次の日、ヴォルは一度仕事先に向かいヘプシバからゴブリンの甲冑を買う事が出来たことを店主に伝えに行き、店主と共にヘプシバの屋敷を訪れたらしい。
ヘプシバは俺が居ないことをとても残念がりながら何度も指先で唇を撫でていたそうな。…い、いや、実際キスしたわけじゃないし…うん、あの人の中で俺がどんなキスをしたのか──真相は闇の中の方が、俺の精神的に良いだろう。
ヴォルはバークから買取成功のちょっとしたボーナスを貰ったらしく、ご機嫌だった。まぁ、そんな小金だけじゃなくてスリザリンのロケットを手に入れた事が何より嬉しいんだろう。
仕事から戻ってきたヴォルはすぐにスーツを脱いでラフな格好に着替えた。どうやら今日はもう仕事は無いらしい。2人の休みが会うなんて、卒業以来初めてかもな。
「ヴォル、今日この後…どーする?」
「出掛けたい所があるんだ、ちょうど良かった…ノアにも手伝ってほしくて」
「ん?…いいけど、何処に行くんだ?」
「アルバニア」
「アルバニアぁ?…何処だそこ?遠いんじゃないのか?そんなの1日で……待て、俺に連れて行けって事だな?」
「それ以外に何があるの?」
当然という顔をするヴォル。俺はお前の専属ポートキーでもお抱え運転手でも無いからな?それに、正しい移動先がわからなければ気絶するからな?気絶だけで済むのは流石俺様だけど。…あ、やべ、ヴォルデモートみたいなこと考えてしまった。
「アルバニアね…」
「流石の僕でもそんな長距離の姿現しは疲れるし」
「疲れる程度なら自分でやれよ…国境いくつ越えるんだか…」
やれやれと溜息をつき、目の前に世界地図を出す。アルバニアって何処にあるんだ?やけに聞いた事のある名前だけど、場所は知らないし…。
「ここだよ」
隣から世界地図を覗いていたヴォルが一箇所を指差す。──あ、そんなに距離ねぇな。アメリカ行くよりは近い。
「ここ、ダジティ山の森、麓には先住民がいるらしい」
「森?…何で森に行くんだ?」
「ああ、レイブンクローの秘宝…
グリフィンドールの剣はなぁ。あれって確かグリフィンドール生しか手に入れられないんじゃなかった?それならヴォルは一生無理だろうし、今持ってるのは…ディペッド校長?それか、既にダンブルドアの所有物なのかな?
「へー全部集めたらなんか良い事あんの?」
「良い事、というより。僕の分霊箱にする。僕の魂を入れるのに、相応しいと思わない?」
「…もうスリザリンのロケット、分霊箱にしたのか?」
「まだ。ノアが分霊箱になるなら…するつもり無いしね」
決断するなら、早くね。と笑うヴォルに俺は顔を引き攣らせ乾いた笑みを浮かべた。
どんどんヴォルの分霊箱候補が集まっている。ま、まぁスリザリンのロケットを渡したのは俺だけど…。
「とりあえず、そのダージリンティ山?」
「ダジティ山。…どんな言い間違いだか…」
「そうそこ、そこに行こうか。うん。分霊箱云々は後で…な?」
「──ま、良いけど」
俺は地図を消し、コートを羽織る。ヴォルにもコートを渡し、外出の用意が整ったのを見るとヴォルに手を差し出した。
ヴォルは俺の手を取り、そのまま俺たちはアルバニアへと向かった。
ーーー
森!!
一面の森!!!そしてなんか魔獣の鳴き声も聞こえる!!
「…なんか、あれだな。ホグワーツの森みたいじゃね?」
「確かに…魔獣も、居るらしいよ」
ヴォルは辺りを油断なく見渡しながら内ポケットから杖を取り出した。ま、どんなのが居るかもわかんねーしな、用心に越したことは無い。
「ここ、マグルは来るのか?」
「…来る」
「えー、めんどくせ。んじゃさっさと探して帰ろうぜ、何処にあるんだ?」
「木の虚」
「…どの木だ?」
「知らない、この森にあることは間違いない。隠れ家が何処かにあって、その隠れ家近くの古木の虚だってさ。──さあ、探して?」
にっこり、と笑うヴォル。
いやいや、お前…少しくらい自分で探せよ。
「このめちゃくちゃ広い森の隠れ家ねぇ…」
ぐるりと辺りを見渡す。流石に俺1人ではめんどくさそうだ。
俺はヴォルに向かって手をかざす。ヴォルは少し目を開いたけど、特に何も言わず突っ立っていた。
「今、ヴォルに認識阻害魔法のめちゃくちゃ強いのかけてる。ま、俺には見えるけど。──何を見ても喋ったりしないように、動く時も慎重にな」
ヴォルは小さく頷き、木の側に近づいた。
俺はそれを見てさっさと足を森の奥に進める、暫く歩いていると、周りの空気が変わったのを肌で感じた。──んー?なんか見られてるな。話のわかる奴なら良いけど。
ガサガサと茂みが揺れる音と共に、俺の目前に黒い影が飛びかかった。
「──おっと」
手を前に出して空中でぴたりと止めた。
なんだこれ。
頭はライオン、胴体は…なんだ?山羊?尻尾は爬虫類…うーん、ドラゴン?なんかゲームでよくみるキメラみたいだな。大きさは…ま、ライオンくらいかな?
「こんにちは。ここ、お前のテリトリーだったのか?ごめんな、俺の言葉わかる?」
「いいよぉ、ぼく話したの、はじめて!」
見た目は中々に奇怪だが、声は異様に高くて可愛らしい子供の声だった。…こ、この見た目でチョッパーみたいな声なの違和感強いな!!
「この森に、人の住む家とかある?」
「うーん、いえって何?」
「えーと、…お父さんかお母さんいますか?」
「いるよ!あっち!」
キメラ(?)はどしどし足を鳴らしながら俺の周りを駆け回り尻尾をびゅんびゅん揺らせた。おおー中身はゴールデンレトリバーか?
驚愕してるヴォルにこっちだ、と顎で指し、先に進み「はやく!」と言うキメラの後を追いかけ、更に深い森奥へ向かう。
その後紹介されたキメラパパとキメラママは象よりもデカかった。普通に攻撃されそうだったが、キメラジュニアが宥め、俺と言葉が通じると分かるとキメラパパとキメラママも少し落ち着いた。
「この森に、人の家ってない?」
「…太陽の沈む方に、見覚えがある。だが、あの場所は穢れている、森に居る生物は近付かない」
「そっか!ありがとう!」
キメラパパから有力情報をゲットした俺はキメラジュニアの喉元を撫でて──目を細めてぐるぐる言ってた──すぐにその太陽の沈む方向、西へ向かった。
「ヴォル、もう喋っても良いぜ。魔法はまだかけとくけど」
「…ノア、動物だけじゃなくて…魔法生物とも、話せるんだ」
「流石、俺だよなー!あっちに家があるらしいって言ってた」
「…キメラが?」
「そう、キメラが」
やっぱキメラだったのか。
なんか、人に作られた合成獣って言うよりは、普通にそういう生き物として生息してますって感じだったなぁ。中身ゴールデンレトリバーみたいで可愛かったけど、流石に象サイズになるんだったら飼えないな。
暫く歩いていたけど、普通に疲れてきた。
「ヴォル」と少し離れた後ろを歩くヴォルに声をかけ、駆け寄ってきたヴォルの腰に手を回す。
「…何」
「歩くのめんどい。飛ぶぞ」
「え?──っ!?」
そのままふわりと浮き、空を滑るように飛んだ。手をかざして鬱陶しい木々に「退いてねー」と伝えれば、木々は慌てて太い幹をしならせ道を開ける。
風が頬を打ち髪が靡く。──遠っ!めちゃくちゃ遠いな!?なんつー最奥に潜んでたんだよレイブンクローの娘!!千年前だし、森の形状も変わってんのか?
「──お、あったあった」
ふわりと停止し、地面に足をつける。
ヴォルを離せば少しふらつきながらもしっかりと立ち、怪訝な顔で俺を見た。
「何その魔法。箒も使わずに…そんなの、きいたことない…」
「俺は世界最強の魔法使いだぜ?不可能なんてねーよ。知りたいなら、教えようか?」
「…うん、教えて」
ヴォルは自分が知らない魔法があるなんて嫌なのか、割と真剣な顔で頷いた。
まぁ、すぐ使えるだろう。元々ヴォルが使ってたのを原作で知ってたから…俺も使えるんじゃね?って思って使ってるんだしなぁ。
「普通の家だな。キメラはこの場所が穢れてるって言ってたけど…」
「そんなこと言ってたんだ?…とくに、呪いがかかってる…ってわけでも無いね」
「ま、家に用は無いだろ?」
「…そうだね、木を探そう」
手分けして近くの木を探す。
古木…って言ってたけど、見る限りどれも古そうだなぁ。
「──ノア、あったよ」
「まじ?」
家の裏辺りを探していたヴォルから声がかかり、そちらに行けば一際大きく古い木の虚にちょうど手を突っ込んで居る所だった。
引き抜かれた手に持っていたのは、確かに、髪飾りだ。撮影で何回か使ったなぁ…それにしても。
「汚ねぇ!」
「…何百年もここにあったんだろうね」
土や泥で汚れ切ったそのティアラをヴォルの手からひょいと掴み、ふっと息を吹きかける。すると汚れは綺麗さっぱりなくなり、キラキラとした輝きを取り戻した。真ん中に大粒の青い宝石がついていて、大鷲のような銀細工が美しくティアラに鎮座している。なるほど、間違いなくレイブンクローのものだな。カラーのブロンズと青、そして大鷲。…なんか寮の創設者達って、自己顕示欲凄くね?
「頭につけた者に知恵を与えるらしいよ。ノアつけてみなよ」
「まじで?…やってみよ」
頭にティアラを乗せる。
……。
「どう?少しは知性がついた?」
「……」
「…ノア?」
「……」
「ノア!…もしかして何か呪いが?」
「いや、俺は全てを理解した」
「え?」
「そう、世界の全て、叡智──全てを理解した、この世の理も、真理も、創られし命運も──」
「……」
「──はっ!?お、俺は一体…?」
なんか真理の扉を開いたのかと思った…!
ヴォルは神妙な顔でティアラを手に持っていた。そうか、ヴォルが外したからあの全智感は失われたのか…いや、でも俺って知ったらなんでも出来ちゃうチートだからなぁ。
今なら人体錬成出来そうな万能感すらある!一度得た知識というものは無くなるものでは無い。
「ヴォルもつけてみろよ」
「…いい、変になりたくないから」
「そんなに変だったか?」
「馬鹿みたいに目がイってた」
「……」
ヴォルは小さな木箱を魔法で作るとその中にティアラをいれて、つけようとはしなかった。あの万能感…凄かったけどなぁ、確かに見た目アホの子になってるヴォルはあんま見たくない。…いやちょっと見てみたい気もする。
「じゃあ、帰ろうか」
「はいはい、──お手をどうぞプリンセス?」
からかって恭しく頭を下げ手を差し出せば、ヴォルは片眉を上げたが何も言わずその手を取った。