ところ変わって大広間。
既に新入生以外は集まっていて大広間の後方にいる俺をチラチラと見ていた。どうやらマルフォイ家の執事が同伴しているらしい、という話はアンドロメダとベラトリックスからスリザリン生全員へ広まり、それを小耳に挟んだ他の寮生の元へと驚くべき速さで広まった。ホグワーツって、何でこう噂の流行るスピードが早いんだろ。
組分けの儀式を待つ、ざわざわとしたざわめきの中、ミネルバが扉を開け大広間を進み、その後ろから不安と興奮に満ちた顔をした初々しい新入生達がついていく。
ルシウスはいつもの威厳たっぷりの涼しい顔をしているが、何処となく緊張しているように見える。…あ、マートルの娘も居るな、俺を見てなんか嬉しそうにしてる。
ミネルバは壇上に椅子を出すと組み分け帽子を置いた。とたんにふるりと震えた組分け帽子は、四つの寮の特色を声高らかに歌い出す。
生徒や先生達からの拍手が収まった後、ミネルバは新入生達を見回した。
「これより、組分けの儀式をはじめます。ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り組分けを受けるように」
ミネルバは丸められた羊皮紙を広げ、淡々と組分けを始める。
グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ。それぞれの寮に新入生達が組分けられ、みんな顔を赤くして上級生達の待つ場所へと向かった。
…そういえば、原作ではルシウスの友達とか出てきてたっけ?……あんま記憶にないな。
「マルフォイ・ルシウス!」
名を呼ばれたルシウスは静かに椅子に座る。
帽子が頭に被せられて5秒後に「スリザリン!」と組分けされ、ルシウスは満足気にスリザリン生の居る長机へ向かう。
俺は大広間の後ろからそっとルシウスの元に近づき、席についたルシウスの少し後ろで何食わぬ顔で立った。多分、こうするのが正解だろう。
組分けは滞りなく終わり──マートルの娘のルカはレイブンクローだった──ダンブルドアが新たな生徒達を歓迎する言葉を告げた後手を叩けば、数々の豪華な料理が並んだ。
……勿論、執事は主人と一緒に食事を取れない。うん、それは知ってるけどめちゃくちゃ美味しそうだし普通にお腹すいた。…え?俺っていつご飯食べるの?1人悲しく部屋で食べるの??
豪華な食事を食べ逃した俺はルシウス達スリザリン生と共に地下牢──スリザリン寮へ向かう。引率する監督生も、俺がいる事に何も文句は無さそうだ。
それほどマルフォイ家の名が凄いという事なのか、それとも貴族にとって執事なんて当たり前なのか、俺にはよくわからない。
「よーーーぅ!新入生ちゃん達、かわいいねぇ」
「ピーブズ…」
ふわりと通せんぼをするようにピーブズが現れた途端監督生は嫌そうに顔を顰める。にやにやと楽し気に笑うピーブズを初めて見た一年生達は驚き足を止めさっと監督生の後ろに隠れた。
「どけ、ピーブズ。血みどろ男爵が黙ってないぞ」
ピーブズの苦手なものは、血みどろ男爵ただ1人である。スリザリンのゴーストである彼の名前を言えばすぐに退くかと思ったが、ピーブズはその場でくるくると何度も回転したまま意地悪気に笑う。怖い血みどろ男爵も、この場に居なければ気にしないのだろう。
「そんな事言われても、ちぃーーっとも怖くないよぉ、ほらほらチビちゃんども!ピーブズ様にご挨拶はぁ?」
ピーブズは勢い良く生徒達の頭上すれすれを飛び、そこかしこで悲鳴が上がる。
「ノア」
ルシウスが俺の名前を呼び、ピーブズを顎で指す。あ、はい。どうにかしろって事ですね。
俺は手を上げピーブズの目の前で指を鳴らす。
「───ぅああ!?」
ピーブズは引き伸ばされるようにぐにゃりと歪み、風船が萎むようにシュルシュルと辺りを飛び回り──ふっと消えた。
「い、今のは…?」
「少々煩い方でしたので、消えてもらいました。──マルフォイ家の執事たるもの、羽虫1匹を排除できずにどうします?」
にこり、と笑う。
監督生や他の一年生は唖然としてるけど、ルシウスは満足そうだしこれで間違い無いはずだ。
存在を消したんじゃなくて、まぁ、強制的に別の場所に吹っ飛ばしただけだ。今はここから1番離れたグリフィンドール塔辺りにぷかぷか浮いてるだろう。
「…執事、名前は?」
「ノア・キャンベルです。──ルシウス様の忠実なる僕です」
「…ノア…」
監督生の男の子は俺の名前を呟く。
まぁ、これで俺に対する評価は少し上がっただろう。ピーブズって割と厄介だって原作でも言われてたしなぁ。面白いやつだと思うけど。
その後監督生が率いる新一年生集団は問題なくスリザリン寮まで辿り着くことが出来た。俺が過ごしていた時と、そこまで見た目は変わらない。談話室の壁に沿ってある本棚の本が少し増えたり減ったりしているくらいだろう。
ルシウスが7年間過ごす自室とルームメイトを確認している間、俺は静かに談話室を見渡していた。
「ノア、君は純血かな?…まぁ、マルフォイ家の執事だから当然そうだとは思うが」
「ええ、勿論です」
話しかけてきた監督生に言えば、当然だよな、というように頷く。
純血のマグルですけどね、ええ。という言葉は飲み込みにっこり笑う。
今日からルシウスの執事として、うすーく闇の雰囲気を漂わし、魔法をかなり使えると示していかなきゃな。
俺のキャラじゃないし、自分を出せないのはめちゃくちゃ面倒臭い。今までほんと、好き勝手生きてたからなぁ…。
ヴォルに早く会いたい。──なんて心の奥で呟きバレないようにため息を溢した。
ーーー
生徒が寝静まる頃、俺はホグワーツの廊下を静かに歩いていた。
照らすのは窓から差し込む月明かりのみで、見回りの教師1人、ゴースト1人存在しない。
「……どこだったかな…」
目当ての部屋は7階にあると覚えているが、流石に場所までは分からない。
燕尾服のポケットから杖を出し軽く振る。ぽっと明かりが灯り、白い光線が杖先から伸び、向かうべき道を示す。
少し歩けば、白い光は何も無い壁を指し示していた。ああ、ここが──必要の部屋か。
杖を振り光を消し、ポケットに戻す。俺の──ノア・ゾグラフの杖は見た目に全フリしてる為、正直かなり目立つ。真っ白な象牙のように滑らかで美しい唯一無二の杖。一つとして同じ造形の杖が無いこの世界で、流石にこの目立つ杖を使うことは出来ない。
杖無しの魔法も、特に問題なく使えるから別に良いと言えば、良いんだけど。
3回往復するんだったな。確か。…あれ?4回だっけ?
そんな事を考えながら壁の前を歩けば、壁だった場所に突如扉が現れる。周りを見渡し誰も居ないことを確認し、俺は扉を開けた。
「おお…ガラクタやら、宝物やら…色々あるな」
現れた広い部屋は、奥まで見通すことが出来ない程塔のように様々な物が積み上げられ、中には高級そうな首飾りや甲冑もあるが、どれもこれも長くここに置かれているのだろう──埃をかぶってくすんでいる。
原作だと、ヴォルデモートは分霊箱にしたレイブンクローの髪飾りをここに隠した筈だ。この場所を、自分しか知らないのだろうと思って隠した…んだっけ?普通に考えて、これだけ物があったら他にも知ってる人が居るって思いそうなもんだけどなぁ。
心の中でアクシオを唱え手を差し出してみる。
「──……んん?」
しかし、どこかで何かが動く音も、固く積み上げられた物が崩れる音もしなかった。
もう一度強く念じるが、やはり何の反応もない。俺の最強魔法が効かないわけはない…という事は。
「……ここには無いのか」
手を下ろしポケットの中に突っ込む。
他に、ヴォルが隠しそうな場所って……どこだろう。
暫く首を捻っていたがあまりピンと来る物がなく、試しに水晶玉を出して占って見る。特徴的な建物なら、その場所がわかるかもしれない。…また森とかだったらどうしよう。
「…ここは……」
水晶玉にぼんやりと浮かんだ場所は、俺にとってよく知るところだった。
「…ま、たしかにヴォルにとっちゃ1番安全な場所か」
水晶玉に映ったのは、俺の家だった。
灯台下暗し、というべきか。目覚めてからろくに家に戻ってなかったからな、よく探せば良かった。
すぐに家へと姿現しをして、心の中でアクシオを唱える。
すると空を切り裂くように俺の前に輝くレイブンクローの髪飾りが現れた。
「…もしかして、全部揃ってたりして」
この家の守りは万全だ。俺とヴォルしか、当時は入れなかった。今は俺の騎士も俺が呼べばここに入る事は出来るが、自分でこの家を見つける事はできない。
…ほら、家主は俺でも、この家はヴォルの家でもあるし。あんまり他の人連れ込んだら、ヴォルが嫌がりそうだし。
スリザリンのロケット、ゴーント家の指輪、リドルの日記、ついでにハッフルパフのカップを強く心の中で渇望する。
ばたんと遠くで扉の開く音が聞こえ、闇の中から何かが俺に近づく。前に差し出された両手の中に、暗闇から現れた物達が収まった。
「……めちゃくちゃ信頼してるじゃねーか」
俺は、手の中に収まった黒い日記と、ロケット、指輪を見ながら苦笑した。