俺はホグワーツを卒業し、多忙な日々を過ごしていた。
毎日写真撮影に移動にインタビューに…魔法界だけでなく、マグル界でも活躍する俺は、最早普通に外を歩くことが出来なくなっていた。
特に、昔から俺を知っている魔法界はまだマシだが、マグル界での俺への熱狂ぶりはマジ半端ねぇ。
ちょっと時間ができたし買い物でも行こうかと思えばすぐに人に群がられてしまい、かなり人々は混乱し押し合いへし合いの大騒動になり、何度か警察が出動するハメになってしまい──俺としては少し納得してないが、認識阻害魔法が掛かったメガネをかけるはめになった。
これをかけていれば、俺が超有名人だと気付かれないらしい。ま、といっても俺の溢れる魅力はこんな魔法道具では抑えきれず、本来なら一般人に見えるその効果はあまり発揮されてない。
5000年に1人の美貌が、500年に1人の美貌レベルに下がり認識されている。つまり…それでも、中々の美貌なのだ。
結局俺は──まぁ、自由時間なんてほぼほぼ無いし、いいんだけど──見る人が見ればハイパーノア様だとバレてしまうため、外出があまり出来ていない。
「──ただいまぁ」
「お帰り。…久しぶりだね」
「んんー流石に疲れた。まぁ…明日の朝にはまた戻るけど」
夜遅く、アメリカの事務所から、自分の家へと姿現しをし一時帰宅する。こんな長距離を姿現しする事も、最早慣れたものだ。
俺は家を買い、ヴォルが家具を選び──俺のセンスは壊滅的だと言われた。酷すぎる──そうして過ごしてもう半年が経つ。
ヴォルは毎日ここから出勤しているらしいが、俺は月に数回家に帰って来れたら良い方だろう。最早家主は俺ではなく、ヴォルだ。俺名義の家なんだけどな。
こうしてヴォルと顔を合わせるのも…うーん、数週間ぶりかな。
「夕飯は?」
「食べてない」
「残りでいいなら、あるけど?」
「ん、食べるー」
「待ってて」
俺はジャケットを脱ぎ暖炉前のふかふかとしたソファに身を沈める。ヴォルは俺の言葉に頷くと作った料理を温めに台所に向かった。──奥さんみたい。なんて思ったけど、前にそれを茶化しながら言えばヴォルはなんか嫌そうな顔をしてたから心の中で思うだけにしておこう。
本当は
そんなわけで、この家で暮らしているヴォルは大体の家事を自分でしている。勿論魔法を使っているが、その光景は──何となく違和感が強い、だって、ヴォルだぞ?ヴォルデモートがご飯作るとこ、想像した事あるか?俺はなかった!!
料理なんて、きっとヴォルはしたことなかった筈なのに、たまに食べた事がある料理は中々に美味しい。天才は何をやっても上手く出来るらしいな。
ヴォルが運んできたシチューを食べながらぼんやりと思う。
ヴォルは机を挟んだ向こう側に座り、新聞を読みながら紅茶を飲んでいる。もう遅い時間なのに、こうして俺の食事に付き合ってくれるなんてなぁ。
…うーん、ヴォルはこのまま普通に暮らした方がいいんじゃ──いや、俺が
俺は、それについていくことは無い。それに──ヴォルも、誘わないだろうな。
ヴォルを見ていると、その視線に気付いたのかヴォルは顔を上げ少し眉を寄せ「何?」と首を傾げる。
んー…。ま、いいか。
「…俺さ、別に家を買わなくても良かったんだ。会いたかったらヴォルの家に遊びに行ったら良かったんだし」
「……」
「けど、こうやって帰ってきて。誰かが居ると──ヴォルが居ると、なんか嬉しいなって思う。…うん、ホッとするって言うのかなぁ」
「……そう」
「うん。だから、俺はあんまり帰ってこれないけど…俺が戻る時には、家で待っててくれないか?」
紛れもない、俺の本音だ。
俺は──俺は、あまり何かを、誰かに真剣に頼まない。何か頼みたい時も、なるべくいつも軽い調子で話しかけるようにしている。
俺は世界最強の魔法使いだ。──俺が真剣に本音を漏らすと、どうも魔力が篭ってしまう。元々その兆しが無かったわけではない。幼い時から
まじで、ただの真剣な会話のつもりがインペリオかけてることになりかねない。
本音に、なるべく魔力が籠らないよう制御した、つもりだけど…大丈夫だった、かな?
ヴォルは俺の言葉に驚き目を見開いた。
暫く、ヴォルは何も答えなかった。だが、ふっと優しく笑うと手に持っていた新聞を机の上に置き、頷いた。
「──いいよ」
「…まじで?」
「この家は僕の家のようなものだし」
「まぁ…滞在時間を考えたらそうだな」
「…ちゃんと帰ってきてね」
それは、俺のセリフだが。
ヴォルは心なしか嬉しそうで、その言葉は少しぬるくなったシチューと一緒に飲み込んだ。
これで──これで、もし、ヴォルが闇を求めて旅をしなければ、ヴォルはヴォルデモートになる未来が回避、されるのかもしれない。…いや、本人はまだその気だろうが、エイブリー達と時々会ってるって聞いてるし。だが、少なくとも──俺の手の届く範囲にいる事になる。
ヴォルが本当にやりたい事が、純血思想のそれしかないのなら…俺は止めない。
だが、俺と会って、多分、きっと──何度か考えた事だが──ヴォルは俺の知っているヴォルデモートではもう、無い。
人を信頼せず愛も知らないトム・リドルでは無いのだと、俺は思いたい。
俺に対する感情は、ただ都合の良い存在で利用価値があるから側に置いているだけではなく、きっと僅かに──僅かだとはいえ、確かな親愛が含まれていると、俺は思う。ま、親愛が無ければ今一緒に住めないだろうし。
不死にはなりたいようだけど。
分霊箱2つで充分じゃないか?もう、まだ今はイケメンだし、このまま…ひっそりと、俺と生きてくれないかなぁ。
夕食を食べ、軽くシャワーを浴び魔法で身なりを整える。
居間へ行けばヴォルは少し眠そうに目を細めながら煌々と燃える暖炉の前にある広いソファに座り、本を見ていた。
俺が見る限り、ヴォルはこうして本を読んでいる事が殆どだ、本の内容はお察し下さい的な闇についてばかりだが。
ふわりと欠伸を噛み殺したヴォルの隣に座れば、眠そうな目を瞬かせながらヴォルは俺をチラと見上げた。
「先に寝ても良かったのに。待ってたのか?」
「待ってない。本が読みたかっただけだ」
「ふーん?それにしてはさっきから目が動いてなかったけど」
「……うるさいな」
「素直じゃないなぁ。…寝る前にホットワイン、飲む?ブランデーにするか?」
「…ブランデー」
前にある低い机に向かって指を振ればブランデーが入れられた小さなグラスと小瓶が現れた。俺とヴォルはそれを手に取り、グラスを合わせ、キンと小さく乾杯をした。
「…んーっ…美味い!」
「…飲み過ぎたらナイトキャップにならないよ」
「まぁまぁ、後一杯だけ」
瓶を浮かせグラスに注げば、ヴォルは少し窘めるように言う。深酒は良くないな!明日も撮影だし、まぁ、後一杯くらいなら大丈夫だ!
ブランデーを飲み切ったヴォルが無言でグラスを俺に差し出したのを見て、その空のグラスに新しく注いでやった。なんだ!ヴォルも2杯目欲しいのかよ。
2杯目を呑んだあと、流石に3杯目は自粛し俺とヴォルは寝室へ向かった。
流石に、今寝室は別だ。孤児院で過ごした時のように隣の部屋である。ヴォルはべつに同じ部屋でも良いんじゃないか、滅多に帰ってこないんだし、と言ったが。流石にそれは…なぁ?
「おやすみ」
「おやすみ」
互いに寝る前の挨拶を交わし、寝室へ入った。
久しぶりに戻った部屋だが、空気は澄んでいて埃ひとつ落ちていない。きっとヴォルが定期的に魔法で清めてくれているんだろう。
靴を脱ぎふかふかとしたベッドに倒れ込み、アルコールのせいでぽかぽかと気持ちのいい暖かさの中、俺はヴォルがこのまま平凡に過ごす未来を考える。──そうしているうちに、気がつけば寝てしまい。
相応の歳をとった俺とヴォルがこの家の暖炉の前でゆったりとソファに座り、取り止めもない会話をしている。
そんな、夢を見たが、目が覚めた時にはすっかり忘れてしまっていた。