よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート   作:月島さん

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2-裏

 綾小路清隆の記憶

 

 

 どうやら、よくわからないが好印象を与えたらしい(?)とは思っていた。

 

 だがまさか、ここまで怜山と関わる事になる……どころか、オレの高校生活の中心に怜山静香という少女が立つことになるとは思っていなかった。もちろん、嬉しい誤算ということではあるが。

 

 

 

 オレたちは入学日から毎日夜に1通メールのやり取りをしている。

 最初は怜山からメールが来たが、2回目からはオレからも送るようになった。異性にメールを送るなんて当然の事ながら初めての経験で、高校生活とはこんなに目まぐるしいものなのか、と嬉しいことながらも少々の戦慄もしている。

 

 

 入学前からこの高校に入ったら友達が出来るのでは、とワクワクしていたが、まさか早々にあんな美少女とここまで仲良くなれるとは思っていなかった。常時無表情なのが少し気にはなるが、だとしても、不自然なくらい美人揃いのDクラスの誰よりも明確に可愛い美少女だ。男としてこれ以上無いほど喜ばしいことだろう。

 

 

 

 メールの内容としては、大体その日あった出来事の報告だ。

 例を挙げると、

 

 

『今日は池や山内、須藤と仲良くなる事が出来た。これが青春、ってやつか』

 

『そう。私はいつも通り。強いて言えば生徒会に勧誘されたくらい。断ったけど』

 

 

 

 という感じだ。

 正直かなり気になる内容だった。部活紹介の時の、堀北の生徒会長に対する反応は記憶に新しいしな。

 だが、ルールとして決めたわけでは無いものの、オレたちは基本的に何かしらの用事がある時以外は1日1通、夜にしかメールのやり取りをしないため、質問があれば後日に持ち越しとなる。

 

 この間隔は、マメな連絡を面倒と思うオレからすると非常に好ましい。

 オレと怜山はやはり気が合うのだろう。

 

 

 

 

 やり取りを初めて数日。

 怜山から驚くべき内容のメールが来た。それは

 

 

 

 

『明日、良ければ一緒に昼食を取りましょう。綾小路君のお弁当も作ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かの間違いかと思って二度見した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、だって女子からのお昼の誘い、しかも手料理弁当だぞ?? 

 

 というか弁当派だったんだな。

 しかも自炊。正直言って意外だ。

 

 何というか、怜山は言葉も異様に短いし、メールも簡潔。

 だから、わざわざ手間をかけて自炊などせず、もっと効率を求める人間だと思っていたからな。

 

 勿論、提案そのものはめちゃくちゃ嬉しい。言うまでもない当たり前過ぎる事だ。だがオレ、そこまで怜山にしてもらうようなこと何かしたか? 全く記憶にないんだが。

 

 まだ会ってから数日。

 しかも、メールはともかく、直接会って会話したのは初日の物凄く短いあの内容のみ。

 

 今時の高校生はみんなこうなのか? 

 何というか、進んでいるな……

 

 と、内心少し戦慄しながらも、ありがた過ぎる話であるのは間違いなく、当然断る筈は無いため了承のメールを送る。

 

 

『ああ、わかった。ありがとう。怜山の料理、楽しみだ。食べる場所はどこにする?』

 

 

 こんな所でいいだろうか? せっかく弁当を作って貰えるんだから、もっと嬉しさを全面に押し出す文章の方が良かっただろうか? いや、しかしあまりがっつき過ぎるのも良くないだろうし……

 

 

 なんて考えて悶々としていたら、直ぐに返信が来た。

 

 

『良かった。場所は〇〇。現地集合で。私も楽しみにしている。おやすみなさい』

 

 

 なんというか、相変わらず簡潔すぎる内容。

 だが、怜山も明日を楽しみにしてくれているらしいし、オレのメールはあれで正解だったようだ。

 

 

 オレは思わずウズウズして、怜山はどんな弁当を作ってくるのだろうか、あの無表情でタコさんウィンナーとかを作ったりするのだろうか。と、明日の事を色々と妄想しながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 当日の昼休憩時間。オレは怜山の指定の場所に着いた。

 

 どうやら怜山はまだ来ていないらしい。

 つい、急ぎ過ぎてしまったな。

 

 まあ、それも当たり前過ぎる事だ。

 正直言って今日一日は昼の事しか考えてなかった。

 隣の席の堀北の罵倒も一切気にならない。堀北には怪訝な顔で見られたが、そんなことはどうでもいいことだ。

 

 

 そんな感じでウキウキしながら待つこと数分、オレの所に弁当箱を持った黒髪長髪の美少女……怜山がやってきた。

 

 こうして見ると本当に美人だよな。Dクラスで最も容姿に優れた堀北のそれも相当なものだと思うが、怜山は明らかにその上を行っている。

 

 

 こんな美少女の手作り弁当を今から食べるのか……。

 

 

 オレは内心の動揺を出来るだけ隠してから、怜山に話しかけた。

 当然、バレたら恥ずかしいからに決まっている。そんな情けない姿を見せてしまったら、無いとは思いたいが弁当を没収されるかもしれないしな。

 

 

「怜山、久しぶり……って程じゃないな。数日ぶり」

 

「ええ。こんにちは」

 

 

 初日と同じく全くの無表情でそう言った直後に、怜山はオレの隣に座り、早速バッグから弁当を取り出す動作をし始めた。

 バスでも感じた柑橘系のとても良い匂いがオレの鼻腔をくすぐる。

 

 

 女子は良い匂いがするって本当なんだな……

 

 

 オレは、絶対に怜山に悟られてはならないような事を内心で考えていた。

 

 

「今日は弁当を作ってきてくれてありがとう」

 

 

 考えながらも、まずは感謝の言葉を言わなければならないと思い、そう口にする。人として当然のことだろう。

 

 

「ん」

 

 

 怜山は弁当を取り出しながら非常に短い返事をした。

 

 

 

 いや、『ん』って。

 

 

 

 一言どころか一文字なんだが。

 

 オレの言葉に気を悪くしたわけではない……と思う。多分。いつも通り、って言う程長い付き合いではない……どころかまだ会うのは2回目だが、なんとなくそんな気がする。

 

 しかし本当に言葉が短いな、怜山は。入学初日は、今時の女子高生はみんなそうなのかと思いかけた。だが、Dクラスの女子を見る限りどうやら違うみたいだし、彼女がきっと特別言葉が短いだけなのだろう。

 

 軽井沢グループ辺りはむしろかなり騒がしいしな……絶対あいつらと怜山は相性悪いだろうな。

 

 

 そんな事を考えていると、怜山が準備を終えて弁当箱を開いた。

 

 

 

 

「おお……」

 

 

 

 

 オレは思わず感嘆の声を上げていた。

 

 色取り取りの弁当。

 鶏の照り焼きに、にんじんナムル、大根の漬物……などなど。

 

 非常に豊かな献立だった。

 オレの知識によると、全体的に保存が効く食べ物が多い気がする。

 

 これ全部自分で作ったのか? 

 だとすると、怜山は相当な料理上手だと思うんだが。普通の女子高生は多分こんなに料理は出来ないぞ。少なくとも、Dクラスの女子にこのレベルの弁当を作れる人間が複数人居るとは考えにくい。

 

 

 弁当を眺めながらそんな事をオレが考えていると、

 

 

「食べて良いよ」

 

 

 なんて怜山に無表情で言われた。

 

 

 ……物欲しげに見えたのだろうか。まあ、あれだけ見てればそう思うだろうな。厳然たる事実だし。

 怜山の前で恥ずかしいことをしてしまったな……。

 

 

 オレは内心で先までの自分を恥ずかしがりながらも、目の前のご馳走を頂くことにした。

 

 

 そして……

 

 

 

「う、美味いな……正直言って驚いた」

 

 

 

 弁当は見た目通りめちゃくちゃ美味しかった。

 ただ栄養素を摂取する為だけの無味無臭なものではなく、それぞれの品が適度に味付けされた料理。

 

 何というか、意外だった。いや、別に怜山は料理が下手そうってわけじゃないんだが、ここまで上手とも思ってなかったから。

 

 

 

「そう。良かった」

 

 

 

 怜山はそれだけ言って、自分も昼食を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怜山は、どうして料理を?」

 

 

 食べ始めて暫く経ってから、オレは気になった事を怜山に質問した。

 さっきも同じ事を考えたが、実際、かなり意外だから。

 

 ついさっきまで、怜山は、なんというかもっと効率重視で、料理なんかしないでその辺の惣菜で簡単に済ます、みたいなイメージがあった。

 

 

 

 すると、いつもの無表情のまま、怜山は話し始めた。

 

 

 

「昔、家の近くにパン屋さんがあった」

 

「パン屋さんの横を通ると、パンを焼く匂いがする」

 

「その匂いを嗅ぐと、悪く無い気分になった」

 

 

 

 その話をする怜山は、相変わらず言葉も短いしいつもの無表情ではあったが、よくよく見てみるとほんの少しだけ、何かを懐かしむような顔をしていて。

 

 

 

「パン、好きなのか?」

 

「いえ、別に」

 

「そ、そうか」

 

 

 

 いや、そこは違うんかい。

 

 

 

 オレは思わず内心でツッコミを入れていた。

 直接言えはしないが。

 

 

 

「ただ、気付いたら料理が私の趣味になっていた」

 

「料理をしていると、あの時のように……悪く無い気分になる」

 

「だから、あなたにも私の料理を食べて貰いたいと思った」

 

「? どうしてだ?」

 

 

 

 オレは思わず怜山にそう聞いてしまう。

 どうしてそれがオレに繋がるのかわからなかったから。

 

 すると、

 

 

 

「友達とは、良い物を共有するものでしょう?」

 

 

 

 初日と同じように、一見無表情に見える。

 が、ほんの少しだけ微笑を浮かべ、怜山はオレにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、たまにオレたちは怜山が作ってきた手作り弁当を一緒に食べている。頻度としては、週に2回程か。

 

 オレとしては毎日でも一向に構わない……どころか、むしろ望ましいのだが、それは流石に弁当を作る側の怜山に悪いからな。

 

 それくらいの分別はある。

 

 

 

 そして、週末。

 

 

 初めての週末に差し掛かる前、オレは怜山と休日に遊びに行きたくてウズウズしていた。

 だが、どうしてもオレから誘う勇気が出ない。

 

 

 もし断られてしまったら、オレの心はぽっきりと折れてしまうに違いない。いや、何よりもあの昼食の時間すら失われかねないからだ。

 

 

 そうして何時間もベッドの上で悶々としていたところに、

 

 

 

『明日、良ければ遊びに行かない?』

 

 

 

 なんてメールが来た瞬間。

 オレは即座に。もう一瞬で。

 

 持てる能力全てを全力で発揮して最速で返事をした。

 

 

『もちろん大丈夫だ』

 

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、オレは休日も怜山と一緒に過ごした。

 

 様々な娯楽施設に行った。怜山は誰が見ても予想出来る通り人混みが嫌いらしく(むしろあの感じで賑やかな場所が好きとか言われたらビビる自信がある)、カラオケの個室など、他人の目に入らない場所を好む傾向にあった。それもオレと同じだな。

 

 怜山と過ごすこの1ヶ月は、今までのオレの人生で、間違いなく最高に楽しかった1ヶ月だと断言できる。

 

 あの場所を抜け出して来て正解だった。

 

 これからも、オレはきっとこの常時無表情で、たまにオレにしか分からないくらいの微細に表情を変える少女と一緒に高校生活を謳歌するのだろう、と確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月1日。

 

 

 この日は激動の1日だったと言っていいだろう。

 

 

 クラスポイントによってクラス間の優劣が決まるSシステムの発覚。

 振り込まれたポイントが0。

 Dクラスは不良品の集まり。

 試験での赤点は即退学。

 

 そして、終いにはオレを唐突に職員室に呼んだ茶柱によって、堀北と茶柱の会話を聞かされ、堀北への協力を半ば強制される羽目となった。

 

 堀北への協力は、事なかれ主義のオレにとってはあまり望ましい出来事では無いが、まあ仕方ない……というよりもどうでもいい。

 

 

 

 何故なら、そんな事よりもオレにとっては余程重要なことがあるからだ。

 

 

 

 クラス間闘争……その言葉を聞いた瞬間にまずオレが考えたのは、怜山との関係のこと。

 

 

 

 確かに堀北に手を貸す事にはした。が、一旦今日は帰らせろと言って、オレは即座に寮へと戻った。

 堀北がオレの背を見ているのを感じたが、そんなことはどうでも良かった。

 

 

 

 何よりもまず、確認すべき必須事項があるのだから。

 

 

 

 寮に戻り、オレは悩んだ。

 今までの人生で屈指の悩み、と言っていいだろう。

 

 

 そしてオレは

 

 

『これからクラス間で競争していくわけだが、これからも怜山と仲良くしてもいいか?』

 

 

 と怜山へメールを送った。

 

 

 内心オレは恐れていた。

 文面もめちゃくちゃになっていたと、後になって見返した時に思った。

 

 

 もし。いや有り得ないとは思うが、もし、怜山がクラス間闘争を理由にオレと距離を置くなんてことがあれば……

 

 

 そんなことを考えていると、すぐに怜山から、

 

 

 

 

 

『クラス間闘争なんて私たちの間には関係ないこと』

 

 

 

 

 

 と返信が来た。

 

 

 オレは思わず胸が熱くなるのを感じた。

 

 

 確かにその通りだ。

 

 オレと怜山は友達……いや、もうただの友達などではない。親友だ。

 まるで幼い頃からこうやって連絡を取り合ったり、休日に遊びに行っているような気さえする。

 存在しない記憶が溢れ出る……初めて出会ったあの思い出の公園。あの頃のまだ幼いオレたちは沢山遊び、喧嘩もしたりもしたよな。楽しかった……。

 

 

 オレは3時間程美しい記憶を思い返しながら浸っていた。

 いや、時が許す限りもっと浸りたい。

 この時間が永遠に続くというのなら、それは本望だ。

 

 

 だが、親友……オレたちの関係を自分の中でそう定義した時、オレの胸に何やら小さな痛みのような物が走った。

 

 

 この痛み。

 その名称は、知識としてはある。だが、よりによってこのオレが。いくらなんでもそんな感情を抱くとは思えない。だから、きっと気の所為なのだろう。

 

 

 オレは、今までの人生で圧倒的に一番の喜びと、しばらく続く少しの胸の痛みと共に就寝した。

 

 




書き溜め尽きたので初投稿です。

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