5D's:武藤遊戯の孫   作:ジャガイモ

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龍亞&龍可「な〜にかな〜、な〜にかな! 今回はこれ!」

《時の魔術師》

龍亞「うわー、伝説のデュエリスト城之内克也のカード!」
龍可「1/2の確率で相手のモンスターを全滅させるのね」
龍亞「ギャンブル魂がさっわぐ〜!」

面白そうな提案だったからやってみた。


第三話 金色の悪魔

 

 

 オレの名前は遊太。亀のゲーム屋の1人息子さ!

 宝物はじーちゃんの形見であるデッキと、このパズル!

 パズルに関しては偽物らしいけどね。本物は黄金でできてて重かったらしい(これはじーちゃんから聞いた話)。今オレが持っているのは、なんでも金メッキで誤魔化してるって話。

 でも、デザインだけなら本物と遜色ないかっちょよさだぜ!

 

「って、またこの子は一人でぶつぶつと……店の手伝いをする気になったのは嬉しいけど、少しは手を動かしなさい」

 

「はーい……」

 

 清掃もせず、呑気にカードばっかいじってたからママに怒られちゃった。

 

 まぁ、仕方ないよね。オレがこうやって店の手伝いをする気になったのは、龍亞たちとまたデュエルするって約束したからなんだ。ずっと改良してなかったデッキだけど、最近はこうして店の手伝いをしながら強化してる。

 

 あ〜、龍亞たちに会うのが今から楽しみだな〜!

 

「それにしても、急にどうしたの? あんたって今までデジタルゲームばっかりしてたじゃない。店を突然手伝うーとか、今まで言ったこともなかったし、真剣にカードばっかり見ちゃって……」

 

 ママはオレの突然の変わり身には訝しんでいるみたいだ。

 

 まぁ、昨日までずっと部屋に引き篭ってTVゲームするか、店に降りてきても携帯ゲーム機で遊ぶかしかしてなかった息子だしなー。オレがカードをいじっているところなんて、ちゃんちゃら可笑しいのも分かる。

 

「ふ、ふ、ふ〜。もうデジタルゲームなんて子供がやるもんだよ、ママ」

 

「あら、随分と背伸びしてるようだけど、あんたがまだ夜中に1人でトイレ行けないの知ってるわよ」

 

 う、さすがはオレを11年間も育ててくれた母親だ。

 的確に痛いところをついてくる。

 

「それはそれ、これはこれだよぉ〜……あ、そろそろ配達の時間じゃない?」

 

 逃げるように(決して話をすげ替えたかったわけではない)オレが言えば、ママも時計を確認する。

 

「あら、ほんと。もうこんな時間じゃない。私はカードの配達と、帰りに郵便局に寄ってくるから、店番はお願いね。おばあちゃんに迷惑かけないのよ」

 

「はいはーい」

 

 いつもの定型文を交わし合えば、ママは車の鍵を持って外へ出かけていった。

 さてと、これで邪魔者はいなくなった。思う存分デッキの強化ができるぞぉー!

 

「お、このカードいいな。龍亞たちにも教えてあげよーと」

 

 ぱらぱら。かちゃかちゃ。

 昔じーちゃんと集めていたカードを引っ張り出してきては、オレはまるで探偵にでもなったかのように吟味する。これの効果は強いとか、これは少々デッキのコンセプトに反しているとか、そんな風に数多のカードを取捨選択していれば、つい昔のことを思い出す。

 

 ――『遊太、カードには心があるんだ』

 ――『こころ?』

 ――『うん。カードたちと心を通わせ、力を合わせることでデュエリストは真価を発揮する』

 ――『ほんとう? オレもじーちゃんみたいになれる?』

 ――『ははは、それはどうだろう……でも、僕は遊太がカードと心を通わせる日を楽しみにしてるよ』

 

 いつだったか、オレがじーちゃんの膝の上で聞いていた記憶。あの頃は今より酷いじーちゃんっ子だったから、正直カードなんかより、じーちゃんのことばっかし考えてたっけ。

 

 う〜ん……懐かしんでたら少ししんみりとした気持ちになっちゃった。

 

 やめやめ!

 じーちゃんとの思い出はどれも楽しいけど、思い出したら思い出したで、ちょっぴりセンチメンタルになるぜ! せっかく友達ができたんだし、もっと楽しくデッキを作らなきゃ!

 じゃなきゃ、天国にいるじーちゃんも報われない!

 

「よーし! そうと決まれば早速試運転を、と」

 

 だが、そんな期待は粉々に砕け散る。

 からんからん、と鳴り響く入店を知らせる鐘の音。オレが振り向くと同時、そいつはこう告げた。

 

「キングである俺がわざわざ出向いてやったぞ! フン、感謝するんだな」

 

 現れたのは金色の悪魔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 金色の悪魔——別名《ジャック・アトラス》。

 

 街の人たちは「アトラス様」だとか、「キング」だとか呼び慕っているらしい。ママも大好きで大ファンだ。追っかけ? なるものをしていると聞いたことがある。

 

 けれど、オレは声を大にして教えてやりたい。この男は悪魔だと。人間の皮を被り、人里で身を隠している人外なのだと。まるでクリーニングしたてのようなシワ一つ無い真っ白なコートは、ヤツの獰悪さを隠しているようにさえ思える。

 

 さて、なぜオレがここまでジャックさんを、「金色の悪魔」と呼び嫌っているのか。

 もちろんこれにはマリアナ海溝より深い訳がある。

 忘れもしない、あれはちょうど三ヶ月くらい前のことだ。

 

 

 その日も毎度の如く、ママが外に出るからという理由で俺が店番をしていた。数人のお客さんが店内でのんびりとデュエルをしていただけなので、オレも気を張らずデジタルゲームをしていたんだ。その時やっていたゲームは、伝説の超高難易度ゲー「封印されし記憶」である。後半セーブ不可能な6連戦を舌打ちと共にしていると、こいつは現れた。

 

 ――『おい。貴様が初代デュエルキングの孫か?』

 ――『え? あー、そうだよ』ピコピコ

 ――『なら俺とデュエルしろ。俺が満足すれば、貴様の願いを何でも叶えてやる』

 ――『デュエル? でも、うちはデッキの調整をするための相手くらいしか……それに他のお客さんもいるし』(ただゲームをしたいだけ)

 ――『いいから準備しろ。言っておくが、腑抜けたデュエルをしようものならどうなるか、分かっているな』

 ――『……』ピコピコ

 

 理不尽。そう、この悪魔は何を隠そう理不尽なんだぜ!

 コイツは初対面のはずの俺に、そんな横暴すぎる発言をしたんだ! しかも拒否権なんて与えられなかったし!

 

 うー……なんかやばそーな人……ってオレは思った。

 

 というか実際にやばい人だった!

 ママが熱狂的な大ファンのため、ジャック・アトラスという存在は間接的ながら知っていたさ。でも実物を見てがっかり!

 

 とりあえず、相手はいくら理不尽極まりない人であろうと、お客さんはお客さん。無下にしてしまってはゲーム屋としての威信に関わってくる。

 それにこの時のオレは苛立っていた。鬼畜すぎる敵の強さに、セーブ不可能な6連戦。高難易度ゲー特有の欠陥システムに憤っていたオレは何を血迷ったか、「こいつぶっ倒してやるぅ」と息巻いたのだ。某有名小説風に言うなら、「必ず、かの邪智暴虐のおうを除かねばならぬと決意した」ってやつだぜ!

 

 八つ当たり? 知らないね、そんな言葉。

 

 そうして始まったデュエル。お客さんがいるから、外ではなく店内のデュエルテーブルで戦った。ゲームに行き詰まったオレは、相手を粉砕するため微に入り細を穿つデュエルをしたつもりである。

 

 勝敗なんて勿体振るのは野暮だろう。そんなの聞かなくても分かるだろうしね。所詮、無敗記録ホルダーのキングに新たな伝説が刻まれただけ。笑えないね。

 

 結構いいところまで追い詰めたんだけどなー、キングの底力を思い知らされたって感じ。

 というよりも、多分悪魔のほうも子供相手だからって手加減してたんだと思うなぁ。じゃなきゃ、あそこまで接戦にはならなかったと思う。

 

 デュエルの途中からは沸騰していたオレの頭も大分冷め、「何してんだろう、オレ」と言う気持ちが強かった。

 

 ――『あっははは〜……負けちゃったぜ。やっぱキングは強いね』

 ――『……武藤遊太、だったか』

 ――『? どうしたの?』

 ――『約束だ。このキングを満足させた褒美をやる。何かして欲しい事はあるか』

 ――『え〜、負けちゃったのにいいの!? ならそうだなぁ……んー、じゃあこれにサイン書いてよ! ジャックさんの大ファンなんだ!(うちのママが)』

 ――『フン、良いだろう。サインなどいくらでも書いてやる。だがそうか、俺のファンか……』

 ――『ジャックさん?』

 ――『ならば光栄に思うがいい! お前は今日から、このキング自ら鍛えてやる弟子一号だ!』

 

 瞬間、休憩がてら飲んでいたコーラが喉に詰まったのを覚えてる。

 だって意味が分からないでしょ? 急に息巻かれても、オレはデュエルよりデジタルゲームがしたかっただけだぜ?

 

 ――『あ、あの〜、僕はべつにデュエルモンスターズにそこまで興味が……』

 ――『気にするな。これから俺がビシバシと鍛えてやる。貴様もデュエルに強くなれば、栄光を掴み、周りが勝手に認めてくれるだろう』

 ――『えぇ〜……』

 

 その時は流石のオレも、何が何やら分からなかったため聞き流そうとした。俺が欲しているのは友達であって、断じてデュエルモンスターズの師匠などではなかったもんね。おじさんと仲良くなったところで、オレに少しもメリットはない。

 だが、頭の中がお花畑で構築されている暴君ディオニスはなおも妄言を吐き続けた。

 

 ――『デュエルモンスターズに強くなればお前の望むものが手に入る。このキングのように、なんでもな』

 ――『なんでもっ!?(なんでもと言うのはつまりあれなんだぜ! 今までできなかった友達とかどんな時にも裏切らないそして裏切られない親友ってこと……ごくり!)』

 

 なーんて考え込んでしまったのが運の尽きだった。

 固唾を飲むオレに満足げな表情を浮かべるジャックさん。がたりっ、と椅子を引いて、テーブルの上に展開していた己のデッキを回収してたんだ。

 

 ――『決まりだな』

 ――『……え? ちょっ、待ってよ! 僕はまだ何にも』

 ――『みなまで言うな。貴様のにやけ面を見れば分かる』

 ――『っ!?』

 

 いやそれは友達ができるかもって期待しただけであって、別にあなたに教えを乞うことが嬉しいとかじゃないんです! なんて言える雰囲気でもなかった。既に観戦していたお客さんも、早々とキングをとりまき始めていたしね。

 

 それに「まぁ、いいか。どうせキングって言うからには忙しい身だろ」なんて風に考えていた時期が、オレにもありました。

 

 次にこの悪魔が訪れたのはデュエルをした三日後のこと。Dホイールに乗って颯爽と参上した悪魔は、いきなり部屋でゲームしてたオレを連れ出したのだ。しかも連れ出した先は、喫茶店やらカップヌードル博物館やら、デュエルに関係ない場所ばかり。

 どうやら悪魔いわく「一流になるためには、まず一流のものに触れなければならない」という理論らしい。

 

 うぅん、つまりどう言うこと? カップヌードルに関しては一流じゃないと思うんだけど。

 

 まぁ、そんなこんな変な関係である悪魔は、こうして定期的に亀のゲーム屋にやってくる。

 けれど今思えば、ジャック・アトラスのおかげでオレって色々な体験ができたよな。龍亞たちが来たのも、この悪魔が入店するおかげで噂になったのもあるっぽいし。ということは、半分この悪魔のおかげでオレに友達ができた……? 

 

 うん。素直にお礼を言いにくいぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——ジャック・アトラス視点

 

 亀のゲーム屋というものを知っているか?

 一部のデュエリストにはかなり有名なゲームショップらしい。なんでも初代デュエルキング《武藤遊戯》の血縁者が経営しているゲーム屋だとかなんとか。

 

 俺がそれを知ったのはただの偶然だった。街中を歩いているとき、ふと初代デュエリストについて特集が組まれている雑誌を見たからだ。なんでも初代デュエルキングは、この街がまだネオ童実野シティではなかった時代の住人らしい。

 

 意外なことだとは思った。

 それと同時、キングである俺はひどくシンパシーを感じた。

 

 そうなれば俺の行動は早い。サテライトを去ってからというもの、どこか渇きを覚えていた俺は、導かれるように亀のゲーム屋を探した。

 自慢のDホイールを走らせれば、目的は呆気なく達成される。ネオ童実野シティの中心から少し外れた位置。そこに件のゲームショップは確かにあった。

 

 亀のゲーム屋に入ってみれば、数人の客がデュエルスペースと思わしき場所でデュエルしていた。こうしてみると、デュエルディスクもないサテライトの住人たちを思い出す。客達は俺の顔を見るなり「キングだ」「本物だ」と囃し立てた。

 益体もない声援を受け取りつつ、俺はゲームショップの店員らしき者を探した。

 すると、ソイツがいた。

 

 ――『おい。貴様が初代デュエルキングの孫か?』

 ――『え? あー、そうだよ』ピコピコ

 ――『なら俺とデュエルしろ。俺が満足すれば、貴様の願いを何でも叶えてやる』

 ――『デュエル? でも、うちはデッキの調整をするための相手くらいしか……それに他のお客さんもいるし』(ただゲームをしたいだけ)

 ――『いいから準備しろ。言っておくが、腑抜けたデュエルをしようものならどうなるか、分かっているな』

 ――『……』ピコピコ

 

 最初はただの戯れのつもりだった。

 初代デュエルキングにそっくりなソイツが、どれだけの腕前を持つのか興味があったのもある。だがそれを考慮しても、やはり俺からしてみれば、特に理由のない行為だった。

 

 しかし、伝説のデュエルキングの孫——武藤遊太とのデュエルは、俺の予想を良い意味で裏切った。

 

 稀に見る洗練されたデュエルタクティクス。

 誰もが切望する幻のレアカード。

 それらを余すことなく発揮する様は、俺に冷や汗をかかせるほどだった。何よりヤツの目には、時々俺を食い殺す野獣のような獰猛さがあった。

 

 ――『フン、思っていたよりもやるな。ここまで出来る子供を俺は見たことがない』

 ――『そっちこそ流石はキングだね。めちゃくちゃ強いや』

 ――『まさか子供なんぞに褒められる日が来るとはな。キングも随分安売されたものだ』

 ――『……僕さ聞きたいことがあったんだけど、いい?』

 ――『なんだ』

 ――『ジャックさんはなんでキングになったの?』

 

 武藤遊太の鋭い眼差しが俺を射抜いた。

 キングになった理由。それは思い出したくもない(サテライトの)思い出を掘り返さなければならない。金に困り、孤児として育ち、ゴミの掃き溜めのような場所に埋もれていた昔の自分。俺にとってそれらは全て屈辱に塗れたものであり、だからこそ唾棄すべき過去だと認識していた。

 

 ――『誰も侵すことはできず、誰も辱めることのできない君臨者。キングとはそんな絶対的存在のことだ。ならば、その存在に相応しいのは自分だと思わないか?』

 ――『んー、難しい話だなー』

 ――『子供にはまだ理解ができんか』

 

 残念に思う事はなかった。この思想を掲げるのは王たる俺だけでいい。誰に理解されることがなくとも、栄光さえあれば満足できた。

 

 ――『でも、その考えじゃ、いつか一人ぼっちになるんじゃない?』

 ――『キングとは常に孤高にして頂点の存在だ。それになんの問題がある』

 ――『あるよ。だって一人じゃどうしようもないことも、支えてくれる人がいるからこそ何とかなるんだ。じーちゃんがそう言ってたよ』

 ――『フン、綺麗事だな』

 

 武藤遊太はその言葉にムッとした表情を浮かべながら、〈レッド・デーモンズ・ドラゴン〉を見た。たった1枚しかモンスターがいないと言っても、その時の武藤遊太にひっくり返す手立てはない。ヤツの場にあったのは攻撃力1500の〈デビル・ドラゴン〉だけだ。所詮は追い詰められた人間の妄言でしかないと俺は鼻で笑っていた。

 しかし、

 

 ――『僕は〈時の魔術師〉を召喚』

 ――『っ、なに!?』

 

 ヤツが出した1枚のモンスターカード〈時の魔術師〉。1/2の確率で相手の場のモンスター全てを破壊できる強力なカードだった。

 

 ――『このカードは僕が静おばちゃんから譲り受けた大事なカードさ……〈時の魔術師〉の効果発動! 僕は表を宣言し、コイントスを行う! タイムマジック!』

 

 表が出れば俺の場のモンスターが全破壊。

 裏が出れば相手のモンスターが全破壊され、攻撃力の合計半分をダメージとして受ける。

 くるくると周り、緩やかな放物線を描いたコインは、そのまま表面を上にテーブルへ落ちた。

 

 ――『僕も友達がいないから強く言えないけど、一人じゃ誰も生きていけないよ。どれだけ弱くても、こうやって支え合い、どんな壁も乗り越えるんだ』

 ――『くっ』

 

 俺はレッド・デーモンズのカードを墓地へと送るしかできなかった。

 このままでは、ヤツの直接攻撃をくらい、俺の残りライフは全て消え負ける。

 キングとしてそれは断じてあり得てはならない結果だった。誰かに負けるなど、いや、こんな子供に負けるなど、他でもない俺が一番許せなかった。

 俺はその場を打開する方法を模索した。場には伏せカード《王魂調和》と《プライドの咆哮》があるのみ。《プライドの咆哮》は自分の場にモンスターがいなければ意味がなく、《王魂調和》も《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を召喚している時点で無用の長物。墓地には星5モンスターと星3チューナーしかいないからだ。俺のE Xデッキに星8モンスターはレッド・デーモンズしか入って……、

 いや、1つだけ方法はあった。その場を確実に生き残る方法が。

 

 ――『これで僕の勝ちだ。バトルフェイズ』

 ――『……』

 

 俺は逡巡した。思いついた打開策はシンプルだが、その実、今の俺を否定するような方法だった。なにより、キングとは常に孤高であらねばならないと自分で宣言した。そのために俺は友を捨て、故郷を捨て、絆を断ち切ったのだ。

 なのに、俺が思いついた打開策は、今からその捨てたものに縋り付く行為だった。切り捨てたはずのモノに、再度支えてもらおうとする醜い策だった。

 だから俺は逡巡した。

 

 ――『たしかにキングってのはすごい存在かもしれない。けど、僕もじーちゃんから教えてもらったんだ。”見えるけど見えないもの”。それを人は大事にしなきゃいけないんだって。ジャックさんにもあるはずだよ、見えるけど見えないものっていうのが』

 ――『見えるけど見えないもの、だと? そんな与太話を俺に信じろというのか』

 ――『うん。デュエリストじゃない僕でも分かるよ。ジャックさんのその強さは、きっと今まで共に研磨する仲間がいたからだって!』

 ――『っ』

 

 ——ジャック。

 

 ひどく懐かしい声が鼓膜を打った気がした。咄嗟に周りを見てみるが、当然ながら声の持ち主であろう人物はここにいない。いるのは数人の見覚えのない観客と、俺の行動を訝しんでいる対戦相手だけだ。

 

 俺はこの時、何となく理解した気がした。

 サテライトを去ってからというもの、どこか飢えていた自分自身の気持ち。確かにキングという称号に俺は満足している。このシティで俺に敵う者は、誰一人としていなくなった自負もある。それらに嘘偽りはない。

 

 ただ時折思い返すのだ。

 あの時、もし仲間を裏切らず、正々堂々と勝負していたら。それこそ、アイツらと真っ向から向き合っていれば、こんな渇きを覚えずに済んだのかもしれないと。

 

 ――『僕は《デビル・ドラゴン》で直接攻撃! 地獄炎(ヘル・ファイヤー)!』

 

 武藤遊太が、俺を指し示しながら直接攻撃の宣言を下した。

 不思議な感覚だ。目の前にいる子供が、まるで記憶の残骸として打ち捨てたはずのアイツと重なって見えた。仲間の大事さを理解し、絆を誰よりも尊ぶ、熱く俺を滾らせる男に。

 

 故に認めた、絆という繋がりの強さ。

 讃えた、その誇りある精神を。

 見えるけど見えないもの。確かにそれは存在し、俺たちデュエリストに力を与えてくれていたのだ。

 

 ――『お前の言う通り、どうやら俺を支えてくれるものはあったらしい』

 

 俺は場に伏せていたカード《王魂調和》をめくった。

 

 ――『直接攻撃宣言時に発動、《王魂調和》の効果により相手の攻撃を無効にし、さらに俺は墓地のモンスターを素材に、こいつをシンクロ召喚する』

 ――『レベル8のシンクロモンスター……?』

 ――『見るがいい、俺が心より認める男のカードを。大いなる風に導かれし龍の翼を。響けっ! 《スターダスト・ドラゴン》!』

 

 俺がそうしてスターダストを場に出した瞬間だった——。

 ソリッドビジョンも使っていないはずの店内で、銀翼の龍は大きく羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——遊太視点

 

「それにしても、相変わらず繁盛しているようだな。さっき、配達に出かける母親と出会したぞ」

 

「あははは……おかげさまで」

 

 愛想笑いを浮かべるオレ。

 そちらは相変わらず台風みたいだね、なんてことは言わない。言っても別に不機嫌にならないのは知っているが、別に口に出すことでもない。

 

 とりあえず、今日はなんの用事で来たんだろう? また、行きつけのカフェにでも連れて行ってくれるのかな? あそこのエッグサンドバーガーは美味しいから、それならありがたいんだけど。

 

「ん? 珍しいな。お前が自らデッキを構築しているとは」

 

 話をしていれば、ジャックさんこと金色の悪魔が、デッキを組んでいるオレに気付いたらしい。数分前のママと同じような顔をされた。

 

「ママにもさっき”珍しい”って言われちゃったなぁー。僕がデッキを組んでるのって、そんなに可笑しいかな?」

 

「ああ。普段のお前なら客なぞそっちのけで、けったいなゲーム機をいじっているだろ。ようやく、デュエリストという自覚が芽生えたか?」

 

「んー、どうだろ」

 

 確かにデュエリストになったつもりではいるけど、龍亞たちとデュエルするため、みたいなところもある。

 金色の悪魔はそれを気にすることもないのか、慣れた手つきでデュエルスペースに腰掛けた。

 

 ちなみにこれは余談だが、ジャックが座った場所は、あれから「キングが愛用した椅子」として大々的に売り出している。意外とジャックファン——主に女性が中心——から受けがいいんだぜ。こんな暴君のどこが良いのやら。この前なんか、ジャックさんの秘書を名乗る人がわざわざ座りに来てた。

 

「おい、遊太。この前の試合は見たか」

 

 ふと新しい話題を振られたため、オレの頭の中で金色の悪魔の試合が再生される。

 めちゃくちゃ悪い笑みで相手のプレイヤーを圧倒していた姿だ。

 

「相変わらず余裕そうだったね」

 

「当たり前だ。キングの辞書に敗北の2文字は無いからな」

 

「無敗記録の更新も当たり前かー」

 

 常人が言えば、ただの見栄張りなのだが、この男が言うからこそ様になる。

 未だ表舞台では無敗の男、絶対王者。

 世のデュエリストや女性が心酔する理由もそこにあったりするぜ。前回のチャレンジャー、炎城ムクロが気の毒だ。彼ではこの金色のを成敗するメロスたりえなかった。

 

「まぁ、きちんと見ていたなら良い」

 

 お前はどこかサボり癖があるからな、と鋭い光を向けてくる金色の悪魔は頬杖をついた。

 どうやらオレがファンじゃなかったと言う勘違い話を、まだ根に持っているらしい。案外こういうところが、みみっちいとオレは感じたりするぜ。

 

「僕だって色々と忙しいんだよぉ……積みゲーがそこそこあってさ」 

 

「そんなこと関係ない! お前はいずれ俺へ挑戦する程のデュエリストだ! 泣き言は許さん!」

 

 だん、とデュエルテーブルを叩きながら、鬼気迫る表情で悪魔は語った。

 ほんと何でここまで好かれてんだろう。

 あの時にやったデュエルだって、最終的には金色の悪魔の勝利で終わったはずだ。オレに魅力を感じる場面など一欠片もなかった。やっぱり、じーちゃんの名言が心に刺さったのかな?

 

 やっぱ、じーちゃんは偉大だぜ!

 

「遊太、貴様は自覚をしていないようだから教えてやるが、貴様のデュエルセンスは異常だ」

 

 金色の悪魔はため息を着きながら、デュエルテーブルの上を小刻みにトントンと叩く。

 

「え、そうかな? 普通だと思うよ」

「キングの言葉が信じられんのか」

 

 ジャックさんは冷徹な雰囲気を身に纏った。

 そうは言われても、昨日、同い年の龍亞に負けかけた時点で、オレのデュエルセンスはたかがしれてる。悪魔といい勝負をしたせいで、天狗になっていたと思わされたくらいだ。

 

「……わかった、ならばこれで俺の言っていることを理解させてやる」

 

 そう言って金色の悪魔が取り出したのは、一通の招待状らしき紙である。折り目ひとつついていないところを見ると、大事に保管していたのか、貰ってから時間があまり経過していないのが分かった。

 端正に綴られた文字列を見てみる。紙の上には黒いインクで「デュエル・オブ・フォーチュンカップ」と書かれていた。名称からしてデュエルモンスターズの大会か何かだろう。それにしても仰々しい手紙を招待状にしている。

 

「うーん、これにでろってこと? あんまり気乗りしないや」

 

「今度、保安維持局とK C(海馬コーポレーション)が開催するデュエル・オブ・フォーチュンカップについてなんだが、そこにお前も出てもらう」

 

 あれ? もしかして僕の声聞こえてない?

 金色の悪魔は聴覚が失われたように機械的な口調で続ける。

 

「——大会の出場枠は俺てずから推薦しておいた。K Cに元々お前の知り合いがいたおかげで、すんなり通ったぞ。未来の俺の挑戦者として初の公式大会だ。無様な姿を晒さないよう俺がみっちり仕込んでやる」

 

「あのー、僕はあんまり気乗りしないなーって」

 

「仕込んでやる」 

 

「……気乗りし」

 

「仕込む」

 

 もはや何を言ってもダメだと悟った。オレが菩提樹の根元で座禅を組み、解脱をするイメージに耽っていると、金色の悪魔は次にファイリングされた紙束を取り出す。

 

「これが参加者のリストだ。参加者はK Cがランダムに選んでいる」

 

「えー、ほんとに出るのー……」

 

 オレは諦め半分で紙を受け取り、ぺろっと親指を舐めて紙を捲っていく。

 うんうん、ランダムで選ばれているということもあり、知らない人が多いイメージだ。中にはこの街に住んでなさそうな外国の人までいる。この黒フードで顔を隠してる人なんて、結構やばそうな人に見えるけど、大丈夫か?

 と、ちょうど5枚目に差し掛かった時、オレの手が止まった。

 

「——龍可?」

 

 そこに載っていたのは龍可の顔写真と、簡易的なプロフィールだ。

 まさか龍可がこの大会の出場メンバーに選ばれてるなんて、偶然って本当にあるんだなと思う。

 悪魔もオレの反応に気が付いたのか、オレの頭上から紙を見下ろしていた。

 

「知り合いか?」

 

「うん。昨日、うちに来た僕の友達だよ」

 

「ほう、そうか。ならば、お前が出る理由も確定したわけだな」

 

 意地の悪そうな笑みを漏らす悪魔。やはりコイツは邪智暴虐なる王だ。人を信用できないと、すぐに殺す悪王である。

 

「でも、他の人はランダムで僕だけ推薦なんて、なんか卑怯じゃない?」

 

「何を言うか。運も実力のうちというが、お前の場合は実力が一人歩きし過ぎている。然るべき場所に出て、然るべきデュエルをしろ」

 

 ジャックはそう言うと、何を思い立ったのか椅子を引いて立ち上がった。向かった先は電気ケトルが置いてある棚だ。横には、ママがジャック様用にと買い置きされたカップ麺の箱詰めがある。

 そういえば今は昼過ぎか。

 悪魔はいつも小腹が空いたら、うちのカップ麺を食す。気品ある姿で、ジャンキーフードを片手に食べる光景は、いつ見てもシュールだった。

 

「はぁ……もうこの際出るのはいいとして、僕が負けても文句言わないでよ?」

 

「言うに決まっているだろ!」

 

「暴君だよ〜……はぁ……」

 

 今日何度目になるのか分からないため息をついた。

 まぁ、この大会でいい成績を残せば、龍亞も龍可もオレをすごいと言ってくれるかもしれない。

 

 いや、龍亞はそれより「羨ましい」と言ってくるのかな? もしかしたら龍亞が龍可の変わり身として出場してくるかも。そう考えれば、この大会に出場するのも悪いことじゃない気がしてきた。

 

 あ、あとK Cの知り合いと言ってたし、もしかしたらあの人も一枚噛んでるのかな?




ジャックは「絆」をおぼえた
ジャックからの好感度が5上がった。
ジャックのレベルが3上がった。
ジャックは「スターダストドラゴン」を使えるようになった。

絆の力を知り、アニメのジャックよりもパワーアップ!
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