世界で最も美しく魅力的であるパーフェクトヒューマンノアの時間が10分3ガリオンで買えるらしい。
という噂は2日後にはホグワーツ全体に広がっていた。何でそんな話が広まったかというと、単純明快こりゃいいビジネスになる!むしろ何で今まで気が付かなかったんだろう!──と、いうわけで、自分でスリザリン生達に売り込んでみた。
10分3ガリオン、料金先払い。
お茶してデート可能、えっちぃ事は禁止。ただし手繋ぎハグはオッケー。お茶してデート以外は要相談。
「ノ、ノノノノノア、ぼ、ぼぼぼ」
「えーと…?」
「い、い、今からに、にに20分コース、大丈夫っ…!?」
「あ、はーいオッケーです」
名前も知らん童貞らしい上級生と校庭にあるベンチに座って取り止めもない話をした。ちなみに話すだけではなく、小指だけ手を繋ぎたいという──サマーウォーズかよ!突っ込んだ──要望も叶えられた。
「ノッ…ノアくん!10分だけ…図書館で一緒に…」
「はーい、今日の昼休みでいい?」
純朴そうなハッフルパフの女の子に声をかけられ、図書館で一つの本を一緒に読んだ。
「ノア様、今日の夕食時の30分を私に買わせていただけますか?」
「いいですけど、何をするつもりで…?」
「ふふ、勿論…あーん♡をしてあげたいの」
「あっ、俺がされる方なんですねオッケーです」
スリザリンの7年生のお姉様に言われ食べさせてもらったら、それはそれで周りがざわついた。おねショタというやつだろう多分。
「ノ、ノア君!今度のホグズミードは誰と行くの?勿論トム君だよね?ね?そうだよね」
「お…おうそのつもりだ」
廊下を歩いていたら6人の女の子達に囲まれてしまった!にげる?戦う?──話を聞く!
最後は疑問符では無い何故か威圧感を滲ませながら女の子が俺に聞く。頷けば嬉しそうに笑い「1時間!」と叫び、その時間の長さに周りにいたギャラリー達がどよめいた。
1時間──つまり18ガリオン!物価が安い魔法界では破格の値段だ。今まで1時間を指名した者は居なかった。
「ホグズミードに行く前の1時間、私達が買うわ!」
「私達…?」
6人の女の子達が頬を染めて頷く。成程、1人なら高額でも6人なら手が届かないわけでもないのか。──うーん…まぁいいか。
「オッケー!」
「ありがとう!1時間前に寮に迎えに行くわ!」
きゃっきゃと嬉しそうな黄色い声をあげて、女の子達は去っていった。
ーーーー
ホグズミード行きの日。
玄関ホールに沢山の生徒がそわそわと楽しげに会話する中、ヴォルは生徒たちを見回し少し眉を顰める。「ちょっと用があるから!時間に玄関ホールで待ち合わせな!」と言って早く寮から出たノアがどこにも居なかった。
誰よりも目立ち、どんな場所、どんな集団に紛れていても1人輝きを放つその特別な人を、この僕が見つけられないわけがない。トム・リドルはそう思っていた。
期待と興奮のざわめきを交わす生徒達にまぎれてまさかこんな日に遅刻してくるのかとリドルがやや不機嫌になっていた所──それを見たとある女生徒達はいつも居る人がいなくて寂しいのね、きゃっ!と囁いた──後方にいた生徒たちが後ろを見ていきなりぴたりと動きを止め言葉を無くした。
その奇妙な動作に誰もが怪訝な顔をしながら振り返り、玄関ホールに続く大理石の階段の一番上に立つ人影を見上げた。
「よ、妖精…」
その言葉を口にしたのは誰だったのだろうか──。
俺はホグズミード行きを楽しみに待つ集団を見下ろしていた。誰かが俺を「妖精」と呼ぶ声が聞こえたが、今の俺はまさにその通りだ。
真っ白で清楚なワンピースにはフリルやらレースがふんだんに使われていて、俺はレースで出来た肘までの長い手袋をはめ、それとぴったりな白い日傘を持ち──残念ながら空は曇天だが──肩下の髪は腰下まで魔法で伸ばし、そして薄らと唇には紅が引かれている。
そう、6人の女の子達は俺を着飾る為につかったのだった。
「な、なんて事なの!?ファンデーションなんていらないわ…!」
「アイメイクで誤魔化さなくても大きな目…あ、ああっ…そのまつ毛になりたいっ…!」
「折角だから髪は少し編み込みましょう!──まって、これは髪なの?絹じゃなくて??」
「今日のためにハイブランドのグロスリップを買ってきたわ!ぷるぷるつやつやよ!」
「服もノアに合わせて特注で作らせましたのよ?──ああっ!推しのニュースタイル最高!」
「推しに課金できる幸せ!!」
以上が6人の女の子たちの会話のごく一部を抜粋したものである。
結局、化粧という化粧はされていないのだが、いつもより頬と唇は赤く、瞼には少し青色のシャドウが塗られている。青なんて似合うのか?と思ったが不思議と似合うのだから流石俺の美貌だと言えるだろう。
着飾ることに1時間もかからず、残りの時間は俺の撮影大会になっていた。正直俺でもどこの二次元キャラですか?と言いたくなる見た目なのだ。
間違いなく俺を見上げ口をぽかんと開けている者たちには俺が妖精か天使に見えているはずだ。
俺が一歩階段を降りれば感嘆の息が漏れ──「美しすぎる」
スッと視線を向ければ何十人かが胸を抑えふらつき──「こ、この胸の苦しみはっ…恋のクルーシオか!?」
玄関ホールに降り立ち、くるりと優雅にスカートをひらつかせくるりと軽やかに周り、微笑みながらパチンとウインクをすれば何百人が気絶した。──「もう、今死んでもいい」
ヴォルの周りには男女問わず倒れていて、一見するとヴォルが何か闇の魔法を使って惨殺したのかと思ってしまうほどの光景だが、彼らの死因は萌死だ。
ふと、足を止める。
困った。倒れている人が多すぎてヴォルの側に行けない。
「…どうしよう、ヴォルのところに行けないなぁ」
「踏んでください!」「どうか!その御足で!」「わ、私の背中を踏んでくださいまし!」
屍が口々に懇願する様子に流石の俺も若干引いた。俺女王様になりたい訳じゃないんだけど?
全体重を乗せるのは気が引け、俺自身に重さ軽減魔法をかけその背中をそっと踏んでいく。その度に嬉しそうな悲鳴があがったが、この際気にしないでおこう。
多分また敏感なお年頃の子供たちの新たな性癖の扉を開いてしまったのだ。
「ヴォル、おまたせ」
「…ノ、ノア…」
ヴォルは唖然とし目を見開き俺を見つめていた。いつもよりその頬の血色は良いように見える。
ふっと笑えばヴォルはぐっと口を閉じたが、少しして大きなため息をついた。
「…本当に何を考えてるんだか…」
「ま、美少女な俺もなかなかだろう?」
「…顔だけが、唯一の美点だからね…」
否定しないヴォルは足元に倒れている者たちを嫌そうに見下ろしたが気にせず俺の手を繋いでさっさとホグズミードへ向かった。
ちなみに、ヴォルがホグズミードに入る前にぽつりと「いつものノアの方がいい」と拗ねたように言ったため、女の子達には悪いが化粧はスコージファイし、服装や髪も変化させた。
その後俺は3本の箒で芸能界にスカウトされ、ディペット校長に報告したらなんとまぁ許可されてしまい、俺は学生とモデルという肩書きを持つことになった。
俺の魅力がホグワーツだけでなく、イギリス中に広がるのもそう遠くない話なのかもしれない。
どうやら、ヴォルがイギリスを手に入れるよりも先に俺が手に入れる事になりそうだ!