よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート 作:月島さん
いや、それは言い過ぎかもしれない(ホモは嘘つき)
茶柱佐枝の諦念
私は教師になってから、いや教師になる前から誰にも話せない悩みがある。
それは、ある悪夢を繰り返し見続けている事だ。
決して忘れる事の出来ない、あの日の出来事が夢の中で繰り返される事。
私のせいで、まとまっていたクラスは、直ぐそこまで迫っていたAクラスへの夢は、脆くも崩れ去ってしまった。
親友だった知恵と決別し、異性として大切な人である彼との関係も終わりを迎えた。
私は一体何がしたかったのだろうか。
何を、すべきだったのだろうか。
答えはあれから約10年経った今でも出てこない。
そんな私は未だに失敗してしまった過去に、成し遂げられなかった夢に執着しこの東京都高度育成高等学校の教師にまでなった。
我ながら、実に愚かな事だと思う。
私がかつて自らのミスによってクラスごと落とされる事になったDクラスの教師となり、対外的にはAクラスに興味が無いように振る舞いながらも、内心は他の誰よりもAクラスを切望する……そんな、愚か極まる行動をしていた。
『お前たち、まだあの事で揉めてるのか? 何年経ったと——』
高校の同期であり、教師として同僚でもある真嶋に言われた事を思い出す。
時間など関係ない、とあの時真嶋には言ったが、私自身それがどんなに馬鹿げた話かという事は十分過ぎる程理解していた。
そんな、言ってしまえば何の意味もなく下らない日々を延々と送っていたところ、予期せぬ事態が、私にとって希望とも言える事態が発生した。
Dクラスに、異常とも言っていい程に逸材が集結したのだ。
基本能力が極めて高く、素質ならば歴代最高とも言われる現生徒会長と張る事も出来るであろう堀北。
Aクラスに入れても上位の総合力を持つであろう平田、櫛田。
底知れぬポテンシャルを持つ高円寺。
そして何より、綾小路清隆。
特に高円寺と綾小路は、この学校の歴史上で見ても極めて優秀な生徒だと言えるだろう。少なくとも、私の世代には、私が教師として今まで見てきた生徒には、この2人程の逸材は存在しなかった。
坂柳理事長から綾小路について聞いた時、綾小路以外にも逸材が多数居る事を知った時、私は歓喜した。
私がAクラスに興味が無いだろうという理由で綾小路をDクラスに入れ、私に綾小路の抱える事情を教えた理事長の思惑には真っ向から反してしまうが、その事など完璧に頭から離れてしまう程に。
元々、期待などしていなかった。
いや、正確に言えば諦めていた。
今よりもクラス間の差が遥かに小さかった私の代ですら、私というたった一人の暴走によってそれが叶わなかった以上、DクラスがAクラスに上がることなど不可能だと。
だが、今年はあるのかもしれない。
そう思わされるような生徒たちの姿がそこにはあった。
私は自らの野望に大きな火が付いた事を感じ取った。
……確かに今年のDクラスは特殊で、尖った生徒が集まっているとは思っていた。
だか、正直言って5月1日時点で0ポイントになるとは思っていなかった。とはいえ彼らの授業態度はあまりにも酷いものだったのは言い訳のしようもない事実。私も一応は教師であるため、彼らの態度には思う所が無いとは言えないし、下された評価は実に妥当だと看做さざるを得ない。
更に言うと、狙うべき相手であるAクラスは、歴代最低点を叩き出したDクラスとは逆に、歴代最高点を大きく更新する965ポイント。そして綾小路や高円寺だけでなくAクラスにも歴代最高レベルの逸材が1人存在していて、しかもその生徒の力を使う事すら無くそれだけの高ポイントを叩き出したのだという。
だから、私は直ぐに動かなければならない、と思った。
5月になり、クラス間闘争について発表した瞬間、私は動いた。
自らがDクラスに配置された事を不満に思い、個人ではなくクラス単位でAクラスに上がる事に執着を持つ堀北を使って綾小路にAクラスを目指させるように仕向けた。
その結果、Dクラスの中間試験はAクラスに次ぐ順位となった。
良い順位ではある。過去問を活用した綾小路の実力はやはり確かだったと言える。
だがやはり、立ちはだかるはAクラス。
……もしこの時点で、注意すべきはAクラスなどではなく、あの生徒ただ1人だったのだという事実に気が付いていたならば、未来は違った物になっていたのだろうか。
しかし、言い訳になってしまうが、いくら教師とはいえAクラスで何があったかなど他クラスの教師である私が把握し切る事は出来なかったのだ。だから、私はあの生徒が既に動いているという事実に気付く事が出来なかった。
その後、綾小路は須藤とCクラス間の争いにおける裁判にてこの上ない働きを見せた。
教師としては、ここで須藤は何らかの処罰を受け、日頃の行いを反省すべきだとは思ったが……まあいい。
どうやら生徒会長の堀北学も綾小路に目をつけたらしい。
それは堀北学から見ても綾小路はBクラスの一之瀬、Aクラスの葛城よりも優れている事を意味している。
まあ、最初からそんな事はわかっていた事ではあるのだが。綾小路の実力は普通に生きてきた高校生が持つ様な物では無いのだから。
ただ、当の本人は生徒会に所属する気は無いみたいだ。
時が経つにつれて綾小路の実力は次々と発揮されてはいる。だが、まだ足りない、と私は思った。何故なら、将来的な1番の敵であるAクラスもまた、歴史上類を見ない程に優秀な生徒の集まりなのだから。
私も授業のために何度も彼らを見てはいるが……やはり、その中でもあの生徒は群を抜いている、と言っていいだろう。高円寺や綾小路同様、能力の底が私をして全く測り切る事が出来ないのだから。
その時の私は、彼女はまだ動いていないと思っていたので、今のうちに何からのアクションを起こしてアドバンテージを得る必要がある、と考えていた。
そのため、DクラスをAクラスに上げるという事に執着を全く見せず、なかなか動かない綾小路に対し、理事長から聞いた彼の父親の存在をちらつかせて脅し、無理やり綾小路を動かす事にした。
あの時は、我ながら一体何をしているのだと、私は自分自身に驚いていた。
まさか、教師が生徒を脅迫するなど。
前代未聞にも程がある。
私はまさしく教師失格の唾棄すべき人間だろう。
だが、後悔はあれど、仮に何度時を遡る事があろうと、仮に綾小路以外の人間がどのようなクラス配置をされていようと、これまでに誰がどのような行動をしていようと、私は全く同じ事をやるであろうという確信があった。
私は自クラスにかつてない程逸材が多数集まったこの年に、Aクラスに上がるという夢が現実的なものとなったことを理解して、どうしても内心の焦りを抑えられなかったのだ。
あの時は、この脅迫が後にあそこまで悲惨な結果を引き起こす事になるとは全く予想だにしていなかった。
綾小路が彼女と親しくしているという情報は掴んでいたにも関わらず。
脅迫直後の無人島試験で、綾小路はこれ以上ないと思える程の結果を残した。堀北の陰に隠れようとするそのやり方には少々思う所はあるが……まあ、いい。特に、Cクラスとは200ポイント以上の差を縮める事が出来た事だし、結果としては申し分無いのだから。
私は満足し、次の船上試験にも大きな期待をした。
あれもまた、やりようによってはかなりの差を詰める事が出来る試験なのだから。
だがその船上試験では、完全なる敗北という結果となった。
私がかねてより注意して見ていた生徒、怜山静香が遂に動き、なんと1日目の初回の会議途中で優待者の法則を割り出して見せたのだ。
それにより、AクラスがCPを300得て、Dクラスは何とか±0、他クラスはCPを−150するという凄まじい結果となった。
Dクラスが被害を最小限に抑える事が出来たのは流石綾小路といったところだが、怜山はその綾小路すら超える逸材なのかもしれない、と私は思った。
その日の夜。
真嶋、知恵、私で構成される同期3人は、船内のバーの1つに集まっていた。
「何かさー! 久しぶりよね。この3人がこうして、ゆっくり腰を下ろすなんて」
知恵がウィスキーを手に持ち、ソファーに腰を下ろしながらそう発言する。
「因果な物だ。巡り巡って結局俺たちは教師という道を選んだのだからな」
「よせ。そんな話をしても何の意味もない」
真嶋と私がカウンターでそれぞれの酒を口にしながらそんな事を言う。
そう。
私たちは真嶋の言う通り、過去にそれぞれ影響されてこの道を選んだ。まあ、私と知恵のそれと、真嶋のそれは少し違った物ではあるのだろうが。
そうして、真嶋と知恵の異性遍歴を語ったりした後、知恵が本題に入る。
「それより、真嶋くん。あの子一体なに? あんな子が居るなんて、反則じゃない」
知恵がウィスキーのロックを豪快に飲みながら真嶋に絡む。
そう。それは恐らく私たち教師だけで無く、むしろ生徒たちの方がより強く思っているであろう事。
船上試験において、あの生徒がやった事はあまりにも異常なのだから。
「……反則、という事は無いだろう。確かに、怜山は今まで俺が見てきた誰よりも優れた才能を持ってはいるが」
「いやいや、あそこまで来るともう反則だって! まさか開始10分で優待者の法則を見抜いて試験を終わらせるって……ねえ」
内心、自分でもそう思っているであろう真嶋の誤魔化すような発言に反論する知恵が、私の方を向いて同意を求めるように言ってくる。
「反則とまでは言わないが、そうだな。怜山が成したのはこの学校の歴史上初の圧倒的な結果だ。私もあれ程の生徒は見た事が無い」
そう。
それは、あの綾小路ですら対抗するのは不可能なのでは無いか、と思わされる程の結果。
「はぁ……今年は私のクラスも一之瀬さんを中心に凄いクラスになると思ったのになー。流石にあの子に勝つのは無理よねえ」
知恵が大きな溜息を吐きながら、
「あそこまで来ると、もう能力差が有り過ぎてクラスが団結してどうにかなるってレベルじゃないだろうし……どうしてよりによって今年にあんな子が、しかもAクラスに来ちゃうかなー」
そんな事を言う。
全くその通りだ。
どうしてよりによって、今年にあんな生徒が……と思わざるを得ない。怜山本人に罪があるという訳ではないのだが。
しかも、配属されたのが他クラスならばまだやりようも有ったのだろうが……最悪な事に、アベレージが最も優れたクラスであるAクラス。これでは文句を言いたくなるのも仕方ないだろう。
「……油断する訳ではないが、最早今年のクラス間闘争で俺のクラスが敗北する事は無いと言ってもいいのだろうな」
真嶋がそんな事を呟く。
確かに、一見するとそうだろう。怜山がここまで圧倒的な結果を出し、更には所属するのが付け入る隙があまり無いであろうAクラス。
ほとんどの人間はクラス間闘争の結果をAクラスの勝利と見るのは自然な事と言える。
だが、私はまだ諦めては居なかった。
何故なら、綾小路はこんな絶望的な状況においても一定の結果を出しているのだし、他にも高円寺や堀北といった秘めたる獅子がDクラスには居るのだから。
だからまだ、低いかもしれないが可能性は残されている。
すっかり勝負を諦めた様子の知恵とは違い、私はそんな事を考えていた。
だが、事態は私が思っているようには行かなかった。
船上試験の後も、私は綾小路を動かして特別試験を自クラスが勝利するように運ぼうとした。だが、結局は綾小路の父親が実際に学校に乗り込んできたことにより、綾小路に私の嘘がバレた。私は綾小路の父とやり取りなどしていないのだと。
そして最終的には逆に綾小路に抑え込まれてしまい、綾小路を動かすことは出来なくなった。
それでもまだ、可能性は僅かかもしれないが残されている、と私は思っていたのだ。
仮に私の手を離れたとしても綾小路さえいれば、まだ何とかなる筈だと。
私の失敗により内心で抱いてしまった言いようのない不安と焦りを隠し切れないままに。
だが、気付けばクラス間闘争は終わりを迎えていた。
他ならぬ、最大の期待を寄せていた綾小路がAクラスに移籍する事によって。
綾小路から2000万PPを渡された時、私は驚愕を隠せなかった。
今まで、この学校の歴史上において個人でこれを成す生徒は居なかった。それにも関わらず、たったの1年で綾小路はそれを成した。
綾小路が莫大なPPを保有している事には気付いていた。
だが、2000万には到底届かない額であった筈。
私はそこまで考えてから、綾小路の移籍先のAクラスの生徒であり、彼と一番仲のいい人物であり、これまた莫大なPPを保有していた生徒である怜山の事に思考が思い至った。
……これはもう間違いないだろう。怜山が綾小路に不足分のPPを渡している。
綾小路は、自クラスを裏切っていたのだ。
そう考えると、今まで起こった数々の不可解な事態にも説明が付く。
特に顕著なのは、つい先日行われた退学投票の結果だろう。
綾小路がAクラスに与していたとしたら、彼がプロテクトポイントを得たのは必然でしかないのだから。
奴は恐らく坂柳と茶番を演じる事で山内を嵌め、望む結果を生み出したのだ。他クラスと組んでいるのだとしたら、あの退学投票そのものが彼らにとってまさしく茶番に過ぎないものだったのだろう。
……だが、そうだとすると一体いつから綾小路と怜山は手を組んでいたのだろうか。
私はいつ間違えてしまったのだろうか。
綾小路の移籍によって私のクラスの勝ち目が完全に失われてしまった事を理解しながら、私は失意の中、そんな事を考えざるを得なかった。
それから2年間、私のクラスの堀北は非常に奮闘したと言えるだろう。側から見て明らかに勝ち目など完全に失われてしまっているにも関わらず、退学者を複数出しながらも自分に出来得る最大限の努力を尽くしていた。
兄と同じように生徒会長を務め、激動の毎日を過ごしていた。
だが……そんな堀北には申し訳ないが、勝ち目が完全に無くなってしまった以上、私は自身が失意の内にある事を隠し切る事が出来なかった。
私の野望は潰えた。
私の夢は、永久に叶わないのだと理解してしまった。
それでも私には、顛末を見届ける義務があると考えた。
これは、私が始めた物語なのだから。
私は失意の最中でも、彼らを見守る事だけは止めなかった。
私は一体何がしたかったのだろうか。
何を、すべきだったのだろうか。
全てが終わってしまった以上、最早何の意味も無い事を考えながら。
そうして迎えた卒業式。
結果は分かりきっていた。
Aクラスは結局、在学中1度もその座を譲る兆候すら見せずに歴代最高のCPを保有しながらの卒業。
私のクラスは、堀北の奮闘によりBクラスとして卒業。
側から見たら、大金星と言えるだろう。Dクラスがここまで上がる事は稀なのだから。
だが……いや、もういいんだ。
そうして自クラスの生徒の卒業を見届けた後、私はとある1人の人物を探していた。
1年時3月末の時点で、クラス間闘争を完全終了させ、その後には大々的な動きを完全に止めてしまった1人の生徒を。
私はその生徒……怜山静香の姿を確認し、近づいた。
私は、どうしても怜山に聞きたい事があった。
「……怜山。最後に1つ、聞かせて貰ってもいいか」
「はい」
私の唐突な質問に対して、怜山は来るとわかっていたかのように瞬時に返答する。
もう、それを見て驚く私ではない。
「感謝する。……お前は一体、いつからこの構図が見えていた? いつまでならば……まだ取り返しがついた?」
「……2つになっていますが、いいでしょう。この構図を描いたのは入学式の日、堀北先輩から学校のルールを聞き出した時です」
「! そうか……そこまで早くお前は……」
入学式の日。
当時まだ月城が来ていなかった頃、2、3年生には新入生に5月になるまでは学校の制度を伝えてはならず、破ったらペナルティを課すというルールがあった。
とはいえ、全ての生徒を監視し続けるなど不可能である以上、実際に伝えた所で教師の目の前等で無ければ罰せられる事はない実質的には形骸化したルールではあった。それを含め、実力を測るために定められたものだった。
堀北は当然それを理解していたために怜山にこの学校の制度について教えたのだろうが……
1日目からこの構図を見ていた……か。
怜山の能力を理解していなかった頃の私ならば決して信じられない事だっただろう。いくら怜山の能力が歴代最高クラスだという情報が最初からあったとはいえ、あまりにも常軌を逸している事実なのだから。
だが、そうだとしたら私は一体……
そんな事を考える私に対して、怜山が続ける。
私にとって、直視し難い事実を突きつける。
「取り返しが付かなくなったのは……1年夏休み前に先生が綾小路君を脅迫した時です」
「何……だと……?」
私は今度こそ驚愕の声を隠す事が出来なかった。
まさか。
今まで起きた事全ては私のせいだったと……
「終わった事を無意味に蒸し返すつもりはありません。悪気が無かった事、焦ってしまった事は理解しています。それに、先生だけが原因な訳でもありません」
「ですが、決定的な引鉄を引いてしまったのは……あなたです」
話を終え、私は理事長の元へと向かった。
綾小路がAクラスへと移籍し、私が自らの失敗を悟り次第作成したが、それでもまだ、自らの生徒への責任感から彼らが卒業するまではと思い、今に至るまで使う事の無かった
辞表
をその手に握り締めながら。
作者の推しキャラランキング
1位 茶柱先生
2位 綾小路君
3位 堀北さん
推しキャラ全員酷い目に遭ってるな?
タイムのためだからしょうがないね。
投稿開始前に考えていた作品の内容は一先ずこれにて終了となりますが、現在番外編を考えています。
・2週目堀北さんの奮闘記
・2年生編以降の出来事
・裏で語り切れなかった出来事
他、気が向いたら書くかもしれません。