よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート 作:月島さん
綾小路清隆の独白
怜山静香という少女は、明らかにオレが昨日まで思い浮かべていたような普通の高校生像を反映した人物では無かった。
だが、そんな彼女はオレにとって生まれて初めての友人となった。
今でも鮮明に思い出せる、最初に彼女と出会ったのは入学式の日のバス。
そこで、オレの隣に座ったのが怜山だった。
恐ろしいくらいに整った顔立ちに、黒く綺麗で長い髪。
そしてスタイルも抜群な完璧美少女である彼女が横に座ってきたので、オレは内心喜んでいたと共に、とても緊張していた。
なにせ、この至近距離で異性と居たことなど一度もないのだ。そして、それがこれまでの人生で見た事が無いレベルの美少女。制服から、彼女は同じ学校に向かっていることがわかる。そして一度入学したら外出禁止の学校だということから、彼女はオレの同級生だという事がわかる。そして、今日は高校入学初日。これはもはや緊張するのが人として当然の反応と言える。
彼女が座る直前に軽く会釈を交わし、その後、オレは彼女に話しかけるべきか、何を話すべきか、を考えて悶々としていた。
そうしてひとしきり悶々としてから、ふと彼女の方を見てみると、彼女は目をつぶって眠っていた。
入学式の日なのに席に座って即寝るのか……凄いな。
いや、本当に寝ているのかまではわからなかったが、少なくとも話しかける機会は失われて、オレは内心落ち込んでいた。
その後、バスの中で一悶着あった。
おばあさんに席を譲るかどうかのやり取り。
争っていたのは金髪の同級生と思しき学生と、社会人らしき女性。そこに茶髪の、これまた同級生と思われる、隣で目を瞑り続けている少女程ではないものの十分美少女の学生が乱入する。
かなり大声で争っていたのだが、そんな中、隣の彼女は騒ぎなど無いかの如く目を瞑ったままだった。
……本当に眠っているのだろうか?凄いな。
彼女が眠っている以上、奥側に座っているオレが動いて席を譲ることは不可能。悪いな、茶髪の子。
そんなこんなで、バスが目的地へと到着すると、彼女は目を普通に開けて、バスを降りた。
どうやら起きていたらしい。なら、あの争いに少しくらい反応しても良いと思うのだが……
そんなことを考えながら、オレもバスを降りる。
すると、
「ねえ」
そう、極めて短い言葉を発して彼女はオレの横を歩きながら話しかけて来た。
「え、あ、ああ。何だ?」
オレは緊張しながらもどうにか答える。
バス内で話しかけるかどうかずっと迷っていた相手側から来たのだ。返答出来ただけでも大したものだとオレは思う。
「私は怜山静香。あなたは?」
普通に自己紹介して来た。
何を言われるのかとビクビクしていたオレには逆に驚きであったが、普通の自己紹介なので、オレも倣う。
……しかし、自己紹介とはこんな風に全くの無表情でするものなのだろうか?という疑問はあったが。
「オレは綾小路清隆だ。よろしく」
よろしく、は少しやり過ぎだろうか、馴れ馴れし過ぎただろうか、そんな事を考えておろおろしたオレを他所に、怜山は無表情で話を続けた。
「よろしく。……あなた、面白い」
「え? ど、どういうことだ?」
オレはこの短い会話の中で何か面白い事でも言っただろうか?そんな記憶は一切無いのだが。そして、面白いと言いながら怜山は全くの無表情だった。本当に面白いと思っているのか?全てが謎だった。
そんな彼女は次に、
「普通、私と話す人はもっと動揺する。男子であれば尚更。あなたはそれが薄い」
なんて事を言ってきた。
いや、それ普通自分で言うか?確かに怜山は凄まじい美少女だから、男なら皆緊張して話すんだろうが……。
それに、
「オレも十分緊張しているつもりなんだけどな」
なんて言うと、彼女はそんなオレの言葉を一切相手にせず、
「それに。あなた、私の事を分析しようとしている。この、私の事を」
そう、言われて一瞬オレの思考は止まった。
バレている。
怜山の言う通り、オレは彼女の事を分析していた。
何故なら、怜山からはあのホワイトルームに居た人間たち以上の強者の気配がするから。
それは、バスに乗り込んで来る彼女を一目見ただけでわかった。彼女は明らかに普通の人間とは違う、と。
だが
「分析? いや、そんな大層なことはしていないぞ。怜山はどんなやつなのかな、と何となく考えてただけだ。それくらい、誰でもするだろ?」
オレは、無駄とわかっていて誤魔化すことを選んだ。
すると彼女は、
「そう」
とだけ無表情で答え、オレたちは無言で歩き始めた。
それは気まずい緊張ではあった。
だが、誤魔化しをわかっているのに追及して来ない怜山に、どこか居心地の良さをオレは感じていた。
歩きを終え、クラス分けの掲示板を見る。
どうやらオレはDクラスで、怜山はAクラスのようだ。
つまり、オレと怜山はここで別れることになる。
せっかく仲良く……は残念ながら恐らくまだなっていないが、ここまで一緒に歩いて来た仲の怜山と別れるのは少し寂しい。
何より、何度も言うが怜山は超絶美少女なのだ。男としては、こんな美少女とは出来るだけ長く一緒に居たいと思うものだろう。
それが例え、オレをして分析し切れない、強者の風格を漂わせる少女だとしても。
そんな事を考えてまた悶々としていると、今度も怜山の方から話しかけて来た。
「あなたとのお話、楽しかった。連絡先交換しましょう?」
「え、いいのか? というかさっきも言ってたが、楽しかったのか?」
超絶美少女からの思わぬ提案。本来ならとても喜ばしい事のはずだが、あまりにも予想外の発言すぎて、思わずオレが逆に聞いてしまう。
「ええ。だって私たち、もうお友達でしょう? 綾小路君」
それを言う彼女は、いつもの無表情に見えて、少し、本当に僅かで、オレの観察眼でようやくわかるレベルではあるが、微笑を浮かべていた。
そうして夜、怜山にメールを送るべきかどうか何時間も迷っていたオレに、
『今日は楽しかった。これからもよろしく。おやすみなさい』
と向こうからメールが来た時は、思わずガッツポーズを浮かべてから返信をした。
坂柳有栖の挑戦
怜山静香。
その名は、ある程度以上、上の世界で勉学を志す同学年の学生には有名な名前だった。
何故なら彼女は、受けたあらゆる模試で全教科満点を取り続け、TVの特集で『現代に現れた天才少女』として全国放送された事もあったのだから。特集では顔を隠されていたが、実際に会ってみるとその理由が良くわかった。
彼女、怜山さんは、頭脳面における才能で私を超えるだけでなく、美貌すらも私と匹敵するものを持っていたのだから。
そんな彼女の顔が放送された日には、問題が起きる事など容易く想像出来る。流石に、TV局もそこは配慮したのか、本人が顔を隠すように言ったのか……まあ、どちらでも良い。
私は生まれてこの方、父の職業の関係上数多くの優れた才能を持つ人々を目にして来た。その結果、一目見たらその人の持つ才能をある程度測ることが出来る様になった。
だから、同学年で1番有名な人物である彼女を一目見て、その才能を測りたいと思っていた。
彼女がただ、勉強が極めて得意なだけ(それだけでも素晴らしい才能なのは間違いない)なのか、それとも……
そして、実際に彼女を目の当たりにして確信した。
彼女は、私を遥かに超える天才……いや、下手したら歴史に名を残すレベルの、怪物や化け物と称されるような存在である、と。
彼女の才能は明らかに異質。私自身、自分がいわゆる天才と呼ばれる人間だと思っているし、それだけの実力を持っていると確信している。だが、彼女のそれは私のものを明らかに超えている。
一体どんな両親のもとで、どんな環境で育てば彼女のような異常な存在が生まれるのか。
知りたい、と思った。何故なら、恐らく彼女こそが私の思想の体現者なのだから。ホワイトルームでかつて見た彼……彼ですら、彼女に勝てるかはとても怪しいと思わざるを得ない。
だから、私は直ぐに動く事にした。
真嶋先生の説明、あまりにも違和感の多いその説明についての話をする、と同時に、彼女の性格、この学校におけるスタンスを理解するために。
先生の説明についての違和感は、当然彼女も気付いているだろう。頭脳面において私に思い付くような事は、恐らく彼女ならば即座に全て考え付くだろうから。
そして、私は先程まで先生が居た壇上に上がり、話し始めた。
「皆さん、初めまして。私は坂柳有栖といいます。まずは、親睦を深めるための自己紹介と……」
言いながら、私はクラスメイトの反応を見ていた。
ほとんど全員が帰る準備を一旦止め、私の言葉に耳を、私の姿に目を向けていた。
ただ、一人を除いては。
たった一人、彼女は音を立てず静かに教室を出て行った。
まるで、私の姿など、私の言葉など、ほんの少しの意識を向ける価値もないと言わんばかりに。
「……坂柳。一人、教室を出て行ったが……」
私に声をかけるのは一人の頭髪の無い男子生徒。
彼も優秀そうではあるが、彼女と比べてしまったら木の葉の如し。
そう、私と同じく。
「構いません」
「? いいのか? だが……」
一見当然のようで、決してそうではない疑問を述べる彼の言葉を私は遮る。彼は恐らく良い人なのだろう。だが。
「彼女、怜山静香さんにとって、私はまだその程度なのでしょう。そして、その認識はきっと正しい」
「怜山静香? まさか彼女があの怜山だと言うのか? 知り合い……なのか?」
怜山さんの名前を聞いて、教室はざわつき始める。
このクラスには彼女の名前を知る、つまりはある程度以上勉学に励んで来た人間がそれなりの数居る、という事を意味している。
そんな彼らを見て、微笑みながら。
「初対面、いえ、きっと彼女からすれば対面すらしていないのでしょう。ですが……
私は貴女に挑戦します。貴女を、超えて見せる。
思わず蒸気を帯びてしまう自分の身体。頬の辺りが紅潮してしまうのを隠せない。そんな中、言葉には出さずに、坂柳有栖は自分の中だけで、そう、宣言した。
おもしれーやつ、なRTA