5D's:武藤遊戯の孫 作:ジャガイモ
《ジャンク・ウォリアー》
龍亞「アニメの中盤までは、永続効果だったカードだ!」
龍可「攻撃力もすっごく高くなるのよね」
龍亞「ワンキルだって狙えるぜ」
気に入った。
悪魔の呼び出しを受け、オレは狭霧さんの車に乗り、デュエルスタジアムを目指していた。
あの悪魔、用意周到である。
もう深夜に近いこともあり、交通手段は無く、未成年が1人で出歩ける時間ではない。家に出る時、そう悟ったオレの家の前には、既に悪魔の秘書を名乗る狭霧さんが車を停めていた。なんでも、「アトラス様のご命令で来ました」とかなんとか。
くそー、あの悪魔はなんでもお見通しなんだぜー……。
しかも、よく見たらこの狭霧という人、この前、悪魔の椅子に座りに来てた人なんだよな。ちょっと気まずいぜ。
「遊太くん、顔色悪いようだけど大丈夫?」
「え? あ、うん! 平気だよ」
「ならいいけど……酔ったら遠慮せず言ってね」
頭を抱え気味になっていたせいか、狭霧さんが横目で俺を心配してきた。
なんだろう、思ったより良い人だ。ザ・大人の女性という感じの包容力がある。悪魔に身も心も捧げてなかったら、すごい好感触なんだぜ。こういう人ほど悪魔にたらし込まれるのだから、世の中って不思議だ。
「そういえば、狭霧さん。悪——じゃなかった、ジャックさんがデュエルスタジアムで何してるか知ってるの?」
自分が何用で呼ばれているのか知らないことを、今更ながら思い出す。メールで脅迫されていたため気が回らなかった。
「えぇ、知ってるわよ。サテライトから
「サテライトから? へー」
狭霧さんの言い方に少し違和感を感じたが、とりあえず流しておく。
サテライトというのは、簡単にいうとスラムである。ネオ童実野シティを支えるために必要な場所、とされているが、その実態はシティの人間が侮蔑する掃き溜めだ。
オレが生まれる前から、既にサテライトという場所はあったらしい。じーちゃんがこの町に帰ってきた時、愕然としたと話を聞いたことがある。昔はこんな町じゃなかったのに、とぼやいていた。
だからなのか、オレはサテライトに対する侮蔑やら偏見やらを持っていない。珍しいことだと自分でも思うぜ。お客さんの話を聞いていたら、自分がなんとなく変わった価値観を持っていることに気付かされる。ママもそれで良いと言ってくれるあたり、うちの家族はサテライトに対する偏見を持っていないのだろう。
「アトラス様から聞いてるのは、遊太くんをスタジアムへ運ぶこと。それ以外は特に聞いてないの」
「じゃあ、僕にデュエルを見てもらうのが目的なんだね」
「そうみたい。私はお止めしたのだけど、アトラス様は『最高の夜になる』と言っていたわ」
出会った当時から、悪魔はオレにデュエルを見てもらいたそうにしていた。今度もその類なのだろうと思うが、心のどこかで違うと囁かれる。
悪魔の出身はプロフィール上、トップスだ。生まれも育ちも良い、と何かのテレビ番組で紹介されていたのを思い出す。そんな悪魔が、サテライトの男とデュエルすることを「最高の夜」と言った。シティでも敵無しと恐れられている無敗の悪魔が、だ。オレはそんな違和感に答えを出しつつあった。
「ジャックさんは決着をつけるつもりなのかな……」
「どういう意味?」
「……ごめん、言ってて僕にも分かんないや!」
オレは誤魔化すように笑った。サイドミラー越しに流れる街灯を見つめれば、悪魔に乗せられたバイクの速さを思い出す。
「そろそろ着くわ」
狭霧さんに言われて前方を見据える。そこには海をバックにしたデュエルスタジアムがあった。普段とは違う赤い光が灯っているところから、正規の目的で使用されていないのが分かる。
いつもはママに連れられて来るけど、今日は少し違う場所のような雰囲気を感じるな。
ちょっとした不安と恐怖を感じながら、オレは首にかかる千年パズルを握った。
車から降り、狭霧さんの案内通り進むと、スタジアムを一望できる全面ガラス張りの観覧席に着いた。いかにもV I Pが使っています、と言わんばかりの高級さに目が眩む。オレには一生縁がないと思うほどの豪華絢爛さだぜ。
ふとスタジアムを見下ろせば、2台のDホイールと2人の人影が見えた。
1人と1台は見慣れた白い悪魔である。対峙する赤いDホイールと、独特なセンスの服装をした男に見覚えはない。あれが、狭霧さんの言っていたサテライトからの来訪者なのだろう。
悪魔と男が何かを言い交わせば、2人してDホイールに乗り込んだ。スタートラインについていることから、ライディング・デュエルを行うらしい。
「ちょうど始まりそうね」
「うん」
オレがぐっとガラスに身を張りつかせて見下ろせば、悪魔がこちらを覗き見た気がした。
「……がんばれ、ジャックさん」
不意にそんな言葉が漏れる。
この戦いにどのような意味があるのかなど、オレには分からない。あの2人の間にある因縁など知る由もない。
それなのにオレは、なんとなくジャックさんには負けて欲しくないと思った。
「「
遊星L P :4000
ジャックL P:4000
その宣告と同時、2台のDホイールが弾丸の如く放たれた。
まるでアイスダンスを踊る男女のように、華麗な軌道を描く紅白の線。それらが、やがて示し合わせたかのように一直線に並ぶ。バイク特有のけたたましいエンジン音は、スタジアム内で響き渡った。
「チャレンジャー、先行はお前からだ」
先頭を取ったジャックが言った。
オートパイロットを使用したライディング・デュエルでは、先行と後攻をスピードに関係なく決められる。遊星も、ジャックの裁定に文句はないため、デッキの一番上に指をかけた。
「俺のターン、ドロー」
引いた1枚を確認する遊星。
そのまま手札から1枚のカードを取り、モンスターゾーンと魔法&罠ゾーンにセットした。
「——モンスターを1枚セット。さらにカードを1枚伏せてターン終了だ」
フィールドにセットされるモンスターカードと、伏せカードを見てジャックは笑う。遊星は比較的、ワンターン目は守る傾向にあると知っていた。
遊星
ジャックS P C:0 ⇨ 1
「変わらんなぁ、お前のやり方は……俺のターン!」
ターンの開始を宣言し、ジャックはドローする。
「相手フィールドにモンスターが存在し、俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、攻撃力・守備力は半分としコイツを特殊召喚できる。こい! 我が
鱗などかなぐり捨てて、紫色の筋肉のみ身を纏ったドラゴンが、空中から飛び出てくる。大きく口を開け咆哮する《バイス・ドラゴン》は、その猛々しい体をひとまわり小さくさせた。
《バイス・ドラゴン》
闇属性|星5|ドラゴン族/効果
攻2000 ⇨ 1000
守2400 ⇨ 1200
「——さらに俺は、チューナーモンスター《クリムゾン・リゾネーター》を通常召喚」
炎のリングを6つ背負った悪魔が、持っている音叉を華麗に鳴らしてながら登場する。
これにより、チューナーモンスターとチューナー以外のモンスターがジャックの場に揃った。であるならば必然、ジャックが次に取る行動は誰もが容易に想像できる。
《クリムゾン・リゾネーター》
闇属性|星2|悪魔族/チューナー/効果
攻800|守300
「くるかっ……」
「遊星よ、その目にとくと焼き付けるがいい!
《クリムゾン・リゾネーター》が、再び音叉を鳴らす。すると、その体は2つの星へ、さらに星は回転し。2本の円形フレームへと転じた。《バイス・ドラゴン》はリゾネーターだった2本の円形フレームへと身を潜らせる。そうすれば、《バイス・ドラゴン》もまた5つの星となった。
2本の円形フレーム内に浮かぶ5つの星。それらが合わさった時、一条の光が生まれる。
「王者の叫びが木霊する——勝利の鉄槌よ、大地を砕け!
シンクロ召喚——羽ばたけ! 《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」
サテライト時代よりジャックが愛用しているドラゴンが飛翔した。
丸く膨らみ発達した上半身に、そこから伸びるオレンジ色の翼。胴や脚などは細長く、尻尾や手が異様に大きいのが特徴的な姿形をしている。
2ターン目から遠慮のないシンクロ召喚に、遊星は思わず目を細めた。
<エクスプロード・ウィング・ドラゴン>
闇属性|星7|ドラゴン族/シンクロ/効果
攻2400|守1600
「バトル! 次の瞬間、俺は手札にある<ジュラゲド>のモンスター効果を発動! 自身を特殊召喚する!」
両手に大きな鉤爪を持つ不気味な存在が、ジャックの背後より這い出てきた。
<ジュラゲド>
闇属性|星4|悪魔族/効果
攻撃1700|守1300
「バトルフェイズに特殊召喚できるモンスターがいるのか!?」
「フッ、コイツの効果はそれだけではない。<ジュラゲド>の効果で俺は1000L P回復する」
ジャックがそう言えば、《ジュラゲド》は己の身を掻きむしり、血の雨を主人へと注いだ。
ホラーが苦手な者が見れば、失禁してしまうほどショッキングな映像である。だが、そんな残虐なシーンとは裏腹に、ジャックのライフポイントは増した。
ジャックL P:4000 ⇨ 5000
「(ライフ回復の能力も強力だが、攻撃力も高い……厄介なモンスターだな)」
遊星は内心で、ジュラゲドの凶悪さに舌を巻く。
「さぁ、役者は揃えた。遊星、お前が何を伏せているか知らんが、王の歩みを止める者は何人も許さん。まずはジュラゲドで伏せモンスターを粉砕する!」
「……」
ジュラゲドは自慢の鉤爪でセットモンスターを切り裂く。セットモンスターから飛び出してきたのは、黒いヘルメットを被った武装兵だった。
場に壁モンスターがいなくなったことにより、ジャックは少しだけ遊星の反応を窺う。遊星の場に残っているのは、伏せカードが1枚。今この瞬間、発動してこないところを見ると、直接攻撃宣言時に発動するカードの可能性があった。
しかし、その程度の懸念でジャックの攻撃は止まらない。
「動かない、か。ならばエクスプロード・ウィング・ドラゴンで、続けて遊星にダイレクト・アタック! キング・ストォーム!」
「——っ」
エクスプロードから放たれる巨大な業火。名前に恥じぬ破壊力に、思わず遊星も顔を歪ませた。
L Pが1000の倍数で減ったため、スピード・ワールドにより、遊星のS P Cが下がる。それに伴い深紅のDホイールも減速した。
遊星L P :4000 ⇨ 1600
遊星S P C:1 ⇨ 0
「分かるか? 先制することは我が身を守ることになる。いくらモンスターや罠を伏せようと、姑息な回避手段ばかり取っていては、この俺に勝てん」
「お喋りが過ぎるっ」
「フン、どうだかな。俺はカードを2枚伏せて、ターン終了だ」
デュエルを観覧していた狭霧は思わず見惚れていた。
ジャック・アトラスのデュエルは、まさに日々を追うごとに洗練されている。どこまで進化するのか、彼女には理解できないほどのスピードで、だ。
だからこそ、狭霧は無意識のうちにこう呟いていた。
「流れは完全にアトラス様にある……勝負は決まったわね」と。
それを隣で聞いていた遊太が、同意することはなかった。
遊星S P C :0 ⇨ 1
ジャックS P C:1 ⇨ 2
「俺のターン」
引き続き遊星のターンが回ってくる。前ターンで負ったダメージなど気にする様子もなく、遊星はドローした。
「俺は<シンクロン・キャリアー>を通常召喚! キャリアーのモンスター効果。手札のチューナーモンスター<ジャンク・シンクロン>を通常召喚に加え、召喚する! こい、ジャンク・シンクロン!」
場に出てきたのは、橙色で塗装された体を持つ、2体のロボット風なキャラクター。全体的に体が小さいため、どこかのマスコットキャラのようにも見える。ジャックはこれら2体のモンスターを懐かしそうに眺め、ひそかに笑みをこぼした。
「(仕掛けてきたかっ)」
ジャンク・シンクロンは遊星が長い間、愛用しているカードの1つだ。当然、ジャックが効果を知らないわけがない。遊星の狙いを全て看破した上で、ジャックは心躍らせているのだ。
<シンクロン・キャリアー>
地属性|星2|機械族/効果
攻0|守1000
<ジャンク・シンクロン>
闇属性|星3|戦士族/チューナー/効果
攻1300|守500
「ジャンク・シンクロンのモンスター効果! このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の星2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。墓地の<ドッペル・ウォリアー>を特殊召喚!」
ジャンク・シンクロンが腕を横に振り払えば、隣から破壊されたドッペル・ウォリアーが顔を覗かせる。あ、もう休憩終わりですか? と言いたげなその表情に、ジャンク・シンクロンは申し訳なさそうな顔をした。
<ドッペル・ウォリアー>
闇属性|星2|戦士族/効果
攻800|守800
「知っているさ。さぁ、チューニングをするがいい」
背後で走る遊星へ、ジャックは余裕綽綽と言った様子で語りかけた。
あまりに落ち着きを払った言い方をされたため、遊星は一瞬だけ顔を歪ませる。
「っ——いくぞ! 星2のドッペル・ウォリアーに星3のジャンク・シンクロンをチューニング!」
ジャンク・シンクロンが背中についているリコイルスターターを引っ張れば、エンジンが稼働を始める。2体のモンスターが円形フレームと星に転じれば、遊星の頭上に光の筋が迸った。
「集いし星が、新たな力を呼び起こす——光差す道となれ!
シンクロ召喚——いでよ、<ジャンク・ウォリアー>!」
光より参上したのは、ジャンク・シンクロンに顔つきが少し似た、青紫の戦士である。正拳突きのポーズをきめてから、遊星の側を飛行する。
<ジャンク・ウォリアー>
闇属性|星5|戦士族/シンクロ/効果
攻2300|守1300
「懐かしいカードだなぁ。だが、そいつの効果を使用しても、俺のモンスターは越えられん」
「過信は自滅を招くぞ、ジャック! シンクロ召喚したジャンク・ウォリアーのモンスター効果にチェーンし、シンクロン・キャリアーのもう1つの効果を発動!
さらに、墓地にあるドッペル・ウォリアーのモンスター効果も、キャリアーの効果にチェーンし発動する!」
「なるほど、それなりの戦略は考えていたか」
ジャックは、キングにあるまじき獰悪な笑みをこぼした。
「チェーンは逆順で処理される。まずはドッペル・ウォリアーの効果により、ドッペル・トークン2体を攻撃表示で特殊召喚。さらにキャリアーの効果で、シンクロントークンも1体、攻撃表示で特殊召喚する」
《ジャンク・ウォリアー》の両肩のジェット口から、2つの光が飛び出し、やがて小人の兵士へと姿を変える。寡黙な戦士と言った雰囲気の《ドッペル・ウォリアー》と比べ、《ドッペル・トークン》はいかにも悪さをしそうな子供だった。
対して、《シンクロン・キャリアー》のトークンの出し方は衝撃的である。キャリアーは、墓地に行った《ジャンク・シンクロン》から背中のエンジンをパクってきて、それをトークンにした。これがサテライト式のリサイクルというものなのか。墓地にいる《ジャンク・シンクロン》が泣いているような気がした。
(ドッペル・トークン)×2
闇属性|星1|戦士族/トークン/通常
攻400
地属性|星2|機械族/トークン/通常
攻1000<ruby><rb>|守0</rb></ruby>
「——最後にジャンク・ウォリアーのモンスター効果。自分のフィールド上に存在する、星2以下モンスターの攻撃力の合計を《ジャンク・ウォリアー》に加える! パワー・オブ・フェローズ!」
遊星の場にいる星2以下のモンスターたちが、一斉に《ジャンク・ウォリアー》に声援を送った。それにより、《ジャンク・ウォリアー》のやる気と攻撃力が跳ね上がる。
《ジャンク・ウォリアー》
攻2300 ⇨ 攻4100
「攻撃力4100……か。面白い!」
目の前で繰り広げられる寸劇なんて何のその。ジャックはあくまで《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力に感心した。
「《ジャンク・ウォリアー》で《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》に攻撃! スクラップ・フィスト!」
攻撃命令と同時、繰り出されるは巨大な右拳。ナックルダスターがはめられているため、威力は想像以上に大きい。両肩のジェットを噴射させて突進する《ジャンク・ウォリアー》に、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》はなす術なく砕かれた。
戦闘でのダメージがジャックに齎される。ダメージが1000以上だったため、Dホイールの速度が落ちた。
ジャックL P:5000 ⇨ 3300
ジャックS P C:2 ⇨ 1
ジャックはそれでもなお、余裕の笑みを崩さない。
遊星も特に気にせず、ターンの終了を告げた。
遊星S P C :1 ⇨ 2
ジャックS P C:1 ⇨ 2
「俺のターン!」
ドローしたカードを一瞥し、ジャックはフンと鼻を鳴らした。
「——俺は永続罠《強化蘇生》を発動。自分の墓地の星4以下モンスターを特殊召喚する。復活せよ、我が
赤い光が爆発すれば、そこから《クリムゾン・リゾネーター》が飛び出してくる。お気に入りの音叉を鳴らし、ギザギザな歯を見せる姿は、まさに悪魔に相応しい形容だった。
《クリムゾン・リゾネーター》
星2 ⇨ 星3
攻800 ⇨ 攻900|守300 ⇨ 守400
「さらに俺は、手札より《クリッター》を通常召喚」
続いて召喚されたのは、クリボーに似ているようで、全く似ていない3つ目の悪魔である。エラッタされたことにより、全力を出しても問題ないモンスターとして、邪智暴虐の王に遊太がオススメした。
これによりジャックの場には、1体のチューナーと、2体の非チューナーが並ぶこととなった。
《クリッター》
闇属性|星3|悪魔族/効果
攻1000|守600
”またシンクロ召喚をするつもりか……だが、《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力を上回るモンスターを、容易に出せるとは思えない”
現在の戦況を冷静に見返した遊星は、己の中でそう結論づけた。遊星の知っているジャックのシンクロモンスターに、攻撃力4100を超えるものはいない。かのレッド・デーモンズですら、攻撃力は3000である。
しかし、ジャックは遊星の考えを読んでいるかのように一笑に付す。
「遊星、お前は今の《ジャンク・ウォリアー》を越えられるモンスターを出すのは難しいと思っているな?」
「——っ」
「ならば鱈腹味わわせてやろう。キングのタクティクスを」
「なに!?」
遊星の驚嘆をよそに、ジャックは高らかと宣言する。
「星3の《クリッター》に星3の《クリムゾン・リゾネーター》をチューニング!
王者の牙は、紅蓮の炎をあげ、何者をも貫く——その身を焦がし尽くせ!
シンクロ召喚——吼えろ! 《獣神ヴァルカン》!」
マッスルな虎が、鍛冶屋が持っているような大きい金槌を担いで現れた。鋭く尖った目尻は、まさに職人気質が顔に表れている証拠である。
だが、いくら見た目が強そうなモンスターでも、《獣神ヴァルカン》の攻撃力は2000。これでは4100の《ジャンク・ウォリアー》に勝てない。《獣神ヴァルカン》もそれを理解したのか、後輩に煽てられ調子に乗っている《ジャンク・ウォリアー》に尻込みしていた。
《獣神ヴァルカン》
炎属性|星6|獣戦士族/シンクロ/効果
攻2000|守1600
遊星はヴァルカンのステータスを見てすぐに感づいたらしく、眉間に縦皺を作る。
「何かモンスター効果に秘密があるのか」
「すぐに見抜くとは流石だな、遊星。お前の言う通り、このモンスターの真価は攻撃力ではない」
え、そうなの!? と驚きの表情をするのは、ヴァルカンとジャンク・ウォリアーであった。なぜ本人まで驚いているのか。
「シンクロ召喚時、《獣神ヴァルカン》のモンスター効果! さらに墓地へ送られた《クリッター》のモンスター効果もチェーンして発動する! デッキから攻撃力1500以下のカードを我がもとに!」
半透明となったクリッターが、カードを1枚抱えてゲラゲラと笑った。
ジャックはサーチしたカードを、満足そうにDホイールの手札ホルダーに収める。
「——そして慄くがいい! 《獣神ヴァルカン》の効果は、お互いの場のカード1枚を手札に戻すものだ。俺が選ぶのは当然、《ジャンク・ウォリアー》!」
「だが、その効果でお前のモンスターも戻される!」
ヴァルカンが「とりあえず……」と言った調子で至大な金槌を振れば、風圧で《ジャンク・ウォリアー》だけが吹き飛ばされる。星となった偉大なる先輩を、遊星の場にいるモンスターたちは名残惜しそうに見届けた。
そして遊星は気付く。《ジャンク・ウォリアー》がE Xデッキに戻ったのにも関わらず、ジャックの場にいるモンスターが2体のままであることを。
「残念ながら、《獣神ヴァルカン》の効果で戻せるのはモンスターだけではない」
「っ……まさか!?」
「そう、俺が戻したのは、既に効果対象を失っている永続罠《強化蘇生》だ」
慌てて遊星がディスプレイを確認してみれば、確かにジャックの場から《強化蘇生》が消えている。
”ジャックの真の狙いは、次のターンも《強化蘇生》を使うことか”
「これでお前の場には格下のモンスターのみ! バトル! 《獣神ヴァルカン》で《シンクロン・キャリアー》に攻撃!」
「させるか! 罠カード発動 《重力解除》! フィールドの表側表示モンスター全ての表示形式を変更する!」
攻撃態勢に入っていたヴァルカン含め、全てのモンスターが重力に逆らうよう宙を舞った。ジャックと遊星の場に、攻撃表示のモンスターは1体もいなくなる。
「脆弱なモンスターを全て攻撃表示にしていた理由はそれか! 仕方ない、メインフェイズ2。俺は《ジュラゲド》を攻撃表示にし、カードを2枚伏せてターンエンド——さぁ、お前のターンだ、遊星!」
攻撃を防がれた悔しさも束の間、さっさと切り替えたジャックは遊星にターンを譲った。
遊星S P C :2 ⇨ 3
ジャックS P C;2 ⇨ 3
「俺のターン!」遊星が1枚ドローする。「俺はチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》を通常召喚!」
まさか出番があるとは思っていなかった《ニトロ・シンクロン》は、慌てた様子で飛び出してきた。手には《ニトロ》シンクロモンスターを増やせ、と書かれた紙がある。
《ニトロ・シンクロン》
炎属性|星2|機械族/チューナー/効果
攻300<ruby><rb>守100
「さらに、<rp>《</rp><rt>シンクロン・キャリアー</rt><rp>》</rp>のモンスター効果! 俺は《シンクロン》モンスターを、通常召喚とは別に1体召喚することができる! 《ドッペル・トークン》をリリースし、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》をアドバンス召喚!」
次に現れたのは、ガンマンの風貌をした、お腹に映写機を持つモンスターだ。隣にいる《ニトロ・シンクロン》は、彼を恨めしそうな目で見ていた。きっと、アニメ中盤以降、出番を取られたことに怒っているのだろう。汎用性の高いカードは、人知れず不遇モンスターを増やす。この世はまさに弱肉強食だ。
《クイック・シンクロン》
風属性|星5|機械族/チューナー/効果
攻700|守1400
「チューナーを2体並べたか」
「今度は俺の番だ、ジャック!
星2の《シンクロントークン》と星1の《ドッペル・トークン》に、星5の《クイックシンクロン》をチューニング!」
5つの円形フレームと合計3つの星となったモンスターたち。そこから旭光を生み出し、新たな戦士が呼び出される。
「集いし希望が、新たな地平へ誘う——光差す道となれ!
シンクロ召喚——駆け抜けろ! 《ロード・ウォリアー》!」
出てきたのは、クリーム色の装甲を身に纏い、品位ある立ち姿をしている《ロード・ウォリアー》。高潔な佇まいからは、見る者を魅了する美しさが醸し出されていた。
《ロード・ウォリアー》
光属性|星8|戦士族/シンクロ/効果
攻3000|守1500
「シンクロ召喚に成功したことで、《シンクロン・キャリアー》のモンスター効果! 《シンクロントークン》を特殊召喚する。
さらに、《ロード・ウォリアー》のモンスター効果も発動! 1ターンに1度、デッキから星2以下の戦士族・機械族モンスターを特殊召喚する。俺が召喚するのは、星1の《チューニング・サポーター》」
前回と同様、キャリアーは《ジャンク・シンクロン》のエンジンを盗み、《ロード・ウォリアー》は雄叫びとともに《チューニング・サポーター》を呼び出した。
シンクロに3体のモンスターを使用してもなお、遊星の場にはモンスターが溢れ返る。呑気に眺めているジャックは、遊星の展開力に目を見張りつつも、余裕を崩さないでいた。
「新たに合計で星7を揃えるとは。やるな、遊星」
「感心するのは、まだ早い——俺は星1の《チューニング・サポーター》と星2の《シンクロントークン》、《シンクロン・キャリアー》に星2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」
遊星の闘志に呼応するように、モンスターたちが己の体を転じさせていく。(約一名に関しては、やる気が出過ぎて空回り気味なのは目を瞑ろう)
そうして、光の道標は作られた。
「集いし思いが、ここに新たな力となる——光差す道となれ!
シンクロ召喚——燃え上がれ! 《ニトロ・ウォリアー》!」
緑色の肌を露にし、装甲のように黒い岩石を手首や肩に装着した戦士。《ニトロ・ウォリアー》の背中と尻尾からは、感情の荒ぶりを示すよう、炎が勢いよく噴き出した。
《ニトロ・ウォリアー》
炎属性|星7|戦士族/シンクロ/効果
攻2800
「シンクロ素材となったと《チューニング・サポーター》のモンスター効果。デッキから合計2枚をドローする」
遊星がカードを引けば、《Sp《スピードスペル》-エンジェル・バトン》が舞い込む。エンジェル・バトンは、2枚のカードを引き、手札から1枚捨てられるカードだ。その強力かつ扱いやすいことから、遊星を含む全デュエリストから重宝されている。
更なる展開ができると確信し、遊星がエンジェル・バトンを発動しようとした瞬間、ジャックが声を上げた。
「ならば俺も永続罠《便乗》を発動させてもらう」
「っ」
「お前も分かっているな。《便乗》は相手がドローフェイズ以外でカードをドローする度、俺もデッキから2枚ドローできるカードだ。これ以降、カード効果でドローすることは、俺の手札を増やすことに直結する」
ジャックの罠カードにより、遊星の手は止まってしまった。《便乗》は、相手がドローフェイズ以外でドローしなければ発動できないカード。ジャックは最初から、遊星がドロー効果を発動するのを、虎視眈々と狙っていた。
”俺の戦略を読んでいたというのか”
弱気になりそうな気持ちを押し込め、遊星はすぐさま頭の中をリセットした。
「だったら、バトル! 《ニトロ・ウォリアー》で《ジュラゲド》へ攻撃! ダイナマイトナックル!」
背中と尻尾のブーストを噴射させ、《ニトロ・ウォリアー》が突進する。肥大化させた両腕は、巨大な鉤爪を持つ《ジュラゲド》を確実に砕かんとしていた。
だが——、
「駄目だなぁ、お前は。一見クールなようで、すぐ熱くなる。お前が俺に負け続けていた理由がそこにある」
「なんだと」
「お前は俺を恐れている! だから性急な攻めを繰り返すばかりで、俺に踊らされていたことに気付かない!」
先程と同じ感情が遊星の胸中で再燃した。
”踊らされていた?”
「こういう意味さ——罠カードオープン。《プライドの咆哮》」
《ジュラゲド》が、迫り来る《ニトロ・ウォリアー》に向かい、逆に突進した。
周囲一帯で逆巻く風。《ジュラゲド》に味方するように、突風が鉤爪へ集約する。
「《プライドの咆哮》は自分のモンスターの攻撃力が相手のモンスターより低い場合、その攻撃力の差分のL Pを払って発動できる。ダメージ計算時のみ、俺のモンスターの攻撃力は相手モンスターとの攻撃力の差の数値+300アップする」
ジャックL P :3300 ⇨ 2200
ジャックS P C:3 ⇨ 2
《ジュラゲド》 攻1700 ⇨ 攻3100
「これが攻撃表示に戻していた理由か」
「キングのデュエルとはエンターテイメントでなければならない。相手が仕掛けたことを自分で仕掛ける。これほど心躍るものもないだろう? さあ、迎え撃つがいい《ジュラゲド》! ヤツの体にその爪を食い込ませよ!」
ジャックの反撃命令に従い、《ジュラゲド》は《ニトロ・ウォリアー》の胴体に爪痕を残した。砕かれる《ニトロ・ウォリアー》。破壊された衝撃により、遊星のL Pがわずかばかり減る。
遊星L P:1600 ⇨ 1300
《ジュラゲド》 攻3100 ⇨ 攻1700
L PとS P Cの数値だけ見れば、痛手を負ったのはジャックのように思えるだろう。
けれど、大量展開した遊星には、ライフ以上にシンクロモンスターを返り討ちされる方が厳しかった。
「だが、まだ俺の場にモンスターは残っている! 《ロード・ウォリアー》で《ジュラゲド》へ攻撃!」
「甘い! ダメージステップに《ジュラゲド》のモンスター効果を発動! 自身をリリースし、《獣神ヴァルカン》の攻撃力を次のターン終了まで1000アップさせる。これにより、お前のモンスターが攻撃する対象はいなくなる」
《ジュラゲド》は己の胴体を屈強な爪で切り裂き、血の雨をヴァルカンに降らせた。
戦闘の巻き戻しが起きるのは、バトルステップ時。ダメージステップ時にジャックが効果を発動したため、《ロード・ウォリアー》は攻撃対象が不在となり、攻撃が無効となる。
《ロード・ウォリアー》は《ジュラゲド》の奇行を見て、ドン引きしたまま所定の位置に戻った。
”シンクロモンスターを2体並べても、ヤツには届かないというのか”
遊星は眉を顰めながら、このターンの結果を重く受け止める。
確かにジャックの言う通り、遊星の攻めは性急になっていたのかもしれない。一度、クールダウンするためにも、遊星は深く息を吐いた。そして己の手札を確認し、次の手を決める。
「……俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」
ジャックS P C:2 ⇨ 3
遊星S P C :3 ⇨ 4
「どうだ、遊星。新しいキングのデュエルは」
Dホイールを180度回転させ、バック走で走行を始めるジャックは、満足そうに笑う。
「——相手の最大限を引き出し、鮮やかな反撃をもって、観客の心を掴む。キングのデュエルとは決して1人で成り立つモノではない。故に絶対の力!」
「1人では成り立たない……」
遊星は無意識のうちにジャックの言葉を復唱していた。
やはり、目の前にいる男は、サテライトに居た時のジャックと違う。
「1人で成り立たないからこそ、俺たちは誰よりも輝き、強さを増す。お前にも分かるはずだ、遊星。このデュエルの根底を支えているモノ、それこそが『見えるけど見えないもの』だ——俺のターン!」
前方に向き直り、ジャックはカードを一枚引き抜く。そして後ろを一瞥し、ニヤッと口角を吊り上げた。
”くるか”
遊星の身が引き締まる。
「再び俺は永続トラップ発動——《強化蘇生》! 俺は墓地より《クリッター》を特殊召喚する。さらに手札からチューナーモンスター《トップ・ランナー》を通常召喚」
”合計、星8……”
その情報だけで遊星は、ジャックが何を召喚しようとしているのかを察することができた。
「《強化蘇生》により星4となった《クリッター》に星4《トップ・ランナー》をチューニング!」
生まれる一条の光——消え去る陰影。
何もかもを飲み下すほど、かの龍の偉大さが光明により示される。
「王者の鼓動、今ここに列を成す——天地鳴動の力を見るがいい!
シンクロ召喚——我が魂! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
降臨するのは、ジャックの永遠のエースカードにして、魂の象徴。圧倒的な力で全てを焼き払う赤き存在。羽を広げ、咆哮をあげるは悪魔か、それとも王者か。己の敵である遊星を睥睨し、レッド・デーモンズは獰猛なまでに声を漏らす。
レッド・デーモンズを見上げる遊星は、自然と背中に冷や汗を流した。
「レッド・デーモンズっ……」
「さあ、パーティーも終わりが見えてきた。俺とお前の第二幕、始めようじゃないか!」
拮抗する両者の実力。だがここに、デュエル終了の兆しは見え始めた。
一人称じゃないせいか、デュエル中の地の文多い気がする。
なんだか、テンポ悪いなーと思いながら。
どうなんだろ?
ちょっと次回以降減らすかもしれません。(デュエル中のは)
PS ジャックの使うカードについて
原作で使用していないカード多いのは、
こいつが使っているカードでは、星7のシンクロ出しにくすぎるから。
A Vでの使用カードを使えばいいんですが、それはまだ先のお話。