よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート   作:月島さん

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7-裏

 綾小路清隆の策略

 

 

 

 夏休みの2つの特別試験。

 

 それは怜山の方針を理解し、オレの今後の方針を決めるための実に有意義な試験だった。

 

 

 まずは無人島試験。

 

 

 オレは茶柱先生を一旦満足させるために、ここではDクラスを勝利させる必要があると考えていた。

 そのため、5日目には堀北と伊吹を利用した計画を完成させた。

 

 丁度そのタイミングで、怜山がオレに接触してきた。

 

 

 明らかに計ったかのようなタイミング。

 怜山はその未来予知じみた能力で、オレの思考や行動の全てを予測した上でこのタイミングでオレに接触して来たとしか考えられない。

 

 

 以前から時折見ていたためにもうわかっていた事だが、本当に常軌を逸した能力だ。

 

 

 普段から、怜山は凄まじい判断力と学力を持っている。

 それは一介の高校生が保有するような物ではなく、それだけでも彼女は屈指の能力を持っていると断言できるだろう。実際に、中学時点では同年代日本一の学力を持っていたとして有名だったらしい。

 

 とはいえそこまでならば、精度は若干劣るかもしれないが、オレにも似たようなことは出来る。

 

 

 だが、時折怜山はこうした一見未来予知としか思えないような観察、予測能力を発揮する事がある。

 

 それはオレにすら不可能だ。

 

 とてもじゃないがそれは努力で身につく様なものでは無い。

 本物の天才にのみ与えられる唯一無二の能力と言っていいだろう。

 

 

 仮に、オレと怜山の関係が違ったものであったならば、オレは自身を葬り去る事の出来る人材を見つけて歓喜していたことだろう。

 

 ……無意味な仮定だ。

 今のオレからしたら、怜山は純粋に頼りになる愛しい相手でしかない。

 それに、オレは自身を葬るだの何だのに最早一切の価値を感じていないのだから。

 

 

 

 オレは、もう予想はされているのだろうが、一応確認の意味を込めて怜山に自身の計画を語った。

 そして、茶柱先生を満足させるために、ここはオレに譲って欲しい、と。

 

 やはりそれは予想していた通りだったのだろう。

 怜山は二つ返事で了承してくれた。

 

 とても嬉しいことだ。怜山はクラスよりもオレの事を優先してくれている。彼女はやはりオレの絶対的な味方であり、何より優先すべき愛しい相手だ。

 早くオレもAクラスに入って、少しでも長く怜山と同じ時間を過ごしたいものだが……まあ、焦っても仕方ない。堀北じゃあるまいし、あまり先ばかりを見て眼前が疎かになるというミスをオレは犯したりはしない。

 

 

 こうして、オレは計画通り堀北をリタイアさせる事によるリーダー偽装を成し遂げ、Dクラスを1位にする事が出来た。

 

 

 

 

 転換点となったのは、船上試験の方だ。

 

 

 無人島試験中、オレは怜山に次の特別試験は好きにしていいと言った。それは、無人島試験でオレの計画全てを理解しながらも何もせずにオレを勝たせてくれた怜山への義理立てと、彼女がこれからどういう方針を取るのかを知るという意味合いもあった。

 

 

 その結果、凄まじい事になった。

 

 

 怜山は1回目の会議が始まる前にも関わらず、即座に優待者の法則を割り出し、それを会議にて確定させた。

 オレと、怜山の駒であり、非常に優秀な男である橋本とのコネも作ってくれた。優待者の法則を教えるから、後は2人で上手く連携しろ、と言って。

 それはきっと、橋本にオレの実力を知らしめて、橋本がオレたち2人を裏切らないよう徹底させる意味合いもあったのだろう。

 1つの行動に複数の意味を持たせるのは、やはり怜山の効率を求める性格ゆえか。

 

 

 結果として、AクラスはCP300を得て、Dクラスは±0。B、CはそれぞれCP−150。

 そして、オレたちの陣営はPPを50万×2+250万+150万、合計500万得る事が出来た。

 

 

 好きにしていいとは言ったが、まさかここまでの結果を出されるとは思っていなかった。

 流石はオレの怜山だ。……いや、まだオレのではないが。

 

 

 他の生徒たちはこの状況に、怜山の能力にまるで付いていけてないだろう。当然だ。オレにすら予測不可能だったというのに、他の奴に何かが出来るわけがない。

 

 

 

 

 

 船上試験が即座に終わったことにより、オレたちには長い自由時間が出来た。きっと、怜山の行動はこれも見越しての事だったのだろうな。

 味方としてこれ程頼りになる人間は存在しないと断言出来る。

 

 

 映画に演劇にレストラン。

 オレたちは残り2日と少し、思う存分にバカンスを楽しむ事が出来た。余りにも幸せ過ぎる時間。オレは思わずこれが本当に現実なのか疑ってしまった。

 

 

 そして、今からスパなわけだが……

 

 そう、スパ。つまり……水着である。

 

 

 夏休み前にオレと怜山は水着を買いに行った。その際怜山の様々な水着姿を見て、オレは思わず前のめりにならざるを得なかった。

 結局、怜山は少し大胆なビキニタイプの水着を購入していた。

 

 ……はっきり言おう。オレの好みド直球だと。

 

 その観察眼にてオレの反応を見て決めたのだろうか。世界一無駄な才能の使い方だと言えるし、逆にオレにとってはこれ以上ない程有用な才能の使い方だと言える。

 

 その日の夜は眠れなくなったものだったが……今回は2回目だから平気なはず。

 

 そう思いながら心待ちにしていた所、

 

 

「待たせた? ごめんなさい」

 

 

 そう言って水着姿の怜山が現れた。

 相変わらず、凄いスタイルだ。

 長い脚に白く綺麗な肌。そしてばっちりくびれた腹部。

 

 

 何より……いや、皆まで言うまい。

 

 

「い、いや、そんなことはないぞ。大丈夫だ」

 

 

 オレはちゃんと言葉を発する事が出来ているだろうか? 

 

 そう思い、めちゃくちゃ動揺しながらもなんとか言葉にしたところ、

 

 

「……えっち。今更だけど」

 

 

 !? 

 

 

「い、いや、そんなこと……」

 

 

 オレは慌てて否定するも、

 

 

「目線」

 

 

「…………すみませんでした」

 

 

「別に謝る必要はない。……行きましょう?」

 

 

 その表情は決して不機嫌なものではなく、むしろ何やら楽しそうな顔を僅かにしていて。

 何というか、オレはきっと一生怜山には勝てないんだろうな。

 そう思わされる一時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカンスを終え、夏休み中盤に入った。

 

 

 

 オレは有名な占い師がケヤキモールで占いをしているという情報を耳にしたため、怜山を誘ってみる事にした。

 

 返事はすぐに来た。

 

 

『いいよ』

 

 

 と。

 

 好きな女子と一緒に占いに行く……何と魅惑的な話だ。

 男ならば、誰しも1度は妄想した事があるようなシチュエーションではないだろうか。

 オレは喜びを胸に、ワクワクしながら就寝した。

 

 

 

 

 翌日、ケヤキモールの占い師がいるというフロアに着いた。

 

 

 何というか……やけにカップルが多いな。思わず少し圧倒されてしまう。

 

 その時ふと、側から見てオレたちはどう見えているのか考えた。

 

 冷静に考えて、他人から見たらオレたちってカップルそのものだよな……

 

 そう考えると、何やら恥ずかしくなって来た。

 怜山はどう見てもこのフロアに居る女子生徒の中で最も美人だ。

 そんな怜山と一緒に居るオレ……今更だが、現実味が薄いレベルで幸福だと言える。

 

 

 通行人が天中殺について話していた。

 天中殺とは、自分の悪い時期が見える占いとのことだという。

 

 占いは、怜山と一緒に参加するイベントとしては楽しいものだ。

 だがその実情としては、所詮オレにも出来るコールドリーディングの延長だろう。それを証明するために受けてみるのもいいかもな。

 

 

 そうして2人で並び、占いを受ける。

 

 

 怜山は、これまで退屈な生活を送ってきたが、今は人生を楽しんでいるようだな、と言われていた。そして、これからも今の道を進むならば、お主は幸せかもしれないが他の誰かが不幸になるかもしれない、と。

 

 次に、オレは幼少期に過酷な生活を送って来たと言われ、そしてその後に宿命天中殺の持ち主だと言われた。生まれてからずっと運の悪い生活を送っていると。ただ、今の縁を大切にすれば不運かもしれないが幸せを感じることは出来るだろう、と。

 

 

 一体何を言っている? 今のオレが運が悪いだと?? 

 

 

 加えて、大抵の子供は幼少期に自身が過酷だと感じることの一つや二つあるだろう。しかも今のオレからすれば、あの生活すらも怜山に出会うための必要経費と思えば安い、いや安過ぎるものでしかない。

 

 占いを終え、帰ろうとすると予言めいた助言を受けた。

 

 

 遠回りせずに真っ直ぐ帰るように。

 回り道すると余計な足止めを食らうぞ。

 まあ、それもお主にとってはいい事かもしれないが、と。

 

 

 基本テンプレで、ありきたりなものだったな。

 所詮占いは占いだということ。

 まあ、怜山と一緒に来れたのは楽しかった。

 

 

 そう思いながら帰路についていた所、混雑していたために迂回して別のエレベーターに乗る事にした。

 

 

 すると、普通に考えてそんな事はそうは起こらないと思われるような、まるで計ったかのようなタイミングでのエレベーターの故障により、オレと怜山は2人で閉じ込められてしまった。

 

 

 何だこのシチュエーション!? 

 まるで男子高校生の妄想を具現化したかのような……

 

 こういう時って、吊り橋効果で恋愛に繋がるとかなんとか……

 いや、それより密室で誰も居ない場所で怜山と2人っきり。

 オレはどうすれば……いや、何を喜んでいるんだオレは。緊急事態だぞ。

 

 

 理屈では事態の逼迫さをわかっていながらも、オレは内心の期待とどきどきを抑えられなかった。

 

 

 そんな中、怜山はすぐに電話を入れて救助を要請していた。

 

 

 ……いや、確かに適切な対応ではあるんだが……オレとしてはもう少しこうしていたいという気持ちも……

 

 

 そんなオレの望みも虚しく、割とすぐに葛城が助けに来た。

 人選も見事と言っていいだろう。義理に厚いこの男ならば騒ぐ事もないだろうし、救助に全力を尽くしてくれる筈だから。

 

 

 オレと怜山は葛城に感謝の言葉を述べて、今度こそ寮に帰宅した。

 

 

 ……何というか、やっぱり少し残念だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、水道局のトラブルにより、寮の水がしばらく出ないと連絡が来た。

 

 

 まあ、オレは特に問題はない。

 料理も水を使わないものにすればいいからな。

 

 

 そんな事を考えてから夕食の準備を進めていると、何故か堀北から着信があった。が、すぐに切れる。

 

 不思議に思って折り返すが、出ない。

 それからまた着信があったが、それもすぐに切れた。

 

 そんな事を繰り返してようやく電話に応じ、更にぐだくだと意味のわからないことを言った果てに堀北はようやく困っていることを認め、部屋に来て欲しいと言った。

 

 すると、堀北は水筒に手を突っ込んでいて、抜けなくなるという惨めな姿を晒していた。

 もう2時間は格闘しているらしい。

 

 台所に行って石鹸を流し込んで抜くしか無いが、その為には水が必要。

 オレも堀北も断水前に水を貯めては居なかったから、他の人を頼る必要がある。

 

 

「とりあえず、怜山に余った水が無いかを聞いてみる」

 

「!? 怜山さんって……やめて!」

 

 何故か堀北が怜山の名前を聞いて止めてきた。

 

「どういうことだ? 2人には特に関わりもない筈だから問題ないと思ったんだが」

 

「……確かにそうよ。けど、怜山さんは……」

 

 そう言って堀北は何故かぐずる。

 だが、少しすると、

 

「……わかったわよ。早く連絡して」

 

 なんて言って開き直って来た。

 

「お前な……いや、今更だが」

 

 

 怜山に連絡したところ、ここに水を持って来てくれると言われた。

 わざわざそんな手間をかけさせて申し訳ないが、オレの頼みを直ぐに聞き入れてくれるのは嬉しい。

 

 

 そして。

 

 

「水、持ってきた。……堀北さんは?」

 

 怜山は水を持ってきてくれたのだが、堀北が何故か隠れて出てこなかった。これだと水筒から腕を抜きようがない。

 

「堀北、怜山が水を持ってきてくれたぞ。早く出て来い」

 

「……わかったわよ。……よりによって怜山さんにこんな姿を見られるなんて……」

 

 そう言って渋々出て来た堀北を見て怜山が

 

 

「……ああ、なるほど」

 

「……っ!!!?」

 

 

 なんて事を言ったため、堀北は羞恥からか顔を真っ赤にしていた。

 

 

 ……なんか怜山、面白がってないか? 

 

 

 そんなこんなでオレと怜山は堀北の腕を水筒から抜くことに成功し、部屋に戻った。

 堀北は終始顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 

 

 その後、水筒から腕が抜けなくなることなんてあるのか? と試しに入れてみたところ、オレの腕も抜けなくなった。

 

 

 ……確かに、これは怜山には見せられないな。

 堀北、お前の気持ちが今わかった。悪かったよ。

 

 

 

 

 

 

 数日後、オレは池たちに女子を呼ぶための都合の良い友達扱いをされてプールに行くことにした。

 

 

 その際、オレは怜山の事も誘った。

 せっかくなら、オレは怜山と一緒にプールで遊びたいと考えたから。

 

 怜山の性格上、大人数は嫌だと断られる可能性の方が高いと思っていたが、了承の返事が来た。

 非常に嬉しい事だ。

 

 

 

 そして当日。

 

 オレたちDクラス組と怜山、そして寮の1階で合流した一之瀬たちBクラス組は一緒にプールへと向かった。

 

 

 その間、一之瀬が何やら怜山に積極的に話しかけていたが、適当にあしらわれているな、という印象を受けた。

 

 

 怜山からすれば、一之瀬すらも単なる雑兵に過ぎないか。

 

 

 まあ、実力からすれば実に妥当な判断ではあるが。

 

 

 

 

 

 着替えて、プールにて合流する。

 

 少し遊んでから機を見計らって抜け出し、池たちが設置したカメラを回収するように前もって頼んでいた佐倉と合流。

 

 SDカードを受け取り、破棄してから再び怜山の元へと戻った。

 

 

 その際

 

 

「ねえ、綾小路君」

 

 

 怜山はいつも通り無表情ながらも、ほんの少しだけ何やら少し責めるような表情をしていた。

 

 

「な、なんだ?」

 

 

 オレは思わず焦って聞いてしまう。怜山のこんな表情を見たのは初めてだったから。

 

 

「カメラ、どうしたの? おっぱいちゃんに回収させたみたいだけど、私に頼まない理由、つまり破棄したと見せかけて後で見る、という理解でいい?」

 

 

 予想外の事を言われた。

 な、なるほど……確かに怜山視点だとそう見えるのか。

 それに、佐倉のことをおっぱいちゃんって……いや、今それはいい。

 

 

 怜山は、池たちの盗撮の計画、カメラの設置場所、そしてそれをオレが把握し、佐倉に回収させることで対処しようとする、という一連の流れを全て予測したのだろう。

 

 そして、その対処をオレが怜山ではなくわざわざ佐倉に頼んだ理由としては、能力不足の佐倉の前だとSDのすり替えなど容易だから、破棄した振りをして後で見るために未だに持っている、と。

 

 

 もちろん、そんな筈がない。

 一瞬、それをやってしまおうかな、と思ってしまったのは認めるが。

 

 佐倉にカメラの回収を頼んだり、怜山に池たちの所業について話さなかったのは、怜山にそんなくだらない事をやらせたくなかったからだ。

 こんな雑務なんてオレの手で処分してしまえばいい。

 

 まさか、それが裏目に出るとは……

 

 しかし、どうやって釈明する? 

 オレがSDを持っていないと証明するのはほぼ不可能。隠すタイミングはいくらでもあったのだから。

 

 

「いや、その……もちろん、SDは処分したぞ。見たかったという気持ちも無いわけじゃないが……」

 

 

 なんて、言い淀んでしまう。

 まずい。言い分が思いつかない。

 

 

 すると、怜山は責めるような表情をやめ、少しだけ微笑んでから

 

 

「冗談。破棄したとわかっているから。ただ、意地悪したかっただけ」

 

 

 なんて言ってきた。

 

 

「……勘弁してくれ……心臓が止まるかと思ったぞ」

 

「ごめんなさい。あと、ありがとう」

 

 

 どうやら、怜山はオレが彼女を頼らなかった理由すら理解しているらしい。それでも、自分を頼ってもいいんだぞ、という意味合いを込めて先程のセリフを言ったのだろう。

 

 オレは、自身の気持ちを理解されていた喜びと、怜山がオレを思いやってくれたこと、感謝されたことへの喜びで思わず表情が歪んでしまった。

 

 

 そうして最高潮まで上がったテンションと、怜山の前でいい姿を見せたいと思ってしまった事が重なり、思わずバレーで少し本気を出してしまった。

 周囲は驚いていたが……今はそんなことどうでもいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして夏休みが終わり、楽しい時間は過ぎ去ってしまった。

 

 

 これからは、体育祭や、その後を見据えてオレが何をすべきかを考えて行動する必要がある。

 

 

 だが、その道筋は既に定まっている。

 

 

 怜山の能力はオレをして予測不可能とはいえ、船上試験であれ程までに暴れた以上、怜山の方針は見えたからだ。

 

 

 怜山は、遅くとも今年度中にはクラス間闘争を完全に終わらせようとしている、と。

 

 そして、ほぼ同じタイミングにてオレの事をAクラスへと買い取ろうとしている、とも。

 

 

 加えて、無人島試験やこれからの体育祭のように、身体能力が問われたり、長期間に及んだりする試験はあまり好みではないのだろうな、という事も理解出来た。

 

 中間試験での過去問にしろ、船上試験での優待者の法則にしろ、怜山にはシンプルで即効性のある最適解を好む傾向がある。

 天才というのはシンプルで早期に終わらせることの出来る解を求める、というのは良く言われている事だから、そういうものなのだろう。

 

 まあ、怜山はその超人的な頭脳と違い、身体能力に関しては一般的な女子生徒と変わらないものだからそうなるのも当然なのかも知れないが。

 

 

 ならば、オレが体育祭当日とそれまでの1ヶ月でやるべき事と、それに付随する一連の策は既に導き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 それからの1ヶ月間、オレはかつてないほどに裏で動いた。

 

 

 一番は、軽井沢を利用する事でいじめの現場を抑え、真鍋をオレのスパイとする事が出来たことだろう。

 ついでに軽井沢の過去を暴き、破壊、再生を経てオレの駒とする事に成功した。

 

 後者の軽井沢の手駒化についてはあくまで副産物だ。

 

 入学当初のオレにならともかく、今のオレには怜山と、怜山の忠実な駒たる橋本が居るのだから。ついでに、能力不足ではあるが物理的な人手と肉壁としては使える佐倉も居る。

 

 怜山の能力については最早言うまでもない。

 

 その駒たる橋本の評価は、一言で言うならば、まるで裏切りの心配が無い男版櫛田のような性能、といった所だ。

 

 その高いコミュニケーション能力による、学年でも櫛田に次ぐレベルと言っていい程の広い情報網。

 更に強者に付くというその性質はとてもわかりやすく、こちらの能力を定期的に見せ、ある程度の餌を与えてやれば裏切りの心配が無いというのが大きい。

 

 オレと怜山にとって、ここまで都合の良い駒は他に居ないと言っていいだろう。仮にDクラスにこんな奴が居たとしたら、オレは他の何よりも優先して可能な限り早く駒に加えていたに違いない。

 

 流石、あの怜山が唯一手駒にしているだけの事はある。

 

 だから、はっきり言って軽井沢が必要かと言われたら全くそんな事はない。所詮軽井沢は橋本の下位互換でしかないのだから。まあ、流石に佐倉よりは使い勝手がいいとは思うので一応駒に加えたが。

 

 

 次に、櫛田がやはり龍園と裏で繋がっていたという事を掴めた。よって、体育祭の参加票を龍園に渡しているだろう事は容易に予想出来る。

 更に、櫛田が原因の過去が理由で堀北を一方的に嫌っている、という所までわかった。既にそれを利用する算段も立てた。

 

 

 真鍋から、龍園が体育祭中に堀北を嵌めようと指示を出している音声を手に入れた。

 これを使えば龍園の立てた策を粉砕する事が出来るだろう。付随して、次の策にも繋がる。

 

 

 これで、準備は整った。

 

 

 船上試験で怜山がやった例がわかりやすいが、戦いは基本的に始まる前に決着が付いているものなのだ。

 堀北にはまだその認識が甘いため、成長を促すために今回は徹底的に敗北を味わって貰う。

 

 怜山に船上試験でやられた時は、あまりに堀北の実力と怜山のそれが乖離し過ぎていて、堀北の学習と成長には繋がらなかった。

 だが、龍園は怜山と比較すると明らかに甘く、実力が劣っている。そのため、堀北は敗北をより身近に実感する事が出来るだろう。

 

 堀北には、オレがAクラスに移籍する為にもある程度は成長して貰わなければ困るからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭当日を迎えた。

 

 

 オレの予定通りに競技が進められていく。

 

 Dクラスは露骨にCクラスからの攻撃を受けた。具体的には、Dクラスの足の速い選手にCクラスの足の遅い選手を割り当てられる事でこちらの勝ちを減らす策を受けた。

 策は面白いようにこちらに刺さり、クラスの雰囲気がどんどん悪くなっているのを感じる。

 

 その中でも堀北はCクラスに徹底したマークを受け、最終的に競技が続行出来ない状態にまでなった。

 

 そして龍園に木下の足の怪我は堀北のせいだと冤罪をふっかけられ、失意の最中へと落とされる。

 だが、そんな状態にも関わらず須藤を説得して見せた所にはオレも堀北の成長を確認でき、満足した。

 

 

 最終種目のリレーで生徒会長相手に全力で走る事にしたりなど色々あったが、これもまた、布石。

 

 最後に、真鍋から手に入れた龍園の音声を使う事で堀北を救い、これでオレの体育祭は無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、オレはAクラスの神室という人物に呼び出され、特別棟の一室へと向かった。

 一体誰が何の用かと思ったが、そこに居たのはAクラスの坂柳という人物だった。

 

 

「あんたがオレを呼び出したのか?」

 

「はい。最後のリレーお見事でしたね、綾小路清隆くん」

 

 

 坂柳はそんな社交辞令を言ってくる。

 どうでもいいから早く用件を言って欲しい。

 そう思って坂柳の発言を促すと

 

 

「ふふふ……つれないですね。まあ、彼女を知っている以上それも当然なのでしょうけれど。……あなたの走りを見て思い出したのです」

 

 

 そうして坂柳はオレに近づいてきて、

 

 

「お久しぶりです綾小路くん。8年と243日ぶりですね」

 

 

 よくわからないことを言ってきた。

 

 

「冗談だろ。オレはお前なんて知らない」

 

 

 8年前。それはオレがあの施設に居た時期。

 こいつがオレの事を知っている筈がない。きっと誰かと勘違いをしているのだろう。

 

 

「ふふ、そうでしょうね。私だけが一方的に知っていますから」

 

 

 そしてこいつは何時になったら用件を話すんだ? 

 

 

「……用件を言わないなら帰らせてもらうぞ」

 

 

 オレが坂柳から背を向けて歩き出すと、

 

 

「ホワイトルーム」

 

 

 オレは足を止めた。

 何故それを知っているのか。

 

 

「ふふ、嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるのは」

 

 坂柳は続ける。

 

「……相手だけがもつ情報とは少し違うかもしれませんが、この学校に来て以来私は振り回されるのにある程度慣れましたよ。そして、それは思っていた程嫌でもありませんでしたけれどね」

 

 

 何やら実際の経験が多々あるような発言。

 そこだけはオレも同感だった。

 

 振り回されるのは……悪くない。

 人物は限定されるが。

 

 

「ご安心を。あなたのことは誰にも言いませんよ」

 

「言えば、色々と有利になるんじゃないか?」

 

 

 そうしたら、少なくともオレの計画の1つを修正しなくてはならなくなる。まあ、それならそれでやりようはいくらでもあるから構わないのだが。

 

 

「彼女がいる以上、最早そんな些事に意味などないことはあなたもわかっているでしょうに」

 

「…………」

 

「では、用件に入りましょう。言いたい事、お話ししたい事は他にも多々ありますが……お互い、もっと気になる方が居るのは共通しているでしょうから」

 

 

 気になる人間。オレにとってそれはただの1人しか居ない。

 それと比較してしまうと、こいつが何時何処でホワイトルームについて知ったのかなど最早どうでもいいとすら言える。

 

 

「てっきり私は3年間をかけて彼女を超えるために準備を進め、彼女に挑戦し続けるものと考えていましたが……少しだけ、寄り道をすることにしました」

 

「偽りの天才は、私が葬り去りましょう。彼女の目には、ただ私だけが映っていればそれでいいのですから」

 

 

 坂柳はその顔に好戦的な色を宿しながらそんな事を言ってくる。

 

 だが。

 

 

「そうか」

 

 

 オレにとってそんな事はどうでもいい事。

 

 以前のオレならば、お前にオレを葬れるのか? などと聞いたかもしれないが……まるで興味が湧かない。

 

 そもそも……坂柳はきっとオレたちの計画に気付いてすらいない。

 オレたちの計画に勘づいていたならば、もっと違った言葉になっていたたろうから。

 まあ、それはオレたちの関係についてある程度深く知っていなければ分かりようも無い事だろうから仕方ないのだろうが。

 

 

 オレについての情報を吹聴しないならば尚更だ。

 坂柳の存在はオレにとって何の意味もない。

 

 

 最早ここで会話を続ける必要性は皆無。

 

 オレはそのまま背を向けて坂柳から去っていった。

 背後から強い視線を感じたが……どうでもいいこと。

 

 

 来るなら何時でも来ればいいさ。相手してやる。

 だが、オレからお前に何かをする事はない。

 オレはお前にそこまでの興味は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂柳との邂逅など予定に無い事もいくつかはあれど、準備は何の問題もなく着々と進行している。

 怜山の計画通り、今年度中に全てを終わらせるための準備が。

 

 

 その計画を確実なものとするためには、やらなければならない事がいくつかある。

 

 

 龍園翔。

 まずはお前だ。

 この舞台から、消えてもらおうか。

 

 

 全ては、オレと怜山の平穏な生活のために。

 

 




 ギャグとシリアスがとっ散らかるといけないので借り物競走は省略しました。話は書いてるからどこかに載せるかも。

 あと、次話は投稿遅れるかも。

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