ヴォルの手を握ってて思うけど、マジでこれ血通ってんのかってくらい冷たい。俺の手がどんどん冷えてくぞ、末端冷え性にも程があるだろ。つい、にぎにぎしながら真顔で青白くて綺麗な手を見つめる。血管浮いてるし、手フェチは喜びそうな手してるなぁ。
「…あれ、集会では革手袋つけてなかった?」
「ああ…。…──それより、ノアはどうやってあの場に来たんだ?内通者は…居なかったはずだけど」
「え?…まあどうせ後で言うつもりだったからいいか…」
そういや革手袋は?と思ったけど、ヴォルは俺から手をするりと離すと思いついたように話題を逸らした。
まぁ、別に革手袋の有無はどうでもいいけど、末端冷え性ならつけておいた方がいいんじゃないか?
「俺、今ルシウスの執事やってんだよ」
「…君が?…執事?」
ヴォルの前に背筋を伸ばして立ち、指を振れば──俺の姿はすぐにあの真っ黒なイケメン執事に変わる。服装まで燕尾服で美しい悪魔で執事だ。
そのまま胸に手を当てて、完璧な角度で頭を下げてみる。
ついでに机の周りの悲惨な状態をさっと消滅させ、新しいワイン瓶とチョコを出現させる。
あのワイン高かったんだけどなぁ。…グラスはレパロで直せたから、まぁいいか。
「──申し遅れました、ヴォルデモート卿。私はルシウス・マルフォイ様に仕える忠実な執事、ノア・キャンベルです」
「……ノアだったのか」
「ええ、…意外とわからないものでしょう?──さて、ヴォルデモート卿、ワインのおかわりをお継ぎしましょうか?」
「……頂こうか」
「かしこまりました」
ヴォルが珍しく俺の戯れに乗ってくれている!
どこか口調が偉そうなのはそれが部下や他人に見せるヴォルの仮面の一つなんだろうな。…俺の前だけで、少し気を抜いて話してくれているのなら、それはそれで──まぁ、嬉しい。うん。
「何故、執事をしているんだ?」
「ああ…貴方様に御目見するためですよ、ヴォルデモート卿。私は──貴方様に一目、会いたかったのです」
「…
「──と、まあ。こんな感じで姿変えてホグワーツに潜入して、ルシウスが集会に呼ばれるように色々裏で動いてたってわけだ」
隣に座りながら指を鳴らし姿も服も戻して、自分のグラスにワインを入れて飲む。
ヴォルは俺にしてやられたとでも思ってるのか、何かちょっと嫌そうな苦い顔をしていた。
「俺の方が一枚
「…君が執事の真似事をするとは、思わなかったからね」
「俺もだわ。…ま、こうして会えてよかったけどさ」
しみじみそう思う。
もし俺の目覚めが後三年遅ければ、世界は戦争真っ只中で大混乱の中、ヴォルは闇の帝王となり君臨していたのかもしれない。
ヴォルは俺を偽り、
「……それで、…この後、どうするつもり?」
「世界を変えよう!」
「それは、わかったから。──どうやって?マグルを殺したり、制圧する気は無いんでしょう?」
「殺すつもりも、恐怖で支配するつもりも一切ない。──ヴォルは隠れ暮らす魔法族の事をマグル界に知らしめて…魔法族がマグルを支配して奴隷化したかったんだよな?俺は魔法族の事をマグルに周知するのは、いいと思うんだよ。もう隠れ暮らさなくてもいい──そんな世界を作りたい。だけど、一方的な支配じゃなくて…お互いを知りながら尊重出来る…平和な世界にしたい」
「それは──…かなり、お伽噺のような世界だ」
軽い嘲笑を溢しながら吐き捨てるようにダンブルドアと同じことを言うヴォル。
まぁ、何千年も魔法界とマグル界は分断していた、関わっていなかった。その二つの世界が手を取り合うなんて──確かに夢物語かもしれない。
「そのために世界征服をしようと思う。俺は世界一の犯罪人になるよ」
「…平和な世界とは乖離してるね?」
「ま、平和に見せかけた
「…流石の君でも、力で屈服させずに…そんな事──」
怪訝な顔をするヴォルに、俺は「出来るさ」と呟いてワインをちびちびと飲みつつチョコを齧る。
世界征服だなんてガキみたいな夢物語を、俺は本気で叶えるつもりだし、それがこの世界にとって──そして、俺とヴォルにとって、数ある可能性の中でもっとも被害者が少ない、正しい未来だ。
「まず、1月11日に、俺は魔法界に姿を現す。ヴォルと…ヴォルデモート卿と俺、ノア・ゾグラフが手を組んだ事を伝える。ただ、この時ヴォルには──別に形式上でもいいからさ──俺の組織に属する事を明言して欲しい。俺の思想の
「…死喰い人の内半分は問題なくノアの配下になるかな、もともとノア派の信者達だ……。後の半分は、純血思想が強い、…反発するだろう」
ヴォルは顎に手を当ててぽつりと呟く。
ま、それもわかってるさ。俺の信者以外はこんな事認めないだろうってな、ヴォルが有する死喰い人の半数はちょっとヤバいやつらもいるし。
「俺の信者以外は、俺に従うのを良しとしないだろうなぁ。…だから、まず、魔法界に居る全ての魔法族に服従の呪文をかける」
「…それは──…途方もない事だね」
ちょっと鼻で笑って小馬鹿にするようにヴォルは言った。
そりゃ、一人一人服従の呪文かけてたら何百年かかるか…という話になるだろう。流石の俺もそんなめんどくさい事をしてられない。
「方法はある。俺の存在自体に呪いをかける。俺の名前と、存在に──
アブラクサスとかベインは同じ写真集を何度も購入していたらしい。15年前の写真集なんてなんで何度も買うんだろう…と思ったが、回り回って俺の金になるんだし、ありがたい事だ。
15年以上経っても俺の存在は当時を生きていなかった子どもたちですら知っている。それ程俺の知名度と影響力はまだ、衰えていない。
それに、まだ書店や雑貨店で俺の写真集やブロマイドが販売されているのは確認済みだ。
ヴォルは俺の作戦を聞いても、疑念は拭えないのか難しい顔をしていた。
全人類なんて──何十億人だ?まぁ正しくはわからないけど、多分30億くらい?…多分。
「…そんな事、本当に…?」
「出来るさ。名前に呪いをかけて、その名前が世界のどこかで口にされたら──その居場所がわかる、そんな魔法もあるしな」
まぁ、それは原作でのヴォルデモートがやってた事ですけどね。
自分を呪い、名前と身体に呪いをかける。いわば──俺そのものが、凶悪な闇の魔法道具ともいえるだろう。
この世界には見るだけで呪われるなんて恐ろしい道具が山ほどある。その効能を利用し、俺の魔力と叡智を練り込み全人類を呪い、ノア・ゾグラフという存在で縛る。
「──とは言っても…ある程度力のある魔法使いには効かないだろうし、タイムラグは生じる。俺が活動してなかった国とかはどうしてもな…。魔法界全土を呪った後マグル界でも姿を表して同じようにマグル達も呪う。マグルの方が、まぁ簡単だろうな。抗う術を持たないから。魔法界でも──8…9割は俺に従うと…思う」
服従の呪文は、強い抵抗の意志があれば解く事が出来る。多分ダンブルドアや有能な魔法使い達には俺の呪いは効かないだろう。本人に直接かけるなら兎も角、名前と姿を媒体にしてるから…少しは効果が弱くなるだろう。
「懸念は──あるけど」
「…何?」
「うーん……いや、ヴォルに影響があるかどうかがなぁ…魂が繋がってるだろ?…世界中を呪う代償として…俺が人では無くなったり、動けなくなったり、まぁ抜け殻状態になる可能性がある。そうなってもヴォルさえ動けてたらポリジュース薬で俺を偽れるから良いんだけど。俺を完璧に模倣出来るのなんてヴォルくらいだし」
世界中の人々を呪う。
その弊害や反動が俺の身体に起こらないとは言い切れない。
何せ30億人を同時に、それも持続的に呪い続けなければならない。俺の人の範疇から外れた魔力も、流石に枯渇しないとは言い切れない。最低でも20年程度は人々を呪い続けなければならないだろうし…その期間、眠り続ける可能性もある。
そうなった時に俺は何の対価を払い、呪い続ける事になるのか──魂か、
多分、死ぬ事は無いだろうけど、それに近い状態にはなるかもしれない。呪いの範囲が広まれば広まるほど──つまり、世界を変えていくほどにその罪は重くなっていく。
人々の心を惑わせ無理に従わせるんだ、ある程度覚悟はしておかないといけない。
俺が動けなくなっても、ヴォルなら俺の代わりを引き継げるだろう。
ただ、ヴォルは俺を分霊箱にしてしまった。俺の身体にあるヴォルの魂が影響を受けて同じように動けなくなってしまったら──流石に、指導者が居ない世界は綻び、破滅する。
「…ノア。その世界に君が居ないのなら、僕は従えない」
「え?…いや、…概念として存在出来るかも」
…いや、ちょっと違うか?
ヴォルは眉を寄せたまま真剣な目で俺を見た。
その眼差しの強さに、ちょっと…たじろぐ。
「いや…ほら、可能性の話で…何にも無いかもしれないし…」
「ノア」
「流石に、犠牲者を1人も出さないのは難しいかなー」
俺だけが犠牲者になる。
正しい世界を作るためには必要な犠牲だ。──いや、俺がすることを思えば、犠牲という言葉はおかしいかな?……生贄?
「……ノア」
「んんー…よし。んじゃヴォル、ちょっと手出せよ」
「……これでいい?」
ヴォルは俺の手を血の誓いをするように握った。
目を閉じて、じっとヴォルの掌に意識を集中させれば──掌からヴォルの鼓動と、魔力の流れを感じる。
昔、グリンデルバルドの魔力を奪ったように、ゆっくりとヴォルの魔力を自分の体の中に流す。
「…?……何か、してる?何だか…妙な感覚だ…」
「魔力吸ってる」
「……はぁ?」
「ちうちう」
「馬鹿なの?」
冷ややかな声が俺を突き刺す。久しぶりにヴォルの「馬鹿なの?」を聞いたな。ツンデレ幼馴染のテンプレ台詞だよなこれ。
なんだか懐かしい、と思いながら手を離して目を開く。
暫く自分の手を握ったり開いたりしていたが、グリンデルバルドの魔力を奪った時のような吐気も寒気も無い。視界も点滅しない。
つまり、ヴォルの魔力は俺の身体に良く馴染むようだ。…多分、運命とかそんなあやふやなものじゃなくて、ヴォルの魂が俺の中にあるからだろう。
「何とかなるかも」
「……意味がわからない」
ヴォルは若干イラついてるのか、鋭い目で俺を睨んだ。
「ヴォルはさ、多分俺がいなかったら世界一の魔法使いだろ?」
「…まぁ、…そうだろうね」
「ちっとも謙遜しないとこ、嫌いじゃないぜ?」
「事実を言ってるだけだ」
「まぁ、それで。──ヴォルが俺に力を貸してくれたら…多分、まぁ……いけると思う」
「……共に、世界を変えるんでしょう」
ヴォルは俺をじっと見た。
……そうだな、俺だけで世界を変えるんじゃない、ついつい俺はあまりにも完璧で最強だから自分一人で完結しようとしてしまうけれど。
俺には、ヴォルがいる。
たった1人の、幼馴染が。
それも俺の次に世界最強の魔法使いである男だ。
ヴォルは賢く、人を誑かせる話術に長けているだけではなく、その魔力量も膨大で魔法のセンスもピカイチ…まぁ俺の次にだけど。
「世界全てを呪う罪を、共に背負ってくれるか?」
ヴォルは少し目を見開き、そして薄く微笑んだ。
「ノア──君が望むのなら」
ヴォルは俺の手をとって、甲に掠めるような口づけを落とす。
「…俺の騎士になっちゃう?」
「ならない」
…そこは、頷けよ!
手を振り払えばヴォルは何が楽しいのかくすくすと小さく笑う。
ヴォルは俺の騎士にはならない。
きっと、ヴォルは俺に仕えるのではなく、あくまで対等な存在で隣に居たい──んだと思う。聞いたことが無いからわからないけど、ヴォルの性格的に誰かの下につくなんて有り得ない。…いや、決めつけは良く無いとは分かってるけど。
俺はため息を一つ付き、ソファの肘置きに手を置いて頭を支える。
えーっと、どこまで説明したっけ。
「魔法族を呪った後、ヴォルの力を借りて俺が無事──動けるレベルで生存したとする。すぐに俺は、マグル界に行って魔法を見せつける。魔法界の存在を明らかにする。──ま、俺が15年以上たつのに変わらない姿で現れるだけで、マグルにとっちゃ奇跡だろう。それだけで奇跡の人だって大盛り上がりさ!魔法省は暫くマグルの記憶を消そうと躍起になるだろうから、俺の姿を見たら思い出すように呪っておいて…俺はマグル界である意味の神として君臨した上で…魔法界とマグル界をひとつにする。
魔法族は隠れ暮らす事が無く、マグルも魔法の事を知っている世界。仲間になれとは言わないさ、──ただ、良き隣人であればいいと思う。勿論、暫くは混乱するだろうな、世界全員を服従するのは流石に時間がかかる。俺の力をもってしても多分な。
ある程度世界の形が作られてきたら、魔法族に対する迫害、マグルに対する無意味な暴行はすぐに感知できるようにして、違反者は厳しく罰する。すぐに、じゃなくていいんだ。何年か後に、互いに共存していこうと皆が思うように──そう、世界を作り変える」
ヴォルは暫く黙っていた。
……あれ?いい案だと思うんだけどな。ヴォルの力もあれば多分すぐに動けなくなることもない、かもしれない。
──その後の俺の魂がどうなるのかは、まぁわからないけど。
「──不可能じゃ無いだろうね」
「本当か!?…いやー良かった、そう言ってもらえるとちょっと安心するよ。俺が考える中で1番犠牲が少ない方法だったから…まぁ、服従の呪文かけてるから…道徳には反してるし、闇の帝王になっちゃうかな?」
俺が闇の帝王だなんて、戯言もいいところだ!
俺の冴え渡るジョークにヴォルはくすりとも笑わなかった。ちょっと高度過ぎたか?
そう、人の心を操作する。無理矢理服従させる。
勿論それが一般的に正しい事ではないと、わかっている。そんな事望んでいない人もいるだろう。だが、この方向が俺にとって1番
やっぱり、俺は魔法界に長い間いたから、魔法界の方が──まぁ、好きだ。俺たちが隠れ住まなくていい世界が見たい、どうせ遠くない未来…魔法界の事を隠せなくなるのだとしたら、その時を20年くらい早めたって問題ないだろう。
それに、今の魔法界ではマグルを虐殺しないのであれば、マグル界に姿を示してもいいんじゃないか、という思想を持つ魔法族が多いのもわかっている。
ただ、表立って言えないのは──単純に、そんなハッピーエンドは夢物語だと思っているんだ。
マグルと魔法使いが手を取り合って仲良くなんて、出来るはずがない。
力の持たぬものは、強大な力を畏れ忌避し、迫害する。
今までの歴史がそれを物語っている。
だからこそ、魔法族は今まで黙っていた。
それに、数は圧倒的にマグルが多い、最高の力である魔法も、いわば──マグルが使う兵器には、勝てないのかもしれない。
お互いのために、世界を分けていた。
だが、それもインターネットの世界が発達した後必ず綻びる。
その時に混乱し戦争にならないように、──俺は一時的に世界を征服する。
一世代分でいい、2.30年もすれば保守的な魔法使い達も理解できるだろう。隠れ暮らす事の難しさ、マグル界の技術の進歩を。
魔法のことがマグル界で、ただの個性として受け入れられるようになった頃、俺は少しずつ呪いを解呪していく。
子どもたちの脳は柔軟でなんでも受け入れる、生まれた時から魔法使いとマグルがいる世界ならば、きっとそう言うものだと受け入れるのだろう。
思い込みというものは、世界の理や常識を捻じ曲げる。サンタクロース現象、ってやつだな。皆がサンタクロースは居ると言えば──その子どもにとってサンタクロースはたしかに存在するのだ。
ああ、それで、きっと。そう遠くない未来──俺の支配は必要ではなくなる。
そこまで来て、やっと俺は自分の物語を終わらせる事が出来る。
──もし、この物語に名前をつけるのならば、
『ノア・ゾグラフと闇の幼馴染』かな?
『ノア・ゾグラフと方舟の騎士』は、なんかパクリっぽいよな。
いや、違うな。
『チート能力を駆使して転生人生謳歌します!』
って、とこだろうな!