俺の姿は世界一の美青年から、めちゃくちゃイケメンな悪魔執事に早変わりした。
俺の柔らかで少し高い声は聞いただけで耳が孕みそうなバリトンボイス。おお、これアニメで聞いたことある声だ!
「どうだ?」
「ノアさんの変身術は…流石です。ポリジュース薬も使わずに…他人に変身するのは、とても高度な魔法です…私ですら、出来ません」
「これなら、ノアだってわからないね」
「ノア様とはまた違った美しさです!」
「…どことなく、ヴォルデモートを彷彿とさせますね」
アブラクサスは苦笑しながら俺をまじまじと見る。
そうか?共通点なんて、黒髪長身イケメンくらいしかなくね?赤目…なのは、感情爆発した時だけのクルタ族だよな?
…い、今のヴォルの外見…気になる…聞こうか…いやでも…。あれから分霊箱作ってるのかな…もし作ってたらもう蛇面ハゲかな…。
「…ひとつだけ確認したいんだけど」
俺は姿を戻し、手を上げた。
なんなりと、という目を向ける騎士達に、おずおずと俺は聞く。──聞いちゃう!
「…ちなみに、今ヴォルってどんな見た目?ほら、15年経ってるし、変わってたら見つからないかも…」
「そうですね…あまり姿を見せませんので…今の姿は少々変わってるかも知れませんが。…噂では、身体中に火傷のような怪我があるそうです。右半分の顔も火傷のような引きつれがあり、前髪で隠すか…ハーフマスクをつけているとか…ミステリアスな姿で魅了しているらしいですよ。ノア様には劣りますが」
「ファントムかよ…」
「ああ…まぁ、そのようなマスクらしいですね」
頭の中でオペラ座の怪人の姿が現れ、脳内にお決まりのテーマソングが流れる。
オペラ座の怪人コスのヴォル…それも見た目はあのまま。
なにそれ似合いすぎて怖い!マジで早く会って見てみたい!!妄想が具現化したのか!?
この場合俺はクリスティーヌか?天使の歌声聞かせようか?
「ホグワーツに潜入するとして。…流石に校長に言うべきだよな。今の校長は…ダンブルドアか?」
「ええ、そうです。…ダンブルドアは…ノアさんが居なくなって、大層心配しておりましたよ」
「そうか…あーあ、俺も今頃は教師してるはずだったのに…」
「もし、来年度からホグワーツに通われるのであれば…何でも言ってください、必ず力になります」
ミネルバは芯の篭った声で俺に伝えた。たしかに、ミネルバが居てくれるのは心強い。少しでも俺の事を知っている人がいるのと、居ないのとではまた訳が違う。
「今日はもう遅いですから…明日にしてはどうですか?早い方がいいでしょう。ちょうど夏休みですし」
「ダンブルドアって、ずっとホグワーツにいるのか?」
「ええ、基本は」
それなら明日、姿現しでこっそり行こうかな。
しかし、ヴォルの見た目が俺の知ってるヴォルと少し変わってる。って事は…幾つか分霊箱作ってるっぽいな。俺が知る限り分霊箱は日記と指輪だけだった。…可能性があるのは、やっぱりスリザリンのロケットか…あれからハッフルパフのカップを奪っていてもおかしくない。あとは、レイブンクローの髪飾りか。
俺が手っ取り早くヴォルの元に姿現し出来たら良いが、無理に姿現しして気絶したら間違いなくまた魔法をかけられてジ・エンドだ。同じ15年後に目覚める、となると…親世代ぶっ飛んで子世代ルートに突入してしまう。
…それに、何より…ヴォルがその前に世界を征服してしまう可能性が高い。
「今日は泊まって行きますか?客室は十分にありますが…」
「あ、その前に。この屋敷と、お前らの家と、お前らと…その家族に守り魔法かけに行っていいか?何があるかわからないしさ」
「ノ、ノア様が私の家に!?ど、どうしよう掃除しなきゃ…!」
「家に入らなくても魔法はかけられるから大丈夫だぜ?」
「僕のコレクションルームをついに見せる機会が来た!!」
「いや、だからな?家の中には──」
「私のコレクションも負けてはいませんよ。必ずノアさんを満足させます」
「聞いて?」
「ふん、私のノアルームに勝てるとは思わんな」
「おーい」
おらが村にアイドルが来たぞ!のようなおかしな興奮を見せる騎士達は、いつも真面目な時は俺の話を聞くくせに、こう言う時は全力でスルーするスキルを持っている。おい、ノア様の言葉だぜ?聞いてくれないと悲しいじゃねぇか。
…ま、楽しそうだから、いいんだけどさ。
そのあと、俺は姿を悪魔執事に変えてそれぞれのお宅訪問をした。
マートルの家は割と普通の一軒家で、旦那さんはなかなかに優しそうな人だった。仕事場に近いカフェで運命的な出逢いを果たしたらしい。ニコニコとした朗らかな笑顔を見せるその男は。…うん、なかなかにマートルの事を愛して大切に思っているようだ。
ちなみにルシウスと同じ歳の1人娘が居て、なんともマートルにそっくりだった。来年からマートルの娘も、ホグワーツに通うらしい。
「お嬢さん、お名前は?」
「ルカよ。あなたは悪魔なの?それとも、漆黒なる闇より出し堕天使様?」
「ああ…お前の娘だよマートル…」
「そんな…光栄です」
ベインの家は、なかなかに広い屋敷だった。
本家ポッターでは無いにしろ、なかなかの裕福さを持っているらしい。子どもは居ないそうだ。…しかし。
「僕の父さんの兄の子供…だから、従兄弟かな?ジェームズって言うんだけど。その子にも魔法かけて欲しいんだ。自分の子どものように可愛がってるから!ちょうど今おじさん達が旅行中で預かってて…ジェームズ!こっちおいで!」
「どうしたの、ベイン?…うわ、何この人かっこいいね!」
「ただの執事です」
「へー?新しい執事雇ったの?」
「うーん…」
ベインはジェームズの言葉に苦笑した。
ジェームズ。かの有名なジェームズ・ポッターとこんなところで会うなんて思ってもみなかった。あと5年後くらいにホグワーツでバッタリするかなぁって思ってたんだが。
ま、ベインの頼みだし。守り魔法かけとこう。……うん、今はかけられるな。そりゃそうか、まだ何の力もない子どもに守り魔法をかけたところで、契約には反しない。
「ミネルバは?」
「私は殆どホグワーツです、子どもも居ませんし…あ、よければ、今度私の姪と甥に…守り魔法をかけていただけませんか?」
「りょーかい、流石に夜に訪問するのもあれだな、今度かけにいくか」
気軽に言っているが。めちゃくちゃ凄い魔法である。
この守り魔法は死の魔法以外を俺が死ぬまで永久的に退けるノアスペシャル防御魔法だ。勿論前回の反省を活かして魔力の無い攻撃でも、悪意のある攻撃は弾くようにしている。
…ちなみに、死の魔法が当たりそうになった時に一度だけ生贄にネズミが現れ、代わりに犠牲になるようにした。
それって結局どの魔法も呪いも効かないってことではないか、とも思ったが、俺は最強なので仕方がない。
この守りが防げないのは、まぁ天災だけだろう。悪意が無いと反応しないからな。フル防御五条悟も考えたけど。
その魔法をかけるには本人の魔力を消費する必要があった。流石に一般人にかけたら一瞬で魔力切れで戦闘不能になってしまう。
──まぁ、俺にはかけてるけど。
最後の仕上げにマルフォイの屋敷と、ルシウス、アブラクサスとその妻にちょいと魔法をかけて終了。あー…流石のノア様も疲れた。
ばんばん最強魔法使いすぎた俺はアブラクサスの好意に甘えてその日、マルフォイ邸に泊まった。ミネルバもついでに泊まって、マートルとベインは家に帰った。
次の日の朝、俺はミネルバに何も言わず独りホグワーツへ向かった。
姿現しをした先は、勿論校長室だ。
「久しぶりですね、ダンブルドア先生。…あ、今は校長でしたっけ?」
「……ノア…?」
突如現れた俺に、ダンブルドアは眼鏡の奥の目を驚きに見開いた。記憶の中にあるよりも老いたその顔は、瞬時に警戒の色に染まる。ダンブルドアは机から悠然と立ち上がり、俺に向かって杖を突きつけた。
「いきなりですね」
「…わしの予想が、外れていて欲しかった。──そう、ずっと祈っておったよ」
「ええ?ゲームの事ですよね。前にも言ったように、外れてませんよ。…さて、ダンブルドア先生?俺の時間を買いますか?10分3ガリオンで」
俺は両手を上げ戦う意思のない事を伝え、目の前に椅子と机、紅茶セットを出現させ片方の椅子に座り、足を組んだ。
「どうぞ、座ってください。楽しいお喋りでも、ゲームでもいいですよ?俺の時間が10分3ガリオンだなんて、破格ですよ!」
からかうように笑ってみた。今、俺の時間を買おうとしたら0が10個は足りないだろう。俺の茶目っ気たっぷりの冗談を、ダンブルドアは深刻な表情で受け止めてしまう。洒落の分からんじーさんになってしまったのか!?
しかし、ダンブルドアは静かに俺の向かい側に座った。杖を手放さないってことは、警戒心マシマシだろうな。
「では、30分で」
「お決まりのコースですねぇ」
「…ノア、君は…トムと一緒ではないのか?」
「え?…あー、そう思ってたんですね。だからこんなにも警戒してる、と」
俺は肩をすくめて紅茶を一口飲む。
心配していたのは、俺の安否では無かったわけか。俺が闇に堕ちたのだと心配していたんだな、この人は。それがどれだけの意味を持つのか、きっと──知っているから。
「違いますよ!この姿を見てください」
「…魔法で、肉体の年齢を止めたのか?」
「ええぇ…。え、そんな事出来るんだ。へぇ…。…じゃなくて!俺が今から言う事は真実です。俺はホグワーツの研修期間が終わって…その後すぐにヴォルに眠らされました」
「…何じゃと?」
少し俺の話を聞く姿勢になったようだが、…まぁ、まだ疑心は拭えていない。そりゃそうか、この人は俺の騎士じゃ無いし、あいつらみたいに物分かりが良くない。
「マジですよ、大マジ。それで、昨日目覚めたばかりです…ま、この15年で何があったのか…俺の騎士達に聞きました。ヴォルが死喰い人を連れて魔法族によるマグル界の制圧を企んでるって」
「…ノア、君は…それに賛同しているんじゃろう?」
「賛同してませんよ。けど、まぁ…上手いこと俺の魅力を利用したなぁって感心してますけどね。そりゃあ、俺の力を使えば世界征服なんて──6日あれば世界創造する事だって出来ます」
なんて、レベルの高い洒落をダンブルドアは深読みしすぎている。…この人の辞書には冗談という言葉が乗ってないのか?アブラクサスやベインなら「流石、ノア様神様!」とノリノリで手を合わせて来ると思うぞ。
「…ならば、何故その力を持ちながら…そうしないのかね?」
「何故って。うーん。俺は神様になりたいわけじゃないんです。俺はこの世界が好きですからね。…それに、ヴォルの思想は俺の思想と少し違ってるんですよね。ってか、俺マグル嫌いじゃないし、そもそも親はマグルだったし」
「…ならば、君の力を使い、トムを止めればいいじゃろう。姿を見せるだけで事足りる。…何故そうしないんじゃ?」
「出来ないからです」
「…何?」
おいおい、いつもの口調が素に戻ってますよー?
半月眼鏡の奥の目がきらりと光る。俺の言葉の真意をなんとか探ろうとしている、その鋭い視線に俺は小さくため息をついた。
「仕方ないですねー…俺、痛いの嫌いなんだけどなぁ…」
俺が右手をダンブルドアに向かって突き出すように掲げれば、ダンブルドアの指は強く杖を掴んだ。
「俺は──ヴォルを止める」
姿を現して。
そう強く思った途端、何度目かの強い締め付けが俺を襲う。
見えない鎖は俺の腕を締め上げ、今度は火傷のように皮膚を爛れさせそこから血が溢れ、すぐに鮮血が机やティーセットの上に雨のように降り注いだ。
「ぐっ──い、痛すぎ!!ほら見ろ!!思うだけだ!それだけで俺の美しい腕がこんな事になっただろ!」
すぐに魔法で治癒したが、契約の呪いは俺の守護魔法であっても防げない。そりゃ、そうだ。あの契約は俺の魔法でもある。
ダンブルドアは俺の怪我と、俺の目を見て「…まさか」と呟いた。
よーし、これで流石に気付いただろう。気付かなかったら鈍すぎる。この事は、この人にとって割と突き刺さる事だと思うし。
「…血の誓いを…トムと…?」
「…まーね。だから、俺は世界にこの美しい姿を現せない。…死喰い人を意識的に無力化する事は、俺には出来ないんですよ。それは、俺とヴォルとの契約に反する…裏切りになる」
ふと、思った。
…もしかして、俺が何も
……。…いや、…まさかな。
流石に血のかかった紅茶を飲む気になれず、机の上に散った血やティーセットを消した。
「……ならば、ノア、君はどうするのかね?」
「新年度からルシウス・マルフォイの執事になってここに通う事になるんで、よろしくお願いします!」
「……何?」
「姿を変えて、ルシウスの執事になります!」
「…何故、そうなるんじゃ…」
にっこりと笑って言えば、ダンブルドアは頭を押さえ深いため息をついた。この人は俺と会話するとよく頭が痛くなってしまうらしい。俺の魅力にあてられたか、俺の発言が理解できないか、どちらかだな!
「ヴォルと会うためです」
「…会って…果たして、どうするんじゃ?」
「会話します。…俺とヴォルは、1番近くに居た…なのに、…多分、本音で何かを語り合う事があまりにも少なかった。…一度くらい、本気で話してみたいんですよ」
俺の顔は今、どんな表情だろうか。
笑っているのか、困っているのか、悲しんでいるのか。
ダンブルドアは暫く無言で俺を見つめた。俺を信じていいのか、まだこの短い会話では判断が出来ないんだろうな、ここまでしても、全てがパフォーマンスだと思われているのかもしれない。
「…話して、トムが止まらなければ、どうするのかね?」
「その時は…ま、その時に考えますよ」
その時。
俺はどうするんだろうな。
諦めるのか、誓いを破棄し、争うのか。そんなの──その時、ヴォルと目を見て話さないと、わからない。
「……執事として、ここに来る事を認めよう」
「やったね!」
「ただし。生徒には手を出さない事。そして、週に一度わしとこうして会話をする事。…それが条件じゃ」
「本指名頂きました!」
「…ノア、少しはまじめに話しなさい。…学生時代は、いつもそうじゃったな…」
ダンブルドアは、僅かに目を細めて口先で微笑む。
警戒心はまだあるだろう。俺がどこかに行き範囲外に出られるよりは、目の届くホグワーツで監視したいのかも知れない。
まぁ、他にも理由はありそうだな。この人はこの人で、間違いなく俺を利用しようとしている。俺の心を、多分──きっと。
「んじゃ、そんな感じで頼みます。俺の見た目は──こんな感じなので」
「…それにしても、執事としての品格を君は保てるのかね?」
「それは、──その、今から勉強しますよ」
俺は変身していた姿を戻し、肩をすくめた。
たしかに…マルフォイ家の執事たるもの、これくらい出来なくてどうします?としか言えなくなっちゃうかも、あとはあくまで執事です。とか。
ルシウスには迷惑をかける事になるし、せめてマルフォイ家の執事として立派に勤めなきゃなぁ。アブラクサスにどうやればいいか聞こう。
「ノア、不死鳥の騎士団に入るつもりは無いかね?」
「ないない、ってか無理です。考えさせないでください俺痛いの嫌なんで!…それに、俺には方舟の騎士が居ます。──俺の目標は、マグル族と魔法族の共存ですので」
「それは──そんな、夢物語を…本気で…?」
「割と本気で」
夢物語、かもしれない。
人間は自分に無い力を、理解できない力を恐れ怯え、迫害する。
…だが、俺には──俺の確かな智慧は、たった一つの突破口を示している。
細い、糸のような可能性だ、だが…可能性はゼロじゃ無い。
「ま、ダンブルドア。俺は不死鳥の騎士団の力添えは出来ませんけど、俺はダンブルドアの敵には、なりませんよ」
今のところは。
と心の奥で呟き、立ち上がる。
「さようなら、ダンブルドア」
「…また会う時まで、ノア」
俺は握手はせずに──ダンブルドアも、俺に手を差し出さなかった──その場から姿現しをしてマルフォイ邸に戻った。