5D's:武藤遊戯の孫 作:ジャガイモ
これは、「熱き決闘者たち」をBGMとしてかけるなら、今ですよ、という合図です。
ただの遊び心ですね!
「じゃあ、次は俺のターン、ドロー! ジャキーン!」
お、と龍亞が勝利を確信したような笑みを浮かべた。
またまた、いいカードを引き当てたのかな。
昔、じーちゃんが言ってた気がする。カードを信じる心。丹精こめて作り上げたデッキは、必ず危機的な場面で応えてくれるんだって。
その差が今出てしまったような気がした。
このデッキもオレが作り上げたのはずっと昔だ。まだ、じーちゃんが生きてた時、デュエルモンスターズの大会に出るために構築したような気がする。それ以降はデッキをいじることもなく、お客さんの相手をする時以外には使わなかった。
「……そんな僕に応えてくれるわけない、か」
自嘲気味に言葉が漏れた。
このデュエルは楽しかったんだ……龍亞とのデュエルが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
同年代の子とやるのはこれが初めてで、龍亞のはちゃめちゃなデュエルスタイルが、手に汗握る駆け引きが、オレのナニカを駆り立ててくれた。
お客さんとやっていた時とは大違いだった。心のどこかで負けてもいい、早く終わって欲しいという気持ちがあったデュエル。
だけどこのデュエルは違う。
もっと続けたい。もっとデュエルしたい。
こんなにデュエルが楽しいと思えたのは、いつ以来だろう。
「よーし、俺はこれで決めるぞ! 手札より〈D・パッチン〉を召喚!」
その宣言で出てきたのは、玩具であるぱちんこを模したロボットだった。
〈D・パッチン〉
風属性|星4|機械族/効果
攻1200|守800
「〈D・パッチン〉の効果発動! 1ターンに1度、〈D・パッチン〉以外の〈D〉モンスターをリリースすることで、フィールド上のカードを1枚破壊する! 俺はラジカッセンをリリース!」
パッチンのゴム紐にセットされるラジカッセン。コンパクトに畳まれたラジカセが鋭い弾道を描き、オレの伏せモンスターへと着弾した。粉々に弾け飛ぶオレのモンスター。そこに隠れていたのは、〈ガード・オブ・フレムベル〉だった。
これにより、オレの場はガラ空きとなる。
「よ〜し、いいぞ〜! 遊太、悪いけどこの勝負もらったね!」
「……」
響く龍亞の勝利宣言。同時に劈く耳鳴り。頭がぐらぐらと揺れているような錯覚を起こし、足の力が抜けていく。
――ここで終わりたくない。
オレは子供のように願った。
――こんな楽しいデュエルを。
――こんな楽しいゲームを。
――ここで終わらせたくない。
それが傲慢で貪欲な願いなのは分かっている。亀のゲーム屋の定員として戦っている以上、それは禁忌であり、踏み込んではいけないところなのも理解している。
でも、それでも。
龍亞とのデュエルはオレの心を満たしてくれるナニカがあった。
「いけ! 〈D・ビデオン〉で遊太に直接攻撃!」
オレのライフは残り2700。ビデオンの攻撃力は2800。これが決まればオレの負けは確定する。
デュエルが終わる——終わらせたくない。
最初から負けるつもりだっただろう——このデュエルに勝ってみたい。
お前には無理だ――それでも、本気で戦ってみたいんだ。
駄々をこねるようにオレが反芻すれば、『クリクリ〜』と何かの鳴き声が聞こえた。
咄嗟にオレは引き寄せられるように《クリボー》のカードを見る。そこにはクリボーの絵がウィンクしているように見えた。
「——っ、ダメージステップ! オレは手札にあるクリボーの効果を使うぜ!」
「クリボー?」
きょとんと小首を傾げたのは、龍亞ではなく龍可だった。オレはそれを無視し〈クリボー〉のカードを墓地へと送れば、ソリッドヴィジョンとして、茶色の毛玉〈クリボー〉が映し出される。
〈クリボー〉が一度オレの方へと向きアイコンタクトすれば、〈デーモンの斧〉を持ったビデオンの攻撃を受け止め、オレの代わりに砕かれた。
砕かれる瞬間、またもやクリボーがこちらを見た気がする。
「っ、〈クリボー〉は相手のモンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時にこのカードを手札から墓地に送り発動できる! その戦闘で発生するダメージを0にする!」
「な、じゃあビデオンの攻撃は……!?」
「当然、オレには通らない」
クリボーの効果説明に、龍亞は「えええ〜〜〜!」と大声で叫ぶ。
それを聞きながら、やってしまった、という感情とともに、ありがとう、という気持ちが芽生える。クリボー、お前のおかげでオレはまだ闘えるぜ。
そう心の中で感謝の言葉を述べれば、またもや「クリ〜」と鳴き声が聞こえた。
「そんな〜、これで決まると思ってたのに……」
「調子に乗るからよ」
「龍可は少し黙ってて!」
だんだんと地面を踏みしだきながら癇癪を起こす龍亞だが、その目に宿った闘志は決して消えていない。オレがここまでやれて嬉しいのだろう。なんとなく、龍亞の気持ちが分かるような気がした。
「へへ、楽しいね、遊太!」
「————っ、僕も同じ気持ちだよ、龍亞!」
お互いがお互いの気持ちを確かめ合えば、自然と溢れる笑み。
龍亞とオレは今、どちらも「相手を倒したい!」という気持ちが表に出ている。それは決して憎しみや嫌悪からくるものじゃない。純粋に相手を上回りたい、相手より高みを目指したい。デュエリストなら誰もが抱く感情なのだろう。
じーちゃん、オレ少し分かった気がするよ——カードを信じる心、そして見えるけど見えないものっていうのが。デュエリストにだけ分かる、そんな熱い気持ちが。
「ビデオンの攻撃は防がれたけど、俺の場にはもう1体モンスターがいる! いけ、パッチン! 遊太に直接攻撃だ、ディフォーマーシュート!」
空気の塊をゴム紐に装填し、オレに向けて射撃するパッチン。
ソリッドヴィジョンがその攻撃の鮮烈さを表現し、擬似的にではあるがオレは攻撃の余波を身に感じた。
「くッ————」
遊太L P:1500
「このままカードを2枚伏せてターンエンド! さあ、次は遊太のターンだ!」
「……いくよ、僕のターン! ドロー!」
俺は笑みを溢したまま、山札のトップから1枚を勢いよく引き抜いた。
来たカードは——逆転を呼び起こせるカードだ。
「きた、逆転のカード! ——魔法カード〈
「〈龍の鏡〉っ!?」
驚きの声を漏らしたのは龍亞ではなく、またもや龍可だった。
きっと龍可はこのカードの効果を知っているのだろう。そして、オレが今狙っていることすら見透かしているのかもしれない。
「〈龍の鏡〉は自分フィールド・墓地から、ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスターを融合召喚する。俺が除外するカードは5体のドラゴンたち」
「まさか、今まで遊太がドラゴン族を墓地に増やしてきた理由って……!」
今まで墓地に送られていたドラゴンたち。それを5枚取り出し1枚1枚に「ありがとう」という気持ちを込める。カードへの感謝は忘れるなって、じーちゃんが昔言っていたの思い出したからだ。
「僕が取り除くのは、〈ガード・オブ・フレムベル〉2体と〈砦を守る翼竜〉、それに〈暗黒の竜王〉と〈
突如として現れる金の額縁が特徴的な大きい鏡。1体1体のドラゴン達が、
中に映し出されたのは5頭持つドラゴンだった。真っ暗な影に覆われて全貌は見えないが、強大な力を有しているのが分かる。
「現れよ〈
鏡を蹴破り天高く舞うのは、炎、水、地、闇、風で構成された神の名を冠するドラゴン。その名に恥じぬ力を示すべく、ソリッドヴィジョンが齎した映像は、まるで天地を引き裂く嵐を表現していた。
〈F・G・D〉
闇属性|星12⇨11|ドラゴン族/融合/効果
攻5000|守5000
「っべぇ〜……超絶ピンチなのに、そのドラゴン超超超かっちょいい!」
龍亞からの賞賛をオレは笑顔で受け取る。
攻撃力守備力だけを見れば、オレが持っているカードで一番強いモンスターだ。ある意味ではとっておきと言ってもいいカードなのかもしれない。
「さらに僕は〈アックス・ドラゴニュート〉を通常召喚!」
稲妻を迸らせ天より降ってきた黒いドラゴン。鋭利な斧を自慢げに地面へ突き立てれば、隣で飛んでいる〈F・G・D〉に気が付いたのか、甲斐甲斐しい後輩のように半歩後ろに下がった。
〈アックス・ドラゴニュート〉
闇属性|星4⇨3|ドラゴン族/効果
攻2000|守1200
「いくよ、龍亞! バトルフェイズ!」
「こい、遊太!」
手を振り上げたオレは、攻撃力2800を誇る〈D・ビデオン〉を指差す。
「まずは〈アックス・ドラゴニュート〉で〈D・ビデオン〉へ攻撃!」
「えっ」
常識的に考えてありえないオレの攻撃宣言に、驚きの声が外部から漏れた。
「残念ながら、ビデオンの攻撃力は〈アックス・ドラゴニュート〉の攻撃を上回ってるよ!」
「知ってるさ。だから僕は、手札より速攻魔法〈エネミーコントローラー〉を発動する。このカードは相手フィールドのモンスター1体の表示形式を変更することができるんだ!」
巨大なゲームコントローラーを場に出し、オレはコマンド入力を宣言する。
「↑→→↓C! ビデオンを守備表示に」
かこんかこんと音を立て、コントローラーはオレが宣言した通り正しく入力された。すると、龍亞のビデオンが強制的に人型からビデオカメラへと姿を変える。装備されていたデーモンの斧は、どのように装備されていいのか分からないらしく、慌てた様子でビデオンの上に乗っかった。
「うわ〜! それじゃあ、ビデオンの効果が変わっちゃうし、〈デーモンの斧〉もほぼ意味なくなっちゃうよ〜!」
自身のモンスターの変わり果てた姿に取り乱してしまう龍亞。見かねた龍可が、兄の情けなさにため息をついて龍亞を激励する。
こうしてみれば、やっぱり龍可の方がお姉ちゃんって感じするぜ。
「しっかりしてよ、龍亞。まだデュエルは終わってないんだから」
「——っ、そうだよね。ここで諦めちゃダメだ!」
龍亞は己の両頬を景気づけに叩けば、気を取り直した様子でビデオンを見る。
「〈D〉モンスターは表示形式によって効果が変わる! ビデオンは守備表示の場合、装備されているカード1枚につき、守備力が800U Pだ!」
〈デーモンの斧〉が不思議そうにビデオンをつつけば、体をひと回り大きく肥大化させた。
守1000⇨守1800
「それでも僕の攻撃は止まらないよ。〈アックス・ドラゴニュート〉、ビデオンを粉砕しろ! パワー・アックス!」
〈アックス・ドラゴニュート〉は雄叫びとともに愛斧を振りかぶる。武器としての矜持からか、狙われたビデオンを守るため〈デーモンの斧〉が立ち塞がるも、〈アックス・ドラゴニュート〉の一睨で退散した。そのまま斧が振り下ろされれば、ビデオンはあっけなく破壊された。
「ダメージステップ終了時、〈アックス・ドラゴニュート〉は守備表示となる」
「っ……墓地にいった〈デーモンの斧〉の効果発動! 自分のモンスターをリリースすることで、デッキの一番上に戻す!」
なぜか龍亞は、場に唯一残っていた〈D・パッチン〉を墓地に送り、〈デーモンの斧〉をデッキトップに回収した。これでは龍亞を守るモンスターが1体もいなくなってしまうんだぜ。
罠だろうか……?
龍亞の場に伏せられた2枚の伏せカードに神経を注ぐ。〈F・G・D〉の攻撃力は、龍亞のL Pを易々と削り取ることができる数値だ。ここで勝負を仕掛けないのは流石に臆病者すぎると思う。
「〈F・G・D〉で龍亞に直接攻撃! ファイブ・ヘル・ブレス!」
「待ってました、
〈F・G・D〉の周りを飛び交う数々の〈D〉モンスターたち。主人を守るため、勇猛果敢にドラゴンの巨躯へとちょっかいをかけ続ける。〈F・G・D〉は鬱陶しそうに炎やら水やらを放出するが、翻弄されるだけで当たらない。
業を煮やした〈F・G・D〉は、自身の爪で一つ一つを破壊するも、最終的に赤いカメラを模したロボットだけは場に残った。
「〈D・スクランブル〉は場にモンスターがいない時、相手の攻撃を無効にし、手札から〈D〉モンスターを特殊召喚できるんだ!」
「モンスターが場にいない時に発動できるトラップ……〈デーモンの斧〉の効果を使ったのも、そのトラップのためだったんだね」
龍亞は照れたように鼻の下を指でこすった。
「〈D・スクランブル〉の効果で俺は〈D・キャメラン〉を攻撃表示で特殊召喚する。さぁ、まだ遊太のターンだよ」
大人ぶった声で龍亞がそう言えば、オレはバトルフェイズの終了を宣言する。
〈D・キャメラン〉
光属性|星2|機械族/効果
攻800|守600
「メインフェイズ2……僕は伏せカードを1枚伏せてターンエンド」
これでオレの手札は全て使い切り、0となった。
場には〈F・G・D〉と〈アックス・ドラゴニュート〉、さらに伏せカードが1枚。
その中でも、〈F・G・D〉は光属性のモンスターでしか戦闘破壊ができない耐性持ち。効果破壊を狙わなければ、まず倒せないモンスターだ。
「よっしゃ、俺のターン、ドロー! ジャキーーン!」
お馴染みの擬音語を叫びつつ、龍亞は元気いっぱいにドローした。ドローされるカードは当たり前だが、さっきのターン戻した〈デーモンの斧〉。それだけでこの盤面をひっくり返せられるほど、このゲームは甘くない。
それなのに、龍亞は自信たっぷりな様子でオレを見ていた。
「今、俺の手札が〈デーモンの斧〉しかないからって、油断してるでしょ」
「!?」
にやり。龍亞がほくそ笑む。
「俺はカードを1枚伏せ、セットカードオープン〈命削りの宝札〉! 効果により俺は手札が3枚になるようドローする!」
「命削り……さっき手札をわざと減らしたのは、そういうことなんだね」
「そういうこと! 来い、逆転のカード!」
現れた断頭台にデッキがセットされる。そこから執行人らしき男が、気味が悪い笑い声を漏らしつつ3枚のカードを龍亞の手元へと落とした。龍亞はそれらを確認すると、雲ひとつない晴れやかな表情を浮かべ、魔法・罠ゾーンにカードを置く。
どうやら望みのカードは引けたみたいだね、龍亞。
「よーし、きたー! 手札より魔法カード〈D・スピードユニット〉を発動! 手札の〈D〉モンスターをデッキに戻し、その勢いでフィールド上のカード1枚を破壊できる!」
「破壊効果——ということは!?」
「当然、俺が選ぶのは〈F・G・D〉さ! さ〜ら〜に〜、この魔法カードにはドローの追加効果もあるんだ! どうだ、すごいだろ?」
スピードユニットと呼ばれた装置が、フィールドを駆け回るように参上する。スピードユニットに搭乗するのはライターを模したオレンジ色のロボット。そのロボットが巧みな操縦技術で〈F・G・D〉の体を穿つと、勢いそのまま龍亞のデッキへ蜻蛉返りした。
まさか本当に〈F・G・D〉を破壊してくるなんて。これはいよいよ、予断を許さないデュエルになってきたぞ。
「俺はスピードユニットの効果でワンドロー! ピカーン!」
龍亞は引いたカードを見る。
ここで攻撃力1201以上のモンスターを引き当てられたらオレの負けだ。
だが、
「——モンスターを1枚伏せる」
どうやら攻撃力1201以上のモンスターは引き当てられなかったらしい。
「俺はセットしていた〈デーモンの斧〉を発動し、キャメランに装着! そしてバトル! 〈アックス・ドラゴニュート〉に攻撃だ!」
〈D・キャメラン〉
攻800⇨攻1800
〈デーモンの斧〉を装備し、草を吸っている人間のような目をするキャメラン。斧を片手で悠々と振り回し、〈アックス・ドラゴニュート〉を撃沈させた。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、〈命削りの宝札〉の効果が発動するけど、俺の手札は0だから捨てるカードはないよ」
そうして譲られるオレのターン。
手札は尽き、場にモンスターは1体もいない。L Pも龍亞はまだ無傷だ。この場から逆転ができるカードがあるとすれば、それは……。
オレはそっとデッキの上に指をかけ、ドローする体勢に入る。芽生えるのは、「この状況で引くことができるだろうか」という不安。今までデュエルモンスターズを、「カードの心」を考えてこなかったオレに、デッキは応えてくれるのだろうか。
いけない。
かぶりを振って弱気な考えを全て払拭する。
じーちゃんが言っていたんだ。どんな時でも、どんな場面でも、諦めない奴が強いんだって————。
☆
「オレのターン、ドロー!!」
これが、オレのラストドローだ!
「……龍亞、この勝負オレがいただくぜ」
「っ、遊太?」
一瞬、ベンチに腰掛ける龍可が怪訝な顔をしたが、オレはそれを無視する。
オレの手札に舞い込んできたのは、まさしく勝利への一手。オレが待ち望んでいたカード。みんなはどうやらオレのことを認めてくれたらしい。
「速攻魔法〈銀龍の轟咆〉を発動! 墓地のドラゴン族通常モンスターを特殊召喚する!」
「なっ、でも遊太の墓地は〈龍の鏡〉で使い切ったんじゃ!?」
そう。〈龍の鏡〉で消費されたカードは合計で5枚。並大抵の枚数ではない。普通のデュエルならとっくにリソースが尽きているはずだ。
けれど、思い出すべきだ。オレがなんのために〈竜の霊廟〉でわざわざ2枚墓地に送ったのか。〈トレード・イン〉を発動した真の理由はなんだったのか。
「1体だけ残っていたのさ。オレの友達が……」
フィールドに月が現れ、あたり一面を神々しく照らし出す。まるで神話の再現だ。誰もがこの一幕に心を躍らせてしまう。
「墓地より甦り、勝利をもたらせ! 〈
月光に濡れたその肢体は、まさしくホワイト・サファイアを彷彿とさせた。
人々がかの龍の美しさに心酔し目を奪われる。猛々しく広げられた両翼からは、余波だけで木々を薙ぎ倒す力強さがあった。
対戦相手の龍亞は、そんな幻の存在に言葉を無くす。同時に外部から見守っていた龍可ですら、ベンチから少し腰を上げて絶句していた。
〈青眼の白龍〉
光属性|星8⇨7|ドラゴン族/通常
攻3000|守2500
「バトルフェイズ。ブルーアイズよ、キャメランに攻撃だ!」
「っ、でもブルーアイズの攻撃力じゃ、俺のライフは削り切れない!」
怒声にも似た攻撃宣言で龍亞は正気を取り戻したのか、冷静に状況を判断する。
龍亞の言う通り、ブルーアイズの攻撃力とキャメランの攻撃力を差し引けば、龍亞に与えるダメージはたった1200だ。残り2800のL Pを削り切ることなんて不可能。
そう今のままの攻撃力では。
「だからこそ、この瞬間オレは罠カード〈燃える闘志〉を発動するぜ!」
「〈燃える闘志〉!?」
ブルーアイズの体が真っ赤な灼熱によって包まれる。
オレの闘志に呼応するかのように、ブルーアイズは高らかに咆哮した。
「〈燃える闘志〉の効果で、このカードをブルーアイズに装備! そして龍亞! 君のフィールドには〈デーモンの斧〉によって、元々の攻撃力よりも高い攻撃力を持ったモンスターがいる! その時、この〈燃える闘志〉を装備したブルーアイズの攻撃力は、ダメージステップの間のみ、元々の攻撃力の倍になる!」
喉奥に溜め込まれていた力の奔流が、ブルーアイズの身に纏っていた地獄の業火へと昇華される。
〈青眼の白龍〉
攻3000⇨攻6000
「攻撃力6000だって!? そ、それじゃ、俺のライフは……!」
思わずたじろいでしまう龍亞。
元々高かったブルーアイズの攻撃がさらに倍増したのだ。目の前で敵意を向けられた者からしたら、たまったものじゃない。
「これで最後だ。全てを焼き尽くせブルーアイズ! 滅びのバーストストリィーム!!」
「うあぁぁぁぁぁぁ!」
事象全てを焼き尽くす炎。
〈デーモンの斧〉を持ったキャメランを呑み込み、それだけでは飽き足らずフィールド全てを焦土に化す。衝撃はもちろん対戦相手である龍亞にも届いた。
まさしく最強。その名声をほしいままにする力を〈青眼の白龍〉は見せつける。
龍亞L P:4000⇨0
こうしてオレと龍亞のデュエルは、オレの勝利で幕を閉じた。
デュエルモンスターズ……ここまで熱狂できたのは初めてだったぜ。
「龍亞、楽しいデュエルをありが——」
「うぅ、負けたぁ」
オレが感謝を述べようと思い顔を上げれば、そこには泣きべそをかく龍亞がいた。
やってしまった。
店の常識として、お客さんには勝利を譲らなければいけない。これは誰が相手だろうと変わらない鉄の掟だった。それを、つい熱中しすぎたあまり、いや、初めて負けたくないと思ったが故に感情のまま勝ってしまったのだ。
うー、これじゃもう2度とうちの店に来てくれないかもしれないぜ。
「あーあ、すぐ泣くんだから」
オレがどう慰めるべきか考えていると、今までベンチに座っていた龍可が近づいてきた。
龍亞は龍可を見て、顔を腕でこすり涙を拭うと、「泣いてない」と小さく言葉を漏らす。残念なことに、側から見たら強がりなのが一目瞭然だ。
「……ごめん、龍亞。僕楽しくって、つい」
「え、いや! 遊太が謝ることじゃないよ!」
「そうそう。龍亞が弱かっただけだしね」
「うん、俺が弱かっただけって——龍可!?」
しなだれるオレに、龍亞と龍可は優しくフォローを入れてくれた。
いや、龍可のは流石に龍亞がかわいそうだけど。
「でも、俺も楽しかったな。遊太って本当にデュエル強いんだね」
「え? あ、あははは、どうだろう。僕は本気で楽しみながらデュエルしたのも、これが初めてみたいなものだし」
じーちゃんが生きてた時は、じーちゃんと遊ぶために毎日デュエルをしていた気がする。
でも、そんな昔のこと今となってははっきりと思い出せない。ただ思い出せるのは、デュエルのあと、じーちゃんが優しくオレを撫でてくれたことくらいだろうか。
「え、じゃあ遊太はデュエリストじゃないの!?」
「んー、どこからがデュエリストになるか判らないから、はっきりとは言えないけど。ただ、喜んで自分からやることは滅多にないかな」
「もったいないよ! こんなにデュエル強いのにデュエルやらないなんて!」
がしっと両肩を掴んでくる龍亞。
まぁ、龍亞は生粋のデュエリストらしいし、こう言ってくるのも分かる。オレも龍亞とのデュエルを通じて、デュエリストがどんなものなのか理解できるような気がした。
デュエルをすればお互いのことが分かる。
そんな言葉が蔓延っているほど、今はデュエルモンスターズが世界的に熱狂されている。オレも龍亞とデュエルをしている時、なぜか龍亞の気持ちが痛いほど伝わってきた。
終わらせたくない。負けたくない。もっとデュエルしたい。
そんな熱い気持ちが龍亞から伝わってきたのだ。
”だからこそ、”
「ねえ、龍亞……」
オレは勇気を振り絞る。
ここで一歩踏み出さなきゃ、大事なものを取り逃すような気がした。
「僕とまた……その、よかったらデュエルをしてくれない?」
告げた瞬間、オレは顔から火の出る思いになった。
けれど龍亞は、そんな俺の様子など歯牙にも掛けない態度で頭を傾げる。何を言ってるんだ、という感情がありありと伝わってきた。
「そんなの当たり前だろ。俺たちもう友達なんだからさ。ぜーったいに、またデュエルしようね!」
”友達なんだからさ”
その言葉が嬉しくて、ついその場で跳ねてしまいそうな気分になる。
だけど、オレも今年で11歳。そんな小っ恥ずかしいことは易々とできない年頃だ。代わりにオレは目尻に一雫の涙を浮かべて「うん!」とだけ返事したのだった。
「よーし、そうと決まればデッキの強化だ!」
「はぁ、龍亞ったらお調子者なんだから」
「あははは、じゃあ僕んちでもう少しカードを見ていきなよ」
「見る見る! 超ー見る!」
ここから始まる日常。
それはきっと楽しいものに決まっていると、オレは思った。
龍亞と遊太のデュエル終わりです。
初めて仮想デュエルを描きました。
「もっとこうした方が見やすくなる」という意見があれば、ぜひ教えてください!
(手札の残数を表示してほしい、場の状況を逐一おさらいとして描いてほしい、などなど)
龍亞と雄太のデュエルですが、実際に回して見て一応5通りくらいのものを作成していました。
ですが、一番しっくりきたのがこれでした。
理由としては、単純に現段階の龍亞のデュエルスキルが高くなってしまったからですね。
パワー5600のモンスターを初手で出すとか、《D・マグネン》と《D・ステープラン》でマグネロック(相手に攻撃できないようにする)を完成させ、強化した《ガジェット・トレーラー》で殴るとか、頭おかしいのが多かったです。普通にデッキを強くしすぎました。(遊太のデッキを弱くしたのもあるかもだけど)
まぁ、ともあれ全8ターンを2話に分けてこのボリューム感。
これからのデュエルが大変になるなー、としみじみ思う私でした。
実際に使われているデッキなどに関しては、また別枠であげるかもしれません。