俺とルシウスの一年目は特に大きな問題も無く終わった。
…どれだけハリーが毎年やばかったのか良く分かるな。…いや、この世界のハリーはどうなるのかわからないけどさ。
しかし、ホグワーツ内で問題が無いだけで世間はゆっくりと闇に覆われていっていると言えるだろう。
ヴォルデモート率いる死喰い人達の思想は最早魔法省の手に追えないほど広がり、それに感化され枷の外れた流れ者や無法者がマグルを吊るし虐殺を繰り広げていた。各国の闇祓いが捕まえたとしても、末端も末端。中にはヴォルを見た事が無いだけではなく、死喰い人ですら無い者までいた。
彼らは抑圧された世界に不満を持ち、グリンデルバルドが成せなかった願いをヴォルに託しているのかもしれない。
グリンデルバルドは政治の面から魔法省や魔法連合を乗っ取り牛耳ろうとしたが、失敗に終わった。
ヴォルはきっと、全く別の組織と仕組みを作ろうとしているのだろう。添え置きの組織や人間には興味がなく、多勢を引き連れ新たな組織を作ろうとしている。
魔法省は所詮公務員であり、群衆の民意をある程度は聞かなければならないから、まぁ…これ以上民間人の声が大きくなれば無視できなくなるだろうなぁ。まじで国くらい作ってしまいそうな勢いだ。
マグルを擁護し、ヴォルデモート卿を批判する声は、不審死が乱立する中で潜められて行く。これ、ヴォルが世界を牛耳ったら将来マグルと結婚する事禁止しそうだな。
「ヴォル、今のお前は混血でありながら頂点に立ち魔法界を変えようとしてるんだけどさ、それって上手くいくと思う?」
「無理じゃないかな。…なんで今の僕はそれを隠してないんだろう。時期が来たら…トム・リドルという人間を消すつもりだったのに」
ホグワーツで与えられている自室で16歳のヴォルと話し合う。一人でもやもや考えているより、こうして誰かと意見を交わす方が思考が纏まりやすい。
本当のヴォルを知っているのは俺だけだから、騎士達にも相談出来ないし。
ヴォルはベッドに座り、その長い足を組みながら嫌そうに顔を歪める。ヴォルにとって自分が混血と言うのは恥ずべき事で、なによりも隠したい事のはずだ。
学生時代は隠せるものでもなく、ある程度ヴォル──トム・リドルを知っているものなら、彼がマグルの孤児院で暮らしている事を知っている。混血だとは知らないにしても…察する事はできる。魔法界の孤児院ではなく、マグルの孤児院にいるのだ、親のどちらかがマグルなのだろうと。
「だよなぁ、ヴォルって純血思想だろ?」
「…そうだよ」
混血のヴォルにこの事を聞くのはちょっと嫌味っぽかったかな?ヴォルは低い声で呟いて視線を床に落としたが、俺は気にせずヴォルの隣に座り顔を覗き込む。
「何で、今のヴォルは混血やマグル生まれを許容してるんだと思う?」
「………ノアのせいじゃないかな」
「は?俺?」
ヴォルの口から出た言葉に──ちょっと意味が理解できず首を傾げた。俺のせい?何でまた、…いやいや、それは、
ヴォルは睫毛一本一本見れそうな距離で俺を見つめ、嗤うように囁く。
「わからない?……本当に?」
「……」
「ノア、君っていつもそうだよね。…気付いているのに分からないフリでとぼけてすぐに誤魔化す。…全てにおいて深い関わりを避ける。子どものような責任逃れをする。…誰も隣に立たせようとしない、手を伸ばさない、踏み込ませない!……だから、僕が
ヴォルは微笑んでいたけれど。
目と言葉は冷たく俺を射抜いた。
めちゃくちゃ刺さった。刺さりまくって血吐きそう。きっと俺の顔は血の気がひいている事だろう、ヴォルは俺の傷付いた表情を見て笑みを深める。
「……やっぱ、俺のせいか」
「わかってたんでしょ?」
ヴォルの目を見れず、そのまま無言で後ろ向きにベッドに倒れ込んだ。ぎしりとベッドが悲鳴を上げたが、そんな事気にする余裕もなく、俺は手で顔を覆う。
わかっていた、見て見ぬふりをしていた。
ヴォルにとって、俺は間違いなく特別な存在だった。それを否定するのは馬鹿らしいだろう。眠らされる時に、ヴォルは
その言葉は、魔法族を守る言葉でも何でも無い、深読みせず──愚直なまでそのままの意味だった。
ヴォルデモート卿である彼にとって、混血とマグル生まれを許容する未来は本来は無かった。
だが──俺が居たから。マグル生まれの俺を生かす為に、ヴォルは世界を彼が思う正しい姿に変えようと思っている。
俺の意志に叛いて、俺の気持ちがわからずに。ああ、それも、当たり前だ。
俺はヴォルと全てを語り合う事は無かった、ヴォルはきっと俺の知っているヴォルデモート卿ではもう無くなり、勝手に輝かしい未来を──二人でホグワーツの教師になる未来を勝手に夢見ていた。浮き足立っていた。
俺は、ヴォルの心の闇を本当の意味で理解できていなかったし、──しようとも、思わなかった。
ずっと隣に居た、誰よりも長い時間、隣に。
けれど、俺は一度だって、
たった1人の幼馴染にすら
俺は、ヴォルの友人では無かった。
だって、そんなの。
「俺は──」
ヴォルが気に入っているこの外見も、人々が羨む能力も、騎士達が敬愛する俺と言う存在は
ノア・ゾグラフという1人の男の皮を被った、ただの平凡な男なんだ。
勿論、ヴォルはたった1人の幼馴染で、騎士達は仲間だ。
だが、そう。俺にとって彼らは──それだけだ。
メイソンが死んで、悲しかった。後悔もある。それは紛れもない事実だ。だが一方で心を狂わせ怒り狂うほどでは無かった。
どこかで、俺はまだ自分が異物なのだと、理解し、誰とも深い付き合いを避け、心を開かなかった。──ヴォルにさえ。
だから、ヴォルは、ああなってしまった。
1人の人間として、ヴォルと向かい合っていなかったから。ヴォルは、狂い壊れた。守れるのは──救えるのは、多分、俺だけだったんだ。彼の闇を知っていて、それでいて離れる事の無い俺だけがトム・リドルという少年を救えた。ちゃんと本心を曝け出せる程の関係になれる未来だって、きっとあったんだ。
だが、俺はその可能性がある時にその分岐点を見逃し──見ようとしなかった。
ヴォルにとって俺は、幼馴染であり、ただ1人のノア・ゾグラフという男だった。
だが、俺にとってヴォルはハリポタ世界にいるノア・ゾグラフの幼馴染だった。
ヴォルにとってこの世界は紛れもなく本物だ。…当たり前だ、彼はこの世界に生きている。だが、俺にとってこの世界は…──。
「……ほんと、俺は馬鹿だな」
「今更?ノアはずっと馬鹿だったよ」
ヴォルはとても楽しげに笑った。
「……ああ、わかってる。…もう、同じ過ちはしない。俺は──俺は、ヴォルと向き合うよ、俺の本音を言う」
「…本音って?」
俺は顔から手を退けて、楽しげに細められたヴォルの目を見た。
俺は、静かに16歳のヴォルにそれを伝える。
「…それは…うん、…今の僕は聞きたくないかもね」
ヴォルは目を見開き──苦しげに笑った。
手遅れだと思うよ。
そう、ヴォルは呟いたが、俺の気持ちは変わらない。
きっと、そうだ、ヴォルの言う通り、何もかも起こってしまった後で、全くもって手遅れだ。
だが、俺はヴォルに伝えなければならない。
確かな決意を込める、早く、ヴォルに会わないと。