よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート 作:月島さん
綾小路清隆の決意
怜山の手によって南雲生徒会長の策略が挫かれた林間学校を終え、オレたちは堀北学から莫大なPPを受け取る事が出来た。
これにより、オレは直ぐにでもAクラスに移籍する事が可能となった。
まずはオレたちの目標の1つが達成されたと言える。
3学期もまだ始まったばかりだというのに、流石は怜山だ。
まさか、冬休みに堀北学から依頼を受けてからここまで早く結果を出すとは……やはり、怜山はオレをして未だ実力の底が測りきれない、余りにも頼りになり過ぎる最高過ぎるパートナーだ。
とはいえ、まだオレには現Cクラスでやるべき事が残っている。
目標のもう一つ、クラス間闘争の完全終了が未だ達成出来て居ないのだから。
勝敗自体は既にほとんど付いている。
だが、未だ100%終了したとは言えない。足掻く人間はまだちらほら存在している。
怜山には謝られたが、全く気にする必要はない。
むしろ、本来オレ1人でしなければならなかった筈のPP稼ぎに甚大な協力をしてもらい、感謝の気持ちしか無い。
これからは極力怜山の力を借りずにオレの手でやるべきだろう。
幸いな事に、使える手段は大量に手に入ったし、PPにもだいぶ余裕がある。
これ以上、何よりも大切な怜山の手を煩わせる訳にはいかない。
林間学校を終えてから数日後、クラス間闘争を終わらせるためにオレは坂柳の策に乗り、一之瀬を潰しにかかることにした。
やる事は簡単。
坂柳が一之瀬を誹謗中傷するから、そこに乗じてオレからも噂の操作をしてしまうだけ。
一之瀬に万引きをした過去がある事が坂柳から伝えられた。かつて生徒会に入る条件として、南雲生徒会長に言ってしまったのだとか。
彼女には過去に何かがあったのだろうとは思っていた。だが、どうやってそれを暴き、一之瀬を攻撃するかを考えて居たところにこの情報。
やはり坂柳は非常に優秀な人間だ。
学年でも怜山に次ぐと言っていいだろう。
他に坂柳に対抗出来るとしたら、未だ実力の底を見せない人物である高円寺くらいか。
このレベルの人間が味方に付くとこれ程までに物事が手っ取り早くなるのか、とオレは思った。
かつてオレは坂柳から宣戦布告されたため、怜山に引き合わされた時は少々気まずかったが……せっかく怜山に橋渡しして貰ったのだから友好的に接するのは当然といった所。
オレには別に坂柳と対決したいなどという気持ちは無いしな。Aクラスに移籍した後個人的に競いたいというならばいつ来て貰っても問題無い。
それはそうと、一之瀬に万引きをしたという過去があるならば攻めるのは容易い。
2学期末に金田を支配下に入れ、坂柳とも手を組む事にした以上、Bクラス以外の全ての方向から一之瀬を攻撃する事が出来る。
噂がどれだけ進行しているかの情報も瞬時に手に入り、随時調整が出来る。
ここまでやられては、林間学校で既に坂柳から攻撃を受けていた一之瀬は到底耐えきれないであろう事が目に見える。
あまりにも使える手札が多すぎる。
こんなもの、失敗する方がおかしいとすら言える。
これら一連の流れに、今まで頼りきりであり、これ程までに豊富なカードを揃えた立役者である怜山の手を煩わせる必要はない。
匿名にしてしまえばバレる心配は無いとはいえ、誹謗中傷はどうしてもリスクのある行為のため、怜山にそんな事をさせずに済むのは僥倖と言える。
そうして、しばらく経って一之瀬が不登校になったという話が伝わって来た直後にオレは動いた。
メールを送り、一之瀬の部屋の前に行く。
手紙で用件を知らせてもいいと記載したが、一之瀬が自分の部屋に来て話して欲しい、と言ったから。
一之瀬という人間の性格と行動パターンを分析した結果、直接話すように言うだろうとはわかった上でメールの文面を作成したわけだが。
「綾小路君……入っていいよ」
「ああ。悪いな。すぐに終わる」
憔悴しきった様子の一之瀬に部屋へと招かれてからオレはそう言った。
そう。すぐに終わらせる。
話す内容は決まっている。
「一之瀬。話は聞いた。噂の事だが……」
オレが噂について言及すると、一之瀬は怯えたようにビクッと身体を震わせた。
「オレは最初、全て嘘だと思っていた。一之瀬がそんな事をする筈が無いとな。だが……」
オレはあえて間を作る。
「万引きしたという話は本当なんだってな?」
「……!! どうして……!?」
一之瀬が絶望した表情をしている。
オレは更に畳み掛ける。
「詳しくは聞かない。事情も別にいい。やったという事実に変わりはないからな。だから、オレが言いに来た用件はただ1つ」
「Bクラスとの同盟を……解消させて欲しい」
これが一之瀬にダメージを与える言葉だとオレはわかっていた。
彼女はオレたちとの同盟に何やら安心感のような物を抱いているみたいだったから。
とはいえ元々、オレはクラス間の同盟など結んでいない。オレが結んだのは、あくまで一之瀬個人との協力関係だ。
普段の一之瀬ならば即座に指摘しただろう。せめて堀北の許可は取ったのか、くらいは聞いてくる筈。だが、今の一之瀬はそんな事にすら頭が回らない。
「え、ど、どうして……」
「万引きした人間が率いるクラスなんて信頼出来る筈が無いだろ?」
「…………!!」
それはまさしく、一之瀬にとっての死の宣告。
一之瀬帆波という人間に今までオレが接して来た経験から分析した結果導き出される、精神を破壊するための最適解。
一之瀬は声を出す事すら出来ていなかった。
オレは言い終えて直ぐに部屋を出た。
背後から嗚咽を漏らす音が聞こえて来るのを無視しながら。
一之瀬はこれで完全に破壊出来た。
これからクラスのためを思い、彼女は自主退学する。
悪く思うなよ。
全ては、オレと怜山のためだ。
一之瀬が自主退学した後、オレと坂柳と橋本は報告のために集まっていた。基本的に、何かを企む時はこの3人で集まることが定例となっていた。極力くだらない事で怜山の手を煩わせたくないというのは、オレと坂柳の共通意見だったから。
その際に橋本が、
「そういえば、疑問に思ったことがあるんだが……」
なんて言ってきた。
「何でしょう?」
坂柳が発言を促す。
オレにはその内容が大体想像出来ていた。
「どうして一之瀬はリーダーなんていう目立つ立場にわざわざ立とうとしたんだ? でなけりゃ今更過去をほじくり返したりされなかった筈だろ?」
橋本は続ける。
「万引きはそりゃあ悪い事だが、その辺の奴が昔やったってくらいなら、学年全体を巻き込むような騒ぎにはならないだろう。『そもそも誰だ? だからどうした?』 って反応の奴がほとんどの筈だ。わざわざ過去を暴いて探りを入れられたりもしないだろうしな」
「俺なら、下手な事はせずに引っ込んでるな。そうすりゃとりあえず平穏な学校生活を送れるだろうから」
それは、至極当然の疑問。
万引きは犯罪ではあるが、いくら坂柳が尾ひれを付けまくったとはいえ、普通の人間がやる分にはあそこまで大きな話にはならない筈だ。龍園の暴力の方が余程問題だろう。
なんなら、一之瀬を破壊するためにオレたちがやった誹謗中傷だって十分問題だ。堀北が言ったように、社会でやった場合は真偽問わず罪に問われる物。
まあ逆に言えば、オレたちの誹謗中傷は学校内で留まる程度であれば犯罪歴に追加されるような物では無いため、万引きとは少々異なるのかもしれないが。
話を戻すと、万引きがバレたら噂にはなるし、居心地は極めて悪くなるだろうが……そもそもバレるような事自体が稀だと言えるし、学年全体を巻き込むような大事にはまずならない。
それに、一之瀬のような美少女がそれをやった場合、噂は普通より広まるだろうが、事情を話して泣き落としをすれば、身近な人間や一之瀬の美貌に目の眩んだ人間などは慰めてくれるだろう程度の話でしかない。
だが一之瀬はわざわざ目立つ立場に立ち、そしてものの見事に南雲生徒会長に過去を吐かされ、それを利用したオレたちから攻撃され、学年全体を巻き込む騒ぎとなり、最終的には自主的に退学する結末へと至った。
「ふふ、簡単ですよ」
坂柳が笑って答える。
「人間のそういった行動は、多かれ少なかれコンプレックスに起因します。一之瀬さんの場合はもちろん、万引きしたという過去ですね」
「彼女は、元々人の前に出たいという性格、欲求を持っていました。それに加えて、決定的な失敗の過去。店員の温情によって犯罪歴にならなかった以上、そんなことはどうとでもなる筈なのに、彼女自身がそれを許せなかった」
「だから、彼女はその罪滅ぼしとして、今まで以上に人に尽くす義務感のような物を背負ったのです」
「元々彼女は善人の気質ではありました。とはいえそれだけならば、あそこまで完璧に振るまう事は不可能。人間は、基本的に自分のために行動する生き物ですから」
「ですが、それが過去を起因としたコンプレックスの裏返しとして自らに課した行動というならば……十分、考えられることです。人の前に立ち、完璧な善人として振る舞う事自体が自分のための行動に他ならないのですから」
坂柳の見解は概ねオレと同じものだった。
一之瀬が集団を率いる事に固執した理由。それは過去の贖罪なのだと。一之瀬が驚くほどの良い奴だというのもまた事実だとは思うが、完璧な善人というわけでもない。
だからこそ、オレは一之瀬に止めをさす時にああいった言葉を選択したのだから。
「なるほど……それで、リスク度外視でわざわざ人の前に立ちたがった、ってことか」
納得した様子を見せる橋本。
坂柳の言葉にオレが補足を入れる。
「それに、かつてオレの前で一之瀬はボロを出した事があった」
「ほう? そりゃ気になるな。何をしたんだ?」
オレはあの時のことを思い返しながら橋本に語る。
「昔、白波という生徒に一之瀬が告白のために呼び出された事があるんだが、その時一之瀬はオレを偽の彼氏とする事で誤魔化そうとした」
「へぇ、そりゃあ……意外なこった」
そう。
それは『一之瀬帆波』という人間がやるにはあまりに不自然な行為。
「だろう? 本来皆の前で出している、一之瀬帆波という人間の性格ならば、そういう卑怯な行為は嫌う筈だ。むしろ、そういった行動を嗜める側の人間の筈だ。だが、一之瀬はそれをやった」
「そう……まるで、自分さえ良ければそれで良いという、極めて一般的な人間の姿がそこにあった」
「そこでオレは、一之瀬が完璧な善人などでは無いことを確信した。あの振る舞いは恐らく過去に何かがあったことが由縁だろう、とな」
坂柳が言う。
「典型的な逃避行動ですね。まさに一之瀬さんの行動原理はそこにある」
「ああ。つまるところ一之瀬は、自分の許容範囲を超えた出来事に遭遇すると逃げようとする極普通の人間なんだ。告白のための偽装彼氏であり、万引きという過去であり、な」
「なるほど……理解できたよ。そういう事だったんだな」
橋本が得心いったかのように頷く。
坂柳が話を締めに入る。
「先程言ったように、コンプレックスの裏返しというのは誰にでも当て嵌まります。私の場合は、身体能力の欠如に起因する、他者を支配、屈服させたがる歪んだ趣味嗜好ですね。普通にすれば、私は誰にも勝つ事は出来ないですから」
「おいおい。支配やら屈服させるやらの歪んだ趣味嗜好って自分で言うか?」
橋本は呆れたように言う。
「だが、俺にも心当たりはあるな。俺だと……自分だとトップになれないと理解しているが故の強者に付く行動、ってとこか」
「ふふ、それを自覚出来る分、やはりあなたは優秀ですね」
「そりゃどうも」
明らかなお世辞。
まあそれにいちいち反応する程度の奴ならば、今ここに居る事は出来ない。
「話を戻すと、人を攻撃する時はまずそこを探ることが基本となります」
「散々言いましたが、一之瀬さんは別に悪い人間ではありませんよ。むしろ、普通の人間よりも遥かに善寄りの人格者と言い切る事が出来ますし、実力も高校1年生としては十分過ぎるくらいにはあります」
「ですが、あまりにも付け入る隙が大き過ぎました。彼女1人では私たちの相手には……なり得ませんね」
そう。
一之瀬1人では何の脅威にもならない。
だが、彼女の本領は、支えるべきトップの下に付いた途端に最良の物として発揮される。一之瀬は元々参謀に向いた人材なのだ。
もし一之瀬が本来の実力を十全に発揮した場合、非常に面倒だ。
例えば、南雲生徒会長辺りの下に付いた場合、将来的に強力な敵となる事が容易に想像出来る。
その場合、オレをして排除が難しい純粋な強敵となるだろう。
だからこそ、オレは事前に一之瀬を排除することに決定したのだから。
一之瀬を退学させ、3月月初に行われた退学投票も容易にくぐり抜けた。
金田を支配し、坂柳と手を組んだ以上、この手の試験は最早何の危険性も無い容易な試験だと言っていい。実際に、オレは坂柳と茶番を演じる事によって試験を徹頭徹尾計画通りに運んだ。
坂柳が言うには、どうやらこの無理矢理退学者を出そうとするかのような試験の裏には最近赴任して来た月城理事長代理が居るらしい。奴はあの男からの刺客で、坂柳の父親が嵌められてしばらく理事長から外されている間はこういった手段でオレを退学させにかかるようだ。
坂柳とオレが演じた茶番は、月城に余計な事をさせないための策でもあった。彼女は、自分の父はいずれ必ず戻ってくると言っていた。だからそれまでは耐えてくれ、と。
あの男が刺客を差し向けることはわかっていた。
いつでも来るがいい。徹底的に処理してやる。
それは、怜山とこれからも平穏な日常を過ごしていくために、あの男を失脚させる術を探る事にも繋がるのだから。
非人道的な施設であるホワイトルームのリーク以外にも、奴を倒すための手段は可能な限り揃えておきたいからな。
話を戻すと、本来なら山内よりも、学年トップと言えるコミュニケーション能力を持つ櫛田を退学させたかった。だが、すぐにオレがAクラスへと移籍する以上、このタイミングで櫛田を退学させてしまうと堀北の心が折れてしまいかねない。
堀北には、ヘイト分散のための囮になってもらう必要があるからな。
だから、今まで堀北の成長を促してきた。精神面のケアもして来た。怜山もそのために林間学校で堀北に色々手を貸してやったらしい。
1番の理想は櫛田よりも高円寺を退学させてしまう事なのだが、この試験でそれは難しいだろうと判断した。まあ、焦って墓穴を掘る必要は無い。それに、高円寺はどうやら個人でAクラスに上がりたいらしいから、いずれ2000万ポイントをくれてやってもいい。
櫛田についても焦る事はない。櫛田の弱みは既に掴んでいる。
過去にクラスを崩壊させたという話も録音済みだ。
2年生になって、堀北に程々の希望を与えてから、どこかのタイミングで退学させてしまえばいい。
これだけの手札があれば失敗する事は無いだろう。
仮にオレに与えられたカードがもっと限られたものだったとしたら、堀北辺りが庇うことによって、櫛田の退学が妨げられる可能性もあった。
だが、既にその可能性も潰えた。
新しい駒として、松下に目を付けた。
松下は優秀だが、所詮はその枠を出ない人間。適当に旨みを与え、こちらの実力を見せ付けてしまえば操る事は容易だろう。
近いうちに平田の精神を再生させてやる必要がある。平田はオレの脅威にはなり得ないが、堀北にとっては有用な駒なのだから。
じきにオレが居なくなり、櫛田も退学してもらう以上、残された堀北には平田の存在は必要だろう。
あと、もう少しだ。
1年最後の特別試験をオレは勝利で終わらせ、実力を対外的にも十分示した後にAクラスへと移籍する。
その後はもう、怜山の手を煩わせる事は一切無いだろう。
何か問題が起きても全てオレが処理してしまえばいい。
月城理事長代理、ひいては裏にいるあの男についてもオレが対処する。必要とあらば、坂柳の力を使えばいい。
怜山以外の全てはオレの駒でしか無い。
何人たりとも、怜山にその汚い手を触れさせはしない。
オレが、全てやってやる。