ウマ娘プリティーダービー1stアニバーサリー記念怪文書なるモノを作ると思い立って書いた作品。多分なんでも許せる人向け。

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ウマ娘が1stアニバーサリーなので初投稿です。
前も後もあるけどこれは読み切りになります。
ウマ娘イベントとELDENRINGに板挟みで時間吸われながら書きました。頭パンクするか思ったよね。端折り倒したが楽しかったので良し。



桜千代乃王

三年間に渡る長い道のり。

刺すような北風の中、その有終を飾る戦いがここに幕を開ける。

高らかな喇叭のファンファーレが会場の熱気を高め、観客のざわめきが胸を踊らせる。

 

「ついに来たんだな」

 

URAファイナルズ。その舞台に至れたと言う事実だけで沸き上がる感情に涙が出そうになるが、そこはしっかりと堪える。

 

「ここで泣いたら、それで終わりみたいじゃないか。それじゃ彼女に失礼だ」

 

彼女はここまで己の力で登り詰めた。

ただ一つの憧れ。

その遠い終着点に手を届かせるため、幾つにも連なった見上げる程の壁を乗り越え、ついには憧れさえも越えて見せた。

 

日本ダービー、二度の天皇賞(秋)、ジャパンカップ。

どれも彼女にとって価値ある戦いで、時に彼女を苦しめ、成長へと導いた記録だ。

青々と繁るターフを見つめると、その戦いの中で輝いた彼女の勇姿が今でも鮮明に浮かび上がる。

 

「さあ、行こうかな。今日の主役の所に」

 

彼女の事だ、調整も済ませて控え室で待機しているだろう。この一大イベントだ。緊張して力を発揮出来ないとなってはいけない。

自販機でホットコーヒーを買い、北風に冷やされた両手で握りしめながら地下の馬道を通り控え室へ向かう。

彼女にも何か買った方が良かったかと考えるが、本場直前の差し入れと言うのもあまりよろしくないだろう。

ぐるぐると手の中でコーヒーの缶を回している内、担当ウマ娘のプレートが掛けられた部屋の前に到着する。

 

「よし、終わったら盛大に慰労会だな」

 

むん。とどこかのウマ娘を真似て気合いを入れ、控え室の扉を開ける

 

「チヨー。元気か」

「ひゃいっ!?」

「おお、良い感じに緊張してるな」

「そそそそそっ、そんなこと無いですよー。ほら、今日は昆布茶も持って来ましたし。それに分析も」

「そんなガタガタ震えながら言われてもなぁ」

「こ、これは寒いからですよ!」

「ヒーターガンガンに利いてる部屋が?」

「じ、じゃあ武者震いってことで」

「じゃあ、って.....まあいいさ。取り敢えずその昆布茶飲んで落ち着くこと」

 

気まずそうに頬を搔いて目を逸らす少女は、俺が担当するウマ娘で、URAファイナルズを走る本日の主役。

名は「サクラチヨノオー」と言う

 

「トレーナーさんこそ緊張してるんじゃないですか?」

「んー?別にそうでもないぞ。今会場を見てきたが物凄い熱気だった。流石に感じるモノがあるな」

「三年間の集大成。泣いても笑ってもトレセン学園での大舞台はこれが最後になりますからね」

 

膝に手を添え、にっこりと笑うチヨノオー。今のやり取りでいくらか気分も楽になったようだ。

 

「URAファイナルズか......にしても、よくここまで来られたもんだよな」

「どうしてですか?」

「いや、あんな殆ど受け売りの付け焼き刃みたいな指導しか出来なかったのに、それでもチヨはここまで駆け上がってきた」

「そんな、私なんて全く」

「マルゼンさんが憧れなんです!って目を輝かせていた自称凡庸のウマ娘がだぞ?。強豪並ぶ日本ダービーを制し、二度の天皇賞(秋)を圧勝。それでこの前のジャパンカップはその憧れのマルゼンスキーを倒して見せた。怪物退治とは正にあの戦いだったぞ!」

「ちょ、ちょっとトレーナーさん。褒めすぎですよ」

「褒め過ぎなもんか。寧ろこれでも過小評価ってもんだ」

 

握りしめていたコーヒーの缶を開き、口を付ける。

 

「私なんか何度も折れそうになって、その度にアルダンさんやヤエノさん、トレーナーさんに支えられて来たんです。全て皆さんのおかげですよ」

「その足で走ってきたのは誰だよ。チヨだろう?チヨが走らなかったらこの栄光はない。ならチヨの努力の成果だよ。こんなインドアゲーマーの事なんて持ち上げてくれさすなくていいさ」

 

お決まりの文句で自嘲し、重くなった空気をそれとなく払おうとして見るが、チヨノオーは更に考え込で俯いてしまう。

 

「トレーナーさん......」

「さあ、口が回りすぎたな。そろそろ精神統一でもするか?」

「トレーナーさんはいつもそう言いますね」

「そりゃなぁ。こんな生き方してれば自分を褒める所が無くなるんだよ」

「.......」

「おいおいチヨ。チヨがそんな難しい顔をしても仕方ないぞ?これは俺の性分なんだ」

「.....むむ」

「チヨー?チヨノオーさん?」

「トレーナーさんは素敵な人です!」

「うおっ。何だどうした」

 

突然大声を出したチヨノオーに驚くが、彼女は構わず続ける。

 

「私を見つけてくれました!私の夢を笑わないでくれました!私に強くなれると言ってくれました!」

「お、おう?」

「それは、確かにトレーナーさんは変わり者かも知れません。たまによく分からない事で感動して泣きますけど....それでもトレーナーさんは私をここまで連れてきてくれました。だからーーー」

「はーいそこまで。喉痛めるぞ?本番前に張り切る事なかれ。早咲きの桜は早くに散るぞ。なんてな」

「トっ、トレーナーさん。それどういう意味ですか!」

「さあね、ウイニングライブ楽しみにしてるんだ。一着を取って、カッコよく決めてくれよ?」

「っ......!勿論です!誰にも負けませんよ」

「よし、調子戻ったな。そんなチヨにプレゼントだ。さ、お手を拝借」

「は、はい?」

「よし。じゃあこれ、お守り」

 

チヨノオーの手にポケットから取り出した御守りを置く。

 

「これは」

「手作りの御守り。クリークさんとヤエノさんの力を借りて作ったんだ」

 

チヨノオーの髪飾りを模して作った桜のアクセサリーに小さな木の板を繋げた御守りだ。

 

「あ、ありがとうございます!トレーナーさん」

「喜んでもらえたなら良かった。不恰好でごめんな」

「そんな。気持ちだけでも嬉しいですよ」

 

目を輝かせて喜ぶチヨノオー。その姿を見られるのならトレーナー冥利に尽きる。

 

「あの、トレーナーさん。この木の文字は」

「ああ、それか。何て書いてあるか分かるか?」

「ええと、これは」

「実はそれ、もう一つあるんだ。チヨの髪飾りは二つあるからそれに合わせてな。日本の古い歴史にあるんだが、勘合貿易って習ったか?」

「勘合貿易、ですか。確か国同士の貿易に使う.....」

「正解!流石はチヨだ」

「それほどでも」

 

大会前に座学紛いのことをするのはどうかと思う。そもそも遊び人が他人にものを教える事自体が可笑しな話に聞こえる。

 

「それでこれがもう一つの御守り。文字の半分がこれだ」

 

取り出したもう片方の御守りを、チヨノオーの持っている御守りの隣に当てる。

 

「桜千代乃王。ですか」

「千代に咲き誇る桜の王。チヨにぴったりの名前だな」

「何だか荘厳な感じがします。私、名前負けしていないでしょうか」

「まさか。チヨに相応しい名前だよ」

「そうですか......トレーナーさんが言うならそうかもしれないです。ところで、これとさっきの話にどんな意味が?」

「日本と中国の貿易で使われた信頼の証。それを真似て作ったんだ」

「信頼の証......」

「そう。ここまで俺を信じて付いてきてくれたチヨへのお礼みたいなものだ。辛くなったり負けそうになった時に力にしてくれ」

「.....トレーナーさん。これ、一つはトレーナーさんが持っていた方が良いんじゃないですか?」

「へ?」

「これが信頼の証なら、私の夢を信じてくれたトレーナーさんが持っているべきです。私が一人で持っているのも変ですよ」

「.....そうかもな。いや、初めからそのつもりではあったんだが、上手く言えないもんだなって」

「やっぱりそうだったんですね」

「ああ、じゃあ片方もらってもいいか?」

「ええ、勿論です!」

 

紅色の桜がついた御守りを受け取り、ポケットにいれようとしたところでチヨノオーに止められる。

 

「トレーナーさん。せっかくなので、お願いしてもいいですか」

「ん?」

「この木の板の文字を合わせて気合いを入れましょう。トレーナーさんの元気も分けてもらえて一石二鳥です!」

「いいね。信頼の再確認ってな」

 

チヨノオーの持つ御守りの板に、自分の御守りを合わせる。

 

「それでは一つ。トレーナーさん。いつもの掛け声でいきましょう」

「よし!。チヨノオーチヨノオーチヨノオー!だな」

「違いますよ!それは語呂が悪いって言ったじゃないですか」

 

ワクワクと言った表情から一転、頬を膨らませて怒るチヨノオー。緊張を解せればと思ったが、その必要はなかったようだ。

 

「ちょっとした冗談だよ」

「もう。行きますよ......掛け声、大丈夫ですよね?」

「おう!」

「せーの!」

「ファイ·オーッ!チヨノ·オーッ!」

 

声に合わせて腕を掲げ、二人で決意を固める。

 

「よしっ、闘魂。いただきました!」

「準備万端だな。チヨ、勝ってこいよ」

「はい!」

 

アナウンスが流れ、チヨノオーが控え室を出ていく。目映い光に向かい馬道を歩く彼女を見送り、コーヒーを飲み干して観客席に向かう。

道中でポケットに突っ込んだ手の中で、チヨノオーから返された御守りを握りしめる。

 

「チヨ、嘘付いた。信じらんないほど緊張してるわ」

 

誰に聞かれているわけでもない独り言に苦笑する。

 

 

 

観客席は既に大盛り上がりのようだ。

ターフ前のスタンドに付くと、見知った顔を手を上げて俺を呼ぶ。

 

「やあ、櫻庭君。ついにこの日が来たね」

「どうも。別に来なくても良いと言ったはずだったんですけど?」

「良いじゃないか。可愛い後輩の担当が走るんだ。応援くらいさせてくれ」

「先輩こそ担当のトレーニングは良いんですか?俺みたいに暇じゃないでしょう?」

「なんだ。そんな事か」

 

俺を呼んだ女性が隣の柵を指差す。そこでは栗毛のウマ娘がターフに見入っていた。

 

「観戦ですか......あなたも大概サボりじゃないですか」

「はっはっは!。人聞きの悪い。自慢の後輩の指導成果を盗ませてもらおうと思っただけさ」

「余計に人聞き悪くなりましたけど?」

「ところで櫻庭君。御守りは渡せたのかい?」

 

突然話を切り替える先輩。肩を掴まれそうになるが、払い除けて距離を取る。

 

「ええ。お陰さまで大喜びでしたよ」

「それは良かった。で、しっかり言えたのかい?」

「........」

「根性の無い奴だな君は。まさかチヨノオー君に言わせたのかい?」

「結果的には」

「君から言わなきゃ意味がないだろう。せっかくのプレゼントの事を担当に指摘されるなんて恥ずかしくないのかい君は」

「恥ずかしいですよそれは」

「本当に馬鹿な奴だ」

 

呆れた表情で顔を抑える先輩。大袈裟だ。

 

「はいはい。どうせ根性無しですよ俺は。さっさと観戦に集中して下さい。これは仕事なんですから。はるばるトレセンからここまで来て、担当すっぽかして後輩弄りなんてしてる場合じゃないでしょう」

「まあそうだね。担当への気遣いも出来ないポンコツトレーナー君と遊んでいては時間が無駄になる」

 

この女後で泣かす。

チヨが。

 

ウマ娘達がゲートに納まり、実況の声が止む。

静寂に生唾を飲み、その様子の見守る。右手に御守りを握ったまま、睨む様に視線を送る。

 

 

ゲートが開き。ウマ娘が駆け出す。

チヨノオーの姿を探す。桜色の勝負服は四番手を走る。出だしは好調。このまま順調に運んでくれればいいが。

 

「さて、どう動くかな」

「.......」

「おや、夢中かい?櫻庭君」

「.......」

「お熱いね。彼女も幸せ者だ」

 

眼前を走り去るバ群。地を震わせる無数の轟音。幾度となく聞いたその中を駆ける担当の姿を見つめる。

第一コーナー。先頭を走るウマ娘が後ろとの差を広げていく。続くウマ娘達の動きは様々で、前に出ていく者。変わらず足をためる者と分かれている。

 

「.......焦るなよ」

 

噛み合わせた歯に力が籠り、ギリギリと嫌な音を立てる。

コースの内側を突いて走るチヨノオーは、周りのウマ娘に囲まれる形のまま第二コーナーへと掛かっていく。

マークされているのか、偶然か。どちらにせよ都合の悪いことに変わりはない。

日本ダービーと同じ展開。二度も同じ事が起こるなど、レースの世界はそれほど奇跡に溢れていない。悪い結果に転ばない事を願うが、チヨノオーは彼女を囲うウマ娘達に押し上げられる様に走っていく。双眼鏡越しに見るその姿にはトレーニングの時と同じ焦りの色が見える。

 

「チヨノオー君。大丈夫なのかい?」

「........全く」

 

先頭に引き離され、それに続こうと速度を上げた所でウマ娘同士が衝突し、前方で先行策を執る集団の形体が大きく崩れる。

 

「チヨ!」

 

思わず柵を掴んで叫ぶが、向こう正面を走る彼女にその声が届くはずもなく、観客の声に遮られる。

顎に手を当ててレースを見守る先輩の顔が曇り、その口から深い息が吐き出される。

 

「もうすぐ第三コーナー......ここから立て直せるか」

「まだやれます。チヨは絶対に諦めません」

「大した信頼だね」

「あの娘は誰にも負けません。それだけの実力を持っていますから」

「ふむ?」

「これまでも何度だって挫折して、その度に仲間の支えで立ち上がってきました。それは今回も変わらない」

「なら今回も誰かが立ち上がらせてくれると」

「ええ」

 

コーナーに差し掛かるウマ娘達。その姿を真っ直ぐと見つめる。

 

「チヨは言ってくれました。トレーナーさんにも支えられたと。なら俺もその思いに答えるだけです」

「なるほどね」

「誰にも負けさせない。そう約束しましたから」

 

柵を両腕で掴み、大きく身を乗り出す。

 

「行け!チヨ!負けるな!」

 

腹の底から声を出す。どれだけ習っても覚えようともしなかった。ただがなるだけの声ではチヨノオーに届くかさえ分からない。

 

「諦めるな!信じろ!」

 

それでも叫ぶ。レースでは何もしてやれない非力なトレーナーとして出来る精一杯の事をする。

俺を信じ、共にこの舞台まで走り続けてくれた彼女に、無謀と言われた信念を抱いた俺に、夢を見せてくれた彼女に届く事を。

レースは第三コーナーを過ぎ、直に勝負を決する最終コーナーへと至る。

チヨノオーは既に崩された体勢を立て直し、ラストスパートの準備を始めている。

 

「頑張れチヨ!咲き誇れ!サク」

 

ピシリと喉の奧に亀裂が走り、そこから刺す様な痛みが湧き出す。

体勢を崩して咳き込むと、地面に血が滴る。

慣れない事をしたせいか喉が切れたらしい。視界が何度も暗転し、酷い頭痛が現れるが、柵を握る手に一層強い力を込め、顔を上げ再びターフを走る担当に向けて叫ぶ。

 

「走れ!サクラチヨノオー!!」

 

第四コーナー。一斉にウマ娘達が速度を上げる。先行集団を抜け出したチヨノオーが、先頭のウマ娘を捉えて走る。

開いていた差を詰め二番手のウマ娘を抜き去り、先頭争いに加わる。

 

「最後だ!勝て!チヨノオー!」

 

湧き出す感情全てを乗せ、破れた喉の痛みも気に留めず叫ぶ。

目の前をチヨノオーが走り去る。その蒼天を映した瞳には光が灯り、押し寄せるような凄まじい気迫が感じられた。

 

「っ!」

 

先頭との争いを制し一番手の座に着いた彼女は、その勢いのままゴール板へと突き進む。

桜吹雪の軌跡を残して駆け抜ける満開の桜が、深紅と金で描かれたゴール板を過ぎる

絶えず行なわれていた実況がサクラチヨノオーの勝利を告げ、その健闘を惜しみ無く称賛する。

 

「櫻庭君」

「......」

「勝ったみたいだよ。チヨノオー君」

「......ええ....ええ!」

 

勝利の実感が現れるにつれ、抑えようの無い喜びの感情が溢れる。

 

「しかし見事な走りだ。文句のつけようがない」

「当然ですよ。どれだけチヨが頑張って来たと思っているんですか」

「.......君もな。櫻庭君」

「今はチヨの事を褒めてやって下さい。その方が気分が良いです」

「卑屈な所だけは変わらないね。ではウィナーズサークルにでも行くかい?」

「そうします」

「その前に肩を貸そう。叫び過ぎて脳でもやったんだろうし、どうせ一人じゃ歩けないだろう」

「......助かります」

 

先輩の肩に腕を回し、ウィナーズサークルへと向かう。会場を包むチヨノオーコールにむず痒い気分になりながら、引きずられるように歩く。

そこにはスタンドを前にして手を振っているチヨノオーの姿があった。

 

「チヨノオー君。おめでとう。君の相棒も連れてきたよ」

「ありがとうごさいま......トレーナーさん!?」

「よう、チヨ」

「何でそんな青い顔に」

「ちょっとはしゃぎすぎた」

「チヨノオー君。聞こえたかい?彼の声は」

「はい!しっかりと」

「それは良かった。ではそのトレーナー君に元気を分けてあげてくれ。いい加減重い」

「あ、あはは」

 

チヨノオーが微妙な顔で苦笑する。

先輩に体を伸ばされ、チヨノオーと向き合う。

 

「トレーナーさん......やりましたよ。私、勝ちましたよ」

「ああ、見ていたよ。最高のレースだった」

「ありがとうございます」

「こちらこそ。本当にありがとう。」

 

涙を浮かべて感謝を伝えるチヨノオー。その頭に手をのせ、軽く叩いてやる。

 

「ほら、観客を待たせるなよ。こんな青い顔のトレーナーの相手なんてしてないで、君を応援してくれたファンに答えるのが先だ」

「......はい。行ってきます」

「ああ、ライブで待ってる。まだまだ寒いライブ会場にも春を呼んでくれ。チヨの桜でな」

「はいはい。夫婦漫才はそこらにしようか。櫻庭君は医務室に連れて行く。心配しないでくれよチヨノオー君。ライブまでには復活させるさ。意地でも」

「お、お手柔らかにお願いしますね」

 

観客の前に戻って行くチヨノオー。その後ろ姿は、以前の何倍も立派に見えた。

 

 

 

「観客が倒れてどうするんだい」

「悪かったですね」

「全く。世話をする側の気にもなってほしいものだね。度が過ぎるんだよ君は。良くも悪くも加減が無い。全力投球を悪い事とは言わないさ。だがそれが空回ってはなんの意味もない。君の弱点はそこだよ」

「分かってますよそんなことは」

「元より体が強い訳でもない。にも拘らず体たらくな生活を続ける。それは体が鈍る」

 

医務室の壁にもたれ、先輩は心底嫌そうに溜め息を吐く。

 

「そのくせ今回のようにやる時は全力でやるんだ。体が付いていかないのも当然だとは思わないのかい?」

「それはそうですけど」

「なんだい。何か考えがあったのかい?」

「そんなもの無いですよ。ただ見ているだけなのが嫌だったんです。トレーニングでもロクに力になれないのにレースでも黙ってるなんて馬鹿らしいじゃないですか」

「本当に極端な男だね、君は。器用じゃないくせに我武者羅に突っ走って真っ正面から壁にぶち当たる」

「そしてぶっ倒れて先輩に引き起こされる」

 

ニヤリと笑って見せると、先輩は更に顔を歪ませる。

 

「君のスイッチが分からないんだよ。普段は梃子でも動かないような怠け者が、たった一人のウマ娘の為にあそこまでやれるのはどういう仕組みなんだい」

「夢ですよ。全てのウマ娘に勝利の可能性を見せたい。そんな子供っぽい夢。チヨならそれを叶えられると思ったからです」

「夢ね。彼女はそれを叶えてくれたのかい」

「ついさっき叶えてくれたじゃないですか」

 

笑顔を作って見せると、先輩もふっと笑う。

 

「さあ、長話は終わりにしよう。学園に戻ればいくらでも出来るんだからね。今はチヨノオー君の晴れ舞台を見に行こうじゃないか」

「ですね」

「嬉しそうだね。櫻庭君?」

「当然です。ずっと待っていた場所なんですから」

 

ライブ会場に入ると、ペンライトを構えたファンがウマ娘達の登場を今か今かと待っている。

暗い会場に目が慣れる頃、喇叭の音が響き渡る。どっと歓声が上がり、心臓が跳ねる。

 

「そろそろ慣れないのかい櫻庭君」

「無理.....です。心臓痛い」

 

胸を押さえて踞る俺の耳に、スピーカー越しの声が聞こえる。

手を繋いだ三人のウマ娘が駆け出し、階段を下りて踊り出す。

煌々と輝くステージのライトと、その中で快活に踊るウマ娘達。中心で華やかに舞うのは担当のウマ娘。

 

「楽しそうだね」

「ええ......本当にチヨが居るんですね」

「そうとも。このライブの主役はチヨノオー君だ」

「.....まずい泣きそう」

「顔でも隠しているかい?横で実況してあげるよ」

「ちゃんと......見届けますよ」

 

目元を摘まんで涙をこらえながら、潤む視界でウマ娘達を見守る。

最高の盛り上がりで終わりを迎えたライブ。

チヨノオーが大きく一礼し。マイクを手に息を吸う。

 

「ファンの皆さん。ここまで支えてくださりありがとうございました。そしてもう一つ。私の手をここまで引いてくれた、大切な人にも伝えさせて下さい」

「.....お?」

 

横でいかにもな反応が起こる。

 

「トレーナーさん。本当にありがとうございました!!」

「っ!」

 

我慢の糸が真っ二つに断ち切られる。

 

「櫻庭君。子供じゃないんだ。もう少し堪えるんだよ」

「無理です......タイミングって言うのがあるじゃないですか......反則でしょうあんなの」

「ここまでやってきた君への報酬という奴だろうね」

「だとしたら豪華すぎますよ」

 

会場を後にし、レース場の外で風に当たる。

 

「コーヒーでも飲むかい?」

「いや、止めときます。またチヨに怒られますから」

「ふむ。もうそんなに飲んだのかい」

「次飲んだら四杯目です」

「ジャンキーだね」

「喉が渇いて落ち着かないんですよ」

「水でも飲んでいればいいだろう」

「......」

 

顔をしかめると、先輩は面白そうに笑う。

 

「記者会見には行かなくていいのかい。最後の機会なのだし」

「いいんですよ。主役の隣にいるのが変わり者のトレーナーじゃ格好つかないですから」

「......まあ君がいいなら構わないが。なら今日は解散かい?チヨノオー君はもう少しここにいることになるだろうが」

「控え室で待っていれば戻って来ますかね?」

「私はチヨノオー君ではないよ」

「.....聞いただけですよ。今日はお疲れ様でした。迷惑をおかけしました」

「ああ、お疲れ様。礼なら近く食事でも奢ってくれよ。担当も連れていくからね」

「本当そう言うところですからねこの行き遅れ」

「はっはっはっ。好きに言っていると良い。私は形になる報酬が大好きなのさ。相手が男だろうが知ったことじゃないね。ご機嫌取りなんて真っ平ごめんさ」

 

俺に背を向け、大手を振りながら去っていく先輩。その背中に疑問を投げ掛ける。

 

「担当のウマ娘はどこに」

「先に車に戻ってもらっているよ。私はどこかのポンコツトレーナー君とは違うからね」

 

舌打ちをし、彼女に背を向けて控え室へと向かう。

チヨノオーはまだ外見中なのか、控え室に人の気配はなく、しんと静まり返っていた。

鏡の前の席に座り、携帯を開く。液晶に映し出されたのは、いつかチヨノオーと出掛けた際に夏祭りで手に入れたサクラワンコオーなる犬のぬいぐるみだ。

 

「........」

 

思えば学園の催し物でもない限り、彼女と出掛ける事なんて滅多に無かった。

三年間の記録を見返しても、フォルダに保存されているのはアプリのスクリーンショットばかりで、彼女との写真を探すことの方が難しい。

その数少ない写真を専用フォルダに移動し、ブラウザで旅行スポットを調べる。

 

「ぬいぐるみ。好きなのかな」

「好きですよ」

 

物凄い勢いで顔面をテーブルにぶつけ、反動で派手にひっくり返る。どこの漫画だ。

 

「えへへ。チヨノオー。ただいま戻りました!」

「リアルバックスタブ......」

「びっくり攻撃ですよ!」

「今のは命獲れるやつな」

「ところでトレーナーさん。何を見てたんですか?」

「サクラワンコオー」

「ワンコオーですか?」

「ああ、夏合宿のあれ」

 

起き上がって携帯画面を見せると、チヨノオーはそれをじっと見る。

 

「懐かしいですね」

「......なあチヨ。これからどうしたいとかって考えたことあるか?」

「どうしたいかですか?」

「ああ。一段落ついた事だし、よく考えたらチヨと出掛けた事もほとんどなかったからどこかに行こうかと思って」

「本当ですか!」

「何か希望があったら聞くぞ」

「......あちこち行きたいですけど。考え出したら止まらないかもしれないです」

「ならもう少し先にしようか。暫くはお互い忙しいだろうし。最強のウマ娘とそのトレーナーってな」

「最強.....良い響きですけど、何だか照れちゃいますね」

「何でだよ。誇れ誇れ!」

 

チヨノオーの頭をガシガシと撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細める。

 

「強いですよトレーナーさん。髪がボサボサになっちゃいますって」

「頑張ったご褒美だよ。気になるならセットしてやるって」

「そうですか?じゃあもっと撫でても良しとします」

「言ったな。なら遠慮なく」

 

両手でめちゃくちゃに撫でてやると、チヨノオーは子どもの様に声をあげてはしゃぐ。

 

「ありがとうな。チヨ」

「どういたしまして!」

 

平坦な道では無かったが、だからこそこうして二人で喜べるのだと思う。

躓いて、支え合って、立ち止まってまた走る。

決して近道ではないかもしれない。

それでもチヨノオーと走る道なら、それも悪く無いと思える。

まずは溜まった仕事を片付ける事から始めよう。あの日と同じ様に、新しいスタートに向けて。




6年振りの二次創作。
知識不足がえげつない。勉強重ねたらまた書くかもしれないね。
一次創作も進めておりますゆえしばしお待ちを(PSコントローラー装備)

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