俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 長くなったし、傍点塗れだけど勘弁して…
 後、明らかにおかしい点が幾つもありますが、仕様です




空の軌跡FC  七耀暦1202年
第二十九話 始まりは焼夷手榴弾と共に


 

 これは俺の私見だが、『異世界転生モノ』というジャンルにおいて、最も重要な要素は何かと言えば、やはり主人公が保有する『チート』の内容だろう。

 

神や世界の管理者から授かる『才能』『特殊能力』『容貌』。

前世の知識や技術が優位性となる『現代知識』。

そして物語世界に転生した際の『原作知識』。

形は違えど、いずれも転生者だけが持つ反則的なアドバンテージ――すなわち『チート』である。

 

 これはいずれも、転生者でなければ触れられない要素である為に、人生一周目の面々から見れば正に反則=『チート』なので、そう呼ばれているのだが、この『チート』をいかに上手く料理できるかが、その作品の面白さに繋がると思っている。

 

 だが、そんな小説に見られるような転生をしたにもかかわず、俺の『チート』はほぼ死んでいる状態だ。

 身体能力や頭の回転といった『才能』面も前世と特に変わらず。

 『特殊能力』も《地精(グノーム)》の能力である戦術殻を操ることが出来る(他の人が操れないとは言ってない)という、《導力器(オーブメント)》を用いない、マジもんの魔術を使える《魔女》共と比べればショボい能力しか持たず。

 『現代知識』も、全てとはいかずとも分野によっては現代を越える技術力を有するゼムリア大陸においては効果が薄く。

 『原作知識』にいたっては、『黒の史書』という未来を観測する忌々しいガラクタと、黒の騎神イシュメルガによる隷属という悪魔のコンボにより、歴史改変という点では、ほぼゴミと化している。

 

 ……まあ強いて言うなら、今世の容姿が西欧風のイケメンになったことくらいか。

だが、これも『チート』とは言えない。

 

 何故なら俺は前世からイケメンだったからだ。

 

 まあ『異世界転生モノ』のテンプレである、トラックに轢かれた記憶もなければ、死んだ記憶もなく、神様に会って『チート』を授かった覚えもなければ、そもそもそういった類の者に会った記憶すら無いので、そういったセオリーからは外れているのだろうが。

 

 ……全く、昨今のな◯う小説では、読者が気持ちよくなれるようチート能力を与えて、無双させるのがトレンドあるというのに……どこの誰かは知らんが、気の利かない神である。

 

 まあそれはひとまず置いておくとしてだ。俺自身がこんな調子にもかかわらず、このゼムリア世界には、野生の『チート』共が溢れている。

 巨大人形兵器を単騎でボコるオッサンに、王城の大手門を素手でブッ壊すチンピラに、装甲車を膾斬りするジジイに、無人機とはいえ重戦車の小隊に競り勝てるジャリ共に、海上要塞を吹き飛ばす級のビームを、近接武器で叩き消す連中にと、人間辞めてるフィジカルゴリラはゴロゴロ存在し、特殊能力も『奇術』、『幻術』、『魔術』、『錬金術』、『聖痕』、『鬼の力』、『観の眼』、『劫炎』などとバリエーションに事欠かない。

 

 そんな野生の『チート』持ちが、当たり前のように闊歩するゼムリア世界で、何も持たない一般人がどうやって生き残るか。

 

 答えは簡単、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 瓶から紫色の錠剤――『新型グノーシス』を一粒取り出す。

 

 俺の作った『新型グノーシス』は、作中で出てきた『グノーシス』達とは違い、それ単体では何の効果も無い。

 《蒼のグノーシス》のように身体能力を引き上げるわけでもなく、

 《紅のグノーシス》のように世界の真相や未来を覗けるわけでもない。

 ましてや異形化や性格変化といった副作用すら存在しない。

 これは、グノーシスの持つ最大の効能を抹消した結果なのだが……、コイツの真価は、コレと連動する特殊なシステムを組み合わせた時だ。

 

『記憶』と『認識』。その分野の第一人者――ワイスマン教授の知見を基に構築した特殊システム。そして、それと連動する『新型グノーシス』。

 

 二つを組み合わせて完成した。

 

 誰から与えられたものでもない。

 

 俺自身が作り上げた、俺だけの『チート』。

 

 紫色の錠剤を飲み込む。

 喉を落ちた瞬間、世界の輪郭が僅かに歪んだ。

 

 

 「来い――《グング=ニール改》」

 

 『A・WnЭҐК』

 

 

 無機質な起動音声が響く。

 

 

 「《グング=ニール改》――『ワンオペシステム』起動

 

 

 

 

 七耀暦1202年 4月2日

 

 《帝国遊撃士協会・帝都東支部:帝都西支部へ。》

 『かねてより連絡していた帝都東支部所属のA級遊撃士――サラ・バレスタインが本日から休暇に入る。依頼業務への影響を最小限に抑えるべく、帝都西支部は相互支援体制に移行されたし。

 人員および業務負荷の分散により、欠員の穴埋めを図る』

 

 

 

  4月4日

 《帝国遊撃士協会:各帝都支部へ。》

 『本日一二〇〇時過ぎ、帝国領《アルゴン鉱山町》所在のギルド支部が何者かによる放火を受けた模様。建物は半焼、支部担当者は負傷。現在、容態は安定している。

 初動調査の結果、現場から軍用焼夷手榴弾の使用痕を確認。当該支部は《ノーザンブリア自治州》国境に近接しており、現時点では《北の猟兵》による関与も視野に捜査を進めている。

 帝国遊撃士協会は本件を重大事案と認定。B級遊撃士を中核とする調査チームを現地へ派遣する。なお、本通達受領をもって帝国管轄下の全支部は警戒態勢へ移行せよ』

 

 

 

 

 4月6日

 《HQ:ジェスター猟兵団全団員へ》

 『対象デバイスの管理権移譲を確認。以降の起動シーケンスは当方が引き継ぐ。

 これより作戦フェーズへ移行する。各チーム行動開始。先行部隊は目標エリアへ速やかに展開し、所定のポジションを確保せよ』

 

 

 

 

 4月6日 遊撃士協会ケルディック支部

 

 ちょうど正午を過ぎた頃だった。《交易町ケルディック》の遊撃士協会支部では、昼の喧噪もひと段落し、午後の業務を始めていたギルドマスターもまた、書類に目を通しながら来訪者への対応を続けていた。その時だった。

 ふと、鼻先をかすめる僅かな異臭を感じたのは。

 何かが燃えているような、焦げ臭い匂い。その異臭を感じた瞬間、長年にわたり遊撃士として活動し、数々の危険と死線を潜り抜けて来たことによって培われて来た勘が、現役を退いて久しい今もなお衰えることのない、幾度となく命を救ってきたそれが、激しく警鐘を鳴らしたことを感じた瞬間、ギルドマスターは一瞬の迷いもなく、書類を放り出すように立ち上がり大声で叫んだ。

 

 

 「全員、今すぐ外に出ろ!!」

 

 

 ギルドマスターの鬼気迫る形相に、ただならぬ気配を感じた依頼の相談をしていた市民たちや、二日前に《アルゴン鉱山町》で起きた放火事件の報告を聞いていた待機中の遊撃士は、転がり出るように慌てて協会の建物の外へ飛び出していく。

 そして、全員が逃げ出し、最後に中に誰も居ないことを確認したギルドマスターが建物から避難し終えた直後、足下から突き上げるような衝撃と共に、背後でとんでもない爆音と衝撃波の嵐が吹き荒れた。

 

 

 「くっ、一体何が………なッ!?」

 

 

 その衝撃波に背中を突き飛ばされ、ゴロゴロと石畳を転がったギルドマスターが、何とか震える足で立ち上がって振り返ると、そこには、先ほどまで自分たちが居た遊撃士協会の建物がまるで内側から弾けるような爆発を起こして、灼熱の爆炎と黒煙に飲み込まれていく光景が広がっていた。

 そしてこれは、ケルディックだけで起きた悲劇ではない。

 

 

 

 

 同時刻。

 帝国各地で全く同じ光景が繰り広げられていた。

 

 《翡翠の公都バリアハート》、《黒銀の鋼都ルーレ》、《紺碧の海都オルディス》、《白亜の旧都セントアーク》、《歓楽都市ラクウェル》、《紡績町パルム》、《湖畔の町レグラム 》、《ジュライ特区》と、まるで申し合わせたかのように、同一の時刻。同一の手口によって《帝都西支部》と《帝都東支部》を除くエレボニア帝国内の全遊撃士協会支部が、次々と爆炎に包まれていった。

 帝国全土で同時多発的に発生していた協会支部への爆破事件。

 しかし、悪夢はまだ始まりに過ぎなかった。

 

 

 

 

 同時刻

 帝国南部・サザーラント州 南サザーランド街道

 

 

 「くっ!一体何なんだお前たちは……!?」

 

 「…………」

 

 「問答無用か!?」

 

 

南サザーランド街道に出現した手配魔獣を討伐した帰路。二人組の遊撃士は突如として、赤みがかった紫色の鎧を纏う十二名の武装兵に襲撃された。

猟兵と思しきその集団は、一言も発しない。ただ淡々と連携し、波状攻撃を繰り返す。

手配魔獣との戦闘を終えたばかりの遊撃士たちは少なからず消耗していた。

そこへ六倍の兵力による奇襲。凌げるはずがない。

僅かな拮抗の末、二人は徐々に押し込まれ――やがて数の暴力に呑み込まれた。

 

だが、それは南サザーランド街道だけで起きた出来事ではなかった。

 

帝国各地で、同じ光景が繰り返されていた。

 

街道で。平野で。市街地で。建物の中で。

 

場所を問わず、正体不明の武装勢力が遊撃士たちを襲撃する。

二日前に発生した爆発事件の時と同じく、その行動はあまりにも統制されていた。

まるで全遊撃士の現在地を把握しているかのような正確無比の奇襲。

まるで全員の動向を監視しているかのような執拗な追跡。

領邦軍も軍警も対応に追われ、事態を把握しきれない。

遊撃士たちもまた、不意を突かれた者から次々と狩られていった。

 

そしてその襲撃は、二日前の放火事件を調査していたB級遊撃士率いる調査チームにも迫っていた。

 

 

 

 

 帝国西部・ラマール州 西ラングドック渓谷

 

 「う、あ……」

 

 「くッ…、つ、強い………!?」

 

 

二日前に起きた放火事件の調査の為に《アルゴン鉱山町》へと向かっていたB級遊撃士を中心とした四名のチームは、その道中、帝国西部・ラマール州 西ラングドック渓谷の中腹に差し掛かった辺りで、正体不明の集団の奇襲攻撃を受けた。

 ()()()()()()()()()()

 兵士全員が人間離れした膂力を有し、それぞれが近接武器にライフルや火炎放射器などといった機構が内蔵された特殊な大型武装を軽々と振るう。

 しかし、何よりも異常だったのは――その連携だった。

 まるで互いの感覚を共有しているかのような。

 一人が剣を振るえば、その死角を埋めるように別の兵士が射撃を行い。

 回避行動を取った先には、既に別の兵士が待ち構え。

 誰かが態勢を崩せば、次の瞬間には複数人がそこへ攻撃を集中させてくるような。

阿吽の呼吸などという言葉では到底表現できない、まるで一つの巨大な生命体として行動しているかのよう高度な連携を行うその黒衣の兵士たちにより、調査チームを率いていたB級遊撃士を始め、それぞれが豊富な経験を持ち、多くの後進から信頼を集める実力者揃いだったはずの者達は、須らくが地面に倒れ伏していた。

 その場を支配する静寂の中、パチパチと場違いな拍手がその場に轟く。

 

 

 「いやー、ホント強いな。ジェスターの連中に任せないで、わざわざ()()出張ってきて正解だったな」

 

 

無言のまま立ち並んでいた黒衣の兵士たちが、まるで一つの意思に従うかのように左右へ分かれた。整然と割れた人垣の奥から、一人の青年がゆっくりと姿を現す。

 黒いスーツの上に白衣を纏う長身痩躯の金髪の青年は、その顔に胡散臭い営業スマイルを浮かべながら、倒れ伏した遊撃士たちを見下ろす。

 その彼に対し、調査チームを率いていたB級遊撃士は、倒れ伏した身体を何とか起こしながらも、必死に虚勢を張る。

 

 

 「なるほど、お前が放火事件の黒幕か……。

 ……目的は俺たちか?」

 

 

 《アルゴン鉱山町》で起きた放火事件。その調査の為に向かっていた自分たちが襲われたということは、つまり放火事件そのものが囮であり、自分たちを釣り上げる為の陽動だったのではないか。そんな推測を込めたリーダー格の遊撃士の問いかけに、金髪の青年はしかし、あっさりと首を横に振った。

 

 

 「いや?お前たち()()じゃねえよ。

 帝国内のギルド支部も、()()()()()()全て吹っ飛ばしたし、遊撃士共も現在進行形で《ジェスター猟兵団》に襲わせてる最中だからな」

 

 「なッ……!?」

 

 

 まるで世間話をするかのように、気軽に現在の惨状を語る青年に、遊撃士たちは言葉を失う。

 

 

 「ああ、それと。俺が黒幕というのは間違いだ。

 俺はあくまでただの雇われであって、今回の事件の黒幕は《ジェスター猟兵団》の団長と、結社《身喰らう蛇》なんだから、そこんとこ間違えんなよ?

 むしろ、俺は他の遊撃士を含めて()()()()()()()()配慮してやってるくらいなんだからな」

 

 「いったい、一体何を言っているッ……!?」

 

 

 遊撃士たちには、何一つ理解できなかった。

 帝国中のギルド支部が爆破されたことも。現在進行形で遊撃士たちが襲われていることも。

そして、その元凶たる組織の名を平然と口にしてみせる、目の前の青年のことも。

理解など、できるはずがなかった。

 

 

 「意味?意味なんてないが?ただのトークだよトーク。

 だがまあ、問題はないだろ。どうせ会話の内容も、俺たちのことも、()()()()()()()()()()

 

 「は?………がッ!?」

 

 

 リーダー格の遊撃士が黒衣の兵士たちによって、金髪の青年の前に跪かされる。

 

 

 「『教授』なら、もうちょっとスマートに出来るんだがな。

 

 はーい、しっかり俺の眼を見てー」

 

 

 その言葉と共に、兵士たちに顔を掴まれ、無理矢理金髪の青年の方へと向かされ、その顔を無理やり持ち上げられ、金髪の青年の瞳を直視させられる。

 そしていつの間にか、金髪の青年が持っていた魔導杖が妖しく光を放ち始め、リーダー格の遊撃士がその瞳に映るナニカを見た瞬間、リーダー格の遊撃士に異変が生じ始めた。

 金髪の青年の眼を直視しながら、身体をガクガクと痙攣させるリーダー格の遊撃士。

 

 

 「『お前たちは、俺たちには会わなかった。お前たちが奇襲を受けたのは赤みがかった紫色の鎧を纏う武装兵たちであり、善戦したものの敢え無く打ち倒されてしまった』」

 

 

 青年の言葉と共に、リーダー格の遊撃士は、まるで頭の中から直接何かの情報を『消され』、そして『植え付けられた』かのように、頭を不気味に震わせる。 

 

 

 「よしよし、上手くいったな」

 

 

 やがてそんな言葉と共に、青年が魔導杖を下ろして視線を外すと、リーダー格の遊撃士は糸が切れたかのようにガクリと項垂れる。

 そして、取り押さえていた黒衣の兵士たちが拘束を解除すると、そのままグシャリと地面に倒れ伏せた。

 

 

 「ひ、ヒィ……!?」

 

 

  目の前で繰り広げられる、あまりに悍ましい光景。

 それを間近で見せられることとなった遊撃士たちは、顔を真っ青にしながら、何とかその場から逃れようと必死に地面を掻いていた。

 先ほどの戦闘により、ほとんど動けない身体を無理やり動かす。逃げられないと分かっているはずなのに、少しでもこの場から離れたい。そんな生存本能だけが、ボロボロの身体を動かしていた。

 だが、その先には救いはなかった。

 

 

 「随分と怯えているな」

 

 

 そんな彼らに対し、背後に黒衣の兵士たちを従わせた金髪の青年は、まるで怯える子供を宥めるかのような、安心させるような優しく穏やかな笑みを向ける。

 

 

 「安心しろ。今からその恐怖すらも全て忘れるんだ」

 

 

 まるで道端の花を摘むかのような気軽さで告げられたその言葉は、彼らとって死よりも残酷な宣告だった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 帝都を除く帝国内の全ギルド支部が爆破され、各地で遊撃士たちへの襲撃が相次ぐ。

 あまりにも大規模かつ同時多発的な攻撃に、遊撃士協会は対応しきれていなかった。

 もはや協会は急速にその統制力を失いつつあった。

 追い打ちを掛けるように、帝国内で最も高位に位置するA級遊撃士――《紫電》の異名をもつサラ・バレスタインまでもが消息不明となっていた。

 ノーザンブリア自治州への帰郷後に消息を絶ち、現在に至るまで一切連絡は取れていない。

 反抗の要を失った協会は、ついに独力での事態収拾を断念。

 近隣諸国で活動する高位遊撃士たちへ救援要請を発することとなった。

 

 

 

 

  4月6日 

 《帝国遊撃士協会:リベール王国王都支部へ。》

 『緊急通達を発令。本日一二〇〇時過ぎより、帝国全土において遊撃士協会各支部および任務遂行中の遊撃士に対する同時多発的襲撃が発生した模様。

 繰り返す。本日一二〇〇時過ぎより、帝国全土の協会施設および所属遊撃士が組織的攻撃を受けている。

 現時点でで通信網は深刻な混乱状態にあり、帝都支部以外を除いて被害状況は依然不明。

 高位遊撃士の応援を要請する。至急、至急、至急―――』

 

 

 

 

 レグルス重工製

 唐揚げ級多目的巡洋艦――《マヨネーズ号》

 

 混沌を極めるエレボニア帝国。その上空を、一隻の飛空船が静かに飛行していた。

 全長五十アージュ。船体には特殊なステルス迷彩が施されており、帝国軍のレーダー網を掻い潜りながら悠然と飛行を続けている。

 その船は、とある人物の私物であり、現在帝国内で活動する《ジェスター猟兵団》の各部隊を統括している移動司令部――《HQ》であった。

 

 その船内。数十枚ものモニターが並ぶ司令室で、一人の男が端末を操作していた。

 物腰の柔らかさと優しそうな顔つきとは裏腹に、どこか陰険な雰囲気を漂わせる、眼鏡をかけた優男。

 その男は現在展開中の全部隊を同時に監視・指揮しながら、一つの通信記録へ目を通していた。

 帝国遊撃士協会からリベール王国王都支部へ送られた救援要請。

 《ジェスター猟兵団》が抱える通信傍受部隊が回収した内容だった。

 その内容を確認し終え、男は満足そうに頷く。

 

 

「よしよし、ちゃんと王都支部へ救援要請を出したか。これでターゲットの誘導は問題ない」

 

 

 帝国遊撃士協会が断腸の思いで発した救援要請。しかしそれすら、彼にとっては予定調和に過ぎなかった。その時、端末に新たな報告が表示される。

 

 

「ん?」

 

 

その内容を確認した男は小さく笑った。

 

 

「ああ、やっぱりか。ギルド支部ごと通信設備を吹き飛ばした程度じゃ、動揺しないか。

よしよし。優秀優秀」

 

 

 男はモニターの一つに映る地下道を疾走する遊撃士たちを眺め、どこか楽しそうにしながら、とある部隊に通信を入れる。

 

 

「HQより『ジェリコ部隊』」

 

『こちらジェリコ部隊』

 

「目標が地下道へ入った――予定通り作戦を開始せよ」

 

『了解』

 

 

 

 

 帝国各地のギルド支部から届いたギルド支部爆破時の詳細な状況。爆発と共に建物ごと、通信設備を失った各地のギルド支部が、己の持ちうるありとあらゆる伝手を駆使して、今だ健在な帝都の二支部に送ってきたその情報を急ぎ精査したことで、二つの事実が判明した。

 爆発前、支部内にいた者たちが一様に何かが焦げる臭いを感じていたこと。

 そして、ギルド支部が爆発した瞬間、足元から突き上げる衝撃と共に、建物がまるで弾けるように爆発したことだ。

 特にこの二つ目の事実に帝都のギルドマスターを始め、遊撃士たちは戦慄を覚えた。

 

 下から突き上げる衝撃。

 

 そして、内側から外へ弾けるような爆発。

 

つまり爆心地は地下――ギルド支部の真下だ。

 

 そして当然だが、ギルド支部は街中に存在する以上、その地下には上下水道の保守用通路が通っている。そこを使えば、支部の真下に接近することは難しくない。

 

 さらに《帝都ヘイムダル》には別の問題があった。かつて《暗黒竜ゾロ・アグルーガ》よる災厄の際に利用された、無数の地下道が存在していたのだ。

 

そして、そのうちの二本が両支部の真下を通っていた。

 

その事実に気付いた遊撃士たちは、直ちに地下道へ突入した。

 

 そして――

 

 

 「奴等、ギルド支部の真下にこんなものを仕掛けてやがったのか!?」

 

 

 東支部のB級遊撃士であり《零駆動》の異名を持つトヴァル・ランドナーは、目の前の光景に鋭く舌打ちした。

 操作パネルと幾つもの配線とが纏わりついた黒々としたドラム缶状の三つの金属製の物体――指向性の高性能爆弾。それがギルド東支部の真下に設置されていたのだ。

 もし、これが起爆していれば、真上のギルド支部は中の人員諸共吹っ飛んでいただろう。

 事実、集まり始めた情報を統合すると、他のギルド支部は同様の手口で爆破されたのだろう。

 

 

 「ですが、幸い、起爆に失敗したようですね」

 

 「まあ、帝国中のギルド支部に仕掛けてたみたいだからな。で、起爆しなかったとなりゃ――」

 

 「犯人は様子を見に来る」

 

 

 そう言いながらトヴァルを含めた三名の遊撃士たちは、それぞれ武器を構えながら通路を見据える。

 すると通路の向こうから、バタバタと幾つもの足音が聞こえてくる。

 そして、通路の暗闇から、赤みがかった紫色の鎧を纏う武装兵たちが現れた次の瞬間。

 

 武装兵たちの銃口が一斉に持ち上がった。

 

 

 「いきなりかよ!?」

 

 

 遊撃士たちは慌てて通路の曲がり角へ飛び込み、壁を盾に身を隠す。

 

 閃光。

 

 轟音。

 

 雨のような銃弾が地下通路を埋め尽くす。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 無数の銃声が爆音が地下道に轟いていた。

 帝都ヘイムダルの地下に張り巡らされた地下道。

 かつて《暗黒竜ゾロ・アグルーガ》の瘴気によって帝都が死の都と化した際にも利用されたその空間は、今や戦場と化していた。

 弾丸が石壁を砕き、魔法(アーツ)の閃光が暗闇を照らす。

 

 

「クソッ! 好き放題撃ちまくりやがって!」

 

 

 トヴァルが舌打ちする。敵はおよそ二十名。

 対する遊撃士は、彼を含めて僅か三名。

 数の差は歴然だった。

 ライフルによる反撃も、高速詠唱による魔法(アーツ)も、圧倒的な火力の前では焼け石に水だ。

 こちらが一発撃てば、十発以上が撃ち返される。

 《零駆動》の異名を持つトヴァルでさえ、この人数差を覆すことはできなかった。

 そして何より厄介なのは――

 

 

 「あの盾持ち共だ! 何とかできねえのか!?」

 

 

 敵の前衛に展開する四人の兵士。

 彼らは全身を覆う大型防弾盾(バリスティック・シールド)を構え、一歩も前へ出てこない。

 その後方から残る兵士たちが一方的に銃撃とアーツを浴びせてくる。

 完全に役割分担された陣形だった。

 

 

 「無理です! あいつら前に出てきません!」

 

 「チッ!」

 

 「俺がアダマスシールド(防御魔法)かけて突っ込みますか?」

 

 「……無理だな。あの盾持ちに足を止められたら、一瞬でハチの巣にされるぞ!」

 

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 戦況は少しずつ、しかし確実に遊撃士たちを追い詰めていく。

 

 

 「私が迂回して後ろを――」

 

 「駄目だ!」

 

 

 トヴァルは即座に否定した。

 

 

 「ここで人数を減らせば押し切られる! そうなれば爆弾を起爆されて終わりだ!」

 

 

 その直後だった。

 

 

「お前たち! そこで何をしている!!」

 

 

 怒声が地下道に響き渡る。

 同時に、複数の足音が通路の奥から近づいてきた。武装兵たちの隊長らしき男が小さく舌打ちする。

 

 

 「チッ……退却だ」

 

 

 その命令と共に、兵士たちは一斉に後退を開始した。迷いも混乱もない。

 ()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()鮮やかな撤収だった。

 

 

 「なっ――」

 

 

 トヴァルたちが呆気に取られる中、新たな集団が通路の向こうから現れる。

 

 紫色の軍服。エレボニア帝国軍だった。

 その先頭に立つ、一人の将校が駆け寄ってくる。

 口元にカイゼル髭を蓄えた恰幅のいい三十代前半ほどの大柄な男だった。

 

 

「お前たちは遊撃士か?」

 

 

 男は周囲を見回しながら言った。

 

 

「私は帝国軍第一機甲師団所属、カール・ダモン大尉だ。帝国各地で発生したテロ事件への対応中、戦闘音を聞いて駆け付けた。一体何があった!?」

 

 

「助かりました……!」

 

 

トヴァルは荒い息を吐きながら叫ぶ。

 

 

「今逃げた連中です! 今回の襲撃事件の実行犯です!」

 

「何だと!?」

 

 

ダモン大尉の表情が険しくなる。

 

 

「了解した。追跡は我々が引き受ける」

 

 

彼は即座に振り返った。

 

 

「総員、奴らを追うぞ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

カール・ダモン大尉に率いられた帝国軍の兵士たちが駆け出していく。

 

その背中が暗闇の向こうへ消えていくのを見届けた瞬間――

張り詰めていた緊張が切れた。

 

 

 「……助かった」

 

 

 トヴァルは大きく息を吐き、その場に座り込む。

 仲間たちも同様だった。誰もが汗に濡れ、肩で息をしている。

 

 あと少し救援が遅れていれば―――

 あの、()()()()()()()()()()()()帝国軍の救援がなければどうなっていたか。

 考えるだけで背筋が冷えた。

 地下道には、激戦の余韻だけが残されていた。

 

 そして――その余韻を壁に張り付いた小さな()()()色のない眼でジッと見ていた。

 

 

 

 

 4月6日 

 《帝都西支部:帝国内の全遊撃士へ。》

 『たった今、帝都両支部へ強襲を仕掛けてきた敵勢力の撃退に成功した!繰り返す――敵勢力の撃退に成功した!

 《帝都ヘイムダル》のギルド両支部は健在!帝都東支部、帝都西支部ともに健在!

 遊撃士も戦闘継続可能な状態にある!

 現在、帝都支部を対策本部として再編成中!

各地で孤立している遊撃士は、可能な限り帝都を目指せ!繰り返す――帝国内の全遊撃士たちは、至急帝都へ集結せよ!

 我々はまだ戦えるぞ!!』

 

 

 

 

帝国軍の追跡を()()()()()()()()()()《道化》ジェリコ率いる『ジェリコ部隊』は、事前に定められた合流地点へと到達した。薄暗い地下道。

そこで待機していた別働隊を確認すると、ジェリコは腕を組んだ。

 

 

「そちらも抜かりないな?」

 

「ええ。問題ありません」

 

 

別働隊の隊長は即答した。その声音に迷いはない。

満足げに鼻を鳴らしたジェリコは、腰の無線機を手に取った。

 

 

「HQこちら『ジェリコ部隊』」

 

 

 わざとらしく口元を歪める。

 

 

()()()()――()()()()()()()()

 

 

 僅かな沈黙。そして無線の向こうから返答が届く。

 

 

『こちらHQ。了解しました』

 

 

どこか含みを持った声だった。

 

 

『……さすがはジェリコ殿ですね』

 

「フン、当然だ!世紀の知将にして大天才であるジェリコ様にかかれば、この程度の作戦戦など児戯にも等しい。……まあ、お前が派遣してきたこいつ等も多少は役に立ったがな」

 

 

 そう言いながら、少し離れた場所に待機する集団へ視線を向けた。

 その背に人間の上半身ほどもある大型防弾盾(バリスティック・シールド)を背負った、()()()()()()八人の兵士たち。

 

 通称――『P部隊』。

 

 今回の作戦に際して、オペレーターが用意した協力者だった。

 あの盾兵たちがいなければ、遊撃士たちをあそこまで封じ込めることはできなかっただろう。

 撤退時もまた異様だった。数十キロはあるはずの大型盾を担ぎながら、自分たちに遅れることなく並走していたのだから。

ジェリコの視線に気付いたのか。黒衣の兵士の一人が軽く会釈した。

 

 

『彼らは私の直属部隊でしてね。お役に立てたようで何よりです

……もっとも、彼らの契約はここまでですが』

 

「問題ない」

 

 

無線の向こうの男の言葉に、ジェリコは即答した。

 

 

「遊撃士どもは我々の動きに全く対応できていなかった。追跡してきた帝国軍も同様だ。

今回の依頼、《ジェスター猟兵団》だけで十分に完遂できる」

 

『頼もしい限りです』

 

 

 嘲笑うジェリコに無線の男は感心したように言う。

 

 

『では退却ルートを送信します。各員は指示に従い離脱してください』

 

「了解した」

 

通信が切れると、ジェリコは部下たちに号令を飛ばした。

 

 

「行くぞ!」

 

 

『ジェリコ部隊』は速やかに移動を開始する。

やがて足音が遠ざかり、地下道の奥へ消えていった。

 

その場に残ったのは黒衣の兵士たちだけだった。

しばらくして――先頭に立つ兵士が盛大な溜息を吐いた。

 

「これで第一段階は成功か……。次はいよいよチート親父か……」

 はぁ……バックレてぇ」

 

誰に聞かせるでもない愚痴だった。だが周囲の七人は何の反応も示さない。

 

いや。

示す必要がなかった。

 

彼らは同時に踵を返した。

 

全く同じ角度で。

 

全く同じ歩幅で。

 

全く同じ姿勢で。

 

まるで一つの意志を共有しているかのように。

 

八人は『ジェリコ部隊』とは別の退路を選び、地下道の奥へと消えていく。

 

足音だけが、不気味なほど規則正しく響いていた。

 

 

 

 

 《HQ:ジェスター猟兵団全団員へ。》

 『作戦の第一段階の完遂を確認した。各方面における目標達成率は基準値を上回っており、現在までの損害は極めて軽微。敵戦力の反応についても想定範囲内と判断される。

 各部隊は事前に割り当てられた拠点へ移動し、次段階への移行まで待機態勢を維持せよ。繰り返す――各部隊はターゲット到着まで、各自に割り当てられた拠点で待機せよ。』

 

 

 

 

 帝都を除く帝国内全ての遊撃士協会支部を襲った連続爆破事件と、正体不明の武装勢力による大規模な遊撃士襲撃という、未曾有の同時多発テロから二日。

 帝国全土は未だ混乱の渦中にあった。

 そんな中、帝国遊撃士協会の救援要請を受け、一人の男が《帝都ヘイムダル》へと足を踏み入れる。

 かつて百日戦役においてエレボニア帝国軍を幾度となく翻弄した稀代の用兵家。

 大陸全土でも僅か四人しか存在しないS級遊撃士の一人

 

 カシウス・ブライト。

 

 帝国最悪の危機に対する、遊撃士協会最大の切り札がついに投入された。

 

 

 

 

 4月8日

 《HQ:ジェスター猟兵団全団員へ。》

  『ターゲットが《帝都ヘイムダル》への到着を完了。同国遊撃士協会の臨時代表への着任を確認した。

 繰り返す――ターゲットの帝都到着、および臨時代表就任を確認。

 これをもって、作戦遂行条件は満たされた。

 現時刻を以て、作戦は第二段階へと移行する。

帝国各地に展開中の全部隊へ通達。待機命令を解除する。

各指揮官は所属部隊の再編を完了後、事前に指定された行動計画に従え。

全部隊は所定のルートを使用し、《帝都ヘイムダル》へ向け移動を開始せよ。

 繰り返す――

 

 

《ジェスター猟兵団》全部隊は《帝都ヘイムダル》へ集結せよ。

 

 

 




 レグルス重工業 (Wikipedia風)
レグルス重工業(Regulus Heavy Industries)は、エレボニア帝国の実業家・投資家トバルカインによって設立された新興重工業メーカーである。

飛空船の設計・製造や工業プラント建設を主力事業とし、積極的な企業買収によって急成長を遂げた。特に飛空船技術や導力機関開発に強みを持ち、代表製品であるオレルス級多目的巡洋艦の成功により市場での存在感を高めている。

帝国最大手のラインフォルトグループには及ばないものの、優れた技術力と豊富な資金力を背景に、帝国工業界の有力企業として台頭している。
 



 唐揚げ級多目的巡洋艦
 オレルス級多目的巡洋艦
オレルス級多目的巡洋艦(Orellus-class Multipurpose Cruiser)は、レグルス重工業が開発・販売する全長約50アージュ級の多目的飛空船である。

「安全・快適な空飛ぶ住居」をコンセプトに設計されており、購入者の要望に応じて居住区画や設備を自由にカスタマイズできることを最大の特徴とする。広大な領地を持つ貴族や各地を飛び回る実業家・投資家を中心に、プライベート飛空船として高い人気を獲得した。

戦闘能力よりも居住性や安全性、長距離航行能力を重視しており、「空飛ぶ別荘」や「空飛ぶ本社」とも称される。レグルス重工業の代表製品であり、同社が帝国工業界で急速に存在感を高めるきっかけとなった。

なお、開発当初は別の艦級名が付けられていたが、あまりにも評判が悪かったため、販売直前の社員会議によって現在の「オレルス級」に改名された。



 唐揚げ級多目的巡洋艦 命名秘話
 
 ???「よし、これで多目的巡洋艦の設計は終了。
 艦級名どうしよか。そういや工房長が凝った名前付けろってうるさかったな。
 飛空船だし鳥にでも因むか……鳥の名前……鳥………とり…………………唐揚げ食いたいな……。唐揚げ級でいいや」

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