明日から2ヶ月間の夏休みが始まる。
生徒たちはホグワーツでの朝食を取り、汽車の出発時間までに荷物をまとめる為に足早にそれぞれの寮へ向かった。
俺も、少ないとはいえ与えられた個室に荷物があり、それを片付ける為に校長室へ向かう。
「ノア、座りなさい。…30分、時間を買ってもいいかね?」
「…えー俺忙しいんだけどなぁ…」
校長室に入れば、待ち構えていたダンブルドアがすでに部屋の中央に机や椅子、それにいつものティーセットを出していた。歴代の校長の肖像画にも、しっかりとカーテンが引かれている。
まぁ、夏休みになる前に少し話したい気持ちもあったし…いいか。
ダンブルドアの目に射抜かれて、肩を少し上げ「まいどありー」と呟き対面する椅子に座った。
「最近、忙しかったようですね?」
「…そうじゃのう」
紅茶の良い匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
この人が用意してくれる紅茶は中々に高級なものばかりで、菓子も美味しい。
「ノア…君は──正しい道を歩めるのか?」
「……俺はいつも正しい道を歩んでますよ?」
温かい紅茶を飲み、少し笑う。
ダンブルドアは気難しい顔をしたまま「そうか」と呟いた。
容易な道ではなく、正しい道を。俺はこの先に歩んでいくつもりだ。
「ダンブルドア。…一度、動き出した世界は止める事は出来ません。…あなたは、どうしますか?」
「…誰もが平穏に過ごせる世界ならば…否定はせんよ。…だが、それを叶える為には──
「…犠牲……。…貴方のいう
用意されていたチョコを食べる。やけに苦いな、これ。
ダンブルドアは悲しげな目で俺を見つめ、その美しい瞳を翳らせる。この人は保守的だが、愚かな人では無い。
数多くある未来を考えた時に、この世界の秩序と平和を守る為に何が犠牲になるのか分かっているのだろう。何よりも世界に対して、隣人たちに対して正しくあろうとするこの人の道もまた、平坦なものでは無かった。
正しい道を進む為には──沢山の命と、続いていたはずの未来が終わると、ダンブルドアは考えているんだ、きっと。
大きな戦争を予見しているのは、何もこの人だけでは無い。だからこそ、ダンブルドアや魔法省、不死鳥の騎士団は隣人の平和の為に争っているんだろうな。
だが、この人は俺の力の全てを知っているわけではない。──ヴォルも、知らないだろうけど。
「犠牲は1人で…すみますから」
「…何を──まさか」
ダンブルドアは目を見開き息を呑んだ。
彼は、誰をその脳に思い浮かべたんだろうなぁ。まあ、察することは出来るけど。
「しかし…
「はは!…誰の事を考えたんですか?俺はヴォルを殺せませんよ、そんなの、したくないし」
「……ノア、君が──?」
「さぁね。どうでしょう?──さて、俺はもう行きます。時間の残りは…そうですね、また次回に貸しで。金も後日でいいですよ?」
残っていた紅茶を飲み干し、俺は指を振る。
俺の自室の扉が開き、中からトランクケースがふわりと現れる。持ち手を掴み、険しい表情をするダンブルドアに微笑みかける。
「また、会えるのかのう」
「会えますよ。貴方とのお茶会は嫌いでは無いし。──きっとね」
俺は少し頭を下げ、それ以上は何も言わず校長室を後にした。
早くルシウスの所に行かないとなぁ、ご主人サマに支度をさせるなんて、マルフォイ家の執事失格だ!
自分の荷物を消し、とりあえずマルフォイ邸の玄関に転送して、直ぐにスリザリン寮へ向かった。
ーーー
キングズ・クロス駅に着いた俺はすぐにルシウスの手を掴みマルフォイ邸まで姿現しをして帰る。
家に入るまでは俺はルシウスの執事だ、ちゃんと扉を開けて頭を下げれば、ルシウスは少し顎をつんと上げいつもの涼しい顔で屋敷の中に入った。
ぱたん、と扉を閉め、俺は姿を元に戻す。
ルシウスは振り返るとさっと俺の手から自分のトランクを掴んだ。
「ノア様!すみません、持たせてしまって…」
「別にこれくらいいいのに。部屋まで運ぶぜ?」
「いいえ!そんな事…私が自分で…」
「はいはい、わかった!じゃあ大広間に行っとくからさ、後でこいよ?」
「はい、わかりました」
ルシウスは重そうなトランクケースを持ちながら俺に深々と頭を下げ、階段を駆け上がった。
大広間に行けば、既に大広間の中央にある大きな長机の席に着き、俺の騎士達が待ち構えていた。…ミネルバ到着早くね?教師なのにさっさと帰ってきていいもんなの?
「ノア様…ヴォルデモート卿が──もう、知ってますよね?」
椅子に座っていたマートルは不安げな声で俺に聞く。
俺は空白の上座にいつものように座り、硬い表情をする騎士達を見渡した。
ヴォルは、自分の配下に道を示した。
なら、俺も──彼らに道を示すのが道理だろう。
「まぁな。…ルシウスが、死喰い人の集会に誘われた。純血一族の子どもばかりが集められる集会だ。…ま、将来を見越しての投資だな」
「…ルシウスが…」
アブラクサスは難しい顔をして、机の上に乗せていた自分の手をじっと見つめた。
喜んでいいのか、その表情は複雑で──まぁ、自分の息子が任務を達成したとはいえ、これからする事はかなり危険なものになる、と、思ってるんだろうなぁ。
「大丈夫。ルシウスに手出しはさせない」
「…ありがとうございます」
「礼を言われる事じゃねぇよ。…俺の我儘に、付き合ってくれてるんだ、本当に…ありがとう」
「いえ。…私たちは、ノアさん。あなたの騎士です」
マクゴナガルは静かに言うと、少しだけ微笑んだ。アブラクサスやベイン、マートルも頷き、確かな信頼の眼差しを俺に向ける。
ガチャリ、と扉が開く音がしてそちらを見れば、荷物を片付け終わったルシウスが驚いたように──騎士達が揃ってるとは思わなかったのかもしれない──目を瞬かせ、慌てて扉を閉めようとした。
「すみません、部屋に──」
「いい、ルシウス。お前も座れ」
「は…はい…」
部屋に戻りかけていたルシウスは体を小さく縮こめながらアブラクサスの隣におずおずと座る。この大人ばかりの空間に自分がいていいのか、少し不安そうだった。
「8月1日に、俺はルシウスと集会に参加する。その時、ヴォル──ヴォルデモート卿もいるって話だ。その日にヴォルデモート卿と話して……俺は、彼の答えによっては──賛同するつもりだ」
「賛同…ですか」
「ああ、魔法界の存在をマグル界に知らしめる。…だけど、俺はマグル達を支配し、奴隷のように扱うつもりは無い。世界で魔法の存在を隠す事なく、当然の個性として受け入れる。そんな世界を目指す」
「…、…マグル達は、僕らを本当に受け入れるかな?魔法を恐れて、迫害…とか…」
ベインは不安げに呟く。
数の多いマグルに対し、俺たち魔法使いは力を持つが、弱い。力を持たぬ群衆でも、集まればそれなりの影響力を持つことは確かだ。
「…俺なら、可能だ。多分、俺にしかできない。──まぁ、ヴォルも同じような事を考えてそうだけどな──俺は、俺が持つ全ての力を使って、世界を掌握する」
「…世界を…」
「実質、世界征服だな。魔法界も、マグル界も…全て」
しん、と空気が張り詰められた。
流石の騎士達も本当にそんな事が出来るのかと思っているんだろう。
まぁ、世界征服だなんて誰も達成した事ないってか、考えないよな。そんな馬鹿げた夢物語は子どものうちに卒業するもんだ。
だけど、勿論世界全てを掌握するのは容易ではないかも知れない。どの程度反乱因子がいるのかも、蓋を開けてみないと──こればっかりはその時になってみないと分からない。
俺は世界最強の魔法使いだ。不可能は、無い。けれど、俺が考える計画に──俺の命の安否は含まれていない。
俺のチート能力頼りきりの計画だからなぁ、これがダメなら俺は普通に…犯罪者になるし。それもグリンデルバルド越えの。
ああ、でも…俺は本当は世界を変えるつもりも、神様になるつもりもなかったのになぁ。
「俺は出来る。だけど…勿論、お前達に強制はしない。着いてこいとは、言えない。世界の答えによっては犯罪集団となる可能性もある。…それぞれの立場があるし、家族がいるだろ?ある程度の反発も覚悟の上だ。血は流さないつもりだけど──」
「ノア様、我らは方舟の騎士。──それを名乗ってから、ずっと貴方様のみに忠誠を誓っています」
アブラクサスは俺の言葉を遮り、よく通る静かな声で言った。
その目にうつるのは、確かな覚悟か、それとも──。
「うん、ノア。…ここまで来て僕らを置いていかないで。僕らはずっと君の騎士だ。周りに何を言われようと、側にいるって…ずっと前から決めてるよ」
「ノア様!私は、あなたに命を──心を救われてから、ずっと恩返しをしたいと思っていました!それが叶うのなら、どうぞ…私を騎士として、側に置いて下さい!」
「ノアさん。今更ですよ。私たちはずっと──忠実な騎士です」
アブラクサス、ベイン、マートル、ミネルバは笑っていた。
子供ではない彼らは、これから何が待っているのか──わからないわけではないだろう。だが、それでも騎士達は、いつまで経っても俺を信じ、側にいる。
ヴォルのところにいる死喰い人になってしまった狂信者との違いは、これだろう。
4人は、俺を神聖化し、敬愛し、信頼しているが──ずっと側にいる。何があっても裏切らない魂の騎士。
「…ありがとう。アブラクサス、ベイン、マートル、ミネルバ…」
「いえ、当たり前のことですよ。…ですが、ノアさん。もし、ヴォルデモート卿がノアさんの考えに同意しなければ──どうするのですか?」
ミネルバの言葉に俺は少し黙った。
まぁ、その可能性もあるだろう。ヴォルは俺とあっても意見を変えずマグル界の制圧を臨むかもしれない。だが──ヴォルの計画には間違いなく、俺の力が必要だ。俺が賛同しないとわかれば、また俺を眠らせて俺になりきり世界を変えようとするだろう。
けど、それは俺に対しての
「…その時は、血の誓いを解かなきゃなぁ」
「ヴォルデモート卿と、戦うのですね」
「んー。…やりたくないけどな、大切な奴だし」
いかん。あんまり考えちゃダメだ。なんか腕と首元が苦しくなってきたし。
「ノアは…。…ヴォルデモート卿を愛しているの?」
ベインがぽつりと聞いた。
マートルは口元を隠しながら「当然でしょう!」とベインに囁く、いや、お前が何言ってんだ。
ヴォルを愛してるか?…って、そんなの。
「──そうだな、多分、そうだ」
「まぁ!ですよね!?」
「マートル、喜んでるとこ悪いけど、そういう事じゃなくてだな…。うーん…親愛とか…兄弟愛に、近い…のかな、なんか言葉にするの難しいけどさ」
多分、そうなんだろう。
俺がここまでヴォルを止めたいと思うのも、昔一緒に住んで1番心が平穏だったのも、そこにはヴォルに対しての愛があるからだ。
なんか残念そうなマートルはともかく、アブラクサス達は納得したような表情をしていた。彼らにも愛する人はいる。それは伴侶だったり友人だったり、俺だったりするだろう。それを守り、側に居たい気持ちはきっとわかるはずだ。
「俺は、お前たちの事も──愛してるぜ?」
ヴォルだけじゃない。
たしかにヴォルは俺にとって特別、だけど。
その次には騎士達の事を大切に思って愛している。
言葉にしなければ伝わらない、と嫌と言うほど学んでいた俺は騎士達を見て笑いながら言った。
「うぅ!!」
「ぐはっ!」
「し、心臓がっ!」
「くっ…!──はっ!ノアさん、だ、ダメです!ルシウスが気絶しましたよ!?」
途端、騎士達は胸を押さえて机の上に突っ伏した。ぴくぴくと震えるアブラクサス達だったが、ミネルバが胸を押さえ顔を赤くしながらその近くにいるルシウスが目を開けたまま気絶しているのを見て慌てて叫ぶ。
「あーちょっと、子どもには刺激が強すぎたか…」
「ノ、ノア様!もう一度、もう一度言っていただけないでしょうか…?」
アブラクサスはルシウスが気絶してるのに、はあはあと呼吸を荒げながら顔を上げた。
うーん、まぁこんな事で喜んでくれるなら、いいか、今まで頑張ってくれてたしな!
「──アブラクサス、愛してる」
「我が人生に一片の悔い無し…!」
「…おーい、死ぬな」
「ずるい!ノア、僕にも!」
「…ベイン、愛してるよ」
「生きててよかった…!」
「ノア様!わ、私にも…!」
「…マートル、愛してるぜ?」
「鼻血出そう…!」
「ノアさん…」
「ミネルバ、愛してる」
「今ならドラゴンにだって変身させれそうです…!」
「……屍しか残らねぇな」
再び机に突っ伏して悶絶する騎士達を見て、俺は本当にこの4人は俺狂いだと再確認した。──まじで変わらねぇな。
追記。
ヴォルの今の口調についてアンケートです。
もしよろしければ投票して頂けると嬉しいです、
期限は18日までです、よろしくお願いします!
例文、「1月11日はノアの誕生日、気がつかなかった?」
1.「その日は、ノアの誕生日だろう。気付かなかったのか?」
2.3「1月11日は、ノアの誕生日でしょう。本当に、気付かなかったんだ?」
という感じです。
ヴォルの今の口調について、どれが良いですか?
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原作通り、そこそこ高圧的な感じ
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ノアの前だけ昔のように話す
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昔と変わらない