ホグワーツ3年目のビッグイベントといえば!
そう!ホグズミード行き!勿論今はまあまあ平和なので問題なく、いく事が許されている。ヴォルはイギリスで唯一魔法族のみが暮らす村にかなり興味があるようで早く行きたがっていた。
「ハニーデュークスに行ってお菓子を山ほど買いたい!」
「…金があるの?」
「うーん、無い!」
俺もすごくホグズミードは楽しみだ。ハニーデュークスのお菓子はたまに貢ぎ物で貰うけれど、どれも美味しい。中にはこれなんで商品化したんだ?というゲテモノ系もあるが、それはほら、飲み会とかで使うのかもしれない。あとはネタでちんちんキャンディとかおっぱいチョコとか、マグルの世界でもあるのは知ってる──よくお土産屋さんに売ってるやつだ。
しかし、そんな美味しい菓子も、ネタ枠の菓子も。当たり前だが売り物なので万年金欠の俺たちが買うことなんて不可能だろう。ホグワーツからは1年間まとめてある程度の金は支援されて学業をこなす分には問題がないが、娯楽の為のお金は…まさに、雀の涙ほどしかない。バタービールも飲めないくらい。
一年生の時のゴスロリ写真での売上は賢者の石を作る為に使ってしまってすっからかん。
さて…パパ活でもするか。俺はまだ美青年、ではなく美少年の域だからな。
そうと決めたら即行動、今日は休日だし自分の研究室にいるだろう。
「ちょっくらパパ活してくる!」
「何それ」
「イケオジとデートしてくる!」
「はぁ?…ちょっと、ノア!」
ヴォルが何故か焦ったような声を出していたけど無視してイケオジ──ダンブルドアの元へ向かう為に自室を飛び出した。
「ダンブルドア先生ー!いますか?」
「…ノア、なんだね?」
ダンブルドア先生はやっぱり変身術の教室の隣にある研究室に居た。
沢山の本や羊皮紙の山が乗っている机の奥で、なにやら書き込んでいる。普通の羽ペンではなく、美しい大きな真っ赤な羽のついている羽ペンを忙しなく動かしている…もしかして、不死鳥羽ペン?
「あのー次の週末ホグズミード行きですよね?お小遣いくださーい!」
机まで駆け寄り両手を差し出してみた。
ダンブルドアは片眉を上げてすぐに首を振り拒否の姿勢を見せる、ま、そうだよな。
「個人的に生徒を優遇する事は出来ん」
「ですよねー…なら、ビジネスの話をしましょう」
「…ビジネス?」
ダンブルドアはきっぱりと拒否するとすぐにまた羊皮紙に視線を落としたが、俺の言葉に手を止め訝し気に俺を見上げた。
青くてキラキラとした瞳がその言葉の真意を探ろうと俺を見つめる。
「そ!ビジネスです。俺の時間を売ります、10分3ガリオンで。──一緒にお茶しながらお喋りするわけです、友人や恋人のようにね!嬉しいでしょう?あ、えっちぃのはダメですよ?」
「……ふむ」
ダンブルドアは短い鷲色の髭をさすりながら考え込んだ。10分3ガリオンはぼったくりかな?まぁ俺にはそれくらいの価値は十分にある筈だ!
「
「はーい!まいどあり!──なんて呼べば良いですか?先生?パパ?お爺ちゃま?…ダーリン?」
「…先生で」
「はーい、先生!」
部屋の中央にあるソファに座るよう手で促された俺は、すぐソファに座り、対面するようにもう一つのソファに座ったダンブルドアを見た。ダンブルドアは真面目な顔で「まずは──」と言い出す。
ダメだ!この人はパパ活の何たるかをてんでわかっちゃいない!
「まずは、ノア君は──」
「ストップ!」
「…会話するのでは無かったか?」
言葉を遮られたダンブルドアは目を細め俺を少し睨んだが、気にせず悪戯っぽく笑う。
「チッチッチッ。…
そう言えば小さなため息と共に杖が振られ、目の前の机にティーセットや茶菓子が現れた。うんうん、これがパパ活だろう。残念ながら未経験だが。
「これで良いかね?」
「はい!──真実薬入りだったらすぐ帰りますからねー?勿論代金はもらいますが」
「そんな無粋な真似はしない」
ティーポットは1人でに浮かびカップに琥珀色の紅茶を注ぐ。温かな湯気が揺蕩うそれを持ち、一口飲んで「では、どうぞ?あ、えっちな質問は別料金です!」と話の続きを促した。
「ノア、君は──賢者の石をまだ諦めてないのかな?」
「ん?はい。まだ暫くかかりそうですけど、まぁ作れると思いますよ…今のところ順調です」
「…ニコラスが聞けば仰天するだろう」
「ニコラスさんと俺はペンフレンドなのでもう伝えてますよー!応援してくれてます」
「…いつの間に」
ダンブルドアは目を見開き、俺の耳にあるピアスに目を止めた。うん、間違いなく気づいているだろうな。これがただのピアスじゃないって。真っ黒だった石は僅かに灰色っぽくなっている…気がする、まだほぼ黒に近いけど。
「…トムは元気かね?」
「え?ふつーに元気ですけど」
「…ならよい。君たちは…友人なのか?」
俺は皿の上にあるクッキーを掴み口の中に放り込んだ。──うん、バターの味がしてすごく美味しい。──ダンブルドアの質問に少し考えて苦笑する。
「俺と彼は幼馴染ですよ。5歳からのね。──友人、という言葉では充分ではありませんね」
「…私は、彼が闇に飲み込まれないか心配だ。…ノア、君はどう思うかな?」
ダンブルドアの目が鋭く光る。
その言葉はヴォルを心配している、というよりも、この魔法界の未来を憂いているようなニュアンスだった。あれ?もう目をつけていたんだっけ?
「さー?飲み込まれる事はないと思いますよ」
むしろ食らいつくくらいの勢いだと言う事は秘めておいた。
「…ノア、君は彼のそばに居ることが出来るのかな」
「それを、あいつが望むのなら。──先生?他の男の名を口にするのは無粋ですよ」
にっこりと笑えば、ダンブルドアは少しだけ目を翳らせ長いため息をついた。何を思い出しているのだろうか。…自分とたった1人の親友の事かな?
……もしかして、俺とヴォルが自分達の二の舞になるんじゃないかと思っている?まぁ確かに俺たちは眉目秀麗で魔法の力も他者とは比べ物にならないほど優秀だろう。それこそ、歴代のホグワーツ生の中で一番と言ってもおかしくないほどには。
「…グリンデルバルドと先生みたいになると思ってます?」
ダンブルドアは答えず、俺の目を見つめるだけだった。…閉心術が使えて本当によかった。そういえば、ヴォルはもう使えてるのかな?閉心術はオートでかかってそうだけどな、あいつは。
「ノア、他の男の名前を口にするのは無粋じゃなかったのか?」
少し揶揄うように、ダンブルドアは言った。
その言葉に俺は肩をすくめ「そうでした」と言いそれ以上追求せず紅茶を一口飲む。
「だが──何故、私と彼の関係を知っている?」
「え?──俺には色々教えてくれるパトロンが居るんです」
しまった。ハリポタファンだったら周知の事実である2人の関係、ちょっと親友以上であるその事は、一般的に知られていないのか。
…もしかして、友人関係って事も知らない人が多いのか?まぁ学校は違うし、出会ったある意味偶然であり、必然なわけだから…そうか、知られてなかったのか。
「…まぁよしとしよう。…ノアとトムが対等な友人関係を築ける事を、私は願っているよ」
「はは、それはどーも」
本当に願っているのか、その言葉には若干の皮肉が混じっているような気がした。
まぁ、俺とヴォルは友人関係を築けないだろう、俺がいくらヴォルを友人だと認めてもそれは永久的に一方通行だ。ヴォルには、友人なんて必要ないから。
「先生。俺は、綺麗なものが好きです。俺のこの顔も、彼の顔も──」
俺は言葉を切ってダンブルドアの青い宝石のような目を見つめた。
「あなたのその心もね」
「──私の心?」
「ええ、綺麗だと、思ってますから」
全ての人を操り黒幕だとハリポタファンの中では言われているダンブルドア。勿論、それは間違いではない、人を操る術に長けていて、未来を見通す力と、確実なカリスマ性を持っているからこそだろう。だが、この人はただの黒幕では無い──人の愛や、人を信じる事を美徳とする何よりも善人なのだ。
この人が真の黒幕──ヴィランなら、ヴォルはきっとまともな学生生活を過ごせていない。まだ成長していく少年の心にきっと性善説があると、今は、ヴォルを信じているのだろう。
ダンブルドアは虚をつかれたように押し黙り、少し疲れたような、曖昧な顔で微笑んだ。
「ノア、君は愛の魔法を知っているかな?」
「愛の魔法?」
「ああ──愛は全てに勝る力を持つという考えだ。どんな呪いも打ち破ることが出来る…その力をどう思うかね」
「そうですねぇ」
愛は全てに勝る。それは知っている。のちにリリーが息子のハリーを守る為にヴォル──ヴォルデモートの死の呪いを跳ね返す。自分の命を犠牲にして。
たしか、神秘部では愛についても研究してるんじゃなかったかな?それほど深い学問なのだろう、最早哲学かもしれない。
「もし、愛が全てに勝るのなら、全てに愛される俺はこの世で一番強いってことですね!」
完璧な笑顔を見せれば、ダンブルドアは閉口し紅茶を飲んだ。彼の望んでいた答えでは無かったかもしれないが、愛を否定しなかった俺に安堵しているようにも見える。
「さて、もうすぐ30分です。延長しますか?」
「──いや、充分だ」
紅茶を飲み干して言えば、ダンブルドアは立ち上がり机の引き出しから袋を取ると中から9ガリオンを取り出し、俺の手の上に乗せた。
「またのご利用の程をお待ちしてます!」
「…そうだな、…また」
ダンブルドアは部屋の扉を開け、俺を見送った。手のひらでちゃりちゃりと音を鳴らす金にホクホクとしたまま自室へ戻る。この金が有ればホグズミードで充分楽しめるはずだ!ヴォルにバタービールくらいなら奢ってやろうかな!
「たっだいまー!」
「何してきたの」
「うわっ!」
扉を開け放ったら、思ったより近くにヴォルが腕組みをして待っていて少しびびる。その顔は嫌そうに歪められていて、背の高いヴォルは俺を睨むように見下ろした。
「何って、別に?楽しくデートしてただけさ。ほら見ろよ30分で9ガリオン!」
「君がそんな売春婦みたいに低俗な真似をするとは思わなかったよ」
一体ナニしたら30分で9ガリオンも貰えるんだか、とトゲトゲしく言うヴォルに、にやりと笑う。
「俺の時間を買うか?10分3ガリオンで」
「……人のお古なんて僕は嫌なんでね、全く君がそんな人間だとは思わなかったよ」
「はは!何勘違いしてんだよ、ただ茶ぁ飲んで喋っただけさ、指一本触れてないっつーの!」
けたけたと笑えば、ヴォルはムッとしたまま椅子に座ってしまった。ただのおしゃべりでナニを想像したんだか。
「──いや、君は30分あればイけるだろ」
「うるせえわ!早漏馬鹿にすんな!」
まだそのネタ引っ張るのかよ!と突っ込めばヴォルは意地悪気に笑った。──どうやら揶揄われたらしい。けっ、可愛くねえやつ!