魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
セレスティアさまに就いていた護衛の騎士は、銀髪オッドアイの青年に注視していた為に動けなかった。
「セレスティア、避けろっ!!!」
彼女の傍へと移動していたマルクスさまが叫び声を上げながら、腕を伸ばして勢い任せに押し倒した。
「え……きゃ!」
騎士ではなく魔術師としての資質が高い彼女は、耳の長い女性の内の一人が放った弓矢に反応することができず、それに気付いたマルクスさまがセレスティアさまを押し出して、左上腕に矢を受けた。地面へと倒れる羽目になったセレスティアさまは茫然としつつ、マルクスさまと青年の姿を目にとらえている。
「っう! ――男の癖に女子供に手ぇ出してんじゃあねえよっ!」
「チっ」
剣は抜かず素手での勝負を挑むマルクスさまを青年は軽くあしらうと、随分と後ろへと下がり私たちと距離を取る。
「悪い。セレスティア、平気か?」
女性を助けたとはいえ、その方法は乱暴だった為かマルクスさまがセレスティアさまに謝りつつ手を伸ばす。
その手に自身の手を重ね立ち上がる彼女の姿は、まさに騎士とお嬢さま。セレスティアさまの動きは洗練されているし、マルクスさまもお貴族さま。絵に描いたような光景だけれど、彼の腕には矢が刺さったままである。
「ええ、マルクスさまのお蔭で大丈夫ですが……腕が……」
「気にするなと言いたいが、痛いな」
そりゃそうだ、怪我をしたのだから。前に立つリンの服の袖を掴んで、あっちに行きたいと主張すると、困ったような顔をしてこちらを見てため息を吐いた。
「マルクスさま、治します」
「ん、ああ。スマン、頼む」
刺さったままの矢をどうしようかと悩んでいると、セレスティアさまが無言で矢を握って、一切躊躇なく抜いた。
「いってえっ!!」
「男の子でございましょう、我慢して下さいませ」
マルクスさまの腕を治す為の魔術を発動させる。毒を仕込まれていたら困るので、念の為に解毒の魔術も一緒にだ。
「あーあーあー! 熱い所を見せつけるのは止めてくんねーかなぁ! 愛だか友情だか知らねーが、他人の俺からすれば乳繰り合う姿なんざ鬱陶しいだけなんだよ!」
一連のやり取りを見逃してくれていたのならば、青年はお人好しなのかも。狡猾なら、その隙に大剣を奪おうとしたり、追い打ちを掛けたりできるもの。
ただ名乗り出たセレスティアさまを、青年の連れの女性に狙わせたことは短絡的過ぎる。
辺境伯領の名前を知らないのかもしれないが、この国での家名持ちはお貴族さまかお金持ちくらいなのだから。冒険者という職業に就く人がどういう教育を受けているのかしらないけれど、王国に住んでいるのならば家名持ちに喧嘩を吹っ掛ける意味を理解しているはずだ。
――首、飛ぶんじゃないかなあ。
青年の身分次第だけれども。
「話に割り込んで済まない。トーマ……と言ったな。そしてAランクチームだとも」
セレスティアさまに代わり、ソフィーアさまが護衛の騎士に守られながら前に出た。周りも騒ぎを聞きつけて、随分と人が集まってきていた。
「ああ、そうだ。それが一体どうしたよ、ん? アンタも俺のチームに入るか? 見たところ魔力は十分高いようだし戦力になるのは確実。そこの巻髪の女もだ」
にやりと下種な笑みを浮かべて、右腕で銀糸の髪を掻き上げて口をもう一度開く。
「顔も身体もいいときた。――俺が夜通し抱き潰して快楽漬けにしてやるよ」
アウト、その発言アウト! 突っ込むのが面倒だし下世話になるからいろいろとアウトぉ……。というか、周りの男性陣の気配が一変した。守るべき主人を中傷しているし、名誉も落としている発言だ。静かにキレているのが逆に怖いくらいである。
けれど青年は綺麗な女性を目の前にしている所為か、高揚しているようで口が止まりそうもない。王国の特に貴族の人の身目は優れているので、美男美女率はかなり高い。そして高位のお貴族さまとなるとさらに洗練されるのだ。
公爵家と辺境伯家出身のお二人だ。それはもう極上の美人だから、男として興奮するのは構わないが、口に出しては駄目だろう。
青年も銀髪オッドアイで容姿もいいのだから、黙っていればイケメンだというのに、口が災いして残念になっていた。
「そこの餓鬼の前にいる赤髪の女もだ。実力は備わっているとみた。俺と来いよ」
赤髪の女はこの場にリンしか居ない。
――は? アンタみたいな男に彼女を幸せにできる訳がないだろう。
自分の口元が歪に伸びてしまっているのが分かるし、浄化の儀式で随分と減ってしまったなけなしの魔力が体の中で暴れているのも。これ以上魔力を消費してしまうのは不味いと理解はしている。けれど感情がそれを上回り、目の前の男を黙らせろと頭の中で警鐘を鳴らす。
パキリ、と副団長さまから頂いた指輪の魔術具に皹が入ると同時、私の一番近くに居るリンが異変に気付いてこちらを向く。
「行かないよ。――行くわけなんてないよ、傍に居るから」
優しく微笑み、ゆっくりとした口調で諭すように言葉を紡ぐリン。
「――っは」
息が止まっていたのか、呼吸を再開させたことに気付く私。クソ、情けない。取り乱すべきじゃないはずの場面で、簡単に頭に血が上ってしまった。
「大丈夫?」
「ごめん……ちょっと落ち着いた。ありがと」
それでも尚、目の前の男が言い放った言葉を許せそうにないが。落ち着きを取り戻したのを確認すると、リンはまた男の方へと視線を向ける。
巾着袋に入れている竜の卵が重くなり、ナイフを下げている革ベルトからするりと落ちた。何故、重くなったのだろう、けれど今は目の前の青年の動向の方が大事。腰を屈めて視線は外さないまま、地面に落ちた袋を取って今度はしっかりと結び付けた。
「レディに対して言っていいことではありませんよ、坊や。一度に複数の女性に声を掛けるなど失礼極まりない行為でしょうし、貴方の後ろに居るお二人にも失礼でしょう」
ずっと黙っていた副団長さまがソフィーアさまの横に立って、青年の無作法を注意した。
「なっ、坊っ――」
「――まあ僕もモテた試しはありませんしアドバイスなど出来る立場ではありませんが、余りにも酷いのでつい口を出してしまいました」
言葉を続けようとした青年に言葉を被せ、続きを言えないように副団長さまは口を挟む。
「さて、時間は有限です。戯れもこれまででしょう」
ぶわり、と副団長さまの魔力が溢れるのを肌で感じる。
「トーマさまっ! その男の魔力は尋常ではありませんっ!!」
「逃げましょう、トーマさま! 大剣と魔石の回収はまた後に!」
凄く慌てた様子で耳の長い女性二人が青年に声を掛けて撤退を促すと、舌打ちをしながら青年は『まだ諦めた訳じゃあねーからな!』と声を上げた。そうして一段高くなっている女性が居る場所へと戻って、ふっと姿を消したのだった。
◇
とんずらした自称Aランク冒険者チーム三人が消えた場所を茫然と眺める。
「消えた……」
「逃してしまいましたねえ。――転移の魔術でしょう。エルフ族は魔術に長けていますから、使えてもなんら不思議はありませんよ」
羨ましいですね、エルフの秘術……気になりますとまたしても魔術に対する探究心が働いている副団長さま。というかあの耳長女性はエルフなのか。なんだか薄い格好で、肌の露出が多くてエロかったけど。てか迫害されて大陸の北西部に逃げたんじゃなかったっけ。というか亜人にカテゴライズされていない? 背景がよく分からないなあ。
「ふざけんなよ、あの男……!」
お怒りはもっともだけれどヒロインちゃんに懸想していたマルクスさまが言える台詞ではないようなと一瞬浮かび、その考えを打ち消す。魔眼の所為もあったのだから、あまり責めるわけにもいかないか。それにセレスティアさまを庇って負傷しているのだし。
「口だけはご立派な方でしたわね。――ソフィーアさん何故、名乗らなかったのですか? 名乗っておけば公爵家への無礼も追加できたものを」
「ああ。愉快な奴だったな。――あまりにも小物でな。名乗る価値もないだろうと判断した」
「小物だというのに逃がしたのは手痛い失敗でしたわ」
「仕方ないだろう。あの三人の身分が分かっていないし、下手に手を出して外交問題になるよりは良いだろう。それに調べは直ぐつく」
そして、特に騎士の人たち、特に辺境伯家に忠誠を誓っている人の怒りが顕著だった。
「お嬢さまに無礼な口を。――しかも公爵閣下の孫娘もいらっしゃるんだぞ」
「ああ。しかし、冒険者ギルドはどうしてあんな無法者を放置している?」
「さあな。余程上手く隠し通していたか、ただの馬鹿だろう。あれでは真っ当に冒険者をしている者が泥を被るだけだ」
「だな。……これから忙しくなるな。まあ俺たちの出番があるかどうかは分からんが」
で、軍に所属し公爵家に近しい人たちは……。
「……」
「…………」
何も言わないまま、静かに異様なオーラを背から発している。周囲で口々に文句を垂れている騎士の人たちより、軍の人たちの方が怖いってどういうことだろう。公爵さまの人望が凄いのは理解しているけれど、まさかここまでなのかと驚きを隠せない。
「――お師匠さま。お願いがございます」
「はい、どうしました?」
副団長さまの下へと歩いてきたセレスティアさまとマルクスさま。二人へと向き直って相対する副団長さまは、いつものようににこにこと笑みを浮かべているのだけれど、ちょっと雰囲気が違う。
「わたくしと主だった方々を辺境伯領領都の邸まで転移の魔術で送っていただけませんこと?」
一応、ドラゴンの死骸を見つけた際に辺境伯さまには伝書鳩を飛ばしているそうだ。ただ、徒歩の帰還となると一日以上はどうしても掛かってしまう。
「もちろん、構いませんよ」
「ありがとうございます。報酬は――」
「――必要はありませんよ。僕の弟子を……女性をあのように扱う輩を放置する訳には。迅速な行動を取りましょう」
魔術にしか興味がないのだと思っていたのに、意外な反応である。紳士なのだなあと、彼の顔を見上げていると視線を向けられる。
「ナイ、貴女も一緒ですわよ」
「ええ。そうですね、その方が良いかと」
「?」
何故、私が彼らと一緒に辺境伯領領都に転移しなければならないのだろうか。そして、疑問符を浮かべている私に呆れたのか、堂々と隠しもせずため息を吐いたセレスティアさま。
「聖女を襲おうとした事実があるだろう。教会や国としても放っておけん案件だし、フェンリルを無駄に焚き付けて被害を出している。辺境伯領だけの話ではないし、本人からの証言も必要だ」
分かるなという顔でソフィーアさまに諭されたので、そう言われると一緒に付いて行かざるを得ない。でも、ちゃんと名乗った覚えは……ああ、役職だけは伝えていた。どうにも嫌な感じがしたので、名前は故意に伝えなかったけれども。
「ええ。ですのでソフィーアさん、貴女もですわ」
「ああ、分かっている。連れていかれないなら、無理にでも付いて行く所だったよ。急いで祖父から国へと報告を上げてもらおう」
騎士団と軍、辺境伯領軍の指揮官さまたちと打ち合わせをしているセレスティアさま。
おそらく直ぐに移動になるのだろうなあと、遠い目になる。暫く周りが騒がしいのは確定しそうだ。
「ナイ」
「どうしたのジーク……って、なんでそんなに怒ってるの?」
うわ、滅茶苦茶ジークが怒ってる。というか静かに怒っているのが怖いのだけれども。そりゃ大事な妹に手を出そうとしたのだし、当然だろう。兄であり父親代わりでもあるのだから、あんな奴に暴言を吐かれたらたまったものじゃない。私も感情任せに魔力を暴走させる所だったし。
「聖女に手を出そうとする奴があるか。俺とリンから教会と公爵さまとラウ男爵にも伝える。頼れる人間を全て頼るぞ、今回は」
え、そっち。そっちの怒りなの。妹の心配しようよジーク、かなりの侮辱だよあの台詞。詳しく言っちゃうと不愉快になりそうだから言わないけれど、男としてダメダメな台詞を一杯抜かしてたんだよ。そっちを怒ろうよ。
「ナイは自分の事になると抜けてるから、仕方ないよ兄さん」
リンさんや、どうしてさっき言われた暴言を華麗にスルーしているのかしら。私的に一番許せないのは、女性三人を娼婦扱いどころか性奴隷扱いしたあの青年の不躾さなのだけれど。
「お前は聖女として、そして随分と国や教会から重宝されていることをいい加減に自覚しろ!」
「あんまり認めたくない……」
我儘だってことは理解しているし、まあ一応自分の立場は分かっているつもりなのだけれど、ジークとリン、そして仲間内くらいの時は愚痴くらい許してほしい。
「……ナイ」
「ナイの行動はみんなに褒められるべきだよ」
だから自信を持ってと言いたげなリンに苦笑いを返して、前を向く。まあ仕方ない。生活の場を整えてもらっているのだし、お給料分はきっちりと働くべきかと頭を切り替える。
「ありがと、リン。――そろそろ出発かな」
こんな私だけれど、二人には末永く世話になるはずだから見捨てられないように格好よく居なきゃねえ。
「みたいだな」
「うん」
「行こうか、ジーク、リン」
「ああ」
「うんっ」
そうして一歩踏み出したのだった。
◇
自称Aランク冒険者を逃してしまった為に、魔術師団副団長さまの転移魔術で辺境伯領領都の領主邸にまで送ってもらえるらしい。
教会の統括に話を通して移動の許可を貰った。流石に彼も事態が不味い方向へと動いているのは理解しているようで、規律に厳しい人だというのに『早く支度を』と言うのだから、よっぽどである。
徒歩で帰らなきゃならない人には申し訳ないが、事態は緊急を要するみたいだ。アリアさまがこちらを心配そうな顔で見ているので、彼女にひとつ頷くと『えへへ』とだらしのない顔で笑う。聖女さまだよなあ彼女と苦笑いをして前を見る。そこには副団長さまの背中。
「……そういえば同じ銀髪」
赤髪繋がりでジークとリンの落胤問題が発覚したのだし、もしやと感じぼそりと口に出た。
「僕はあんな短絡的で阿呆な行動に出る息子を育てた覚えもありませんねえ。そも、あのような問題児を野放しにはしません、危険すぎます」
くるりと振り返り私と視線を合わせ、完全否定された。というか髪色が同じと言っただけなのに、私の心の中を読まないで欲しい。
「それに僕のような銀髪なんてこの大陸にはどこにでも居ますよ。目の色が互い違いな人は珍しいですけれど」
髪を一房摘み、銀色の髪を一撫でした副団長さま。地味な黒髪なので陽に透ける銀髪が羨ましい限りだ。
「無駄話はそこまでにしましょう。――先生、お願いします」
「ええ。お師匠さま申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」
「いえいえ。辺境伯邸で説明を終えれば、王都にも直ぐ参り陛下へ直接報告を。ソフィーアさんは公爵閣下への連絡をお願いいたしますね」
「もちろんです」
何だか陛下に直接会うフラグが立ったような気がしなくもないけれど、今は辺境伯邸へと行くのが先決か。同行者にはジークとリンも付いているし、問題はない。私たちの荷物は荷駄部隊に預けて、時間をかけて王都にまで戻る。
軍と騎士団と辺境伯領軍の次席指揮官も同行するようで、本当に話が大事になってきた。
「――"風よ""大きなうねりと成り大地を駆けろ"」
副団長さまの詠唱が聞こえて、足元に展開した魔術陣が私たちを包み込む。ひゅっとお腹の中のモノが宙に浮く感覚を感じて目を閉じる。ソレが無くなったと同時に目を開けると、辺境伯領領都である辺境伯邸の玄関前へと辿り着いていた。
「ひいっ!」
掃除を行っていたであろう侍女数名が、いきなり現れた私たち一行に驚き、年配の女性が一人腰を抜かした。
「ごめんなさいね、時間がありませんの。――父の所へ参ります。皆さま行きましょう」
セレスティアさまが侍女たちに声を掛けると、緊急性を感じ取ったのか雰囲気が一変する。
「お嬢さま、お館さまは執務室でございます」
「ありがとう」
侍女の人の手によって玄関の大きな扉が開かれて中へと入る。泥まみれの靴で磨かれた大理石の床を踏みしめるには勇気がいるけれど、他の人たちは気にした様子もなくどんどんと中へと入って進んでいく。ジークとリンと私の恰好が冒険者の軽装備姿と平民服なので、浮いているけれど誰も咎める人が居ない。
そうして執務室の前へと着いたらしくセレスティアさまが一旦止まり、強めのノックを二度鳴らす。
「お父さま、セレスティアでございます。――火急の件がございますので、失礼いたしますわ!」
部屋の中へ届くようにとかなり声を張っているセレスティアさま。これ声に魔力を纏わせていないかなと思えるくらいに、耳がキーンとした。
「っ、セレスティア。声を張るのは良いが、魔力を無駄に使うなといつも言っているだろうに……――どうした?」
ぞろぞろと彼女の後に続く人たちを見て、ただ事ではないと判断した辺境伯さまは椅子から立ち上がる。
「話せ」
火急の件と伝えているから、お貴族さま流の挨拶やらは全部すっ飛ばして事態の経緯を説明を促されると、セレスティアさまが丁寧に話す。
「――馬鹿を通り越して……いや、いい。不味いな、陛下にも連絡を直ぐにせねばならん」
「そちらはソフィーアさまとお師匠さま――ヴァレンシュタイン魔術師団副団長さまが担って下さいます」
「そうか。申し訳ありません、私も方々に手を回しておきますので、ソフィーア嬢、ヴァレンシュタイン卿、陛下への進言よろしく頼む」
「はい」
「ええ、もちろんですとも」
辺境伯さまがひとつ頷くと二人もこくりと頷き、私に膝を突いた辺境伯さま。え、え、とこの状況に困惑して目を丸くしていると、セレスティアさままで膝を突く。いやお貴族さまが簡単に膝を突いちゃ駄目だってば。なんでこんなことになるんだろう。
「聖女さま、此度の竜の浄化、辺境伯領を治める長として真に感謝いたします。事態は急を要します故、正式な謝礼は後日改めて」
「お気になさらず。それよりも、こちらのモノの所持は誰になりましょう?」
辺境伯さまがとセレスティアさまが立ち上がると同時に、ナイフをぶら下げている腰ベルトの巾着袋から竜の卵を取り出す。
「これは……?」
「副団長さまのお話によると、竜の卵だそうです。私が浄化儀式の後に発見しました」
指先ほどの大きさから、鶏の卵くらいの大きさに変化していた透明な石。
で、出来ることなら教会か辺境伯さまか国に預けたい。絶対に面倒ごとにしかならないし、孵ったら餌代とか小屋とか病気とかいろいろと気を配らなきゃならないんだよ。教会の統括に預けようとしたら、彼では判断できないと言われてしまったのだ。こうなれば手当たり次第に聞いていくしかない。
「では、聖女が所有されるべきでは? もしくは教会か王国になりましょう。――申し訳ありません、私はこれで……」
なんで預かってくれないのと心の中でがっかりすると、領軍と家令を集めよと招集を掛ける辺境伯さまを横目に、ソフィーアさまと副団長さまが頷く。
「行きましょうか」
「はい、先生。ナイ、行くぞ」
「はい。――あの、流石にこの格好で王城へと参るのは……」
聖女と護衛騎士だというのに平民服と軽装備の冒険者だもの。ソフィーアさまは公爵家のご令嬢らしく、かなり質の良いものを着ているし、副団長さまは魔術師団の仕事着だから問題はない。
「気になさらずとも。僕が居ますし、ソフィーアさんも後ほど公爵閣下と登城するのでしょう?」
「はい。なるべく早くにそうした方が良いかと」
「行きましょう、聖女さま。ここで無駄口を叩いても何も進みません。では閣下、このまま失礼致しますね」
「ああ、頼みますぞ。ヴァレンシュタイン卿」
辺境伯さまの言葉にこくりと副団長さまが頷き、足元に魔術陣が展開して光に包まれ、閉じていた目を開けば公爵邸の玄関前。静かな玄関前には人影はなく、突然の登場に今度は驚いて腰を抜かす人は居なかった。
「では、祖父か父に連絡をして参りますので」
「ええ、僕たちは先に城へと行きますね」
勢いよくソフィーアさまが公爵邸の玄関扉を開けて『誰か居るか!』と声を張って少し『お、お嬢さま!』という声が聞こえたと同時にまた光に包まれ、王城の入り口へ転移した。