よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート 作:月島さん
橋本正義の享楽
2学期も終業式を迎えた。
この学期は、体育祭以降俺たちAクラスにとっては特に何かが起きたという事はなかった。
強いて言えば、ペーパーシャッフルの前に女王様が姫さまをチェスで倒したくらいか。
それはどうやら姫さまが余計な事をしないようにするためと、俺たちの協力者であり、女王様と同じく底知れない能力を持った化け物である綾小路をAクラスに買い取るための布石としてやったらしい。
Dクラスの躍進の全てを裏で引いていた奴の能力を知った時は思わず呆然としてしまったものだが……今、それはいい。
姫さまとのやり取りは1学期の焼き直しみたいなものだし、夏休みのアレと比較してしまえば大した話じゃあない。姫さまじゃ女王様には勝てないなんてわかりきった話だしな。
チェス中に、何かほんの一瞬だけ女王様が思考する事もあったが……とはいえ、未だ差は歴然。いくら何でもここから姫さまが勝てるようになるとは思えない。
ペーパーシャッフル試験本番は女王様の望み通り何も無く進行し、勝利した。
試験の性質上、裏切り者が出さえしなければ、俺たちAクラスが基礎学力に劣るBクラスに負ける訳が無かった。
そういった裏工作をしない一之瀬の限界が見えた気がした。まあ、一之瀬と女王様とじゃあ最初っから勝負なんて成立してすらいないんだろうが。
CとDは何やら争ったり、クラスが入れ替わったりと色々あったみたいだが、そっちは綾小路が特に問題無いと言っていたし、何より俺たちには一切何も関係がない。
正直言って、少々退屈だったと言わざるを得ない。まあ、これが普通なんだろうけどな。
はっきり言って、クラス間闘争は女王様の手によって既にAクラスの勝利で終わってしまったというのは皆の共通認識だろうから。何せ2位のBクラスとすら既にCPが1000ポイント差だ。ただでさえ基礎能力の劣る他クラスが、これをどうやって覆すというのか。
1学期と夏休みがおかしかっただけだ。俺も大分女王様に毒されて来たな……
なんて考えていたが、それが間違いだと知ったのは終業式の日。
ある時、女王様が姫さまに何やら耳打ちをしていた。
姫さまはとても驚いた表情をしていたが、
「わかりました。こちらから伝えておきますね。……フフ、何が起きるのか、楽しみにしておきます」
と答えていた。
一体何を言ったのだろうか?
そう思いながら見ていた所、直ぐに女王様は俺に、放課後は空けておけ、と指示を出してきた。
相変わらず横暴極まる話だ。
こっちの意思なんぞ完全に無視してやがる。
とはいえ、女王様からの久々の指令。
これから何が起こるのか……姫さまの台詞じゃあないが、俺も楽しみにしていた。
放課後になった。
俺は指示された通り、教室を出る女王様の後ろに付いていく。
すると、俺と女王様の後ろに鬼頭が付いてきた。
「鬼頭? どうして……ああ。坂柳に言われたのか」
「ああ。俺自身、何故怜山が俺を連れて行く事にしたのかはわからんが……怜山のやる事に口を出しても仕方ないだろう」
「ハッ。そりゃそうだ」
そんな雑談をしながら、俺たちは歩いていく。
少しして、女王様が立ち止まる。
そして、いつも通りではあるが、全く予想外の事を言ってきた。
「ここで、Dクラスの金田君を待つ」
金田?
どういう事だ? 女王様が誰かを待つという時点で既におかしいが、何で金田なんだ? せめて龍園とかならまだ話もわかるんだが……
「なんで金田? ……いや、あんたのやる事だ。黙って従った方がいいか」
全く……いつもの事だが、本当に意味不明だよな。女王様の行動は。
彼女は意味の無い事はしない。
だから、きっとこれも深い理由ありきの事なんだろうが……
そうして待っていると、女王様の言う通り金田がやって来た。
「金田君」
「!? 怜山氏? どうしてこんな所に……」
金田は驚愕していた。
それを見て鬼頭が俺に話しかけてくる。
「金田とはアポを取っていなかったのか? ならば何故怜山は金田が此処に来るとわかった?」
「俺に聞かれても」
そんな、当然の疑問を呈する鬼頭。
だが、俺も女王様が金田を待つ事すら知らなかったんだから、そんなことわかる訳がないだろう?
「付いてきて。勿論、スマホは操作しないで。橋本君と鬼頭君は金田君が余計な事をしない様に見ていて」
女王様は金田の行動を抑制する。
このための俺たち、という訳か。
「な、なぜ自分を……」
「後で話す」
付いてこないなんて許さない、と言外に主張するかのように斬り捨てる。
俺は思わず苦笑しながら、
「まあ、とりあえず付いていくだけなら別にいいだろ? 女王様が何をする気なのかは知らねえが、金田が余計な事をしなけりゃ手荒な事にはならないだろうよ」
「わ、わかりました……」
金田はビビりながらも了承する。
なんか、女王様が関わると毎回誰かしらがこんな感じの反応になるよな。なんて俺は考えていた。
女王様に付いていった結果、俺たちは特別棟の1室に辿り着いた。
此処は確か監視カメラの死角がそれなりにある部屋だったか。
「金田君、スマホを出して。橋本君、鬼頭君。金田君のボディチェックをして。無いとは思うけど、ボイスレコーダーの確認を」
着いて早々にそんな事を言われた。
やれやれ……これからヤバい話をするって言ってるようなもんじゃねえか。普段からボイスレコーダーを常備している奴なんてほとんど居ないだろうに。
金田が顔面蒼白になっているぞ。まあ、別にいいけどな。
そうして俺と鬼頭がひとしきり確認を終えた後、女王様が話を始めた。
「ここにあなたを呼んだ理由はただ一つ。あなたを私の傘下に加えようと思って」
「じ、自分を、ですか? 一体なぜ……」
どういう事だ? 何故金田を……
まさかこいつも綾小路と同じような化け物だと?
いや、そんな筈はない。
確かに金田は優秀ではあるが、それは普通の範疇に収まっている。
決して女王様や綾小路のような化け物などではない筈だ。
そんな事を考えていた俺を余所に、女王様がとんでもない事を言い放った。
「あなたには、今後のDクラスのリーダーをやってもらうから」
「何?」
「何だと?」
「えっ?」
俺たちは思わず3人とも同じ反応をしてしまう。
「龍園君は、これから退学する事になる」
おいおい。
俺は思わず一瞬思考停止してしまった。
……きっと、冗談ではないんだろうな。
「ま、待ってください。それは一体どういう……」
金田が慌てて何が起きているのか聞こうとした。
鬼頭も、何が起きているのかわからない、といった顔をしている。
だが。
「龍園君がCクラスの隠れた策士……Xと呼んでいたみたいだけど、そのXを探していた、というのはいい?」
「え、は、はい。ですが……」
「そのXの裏に私が居た、ということ」
「っつ!? んな……そんな、馬鹿な……」
金田が呆然自失としている。
ハッ。そりゃあそうだ。こいつらはXが誰かすらわかっていないんだ。いきなりその裏に自分が居る、なんて言われても対応出来るはずがない。
「龍園君に勝ち目なんて最初から無かった。彼はXにかまけて私の存在に気付きすらしていなかった。だから、彼の行動なんて全て簡単に予想出来た」
「…………」
金田はもはや言葉を発する事すら出来なくなっていた。
それを余所に女王様が話を続ける。
「彼は見られていなければ何をしてもいいと思っている」
「それは確かに正しい。けれど、逆もまた然り」
「見られたら、全てが終わる、ということ」
龍園の行動を誘導してその状況を意図的に作り出す、という事か。
相変わらずおっそろしいなあ、女王様は。
「彼は私とXによって、己の知略を使った策を全て失敗した。唯一の成功体験が暴力によるものだった」
まさか、無人島試験や船上試験のあれも、綾小路の体育祭やペーパーシャッフルでの動きも、全てこれを見越してのことだと?
「だから、彼はエスカレートする。ラインを超えてしまう」
「その末路はただ一つ」
「この学校から去るのみ」
金田は項垂れている。
決着は、既に付いた。
これから龍園は退学し、副リーダーだった金田を支配することでDクラスを手駒にしてしまう、という事か。
わかってはいたが……あの龍園すらも女王様からすれば単なる道化でしかないか。まさか気づいてすらいない相手に退学させられるとは……この事実を奴が知る事もないのだろう。
だが、ここまででも十分恐ろしいのに、事態はそれだけでは終わらなかった。
女王様は更にとんでもないことをぶっこんできたのだ。
「そして、彼の失敗は、彼1人で終わる話ではない」
「何?」
「何だと?」
「えっ?」
またしても、俺たちは思わず3人とも同じ反応をしてしまう。
「他者を率いる以上、付いてきた人間にも失敗の影響が襲い掛かる」
「今回の場合は、伊吹さん、石崎君、山田君」
「その全員が、退学する事になる」
信じられない。
まさか、そんな。
「馬鹿な……そんな事が……」
鬼頭が恐れ慄いている。
金田に至っては顔色が最早死人のようになっていた。言葉なんて発する余裕があるはずがない。
恐ろしい……なんて恐ろしい話だ。
まさか、Dクラスの主要人物を一気に4人も退学させる計画だったなんて。
そこまでして、完全にDクラスを叩き潰したかったというのか。
女王様が一瞬だけ言葉を止め、俺たちは全員が言葉を発さなくなる。
退屈? 2学期は何も起きていない? 俺は何を馬鹿な事を考えていたんだ。
数秒経って女王様のスマホが震えた。
それを確認し、宣告を下す。
「Xからメールが来た。無事、終わったみたい」
無事? おっそろしいことをナチュラルに言いやがる。
「私の傘下に……入ってくれるでしょう?」
坂柳有栖の憐憫
「そうですか……わかりました。報告ありがとうございます」
私は先程怜山さんに連れて行かれた鬼頭君から、普段冷静な彼とは思えない程に顔に恐怖の色を宿しながら報告を受け、労りの言葉を述べた。
報告内容を要約してしまうと実にシンプル。
X……つまり綾小路君の手によって龍園君たち4人が退学。
そして現Dクラスは彼と、裏で手を引く怜山さんの手中に堕ちた、と。
そう。内容を要約してしまうなら本当にシンプルな話。
けれど、そのシンプルで恐るべき内容を現実に実行に移す事の出来る人間が一体どれだけ居るというのか。
何より、あの2人はそれを誰にも悟らせる事なくやり仰せたのだ。この私にすら、一切の影を掴ませる事なく。
私の全身が興奮により思わず熱を帯びてしまう。
実にはしたないことだが……ここまでの常軌を逸した内容を伝えられて何も反応しないなど不可能なのだから。
真澄さんから無人島試験と船上試験の結果を聞いた時も、思わず興奮を隠せないものだった。だが今回のこれは、彼女がその常軌を逸した才能によって未来予知を思わせる働きをした無人島試験や、船上試験で残した他を一切寄せ付けない圧倒的な結果すらも超えていると言っていいだろう。
あの2人は龍園君の全てを完全に見透かしていた。そして、完璧なタイミングで最高の結果を残した。
まさか厄介な相手である龍園君を含めた4人を退学させた上で1クラスを完全なる傀儡にしてしまうとは……私をしてそれは予測不可能だったと言わざるを得ない。
鬼頭君には少し悪い事をしてしまったかもしれない。彼女の成した結果はまさしく偉業に他ならないが、天才ならぬ人間がこれを直接目の当たりにしては、恐怖を抱くのは当然のことなのだから。
まあ、彼を選んで連れて行ったのは私ではなく怜山さんなのだが。
それはそうと、どうやら綾小路君と怜山さんはクラスの垣根を越えて手を結ぶことにしたようだ。
そしてその事実を鬼頭君を通して私に教えたという事は、私もその中に入れる事にした、ということ。
ならば、これまでの情報を鑑みることで、あの2人の方針は自ずと予測が出来る。
2人は今年度中にクラス間闘争を終わらせ、そして綾小路君をAクラスに移籍させようとしている、と。
その答えに至るのは簡単だった。
2人が手を組んでいるとしたら、夏休みの船上試験にて彼らの陣営には500万PPという莫大なポイントが入っている筈。
にも関わらず、先日私をチェスで打倒した際に、怜山さんは更なる大量のPPを望んでいるということが判明した。
あの時は、1学期と違ってほんの僅かに彼女の思考する時間を勝ち取る事が出来て、今までの人生で経験した事がない程の喜びを感じたものだが……あの時の事を思い出してしまうとそれ以外考えられなくなってしまうため、今はやめておこう。
話を戻すと、先程までの情報に加えて、龍園君たちを終わらせて、残党を支配したこのタイミングで私の勧誘……ここまでのヒントを与えられてなおわからない程私は愚かではない。
あの2人であれば、時間さえあれば別に私の力が無くとも2000万PPを稼ぐこと、残った2クラスを終わらせることは容易だろう。けれど、怜山さんはそうやってだらだらと時間をかける事を嫌うから。
他を決して寄せ付けない、私以上の天才故の傲慢さがありありと出ているが、彼女ならばそれが許される。
いやむしろ、既に決着が付いてしまったクラス間闘争などという些事に、これ以上彼女の貴重な時間を費やさせるわけにはいかない。
可能ならば、偽りの天才たる綾小路君は私が打倒したかったものだが……同じクラスならば、むしろそちらの方が競い合う機会は増やせるだろう。焦る必要はない。
ならば、私が今後やるべき事は見えた。
綾小路君を迎えるために、陣営に可能な限りPPを貯蓄させること。
残った2クラスの内、綾小路君が居ない方であるBクラスのリーダー……一之瀬さんに舞台から退場して頂くこと。
これからはそれに向けて動けば良いだろう。葛城君との既にほぼ終わってしまったリーダー争いなど、この出来事を知ってしまっては些事でしかないのだから。
それにしても、これであの龍園君ともお別れですか。
彼は自らを王と標榜していましたが、その器ではなかったということですね。
古今東西様々な説が流れてはいますが、結局の所、王の資質なんてたった一つ。
『勝利』
です。
王は絶対に負けてはならない。
過程などどうでもいいのです。ただ、勝つ事さえ出来ればあとは大抵どうにかなります。
逆に言うと、王にはただの1回の敗北すら許されない。
敗北とは、仕えてくれる民への裏切りに他ならないですから。民はそのために重い税を納め、王に従っている。勝てない王など塵でしかない。
だからこそ、未だ怜山さんに勝てない未熟な私は、自身を王とはしていないのですから。
歴史上でもそうですよね。どれだけ治世に優れた名君と呼ばれようが、1度でも致命的な敗北をしてしまえば、文字通り致命、つまり死の他に道はありません。そして、それは王だけで済む話ではありません。当然、民も相応の苦しみを与えられる事になります。
勝てない勝負は絶対にしてはならない。相手の力量を見誤るなどもっての外です。
何度負けようが起き上がり、最後に勝っていればいい、という信条自体はとても立派なものです。ですが、たったの1度であろうと敗北を許容し、彼女と綾小路君の力量を見誤って戦いを挑んだ時点で、いえ、怜山さんの存在を把握する事すら出来なかった時点で、龍園君は最初から王には向いていなかったという結論になるのです。
そんな彼の末路は、無様な敗北の末に部下を道連れにした退学。
この時点で彼のクラスは完全に崩壊しました。残された生徒に明るい未来は、楽しい高校生活は最早ありません。
一見すると、彼らは普通の学校生活を送る普通の学生に戻るだけ。いえ、むしろ設備等を考えたら未だ恵まれているとすら言えます。けれど、人は他者との比較をせずにはいられない生き物ですから。
これは、怜山さんでも綾小路君でも、他の誰でも無くただ龍園君1人の責任でしか無い。
さようなら、愚かで哀れな龍園翔君。
あなたは結局、怜山さんと一言も言葉を交わす事すらありませんでしたね。
次回こそ少し遅れるかも