クリスマス休暇前、一年生達はようやく一度家へ帰る事ができるその日を心待ちにしていた。特に、一年生はそれが顕著だろう。今まで親元を離れて子供たちと教師だけで長期間の共同生活だなんて経験の無いものが殆どだろうし。
あえて帰らない選択をする者も、勿論居るがルシウスはクリスマスの日に貴族たちとパーティがあるらしくクリスマス休暇は家に帰るらしい。この前リストにちゃんと名前を書いていた。
騎士達集めてクリスマスパーティしようか!
と、思ったが、ミネルバは教師としてホグワーツに残らなければならない、うーん、残念だ。
「校長は家に帰ったりしないんですか?そもそも、家ってあるんですか?」
「わしにとっては、ここが
「へー、賑やかで良いですね」
俺は普段の変身を解き、校長室で週一のお茶会に付き合っている。
どんな話をするのだろうかと思ったが、わりと当たり障りのない雑談が殆どだった。
たまに、過去を懐かしむように俺とヴォルの学生時代の話をする事もあるが、それぐらいで俺の心は微塵も揺れない。俺にとっては楽しい日々だったからなぁ。
「ノア、本当にトムの居場所を知らんのか?」
「そうですって。知ってたらこんな面倒臭い事してませんよ」
用意された紅茶を飲み、俺は肩をすくめる。実際、本当にどこに居るのかわからない。ヴォルが学生時代交流のあったトム・リドルの一団のメンバーとも、緩い付き合いしかして無かったし、エイブリーの子どもが確かいつか入学するはずだ、セブルスと同級生だったっけ?その子が入学したらとりあえず接近するつもりではあるけど。
トム・リドルの一団に会おうと思った事もあったが、そのままの姿を曝け出すのは契約に反するらしく、一回足の骨が粉砕したからなぁ。本当、ただの攻撃じゃ無くて心理的攻撃や、陣営を減らす事も攻撃になるのだから、縛りがきつい。
「校長は、魔法族の事がマグルに知られるのは否定的なんですか?」
「…上手くいくとは思えんからのう。夢物語じゃよ、マグルに魔法族が迫害された歴史を知らないわけでは無いじゃろう?」
「知ってますよ。…けど、まぁ…俺は不可能じゃ無いと思いますけどねぇ」
そりゃ、ある程度の犠牲と迫害は覚悟しなければならないだろう。自分が持たぬ力を持つものに対し、畏怖するのは仕方がない事だ。
「でも、その考えを模索していかないと…いずれ、魔法界は間違いなく数十年のうちに周知されますよ」
「…何千年もの間、秘匿されておった。…それが変わるとは思えんがのぅ」
ダンブルドアは半月メガネの奥の目を輝かせながらたっぷりとした髭を撫でる。
うーん、この人もマグル界の事を全く理解していない。1960年後半ではまだパソコンは名前がようやくで始めたくらいで性能もかなり限定的なものだ。だが、これから半世紀もしないうちにその性能は研ぎ澄まされ一家に一台パソコンを持つようになり、それが携帯電話になり──誰もが情報を一瞬で発信出来るようになる。
「俺の預言、あたりますよ」
「……そうか」
ダンブルドアは静かに紅茶を飲む。間違いなく信じて無いな?マジなんだけどな。
時代に取り残される化石になる前に、順応した方が賢いとは思うが。きっと──ここが、魔法族にとっての分岐点なのだろう。
「
腕時計を見て約束の30分が終わったのを確認し、俺は立ち上がる。
「延長は?」
「…いや、また来週」
「はーい、では…また」
俺は姿を変える。
ダンブルドアは校長室にある肖像画にかかっていたカーテンを外した。視界を遮り音も聞こえないようにしていたそれは、きっと歴代校長達に俺の存在を知らせない為だろう。
…ま、何処から俺の事がバレるかわからないし、別にいいんだけど。
ーーー
クリスマス休暇にはルシウスは勿論家に帰る選択をしたため、俺もマルフォイ邸へ戻っていた。執事としてクリスマスパーティに参加しそれとなく顔を見せなければならなかったし、まぁ、純血ばかりのそのパーティでそこかしこで会話されるヴォルデモートに対する評価を聞く事ができて、まぁかなり有意義なパーティだっただろう。
クリスマスパーティが終わった後、俺は自宅へ戻った。
「ただいまー」
がちゃり、と扉を開ける。
だが帰ってきたのは沈黙だ。
薄らと埃が被った廊下を見ながら居間へ向かう。清めてもどうせすぐに元通りだし、──どうでもいいか。
暖炉に火を灯し、埃っぽい肘掛け椅子に座る。隣の肘掛け椅子は、勿論空席だ。
変身を解いて一息つきながら、煌々と燃える火をぼんやりと見ていた。
暫くそうしていたが、掌をくるりと回し、この家から持ち出していた品々を出し、指を振って元の場所に戻した。──日記だけは、返さなかったけど。
「…明日は…アブラクサスの所に戻ろうかな」
ここに居ても、食事は出てこないし、喋り相手が居なくてちょっと寂しいし。16歳のヴォルと喋るっていう手もあるけど、結局食事が出てこないこの家は不便だ。…買いに行くのも、面倒だし。
アブラクサスはいつでも大歓迎!って感じだったしな、むしろ一度家に戻るって言った途端なんか悲しそうにしてたし。
「…今日は、ここで寝るか…」
懐かしい我が家。
まぁ、家主の俺は殆どここに居なくて、ヴォルが家主みたいなもんだったけど。
クリスマスくらい、ルシウス達も家族で過ごしたいだろう。さっきまでパーティしてたし、あとはゆっくり家族だけの時間を過ごしてほしい。そこに他人の俺が居るのは、やっぱダメだろう。──クリスマスは家族か恋人と過ごす日だし。
「……そういや、一人でクリスマス過ごすの初めてだな」
ホグワーツではヴォルと一緒だったし、卒業してからもヴォルと過ごしていた。別に示し合わしていたわけでも、約束していたわけでも無い。ただ…ヴォルも俺もその日は休みだったし。一緒に過ごす恋人がいたわけでもないし。
欠伸を一つこぼし、暖炉の火を消す。パチパチと爆ぜる音が消えたこの場所は、一気に無音になってしまった。
俺はなんとなく、ヴォルの部屋に向かってそのまま隠し扉を開け地下室へ降りる。
ここだけが、空気が澄んでいる。一体どれほど強力な守り魔法と、清め魔法をかけたんだか。
白く清潔そうなベッドに寝転び、灰色の天井を見る。部屋の端には絶えず魔法の灯りが灯っていて、ぼんやりと明るい。
俺は暫く、天井を見ていたが──気が付いたら、眠ってしまった。
夜が深まった時刻。
ノアが静かに寝ているその地下室の扉が開いた。
こつ、こつ、と小さな足音が響き階段をゆっくりと降りる。
「………ノア」
十数年ぶりに家を訪れたリドルは、変わらず静かに目を閉じ眠っているノアを見て、ほっと安心したように息を吐き、そのベッドのそばに近付く。
柔らかな眼差しでノアを見つめるその瞳は魔法の灯りを反射し鈍く揺らめいていた。
リドルは長い前髪で顔の半分を覆う広い火傷を隠し、闇に紛れるような漆黒のローブを来ていた。白くくすみひとつないノアの頬に触れようとしたリドルは、触れる前にその手を止めたが──そっと、頬を撫でる。
「…?…温かい……魔法が、切れかけてるのか…」
リドルがノアにかけた魔法はただの強力な睡眠魔法ではない。その生命活動をほぼ止める──仮死状態にする魔法だった。その頬も、体も、本来なら冷たく生命活動をほぼ停止させている筈だ。
リドルは杖を出すと呪文を唱え、15年ぶりにその魔法をかけなおし、満足したように緩く微笑む。
暫くリドルは眠っているノアの顔をじっと見つめていた。
ここに来て、ノアを見たのは10年以上ぶりだろう。今まではあえて来ないようにしていたが、ようやく──来る事が出来た。
「もうすぐだ…。もうすぐ、君を目覚めさせる事が出来る…次に来る時は──…」
リドルの声には紛れもない歪んだ喜びが滲み出ていた。
暫くリドルは眠りにつくノアを見ていたが、夜明けが近づく頃にはその場から溶けて消えるようにして──姿を消した。
「んーーっ!!」
朝…かどうかはわからないが、俺はすっきりと目覚める。ここ窓がないからよくわからないな。
この地下室で寝るつもりは無かったけど、気がついたら寝ちゃってたなぁ。…いや、だってこのマットレスめちゃくちゃいいのだと思う。ふわふわなのに柔らか過ぎず体を包み込む…!ホグワーツのベッドは安物なのか、いまいちだったからなぁ。
俺は身体を起こしぐっと両腕を上に伸ばした。欠伸を噛み殺し、涙が滲んだ目を擦りながら──思わず失笑する。
「…どんな夢なんだよ」
クリスマスの夜に、ヴォルがここに来る夢を見た。
前髪が片方やけに長くて、その切間からは火傷の痕がちらりと見えていたけど。──ああ、確かに男前だったなぁ、ヴォルが成長すると、ああなるんだ。
ヴォルは俺を起こす事も何もせずただ、俺の頬を撫でてなんか魔法かけて出て行った。
よくわからない夢だ。きっと、クリスマスの日にヴォルとずっと一緒だったと、寝る前に考えていたからあんな夢を見たんだろう。
「…守り魔法かけてなかったらまた眠らされてたな……ま、夢だけど」
俺は苦笑し、そのままマルフォイ邸へ姿現しをした。