キングズ・クロス駅!9と4分の3番線!
プラットホームにはホグワーツに向かう子どもやその見送りの大人で溢れ、がやがやと賑わっていた。
新入生だろうか、不安そうな、けれど魔法学校に胸を高鳴らせているのか、その顔は皆赤く染まっている。
──いや、違う!みんな俺を見てその頬を染めているのだ!
「ふっ…俺のファンクラブが出来るのも時間の問題だな…」
沢山の視線を受けながら、俺はさらりと髪を後ろに流す。俺の色香にヤられたホグワーツ生の何人かがその場でよろめき頬を真っ赤に染めた。き、気持ちいいぃ!
「馬鹿やってないで、早く乗るよ」
ヴォルは大きな鞄を両手で重そうに持ち、額に僅かに滲んだ汗を手で拭いながら俺に言った。
俺は足元に置いていた同じように大きな鞄をヒョイっと軽く持ち上げると先を急ぐヴォルに駆け寄る。
「重そうだな、軽くしてやるよ。──そーれ!」
「──っ!?…な…」
いきなり軽くなった鞄に、ヴォルはバランスを崩したが流石にひっくり返る事はなく俺と鞄を目を見開いて見比べる。にやり、と笑えば少し嫌そうに目を細めた。
「何その魔法」
「浮遊魔法の応用さ、便利だろ?」
怪訝な目で見られた。
教科書を買ってからヴォルは食事も忘れてそれを読み耽っていた、きっと、自分の知らない魔法を俺が使う事が気に入らないのだろう。特別、にこだわる悪い癖だ。だが、俺はこの世界の全ての魔法を使える魔法使い!ヴォルなんて足元にも及ばない!──多分。
俺とヴォルは空いているコンパートメントに入り、移りゆく窓の景色を見ていた。
汽車はスピードをあげ濛々と黒煙を上げている。窓にうっすらとコンパートメントの扉が反射し、その先の光景を映し出していた。
「これで142人目だ」
「何が?」
「
ちらちらと扉の小さな窓から何人もの生徒が頬を染め興奮しながら中を覗いていた。ヴォルはちらりと扉を見て嫌そうに眉を顰める。まだ誰も扉を開けていないからヴォルは何も言わないが、もし俺の魅力に近づきたい人がうっかり開けてしまったらその瞬間に呪われてしまうだろう。
「ノアは、顔だけは良い。きっと中身を知ったら幻滅するさ」
「俺は外見も中身も一級品だっつーの!…お、速度が落ちてきてるな、もう着くかも」
「…着替えようか」
ヴォルは読んでいた本をぱたんと閉めると鞄を開け中から新品の制服を取り出す。俺も同じように制服が入った袋を手に取った。そういえばタグとかついてたらどうしよう、ハサミなんて持ってきてないしなぁ…魔法でどうにかなるかな?
「──ここからは有料だぜ?」
俺はコンパートメントを覗き込んでいた男の子ににやりと笑い──男の子は顔を真っ赤にして鼻血を垂らした──ポケットに入れていた杖を振り、窓を黒く塗りつぶした。
「よし、これでオーケー。ヴォルは友情価格で100ガリオンな」
「そんな価値があるのかい?」
「ひどい!」
「見飽きて代わり映えのない物に払う金は無いね」
冷めた目で見られ、俺は胸を隠すように身体を抱きしめ「ヴォルのえっち♡」と可愛く言ったが、ヴォルは全力でスルーし、さっさと着替え始めてしまった。ちぇ、つまらん。
「──あれれー?」
俺は広げた制服を見て某少年探偵よろしく呟いた。
ヴォルは俺が手に持つ制服を見て、何故かその美しい顔を盛大に歪めていた。
おっかしーなー?
…まぁいっか!
ーーーー
ホグワーツに到着した俺とヴォルは他の新入生達と共に大広間に集められていた。
天井には幾千もの蝋燭が大広間を明るく照らし、幻想的な雰囲気を出している。──おお。流石に、胸に来るものがあるな。ここは夢にまで見たホグワーツ魔法学校だ。感無量…ここにくるために、ここで、過ごすために
「俺のサンクチュアリー…」
教師陣が揃う場所をみればダンブルドアやスラグホーン、ディペット校長がいる。映画で見たまんまだなぁ…知らない顔も多いけど、それは仕方ないか。
俺たち新入生を引率していた男教師が教師たちが座る机に向かい、入れ違いにダンブルドアが長い羊皮紙を持って現れる。ん?ダンブルドアが組み合けを仕切るのか。…もしかして変身術の先生が行う決まりでもあるのかな?
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り組分けを受けるように」
静かなその声に、周りの生徒達は緊張からかごくりと唾を飲み込んでいた。魔法族生まれじゃない子は、壇上にある古びた帽子がなんなのかわからなかったんだろう。
隣にいるヴォルはダンブルドアをじっと見つめ、そして静かに組分けを待っていた。うーん、古本屋でホグワーツの歴史を見た後は絶対スリザリンに入りたいって言ってたっけなぁ。──まぁ、それは叶うんだけど。
数名の生徒たちが組分け帽子によりそれぞれの寮へ組分けされ、顔を赤らめて各寮の生徒が待つテーブルへと移動する中、ついにトム・リドルの順番が来た。
「リドル・トム!」
隣にいるヴォルは固く唇を結んだまま壇上に上がる。振り向いたそのヴォルの顔面の良さに上級生からの騒めきが響いた。
「スリザリンッ!」
帽子が頭を隠す前にフライング気味にスリザリンと声高らかに叫び、大きな拍手と落胆のため息が大広間を満たす。
ヴォルは満足気そうに微かな微笑を浮かべ、スリザリン生のテーブルへ向かう。隣を通り過ぎる時、ちらり、と俺を見ていたが…何も言わなかった。…何だ?
粛々と組分けは進められる。
そう、俺の頭文字はZだ。間違いなく最後だろう。
「美少女が残ったぞ!」「是非我が寮に…!」「お近づきになりたい…!ああ、あの目で見つめられたい!」「この世のものとは思えない…!」
「ゾグラフ・ノア!」
俺の名前が呼ばれた途端。
どの生徒よりも一際大きく、さらに興奮に満ちたざわめきと願いが大広間に響いた。椅子の前でくるりと振り返り、穿いていた
うん、俺のファンクラブは間違いなく出来たな!
「何でそんな格好を…」
「お店の人が間違えたようです。…せんせーみたいに」
呆れたような目で俺の制服を上から下まで見るダンブルドアにぱちんとウインクをすれば盛大なため息をつかれた。ため息ばっか吐くと幸せが逃げるって知ってた?
そう、俺の制服は女子生徒のものだった。
デザインは男子生徒のものとあまり変わらない。ただ、ズボンではなくスカートであり、それは膝上10センチという際どいところで揺れている。勿論、元々はもう少し長かったが俺の美脚を見たいものは多いはず!女子中高生がするように腰あたりで数回折り曲げればはいこの通り短いスカートの出来上がりです!──魔法で切っても良かったけどな。
俺は帽子を被り、椅子に座った。
大きなその帽子は俺の視界を完全に黒く塗りつぶす。──うえぇ、なんか湿ってる。何人もの生徒の後に被るのは嫌だなぁ。毛じらみとか持ってるやついるー?まさか…いねぇよなぁ?
「フーム…さてはて、どうしたものか…」
「こんにちは帽子さん!俺の寮はどこ?」
「待ちなさい。…フーム…何も見えん」
ええ…。全てを見る賢い帽子じゃなかったのかよ…。
狼狽える帽子の声に思わず脱力しした。
って、そうか、たしか帽子は開心術でその人の本質を読んでいるんだったな、全ての魔法が使える俺はオートで閉心術を行っている。帽子が組分けをできないのはきっとそれが原因だろう。…ちょっとだけ閉心術を解いておこうかな。
俺はもっとハリーのように幾つか候補を出されて「うーんどうしよっかなぁ」とか「スリザリンはだめだスリザリンはだめだスリザリンはだめだ」って呟いて擬似ハリーを体験したかったのに!
──それか、俺が魅力的かつ才能に溢れすぎてどの寮になってもオールオッケー無問題すぎて決められないかのどちらかだな!
「ほう、スリザリンは嫌だと」
「え?いやー別にどこでも良いですよぉ、どこにいっても俺の魅力で老若男女骨抜き腰砕けのメロメロにしてノア王国を築き上げるんで!むしろ宗教でもいいかな?パーフェクトノア教」
もはや神がかっている俺の美貌!そして魔力!魔法界では敵無しだ!ハーレムにして酒池肉林の未来も夢じゃない!美女を侍らせ童貞ともおさらばさ!
「──スリザリンッ!!」
「えぇー…」
帽子は高らかにスリザリンを宣言した。
スリザリンのテーブルから誰よりも大きい拍手と歓声が沸き起こり、それに負けないくらい各寮から嘆きと落胆、そしてブーイングが響く。
さっと帽子をとったダンブルドアは、厳しい顔で俺を見下ろしていた。新入生に見せる目じゃねーよ!俺何もしてねーし!ブーイングは俺のせいじゃない!…いや、俺の美貌のせいか。
「美少女を取り逃がした!」
誰かが嘆くあまりに大声で叫ぶ。
俺はそれを聞いて壇上で不敵に微笑んだ。
「──美少女?」
俺の鈴が鳴るような美しい声に、一気に大広間は静まり返る。誰もが俺の声を聞き逃さんとして耳を傾け幾百の目が俺を射抜いた。──た、たまらん!癖になりそう!
ぞくぞくとなんとも言えない快感が背中を駆け巡る。一向にスリザリンテーブルに向かわない俺に、ダンブルドアが訝し気な顔で俺を見ていたが気にしない。
「美少女?…残念だな…俺は──」
ポケットから杖を出す。
何をするつもり何だと皆が俺を見る。
その中でヴォルだけが表情をこわばらせ「まさか」とその口が動いた。
「──男の娘、だ!!」
杖を一振りすれば俺が着ていた服が弾け飛んだ。バトルグルメ漫画で美味しすぎるものを食べて「はぁん♡か、身体が、喜んでりゅのぉっ♡♡」と言わんばかりのはじけっぷりだ。
バトルグルメ漫画では美味しいものを食べるとみんな心象風景で裸になる。それはきっとこの世の真理でもあるのだろう。
ローブや制服は裂け、勿論下着もビリビリだ。白いハイソックスだけは離れてなるものかと必死に体に食らいついていたが。
「きゃーーッ!」
女生徒の黄色い叫び声が響く。顔を真っ赤にして手で覆い隠しているが、その指の隙間から俺の体をチラチラと見ている女子の多いこと多いこと。男子は目の前の光景が信じられずあんぐりと口を開けて何人か顎が外れてしまったようだ。ヴォルは──うん、頭痛がしてるみたい。
「何をしている!」
ダンブルドアが杖を振り生徒たちから俺のジュニアを隠した。おお、これはよくちょいエロゲームで見る謎の白い光線じゃないか!別の機体に移植されたら何故か白い範囲が増えるやつ!
試しにぴょんとジャンプしてみればその光は同じようについてきた。おお、すげえ。
「君は露出狂なのか!?」
「チッチッチッ──ダンブルドア教授。違いますよ。俺の肉体は爪先から頭の先、ましては性器まで全てが芸術品なのです」
ふふんと胸を逸らし堂々と裸体を誇る。
しかと見よ、この素晴らしき肉体を!
「そう、俺の身体に隠さなければならない箇所はどこにもない。かのダビデ像に引けを取らない俺の裸体はまさに、芸術だ!」
自信に満ち溢れた高らかな俺の演説に、混乱した生徒たちはパチパチと拍手を送った。
その拍手に片腕を上げてにっこりと「ありがとう!」と微笑めばさらに拍手喝采!「ノア!」「ノア様!」「男の娘最高です!」うんうん俺の王国建設に一歩近付いた。ちょっと何人かの性癖を歪めてしまったかもしれない、美しさって罪。
「…なら何故靴下は履いたままなのかね?」
ダンブルドアは俺の足元に視線を落とす。なん…だと…?この人にはこの、着エロの極意がわからないのかっ!?下着は剥ぎ取っても、男の娘の靴下は脱がさない!これ鉄則!
「靴下まで脱がしたいだなんて…ハレンチです」
「はっ…?」
「えっちぃのは嫌いです」
胸の前で手を交差させ、頬を染め悩まし気に視線を落とせば何人かの男子生徒が机の上に突っ伏した。うん、わかるぜ?激しく主張するブツを気付かれないようにするのって意外と大変だよな?
ダンブルドアは無言で杖をもう一度振る。
するとどこからともなく新品の男子生徒の服が現れると、シャツは無理矢理俺の頭をくぐりパンツは足元からギュンっと上にあがった。
「──早く、スリザリン寮に行きなさい」
「はぁーい」
額を押さえ、重々しく告げられた言葉にこれ以上ふざけたら入学が取り消されかねないと考えすぐに従った。他の教師たちやディペット校長は何が起こったのか、神聖な組分けで全裸を披露する者がいるなんて信じられないのか──信じたくないのか。一様に「これは夢だ」と自分に言い聞かせていた。
「やぁ同じ寮だったね」
「話しかけないでくれる?同類だと思われたくない」
「俺とヴォルはマブダチだろ?」
「そうか、よし絶交だ」
「絶交だなんて!友達だったという事は認めるんだな?」
「…黙れ」
ヴォルの隣に座ったら、視線を俺に合わせないまま低い声でそう言われてしまった。
近くのスリザリン生が俺をちらちらと見つめて一切話しかけて来ないのは、きっと俺の裸体を思い出して恥ずかしいのだろう。──そんな遠慮しなくてもいいのに!
校長が何やら新入生を祝う言葉を述べ、手を叩けば机の上に見た事もないご馳走様の数々が現れた。
美味しそうな骨つき肉に目を輝かせ、腕まくりをした後俺はそれを一つ取り、がぶりと噛み付いた。うわ!肉汁すごい!ジューシー!うまい!
夢中で食べていると肉についていたソースが手から伝い落ちる、おっと、──布巾はないしハンカチやティッシュなんて持ってない。
腕を上げて垂れたソースをペロリと舐めれば、周りがしん、と鎮まりかえった。
「──ん?」
指についた肉汁を舐め、首をかしげる。
ちょっとお行儀が悪かったかもしれない、何となく照れて笑えば、それを見ていたスリザリン生は顔を赤くし無言で俯く。
んー?俺、またなんかやっちゃいました?
奇妙な食事は終わり、スリザリンの監督生に連れられて俺たち新入生はスリザリン寮の地下牢へと向かった。口では絶交とか言っておきながら、ヴォルは俺が隣を歩いても何にも言わない。ふふん、可愛いやつめ。
「各部屋に名前が張り出されてある。荷物の確認をするように」
そう監督生に言われ、俺は男子寮へと向かった。石造りの男子寮は、どこか独房を思い出させる。至る所に蛇のモチーフがあり、緑色の火が薄暗い廊下を怪しく照らしていた。
「運命かな?」
「…、…」
俺とヴォルは1つの扉の前に立ち、そこに貼られた紙を見ていた。そこには俺と、ヴォルの名前が書かれている。…つまり、2人部屋なのだろう。3人か4人部屋の中で唯一、俺とヴォルだけが2人部屋らしい。
ヴォルは無言で扉を開けた。孤児院の個室よりも数段に広いその部屋は、本来なら4人くらいは余裕で寝泊まりできそうな広さがある。
俺とヴォルが余ってしまったのか。
それとも、俺とヴォルを他の生徒に近付かせないためなのか。──まぁ、どっちにしろ。
「あーよかった!他に人が居たら俺の尻処女の危機だった!俺の美貌に幼気な少年を犯罪者にするわけにはいかないからな」
「…はぁ…ノアと一緒か…」
「なんだ?嬉しすぎて言葉もでないか?」
「嘆いてるんだよ」
ヴォルは自分の鞄を見つけると直ぐに荷物の整理をしながら深いため息をついた。俺はそっとヴォルに近付き、その顔を覗き込みにんまりと笑う。
「…嘘つけ、ホントは嬉しいくせに」
「……馬鹿じゃないの?」
俺の開心術はヴォルであってもその心を覗くことが出来るようだ。…ま、今のヴォルは閉心術なんて知らないだろうしな。いくら賢くホグワーツ史上2番目の──1番目は勿論、この俺ノア様だ──才能を持つと言ってもまだ魔法界1日目だからなぁ。
ヴォルの心は、嘆きの中でほんの僅か、かけらほどだけど──喜んでいるのが見えた。
「これからもよろしくな、ヴォル」
「…あぁ、…よろしく、ノア」
改まって微笑みかけて手を差し出せば、散々憎まれ口を叩きながらもヴォルはしっかりと俺の手を握った。