チート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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50 何の日?

 

2年目のルシウスの学生生活が終わりに向かう頃、なんでもない休日の昼間に俺はベインに呼び出された。

いや、ベインが俺を呼んでいることが腕輪を通して分かったと言うべきだろう、何かあったのかとすぐにベインの元へ姿現しをする。

 

着いた場所は──どこだろ、全く見覚えのない場所だったが、座標はベインに固定していたため気絶する事なくベインの目の前に現れる事が出来た。

 

 

「どうした?」

 

 

事務所、のようなその個室にはベインしかいない。机の上には沢山の本や羊皮紙が積み上げられ雑然としている。部屋の両脇には書棚があり沢山の本が詰め込まれ、一つある丸テーブルの上には…なんか祭殿みたいに俺の写真が祀られていた。なんだこれ。

 

べインは俺が急に現れて驚いていたがすぐに真剣な顔で俺を見た。

 

 

「ノア。…ヴォルデモート卿が動いたんだ。まだ…これを知ってるのは魔法省職員のごく僅かだと思う。僕も──ちょっとしたツテがあって、ついさっき知ったんだけど…」

「…何があった?」

 

 

ベインは不安げな表情をすると、重々しいため息を一つこぼし額を抑える。

 

 

「ヴォルデモート卿が、国際魔法使い連盟に国際魔法使い機密保持法の撤廃の要求を出したんだ。期限は──1月11日」

「…大体半年後か…。…でも、グリンデルバルドの二の舞になるんじゃないのか?」

「僕もそう思うし、上層部もそう考えている。ただ──」

「…声明を出す事に意味があるのか…。各国に散らばる同士を纏めて…道標を指したのか」

 

 

ベインは肘掛け椅子に座り込むと、唸り声ともため息ともとれない吐息を吐いて脚の上で拳を作る。

 

 

「そう、だろうね。…否定するのなら各国に散らばる同士を煽って──戦争を本格的にはじめるつもりだ。むしろ、その口実作りだろう」

 

 

賛同しないのであれば、武力行使し、戦火を広げる。ヴォルも、幾ら軍事力があるとはいえ世界に散らばる死喰い人を一人でまとめ上げることは出来ない、上層部はともかく、末端の者は崇高な思想を持つ鍛えられた兵士でもなんでもない、ただ不満を燻らせ暴れたい無法者だ。──それでも、個人の力は微弱でも、それが集まれば大きなものになり、争いは争いを呼ぶ、一度広まった炎を鎮火させるのは容易では無いだろう。

 

 

「半年後、か…」

 

 

やばい。思ったより期間が短い。

考えさせないようにする為なのか?たった半年で世界が変わるわけがない。──いや、きっとその半年の間に痺れを切らせた魔法省がヴォルや死喰い人達を捕まえようと躍起になればなるほど、さらにそれを火種に反発し死を呼ぶ事になる。…そこまで、考えているんだろうなぁ。

 

 

「多分、それまでに…ヴォルデモート卿を止めなければ──もう……」

 

 

ベインは辛そうな顔で握りしめた自分の拳を見ていた。

その先を言わなくてもわかる。

一度死喰い人との全面戦争が開始されれば、数多の命が失われ歯止めが効かなくなる。

ヴォルは、魔法界に混乱を招きたいんだろうな、混乱した中で強い力を持つ者が現れ先導すれば──どうすればいいのかわからない人は、従う事しか出来なくなる。自分の家族や友を守る為に、ヴォルデモートの傘下に降る者が爆発的に増えるだろう。

ヴォルは、仲間の家族には手を下さない、らしいし。そしてその数が増加すれば、拒絶の声は更に小さくなる。

 

 

「…ヴォルが活動するなら、間違いなくイギリスだろうな。死喰い人の数も…他国と比べて多いし」

「うん…ヴォルデモート卿の勢力は──その、…ノアの信者の分布と同じだからね」

「…そうだろうな。──半年後か…」

 

 

俺は机に身を寄せ、少し考える。

俺が、ヴォルの立場なら──間違いなくこの半年の間にさらに勢力を拡大しようとする。力をより強固なものにし、一切反論させないように。闇をより深め、広める。

 

 

なら、きっと──。

 

 

 

「…間違いなく、ルシウスは──マルフォイ家はもう一度誘われるはずだ。ヴォルは純血に特別な感情を持っている。マルフォイ家はヴォルデモートに反抗する純血一族ではなく、今は中立だ。その血を絶やすことは…望まないはずだ。…ホグワーツには他の純血も居る…大きな集会があるだろうな」

「うん…。…その、ポッター家は、最近…ダンブルドア派…不死鳥の騎士団に属したんだ。──多分、半年後…どんな未来になっても、ポッター家は…滅ぶ」

 

 

ヴォルの要望が聞き入れられ、法律が変わったとしても、反乱分子は粛清されるだろう。

ヴォルの要望が棄却され、戦争が始まっても──結局、同じ事だ。

 

 

辛そうに眉を寄せ、肩を震わせるベインを見て、俺は──かけるべき言葉が見つからない。ベインは、守る、俺がこの手で。だが──ポッター家全ては守ることが出来ない。

死にゆく未来にポッター家は必死に抵抗するだろう、だが、それも──多勢に無勢だ。いずれ、終わりが来る。

 

ベインの家と幼いジェームズ・ポッターを守った時は、まだヴォルに対してその子どもはポッター家の者ではあったが脅威では無かった。しかし、今──ポッター家の者を守ることは、俺には出来ない。

 

 

半年後。

 

 

運命のその日までに、俺はヴォルと出会い──話をしたところで、今更、止められるのだろうか。

 

 

記憶体のヴォルが、「もう、手遅れだ」と言っていた言葉の意味を、俺は深く理解した。

 

 

たとえ──もし、本人は微塵も考えていないだろうが──ヴォルデモート卿が失脚したとしても、世界に広まった火は直ぐには鎮火されない。今、ヴォルデモートはただの殺戮者では無いのだ、きっとそれすらも口実に──今度は別の誰かが声を上げるだろう。

たとえ、ダンブルドアがどれほどの力を持っていても──彼はただ世論に反抗する市民を殺すことは出来ない。

 

 

「俺が、何とかしないと…」

 

 

そう呟けば、ベインは立ち上がりそっと俺の前に跪き俺の手を取った。

驚いてベインを見下ろす。彼は──今までこうやって、自分から俺には触れなかった。

 

 

「ノア。…僕の大切な人。──全てを1人で背負わないで。僕は…僕たち騎士は、いつでもノアの側にいる。ノアの…君の理解者にはなれないだろう、でも……君は、独りじゃないんだ」

 

 

真剣なその声に、俺の胸の奥にぐっと熱いものが込み上げてきた。

ああ、そうだ。──俺は独りではないと、彼等は強く思ってくれている。

 

心を完全に曝け出しているわけではないと、ベイン達も薄ら気がついているのだろう。それでも、彼らはこうして──正しい言葉を俺に向けてくれる。…俺が、あいつにかけられなかった言葉だ。

 

 

「…ありがとう、ベイン」

 

 

ベインは照れたように笑うとすぐに手を離し「ノアに、触っちゃった…」とぽつりと呟き、自分の掌を見つめていた。うーん、いい大人なのに目がキラキラして少年みたいだ。

 

ベインは照れを誤魔化すようにパッと立ち上がると「でも、まさか1月11日にするなんてね」と話題を急に変えた。

 

俺はベインの言葉に首を傾げる。その日は…何かあったっけ?イギリスの創立記念日でも無いし、何か大きなイベントがある日では無い。ギリギリポッキーアンドプリッツの日でも無いし。あー日本では鏡開きの日だっけ?鏡餅なんてヴォルが知ってるわけ…無いよな。

 

 

不思議そうな顔をする俺に、ベインは信じられないような目で俺を見た。

 

 

「まさか──気付いてないのかい?」

「え?鏡開き?」

「かがみびらき?…なんだって?」

 

 

ベインの怪訝な顔を見ると、どうやら鏡開きでは無いようだ。うん、当たり前だよな。いやーでも無病息災を願う行事だぜ?俺やったこと無いけど。

 

 

「誕生日でしょう?」

「誰の?」

「誰のって…ノア、君のだよ。そんな素晴らしい日を忘れるなんて、多分この世界でノアだけだよ、今でも世界中でファンの祝祭が開かれてるよ」

「……まじかよ」

 

 

いや、まじで?

 

祝祭が開かれてる事にも驚きだが、ヴォルがその日を選んだ事にも普通にびびる。

なんつー日を選んだんだ。俺の誕生日。ノアの誕生日か、普通に忘れてたわ。だってその誕生日は、ノア・ゾグラフの誕生日であり──本当の俺の誕生日では無い。

 

この体の──ノア・ゾグラフの両親が殺された後、警察が俺について調べた資料が孤児院先に送られ、1月11日が俺の誕生日なのだと知った。孤児院では入所する子どもの誕生日、その子どもにだけ小さなカップケーキが用意されていた。勿論あまり裕福ではない孤児院だ、それが精一杯なのだろう。

プレゼントのひとつも無かった為──まぁ子ども達は俺に手作りのおもちゃとかその辺の花とかくれたけど──俺にとってその日は誕生日というよりも、カップケーキを食べる日だった。

 

うん、そういや、そうだ。

俺の誕生日だ。

 

 

なんで、ヴォルはわざわざその日を指定したのか。

めちゃくちゃロマンチストなのか、そんな事一切興味ありませんみたいな顔してて?

たしかに、その日は一応形式のように「誕生日おめでとう」とは言ってくれたけど、それだけだったよな。

 

ただロマンチストだからその日を指定したなんて馬鹿な事はないだろう。ヴォルらしくもない!

 

死喰い人のノア派の士気を高める為だろうな、彼らにとってその日は意味のある特別な日だ。その日に世界を変える──ああ!なんつー喜劇だ!

 

 

──いや、まさか。

 

 

ひとつの考えが浮かび、俺は頭を抱えた。

 

 

 

「……あり得る…」

「え?…どうしたんだい?」

「……いや…なんでもない」 

 

 

ベインに向かって手を振り、俺は後ろに手をつき天井を見上げた。

 

 

「ロマンチストかよ…」

 

 

もしくは、とんだペテン師だ。

 

 

何のことかわからないベインは、困惑した表情をしていたが、それに構う余裕はなかった。

 

 

 

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