8月1日。
どうやってその集会場所に行くのかと思っていたら、その日にベラトリックスがマルフォイ邸を訪れた。
成程、使者が来なければその場所には行けないわけだな。活動拠点の場所の秘匿性を上げる為だろう。
ベラトリックスを応接間に通せば、彼女は何も言わずどかっと乱暴に椅子に座った。
対面に座るルシウスは、苛つきを押さえられない様子のベラトリックスを見て驚いている。まぁ、ベラトリックスは割と感情の波が荒い、静かだと思えば急に癇癪を起こし激しく激昂する事がある。
俺は無言で紅茶をルシウスとベラトリックスの前に置き、ルシウスの後方に下がった。
「…どうした?」
「別に、なんでもない」
ぶっきらぼうにベラトリックスは吐き捨てたが、足は苛々と落ち着きがなく動いているし、綺麗な眉間に深い皺が刻まれているし、さらに親指の爪まで噛んでいる。どうみても、何かあったんだろうな。
ベラトリックスの心を見れば。
──ああ、アンドロメダが誰と付き合ってるのか知ったのか。ブラック家にとってみればそれは裏切り行為だろうしな。
「…ベラ、どうやってその集会に行くんだ?」
「ああ…移動キーを預かってる。裏切り者が来ないようにね。──後、数分だ」
ベラトリックスはルシウスの言葉に、今はアンドロメダの事を考えるのを何とか堪えていた。彼女は家のゴタゴタを俺たちに伝えるつもりは無いんだろう、家の恥だと思ってるし。
紅茶を飲みなんとか気持ちを落ち着かせたベラトリックスは胸ポケットから銀色の物を取り出す。それはなんの変哲もない掌ほどの大きさの置物だった。ただ、──方舟の形をしていたが。
「この方舟に乗る事を許された──その意味をしっかりと、理解するんだよ」
「ああ…」
「…ベラトリックスお嬢様。…私も、坊ちゃんの執事として同行してもよろしいでしょうか?」
「…何でわざわざ執事が同行するんだい?」
ベラトリックスは怪訝な目で俺を見る。
うーん、まぁそう言われると思ってた。
ルシウスは沈黙し表情を僅かに変えたが、大丈夫、こんなの想定の範囲内だ。
「ベラトリックスお嬢様──お願いです、連れて行って頂けないでしょうか?」
しっかりと、ベラトリックスの目を見て告げる。言葉に魔力を込め、彼女の心を捉え惑わせる。──途端に、ベラトリックスの目は虚になり、小さく頷いた。
「…ああ、…まぁ、執事くらい──構わないか」
「ありがとうございます」
ベラトリックスは掌に銀の方舟を乗せ俺たちに向ける、俺とルシウスはそれに触れ、時が来るのを待った。
「──時間だ」
ベラトリックスが呟いた途端、臍の奥あたりからぐっと前に引っ張られる感覚がし視界に映っていた景色が変わる。
なっ、何これジェットコースターみたいだな!?よく考えれば、移動キー初体験じゃん!──き、気持ち悪っ…!
ぐんぐん前に進む感覚に内臓がぞわぞわする。ふと速度が緩み、俺は隣にいるルシウスの腰を自分に引き寄せた。
とん、と降り立った先は──鬱蒼とした森の中だった。
何とか転倒する事を防ぐ、流石にご主人様をずっこけて到着させるのはマルフォイ家の執事として回避しなきゃならねぇよな。
「大丈夫ですか?」
「ああ…ここは…?」
「さあ、私も詳しい場所は聞かされてないからね。…到着すれば──後は分かると聞いている」
「…成程。──あちらのようですね」
俺は森をぐるりと見渡し、前方を指差した。
木々の梢の隙間からちらちらと、人工的な灯りが見える。おそらくそこが隠された集会場所なのだろう。
それにしても、この森は目醒めた時にヴォルの居場所を探した時に見た森…だよな、多分。どこの森だろ。…俺の家にある森…では無いはずだ。
「…行くよ、ほら、さっさとおし」
ベラトリックスが顎で道を指し、俺とルシウスはその後を着いていく。
少し歩けばその光はさらに大きくなり、鬱蒼としていた森は突然終わった。
広い空間に現れたのは、岸壁を背に聳え立つ古城だ。──なんか、グリンデルバルドの要塞みたいだな。
俺たちが古城に到達した頃、至る所から足音が複数聞こえ、同じように死喰い人の配下にある者に先導された子ども達が現れた。
どの子どもも、緊張していて顔色が悪い。見慣れた顔も多く、彼らは無言のうちに探るように視線を交わすと──僅かに表情を緩めた。
同じような立場の者がこんなにも居るとわかり、自分の選択は間違いでは無いと安堵しているのかもしれない。
高く、大きな門扉の前に沢山の子どもと、少しの大人が集まる。
1人の男が先頭に立つと、なにやら呟き左腕を捲った。露出された左腕には髑髏と蛇の印がある──死喰い人の印だ。
んー?この男見覚えあるな。フードを深く被ってるから、ちょっとしか顔見えないけど…あー…エイブリーか?大人になったなぁ。無精髭まで生えてるし。何か目は窪んでて体調悪そうだけど。
エイブリーが印を掲げれば、門は錆びた軋みを上げながら開く。
場の空気に飲まれ、誰も言葉を発しない。
エイブリーは一瞬俺を見たが、何も言わなかった。ルシウスに専属の忠実な執事がいると言うことは聞いているのかもしれない。
純血主義のルシウスに従う俺も、純血主義と見えるように振る舞っていたし、ここで待ちぼうけを喰らうことはなさそうだ。
俺たちはエイブリーに連れられ、静かに門を潜り、その城の中に足を踏み入れた。
集められたのは、多分ホールだろうな。
机も何もない広い空間に、30人ほどの子ども達と、死喰い人関係者が集まったそこは、前方中央にステージがあり、自然と子ども達は──恐々と、その前に近づきやや高い場所にあるそこを見上げる。
「坊ちゃん、少し、後方に…」
「…ああ」
ルシウスにだけ聞こえるように耳元で囁く。ルシウスは頷き、集団から離れない程度の後ろに何気なく移動した。俺はその後ろに着き、部屋の中を見渡す。
壁に沿って等間隔でフードを深く被った者達が立っている。何かすれば、すぐに魔法が飛んでくるんだろうな。見えるように杖を出しているのは、牽制の意味があるんだろう。
子ども達はひそひそと言葉を交わし、いつになればその人が──ヴォルデモート卿が現れるのかと、何も説明しない死喰い人達を見たが、死喰い人達は無言でそれぞれの持ち場に着いている。
突如、部屋を明るく照らしていた蝋燭の光がふわりと揺れ、子ども達の影がぐにゃりと魔物のように歪んだ。
その影の不吉な揺らめきに合わせるようにステージ上に大きな黒い焔が上がる。
「──よく、来てくれた」
その炎が晴れた後、そこに立つのは──ヴォルデモート卿だ。
顔の右側に銀色の半仮面をつけている。髪は肩下まで伸び、顔色は悪い、うん、めちゃくちゃ青白い。
漆黒の長いローブを着て、手には黒く滑らかな皮手袋をつけている。
肌を極限まで露出させていないその格好は、奇妙なほど似合ってる。なんかラスボスの闇の帝王感あるな。いや、ファントムか?
それよりも。
めちゃくちゃイケメンじゃねぇか!
しかも、何だ?夢で見たヴォルと全く同じなんだけど!俺の妄想の具現かと思ったわ。……あれ、夢じゃなかったのか?
ってか40代にしては若く見える。魔法族って平均寿命長いし、魔力のおかげで多少は老いるのがゆっくりなのか?
ヴォルはステージ上から子ども達を見下ろし、優しく微笑んでいる。甘く闇を思わせる微笑に、何人かの子ども達が息を呑んだ。
「今、ここに来ている君たちは。選ばれた特別な者だ──。新しい世界の夜明けを、共に見る事が出来るだろう」
ヴォルはお得意の話術で耳障りの良い言葉をつらつらと噛む事なく言う。
無垢な子ども達はころりといってしまいそうなその言葉は、俺には薄っぺらく聞こえたが、まぁ…ヴォルはそんなやつだよな、彼らに本心を語るとは思えない。
長いヴォルの演説を静かに聞く。
純血の子ども達は、ヴォルが掲げる理念と世界の構造を聞き、果たして何を思ったんだろう。
ヴォルの演説が終わる頃には、子ども達はヴォルを羨望の眼差しで見ていた。ここに来ている段階で賛同しているようなものだし、わざわざ異議を唱える子供なんていないか。
俺はヴォルデモート卿に忠誠を誓い、首を垂れる子ども達を見てため息をつき、時を止めた。
そのまま姿を元に戻して、静かに微笑むヴォルの前に立ち、──そっと、手を握った。
「久しぶり、ヴォル」
ヴォルは目を見開き、表情を崩した。
「…ノア……何故…──本物?」
「この美貌と、力を持つ奴が他にいるなら知りたいね。──周り、見てみろよ」
からかうように笑う。
ヴォルは鋭い目で辺りを見渡し、俺の背後にいる子ども達や壁際に立つ死喰い人達の異変にようやく気づいたようだ。
「…これは……時を、止めて…?」
「時、ってか、世界そのものを止めてる。俺に触れてる奴だけが動けるんだ。──ま、そんなことはどうでもいい。時間もねぇしな…ヴォル、俺はお前と話したい。…家で待ってるから」
「………」
ヴォルは頷く事は無かった、俺の真意を読み取ろうと、じっと目を見つめるだけだが、沈黙は肯定と同じだし、俺の心からのお願いをヴォルが叶えない事はない。──ヴォルも、俺が何を考えているのか気になってるだろうしな、俺の行動によっては、ヴォルの計画が水の泡になるわけだし、無視できないはず。
「──じゃあ、後でな」
俺はぱっと手を離す。
うーん、あと数分はあるけど、時間は温存しておかないと──何があるか分からないし。
すぐにルシウスの後ろに戻り、姿を変えて世界を進める。
ヴォルは暫く無言で自分の掌を見つめていたが、子ども達や死喰い人達が急に沈黙したヴォルを不思議そうに見ている事に気付くと、すぐに彼らに対して完璧な微笑を見せた。
ヴォルの今の口調について、どれが良いですか?
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原作通り、そこそこ高圧的な感じ
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ノアの前だけ昔のように話す
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昔と変わらない