5D's:武藤遊戯の孫 作:ジャガイモ
龍亞と龍可にお呼ばれされたオレは2人の家に訪れた。
初めての友達の家ということもあり緊張してしまう。一応、近くの売店で手土産を買っては来たけど、この場に不釣り合いなんじゃないかと思ってしまうぐらいだ。やっぱりトップスが住んでいる場所は規模が違うぜ。この吹き抜けのリビングなんて、オシャレすぎて息が詰まりそう……。
物珍しげに見渡していたせいなのだろう、近くにいた龍可がオレを見てクスッと笑った。
「そんなに珍しい?」
「あっ、ははは! ごめん……すごい部屋だったからさ、つい」
「普通よ、普通。私と龍亞だけじゃ、たしかに広すぎるけどね」
龍可がそう言って設置されているソファに座った。自身の隣へ手招きしてくれているのを見るに、オレはそこに座ればいいのだろう。
座っても汚れたりしないよな? と無駄な警戒心を孕ませつつ、お邪魔させていただくことにする。
龍可と少しの間談笑していれば、ダイニングと思われるところから龍亞が戻ってきた。手にはお茶が入ったピッチャーとコップが3つ。わざわざ、オレのために用意してきてくれたのだろう。ママも龍亞が来たときは、ああやっておもてなしをしていたような気がするぜ。
「あ、そうそう遊太! フォーチュンカップなんだけど、優勝すればキングとデュエルできるって知ってた?」
コップにお茶を注いでいた龍亞が思い出しようにそう呟く。
「うん。僕はあんまり興味ないけどね」
「えぇー、なんで!? 遊太はキング好きじゃないの!?」
「うっ、そう聞かれると困るなー……」
頬をぽりぽりと掻きながら、オレは言葉を濁した。
生憎、あの悪魔に対する感情を言語化できるほど、オレはまだ大人じゃない。別に嫌いではないと思う。だけど、彼の邪智暴虐ぶりは苦手だった。特に自然災害のように場を掻き乱していくところなど、千年パズルで殴ってやりたいくらい苦手だ。いつか、あの悪魔に天罰が下ることを願うばかりである。
それにしても、聞いている限り龍亞はキングのファンらしい。横に視線を流してみれば、龍亞がファンだと実証するかのように、キングのグッズが置かれている。レッド・デーモンズやDホイールに乗ったキングのフィギュアに、大きなポスター。ポスターに関しては何故か額縁に入っているレベルだ。
「ん? あー、あれね。俺のお宝。キングのグッズだよ。俺もいつかキングになるのが夢なんだ。ライディング・デュエル俺もやりたいんだよね」
「キングじゃなくても出来るじゃん」
「もう! 龍可はちょっと黙ってて!」
ベーっ、とお互いに下瞼をさげる双子。
本当にいつも息ぴったりだな、この2人は。もしかして、影真似の術でも使っているじゃなかろうか。
「でも、夢って大切だよ。龍亞のキングになるって夢、もちろん僕は応援するぜ」
「へへへっ、ありがと遊太!」
龍亞がはにかむと、隣に座っていた龍可がオレの袖をくいっと引っ張ってきた。
「あんまり調子に乗らせると、すぐにつけ上がるわよ」
「えー、僕のは本心からだしなぁ」
「むっ、遊太ってちょっぴり龍亞に甘すぎじゃない?」
こそこそと耳打ちしてくる龍可の体温を感じながら、少しだけ龍亞とのやりとりを振り返ってみた。
特段、龍亞に甘いという印象は見受けられない。どちらかと言うより、龍可の受け答えの方が少々トゲがあるような気さえする。
「なに2人でコソコソ話してんのさ?」
龍亞に甘いだ、そうでもないだ、と小声で話し合っていれば、訝しんだ龍亞が会話に入ってきた。
流石に龍亞だけ放って会話を進めるわけにもいかない。オレと龍可はひとまず、この論争を置いておくことにした。
「なんでもないよ。それよりどうする? 早速デュエルでもする?」
話を逸らすわけでもなく、オレは自然とデッキを取り出した。
一応、今回のお泊まりの名目は「フォーチュンカップに向けての特訓」となっている。悪魔に散々扱かれているオレからすれば、そこまで焦ってするほどのことでもないが、龍亞的には少しでもキングに近づきたいだろう。夢を応援すると言った手前、積極的に力を貸すことに躊躇いはないんだぜ。
「待ってました! 折角、遊太にも泊まってもらってるし、100回はデュエルしてもらうからね!」
「ひゃ、100!?」
「当然! 遊太は俺の夢を応援してくれるんでしょ!」
意気揚々と告げてくる龍亞に、思わずオレは目を逸らしてしまう。
どうやら龍可の言っていたことは正しかったようだ。
ため息を吐きながら「ほらね」と言ってくる龍可に、内心「すみませんでした」と謝ってしまった。
「僕は≪
今日何度目になるのかすら忘れた攻撃宣言により、龍亞のライフが、これまた何度目になるのかすら忘れたけど0になった。
「うわああああああ!」
大袈裟にソファから転げ落ちる龍亞。ソリッドヴィジョンも使わずにデュエルしているため、迫力はない。流石に100回もは、立ってデュエルできないしね。
テーブルに並べられたカードを集め、オレはデッキを切る。心情としては、まさに滝行する僧侶のイメージである。心頭滅却すれば火もまた涼し、てね。
「龍亞、負けすぎ」
ずっとオレたちのデュエルを眺めていた龍可から、そう総評が言い渡された。
まぁ、確かに今のところオレは一度だって負けていない。わざと負けてあげてもいいかもしれないが、それはそれで龍亞に申し訳ない気がして、手は抜かずにやっているのだ。
龍亞も自身の情けなさを自覚しているらしく、「うぅ」と涙声を孕ませながら唸り声を漏らす。
「龍可は遊太とやっていないから分からないんだよぉ。遊太すごい強いって……」
「龍亞が弱いだけでしょ」
「んもぅ〜! そこまで言うなら龍可も遊太とデュエルしてみれば良いじゃんか!! どうせ、俺みたいに負けるのがオチだろうけど!」
「なんで私と遊太が……」
「へっ、いっつも横から見ているだけで俺のこと弱いって言うんだ。遊太がどれだけ強いか知れば、龍可だって思い返すはずさ」
「それを言うなら”思い直す”でしょ。はぁ〜あ……」
ふん、と拗ねるように顎先を逸らした龍亞と、額に手を当てて呆れる龍可。夜が更けてきたにも関わらず、この二人はいつも通りの元気さで兄妹喧嘩を繰り広げる。見ていて微笑ましいぜ。
それにしても、オレと龍可がデュエル……か。
「えぇ〜と……僕は良いけど。どうする?」
「……」
オレはそう言いながら、恐る恐る龍可を見やった。
これまでは「疲れる」と言う理由や、「見ているのも楽しいから」という理由でオレとのデュエルを避けてきた龍可だ。何か言い知れぬ理由があるのだろうと、深く追求することはしてこなかった。
しかし、今日の龍亞にそんな理由が通じるとは思えない。
頑なに龍可とオレはデュエルをさせられるだろう。しなければ、明日から口を聞いてくれない可能性もある。なんなら、そのまま絶交されるかもしれない。
だからオレは救いを求めるように龍可を見たのだが……。
どうやら、龍可も今回ばかりは打つ手がなく、諦観したような表情で頭を横に振った。
「……分かったわよ。私も遊太とデュエルすれば良いんでしょ」
瞬間、龍可の一言に龍亞の体が跳ね上がる。
「そうこなくっちゃ! 龍可だって、遊太に負ければ俺が弱いなんて思わないよ!」
「それとこれとは話が別だと思うけど」
「別じゃないよ! 本当に、ほんとーっに、遊太は強いんだから!」
うへへ、そこまで褒められると僕も照れちゃうな〜。
っと後頭部を掻きながら頬を赤らめていれば、オレと対面で座っていた龍亞が龍可と入れ替わる。
「それじゃあ、遊太。相手をお願いね」
「うん! よろしく、龍可!」
お互いにカット&シャッフルしたデッキを所定の位置に置き、五枚捲る。
龍可がデュエルするのは初めて見るけど、一体どんなカードを使うんだろう。
胸に期待を膨らませていると、背後からいつも通り「クリクリ〜」と鳴き声が聞こえた気がした。ふと正面の龍可を見ると、目を瞑って自身のデッキに手を置いている。まるでデッキと対話をしているように思えた。
(……なんか既視感あるな)
これがデジャブと言うやつだろう。
遠い記憶、もしくは少し前に見たような。そんな曖昧で霞が掛かった記憶の再生。オレは特に重要なことでもないと思い、これから始まるデュエルに神経を集中させた。
「それじゃ、始めよっか」
「うん」
龍可からの返事を合図に、オレたちは互いの視線をぶつけた。
「「デュエル!!」」
レディーファーストと言う言葉がある通り、オレは龍可に先行を譲る。龍可も異論は無かったのか、素直にデッキトップからカードを一枚ドローした。
「私の先行、ドロー!」
龍可はドローしたカードを確認する。
「さぁ来て、≪サンライト・ユニコーン≫!」
出てきたのは青いたてがみが特徴的な白馬。シルクのように滑らかな肢体が、カードのイラストから見て取れた。
≪サンライト・ユニコーン≫
光属性|星4|獣族/効果
攻1800|守600
「サンライト・ユニコーンの効果発動! デッキトップをめくり、それが装備魔法だった場合、手札に加えるわ」
「装備魔法のサーチか」
龍可は宣言通り、一枚をデッキから捲った。現れたのは≪一角獣のホーン≫。装備魔法である。龍可のデッキ構成はわからないが、いきなり相性のいいカードを引いてくるとは、かなり引き運がいいんだぜ。
「装備魔法ね。じゃあ、これは手札に加えて、そのまま≪サンライト・ユニコーン≫に装備。一枚カードを伏せてターンエンドよ」
≪サンライト・ユニコーン≫
攻 1800 ⇛ 2500
いきなり高い攻撃力のモンスターを立てられちゃったなぁ。でも、シンクロ召喚が流行っている現代の環境であれば、これくらいはまだまだ巻き返せる。
だから、龍可も伏せカードで僕を牽制してるのだろう。サンライト・ユニコーンが破壊されれば、一角獣のホーンはデッキトップへ強制的に戻り、次のターンのドローがほとんど無意味と化すわけだし。
「僕のターン、ドロー!」
となれば、やることは一つ。
「手札から≪予想GUY≫を発動! 自分フィールドにモンスターがいないとき、山札から通常レベル4以下のモンスターを特殊召喚する。僕が召喚するのはチューナーモンスター≪守護竜ユスティア≫! さらに≪砦を守る翼竜≫を通常召喚」
≪守護竜ユスティア≫
水属性|星2|ドラゴン族/通常/チューナー
攻0|守2100
≪砦を守る翼竜≫
風属性|星4|ドラゴン族/効果
攻1400|守1200
「遊太の場にチューナーモンスターと通常モンスターが並んだ!」
青白く透明感ある小型の龍と、頭部の発達した翼竜が2体並べば、オレの意図を観戦している龍亞が察したらしい。声に興奮を混ぜながら、ソファからテーブルへと若干身を前に乗り出す。
「龍亞うるさい」
「へへ。そう言ってられるのも今のうちだよー、龍可。どう? 俺が弱いわけじゃないって認める?」
「デュエルはまだ始まったばかりでしょ。もう、気が早いんだから」
あはは、とまた軽い言い合いが始まったのを見る。最初の時よりは、ずっとこの二人の掛け合いも気楽に見られるようになってきたぜ。
まぁ龍可の言う通り、デュエルはまだまだ始まったばかり。オレがシンクロ素材を並べただけで、ここからどうなるかなんて神様しか分からない。
「行くよ、龍可。僕はレベル4の砦を守る翼竜にレベル2のユスティアをチューニング。≪大地の騎士ガイアナイト≫をシンクロ召喚だ!」
≪大地の騎士ガイアナイト≫
地属性|星6|戦士族/シンクロ
攻2600|守800
紫色の甲冑を纏った勇ましい姿の騎士。高貴さすらも感じさせるその佇まいは、しかしどことなく哀愁を漂わせているようにも見える。
オレがこのカードをエクストラデッキに採用してからというもの、何故かごく稀に「ゴヨウ……消す……ゴヨウ……許さない」などという幻聴が聞こえてきたり、こなかったりするんだよなぁ……。
うん、悪魔に扱かれすぎて疲れているだけ! きっと勘違いなんだぜ!
「やっぱり、みんな楽しそう……」
「え? みんな?」
「あ、ううん! なんでもない!」
ふとデュエルの相手である龍可が独り言を漏らしていた。
一瞬だけ、龍可が呆けたような顔していたように見えたけど、気の所為かな? シンクロ召喚なんて、昨今では珍しくもなんともないんだし。
「なにもないならいいけど。よし、僕はこのままガイアナイトでサンライト・ユニコーンを攻撃するよ!」
「えっと、攻撃宣言時にリバースカードオープン! ≪ドレインシールド≫!」
「っ」
伏せてあったのは≪ドレインシールド≫だったかぁ。
ガイアナイトの攻撃を無効化し、そのまま無効化したモンスターの攻撃力分ライフを回復する強力な罠カード。龍可はオレの一手先を読んでいたってことだね。
「やるね、龍可」
「っ、もう……褒めたってなにもでないわよ?」
そうはにかんでくる龍可に、久しぶりに胸が高鳴ったのは内緒である。
龍可LP 4000 → 6600
「遊太なにやってるんだよぉ。龍可に良い思いさせちゃダメじゃんか!」
「え、えぇ? そんなこと言われても……」
「失礼しちゃう。双子の妹が負けても、龍亞にはどうでも良いのね」
ふん、と顎を逸らして拗ねた態度を見せる龍可に、オレはう言ったらいいか分からなかった。
触らぬ神に祟りなしっていうし、ここはスルーに徹しておくのが正解かな。全然、気楽に感じなくなってきたぞぅ。ちょっとばかし、お腹が痛いよぉ。
「えっと、じゃあメインフェイズ2に移行して、僕は手札より魔法カード≪竜の霊廟≫を発動。効果はもう知ってるよね? 僕はデッキから≪デビル・ドラゴン≫を落とし、さらに通常モンスターを送ったので≪伝説の白石≫も墓地へ。墓地に送られた≪伝説の白石≫の効果で、デッキから≪青眼の白龍≫を手札に加えるよ」
ここまではいつもオレがやっている黄金パターン。墓地肥やしとリソース確保を同時に行う戦法だ。龍可と龍亞も、本日何度目かも分からないコンボを見たせいか、特に反応することもなかった。
「僕はこのままターンエンド。次、龍可のターンだよ」
「うん。私のターン、ドロー」
龍可はデッキトップから一枚引き、それを手札に加える。
そしてゆっくりと目を閉じた。
「……」
「?」
精神統一とかかな。龍可のキャラではないと思っていたけど、意外とデュエル中はものすごい集中してプレイするタイプなのかもしれない。「デュエルは疲れる」ていつも言ってるし、かなり神経をすり減らしてるのかもなあ。
「……いくね、遊太」
「うん。来い!」
どうやら、戦術は決まったらしい。
「私は手札から≪レスキューラビット≫を攻撃表示で召喚するわ!」
「レスキューラビットだって!?」
≪レスキューラビット≫
地属性|星4|獣族/効果
攻300|守100
出されたのはゴーグルを装着したブロークンブラックのウサギ。攻守ともに低い数値ではあるが、このモンスターの恐ろしいところは決してそこじゃない。
「レスキューラビットを除外してモンスター効果を発動! デッキから同名のレベル4以下通常モンスターを2体特殊召喚する! 力を貸して、プチテンシ!」
≪プチテンシ≫
光属性|星3|天使族/通常
攻600|守900
レスキューラビットが表側で除外され、代わりに龍可の場に2体のプチテンシが守備表示で特殊召喚される。
そう。レスキューラビットの恐ろしいところは、この下級モンスターを容易に並べられる点である。シンクロが主流である環境で、これほど恐ろしい効果を持つモンスターは、そういないんだぜ。
「さらに私は速攻魔法≪フォトン・リード≫を発動! 手札からレベル4以下の光属モンスターを特殊召喚する! 一緒に戦って≪フェアリー・アーチャー≫!」
「げげっ、あの龍可がすっごいモンスター並べちゃってる⁉ なんで、なんで⁉」
≪フェアリー・アーチャー≫
光属性|星3|天使族/効果
攻1400|守600
龍可が見せた大量展開は、どうやら普段では考えられない程珍しいらしい。ソファで寝ころびながら見ていた龍亞も、思わず身を起こし目を剥いてしまっている。
だが……。
「龍可が出したモンスターでは、僕のガイアナイトを破壊できない」
「あぁ、本当だ! いっぱいモンスターは出てるけど、誰もガイアナイトの攻撃力を上回ってない! おいおい、何してるんだよー、龍可。これじゃあ、ただ壁モンスターを並べただけじゃんか」
妹の失態に気が付いた、と言わんばかりに大げさなリアクションを取る龍亞だが、残念ながらそこまでお気楽なものじゃないとオレは思っている。あのしっかり者の龍可が、なんの考えもなしにモンスターを並べるとは、到底思えない。しかも、レスキューラビットで出したモンスターは、このターンのエンドフェイズに破壊されるのだ。リソースを4枚も使って、やったことが壁モンスター1枚だけ増やすなど、考えられないんだぜ。
となると、やはり狙いはフェアリー・アーチャーの効果か。
「遊太は気づいてるみたいね」
「うん。場にモンスターを並べたのが皆光属性だったから」
その返事に、龍可はくすっと笑う。
「私はフェアリー・アーチャーのモンスター効果を発動するわ! 自分の場にある光属性モンスター1体につき、相手に400ポイントのダメージを与える! ただし、この効果を使ったターン、フェアリー・アーチャーは攻撃できない」
「うっ、流石に4体分はきついね」
遊太LP 4000 → 2400
「サンライト・ユニコーンのモンスター効果も発動! デッキから一番上を捲り、それが装備魔法だった場合、回収できる」
龍可は効果発動を宣言し、自身の山札から1枚捲る。しかし、出てきたのは≪妖精王オベロン≫だった。
あっぶねー。あれで何かしらの装備魔法を引かれてたら、ガイアナイトの攻撃力を上回られていたかもしれないのか。完全に忘れてた。
「まだよ、私は手札から魔法カード≪馬の骨の対価≫を発動するわ。効果モンスター以外を墓地に送って、デッキから2枚ドローする! 私はプチテンシを墓地に送り、ドロー! ありがとう、プチテンシ」
そう言って龍可は墓地に優しくプチテンシを置くと、山札から2枚を手札に加えた。
レスキューラビットで、わざわざ通常モンスターを呼び出したのは、フェアリー・アーチャーだけでなく、これのためでもあったのか。
「さらに魔法カード≪光の護封剣≫を発動。遊太の攻撃を3ターンの間封じるわ。私はこのままターンエンド。エンドフェイズ時、レスキューラビットの効果で出た、もう1体のプチテンシは墓地に送られる」
これで龍可の場に最終的に残ったのは、フェアリー・アーチャーとサンライト・ユニコーンのみ。攻撃力と守備力だけを見れば、オレが召喚したガイアナイトでどちらも撃破可能だ。
だけど、それをするには光の護封剣を突破しなければならない。
オレは段々と冷や汗が出てきているのを、自分でも感じた。
龍可はオレが想像していた何倍も強い。最初から油断しているつもりなんて無かったが、それでも想像を遥かに上回られていたのは確かだ。隣で見ている龍亞も、ここまで奮戦するとは思っていなかったのだろう。ぽかん、と口を開けて放心している。
「光の護封剣で攻撃を封じている間に、サンライト・ユニコーンで装備魔法を回収するつもりか……すごい。すごいよ、龍可!」
「え?」
「僕も負けてられないね」
ターンがオレに移ったため、オレは山札から1枚ドローする。
「僕のターン!」
手札を確認し、今打てる最善を考えるんだ。
「手札から、魔法カード≪トレードイン≫を発動! ≪青眼の白龍≫をコストに、僕はデッキから2枚ドローする」
今のオレの手札には、光の護封剣を破るカードがない。この場を変えられるとしたら、≪時の魔術師≫だけど、流石にまだコレを使うには博打がすぎる。できれば、光の護封剣を排除できるカードを引きたいところ。
しかし引いてきたのは、残念ながらオレの望むものではなかった。
「っ、次に魔法カード≪
「龍の鏡――遊太の墓地には5体のドラゴン族が揃ってる……⁉」
「そう、僕は≪砦を守る翼竜≫≪守護龍ユスティア≫≪伝説の白石≫≪デビル・ドラゴン≫、そして≪青眼の白龍≫を除外し、エクストラデッキから≪
≪F・G・D≫
闇属性|星12|ドラゴン使族/効果/融合
攻5000|守5000
光の護封剣を破れない現状、龍可ができるだけこちらを突破できないよう、強力なモンスターを並べる必要がある。オレの最大打点にして、最大の守備力を誇るF・G・Dなら、そう簡単には越えられないだろう。
「出た、遊太の最大級モンスター!」
幾度となく、このモンスターに苦しめられた経験を持つ龍亞は、ようやく驚きから回復したのか、熱狂の声を上げてくれる。
だが、オレは気が付いていた。目の前に座る対戦相手――龍可だけは冷静に、F・G・Dの召喚を見ていることに。もしかして、このモンスターを突破する手を既に揃えているのか?
「僕はカードを1枚伏せ……このままターンエンドする」
「え、どうしちゃったのさ、遊太。まだ召喚権は残ってるだろ?」
龍亞の言う通り、オレの手札にはモンスターもいるし、召喚権も残っている。
だけど、龍可がF・G・Dを撃破する手段が既にあるならば、オレはこれ以上モンスターを召喚するわけにはいかなかった。サンライト・ユニコーンのパワーもまだまだ上がる可能性があるし、下手にモンスターを並べれば、痛い目にあうのはこっちだ。
オレがそう思い龍可の顔色を窺えば、あちらもこっちを見ていたらしい。
自然と二人で視線がかち合う。そのまま数秒視線を交わらせれば、思わずぷっと互いに吹き出してしまった。
「ははは、なんで笑うのさ」
「ふふ、遊太だって笑ってるじゃない」
ひとしきり二人で笑いあうと、目に溜まった雫を拭きとるように龍可が呼吸を整える。
「あー、おかしい。こんなに楽しくデュエルできてるの、なんだか久しぶり」
「そうなの?」
「うん。それに懐かしい気もするの。昔も、こんな風に遊太とデュエルした気がする……まぁ、私達は出会ってからデュエルしたことないから、多分気のせいだけどね」
「分からないよ? もしかしたら、どこかで会っていたかも」
とまぁ、ふざけてみるけど、オレも記憶にはない。
懐かしい……か。うん。そう言われると、確かに龍可とのデュエルは、なんだか初めてじゃないような気がしてきた。
「もー、二人とも笑ってないで、デュエルの続きをしてよ! 早く、早く! 俺、続きが気になるんだから!」
「はいはい。もう、龍亞ったら」
隣からの抗議に、そう呆れを返す龍可だったが、大人しくデュエルを再開させる。
まぁ、オレもこんなに楽しいデュエルを続けたくて仕方なかったから、正直ちょっとありがたいけど。あのままブレーキを掛けてくれなきゃ、多分雑談タイムに入ってた。
「私のターン、ドロー!」
龍可が1枚ドローし、まるで悪戯を思いついた妖精のような笑みを浮かべた。
「墓地のモンスターを利用するのは、遊太だけじゃないのよ」
「まさか……⁉」
オレは咄嗟に龍可の墓地を見る。プチテンシが2体。そこから導き出されるカードは。
「墓地の光属性モンスター2体を除外し、私はこのモンスターを特殊召喚する。お願い! ≪
≪神聖なる魂≫
光属性|星6|天使使族/効果
攻2000|守1800
神秘溢れる姿の天使が、一人の男性を守護するように描かれたカード。レベル6という上級モンスターでありながら、比較的手軽に出せるそのモンスターは、龍可が狙っている事柄を、鮮明に表しているように思えた。
まさか、レスキューラビットの本当の目的は、このモンスターを特殊召喚するための布石だったなんて……つまり、最初から龍可が狙っていたのは。
「まだ私の召喚権は残ってるわ! 手札からチューナーモンスター≪サニー・ピクシー≫を通常召喚! そしてフェアリーアーチャーの効果を使い、遊太に1600のダメージ!」
「くっ」
遊太LP 2400 → 800
「ま、まさか龍可の狙いって――!」
「気づくのが遅いわよ、龍亞!」
観戦していた龍亞もどうやら気づいたらしい。
チューナーモンスターまで出されたら、この後の動きは確定的だ。
「私はレベル6の≪神聖なる魂≫に、レベル1の≪サニーピクシー≫をチューニング!
聖なる魂を身に宿し、太古の森より今光を齎す。シンクロ召喚!
現れろ ≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫!!」
≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫
光属性|星7|ドラゴン族/効果/シンクロ
攻2100|守2000
フィールドに顕現したのは、白磁の鱗を持ち、金色の鬣が特徴的な一頭の翼竜。その神聖なる姿に、デュエルディスクを使用していないにも関わらず、オレと龍亞は一瞬見惚れてしまう。高貴な存在感を持ちながらも優雅さを感じさせるそのカードは、まさに神話や伝説に登場するような美しい姿だった。
「――――はっ、でもそのカードの攻撃力じゃ、遊太のF・G・Dに届かないじゃんか!」
一足先に現実へと引き戻された龍亞が、そう言う。
だが残念なことに、こう見えてオレは亀のゲーム屋で数多のカードを見ている人間。この≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫が、この場において最悪すぎる効果を持っているのは、既に知ってしまっていた。
「龍亞には見せたことなかったんだっけ? エンシェント・ホーリー・ワイバーンの効果は、相手とのライフポイントの差に応じて攻撃力を変える効果なの。今は私のライフが多いから、この場合相手とのライフの差だけ、攻撃力を上昇させるわ」
「へ? つまり?」
「攻撃力7900だよ……」
「7、7900⁉」
オレのライフは800。対して龍可のライフは6600。その差はなんと5800にも及ぶ。
勘違いしていた。龍可が本格的に動き出していた2ターン目。レスキューラビットこそ、このシンクロ召喚に繋げるための布石と思っていた。
けれど実際はもっと思慮深いプレイングだった。ガイアナイトの攻撃を無効化した≪ドレインシールド≫然り。オレのライフを確実に削ってきた≪フェアリー・アーチャー≫然り。龍可はオレのパワーデッキを攻略するため、着実とこの状況を作っていたんだ。
サンライト・ユニコーンやフェアリー・アーチャーなど、攻撃力がすごく高いわけじゃないモンスターを並べていたのも、彼女のデッキがパワーに欠けるとオレに刷り込むだめの作戦。
「まだシンクロ素材となったサニー・ピクシーのモンスター効果を処理していない! このカードは光属性のシンクロモンスターの素材として墓地に送られたとき、私はライフを1000回復するわ!」
龍可LP 6600 → 7600
≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫
攻7900 → 攻8900
「8900……」
見ていた龍亞が、思わず力ない声でそう呟いた。
一万近い攻撃力なんて、そう簡単に出せる数値では決してない。緻密に計算されたカード運びで、龍可はここまで高い攻撃力を揃えてきたのだ。
――やばい。このデュエルすごく楽しい。
自然とオレの頬が笑みで吊り上がる。真正面を見れば、龍可も楽しそうに笑っていた。
「私はサンライト・ユニコーンのモンスター効果も発動! デッキトップを捲り装備魔法なら回収するわ! 引いたのは≪月鏡の盾≫! そのままサンライト・ユニコーンに装備!」
怒涛の引きを見せる龍可。
月鏡の盾により、サンライト・ユニコーンは戦闘でのダメージ計算時のみ、確実に100ポイント上回る強力な攻撃力を手に入れてしまった。
「バトルフェイズ! ≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫で≪F・G・D≫を攻撃! ホーリーサンシャイン!」
「っ」
≪F・G・D≫は戦闘破壊の耐性を持ってはいるが、それは光属性以外のモンスターとの戦闘だけに適用される効果。≪エンシェント・ホーリー・ワイバーン≫は光属性のため、このままでは破壊されてしまう。
まぁどちらにせよ、今この戦闘ダメージを無くさなくては、オレの敗北は必至だけど。
「僕は手札からクリボーの効果を発動! 戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にする!」
『クリクリー』
手札に抱えていた≪クリボー≫を見せ、効果発動を宣言。そうすれば、ソリッドビジョンも使っていないのに、クリボーの鳴き声が聞こえた気がした。
ありがとう、クリボー。またお前に助けられたぜ。
「今のって……」
「? どうかした、龍可?」
「え、あっ、ううん! なんでもないの! 気にしないで、あはは……」
何故かクリボーを墓地に置いた途端、龍可がびっくりしたような顔をしていた。
なにか変な動きでもしただろうか。きちんとダメージ計算時にクリボーは使った筈だし、プレイに問題は無かったと思うんだけど。
「えっと、ごめんね。バトルフェイズはまだ続いているわ。私はサンライト・ユニコーンでガイアナイトを攻撃! 装備している≪月鏡の盾≫の効果発動! ダメージ計算時、サンライト・ユニコーンの攻撃力は、ガイアナイトの攻撃力を100上回る!」
「くっ、ガイアナイト……」
≪サンライト・ユニコーン≫
攻2500 → 2700
俺はガイアナイトも墓地へ送る。折角召喚したのに、見せ場を与えてあげられなくて、少しだけ申し訳ない。
心の中で謝罪していると、何故か墓地へ送るとき『ゴヨウを……殺せ』なんて幻聴が聞こえてきた。うーん、やっぱり結構疲れてるのかもしれないなあ。
遊太LP 800 → 700
「私はこのまま、フェアリー・アーチャーでダイレクトアタック――――って言いたいけど、この子は効果を使ってるから、このターン攻撃はできないわ……私はこれでターンエンド。残念、もう少しだったのに」
「ふぅ。いやー、危なかった。なんとか防ぎ切れたよ。龍可ってかわいい顔して、おっかない攻撃するね」
「! かわいいって……もうっ」
オレが額の汗を袖で拭うと、なぜか知らないけど、ぷいって顔を逸らされた。どことなく怒っている気がする。
かわいいって褒めるの、そんな変なことだったかなぁ。ばあちゃんからは「女の子はとりあえず褒めろ」っていつも言われてるんだけど。もしかして、これって俗にいうセクハラ扱いになったりするのかもしれない。
ばあちゃんの嘘つき! 女の子に「かわいい」はダメじゃんか!
そんな心の抗議を打ち立てていると、隣にいたはずの龍亞が、興奮冷めやらぬ状態で龍可の背後に移動していた。いつの間にそこへ……。
「ああ、惜っしいなぁ、龍可! もうちょっとで遊太のライフを削り切れてたのに! でも、遊太の場にモンスターはいないし、次のターンで決められるよ!」
「え、龍亞は僕の応援をしてくれてたんじゃないの?」
「それはそれ、これはこれってやつさ」
「どれがどれよ」
はぁあ、と深いため息をついて龍可が頭を振る。
予想だけど、さっきのターンでオレを仕留めきれなかったのも、彼女にとってはかなりの痛手なんだろう。俺の手札はクリボーを失ったことで残り2枚。龍可の場には、攻撃力が軒並み高いモンスター2体と、なにより厄介な≪光の護封剣≫がある。
とは言っても、次のターンでオレがサンライト・ユニコーンを破壊すれば、彼女は≪一角獣のホーン≫を引く他ない。勝つことを諦めなければ、まだチャンスはある!
「僕のターン、ドロー!」
このドローにオレは希望を託すぜ!
「……」
引いたカードを見てから、オレは目を伏せる。
よし、やるべきことは見えた。
「僕は≪時の魔術師≫を通常召喚!」
「時の……」「魔術師……?」
「うん。これも知り合いから貰った大切なカードさ」
≪時の魔術師≫
光属性|星2|魔法使い族/効果
攻500|守400
攻撃力と守備力だけを見ると、この場のモンスターのどれよりも低い。そんなモンスターを、オレがわざわざ召喚権を使ってまで召喚したことに、二人とも疑問を覚えたのだろう。
今日はまだコイツを活躍させられないから、疑問に思われても仕方ないけどね。
「コイツはかなり強力なカードだぜ! コイントスをして、オレが裏表を当てれば、相手のモンスターを全破壊し、その攻撃力合計値をダメージとして与えるんだ」
「ぜ、全破壊⁉ 強すぎじゃんか!」
「うん。確かに強力な効果だけど、デメリットもきちんと存在してるんだ。僕がコイントスの予想を外した場合、僕の場のモンスターが全破壊され、その攻撃力合計値の半分をダメージとして受ける」
さあ、ギャンブルのお時間だ。
「僕が宣言するのは裏! いくぜ、タイムルーレット!」
オレはポケットからコインを取り出し、指でおもいっきり弾く。指先から軽やかに離れたコインは、空中を舞いながら自由自在に回転した。
一瞬、時間が静まり返る。これが当たるか当たらないかで、デュエルの行く末は大きく変わるからだ。周囲の騒がしさも、その瞬間に息をのんでしまうかのように消え去り、全ての注目がコインの舞いに集中した。
コインがオレの左手の甲に向かい落ちてくる。
俺はすぐさまキャッチしようと動くが――。
「「っ」」
強烈に嫌な予感が働いた。
このデュエルに対して、という訳じゃない。外部から受信した、とでも言えばいいだろうか。猛烈な寒気と不快感がオレの身体に走ったのだ。
次の瞬間――まるでオレの嫌な予感を再現するかのように、外から大きな物音が轟く。
なにか大きい物が壁に衝突したような音だ。あまりの音の大きさに、オレは咄嗟にコインをキャッチせず、龍亞と龍可を庇うため体を動かしていた。
「な、なに今の……」
「分からない……もしかして強盗?」
龍亞も龍可を庇うべく、オレとともに体を動かしていたらしい。オレたちは顔を見合わせてそう確認する。ここはトップスの居住区だし、家に押し入ってくる輩がいても、何ら不思議じゃない。
それにしては、少々どころか、かなり大胆な気もするけど。
「っ」
とオレたちが、どうしようか悩んでいると、いきなり龍可が深刻そうな顔をして、飛び出した。
「え、ちょ、龍可⁉ どうしたのさ、急に⁉」
咄嗟の出来事すぎて、オレも龍亞も行動が一歩遅れてしまう。龍亞が呼び止めるも、なりふり構わない様子で龍可が、そのまま外に出た。
追いかけてオレたちも外に出てみれば、そこにはボロボロの姿をした人と、少しだけ破損したらしいDホイール。真紅に塗れたその鮮烈なボディを、オレは一度だけ見たことがあった。
「この人は、ジャックさんの……」
名前は知らない。
ただ、あの金色の悪魔と浅からぬ因縁があるであろう男性。
その人が、目の前で倒れ伏していた。
Qおい、いままで何してたんだ
A龍可のデッキが組めなくて、エタってました。
Q龍可のデッキコンセプトはなんだ
A回復して、ぶん殴る。
Qフィールド魔法を使え、フィールド魔法を
Aレグルスも他力本願龍もいないから、枠がないんだよぉ!!
ということで、本当にお久しぶりですね、はい。
生きておりました。私は。