チート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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トム・リドルの幼馴染編
01 異世界転生とか小説の中だけだと思ってた!


俺はいたって何処にでもいる一般人だ。

少々漫画やアニメ、ゲームなどのファンタジックなものが大好きでバイト代のほぼ全額をグッズや漫画に消費し、一人暮らし先の家賃と生活費は親の仕送りで生活しているどうしようもないクズな一般オタクと言えるだろう。

今日も今日とてビルの警備バイトに勤しみ8時間も立ちっぱなしで足は既に棒だ、めちゃくちゃ痛い。

 

 

欠伸を噛み殺し、暗い夜道をスマホを見ながらとぼとぼと家へと向かう。最近俺がハマっているのはハリポタとファンタビだ、子供の頃見ていたハリポタの小説と映画を大人になってから見ればまた違った印象を受け、さらにファンタビの映画を見てどっぷり沼にハマった。SNSで情報収集し、グッズを買い漁る日々。呪いの子が日本で舞台化されるとしり、発表された役者さんの錚々たる顔ぶれに思わず「なんでなんだよぉぉおおお」と某役者ぶりに叫んだ、東京。遠い。金。無い。

 

 

「セブルスのクッションとか相変わらず公式が病気」

 

 

マホウドコロオンラインショップを見て思わず呟く。いや、これ誰得?製作者の衝動的な悪意を感じるぞ?──まぁ買いますけど…

 

引き渡しは4月ごろらしい、うん。セブルスせんせーを連れてファンタビ3を見に行こう。きっとそう考える人は俺だけでは無いはずだ。

 

 

思わずマスクの下でニヤけながら明るいスマホの画面を見ていた俺は何も考えず曲がり角を曲がった。

 

途端、何やら悲鳴が聞こえふと足を止める。

周りにいた帰宅途中の人たちが皆上を見上げていた。

 

なんだろう、と俺も同じように上を見上げて──。

 

 

 

───あ。

 

 

と思った時には俺の意識はブラックアウトしていた。

 

 

 

 

 

 

 

───れ?

 

 

気がつけば真っ白な空間に立っていた。

いや、立っているかどうかはわからない、何となく立っている、気がしたが視界に映るのは白一色で俺の手も身体もスマホも無い。

最後の記憶にあるのは、建設中のビルのだかマンションだかの上から何やらでかいものが俺目掛けて落ちてきていた所だった。いや、安全義務違反では??そんなのが落ちるってどんな確率??別に風が吹いていたわけでも無いのに──どんな死に方だよ。

 

そう、たぶん、おそらく。俺は死んだのだ。

痛みを感じなかったのはよかった、俺は痛いのが大嫌いだし、即死できたのはありがたい。

 

だが、死して思考できるとは思ってなかったな。ここは死んだ者が皆行く場所なのだろうか?何もすることが無い、こんな場所でずっと居るなんて、流石に…かなりごめんだ。

 

 

 

「いや、皆がここに行き着くわけではない」

 

 

突然声がした。その声は男とも、女ともとれる中性的な声で子どもなのか大人なのかも分からない、奇妙な声音だった。っていうか誰?

 

 

「君たちは私の事を神と呼び、創造主と呼び、或いは全と呼ぶ」

 

 

ハガレンかよ!

いやいや、神?神様なんていないっ!じゃなくて。俺はなんでここにいるんだ?死んだのは間違いないのか?

 

 

 

「きみは死んだ。──だが、きみは本来なら35歳の時にある女性と恋に落ち結ばれ、子宝に恵まれ孫に囲まれながら98歳にその生涯を終えるはずだった」

 

 

──待て待て!あと3年待てば運命の相手と出会えていたのか!?良い大人になってもまだ親の脛を齧ってる俺が!?まともな職にもつけず、未だに女性経験皆無の魔法使いとなった俺が!?そんな素晴らしい未来があるのに、何故俺は死んだんだ!

 

 

「ちょっとしたミスで」

 

 

ミスなら仕方ないな、誰にでもミスはあるから──ってそんな言葉で許せるか!

思わずノリツッコミを繰り広げてしまうくらいにはショックだった。ごめんね俺、童貞のまま死んで。俺の息子は日の目を見る事無く玩具しか知らずにその生涯を終えてしまった…。

 

 

「神にも過ちはある。──元の世界の君は死んだ。それはもう覆す事は不可能だ。であるからして──君が望む世界線へと連れて行こう」

 

 

い、異世界転生!?

最近はやや下火ではありつつもなろう系の小説の中で最もよく読まれていたあれ!?不運な事故に巻き込まれて死んだらなんかめちゃくちゃチートになって「俺、またなんかやっちゃいました?」とか言って様々な種族の女の子達をメロメロにさせるハーレムものの、あれ!?

よくよく思えば俺の死は確かになろう系異世界転生によくありがちな死に方だ。そうか、あれは実話だったのか…!いやいやいや。そんなわけないだろう。

あれは物語の中であり、偶像だ、まさか、本当に──?

 

 

 

「本当だ。さて、どの世界線を望む?先程君が居た世界に限りなく近い世界、物の怪や怪異が蔓延る世界、AIと人間が共存する世界、異能力に溢れた世界──どのような世界であれ、実現可能だ」

 

 

…待ってくれ!

俺がその世界にいくとして、めちゃくちゃファンタジーな世界に行くとしてだ。俺の戸籍やら出生はどうなる?それは神様の力でちゃちゃっとなんとかしてくれるものなのか?知らない世界に放り出されて数日後に飢え死フラグなんて俺は嫌だぞ!

 

 

 

「勿論、ある程度不自由無く、かつ、矛盾のない生まれに世界が受け入れるだろう」

 

 

 

おお、それは…便利な事だ。

──さて、どうしたものか。一番良いのは元いた世界と限りなく似た世界に行く事だろう。そうすれば俺は今まで通り親の脛を齧りオタク活動に勤しむ事が出来る、神様の言う通りならそれなりに幸せに暮らせるのだろう。

だが、こんな機会──きっと、普通なら、あり得ない。それなら、いっそのことファンタジーでクレイジーな世界に飛び込むのも悪くない、夢にまで見た素晴らしい世界に行くことができるのであれば、安心安全で──退屈な世界におさらばしよう。

 

…いや、待て俺。早まるな。

こういう転生にはある程度パターンが存在する。所謂チート能力の方は、どうなってるんですか?

 

 

 

「世界が拒絶しない程度ならば、3つまでその身体に設定をインプットした上でその世界に送り出す事が出来る」

 

 

 

──やったぜ!!

俺はぐっとガッツポーズを決めた。多分、見えないからわからないけど。

チート能力を決められるのはありがたい、それなら何をするか、もう決まっている。

 

 

何度夜寝る前に妄想しただろうか、スマホのメモにぽちぽちと妄想を打ち込み、それを見ながら長い空想に浸っただろうか。

 

 

「──どの世界かを、まずは聞こう」 

 

 

 

それはもう、決めた。

俺が行く世界は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!起っきろー!」

 

 

俺はベッドの膨らみに飛び乗ったが、寝ていたと思われるその人はさっと起き上がり毛布ごと俺を軽く抱きとめる。相手の胸元にしこたま鼻をぶつけた俺は痛む鼻を思わずさすった。

 

 

「何するんだ!俺の高い鼻が曲がったらどうする!」

 

 

恨みがましく見上げれば、その人──トム・リドルはくすくすと楽しげに笑いながら俺の額に軽く口付け「おはよう、ノア」と耳元で囁く。うーん、耳元ぞわぞわする!

 

 

「確かにそれは由々しき事態だね。君の唯一の長所が失われる」

「ひでぇ奴だな!──ま、いいや朝食だ!早くいこーぜ」

 

 

俺は抱きすくめられていた腕から逃れベッドの側に降り立つ。 

 

 

──そう、俺は紛れもないハリポタの世界に来ていた。このかなりの美しい少年は若きヴォルデモートである、トム・マールヴォロ・リドル少年だ。ちなみにまだ10歳である、10歳でこの美貌!他の子供達より背が高く!そして足も長い!既にモデル体型!

 

 

今までの俺なら羨ましいっ!となっていたが、もう俺は今までの平々凡々な俺では無い。

 

 

壁にかけられている鏡の前に立ち、髪の乱れを整える。そこに映るのはリドル少年に負けず劣らずの超絶美少年だ。──やや、男の娘よりの外見なのは俺の好みだといえよう。うん、男の娘、最高!

 

さらりと流れる銀髪はこの孤児院の安っぽい固形石鹸でも痛む事はなく美しく肩下まで伸び、それと同じ色のまつ毛はふさふさとしていてつけまつげ何枚重ねですか?と聞きたくなる程の長さと量だが、これは自前だ。

目は大きく、瞳の色はブルーグレー?と言うのだろうか、やや青みのある灰色で、まるで宝石かと思うほど輝潤んでいる。肌もくすみひとつないもちもちとした赤ちゃん肌でこれは全世界の女性の嫉妬を受けること間違いなしだ!──背がやや低めなのは男の娘だから仕方がない。

何処からどう見ても美少年。それも、特別愛らしい男の娘。そんな見た目に俺は異世界転生していた。

 

──そう、俺が神様に願ったひとつ目のチート能力はこの見た目!誰からも愛される世界で最も美しい見た目にしてくれ、そしておれは男の娘が好きだ!と言ったらこうなった。

 

 

「はぁ…俺、今日も世界で一番可愛い…そなたは美しい…」

「また見惚れてるの?溺死しないように、水辺には近づかない方がいいんじゃない?」

「ははは!こんな可憐な人を見たまま死ねるなら、ナルキッソスになっても構わないさ!」

 

 

だって、まじで可愛いから。これが大人になっていったらどう成長するか楽しみすぎる…っていうか俺この歳になって下の毛生えてないけどこんなもんなの??男の娘には毛なんて生えないの?脛毛すら生えないけど。…ま、こんな可憐な面しててワキゲーボ・ボーボボも嫌だわな。

 

 

「…ほら、行かないの?」

「おっと、忘れてた。ごめんヴォル」

「…良いよ別に」

 

 

リドル──もといヴォルはもう俺が長時間鏡の前でうっとり見惚れる事も慣れっこなのか深く気にする事無く許してくれた。うーん懐が広い。

俺の記憶ではこの年齢のヴォルの心は硬質化した結晶内に居るアニのように閉じこもっていた筈だが、俺がうっかり溶かしてしまったらしい。もしかして俺がアルミンだったのか?──アルミンも中々に男の娘としての素質があるんだよなぁ。

 

 

「ノア」

「おー」

 

 

ヴォルが手を差し出す。

俺はその手を何の疑問も抱かず握り、ヴォルの部屋から出た。…こいつ手冷たいなぁ。

 

 

 

「おはよう、ノア」

「エイミーおっはー」

「ノア、今日もかわいいね」

「当たり前だろ?」

「ノア!今日のパン、好きだったろ?ひとつあげるよ」

「まじ?サンキュービリー」

 

 

超絶モテモテである。まぁこの外見と?俺の内面では仕方のない事ですが?

しかし隣にいるヴォルの機嫌は徐々に降下していく。うん、初めて知ったときは驚いたけどトム・リドルはかなり嫉妬深く、そして俺に対する依存度が高い。まぁ、ヴォルに気に入られる為に俺が昔から色々構って来たのと、俺とヴォルだけが持つ力のせいでもあるのだろう。二人だけが、この孤児院では特別なのだ。

 

俺は握られている手を強く握り、ヴォルを見上げ「食べよーぜ!もー腹ペコ!」と笑った。ヴォルは少し機嫌が戻ったようで子どもたちに呪いをかける事無く席に着く。うん、良かったよかった。

 

 

 

俺がこの孤児院に来てもう5年になる。

神様にハリポタの世界がいいと頼み、とりあえず若きトム・リドルと交友を深めてみようとワクワクしながら目を開けたら──殺人現場でした、草。──草生やしてる場合じゃなくて、流石にその現場に俺は「ひぇぇ」と情けない声をあげてちょびっと漏らした。

後々知った事だが、強盗により殺されていたのは俺の親だったらしい…全くもって記憶にないが流石になんか、ごめん!って感じだ。俺がこの世界に滞りなく現れる為の必要な犠牲だったのか、それがこの人たちの運命だったのかはわからないが、とりあえず月命日にはこっそり花瓶に花を生け、死に顔しか知らない両親に謝っている。

 

 

その後警察に保護され身寄りの無かった俺はここ、ロンドンにあるウール孤児院で生活する事となった。ハリポタファンの俺はピンと来たね。俺じゃなきゃ見逃してたな──。

というわけで5歳の幼いトム・リドルと積極的に関わり、既に魔法を出現させ、周りから気味悪がられていたリドルの凍った心にズケズケと入り込み続けた。まぁ、それは簡単だった。俺も不思議な力が使える。そういい魔法を見せればリドルは割とすぐに俺がそばに来ることを許した。

ここまで心を開かれ依存されるとは、流石に思っては無かったが。うーん、まぁヴォルの見た目は今はイケメンだし!美少年と男の娘の共演は最の高だから問題なし!俺は今を目一杯楽しむと決めたんだ!

 

 

「あ、ヴォルー、マーマレードとって」

「…ん、これ?」

「おお、サンキュー」

 

 

ちなみにヴォル、と言うのは愛称だ。俺が命名したが孤児院で使っているのは俺だけだ。可愛いし言いやすいのに皆「トム」と彼のことを呼ぶ。トムと呼ばれるたびに嫌そうな顔をしていたヴォルに、知ってはいたが8つの時に何で嫌なのかと聞けば単純明快、よくあるトムという名前が嫌いなのだ。

彼は自分が特別だという自信がある、そんな特別な自分にトムなんていうありふれた名前はふさわしくない、という事だ。…まぁ、確かにトムと呼ぶのはいささか奇妙な感じがする。二次界隈ではもっぱらリドル呼びだったし──オタクだから知ってるだけで腐男子ではない、少々ディープな世界を知っているが、いたってただのオタクだ。いや、もちろん別にBLが嫌いなわけではないけれどどちらかというと百合派なのだ、ちょっとショタコンロリコンなだけで──兎も角、「んじゃ、マールヴォロからとってヴォルって呼ぶよ」と言えば、リドル、もといヴォルは少し考えていたが嬉しそうにそう呼ぶ事を許した。

ヴォル──ヴォルデモート。彼を好むオタク達はよくそうやって呼んでいた。勿論俺もヴォル様!なんて言っていた時代もあったものだ。

 

 

「あんまり食べ過ぎると太るよ」

「俺はヴォルと違ってぇー本の虫じゃないんでぇー大丈夫なんですぅーこの後ぉーサッカーするんでぇー」

 

 

語尾を伸ばしてからかえば周りの子どもたちの顔色は一気に強張りちらちらとヴォルを見つめる。この子たちはヴォルを怒らせたらまた奇妙で不気味な事が起こると思っているのだ。──それは間違いなく、正しいのだが。俺はこんなからかいでヴォルが俺には、怒らないと知っているためノープロだ。

 

 

「…ノア、君はもう少し知性を学んだほうがいいね」

「大丈夫、俺は愛嬌とこの美貌だけで世間を渡り歩くつもりだから。大きくなったら大富豪の女捕まえて逆玉するから。それかトップモデルになっても良いかも」

 

 

軽く言えばヴォルは黙った。

間違いなく俺にはそれが出来る可能性がある、とヴォル自身も認めているのだろう。それ程、俺は美しい。

 

 

「それに、ヴォル?俺の今学期の成績は君と同じオールAなのをお忘れかな?」

 

 

ふふん、と鼻高々に言えば少しヴォルはご機嫌斜めになったのか、むすりとしたまま食パンを齧った。

まぁ、俺の中身は30をゆうに超えている。俺の側の人がイギリス人だからか言語の問題は元々無かったし、10そこらの子どもの勉強など少し教科書に目を通せば余裕のよっちゃんである。…まぁ、いつか全然わからなくなりそうな予感はしているが。

 

 

 

 

「──よし!サッカーしよーぜ!」

「うん!」

「行こう行こう!」

 

 

 

食べ終わった俺は勢いよく立ち上がりビリー達に声をかける。皆はぱっと顔を赤らめ──俺の面が良すぎるあまりにこの孤児院にいる子どもたちは皆、年中リンゴ病のようになっている──すぐにあまり広くない庭に向かった。

 

 

 

「うなれ!俺の右足!ハイパーローリングシューーーット!!」

 

 

そんな事を言いながらきゃっきゃと子どもたちとボールの蹴り合いを楽しんでいたら、うっかり白熱し過ぎてビリーと思い切り衝突し、そのまま2人揃って転倒してしまった。頬と膝にぱっと熱い感覚があったが、気にせず立ち上がり、ズル剥けになり血が流れる膝を見た。

 

 

「うーわー…見たら痛くなってきた」

「ノ、ノ、ノア!!きっ、きみの、顔が!」

 

 

ビリーが顔を蒼白にさせて俺を指差し、ぱくぱくと口を開閉させる。──へ?顔?

 

頬に手を当てればチリッとした痛みと、ぬるりとした感触。そっと手を目の前に持ってきてみれば──。

 

 

「──なんじゃこりゃあっ!」

 

 

べっとりと血がついていた。

ここの庭は整理されているとはいえない、きっと尖った小石か何かで引っかけてしまったのどろう。ああ、俺の美しい顔に傷がっ!

 

 

「ま、いいや。ビリー怪我は?」

「え、ええ?な、ないけど…ノアの方が…」

「はん!俺の顔面の美しさは傷ひとつで失われない!…それに、血で彩られた俺も中々に美しくないか?」

 

 

ポケットから小さな折り畳みのコンパクトを取り出しうっとりと眺める。頬を流れる血を指で掬い唇を撫でれば紅を差したかのように扇状的に見えた。うん、俺だってわかっていてもゾクゾクする見た目だな!

 

 

「──ノアっ!」

「ヴォル?」

 

 

庭に飛び込んできたのはヴォルだった。いつもの冷たいポーカーフェイスが見事に崩れ、驚く程狼狽している。血に濡れた俺がそんなに色っぽいか?ん?子供には刺激が強すぎたか!

 

 

「顔に傷が…!君のたった一つの美点が!」

「おーい、まてまて、俺は顔面は勿論国宝級だが、中身も良いと思わないか?」

「っ…ビリー!君がわざとぶつかったんだろう、ノアに触れるために!」

「なっ…!そ、そんなこと、してない!」

「俺の言葉は無視か」

「どうだか、いつもノアばっかり見てるだろ。よくもノアの顔に傷を作ったな…」

 

 

強い目でヴォルはビリーを睨む。ビリーは顔を蒼白にさせ、可哀想なほど震えながら縮こまった。

ざわり、と風もないのに植えられていた木々が騒めき、その葉っぱが奇妙に舞い狂う。

──あーこりゃいかん。魔力が暴走してる。

 

 

 

「いやいや落ち着けヴォル、ビリーが俺を見るのは当たり前だ、こんなに美しいんだから仕方がないさ!ぶつかったのはサッカーで白熱し過ぎたから!俺も悪い!な?──んな怒るなって!ヴォルの大好きな俺の美貌はこんな傷では失われねーよ!」

 

 

ビリーは動きのおかしい葉っぱに襲われ今にも気絶しそうな程震えその場にへたり込んでいた。流石に可哀想だし、ぶつかったのはどっちも白熱していたせいでビリーが悪いわけではない。

俺はヴォルの固く握られ、冷たい手をそっと握ってそのうっすらと赤くなった目を見つめた。二次創作では常に真っ赤な瞳で描かれている事が多いが、彼の瞳は基本的には暗い灰色だった。ただ、どうも激昂するとその目が赤く変色するらしい。──うん、初めて知った。怒ったら目が赤くなるとかクルタ族か何かかな?

 

 

「──…ノア」

 

 

リドルがふっと手の力を抜くと、途端に舞っていた葉っぱは落下し、自然の風により地面スレスレを飛んでいた。ビリーは顔を蒼白にさせたまま、恐々見守っていた子どもたちと共に蜘蛛の子を散らすように孤児院内に逃げ帰る。

 

リドルはポケットから白いハンカチを出すと俺の頬に当てた。また、チリッとした痛みが走る。

 

 

「君の顔が…」

「…本っ当に俺の顔面が好きだなぁヴォルは!」

「そこしか良いところが無いしね」

「ひでぇ」

「将来トップモデルになるんでしょう?…痕が残らなかったらいいけど…」

「ふふん、── 大丈夫(・・・)さ」

 

 

俺はハンカチを押さえるヴォルの手に自分の手を重ね、悪戯っぽく笑った。

 

 

「──ほら、元通り」

「え?──ノア、そんな力()あったの?」

 

 

俺の言葉に訝しげに眉を顰めたヴォルだったが、ハンカチをそっと頬から外してみればその下にあった筈の傷はかけらも残っていなかった。

異世界転生にあたって神様に頼んだチート能力その2、どんな魔法(・・・・・)も使用可能!

きっと、俺の頬は相変わらずのつるりとした美しく滑らかなものだろう。まぁ、血の跡はついているっぽいな。 

 

 

「まーね、一応言っとくけど。ヴォルだから教えたんだぜ?誰にもいうなよ」

「わかってる。…やっぱり、君は特別だ」

 

 

ヴォルは頷き、嬉しそうに──満足げに目を細める。

特別、にこだわるヴォルは俺と、そして自分に対しても良くその言葉を使った。

 

 

 

「まぁ、特別な美貌だな!」

「そういうわけじゃないけど」

「え?ああ、そうか、奇跡的な美貌だ!」

「…もういいよ」

「はい、ありがとうございましたー」

 

 

漫才の締めとして言ったが、ヴォルにはジャパニーズマンザイなんて通じる訳もなく、また訳の分からない事を言ってる、という呆れたような目で見られてしまう。

 

 

「本当、君は何にも喋らない方がいい」

「おいおい俺が人形みたいに可愛いって事か?照れるなー」

「褒めてない」

 

 

ついでにズル剥けた膝の怪我も手で撫でて治す。流石に完全に治癒したのを他の子に見られるのは面倒な事になりかねない。木の幹のそばに置いていた俺の鞄からテープとガーゼを取り出しいかにも処置しました!と見えるように両膝と頬に貼った。

 

 

「うーん。こう怪我してる美少年ってのも中々に良いんじゃね?儚い感じがするよなぁ庇護欲そそられるだろ?」

 

 

ヴォルを見上げて言えば、ヴォルは暫く黙った後大きなため息をついた。

 

 

「何も喋らなかったらね」

 

 

どれだけ俺に黙ってて欲しいんだよ。

俺しか喋り相手居ないくせに!

 

 

 

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