャン・ガールを破壊するに足りる威力だった。

 

 チョコ・マジシャン・ガールが破壊された余波が、暴風となり遊太の体を襲う。

 

「いきなさい、ギガプラント、ペリアリス! ――――残りの相手モンスターへ攻撃!」

 

 その命令により、ギガプラントがベリー・マジシャン・ガールを、ペリアリスがアップル・マジシャン・ガールを粉砕する。

 破壊されたマジシャンガールたちは光のカケラとなり、戦いの衝撃がさらなる衝撃となって遊太を襲った。

 

「ああああああああああ!」

 

 2体同時破壊によって、後ろに転がされる遊太。

 それを激情の籠った目で十六夜は見つめた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 肩で息をし、無理やり胸を押さえて呼吸を整える。

 止まらない手の震えを否定するように、ぎゅっと握り拳に力を込めた。

 

 これだけ痛めつければ、もう立ち上がってはこれまい。

 綺麗事なんて吐く余裕など微塵も無くなっただろう。

 そう思った十六夜の口角がニヤリとあげられた。

 

「どう? これでも楽しいって言える? 私は楽しいわ! 誰かを破壊し、その人の人生を狂わせられて! 貴方も、自分のデッキを盗まれた悲しみを、怒りを私にぶつければいい! 憐れみなんていらない! 同情なんてほしくない! デュエルの楽しさなんて、この愉悦さえあればいい!!!」

 

「ぼく……は……」

 

 遊太はそう吐きこぼしながら、指をぴくりと動かし、立ちあがろうとする。

 半ば起き上がるための力も入っていないように見えるが、それでも膝を立て、肘を置き、徐々に徐々に体を起こそうとする。

 

「なん、で……?」

 

「……信じてる、から……」

 

「っ」

 

「お姉さん、が……あの時、見せた……顔は……嘘じゃない、って……」

 

 

 

 ――『あのお兄さんが言っていたよね。”たかがカード”だって。その時のお姉さんの顔は……すごく悲しそうだった』

 ――『でも、十六夜さんは僕なんかより、きっともっと本当はデュエルモンスターズが好きなんだと思う』

 ――『あの時……ギガプラントを出す時、お姉さんの目が、一瞬……一瞬だったけど、懐かしむような目に見えた……』

 ――『それが! お姉さんが誰かと繋がる、大切なカードなんだよね……? じーちゃんが言ってたんだ……デュエリストはデュエルをすれば、相手を理解できるって……本当だ……僕には分かる。お姉さんはイイ人だ……お姉さんは、僕がお姉さんの大事な人たちを悪く言えば怒るけど……お姉さん自身が悪く言われることは、受け入れてしまえる……自分なんかより、仲間を大切にする人なんだって……僕にはそう見えるよ』

 

 

 

 

「負けちゃ、ダメだ……魔女なんか、に……負けちゃ……」

 

「やめろ……」

 

「十六夜さんが、破壊を拒み……続ける限り……僕も、このデュエルで……負けたりしない、から……」

 

「やめて、お願い……!」

 

「だって、デュエルは……楽しいものの、はずなんだから……苦しみの力で、デュエルするなんて……そんなの、間違ってる……」

 

 遊太がそこまで告げ終えると、完全に立ち上がるのだった。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 デュエルスタジアム屋内。

 

「っ、あれは――――遊星!?」

 

 フォーチュンカップ運営に抗議しに行くべく走っていた氷室が、対面から走ってくる遊星を見つけた。

 声をかけられた遊星は立ち止まり、氷室たちと合流する。

 

「氷室。それに矢薙の爺さんも……」

(あん)ちゃんも、抗議しに行くところかい? 実は儂等もなんだ。あまりに見てられなくってね……」

「ああ。だが、運営窓口では話にならなかった。直接、主催者に話をしに行く必要がある」

 

 遊星はそう言って、ゴドウィンがいるVIPルームへと続く通路を睨んだ。

 

「……セキュリティがいるかもしれんな」

「話が通じるといいんだが、そう上手くいくとは思えないのはワシだけかい?」

 

 氷室の言葉に、矢薙は困ったように頬を掻いた。

 遊星は体をVIPルームに続く通路へと向け、瞳を鋭くする

 

「力づくで通るしかないだろう」

「だな」

「ええ〜、兄ちゃんらマジかい!?」

 

 氷室と遊星のやる気っぷりを見て、矢薙は日和ったように叫ぶ。

 しかし、そんな老人の戯言など関係ないのか、氷室は別ベクトルの心配をした。

 

「それよりいいのか、遊星。お前の仲間はまだ……」

「……だが、このまま見過ごすわけにもいかない」

「それも、そうだな」

 

 そう言って氷室と遊星はVIPルームへと再び走り出す。

 矢薙は一歩出遅れながらも、「ええい、どうにでもなれ!」と叫びながら、その背中を追った。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

「僕は、破壊された、アップルマジシャンの効果で……墓地にあるマジシャンガール、三体を、手札に加える……」

 

 遊太がデュエルディスクの墓地ゾーンへと手を持っていけば、自動的にベリー、チョコ、レモンの三体が墓地から排出される。それを手に取り、震える手で手札へと加えれば、肩で息をする十六夜が自身の髪飾りを外した。

 

「いいわ……貴方が本気で私にデュエルを楽しむ心があるというのなら、試してあげる」

 

 そうして、十六夜は場にある永続罠へと手を翳した。

 

「恵みの風の効果により、墓地の薔薇の妖精をデッキに戻し、私はライフを500回復する……このまま、ターンエンド」

 

 墓地に眠っていた薔薇の妖精が、十六夜の体をステップしながら周ると、その反動で起こった風が、鎮痛な面持ちの十六夜の頬を優しく撫でた。

 

 

 十六夜LP 800 → 1300

 

 

「僕の、ターン……」

 

 遊太はそう言ってデッキの一番上に触れた時だ。

 首から下げていた千年錐が太陽光を反射し、遊太の目を眩く照らす。

 

 思わず目を瞑ってしまう遊太。

 その状態でデッキからドローすれば、まるで指が引き寄せられるように、モンスターゾーンへとそのカードを置いた。

 

 モンスターカードでなければ、ルール違反で負けになってしまう行為。

 また召喚できない条件のモンスターであった場合でも、デュエルディスクは遊太の不正を感知し、敗北を告げるだろう。

 

 しかし、遊太がモンスターゾーンに置いたカードは、正常に機能した。

 

 フィールドに現れる古代エジプトの神官を模したカード。

 そのモンスターが、煌々と輝く光の粒子を払いのけ――、

 

 今、十六夜の前に立ち並ぶモンスターたちへと神杖を振り翳す。




最後に現れたかモンスター、一体何マハードなんだ!?

ということで、まーた三話に分かれてしまいましたが、次回で十六夜戦が終わります。

最近思うのは、もう少しデュエル展開をコンパクトというか、スケールを小さくしてもいいような、とか思ったり思わなかったり。
でもこの小説は、なるべく今どきのカードを原作キャラが使って、オリキャラ以外もパワーアップしたデュエルをお届けがモットーだったりするので、それはそれで微妙……まっ、気楽にやるか!

ということで、次回ついに決着!
武藤遊太、死す!
デュエルスタンバイ!
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