ヴォルが付き人になり半年後。
優秀なヴォルに時間を調節してもらい、なんとか空き時間を捻り出した俺は独り、ホグワーツを訪れた。
「あー…懐かしいなぁ…」
ホグワーツ城近くまで姿現しで移動し、その後は流石に徒歩で向かう。
ホグワーツで姿現し出来るのは、多分誰にもバレないほうがいいだろう。…あ、ヴォルは知ってるな、そういや。
今、ホグワーツはクリスマス休暇なのだろう。城の中はしんと静まり返っていて人気がない。
…待ち合わせの時間まで後少しあるし、ちょっと見て回ろうかな。
城の中を歩き回り、色々な教室の扉を開ける。
無人でも、やっぱ懐かしいな。寒いし…皆談話室にでも居るんだろう。この古城独特の、微妙に古い埃っぽい匂いも嫌いじゃない。
最後に校長室の前の扉に立つ、腕時計の針は待ち合わせ時間の五分前を指している。ガーゴイルが脇に引いているし、これは入っていいという事なんだろう。
校長室に入れば、奥の机にはディペット校長が座り、その隣にダンブルドア先生が立っている。ディペット校長は俺を見ると優しく微笑み、手を広げ歓迎した。
「よく来たね、ノア。会えて嬉しいよ。かなり多忙だと聞いていたが…」
「光栄です、校長。…ま、優秀な付き人が居るんで大丈夫です」
ヴォルは今事務所で書類系の仕事を頑張っている筈だ。天才で優秀なヴォルはついに経理仕事も任されるようになり、割と大変そうだ。そういや俺の契約金の高さに何度も「これ、0が5個くらい間違ってない?…本当に?」と書類を見比べて愕然としてたなぁ。
「そうか…トムが、君の事務所に居ると噂できいたよ。本当なのか?」
「ええ、そうです。ま、俺の仕事先めちゃくちゃ給料良いので…」
その代わりに休む時間ほぼ無いですけど。と軽く言って肩をすくめる。
お互い本題に入る前に、簡単に朗らかな会話を楽しむ。ダンブルドアは会話に入らずただじっと聞いていた。
「それで…ディペット校長先生?俺をここに呼んで…ダンブルドア先生が居るってことは、卒業前のあの約束の件を、…受け入れてもらえたと思っていいんですか?」
「そうだ。…手紙を受け取った時は驚いたよ。君の名前は至る所で聞いたからね、まだ辞めるのは先だろうと思ったが…」
「この件はまだ内緒にしてくださいね?もう俺の名前は充分広まりました、悔いはありません」
「そうかそうか…妻が聞けば3日は寝込むだろう」
ディペット校長は肩を下げ、力なく笑う。いやー確かに、間違いなく寝込む人は続出するだろうなぁ。──俺はもはや社会現象だし。
「ダンブルドアともその事を話し合ってね。…彼はいきなり1人で担当を持つには荷が重いのでは無いかと考えているようだ。…ほら、ノア…きみは座学はあまり得意ではなかっただろう?」
「あー…俺、感覚型タイプなんで」
…確かに。親世代が見たいために気軽に教師になっちゃお!って思ったけど、……俺教えられるかな?まぁ、クィレルやロックハートの授業で許されるんだから、俺にも出来る…と思いたい。それに──実は、レイブンクローの髪飾りをかぶってから、俺の知能は上がったんだよなぁ。知らなかった知識も何故か当然のように知っていたし。まぁ、知能があることと、人に教える事はまた別問題…かな?
「そこでだ。特例として、1年間ダンブルドアの元で研修生として、授業の進め方を学ぶのはどうかな?」
「え?研修生、ですか?」
少し驚いてダンブルドアを見る。そんな制度あったんだ。ダンブルドアは「嫌かね?」と静かに聞いたが、俺はすぐに首を振った。
「いえ、じゃあ…よろしくお願いします。…来年度からですよね?」
「ああ、そのように手筈を整えておこう。また、時期がくればこちらから連絡をするよ」
「ありがとうございます。お待ちしてますね!えーっと、フクロウ便はイギリスの事務所に届けてください、暫くはそこを経由しようと思って…。俺の家がファンにバレたら…ちょっと大変なので」
「そうだね、そうしよう」
やった!
マジで俺、ホグワーツの先生になれるんだ!
青少年達の甘酸っぱい恋愛模様をこっそり覗き見できるんだ!う、嬉しすぎる!
嬉しさに思わず笑みが溢れてしまえば、それにつられるようにディペット校長もにっこりと笑った。
「…あ、すみません。そろそろ。──俺あまり長く滞在出来なくて…」
流石に1日休みは取れなかったしな。
ディペッド校長は頷くと、俺に手を差し出した。
「君が来るのを楽しみに待っているよ、ノア」
「ありがとうございます」
「…さ、ダンブルドア、駅まで送って行ってあげなさい」
しっかりと握手を交わした後、俺と俺の見送りをする事になったダンブルドアと校長室を出た。1人で帰った方が姿現し出来るし、楽なんだけどなぁ。
「ノア、本当にトムが君の事務所で働いているのか?」
「え?はい、そうですよ。めちゃくちゃ優秀なので助かってます。メイソン──俺の前のマネージャーも優秀でしたけど、急にご両親が病に臥せってしまって。…その代わりにヴォルが俺の付き人に」
「そうか。まぁ…昔、私が言ったこと…──ノアと2人でゲームをしたことを、覚えているかね?」
「ああ。覚えてますよ」
俺の生爪が剥がされたやつですね。いやーあれはヒヤヒヤしたなぁ。マジで激痛だったし。
少し前を歩いていたダンブルドアは立ち止まり俺の方を振り返る。その表情は、俺に今まで見せていた目の中で、1番優しげに、それでいて何故か悲しそうに、細められていた。
「どうやら、私の予想は外れたようだな。君が──君たちが闇に飲まれず過ごせているようで、本当に良かった」
おお…。
これって、もしかして…ようやく、少しは信頼を得たのか…?研修生とか言うから、てっきり俺を監視する為なのかと思ったが、単純にマジで俺の学力を心配していたのか?
「──そうですよ!俺はどっちかっていうと光属性ですからね!ヴォルは、まぁ、最近変わってきてると思いますよ」
「ノア、君の力だね。…トムと君は…その、…──直接的な聞き方で、許してほしいのだが──恋人関係にあるのかな?」
ゴシップ好きの親戚のおばさんかよ。
恋人関係、いやいや、俺と、ヴォルが?
「ははっ!そんな関係じゃないですよ!ただの、幼馴染です」
学生の時、女子達がこそこそ俺とヴォルの関係について、きっと
確かに、5歳から一緒でホグワーツでもずっと隣に居て、実は同棲してるし仕事先もなんの縁か同じになったけど。確かに誰といるよりも落ち着くし、楽しいけど、まぁそれは気のおける間柄だからだ。
俺とヴォルを表す関係は、幼馴染で腐れ縁、だろう。
止まっていた足を再開させて、隣に並びながらくすくすと笑う。
「そうか…すまないね。君達がこれからもその関係でいる事を願うよ」
「ありがとうございます。…あ、そういやヴォルもホグワーツの教師になりたいって言ってましたよ。知ってますか?」
「ああ…ノア、君はどう思う?」
「んー。
「それは──願望、と捉えていいかね」
願望。
ああ、そうかも知れない。
昔、俺はヴォルが普通に教師をしてるなんて想像が出来なかったし、少しも考えなかった。だけど今では──そんな未来が本当に可能なんじゃないかって、思う。
そうすれば──未来は大きく変わる。それもとてつもないハッピーエンドに!
ただ、もしかしたら、生まれないキャラがいるのかも知れない。
このまま親世代に突入すれば俺とヴォルはここで教師をする。ま、ちょっとは闇深い授業をするかも知れないが、ダンブルドアの目がある中で派手な事はしないだろう。
そうなると、ジェームズとリリーが結婚したとして、ハリーは両親を亡くすことはない。…あれ、でもリリーってもともとセブルスと仲良かったんだっけ?セブルスが闇落ちしなければ、リリーと結婚する未来になるかも…そうしたら、ハリーは生まれない…?……いや、もう、運命の流れに身を任せよう。
「願望…。いえ、祈りです」
どうか、神様──この世界に大きな不幸が起こりませんように。
俺の静かな言葉に、ダンブルドアは何も言わなかった。
その後、8月1日に発表された、俺、ノア・ゾグラフの引退宣言は魔法界とマグル界に激震を走らせた。
その事実を受け入れられず寝込み仕事を休む人が続出して、双方の世界は大混乱している。ちょっとそこまで影響力があるとは思わず魔法界のスタッフ達が事務所で怒りの抗議吠えメールを、マグル界のスタッフ達が事務所で苦情電話を受け取るハメになってしまった。
でも、俺はもう決めたんだ。モデルはスッパリやめて、ホグワーツでノア先生になるって!俺の魅力に当てられて授業にならないようにだけ気をつけないとなぁ。
8月下旬、俺はホグワーツで研修するために一応、昔の教科書とかを読んでいた。うーん、やっぱ知能上がってる気がする、昔は全く分からなかった魔法の仕組みを完全に理解している。
「ノア、本当に教師になるんだね」
ソファに座り読んでいると、ヴォルが何だか感慨深そうな表情でしみじみと呟き俺の隣に座った。
「1年間は実習期間だけどな。…悪いな、ヴォルはまだこれないだろ」
「…あの状態の事務所を放り出すわけにもいかない。誰かさんのせいで」
「うっ…耳が痛い」
ヴォルは俺が引退した後の事務作業に追われていた。表舞台から姿を消すとはいえ、諸々の契約を破棄しにいったり、混乱を抑えたり、事務所への暴動を防いだり──中々に忙しそうだ。
「1年経てば落ち着くでしょ。どうせホグワーツの教師になる事は直ぐに魔法界で知られるし。マグル界の事はどうでもいいし」
ヴォルは少し疲れたような顔で言い、ソファに深く身を委ねた。
「その後で、僕もホグワーツに行くよ」
「ん?ディペット校長に言ったのか?」
「まだ。…だけど、必ず行く」
ヴォルはマグルの事はやはり受け入れられないようだった。マグルのスタッフと会話する時も完璧な笑みは崩さないが、目は全く笑ってない。それに気がつけるのは、まぁ俺だけだろうなぁ。
「待ってるぜ?」
「…うん、待ってて」
おや、ヴォルにしては素直な言い方だな。最近、本当にヴォルは穏やかになったと思う、うんうん、良い兆しだ!ダンブルドアが俺の力だとか言ってたけど、まぁ…そう思っても良いのかもしれないな。
「でも、本人しか破棄できない契約もあるから、ホグワーツから…たまには戻ってこないとダメだよ」
「まじで?…めんどくさ…いや、最後の仕事だと思ってちゃんとやり切らないとな」
読んでいた教科書を閉じ、疲れた顔をするヴォルの顔を覗き込む。
その暗い灰色の瞳には、何よりも美しい俺が映っていた。
「…ヴォル、本当にありがとう」
「…何、急に」
「いや?日頃の感謝をな?」
「ふーん…」
「何か欲しいのとかある?何でも言えよ」
引退の件で迷惑かけてるし。きっとヴォルも本当ならすぐ教師になりたかっただろうし。
ヴォルは俺の目をじっと見つめる。
「──ノア」
「ん?何だ?」
首を傾げれば、ヴォルは少し目を伏せ、長いため息を吐いた。
「……。…別に、いらない。分霊箱にはなって欲しいけど」
「そ…それは、うーん」
「…もう少しだけ待ってあげるよ」
もう少しと言わず、一生待ってくれねーかな。