現大陸から遠く離れた海の上にある巨大な大陸……『新大陸』。この場所に向けて古龍種が海を越えて移動する「古龍渡り」という現象が知られたことから『新大陸古龍調査団』による調査が始まった。現在は古龍渡りの任務に加えてレイギエナの異常行動から発見された渡りの凍て地の調査も終えて、さらにはゼノ・ジーヴァの成体と思しきムフェト・ジーヴァ、煌黒龍アルバトリオンの討伐など、並みのハンターではまず経験のしようのない怒涛の展開を乗り越えた。一つ、誤算があったとすれば……国からの招集を経て討伐作戦を展開した黒龍ミラボレアスが時空の裂け目を介して異世界へ逃亡し、さらにミラボレアスの逃亡先の異世界から黒龍の呪いを受けた異世界人とその仲間たちがやってきたことだろう。
ミラボレアス逃亡直後は、どうにか時空の裂け目の先にいるミラボレアスを追おうと四苦八苦していたが、それも予想だにしない展開で解決策が見えた。ハンター達を異世界……ヒスイ地方へと派遣し、事故で異世界に流れ着いた伝説の狩人・ヒューイと異世界人達と共に見事ミラボレアスを打倒することに成功した。倒されたミラボレアスは異世界人が扱う不思議なボールで捕獲された後、祖龍ミラルーツに仕える巫女を名乗る少女の手により厳重な封印が施された。今後、ボールに収められたミラボレアスが日の目を浴びることは二度とないだろう、とのこと。
そうして大波乱な冒険と狩猟を終えて新大陸へと戻ってきた【青い星】こと……ニールは久々にアステラの大地を踏みしめ、長く苦しい戦いの疲れを取るため療養を取る……なんてことにはならなかった。
アステラに帰ってきたニールを出迎えた同期団員のエイデン曰く……「新大陸にも出没するようになった技巧種の狩猟が終わってない。セリエナ側からも発見報告が相次いでいる。とりま、助けて」とのこと。帰還早々、ニールは即座に狩りへと駆り出されるのであった。「かり」だけに。
「うぉら!」
気合一閃。ニールが振り下ろした大剣がドスジャグラスを切り裂き、その体勢を大きく崩す。即座に納刀したニールはシビレ罠を仕掛けると同時に捕獲用麻酔玉を用意し、罠に掛かったドスジャグラスを捕獲した。周りにいるジャグラス達が騒ぎ立てようとするが……。
「甘いぜ!」
「ゾロアーク!ハイパーボイス!!」
エイデンのライトボウガンから放たれた散弾と、ニールが指示を飛ばしたヒスイゾロアークのハイパーボイスがジャグラス達を吹き飛ばす。あっという間にドスジャグラスの狩猟を終えたニールとエイデンはお互いに駆け寄り合い、労い合う。
「おつかれ、エイデン」
「そっちこそおつかれさん!ゾロアークもありがとな、おかげで助かったぜ」
「ゾロァ!」
新大陸という厳しい環境で、果たしてポケットモンスターがどこまで戦えるのかは未知数であったが……そんなニールの不安などなんのその、ゾロアークは新大陸の技巧種モンスターを相手にしても果敢に戦い抜いた。人間ほどの大きさしかないが下手な中型モンスター以上の戦闘力を持つポケモンという存在に当初は近寄り難かった調査団だが、今では調査団のマスコット的存在になりつつある。特にゾロアークの鬣に顔を埋めて吸うのがある種の癒しになりつつあるそうだ。
「それにしても厄介だったな、ドスジャグラスの技巧種は」
「"たくわえる"、"のみこむ"、"はきだす"……厄介な技だった。蓄えることで防御能力を高め……飲み込めば回復、吐き出せば攻撃……久々に苦戦させられたよ」
「おまけにジャグラス達だ。捕獲のために眠らせても、"さわぐ"って技のせいで起こされちまう。やっぱりお前が帰ってきてくれてよかったよ、ニール!」
「そう言ってもらえれば、俺も帰ってきたかいがあったよ」
今回の狩猟対象であるドスジャグラス技巧種。その厄介な点は技"たくわえる"からなるコンボ戦法だ。そこへ同じく技巧種化したジャグラス達によるハンターへの妨害及びドスジャグラスへの援護……この凶悪戦法が原因で派遣された調査員が尽く返り討ちに遭い、ドスジャグラスの狩猟すらままならなかった。
というのも、ニールが戻ってくるまでの新大陸において技巧種モンスターと直接交戦の経験があったのはエイデンだけであり、彼一人だけで伝えられることに限りがある。情報だけならどうにでもできるが、「実践に勝るものなし」とはよく言ったもので実際に戦ってみるとかなりやりづらさがあり、調査団は長らく苦戦を強いられた。
しかし、今は【青い星】のニールがいる。ここから反撃と言わんばかりに、調査団は積極的に技巧種の狩猟に乗り出していた。おかげでニールは新大陸に戻ってきてから狩りに行かなかった日は一日とない。毎日一回は必ず狩りに出ている。働き過ぎである。
古代樹の森から戻ってきた二人は、すぐさま生態研究所で報告を済ませる。現在、アステラはほぼガラガラの状態だ。動ける調査員を可能な限り動員し、技巧種の捜索・狩猟に奔走しているためである。特に腕利きのハンター集団である5期団は全員が出払っていることもあるくらいで、今もアステラにいる5期団はニールとエイデン、二人の相棒である編纂者の女性達だけだ。
「……相変わらず、人がいないな」
「渡りの凍て地……セリエナ側にも技巧種が出たからな。動けるハンターを全員動かしているんだ、さもありなんだな」
「ニールが技の情報を持ってきてくれたおかげで、これでもだいぶ楽になった方なんだよな」
「そうだな……龍歴院には、頭が上がらないな」
その時、ニールの脳裏に一人の女性の姿が過ぎった……が、「誰があなたのような優男のためにするもんですか!これは姉様のため!姉様のためですから!断じてあなたのような間男なんかの(以下略)」というところまで発言が容易に想像できたため、すぐに振り払った。
「……頭を上げずとも足は向けても許されるはず……」
「何言ってんだお前?」
「いや、忘れてくれ。……っと、ほかの皆も帰ってきたな」
そうこうして駄弁っているうちに、ほかの5期団メンバーも帰ってきたようだ。……全員がもれなくボロボロのヘロヘロであり、中には門を潜るやいなや五体投地でぶっ倒れる者もいるほどだ。
「皆、無事に戻ったようだな」
「……!総司令!!」
と、ここで声をかけてきたのは調査団の総指揮を執る老練な白髪男性『総司令』。セリエナにいる調査班リーダーとは祖父孫の関係であり、セリエナを孫に任せて自身はアステラに留まっている身だ。全員が即座に身なりと姿勢を正す。総司令は手を挙げることで楽にするよう指示を出すと口を開いた。
「先程、ギルドからの連絡が入った。もうじき、6期団がこの新大陸に到着するらしい。出迎えの準備をしよう」
総司令からの全体発表に、その場にいる全員が沸き立つ。
新大陸古龍調査団・第6期調査団。通称、6期団。
ニール不在の間に遅々として進まなかった技巧種への対応を一気に押し進めるため、調査団からギルドへ要請されギルドがこれを承認。ギルドが選抜した5期団と同じく優秀なハンター集団であり、事実上の援軍である。
モンスターによっては繁殖期に入る可能性もあり、それが技巧種モンスターだった場合を想定すると、新大陸の既存の生態系は崩壊待ったなしである。それを阻止するべく技巧種モンスターを狩り、通常種モンスターの生態を守るべく召集された選ばれし者達……それが、6期団である。
「おぉ……!」
「ようやくか……」
「相棒~!」
総司令の発表を受けて、たまらず笑みが浮かぶ二人のもとへ駆けてくる影が二つ。ニールの相棒である受付嬢シリカと、エイデンの相棒である勝気な推薦組ニコルである。
「相棒!たった今さっき……」
「あぁ、俺も聞いたよ。6期団が、新大陸に来るそうだな」
「はい!一体どんな人たちなんでしょう……あっ、私達は先輩ということになりますから、色々と新大陸のことを教えてあげないとですね!」
どうやらシリカは後輩ができるのが楽しみで仕方ないらしい。ニッコニコの笑顔ではしゃぐ様が、その想いを容易に想像させてくれる。
「ニコルももう聞いたのか?」
「もちろんよ、エイデン。それともう一つ……噂では、現大陸屈指の天才ハンターもいるって話よ」
「天才?」
「ハンター?」
「あ、私知ってます!たしか、【蒼の銃槍】でしたっけ。そんな風に呼ばれている方が現大陸にいるとか……」
「ぶふぉ!?」
「相棒!?」
聞き慣れた通り名がいきなり聞こえてきたために、ニールは思わず吹き出してしまった。それから、恐る恐るといった様子で聞き返す。
「……えっと、ニコル?それは本当か……?」
「……?あくまで噂だけれど、結構可能性は大きいって――」
「ちょっと風呂入ってくるどれぐらいで着くか聞いといてくれ後もし【蒼の銃槍】が俺を探してたりなんかしてたらマイハウスにいるって伝えといていややっぱいいわその前に戻ってくる!!」
「相棒ぉ!?」
やたら早口で言い切るやいなや、マイハウスへ全力疾走するニール。理由を知っているエイデンだけが訳知り顔で、シリカとニコルはちんぷんかんぷんである。
「あー……マジか。あいつ、こっちに来るんだな」
「ちょっとエイデン、何か知ってるの?」
「相棒は一体どうしたんでしょうか……なんだか、今まで以上に鬼気迫るというか」
「そりゃあ、二人共。あれだよ、あれ」
もう姿も見えなくなったニールが今頃マイハウスでわちゃわちゃ慌てながら身だしなみを整えているのを想像しつつ、エイデンは笑って二人に告げた。
「男ってのは、惚れた女の前ではカッコつけたいもんだろ?」
「……ええええぇぇぇぇぇ!?」
「……?(つまり、相棒は……どういうことです?)」
一隻の船が、アステラの港に入港する。船から降りて来たるは、新進気鋭の精鋭たち……新大陸古龍調査団・第6期調査団のメンバーである。この時ばかりはセリエナからも数名の調査員達がアステラに戻ってきて歓迎の用意をしている。ぞろぞろとハンター達が降りる中、総司令が声をかけた。
「よく来てくれた。君たちはこれから、新大陸古龍調査団・第6期調査団員として技巧種モンスターの対応に当たってもらいたい。無論、これまでどおりの調査にも参加してもらう。我々は君たちを歓迎しよう」
総司令が言い終えると同時に、ハンター達が二つに割れて道を開ける。その先にいる人物……ラギアXRシリーズを身に纏うハンターが総司令の下まで歩み寄る。
「こんばんは、総司令殿。ドンドルマ以来ですね。……なぜか一切の反論すら許されずなし崩し的に6期団の代表にされてしまったシズカ・ミズハシ以下、第6期調査団員……新大陸へ現着しました。よろしくお願いします」
「フッ……これはまた、余りにも頼りがいのある援軍が来てしまったな」
「技巧種モンスターへの対応はお任せを。ここにいる三十余名のハンターは、現大陸で対技巧種モンスターの狩猟でギルドよりその功績を認められた者たちばかりです。必ずや、お力になれるでしょう」
「あぁ、期待しているぞ。今日のところはしっかり休み、鋭気を養ってくれ。明日から本格的に、働いてもらうことになるだろう」
「はい」
「ひとまず、歓迎の用意をした。今夜はしっかり休み、明日以降に備えて鋭気を養ってくれ」
「わかりました」
話が終わると同時に、アステラでの6期団歓迎のパーティが始まった。ニール達5期団が新大陸に来た時でさえ執り行われなかった歓迎会……これもひとえに技巧種モンスターの脅威ゆえであった。
ニール帰還まで調査団も頑張ってはいたのだが、いかんせん経験不足というのはどうしようもない事実で……エイデンがどうにか踏ん張っていたのだが、現大陸同様にハンターや調査員に多大な被害が及んだのである。幸いにして、引き際を心得ている彼らである。今のところ死者こそはいないのだが、しかし怪我人は毎日出た。
ニールが新大陸へ帰還し、ようやく押し返し始めることができた。現大陸の技巧種問題が一段落したことで、ハンターの増援も送ってもらえた。それもギルドが直々に選抜した、技巧種モンスターの狩猟経験がある者ばかりだ。一人の例外を除いて、ベテランハンター達は引き続き現大陸に残り徐々に減りつつある技巧種モンスターの掃討、そして最大の障害にして問題……【技巧古龍種】の討伐にあたっている。
新大陸へ送られた、対技巧種モンスターのプロフェッショナルであるただ一人の例外……それが、シズカ・ミズハシ。彼女を送りつけたことから、ギルドの本気度が伺える。
「シ、シズカ!」
「ニールさん」
期待の超新星であるシズカが来たことに会場が盛り上がる中、シズカに声をかける者がいた。身なりどころか防具すらピカピカに磨いて清潔感が斜め上にMAXになったニールである。
長い船旅を終えて、ここ新大陸へ来てくれたのだ。歓迎の言葉をかけねばなるまい。そう意気込んでシズカの前に立ったニールだったが――
「ニールさん、来ちゃった」
「ぐふっ」
控えめに微笑みながら、小首を傾げて上目遣いにそう告げたシズカの一言に一撃でダウンした。惚れた弱みからくる見事な萌え死にであった。
「あ、相棒?どうしたんですか突然、胸なんか抑えて……なにかの病気ですか!?それとも未知の属性やられ!?」
「ほっときなさい、シリカ。……せめてあんたは純粋なままでいてね」
「( ゚д゚)???」
しばらく動けなかったニールだったが、ようやく復活したようで何度か深呼吸を繰り返した。
「ふぅーっ……よし、シズカ。流石に不意打ちは勘弁してくれ、俺の心臓が持たない」
「はい?なんのことですか?」
「ごめん、忘れて。……いや、そうじゃなくてだな……えっと、シズカが新大陸に来るなんてちょっと意外だなって……」
「そんなにおかしなことですか?」
「いっ!?い、いやいや!そんなわけないって!嬉しい!来てくれてありがたいよ!」
「ふふっ……冗談です」
「え"っ……」
この時、二人は気づいていなかったが周囲の人達は彼らから少しばかり距離を取っていた。決してニールの反応の面白さからイジリネタを発掘してやろうとか思っていない……はずである。
「ギルドから通達を受けたんです。それで参加することになりまして」
「そ、そうか……いや!なんにせよ心強い!これからよろしくな、シズカ!」
「まぁ、そのギルドからも『可及的速やかな解決を求む』と言われたんですけど。ようするに、『なるはやで終わらせて直帰してね』ってことでしょう。まったく、人使いの荒いこと……」
「シズカは本当に頼りになるからな。そっちじゃ技巧古龍種の討伐はまだなんだろ?アテにしたくなるのも無理ないさ」
「ですかね。……そういえば、現大陸ではバルファルクの技巧種が出現したって話ですよ。多分、それが余計にギルドを焦らせているんでしょうね」
「バ、バルファルクゥ!?おいおい、勘弁してくれよ……」
「この情報が正しければ、現在確認されていて未討伐のままになっている古龍種の中でも特に最優先事項になるでしょうね」
ちなみに現在までに確認された未討伐の技巧古龍種は【炎王龍】、【炎妃龍】、【霊山龍】、【大海龍】、【嵐龍】、【冰龍】、【爵銀龍】、そして直近にて発見された【天彗龍】の計八頭である。討伐済みには【浮岳龍】、【天廻龍】、【骸龍】が記録されており、いずれもかの【伝説の狩人】が討伐したという記録が残されている。
要警戒対象として【豪山龍】及び【老山龍】を24時間体制で監視し続けており、【鋼龍】、【霞龍】、【幻獣】の三頭は先の『黒龍異世界逃亡事件』の際に人間に対して協力的な姿勢を見せたことで和解状態となっている。
【冰龍】は現大陸で発見された個体が技巧種化したとのことで、【爵銀龍】と日夜死闘を繰り広げているらしい。そして、勇猛果敢に巻き込まれに行くカムラの熱血ハンターと三つ巴の争いをしているとか。
そのため不幸中の幸いなことに、新大陸には技巧古龍種が確認されていないのだ。
「ギルドの意向もあったとはいえ、シズカもよく決断してくれたな」
「新大陸は現大陸以上に人手が不足してますから。それに……」
「それに?」
「……ニールさんに、会いたかったから……かな……」
「え……」
思わず黙り込み、顔が真っ赤になるニール。よく見れば、シズカも耳まで赤くなっているのが見えてしまい、心臓が早鐘を打つ。
「(これは、イケるのでは……!?)」
今、シズカは間違いなく自分を意識している(ニール目線)。かつて自分が失恋(ニール目線)を振り切るために新大陸へ渡ったように、シズカも自分を追いかけてきてくれたからではないか!?(自意識過剰)
一方でシズカはというと……。
「(柄でもないこと言っちゃった……流石にクサすぎるかな)」
シンプルに自分の発言を恥じらっていた。
「シズカ!俺――」
ヒューヒュー!
と、ここで堪えきれなかった観衆の一人がたまらず指笛を鳴らした。それによって周囲に人がいたことを思い出したニールは、感情が急速に冷めていくのを感じた。
「隅に置けないなぁ、【青い星】!」「お前、前に『フラれた』とか言ってなかったかー!?」「現大陸で噂の、あのシズカ・ミズハシと!」「やっぱ持ってる男は違うわー」「(てぇてぇが)大きすぎる……修正が必要だ……」「くそっ……じれってーな、俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!」「まだ慌てるような時間じゃない」
好き勝手にヤジを飛ばす外野だったが、振り返ったニールの絶対零度の視線に思わず黙り込む。
「……忘れろ」
「え」
「全員、今すぐ忘れろーっ!!」
「わぁーっ!【青い星】がご乱心!!」
記憶を消してやるとばかりに暴れ始めたニールに周囲はてんやわんや。そんな様を見て、シズカは小さく吹き出した。
「まったく、ニールさんは……本当にしょうがないニールさんですね」
ギルド「技巧古龍種強すぎぃ!」
調査団「ンアッー!人手が少なすぎます!」
↓
調査団「新大陸にぃ、技巧古龍種いないらしいっすよ」
ギルド「マ?勝ったな、ガハハ」
↓
ギルド「なるはやでしくよろ」
シズカ「おけまる」
↓
シズカ「来ちゃった♪」
ニール「パアァァ(*゚∀゚*)ァァァ!!」